ヒーロー志望のお狐さん   作:広瀬狐太郎

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ご無沙汰しております。いやもうホントすみません。
リモート勤務になって気付きましたが、通勤時間って創作するのに有用でした。


51 インターン(4) 冥暗

「なるほどねぇ。それで、壁くり抜いて進める俺のコピー作った、ってワケね」

 

 入中の発狂によって、地下空間がねじ曲がってから少し。トゥワイスに複製されたMr.コンプレスが、個性で壁を削り取る合間に事情を聞かされていた。

 

「結局、ヤクザ共の狙いも、秘密兵器とやらも、詳しいことは分からず仕舞い」

「どーでもいいです。全部グッチャグチャにしたいです」

「黒霧さんとか使わねえ時点で、"舐めた態度で来た若頭ぶっ潰す"ってくらいだろ、死柄木の考えは。ついでに、埃かぶった極道も潰しちゃおうぜ、とかかねぇ」

 

 スマートフォン備え付けのライトを頼りに、彼らは進む。とはいえ、コンプレスの"圧縮"で削り取られた断面はキレイなもの。足元にあまり気を配る必要はないからこそ、のんびり喋りながら進めるのだが。

 彼らの話は、必然、今関わっている死穢八斎會関連だ。

 

「オイ、そんな話きいてたぜ! 水臭いよな!」

「言わなくても、好きにやってりゃそうなるでしょ、ってことよ。アタシも、トガちゃんも、トゥワイスも、途中経過は違っても、極道ぶっ潰す結果になるでしょうしねえ」

「あの時、フロストが止めてなきゃ、あの場で戦争おっ始めてただろうけど」

 

 思い返すのは、とある廃倉庫に潜伏していた時。トゥワイスに連れられた治崎と、初めて邂逅した日のこと。

 自分の傘下に入れと告げた治崎に、誰もが反発し、しかし動き出す前にフロストの笑い声で止められた。

 

 女殺人鬼曰く。治崎という男は、勝算無しに行動しない。勝ち目を作った上で行動するので、偉そうにのたまう根拠を隠し持っている、と。

 余談だが、そういう臆病な男だからこそ、絶望に叩き落としたくて、以前に命を狙ったという因縁があるらしい。

 

「その隠し玉の"核"が、どうやら子供らしいけどな。カワイソウで涙が溢れて笑えるぜ。あ、ミスター。もうちょい右だ。左だな」

「トゥワイスはホント、道案内に向かねえな。画面見せてくれ」

 

 今回、"お試し"と銘打って死穢八斎會に一時的に加わった3人に、死柄木が告げたのは「好きにやって来い」だ。だから、好きなように八斎會を潰すべく、彼らの言う計画を丁寧に潰してあげよう、というのが、即断即殺に走りそうなトガを説得したマグネの考えだった。

 治崎とてバカ正直に明かしたりはしないが、こんな組織に不似合いな幼い子供が、監視付きで存在するとなれば、その子が重要だと言っているようなものだ。

 

 治崎に比べて脇の甘い、音本という側近に取り付けた発信機を追って、彼らは地中を進む。トゥワイスの持つスマートフォンには、発信機への方向と距離が映し出されていた。

 

「あんまり動いてねえな。やっぱ、ヒーローに追いつかれたのかね。発振器つけられたヤツが捨て駒にされてたら詰みじゃねえか、これ?」

「その時は、まあイイんじゃない? 今ぶっ潰すか、後でぶっ潰すかの違いでしょ。でも、ヒーローが来るのはまだ分かるけど、何で雄英のコまで居るのかしらね」

「出久クンです! えへへ」

「死柄木の殺せリストにあったうちの2人だものねえ。マスキュラーに勝ったらしい緑谷出久。フロストを出し抜いた狐条(こじょう)優幻(ゆうま)。どっちも厄介よ」

「マグ姉、出久くんは私がグチャグチャにしたいです!」

「分かってるわよ、別にトガちゃんの獲物を盗ったりしないわ」

 

 以前、ヴィラン連合開闢行動隊として、雄英高校の林間合宿を襲撃した折。死柄木から渡された、生徒のリストを思い返す。

 ヴィラン連合の名が初めて出た、USJ襲撃事件の際に、死柄木や脳無に逆襲した生徒たち。オールマイト並の速さを見せた緑谷と、イレイザーヘッドへのトドメを邪魔した優幻。その他、轟と切島、常闇と青山がそのリストに名を連ねている。が、そこはヴィラン連合。リストを認識していても好きにやるか、リストを忘れて好きにやるかのどちらかだ。

