ヒーロー志望のお狐さん   作:広瀬狐太郎

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08 救助訓練(中)

「……あまり、と言うか、まったくもって大したことない連中だったな」

 

 暴風・大雨ゾーンの状況は一変していた。

 

「うう……。痛えよぉ……」

「あ……。うあ……」

 

 つい数分前まで、己の優位を疑わなかったヴィランたち。数で勝り、相手は子供。いくらヒーロー候補生と言えども、脅威たりえないと考えていた彼らは、残らず地に伏していた。

 それも、腕や足の関節がいささか奇妙な曲がり方をして。

 

「やりすぎじゃないかな☆」

「なに、構うまい。関節を外しただけだ。脱臼と打撲、軽度の火傷。大した怪我ではないよ」

「悪事に手を染める者に相応の報い。これぞ因果応報」

 

 優幻(ゆうま)に翻弄されて隙を作ったヴィランたちは、片っ端から常闇と青山に討ち取られ、拘束する物が無いために全員が手足の関節を外されていた。

 

「控えめに言ってもこれ、地獄絵図☆」

「仕方ないさ、ここに長く留まるわけにもいかない」

「ああ。次なる行動、選択の時だ」

「ここでプロが来るのを待つっていうのは」

「「無しだ」」

「だよね☆」

 

 言葉を交わしながらも、3人は既に歩みだしていた。

 

「確か、ドーム状の建物は入り口に近い1軒だけと記憶している。外に出て救助を求めるか?」

「……いや。あの黒いモヤから離れた連中が入り口前に残ったはずだ。飯田、障子、砂藤、麗日、芦戸、瀬呂。戦闘能力と拘束能力に富んだ奴らだ。あのモヤがかなりの実力者であろうことから、13号先生を相手取るのもヤツの役目だろう。つまり、先生も入り口前に居る公算が高い。なら、飯田を外に出して救援を呼ばせに行くだろう。

 他にワープさせられた生徒も、私たちの状況から"近くに居た者をひとまとめ"にしていると考えられる。直前の立ち位置から考えて、まず切島と爆豪。この2人は対人戦闘能力が高いのと、爆豪の性格からして放っておいても大丈夫だろう。既にヴィランどもをブチのめして移動している可能性の方が高い。

 荒事向きでない連中も大丈夫だろう。峰田の近くには総合して能力の高い蛙吹と制御に難はあるが機転の利く緑谷。葉隠は孤立しかけていたので尾白を蹴り飛ばしておいたから、何とかなるだろう。耳郎には八百万が居たし、身体能力には不安があるが個性の強力な上鳴も近くに居た。

 咄嗟に動いたらしい轟だけがわからんが、ヤツなら1人だとしても大丈夫だろう。むしろ巻き込む心配がなくなる分、1人の方がやりやすいかもしれん」

 

 歩きながら告げる優幻の言葉に、残る2人は驚きを隠せないでいた。

 

「よくもあの一瞬で……。否、全員の能力を把握しているのか?」

「体力テストと戦闘訓練で見た分から推測したものだけだがな。次の行動は残念ながら出たとこ勝負。外の状況次第になる。2人とも、すぐ動けるよう心構えだけはしておいた方が良い」

 

 辿り着いた扉は、電力がうまく供給されていないのか、微動だにしない。妖気で強化した優幻と、常闇の黒影で強引に開いていく。

 

「なん……だと……」

 

 そこに広がっていた光景。思わず常闇が呟くほどの、ショッキングな状況。

 プロヒーロー、イレイザーヘッドが倒れている。その背を押さえつけるのは、脳が剥き出しになった大男。

 それはつまり、彼が敗北したことを示す。

 

「……常闇。何とかあのデカいのを引き剥がすから、相澤先生を連れて行ってくれ。青山は常闇の援護を頼む」

「何とか……? 出来ると言うのか、狐条(こじょう)。プロが、イレイザーヘッドが、"ああなる"相手だぞ……!」

「これはもう、僕たちの手に負える敵じゃないよ……。プロの応援が来るのを待とう」

「……応援が来るのは"いつ"だ。相手が強い、だから、何だ。私はもう、諦めるつもりはない。……すまない、2人とも。頼んだ……!」

 

 一度は解除していた強化術式を再展開する優幻の皮膚には、先程よりも色濃く紋様が現れる。更に強化の度合いを高めた分、消耗は激しいが、出し惜しみできる状況でもない。

 全身に力が行き渡ったことを確認し、その強化された脚で大地を蹴る。1歩目からトップスピード。あっと言う間に、大男の側へ。

 

「その薄汚い手を離、せっ!」

 

 両手を覆うように展開した妖気の爪で、瞬く間に大男の腕2本を斬りつける。浅くない傷に、力を籠められないだろうと踏んだ優幻だったが、その予想は容易く覆る。

 

「生徒か……? まあいいや。やれ、脳無」

 

 あちこちに"手"の装飾を着けたヴィランが言葉を発した直後、大男──脳無は傷付いたはずの腕で、優幻を殴りつける。

 ダメージを負った腕での攻撃に、信じられないといった表情ながらも、優幻は自分と脳無との間に盾となる結界を展開し、そしてそれはいとも簡単に破られた。

 

「がふっ」

 

 深々と腹部に突き刺さる豪腕に耐えきれず、優幻は身体をくの字に曲げて吹き飛ばされる。

 

「……ったく。三下はダメだな。こんなガキすら始末できないなんて。……黒霧か。13号はやったのか」

「申し訳ありません、死柄木弔。行動不能にはできたものの、散らし損ねた生徒がおりまして。1名、逃げられました」

「は?」

 

 男──死柄木の背後に、黒いモヤを纏う──黒霧が現れる。歪む視界でそれを視認した優幻は、状況のマズさを頭の片隅で認識していた。

 

「"今回は"ゲームオーバーだ、帰ろっか。……けどその前に、平和の象徴としての矜持を、少しでもへし折って帰ろう……!」

 

 認識してなお、優幻は見てしまった。水辺に潜む蛙吹に迫り、伸ばされる腕。"諦めること"を止めた彼に、動かない理由は無い。

 

「う……。ああAAAaaaa!」

 

 死柄木の手が蛙吹に触れる。しかし、それ"だけ"だ。何も起きない。

 

「……本っ当、かっこいいぜ、イレイザーヘッ──」

「GAaaara!」

「手ぇ、離せっ!」

 

 両腕を折られ、動くこともままならないイレイザーヘッドが、僅かに首だけを動かして死柄木を見ることで、"個性"を消す。その小さな隙に、優幻は獣のような咆哮と共に突撃していた。

 同時。蛙吹の隣にいた緑谷も、固く握りしめた拳で攻撃に移っていた。

 

「脳無」

「SMASH!」

「RUaaaa!」

 

 超大なパワーの緑谷と、全力で強化した優幻の攻撃は、死柄木に届くことはなかった。

 脳無。先程、優幻に斬られた腕の傷が"どこにもない"大きな身体が、割り込んで攻撃を受け止めていたせいで。

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