竜帝と魔王の異世界冒険譚   作:桐谷 アキト

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皆さんお久しぶりでーす。

現在私はモンハンライズ にどハマりしており、絶賛ハンター生活を楽しんでおります。
クエストも全部終わったので今は勲章集めに専念中です。

皆さんは武器何使ってますか?
私は王道の太刀です。気刃兜割りが気持ちいい!!
もし機会がありましたら、マルチで会いしたいですね。

あと、マルチで狩りしてた時気づいたんですが、ハンターのボイスでメルドさんの声優やってた人いません?
合ってるかはわからないけど、あれ聞いてからマルチでその声を聞くたびにメルドさんがいるの⁉︎って感じになっちゃいますねー。
あの声に大剣装備ならもう完璧にメルドさんですね!



10話 託された者達

 

陽和が王都から無事脱出し、オルクス大迷宮へ単身潜ってから数時間後、朝の王宮は慌ただしかった。

昨夜の騒ぎから今もなお厳戒態勢が敷かれており、兵士や騎士達は慌ただしく動いている。

王宮全体の空気自体が張り詰められており、騎士達も緊張感を滲ませ、殺気すら放っていた。

 

昨夜の騒ぎに全く気づいていないクラスメイト達は、昨日とは打って変わった王宮の慌ただしい様子に首を傾げる。

自分達が寝ている間に何かあったのは確実だが、一体何が起きたのか彼らには皆目見当もつかなかった。

そして、緊迫した空気に戸惑いながらも、朝食を食べようと食堂へと向かう中、彼らはついに慌ただしい理由を知ったのだ。

 

『メルドが何者かに襲われ、深傷を負わされた』ことを。

 

それを聞いたクラスメイト達は当然動揺した。

それも当然だ。なにせ、メルドはこの国最強の騎士団団長であり、自分達神の使徒の教育係を任せられるほどの王国屈指の実力者だ。

そんな彼が昨夜襲われたこと、そしてその最強の騎士が深傷を負わせられた事実が彼らを驚愕させたのだ。

それは、自分達神の使徒よりも強い事を意味しているのだ。この世界の兵士達よりも高いステータスを有している自分達や、その筆頭の一人である勇者の光輝ですら、陽和を除きメルドには未だ勝ったことがない。だと言うのに、自分達以外でそれを成した者がいる事は、驚愕以外何物でもない。

 

そして、騎士達はメルドを襲った賊を取り逃してしまい、王都からの脱出を許してしまったこと。今は、魔人族の襲撃があるかも知れないから、それに対して厳戒態勢を敷いていることを知った。その更に告げられた真実に、クラスメイト達が困惑する中、一人事情を知っている雫は、静かに心の内で安堵する。

 

(よかった。無事に逃げれたみたいね)

 

雫は昨夜陽和その作戦の概要を全て聞き及んでいる。メルドとの決闘。王都からの脱出。ホルアドへの逃走。その全てを彼女は陽和から直接聞いて知っていた。

昨夜、陽和を見送った後、彼女は彼の言いつけ通り部屋で大人しくしてはいたが、当然眠れはしなかった。

陽和ならば出来ると信じてはいたが、恋人の命がかかっているのだ。心配に決まっている。だからこそ、王宮の喧騒を聞きながらも彼の言いつけ通りに部屋からは決して出ずに、陽和が無事生き延びる事を願い続けており、今ようやく陽和が無事に逃げれたことを知って心の底から安堵したのだ。

しかし、その安堵を気取られぬようにすぐに表情を引き締めた雫は隣を歩く香織と話しながらクラスメイト達と愛子と合流した後食堂へと向かった。

 

一人だけ朝から顔を見ていないが、彼のことだ。恐らくは、自分達よりも遥かに早く起きていて、早々に朝食を済ませて王都外にさっさと単独訓練にでも行ったのだろうと思い、誰も気にはせずに、メルドの事を気にしながらも朝食を済ませた。

 

 

 

彼こそが、この王宮内を騒がしている全ての元凶だとは知らずに。

 

 

 

▼△▼△▼△

 

 

朝食を済ませた後、クラスメイト達と愛子は玉座の間に集められていた。

朝食中に文官の一人が国王エリヒドの言伝により食後に全員玉座の間に来るように言われたからだ。

朝食を済ませた後、メルドの安否を確認しに行こうと思っていたクラスメイト達は何の用かと訝しんだものの、文官からメルドが襲われた事件についてと聞かされ、見舞いは後にしてとりあえず玉座の間へと向かうことにしたのだ。

 

玉座の間には国王であるエリヒドとイシュタル。それに、文官と武官がそれぞれ両脇に控えている。玉座の間は重苦しい空気に満ちており、全員が一様に険しい表情を浮かべている。一部は青ざめている者すらいる。

そしてその中にはメルドもいた。

 

「メルドさん!無事だったんですね!」

 

なぜ私服姿なのかは不明だが、それはともかくとしてメルドの無事を確認した光輝達は口々にメルドに言葉を送る。

メルドはそれに対して、やんわりと笑みを浮かべた。

 

「ああ、見ての通りな。お前達も、無事で何よりだ」

「?俺達は何もありませんでしたよ?」

「ああ、分かっている。ただ、私がお前達の安全を確認したかっただけだ。陛下、教皇様。皆揃いました。そろそろ話を始めましょう」

 

首を傾げる光輝達にメルドはそう答えると、エリヒド達へと視線を向けて、そう促した。

エリヒドは一つ頷くと、今回呼び出した要件を話し始める。

 

「皆様に集まっていただいたのは他でもない今王宮を騒がしているある事件のことについてです。既にご存知の事でしょうが、昨夜騎士団団長であるメルドが襲われました」

「はい。それは、騎士の皆さんが話しているのを聞いて知っています。ですが、誰がそんな事を?もしや魔人族ですか?」

「それならば、まだマシだったのですがね……」

 

イシュタルは頭を抑えて愛子の問いにそう心底忌々しそうにそう呟いた。

 

「魔人族ではないのですか?」

「ええ、魔人族よりももっと凶悪で危険な存在です」

 