 

「狐条ってアレだろ、雄英体育祭の優勝者。フロストが殺したがってた超イケメン」

「見た目は良いオトコよね。あんまり趣味じゃないけど」

「どーでもイイです。出久くんの方がカッコイイのです」

「面倒臭そうな個性持ちだよな。楽勝だぜ」

 

 口々に好き勝手言いながら進む彼らの目的は、究極、ひとつに集約される。

 

「ゴクドーも気に入らないけど、ヒーローはもっと気に入らないわよねぇ」

 

 悪意を隠すこともなく、彼らはただ真っ直ぐに進んでいく。

 

   ◆   ◆   ◆

 

 地下通路を駆けるのは、サー・ナイトアイ率いるサイドキックのセンチピーダーとバブルガール。インターン生のデク──緑谷と、その担任でもあるイレイザーヘッド。

 彼らが曲がり角を抜けた先。そこに広がる、尋常ならざる光景に全員が目を見開いた。

 倒れ伏す、体格からして男が1人。その先に、通路を不自然に途切れさせる壁。

 

「蹴破ります!」

 

 宣言と同時に緑谷が、強化した脚で地面に足跡を刻んで、前へと跳躍。くるりと体勢を整え、お手本のような飛び蹴りが壁へと吸い込まれていった。

 アイアンソールはその設計思想に従って装着者を守り、同時に破壊力を外部へ与える。10センチ程の厚みを持っていた急拵えのコンクリートは、容易く砕けてしまった。

 先陣切って突入した緑谷の目に映ったのは、地面から生えた(・・・)石槍が、通形と、その背後で身を竦ませるエリへと向かう光景。

 

 やらせるものか。

 

 奥歯を噛み締めた緑谷の中で思い出されるのは、友人の言葉。敵の攻撃が市民に向いた時、どうすれば良いか? という問いに対する、「その攻撃とやらを潰せばよかろう」という、普段の知的な様子からかけ離れた脳筋な答え。

 しかし、こと物理攻撃に対しては、緑谷自身が出来る最も簡単で現実的な方法でもある。

 

 壁を砕いた勢いそのままに、一旦地面へと着地。そのまま膝を曲げて貯めたエネルギーを全て加速の為に使い、跳ぶ。地面と水平に、真っ直ぐ。

 

「SMASH!」

 

 気合いの声と同時、今まさに通形の身体を貫こうとしていた石槍たちが破片を散らして砕け折れた。

 

「先輩、大丈夫ですか!?」

「あ、ああ……。──当然、ピンピンしてるんだよね! でも助かった! ありがとう!」

 

 ほんの僅か、続いて突入して来たイレイザーヘッドや事務所の面々に驚いて呆然とした通形はしかし、すぐに普段の笑顔を浮かべてみせた。

 

「すいません、サー! 今の俺は個性が使えない!」

「ならばエリちゃんを連れて退くんだ、治崎はこちらで──」

「確保済みです、ナイトアイ。こいつには、何もさせない」

「こちらも確保しました。玄野針、拘束しつつ動かし続けます」

「こっちは、えー……。あ、音本ですね。縛って喋れなくしときましょう」

 

 イレイザーヘッドによって"抹消"された治崎は、そのまま不意打った捕縛布によってその両手を封じられた。玄野はセンチピーダーの長い()に抱えられた拍子に気絶から目覚めたが、個性が使えぬよう緩やかに動かされている。完全に意識の無い音本は、そのまま捕縛されて猿轡で、個性発動条件の問いかけが封じられた。

 

「巫山戯るな……! こんな、所で……! 終わるわけにはいかない……!」

 

 呆気ないと言えるほどの、唐突な幕切れ。しかし、個性を主軸とした戦闘スタイルの治崎にとっては、抹消ヒーローはあまりにも相性が悪過ぎた。

 ギリギリと音が立つほどに歯軋りしても、高い知性を持つ治崎には逆転の目が無いことが嫌というほどに分かる。最低でもイレイザーヘッドを無力化しなければならないが、八斎會の、治崎の手駒はもう無い。

 ここで、全てが終わる──

 

「ヒーローの勝ちで終わりなんて、ツマんないわ!」

 

