「続いてはー? ヒーロー側Bチーム! ヴィラン側Iチーム!」
第一戦の講評を終え、次の組み合わせが発表される。
ヴィラン側となった
「尾白くん
「透ちゃん、あの2人と仲良しみたいね」
「うん! 入試でチーム組んだ仲だからね。狐条くんは機転も利くし色々できて、尾白くんはパワーも技術もあるよ!」
興奮ぎみの葉隠から話を聞くのは、個性"蛙"の蛙吹梅雨だ。
そして、葉隠の言葉に興味を引かれた面々が側に近寄ってくる。
「葉隠くんは、狐条くんの個性を知っているのか? 俺はどうにも理解が及ばなくてな……」
「飯田さんだけではないでしょう。個性把握テストを見ても、彼の個性はよくわかりません。本人から聞いた、幻想系の"九尾狐"ということくらいで」
「うーん、私も、ちゃんとは理解できてないよ。『妖気という不思議エネルギーを使って、術というプログラムを実行してる』だったかな」
飯田や八百万が代表して聞くも、葉隠から返ってきたのは不明瞭なものだった。
「狐条少年の個性はかなりの変わり種だからね。しかし、幻想系はだいたいが当人以外には"よくわからない"から、注意が必要だ。詳しくはヒーロー情報学でやるけどね! 君たちはラッキーだぞ! 希少な幻想系、それも、高いレベルで使いこなしている狐条少年のような人物を、間近で見れるのは得難い経験だ! さあ、そろそろ始めようか!」
オールマイトの言葉に、生徒たちの視線がモニターへ向かう。
「それでは、Bチーム対Iチーム! レディ……ゴー!」
開始の合図から程なく。ビルからヒーローチームの2人が出て来たことに誰かが疑問の声をあげるよりも早く。
──ビルが丸ごと凍りついた。
「なな、仲間を巻き込まず。かか、核兵器にも衝撃を与えず。なおかつ、てて、敵も弱体化!」
「最強じゃねえか寒い!」
推薦入学者、轟焦凍。"半冷半燃"によって、ビルはあっと言う間に凍りつき、それは中にある物も人も同様。
……かに思えた。
「……ねえ、ヴィランチームなんだけど。ウチの見間違いじゃなければ、2人"ずつ"居ない!?」
「ああ!? マジだ! どうなってんだ!?」
モニターが映す、核兵器の置かれた部屋。両足を凍らされて地面に縫い付けられた、悔しそうな表情の優幻と尾白。その側に、どこから取り出したのか不明な畳に座り"呑気に茶を飲む優幻と尾白の姿"があった。
「いや、ちょ、ええ!? なにこれ!? どーなっとるん!?」
「意味わかんねー! なんなんだ一体!?」
混乱覚めやらぬ間にも、悠々とした足取りで轟が部屋にやって来る。しかも、畳の上の2人が見えていないかのように、「敵が身動きできない」状況かのように、警戒した様子が感じられない。
真っ直ぐに核兵器へと向かう轟に、確保テープを構えた尾白が近付き、呆気なく巻き付けてしまう。
「轟少年、確保ー! その場で待機だ!」
オールマイトの宣言を聞いても、何が起きたのか理解が追いついていない様子の轟は、ポカンとテープを巻き付けた犯人である尾白を見、次いで凍りついた方の尾白に目を向ける。
そんな彼を横目に、尻尾を持つ2人はハイタッチ。そのまま部屋を出てしまう。
「……ウッソだろ、ビル丸ごと凍らせる轟を、あっさりと……」
「マジか……。おいマジかコレ……」
そして、部屋を出た2人がかりで障子に襲撃がかけられる。卓越した尾白の体術に加え、絶妙なタイミングで襲い来る優幻の放つ光弾。片方だけでも厄介なその攻勢に、あえなく彼も捕縛されてしまった。
「ヴィランチーム、ウィーーーーン! はい、じゃあ轟少年、もう動いて良いから、氷なんとかしてもらえるかな?」
「なんだこれ、マジでわけわかんねえ!?」
叫んだのは切島だが、生徒全員同じ思いだった。
彼らが何とか表面上落ち着いたのは、対戦を終えた4人がモニタールームに戻ってきた頃だ。
「はい、じゃあまずは……。狐条少年のやったことについて、わかる人は居るかな!」
「推測というか当てずっぽうですが……。幻覚、ではないかと」
やや自信無さげに手を挙げて発言するのは、八百万。
「ウム、じゃあ狐条少年、解説を頼めるかい?」
「はあ、解説することはほとんど無いですが……。八百万の言葉通り、あれは幻だ。"もしあのまま攻撃を受けていたら"という仮定の上、推測し、作り出した虚像だな」
「……ちょっと待って欲しいわ、狐条ちゃん。幻覚は確か、人の視神経や視覚を処理する脳機能に干渉することで起きる、って、何かで読んだの。それは、"かけられる側"によって見えるものが違うはずよ。でも、今の言葉だと狐条ちゃんが"見せたいもの"を見せたようだし……。そんなこと、できるのかしら?」
「現に私は出来ているしな。詳しい理屈や方法の解説には、ちと時間が足りんが……。ざっくり言えば、医学と脳科学、後は物理数学に心理学あたりを押さえれば、近しいことは設備さえあれば誰にでも可能だ。設備と細かい調整を私の個性でやっているわけだが……。わからなければ、あれだ。昔話では、"狐が化かす"のは定番だろう? その認識で良いだろうさ」
「……。ええ、まったくわからないことがわかったわ」
ほぼ全ての生徒、個性ゆえに多くの知識を持つ八百万と、真面目の権化である飯田以外は、お手上げと言わんばかりの表情だ。
「ハッハッハ! だから言っただろう? 幻想系は"よくわからない"と。しかし対処できないわけじゃないから、その辺はおいおい勉強していこう!