魔人族よりも凶悪な存在。魔人族こそ人間族にとって不倶戴天の敵であると教わったクラスメイト達にとっては、それ以上に危険な存在がいることに純粋に驚いた。

クラスメイト達が動揺する中、イシュタルは一度咳払いすると更なる話題を口にする。

 

「もう一つこの件に関わる話なのですが、貴方方神の使徒様の中から一人、『異端者』に定められた者がいます。そして、その者こそがメルド団長を襲い深傷を負わせた裏切り者です」

「ま、待ってください!それって!」

 

困惑するクラスメイト達を代表して、愛子が悲鳴じみた声をあげる。彼女は自分の生徒達を見渡して気づいた。

一人いない。もちろんハジメではなく、ハジメ以外でもう一人いないのだ。しかも朝からずっとその姿を見ていない。

初めこそは、他の生徒と同じように早朝から自主訓練にでも行ったと思った。だから、帰ってきたら軽く注意しようと思っていた。だが、イシュタルの説明が正しければ、まさか彼がいないのは、自主訓練ではなく———

 

(まさか、彼がっ⁉︎)

 

愛子は、そこまで考えて青褪める。

イシュタルは一度口を閉じ、少しの沈黙を置くと愛子の確信を肯定するようにその名を口にした。

 

「——————紅咲陽和。彼こそがメルド団長を襲い深傷を負わせた裏切り者であり、今王宮を騒がしている元凶です」

『ッッ⁉︎⁉︎』

 

出てきた名前に、ほぼ全員が動揺した。

『神の使徒』の裏切り。

しかも、勇者である光輝をも凌ぐ最強の実力者が、自分達の恩師であり兄貴分であるメルドを殺そうとして、王国を、自分達を裏切った。

その事実はクラスメイト達からすれば信じられなかった。そんな中、真っ先にそれを否定しようと異を唱える者がいた。

 

「そ、そんなっ、嘘よっ‼︎陽和がそんなことするはずがないわっ‼︎」

「待ってください!彼が、そんな凶行をするはずがありませんっ‼︎」

「俺も先生と同じ意見です。あいつが、陽和がメルド団長を殺そうとするはずがありません」

「紅咲がメルド団長を襲うわけがないわっ‼︎」

 

雫、愛子、重吾、優花の四人だ。

全てを知っていて、疑われない為に演技をしている雫はともかく、愛子と重吾、優花は何も知らない。知らないが、陽和の事を信用しているし、愛子にとっては大事な生徒であり、二人にとっては大事な友達だ。

彼の性格をよく知っているからこそ、三人にとっては信じられなかったし、認め難い事だったのだ。どうか間違いであって欲しい、そう願った三人に、イシュタルから無情にも事実が告げられる。

 

「貴方方が否定したい気持ちもわかりますが、残念ながら事実です。それは、直接彼と戦ったメルド団長が知っています。そうでしょう?メルド団長」

 

話を振られたメルドは、優花と重吾、その他にも向けられる縋るような視線を前に静かに頷き、その事実を肯定した。

 

「はい。私が戦った相手は間違いなく陽和です。彼は、見回りしていた私に突如襲いかかってきました。そして、交戦の末、私は彼に敗れました。

もしも、騎士達があの場に来るのが少しでも遅ければ、私は間違いなく殺されていたことでしょう。正直な話、私では彼にはもう勝てません。彼はそれほどに危険かつ強力な存在になってしまいました」

「……っ」

「そんなっ」

「嘘、だろ」

 

愛子は絶句し、優花と重吾が思わずそんな声を漏らす。

彼の人格、実力共に認め、信頼していたが故に、その失望は大きかった。

それは他のクラスメイト達も同様で多かれ少なかれ皆陽和に失望していた。

 

「あいつ、メルドさんによくもっ」

 

光輝はその最たる例であり、拳を強く握り締めながら、忌々しそうに吐き捨てる。

その瞳には、もはやクラスメイトに向けるようなものはなく、自分が忌み嫌う『悪』に向けるような憎悪と怒りの危険な光が宿っていた。

 

「そして、我々はメルド団長の報告も鑑みて、紅咲陽和を『神の使徒』ではなく『邪竜の後継者』とし異端者に認定し、我ら人間族にとっての神敵にする事を決定致しました」

「そ、それは、一体どういうことですか?それに、邪竜とは何なのですか?」

 

愛子の問いに首を傾げたイシュタルだったが、すぐにその疑問に納得する。

 

「そういえば、皆様には邪竜の事は話していませんでしたね。この世界では常識なのですが、異世界人の皆様が知らない事を失念しておりました。では、まずそこからお話しいたしましょう」

 

そしてイシュタルは愛子達に邪竜について話し始める。

 

「この世界にはかつてエヒト様と共にトータスを守護していた一頭の守護竜がおりました。

その竜の名はドライグ。赤き竜の帝王、すなわち『赤竜帝』の二つ名を持つ聖なる守護竜でした」

 

かつて神と共に世界を守り、人々を見守り続けてきた守護竜。

長らく世界の平和を維持してきた存在であり、人々もまたかの竜を守護竜と崇め敬っていた。

しかし、それはある日唐突に変わった。

 

「牙を剥いたのです。赤竜帝は世界を滅ぼさんと画策していた七人の眷属と手を組み、あろうことか守ってきたはずの世界を滅ぼそうとして、神に叛逆しました」

 

赤竜帝が神と激闘を繰り広げた事は、後の書物には神と竜の決戦、即ち『神竜決戦』と記されている。

それは、何日も続き、天地は焼かれ、砕かれ、それはもう世界の終末を迎えるのではないかという激闘を繰り広げたらしい。

 

「世界を巻き込んだ長い戦いの末、反逆者達は世界の果てへ敗走し、赤竜帝も打ち倒されました。死んだとも、どこかで長い眠りについたと言われています」

 

そして、神に敗れた赤竜帝は後に邪竜と呼ばれ、破壊と混沌を象徴する最悪の厄災として今まで語り継がれ、教会にとっては神に仇なす“神敵”に認定され、世界を脅かす最悪の脅威として、恐れられるようになったという。

 

