「わーたーしーが! 普通にドアから来た!」
「オールマイト! 本当に先生やってるんだ!」
「シルバーエイジのコスチュームだ、すげえ」
「画風が違いすぎて鳥肌が……!」
遂に始まるヒーロー科の授業。それもトップヒーローによる授業とあって、生徒たちは興奮した声を抑えきれない。
「ヒーロー基礎学! ヒーローの素地を作るため様々な訓練を行う科目だ! 早速だが今日はコレ! 戦闘訓練! ……そして、そいつに伴ってこちら! 入学前に送ってもらった"個性届"と"要望"に沿って誂えた"戦闘服"! さあ、着替えてグラウンドβに集合だ!」
「おおおっ!」
壁からせり出す機構に、誰もが興奮を露わにする。そのまま、各々がケースを手に持ち更衣室へと向かった。
憧れのヒーローのようにと考えたコスチュームを身に纏い、昂ぶらない筈もない。誰もが笑みを浮かべて歩んでいた。
「いいじゃないか、少年少女! カッコイイぜ!」
「先生! ここは入試の試験場ですが、また市街地演習を行うのでしょうか!?」
「いいや、もう2歩先に踏み込む! 屋内での"対人戦闘訓練"さ! 真の賢しい敵は闇に潜む。これから君たちには"ヒーロー組"と"ヴィラン組"に分かれての、2対2の屋内戦闘訓練を行ってもらう!」
「基礎訓練も無しに?」
「その基礎を知るための実践さ! だが、今回は一般入試のようなブッ壊せばオーケーなロボとは違うのがミソだ!」
そして語られる設定。核兵器を隠し持つヴィランに対し、それを奪取しようとするヒーロー。なんともアメリカンな派手さだ。
「チーム相手および対戦相手を決めるのは……。"くじ"だ!」
「適当なのですか!?」
「プロは他事務所のヒーローと急造チームアップすることもあるし、そういうことじゃないかな……」
「なるほど! 先を見据えた計らい……! 失礼致しました!」
「いいよ! 早くやろ!」
そして次々と決まるチームメイト。
そして、初戦のグループ。爆豪と飯田のヴィランチーム対、緑谷と麗日のヒーローチームによる戦闘が始まる。
「……またか。縁があるね、
「そうだな。尻尾チームだ」
「ああ、確かに」
優幻と組むことになったのは、尾白。既に組んだ経験のある2人だった。
モニタールームへの移動中に交わす会話もスムーズだ。
「さあ皆! クラスメイトの動きから学べる部分はドンドン学んでいこう!」
「うおおっ、爆豪ズッケェ! 奇襲なんて男らしくねえ!」
「緑くん、よく避けたねー!」
「爆豪、見た目もだがやってることもヴィランだな。役になりきってるなら良いのだが、いや、素か、あれは」
「言動まんまだもんな」
モニターの中では、掌から爆炎をあげる爆豪と、すんでのところで回避し、マスク半分を失った緑谷が対峙している。
「なんか爆豪、スゲーイラついてんな」
「麗日が核兵器確保か。緑谷は、引きつけて時間稼ぎか? さて、どうなるか」
「いや、でもすげえよあいつ。個性無しで入試1位と渡り合ってる!」
観戦組が口々に言う間にも、状況は動く。核兵器の前に立つ飯田の側には、物陰に隠れる麗日。そして、緑谷は身を隠して爆豪の目を逃れる。
「あら。お茶子ちゃん、飯田ちゃんに見つかったみたい」
「あの位置で? 何か物音でも立てたか。下も対峙したぞ」
「爆豪少年! ストップだ! 殺す気か!」
突如声を荒げたオールマイトの姿に生徒たちは疑問符を浮かべるが、その理由はすぐに解ることになる。
──ドオオオオオッ!
轟音と揺れが、地下のモニタールームにまで届く。離れてこれなら、爆心地の2人にはどれほどの影響か。
「マジか! 授業だぞコレ!」
「緑谷少年!」
「……外してる、ワザとか。しかし、訓練でこれはやりすぎだろう……!」
「先生止めた方がいいって! 爆豪あいつ、相当クレイジーだぜ! 殺しちまう!」
優幻の言葉と切島の制止を、しかしオールマイトは受けなかった。
「爆豪少年。次"それ"撃ったら、強制終了で君らの負けとする。屋内戦において大規模な攻撃は守るべき牙城の崩壊を招く! ヒーローとしてはもちろん、ヴィランとしても愚策だ、それは! 大幅減点だからな!」
「……爆豪が突っ込んだぞ!」
オールマイトの言葉を受けてか、モニターに映る少年が両手からの爆破を加速に使い、立ち上がったばかりの緑谷へ突撃を仕掛ける。
緑谷が迎え討とうと両手を差し出すのに合わせて、爆豪は器用に爆破で軌道を変えて背後に回り込むと強烈な一撃を叩き込んだ。
「目眩ましを兼ねた爆破で軌道変更、そして即座にもう1回……。考えるタイプには見えねえが、意外と繊細だな」
「慣性を殺しつつ有効打を加えるには、左右の爆発力を微調整しないといけませんし」
「更には、緑谷の反撃タイミングを正確に読み取らなければ、あそこまでキレイには行くまいよ」
「うわっ! 更に追撃、痛そう!」
背中への爆撃が決まったかと思えば、コスチュームの腕、硬質な手榴弾を模した部分が緑谷に食い込む。更に、そのまま腕を掴んで投げ飛ばした。
「リンチだよコレ! テープ巻いたら捕まえたことになんのに!」
「ヒーローの所業に非ず……」
「緑谷もすげえ、って思ったけど、戦闘能力においては爆豪は間違いなくセンスの塊だぜ!」
「緑谷逃げてる!」
「男のすることじゃねえけど仕方ないぜ……。でも、妙だな。なんで個性使わねえ?」
画面の中の2人は数言か交わし、ついに正面衝突を選んだようだ。
「先生! ヤバそうだってコレ!」
「緑谷……。何か企んでるな、構えがおかしい」
「は!? この状況で何、を……!?」
爆豪の攻撃、右手は確実に緑谷を捉え、派手な爆発が起きる。
対して、緑谷の右腕は。
「う、おおおおっ!?」
「真上!? ブチ抜きやがった!」
アッパーの要領で放たれた拳は、先日の個性把握テストで見せた超大なパワーを遺憾なく発揮し、その衝撃はビルの天井を撃ち抜いていく。
「核のある部屋だ!」
誰かの言葉通り、核兵器が置かれた部屋で向かい合う飯田と麗日の間、その床が緑谷の一撃で吹き飛び大穴が開いていた。
大穴から飛び出す階下の瓦礫。それ目掛けて、折れたコンクリートの柱を軽々と抱える麗日が振り抜く。圧倒的質量によって打ち出された瓦礫群は凶器となって飯田に襲い掛かり、これには彼も堪らず防御の姿勢をとる。
その隙をついた麗日が飛び、目標となる核兵器に取り付くことで、勝敗は決した。
「ヒーローチーム、ウィーーーン!」
「おおっ! ……お? 負けた方が無傷で、勝った方が倒れてら」
気を失ったらしい緑谷と、許容限界を迎えた様子で蹲る麗日。立ち尽くす爆豪と、麗日を介抱する飯田。
どちらが勝者かわからない光景に、誰もが呆然としていた。