では講評だが、MVPは狐条少年だ! これは幻だけでなく、轟少年と障子少年の動きを予測し、尾白少年の能力をきっちり把握して作戦を立てていたからだ! しかし、見るに君はあの幻を出しながら動くことができないようだね。そこはこれから鍛えていこう!
続いて、尾白少年! 狐条少年の作戦は見事だったが、できれば自分なりの考えを言葉にしていこう! これは障子少年にも当て嵌まる! しかし君の体術は見事なものだった! よく鍛えているね!
障子少年は、最初は轟少年の凄さに飲まれてしまっていたようだが、彼が確保されてからの動きは良かった! あの状況で轟少年が確保されるなんて思えないだろうに、すぐに行動を始めたのはグッドだ! 尾白少年同様、意見を出していくようにすれば様々なものが見えるようになるだろう!
最後になったが、轟少年! 君の選択はまったく間違いじゃあない! 敵の弱体化、目標の安全な確保、しかも仲間を巻き込まない、全部素晴らしい! 次は最後まで油断しないことだが、身を以て知る、ってやつだな!」
オールマイトの言葉に少年たちは力強く応え、更なる高みを見据える。
「さあ、それじゃあ第3戦、行ってみようか!」
ライバルであり仲間の力をも糧として。
◆ ◆ ◆
初めての戦闘訓練は、緑谷を除き大きな怪我もなく無事に終わった。
「なあ、反省会やんね!? 親睦を深める意味も込めて!」
着替え終えて教室に戻ったところでそう声をあげたのは、眩い金髪の男子、"帯電"の個性を持つ上鳴電気だった。
無言で教室を後にする爆豪と、怪我の手当てで居ない緑谷を除き、全員が教室に残る。
「あー、ダメだった。爆豪全然止まらねえ」
「残念ね。1戦目が白熱したから話を聞きたかったのだけど」
「しょうがないよ。でも私、2戦目の話聞きたい! 轟くんも狐条くんも派手だったねえ」
麗日に名前を出された2人に注目が集まる。が、その片方、轟はにべもなく優幻に話を向ける。
「俺の"半冷半燃"はまだわかりやすいと思う。冷やすのと燃やすのだしな。……狐条の個性がよくわからねえ」
「確かにな。俺は直接は見れなかったが、映像を見返してもよくわからん。結局、狐条は何ができるんだ?」
対戦相手だった轟と障子の言葉に、一部、尾白と葉隠を覗いた全員が同意する。
「……って、そっちの2人は入試でも見てるんだよな。詳しいこと知ってんだろ?」
「……瀬呂くん。理解しようなんて思っちゃだめなんだよ。もうね、私は諦めました。狐条くんの個性は、フワフワ尻尾で人をダメにすることなのです。と言う訳で、お邪魔しまーす」
早々に解説を諦めた葉隠は、入試終了後と同じように優幻の尻尾に埋もれてしまう。
「んふー♪やっぱ至福だー」
「いいなー。狐条くん、私もいいかな?」
「構わんよ。砂藤や障子のようにガタイのいい連中でなければ、3人くらいまで大丈夫だ」
「ホンマに? じゃあ、失礼して……。お? おおっ! これは……アカン……」
「モフモフパラダイスへようこそ、麗日〜」
あっと言う間に、葉隠のみならず麗日までもが9本尻尾に埋まっていった。
なお、その光景に、A組で最も身長の低い男が唇を噛み締めていたのは余談である。
「で、私の個性の話だったか」
「すげえな、この状況で真面目な話すんのか」
「実際にはシンプルなんだ。私にできるのは、"妖気を扱うこと"だ。まあ、聴覚や嗅覚が狐準拠になっていたりするが、それはオマケだし、置いておこう」
切島のツッコミに反応することなく、優幻は話を進めていく。最初に疑問の声をあげたのは、"イヤホンジャック"の耳郎響香だ。
「その"妖気"ってのがまずわからないんだけど……。ウチだけじゃないよね?」
「耳郎さんのおっしゃる通り、そこでまず理解ができなくなるのです」
「あー、そうか、すまない。……妖気、というのは、海外の怪異系、いや幻想系と呼ぶか。その人たちは、魔力とか呼んでいるな。詳細をすっ飛ばして言うと、"大気中に存在する、なんか不思議なエネルギー"だ」
「なんとファンタジーな」
「実際、幻想系の中でも限られた個性でしか認識できん。科学的な観測では捉えきれない、よくわからないエネルギーだ。感覚的に把握しているので、説明が難しい」