『『『ッッ‼︎』』』

 

愛子含め全員が、イシュタルより伝えられた邪竜についての説明に戦慄を隠せなかった。

そんな彼らにイシュタルは、更に邪竜の恐ろしさを伝える。

 

「赤竜帝……いえ、かの伝説の邪竜についてある予言が残されています。それをお伝えしましょう」

 

イシュタルは、伝承の予言を思い出しながら、恐るような表情を浮かべ朗々とそれを歌うように告げた。

 

 

『大いなる厄災が来たる。

近づくこと無かれ其は破滅の化身。触れること無かれ其は万死の宣告者。

地の底に眠りし厄災が覚醒の咆哮を上げる。

解き放たれるは凶兆の炎。溢れるは幾重もの慟哭。築かれるは紅き血肉の山。

生きとし生ける全ての命に終焉を齎すまで、竜の悪意が終わる事はない。

神に牙を剥きし叛逆の邪竜。赤き鱗と爪牙は血に濡れ、黒き炎が全てを焼き尽くすことだろう。

かの混沌の竜が再び目覚めし時、黒き太陽が上り、世界は再び絶望の闇に沈み、破滅の唄が紡がれる。

忘れることなかれ。悪しき闇を払うのは聖なる光の他にはない。

人よ祈れ。人よ願え。巨悪を打ち倒す英雄が現れん事を請え。

心せよ。其は惨禍の怪物なり』

 

 

あまりにも凄惨な予言の内容に、愛子達は遂に言葉を失う。そんな彼女らに、イシュタルは言う。

 

「遥か昔、当時の教皇が予言し残したとされる伝承です。邪竜がいかに危険で強大な存在なのかをご理解いただけましたか?」

「……は、はい。邪竜という存在については、分かりました。ですが、それが…どう紅咲君と関係、しているのですか?」

 

生徒達が絶句する中、唯一愛子だけは青ざめながらも、何とか口を動かし、イシュタルに尋ねた。

 

「彼の天職である“竜継士”。それが、例の邪竜の力を継承する者を意味するからです。

技能にも“赤竜帝の魂”と記されていたそうなので、彼が邪竜と関係している事は間違いないと我々は判断しました」

「で、ですがっ、ソレが本当だとしても紅咲君がその力を継承するとは限らないでしょう!」

 

生徒思いの愛子は陽和が危険な存在ではない事を証明する為にそういうものの、イシュタルはにべもなく首を横に振った。

 

「いいえ、間違いなく継承するでしょう。

なぜなら、彼は昨夜メルド団長や騎士達に自身を邪竜の後継者と名乗ったのです。それはつまり、彼は自身が邪竜の後継者だと自覚し、その力を継承する為に、王都から脱走したということに他ならないでしょう」

「ッッ」

「それに、彼は王都から脱出する際に、追っ手を防ぐ為に馬を眠らせて妨害し、門の警備兵を魔法で攻撃し、戦闘不能に追い込んだと報告を受けています」

「ッッ、警備兵の皆さんは無事なんですかっ⁉︎」

 

警備兵の話を聞いた光輝が血相を変えてそう叫ぶように尋ねた。正義感の強い光輝は当然この話に食いついた。

ソレに対し、イシュタルは待ち望んでいたかのように、わざとらしく悲しそうな表情を浮かべると頷いた。

 

「ええ、残念ながら事実です。

幸い死者こそ出なかったものの、全員が負傷し中には命が危うかったものもおります。しかし、今は皆回復しておられますのでご安心ください」

「そう、ですか。それはよかったです。

……あいつ、どこまで外道に堕ちれば気が済むんだっ‼︎」

 

兵士の無事を知った光輝は一瞬安堵するものの、メルドだけでなく兵士達も殺そうとしたことに益々怒りを募らせた。

 

「彼は危険です。メルド団長だけでなく、一般兵達にも既に手をかけています。これを見過ごす事はできません。故に、我々は彼を異端者として指名手配し、見つけ次第神の名の下に即刻討伐することを宣言します」

「そんなっ、それはあまりにも浅慮な決定ですっ‼︎‼︎」

 

愛子は堪らずそう叫ぶ。

確かに彼が行った行動は、許されたものでないことは確かだ。だが、それでも問答無用で殺すという選択を選んだ事に賛同するわけにはいかなかった。

愛子は自分の矜持に従いイシュタル達に猛抗議する。

 

「考え直してくださいっ‼︎彼は、悪しき邪竜ではありませんっ‼︎友達想いの優しい私の生徒です‼︎いくら貴方達の言う通り邪竜の力を宿しても、彼ならば絶対に悪いことには使いませんっ‼︎必ず、人を助けるためにその力を使うはずです‼︎だから彼の異端者認定を取り消してください‼︎私が何とかしますから‼︎」

 

訓練の強制参加をやめさせた時と同じ毅然とした態度と不退転の意思で、彼女は必死に講義した。

彼女は陽和が無闇にメルドを襲い殺そうとしたとは考えていなかった。それが事実だとしても、きっと何かそうしなければならない理由があるはずだと考えている。だから、討伐するのではなく、自分が彼と会ってちゃんと話をするべきだと提案した。

それは、地球にいた頃から紅咲陽和という生徒を見てきて、彼の人柄をよく知っているが故にだ。そして、今回もまた自分の希少性をも利用した交渉をしようとするものの、イシュタルは首を横に振り厳しい口調で否定する。

 

「いいえ、いくら愛子殿の頼みとはいえそれは、受け入れられません。

邪竜、そしてそれに関わる者が存在している事自体が『悪』であり、我ら人間族にとっては魔人族を遥かに凌ぐ脅威でしかありません。

もしも彼が邪竜の力を手にして、完全に邪竜として覚醒したならばもう手の付けようがありません。エヒト様が神界にいる今、我らではただ蹂躙されるだけです。そして、確実に神の使徒である皆様も殺そうとするでしょう。

だからこそ、一刻も早く討伐しなければならないのです。

そしてそれを成す為にも神の使徒である皆様のお力をお貸しいただきたい」

 