 突如、天井から巨漢が降ってきた(・・・・・・・・)のは、諦めの感情が顔を覗かせた瞬間だった。

 マグネと呼ばれるヴィランは、己の愛用する武器と筋肉質な自重を重力によって凶器に変え、この場で最も厄介な個性を持つイレイザーヘッドの頭に強襲を仕掛けたのだ。

 

「イレイザーヘッド!」

 

 悲鳴にも似た教え子の呼び掛けに応えることなく、彼は地面に崩れ落ちる。ゆっくりと、赤い染みが広がっていく。

 

「よいしょ。まだカーテンコールにゃ早いだろ、と」

「オウオウ、大ピンチじゃねえかゴクドー! 助けに来てやったぜ! くたばれ若頭!」

 

 続いて、Mr.コンプレス、トゥワイスが。やや遅れて、トガヒミコが降り立ち。そして。

 

「ヒーローだけが勝っちゃうのは、それはそれでイヤです。……そうだよね、弔クン」

「ああ、そうだよな。ヒーローこそ、ぶっ壊さなきゃなあ」

 

 死柄木、弔。

 

「ヴィラン、連合……!? いや、さっきは3人だけだったはず!」

「トゥワイスか! 個性"二倍"、厄介な!」

「ご指名ありがとよ、リーマン! かかってこいや! 後よろしくミスター!」

「おま、ふっざけんなトゥワイス!」

 

 コントのようなやり取りを挟みながらも、トゥワイスが退避したことによって矢面に立たされたMr.コンプレスは、ナイトアイが放った超質量印を空間ごと圧縮して無力化していく。

 注意しているはずなのに死角から不意打つトガヒミコ、重量武器をもって暴れるマグネ、そして、触れられた時点で終わる死柄木弔。そこに、拘束を脱して反撃に転じた治崎が加わる。

 対するヒーロー側は、エリを抱える個性を封じられた通形、意識の無いイレイザーヘッドを担ぎ動きの鈍くなった緑谷、玄野を拘束したままのセンチピーダー。自由に動けるのは、ナイトアイとバブルガールだけだった。

 一気に形勢は逆転されてしまっていた。

 

 そんな中で、緑谷が"それ"の存在を思い出したのは、夏休み前に彼が死柄木に遭遇したことが、開発に至った切っ掛けだったからかもしれない。

 夏休み中の出来事を踏まえて、仮免試験直前に九尾狐によって作り上げられた、アラートシステム。

 

「──固まってください!」

 

 イレイザーヘッドを右腕だけで支え、空いた手でポーチから目当てのものを探り出し。大声では敵方にも知らせてしまうが、他に方法が思い浮かばず、コンクリート片を蹴り飛ばして牽制を行う。

 仮免持ちとはいえ高校1年生の判断に従うべきか、プロたちは一瞬だけ迷い、しかし治崎の未来を読み取ったナイトアイが動けば、サイドキックたちは直ぐ様従った。

 もともと近くに居た通形含め、全員が側に寄ったことを確認し、緑谷は取り出したお札を意識の無いイレイザーヘッドに握らせ、反対端を咥えて、一気に引き裂いてしまう。

 

「なん、だこりゃ!?」

 

 驚きの声を上げたのは、何かされる前に"圧縮"してしまおうとしたコンプレスだった。だが、その個性は、出来上がったドーム状のバリアのようなものを境界に、外側は削り取れているのに、内側へはまったく届いていないのだから。

 

「変われ、ミスター」

 

 入れ代わりに突き出された死柄木の手、その五指が触れ、しかしそれでも、小揺るぎもしない。

 

「この感じ……。あの時と同じだ。意識ねえハズだろ、どうなってんだよ、イレイザーヘッド……!」

 

 関係者一同を震撼させた、A組狐条優幻の要請に、B組物間寧人が応えて出来上がった"火急応策符"には、3つの機能がある。

 球形に展開される強固な結界。近くの"符"へ居場所を知らせる機構。そして、発動時に触れていた者の個性をコピーし、結界に付与するという機能。

 現状、雄英ヒーロー科1年生40名と、その担任2名しか使えない上、物間が扱う以上にスカの比率が高いという欠点はあるものの。

 数少ないアタリのうち、個性を使わずにオールマイト級のパワーを発揮しなければ突破できない、"抹消"を写し取った個性無効化結界。

 