「ううむ、何とも不可思議だな。さっぱり理解できない」
結局のところ、飯田の感想に集約されるように「わからないこと」がわかっただけであった。
「ま、そういう"不思議なパワーを扱う個性"とでも認識しておいてくれればいいさ。後は、事前に組んでおいた術式をその不思議パワーで動かしているだけだしな。……ちょうど、さっき使った幻覚の式を書いたノートがあるし、見てみるか?」
「後学のため、拝見してもよろしいですか?」
「俺も見ときたい。頼む」
「ああ。……今のところ、このノート丸ごとが式だな。動くのはわかったんで、今後は簡略化する予定だ」
優幻が取り出した1冊のノートを八百万が受け取って広げ、興味を持った轟と近くに居た耳郎が覗き込む。
3人の表情が、すぐさま形容し難い複雑なものに変わった。
「……何これ。いやほんと、何?」
「これ、数式なのか? 何でかけ算に漢字が出てくるんだ」
「字は綺麗で読みやすいはずなのに、何が書いてあるのやらさっぱりですね……」
と、それぞれに感想が零れた時。教室の扉が開かれ、緑谷が顔を覗かせた。
「おお! 緑谷来た! お疲れ! いやー、何喋ってるかわかんなかったけど、アツかったぜ! 俺ぁ、切島鋭次郎! 今、皆で反省会してたんだ!」
切島を筆頭に、どやどやと集まり、突然の自己紹介が始まる。
「あれ!? デクくん、怪我、治してもらえんかったの?」
「わあ!? 麗日さん、なんで尻尾に埋まってるの!?」
「あはは……。つい誘惑に負けてしまって……」
「そ、そうなんだ……。僕のは、体力的なアレで……。あの、麗日さん。かっちゃ、えと、爆豪くんは……?」
「あー、呼んだんだけどね。さっき、帰っちゃった」
「っ! ごめん、ちょっと行ってくる!」
そう言うと、体操服のまま緑谷は駆け出してしまった。
「あの2人、何かあるのか?」
「男のインネンってヤツです」
「確か、幼馴染だという話だったな。我々には推し量れない、様々なものがあるのだろう」
「って、そういや狐条のノート! まだ俺見てなかった!」
上鳴が振り返った先にあったのは。
眉間を揉みほぐす耳郎と。
頭を抱える八百万と。
疲れた表情で天井を仰ぐ轟。
「何があったー!? おい大丈夫か!? 何か顔が疲れ果ててるぞ!」
「……もう無理、頭痛い……」
「これ、解読するだけで生涯を費やすレベルでは……」
「気圧割る月齢ってなんだ……。何がしてえんだ……」
「マジで何があったんだ」
誰かの疑問の声に、わかりきった原因である1冊のノートに視線が集中する。
「葉隠さんが言った通りだよ。理解しようと思っても無理なんだって。狐条は、何かよくわからない不思議生物。俺はもう、そう考えることにした」
「酷い言い草だな"尻尾の"」
「だから尻尾は君もだろ」
「……まあ、複雑な式であるのは事実だな。しかし、これは例えるなら"腕を動かす時の神経一本一本の動き"のように、事象を細分化して指示しているものだ。更に圧縮、簡略化は可能だ」
「んー、つまりアレだね。狐条の頭ん中は凄い! ってことだね!」
「もう、芦戸さんの言葉以外に見つかりませんわ……」
応える八百万の言葉には、色濃い疲労の色が滲み出ていた。
講評の際に見せた彼女の知性の高さをもってしても、難解どころではない様子のノートを、全員が視界から外して無かったものにしてしまう。
「そう、狐条くんはもう、この尻尾だけでもすごいのー」
「……葉隠、そのうち溶けるんじゃないかこれ」
「いやぁ。……よいしょ、ありがとう、狐条くん。……葉隠さんの言うとおり、ヤバいね、これ。なんかこう、真冬にコタツ入って毛布被っとるような暖かさやわ。しかもフワフワしとるし、個性使わずに浮いてるみたいな」
「麗日の個性は浮かすのだったか?」
「うん、正確には"
「それでお茶子ちゃん、終わってからうずくまってしまったのね」
「入試の時も見事に嘔吐して痛い! 蛙吹くん、暴力はいけない!」
「デリカシーのない発言もいけないわ、飯田ちゃん」
「なるほど確かに! すまなかった麗日くん!」
どこまでも真っ直ぐな飯田の姿に、教室が笑いに包まれる。
反省会としては微妙なところだが、親睦を深めるという方の目的は達したようだった。