イシュタルは光輝を始めとしてクラスメイト達に視線を送りながら、そう懇願した。

しかし、その懇願の視線にクラスメイト達は殆どが怯えるように狼狽える。

なぜなら、彼らは理解してしまったのだ。

この世界の人間で邪竜に堕ちつつある陽和を討伐する事は難しいだろう。だからこそ、上位世界の人間であり神の使徒としての力を有している自分達に陽和の討伐を頼んだと言うことに。

しかも、討伐という事は、自分達はクラスメイトを、一人の人間を殺す事を意味しており、イシュタルは自分達に学友を殺せと頼んでいるのだ。

 

『戦いの果ての死』を強く実感して、戦えなくなり外に出ることすら出来なくなっていたクラスメイト達にとって、人殺しを要求するのはさらに追い込む結果となってしまっているのだから。そして、その事実にイシュタルやエリヒドは気付いてすらいない。

 

到底引き受けられない頼みを前に、誰もが顔を俯かせ、暗い表情を浮かばせる。

自分達が束になっても、彼には勝てない事は分かっているし、人殺しなんてできるわけがなかったから。更には、彼が自分達を殺そうとしている事実に恐怖したのだ。

それにそもそも、戦いを拒否している彼らが、自分達よりも遥かに強い同級生と殺し合いなんてできないに決まっているのだ。

ただ一人を除いて———。

 

そしてその空気を感じ取ったのかイシュタルは、徐に椅子から立ち上がると光輝の前まで歩き膝をついて頭を下げた。

 

「お願いします。光輝殿、そして使徒の皆様方。どうかお力添えを。悪しき邪竜が完全に目覚めて仕舞えば、我らだけではただ滅びを待つしかありません。

ですから、勇者方の力が必要なのです。巨悪を打ち倒す英雄の力が。

だからどうか、仲間を守り、世界を救う為に邪竜討伐にお力を貸していただきたい」

「イシュタルさん……」

 

光輝はイシュタルの対応に驚く。

今までもイシュタルに頼まれる事はあったものの、このように自分の前に傅き頭を下げられた経験はなかったからだ。

そして、その行為は光輝の心の内に宿る『理想の正しさ』に直に響いた。

 

光輝にとって陽和は自分にとって最も忌み嫌うべき『悪』そのものであり、今回の凶行がその認識に拍車をかけた。

更に言えば、悪人である彼が、世界が忌み嫌う『悪』の象徴である邪竜の力を手にするというのは、『悪』を助長させる行為に他ならないものであり尚のこと陽和は倒すべき敵だと感じた。

 

そして光輝は知っている。

邪竜とはどの物語でも倒されるべき邪悪な存在であり、いつだって倒すのは正義の味方である勇者だ。

邪竜は『悪』であり、勇者は『正義』なのだから。

 

ならば、勇者である自分が世界を脅かす邪竜である陽和を討伐する事は、大多数の人が———この世界の人間達が願う正しい事なのだ。

だからこそ、光輝は己の歪な『正義』に従いイシュタルの頼みを快く引き受けた。

 

「分かりました。俺が一刻も早く強くなって紅咲を、いいえ、悪しき邪竜を倒します」

「感謝いたします。光輝殿」

「天之河君っ⁉︎」

 

光輝の言葉に、イシュタルが感謝の言葉を述べる一方で、愛子はショックを受ける。

それは、愛子だけでなく他のクラスメイト達も同様。特に彼と親しかった重吾や優花、香織、龍太郎などは呆然と目を見開いている。

雫は分かっていたかのように、目を伏せるも、その表情はあまりにも悲しげだ。

メルドも静かに目を閉じながらも、その表情からは悲嘆が僅かに窺える。

愛子はすかさず光輝の腕を掴んで訴える。

 

「やめてください!どうして、引き受けてしまうんですかっ⁉︎生徒同士が戦うなんて、そんなの間違っています‼︎」

 

彼女は目の端に涙を浮かべながら、そう必死に懇願するように訴えるものの、既に自分の中で陽和は倒すべき邪竜だと完結してしまっている光輝には届く訳がなかった。

光輝は不思議そうに首を傾げながら、愛子に言う。

 

「間違っているのは俺じゃなくて、紅咲の方ですよ先生。あいつは既にメルドさんや警備兵達も殺そうとしていて、俺達の事も殺そうとしています。

()クラスメイトでもあいつはもう踏み越えちゃいけない一線を超えて外道に堕ちました。なら、勇者である俺があいつを倒す他ありません」

「例えそうだとしても、彼が何の理由も無しにそんな事をする訳がありません!きっと話し合えば……」

「なぜ話し合うんですか?そんな事をしても無駄ですよ。あいつと話し合ったところで何も変わりません。意味もなく人を襲い、仲間を平気で巻き込み、イシュタルさんや国王陛下、メルドさん達に剣を向けるような奴が、今更大人しく話し合いに応じる訳がないでしょう」

 

さも当たり前のことかのように、平然とそう言う。彼は、自分の発言に疑問を抱いていない。自分の発言が全て正しいと本気で思っていた。

 

だからこそ、あんな凶行をしでかした陽和と話し合いなどする必要はないし、邪竜として倒すべき敵だと言っているのだ。

その事を理解した愛子はショックが大きかったのか「そんな…」と呟きながら光輝の腕から手を離し、後ろに蹌踉めき、咄嗟に雫と香織が支えなければいけなかった。

その様子を見て、どういうわけか話は終わり理解してもらったのだと見当違いな納得をした光輝は、クラスメイト達へと振り向く。

 

「皆、クラスメイトが裏切って外道に堕ちてしまった事にそれぞれ思うことがあるのは分かる。皆を殺そうとしていると聞いて不安で怖いのも仕方ないことだ。だけど俺が皆を守る‼︎」

 

光輝の言葉にクラスメイト達は戸惑いながらも、耳を傾ける。光輝は力強く拳を握りしめると、力強くはっきりと宣言した。

 

 

 

 

「俺が紅咲を、邪竜を必ず倒して皆を守る‼︎そして、魔人族も打倒して皆が帰れるようにするから安心してくれ‼︎」

 

 

 

 