「物理的な衝撃にも強いのか、面倒だな……。だがまあ、無敵ってことはないだろう?」

 

 全方位からの石槍すらも砕いて見せる強靭さに、治崎はペストマスク越しに溜息をひとつ。だが、大して堪えていない様子で、次の手段に移っていた。

 地面に叩きつけられた手元から、石板が斜めに伸び、自重で根本がへし折れ、結界へとのしかかる。

 

「触れるたび、少し光ってるな。何かを消費してるんだろう? なら、常に負荷をかけてやれば終いだ」

 

 治崎の読み通り、結界は謂わば電池式のようなもの。発動時に大気中からエネルギーを集める仕組みで、時間とともに消費される上、攻撃されれば消耗も増える。

 

 もっとも、それを推測させることこそが、わざわざ(・・・・)光らせる理由だ。

 

「あら、ヒビ入ったわね。もう少しってトコかしら」

 

 嘲笑うマグネのそれは、級友全員から"意地悪狐"の評価を与えられた製作者の性格を知らないからだろう。何せ、ヒビが表示されるのは、結界外で同一の札を所持する者が近くまで来ていることを表す機能なのだ。

 ダメージを与えていると安心するヴィランを騙すための演出でしかないのだから。

 

──アニメやゲームじゃあるまいし、わざわざ「ダメージ受けてます、壊れそうです」なんて情報を敵にくれてやる必要はなかろう。しかし、こと日本では、こういう演出をどこかで目にしてしまう。ヒビが広がり、あと少し。そう思っていたところに増援が現れるというのは、ヴィランの心を折る一助になるだろう?

 

 使い方の解説する際に平然と告げた姿に、皆揃って引き攣った表情になってしまったのはご愛嬌。

 事実、ヴィラン連合の面々は違和感を覚えることはなく。治崎もまた、部下である天蓋の持つ"バリア"という個性を知るが故に、思惑に嵌ってしまっていた。

 

 少しずつ、ヒビが広がる。破砕する瞬間は近い──緑谷を除いた全員がそう考える。エリ諸共吹き飛ばす算段をつける治崎。何もかも壊すつもりのヴィラン連合。いつでも動けるように身構えるプロヒーロー。腕の中の少女をしっかりと抱え直すルミリオン。

 狙いを隠すため、緑谷は味方に何も告げられないまま、同様に身構える。順調に(・・・)広がるヒビの様子から、間もなく誰かが追いつくはずだ。

 

「フン、惨めなものだな、ただ籠もるしかできないなんて。壊理、俺に関わらなければ、ここで惨めな終わりを迎えずに済んだ。ルミリオンは個性を永遠に失わずに済んだというのに──」

 

 動揺を誘おうとする治崎の言葉を遮り、結界がバキリと音を立てる。いよいよかと大きくなった亀裂に視線が集まったその瞬間。

 

「"猛る青水、清濁全てを併せ呑め、【蛟龍走破・八岐大蛇】"!」

 

 声に続いて流れ込む大量の水によって、全てが流されていった。

 

 緑谷が蹴り破った穴を更に広げながら流れ込んで来た大量の水は、優幻の制御下にあった。つい、今しがたまで。

 治崎とヴィラン連合を押し潰すように殺到した水は、重力に従わずに留まり、敵を捕える牢獄になる筈だったのだ。

 

(術式まで"崩壊"させるのか、なんて厄介な!)

 

 球形の結界を取り囲んでいたヴィランたちを壁際まで押し流したところで、包み込んだ死柄木の五指に触れて制御を失った水は、地面の傾斜に従って更に奥へと流れ去っていった。

 ともあれ、呆然とすることのない優幻は、尻尾からベルベットとスモーキーが飛び降りたことを確認し、強化されたままの身体を使った胴回し回転蹴りで、ナイトアイ事務所の面々が籠もる結界にのしかかっていた、身の丈を超える石板を蹴り飛ばす。

 

「キュウビくん! 頭部に打撃、意識無し、出血あり!」

「──スイッチ!」

 

 結界外にあった喫緊の脅威が去ったことを確認した緑谷は、手の中の札をもう一度破いて結界を解き、担いでいたイレイザーヘッドを揺らさぬように横たえ、自分たちとヴィランたちの間に立ち塞がる友人に声をかける。