▼△▼△▼△

 

 

 

光輝が邪竜討伐の意思表明をした後、話は終わり解散となり玉座の間から出ていくクラスメイト達は一様に表情が暗かった。

ただでさえ、今は戦えない生徒達が多いのに、裏切り者である陽和とも戦わなければならないという事実が彼らの心に重くのしかかっていたのだ。

クラスメイト達は光輝以外は誰も意思表示はしていない。だが、光輝がイシュタルと勝手に話を進めたことや、彼が持ってしまったカリスマ性のせいで戦えない生徒達は現状維持、戦闘訓練に参加している勇者パーティーと檜山率いる小悪党組、そして重吾のパーティーが曖昧なまま陽和と戦うことも視野に入れる事になってしまっていた。

 

そして、話が終わり解散して玉座の間から次々と生徒達が出ていき、最後に愛子と彼女を支えながら歩く雫と香織、重吾と優花の五人が出てきた。

愛子は未だに顔が青白く、先程の話がよほどショックだったことが窺える。雫は心配そうにしながら彼女は声をかける。

 

「先生、大丈夫ですか?」

「……ごめんなさい、こんな情けないところを見せてしまって……」

「いえ、先生の気持ちもわかりますから」

 

雫はそう優しく言う。

生徒想いの彼女がこうなってしまう事は、分かりきっていたことだから。

愛子もそれきり、黙り込む。きっと、彼女の中では、様々なことがないまぜになっているだろう。

陽和が邪竜として異端者認定を受けたこと。

陽和がメルドや兵士達に危害を加えたこと。

光輝が陽和と殺し合うことを選択したこと。

それに対し、自分が教師としてどう言う選択をすればいいのか悩んでいるのだろう。

雫も香織もそんな彼女の胸中を察してか、何も言葉をかけることができなかった。

 

そして、そんな彼女達の様子を後ろから見ながら、重吾は重苦しい表情のまま隣を歩く優花へと話しかける。

 

「園部、お前はさっきの話信じられるか?」

「信じたくないわよ。でも、メルド団長がああ言ってたし、信じるしかないでしょ」

 

口ではそう言うものの、信じたくないと言う気持ちが大きいのは誰が見ても明らかだ。

だが、彼女がそう思うのも仕方がないことだろう。イシュタルが言うのならともかく、あのメルドがはっきりと断言したのだ。

自分達にとっては兄貴分的な存在で、異世界では誰よりも信頼している人。そんな彼が、あそこまで言い切ったのだから、嘘だとは思えなかったのだ。

 

「そういう永山はどうなのよ?」

「俺は……正直信じたくない。だって、あの陽和だぞ?お人好しのあいつが、無闇に人を傷つけるような事をするとは、とてもじゃないが信じられない。例えそうだとしても、それだけのことをする理由があるはずだ」

 

重吾は陽和と一年の頃から付き合いがある。

陽和は剣道部で、重吾は柔道部だったがそれでも武道を嗜む者同士で空手をやっていた龍太郎と同じように仲が良かった。

だからこそ、重吾は何度も陽和が人助けをしていることを知っているし、面倒見の良さから慕われていることも知っている。

そんなお人好しで心優しい彼が、こんな凶行をしでかした事はショックだが、同時に何の理由も無しにそんなことをするとは思えないのだ。

重吾の話に、優花は目線を落としながら、そう力なく呟く。

 

「……そう、よね……」

 

優花も重吾と同意見だ。

彼女も一年の時から同じクラスだったのもあって、陽和の人柄はよく知っている。

それに、陽和は自分達にとっては命の恩人なのだ。あの時、ベヒモスとの戦いの時、彼が誰よりも前線で戦いながら自分たちを鼓舞してくれなければ、あそこで自分たちは終わっていたかもしれなかったから。

彼と、ハジメの二人が身命を賭してベヒモスを足止めしてくれたからこそ、自分達は今ここに生きているのだから。

そんな恩人に、大切な友人に、剣を向けることなどできる訳がないし、したくなかったのだ。

 

「あいつ…何してんのよっ」

「……さぁな。今頃、どうしてんだろうな」

 

優花は今ここにはいない渦中の男に苛立ちまじりの呟く。重吾はそれに力なく返した。

その時だ。彼女達にある声がかけられる。

 

「畑山教諭、雫、それに重吾と優花も少しいいか?」

 

それはよく聞き慣れた低い声。

声の方向に全員が振り向けば、そこには予想通りメルドが立っていた。

メルドは真剣な表情を浮かべると、重吾達が何かを言う前に彼らに話しかける。

 

「お前達に大事な話がある。今から少し時間をもらえないか?」

「話、ですか?」

 

愛子の問いかけにメルドは頷く。

 

「ああ、今後に関する話だ。この場ではあまり話せないから、私の部屋で話したい。構わないだろうか?」

「……私は、構いませんけど……」

 

そう言いながら、愛子は重吾達に視線を向ける。重吾達はその視線に大丈夫です、と頷いて返した。

それを確認すると、愛子はメルドへと視線を戻した。

 

「皆、大丈夫みたいです」

「感謝する」

「あの、メルドさん。私は……?」

 

香織がメルドに自分だけ名前を呼ばれていなかった事に疑問を覚えおずおずとそう尋ねる。

メルドは少し困ったような表情を浮かべると、口を開いた。

 

「……香織はすまないが「いえ、香織も同席させてください」……雫」

 

香織は外して欲しい。そう頼もうとしたメルドの言葉を被せるように雫が答えた。

突然のことに、メルド以外の者達が困惑する中、雫は話し続ける。

 

「これは私の独断ですが、先生と永山君、優花以外にも香織には話してもいいと思います。香織なら『彼』もきっと文句は言わないでしょう」

「その様子だとお前は()()()()()()()()()()?」

 

メルドの問いに雫は静かに頷く。

 

「はい。昨夜、全て聞かされました」

「そうか……あいつはちゃんと話せたんだな」

 

メルドは思わず微笑を浮かべた。

昨夜、レイカと共に焚き付けた身としては上手くいくかは不安だったが、彼女の様子を見る限りではちゃんと話せたようだ。

 

「良いだろう。ならば香織の同席も許可する。ついてきてくれ」

 

そう言って、メルドは彼女達の脇を通って自分の部屋へ向かう。

話の流れについていけない重吾達は戸惑いながらも迷いなくついていく雫の後に続く。

メルドの部屋へ向かう中、たまりかねて香織が雫に尋ねた。

 

「ね、ねぇ、雫ちゃん、一体何の話をしようとしているの?それに彼って、もしかして……」

「後でちゃんと説明するわ。だから、今はメルド団長についていきましょう。先生も、聞きたい事はあるでしょうけど、ちゃんと後で説明します」

「う、うん」

「え、えぇ、八重樫さんがそう言うなら」

 

香織と愛子がそう頷いたことで、何か言いたげだった重吾と優花も渋々黙ってメルドの後をついていった。

 

 

やがてメルドの部屋に着いた後、中に通されソファーと椅子にそれぞれ座り、メルドが彼らの前に紅茶とコーヒーを用意して、自分はデスクの引き出しから手紙を三通取り出すと、懐にしまい自分もコーヒーを片手に座る。

そして、愛子が紅茶を一口飲んだ後、意を決したかのように真剣な表情でメルドと雫に問うた。

 

「それで、メルドさん、八重樫さん。二人は何を知っているんですか?私達に話そうとしていることは何なのですか?」

 

愛子が疑問の視線と共にそう尋ねれば、左右に座る重吾達からも同様の視線が二人に向けられる。

雫とメルドが一目を合わせて頷き合うと、メルドが口を開きその疑問に答えた。

 

「そうだな。私は先ほど今後に関する話と言ったが、厳密には違う。私が話そうとしているのは今回の事件、その真相についてだ」

「ッッ」

 

そう言った瞬間、愛子達の表情が強張る。だが、何かを言う前にメルドはその真相を告げた。

 

「今回の事件は、確かに陽和が企てたものだ。

だが、それは悪意を以て行われたものではない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()に行われたものだ」

「っ⁉︎それはどう言うことですかっ⁉︎」

 

愛子は思わず立ち上がり、叫ぶ。

唯一知っている雫は平然としていたが、香織達は衝撃の事実に驚愕している。メルドは「今から話す」と言って話し始める。

 

「実は昨日の時点で陽和には異端者認定の話が上がっていた。上層部の様子から今日にでもそれは正式に決まり、早急に処分するだろうと感じた私は、陽和が異端者として殺される前に陽和に逃げるよう昨夜の内に密かに伝えたのだ」

「それって……メルドさんは、紅咲君を逃がそうと、したってことですか?」

 

座り直した愛子がそう問う。メルドはその問いに静かに頷いた。

 

「そうだ」

 

愛子達が真相の始まりに驚く中、それに疑問を覚えたものがいた。優花だ。

 

「で、でも、それってバレたら大問題になるんじゃ……」

 

彼女はメルドにそう言う。

香織達もそれには当然気づき、そうだと言わんばかりにメルドに視線を向ける。メルドは平然と頷き、それを肯定した。

 

「そうだな。将来的に邪竜として覚醒する恐れのある人間を逃したのだ。死刑、そうでなくても重い刑は免れないだろう。………だが、それは陽和の策がなければの話だ」

「?どう言うことですか?」

 

当然、何も知らない優花達は首を傾げるが、そこで雫が話に参加した。

雫は微笑を浮かべ、その策を話し始める。

 

「単純に逃げるだけならば、ここまで大事にする必要はなかったわ。陽和の実力ならば、誰にも気付かれずに逃げれるくらい出来るもの」

「うん、それは何となくわかるけど……っ、ちょっと待って。それって、紅咲はわざとこんな大事にしたってこと?」

 

察しのいい優花が気付き、驚愕に目を見開いた。雫はそれを肯定するように頷く。

 

「ええ、そう言うことよ。陽和はわざと王宮を混乱させるほどの大事件を引き起こしたの。

さっきも言った通り自分が無事に逃げれて、メルド団長が罪に問われなくし、私達を守る為にね」

「八重樫さん、どういうことか説明してもらえますか?」

 

愛子の頼みに雫は「勿論です」と頷き、その作戦を話し始める。

 

「元々陽和は自分が邪竜に関係する力を持っていることはだいぶ前に知っていて、教会の追っ手を避ける為にこの数日中に姿を眩ませるつもりでした。

そして昨夜にメルドさんが陽和に逃げるよう話を持ちかけたんですけど、もしもそのまま逃げれば、会議に陽和の異端者認定の話が上がったばかりと言うのもあって、誰かが逃走を手助けしたと考える者が出るかもしれません。そしたら、上層部は何が何でも探し出すでしょう。

その結果、メルドさんだと発覚して仕舞えば、いくら騎士団団長といえど処罰は免れません」

「……とはいえ、私は処罰覚悟で陽和を逃そうとした。陽和が無事に逃げれた後は、私自身はどうなっても構わないと思っていたからな」

 

メルドがそう補足する。

もしそうなった場合、メルドは元々処罰を受けるつもりだった。陽和を逃そうとしたことは後悔していないが、人間族を裏切ったことには変わらない為、騎士団団長としてその最後の責務を果たそうとした。

だが、他ならぬ陽和がそれを否定したのだ。

 

「でも、陽和がそれを許さなかったんです。

自分一人の為にメルドさんが犠牲になるのはあまりにも損失が大きすぎるし、メルドさんには自分のせいで死んでほしくなかったから。

もしも、メルド団長が処罰されて仕舞えば、必然的に私達神の使徒の教育係は代わりの人が来るでしょう。でも、その代理人が私達に余計な事を吹き込むかもしれないし、更に追い込むかもしれない。きっとそれは悪い影響しか与えないと、陽和は危惧しました。

だから、メルドさんでなければ私達の教育係の適任者はいない。彼はそう考えて、メルドさんとの一対一の決闘を提案して、自分が悪名を背負う事でメルドさんを被害者にするように仕向けたんです」

「と言うことは、メルドさんが斬られたのも二人が仕込んだ茶番ってことですか?」

「それは違う」

 