 端的にまとめた状況報告は、それそのものが切迫した状態を伝える役目もあった。

 瞬間に優幻が下した判断は、自身が治療に専念するため、代わりに前線に立ってくれという頼み。一言に凝縮したそれを正しく理解した緑谷は、即座に飛んだ。

 一歩退いて腰を曲げた優幻の背中に手を付いて、跳び箱の要領で緑谷はリューキュウ事務所サイドキックの隣に降り立つ。視線は、ずぶ濡れになりながらも態勢を立て直したヴィランから外れない。

 友人に託して怪我人に向き直った優幻は、通形が抱える少女の不安げな視線に気付くと、笑みを浮かべてみせつつ、検査用の術式を発動させる。

 

(出血は頭皮が切れただけか。脳波も問題なし、だが無理に起こすのは避けたいところだ……)

 

 止血に続いて、治癒力を上げるための符を貼り付け、作業の合間に催眠術式でセンチピーダーに捕えられた玄野を眠らせて、更には鎖で縛り上げた上に頭髪を隠すように手拭いで覆ってしまっていた。

 

「助かるよ、キュウビくん。こっちは任せても?」

「ええ、前線はお願いします、センチピーダー」

 

 センチピーダーを見送った後、必要な処置を終えた優幻は、通形に視線を移す。

 "透過"の個性は攻勢に真価を発揮するはずだが、それをせずにいる状況と、先行していたという前情報。

 優幻の脳裏に、最悪の可能性が浮かんだ。表情にも表れていたようで、気付いた通形が誤魔化すように笑うことで、それが事実だと確信できてしまう。

 

「……俺が、エリちゃんとイレイザーを担いで上に戻ろう。今は、一刻も早くこの子を──」

 

 まずは少女の安全を。そう考えるのは、ヒーローとして当然とも言えた。しかし、それだけは。

 それだけは絶対に認めない男が居た。

 

「エリを、返してもらう!」

 

 治崎の計画に、エリは不可欠。ここで逃がすような真似は、止めなくてならない。

 今はヒーロー相手に戦っているヴィラン連合とはいえ、信用に値しない以上、治崎の手駒はゼロと言えた。

 

 だから、叩きつけた手を中心に、周囲全てを串刺しにする。

 

 床一面、あらゆる場所から生える石の槍は、ヒーローもヴィラン連合も、エリも、意識無く倒れる玄野や音本も。全て貫き、必要なモノだけ直せば良い。そう考えて、放たれた。

 

「ええいチクショー!」

 

 自分の足が千切れ飛んだ瞬間、複製体のMr.コンプレスは個性で仲間たちを圧縮し、上へと放り投げて解除。

 しかし、それは事前に「複製体がリスクを負え」という取り決めがあったからだ。そうでなければ間に合わなかっただろうな、というのが、崩れ行く彼が最期に抱いた考えだった。

 

 そして、治崎のすぐ近くで反応できた、もうひとり。

 ほんの1秒先を予知し続けていた、サー・ナイトアイも、突然の全方位攻撃に動くことができた。

 できて、しまった。

 

 左胸を貫かれるはずだったデクを、突き飛ばす。咄嗟にできたのは、それだけだった。

 

「サー!」

 

 崩れた体勢、伸びきった身体は、格好の的となってしまった。回避することはできず、強烈な痛みを感じたナイトアイは、すぐに痛覚以外もぼやけるように感じ、自身が長くないことを悟っていた。

 

 サイドキックたちの呼び掛けを聞きながら、ナイトアイは個性を使う。飛んでいく己の左腕も、下半身も無視して。

 既に見てしまった。5人の死を。例え今、庇うことに成功しても、すぐに帳尻合わせが始まるだろう。それでもどうか、希望ある未来を──

 

「やらせは!」

「しない!」

 

 呻き声を零すサイドキックたちを、エリを庇って脚を穿たれた通形を狙った追撃。それは、救けられて無傷な緑谷と、イレイザーヘッドを抱えて飛んだおかげで回避できた優幻が、同時に床を蹴り砕くことで止めた。

 

「いい加減に理解したらどうだ。お前たちが来たところで、何も変わらない。ただ、死んでいくだけだ。何も出来ず、何にもなれず」

 

「例えそれが決められた運命だとしても! その未来を捻じ曲げる!」

「誰も、死なせてたまるものか。治崎、貴様の望みは叶えさせん……!」

 

 並び立つ2人は、ナイトアイの予知した最期を思わせない力強さで、救け、護るために治崎を睨みつけていた。

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