愛子の呟きを、メルドは真っ向から否定する。

 

「私と陽和はお互い本気で殺し合った。

確かに茶番の上に成り立っていたが、あの戦いはお互いに己の全てを出して戦った。斬られたのは私が純粋な実力で彼に負けたからだ。

陽和が勝ったならば私は彼に襲われ、深傷を負わされた被害者となる。もしも負けてしまったならば、騎士団団長を暗殺しようとしたものの、失敗し逃走した。そして私も満身創痍で追うことができなかった事にする。どちらに転がったとしても自分だけが『悪』となり、私の命も名誉も守る。そう言う筋書きをあいつは立てたのだ」

 

そして、激闘の末、陽和が勝ったことで、メルドは彼に襲われた被害者という結果になった。

どちらに転がっても、陽和は自分だけが『悪』になる作戦を自ら提案したのだ。

 

『ッッ』

 

その自己犠牲の作戦に、愛子達は思わず絶句する。彼らが絶句する中、メルドは静かに話を続けた。

 

「陽和は得意属性というのもあるが、夜には目立つ火属性魔法を使う事で、周囲の騎士達が気づくように仕向けた。そして、私が斬られ敗れたと同時に、タイミングよく騎士達が訓練場に辿り着いたのだ」

 

そうして斃れ伏すメルドを見た騎士達は自然とメルドを被害者とし、陽和を加害者と定めるのは必然のこと。

メルド一人の証言だけでなく、騎士達の目撃証言をも利用し、陽和は自分を『悪』に仕立て上げた。

 

「その後、陽和は訓練場に来た騎士達を魔法で足止めをした後、事前の打ち合わせ通り人気のない場所に移動し、私が密かに用意した早馬に乗って逃走した。

そして、追っ手が来ないように私と戦う前に馬を闇属性魔法で眠らせることで追撃を妨害し、門の警備兵と交戦し、門を突破し王都を脱出し今に至ると言うわけだ」

「……一つ、いいですか?」

「なんだ?香織」

 

おずおずと手を挙げた香織にメルドはそう聞き返した。香織は先ほどから気になっている疑問を告げる。

 

「朝、イシュタルさんが言ってた紅咲君と交戦した警備兵の事で、本当に命が危うい人もいたんですか?今の話を聞いてるとそうは思えないんですけど……」

 

香織の指摘にメルドは口の端を上げて面白そうに笑みを浮かべると、今朝ホセから聞いた報告の内容を思い出して伝えた。

 

「その件か。実を言うとな、傷の具合は確認できていない。なぜなら、騎士達が追いつく頃には既に自力で歩ける程度に回復していたからだ」

「?どう言うことですか?」

「ホセの報告や負傷していた警備兵達から話を聞いたのだが、確かに陽和は警備兵達と交戦して傷を負わせたのは事実だが、その直後に、あいつは“聖典”で負傷した者達を癒したらしいのだ」

「ッ⁉︎“聖典”を使ったんですかっ⁉︎」

 

“治癒師”である香織は思わず驚愕する。

光属性最上級全体回復魔法“聖典”は“治癒師”である香織ならば、一人でできるが長い詠唱が必要となり、その分手間も掛かる。

常人なら大規模な魔法陣と数人がかりでの詠唱が必要であり、消費魔力も相当必要だ。

光属性にも高い適性を持つ陽和であっても香織よりも時間も手間もかかり、魔力も多く消費する事は明白だ。騎士達に追われている状況で、悠長にそんなことをしている場合ではない筈だからだ。

無力化した後は、早々に逃げればいい筈なのに、と香織は思ってしまったのだ。それは彼女だけでなく、話を聞いていた全員が同じことを思っていた。

そんな疑問を、唯一陽和の真意に気付いた雫が微笑みながら応える。

 

「陽和だって逃げる為にはどうしても門を突破する必要があったから戦っただけで、初めから殺すつもりはなかったはずよ。ただ、彼らの怪我の具合を見てやりすぎたと思ったから、救援が来るまでの間に死なない様に回復させたんじゃないかしら。ふふっ、彼らしいわね」

 

雫の推論は、正しくその通りだった。

その場を見ていない筈なのに、陽和の真意を見事に言い当てていた。

これが、恋人のなせる業というものなのだろうか。そして、陽和のそんな優しさが垣間見える一面に、雫は全員が困惑する中、思わず彼らしいと安心して笑う。

 

「……あ、ごめんなさい。その、話し続けて」

 

やがて一人笑っていたことで視線を集めていた事に気付いたのか、雫は若干恥ずかしそうにしながらもそう続きを促した。

その様子を見て、メルドは何かに気づきほくそ笑むと話の続きを話し始める。

 

「さて、ではどうしてその話が今朝、出てこなかったのか疑問に思うことだろう。

お前達に話さなかった理由は、ただ一つ。実に単純な話だ。邪竜とは『絶対悪』でなければいけないから。だから、君達には話さなかった」

 

そうして、メルドは話し始める。

曰く、邪竜とはこの世において何よりも邪悪で残虐非道の存在だと。

曰く、邪竜とは殺戮を齎し、数多の命を滅ぼす恐怖と絶望の具現だと。

曰く、破壊と混沌を象徴する邪竜の化身たる者もまた、悪でなければならない存在であり、どうあっても、怪我人を癒すなどという善の、正義の行いをするなどあってはならないのだと。

曰く、邪竜とは『絶対悪』。それは数多の人間の身体を傷つけ、命を葬り、心に恐怖を齎すからこそ存在するのであり、善行を成すのを許される存在ではないと。

曰く、世界を混沌に陥れる『絶対悪』はその存在が邪悪。その行いが邪悪。その全てが邪悪でなければならないのだからと。

 

曰く———『絶対悪』だからこそ、そこに一欠片でも『正義』が存在してはならないのだと。

 

イシュタル達はそう考えていたからこそ、神の使徒であり、仲間でもあったクラスメイト達に話さなかったのだ。

話せば、陽和と敵対できなくなるかも知れないと危惧したから。

 

「———ッッ‼︎‼︎なんですか、それはっ‼︎じゃあ、始めから陛下達は紅咲君を悪者にするつもりだったんですかっ⁉︎⁉︎」

 

メルドの言葉に、真っ先に怒りを覚えた愛子が立ち上がりながら叫ぶ。

陽和とクラスメイト達を戦わせようとしている事は、既に知っている。だが、いくら彼が邪竜だからと言って、彼自身にも善性がないわけではないという事は、行動をもって証明されている筈なのだ。

だが、あろうことか教皇達はその善行を揉み消した。それは、己が信じる神が為に。神の敵だからこそ、それは悪でなければならないという思想からきたもの。

邪竜の力を宿すからと言って、生徒の善性を否定し貶めようとする仕打ちに、愛子は怒りを感じずにはいられなかった。

それは、香織達も同様で、一様に怒りをその表情に浮かべていた。

だが、続くメルドの言葉に彼らは目を見開いた。

 

「そうなるな。だが、それすらも陽和は()()()()()()()()だった」

「え……?」

 

続くメルドの言葉に、愛子はそんな間の抜けたような声を出して呆ける。そんな様子の愛子を見ながら、メルドは感心混じりの笑みを浮かべると、話し始める。

 

「全く、あいつの慧眼には本当に恐れ入る。なにせ、あいつは今日のお前達の反応や、上層部がどんな決定を下し、どうお前達に伝えるか。その全てを予想して、今回の作戦を組んだんだからな。いや、そうなるように仕向けた、と言ったほうがいいか」

「どういう事ですか?」

「そのままの意味ですよ。先生」

 

雫が愛子の疑問にそう答えて、メルドに代わって説明する。

 

「陽和はこうなることを全て見越していました。いくら足掻いたところで、教皇や国王は邪竜の力を持つ自分が『絶対悪』だという認識を決して覆さないことを分かっていました。

そして、私達に邪竜の恐ろしさを必要以上に教え込むだろうことも彼は予想していました。

ですから、こう考えたんです。覆らないなら、その悪評を利用すればいいと」

 

陽和は教皇を始めとしたこの世界の信徒達の様子から、邪竜は『絶対悪』でなければならず、その悪評が決して覆る事はないことを大分早くに悟っていた。

だからこそ、陽和は逆の発想で、その悪評を利用しようと考えたのだ。

自分を決定的な『悪』にする為に、彼は今回の作戦を企てた。

 

「メルドさんと殺し合ったのも、馬を眠らせて追跡を妨害したのも、門の警備兵を戦闘不能に追い込んだのも、全ては自分が『絶対悪』だという認識を強める為。

邪竜という存在が元々持っていた悪評を利用する事で、自分もまたその後継者として『絶対悪』であることを決定づけました。

彼は王国から逃げる為ではなく、邪竜の力を継承し世界と敵対する為に今回の凶行に及んだと、上層部に思い込ませた上で、異端者認定を確固たるものにする為に今回の作戦を企てました」

 

その結果、彼の思惑通りに王国や教会は陽和を『邪竜の後継者』として異端者認定とし、見つけ次第即刻討伐するように指名手配の決定を下した。そしてその決定は、決して覆る事はない。『作農師』という希少な天職を持つ愛子との交渉にも決して応じはしないだろう。

なぜなら、陽和がそうなるように仕向けたのだから。

更に言えば、怪我人を癒したという情報をあえて伏せることも陽和は想定済みだった。

癒やしたところで、評価が変わる事はないことは分かっていたが、それでも癒やしたのは、彼の性分だ。

しかし、話はこれだけでは終わらなかった。

 

「それに、メルドさんと殺し合ったのは、メルドさんが罪に問われなくする為や『絶対悪』の認識を強める他に、私達神の使徒と敵対することで私達を守るという思惑もあったんです」

「どう言う事だ?」

「ええ、永山君、一つ聞くけど、メルドさんを邪魔だからと言って殺そうとした人が仲間の中にいたら、貴方はどう思う?」

「……当然、怒るだろうな。

俺達にとって、メルドさんはこの世界で最も信頼できる人だ。そんな人に、恩を仇で返すような真似をしたら、俺達はそいつを許す事は難し…っ、おい、待て。陽和はまさかっ‼︎」

 

重吾は陽和の意図にようやく気づき、驚愕の表情を浮かべながらそう呟く。雫はそれを静かに肯定した。

 

「そうよ。メルドさんを傷つければ、事情を知らない私達は陽和に怒りを抱かずにはいられない。そして先生も怒るまでは行かなくても、いい感情は抱かない。生徒が凶行に及んだと悲しむはずです。そうでしょう?先生」

 

話を振られた愛子は、戸惑いながらも肯定するように頷く。

 

「え、ええ、確かにそういう気持ちを抱いたのは事実です。でも、どうして彼はそんなことを?」

「それが自分だけが『悪』となる唯一の方法だったからです。彼は、メルドさんを襲うことで、王国、教会、神の使徒、この世界の全てと敵対することで、私達を守ろうとしたんです」

「でも、どうしてそれが私達を守ることに繋がるのよ?」

 

優花が思わずそう言う。

彼女には分からなかったのだ。自分たちと敵対すると言う事は、イシュタルの言う通り自分達神の使徒を殺そうとするかもしれない。だと言うのに、敵対することがどうして自分達を守ることに繋がるのか、それが皆目見当もつかなかったのだ。

雫は「それも話すわ」と言って彼女の疑問に答える。

 

「陽和は私達と敵対することで、私達の中に共犯者がいる可能性を無くしたのよ。

もしも、何もしないまま彼が逃げれば、王国の人間の他に、同じ神の使徒内にも彼の逃亡を手助けしたものがいるかもしれないと考えて、探し出すと考えた。その結果、私達の誰かがあらぬ疑いをかけられて、冤罪にされるかもしれない。そう危惧したのよ」

 

もしもそうなれば、クラスメイト達の何人かは更に追い詰められて本当に心が壊れてしまうかも知れない。

それは何としてでも避けなければならないことだ。

だから、陽和は考えたのだ。

クラスメイトが誰一人共犯者として疑われずに、自分一人だけが罪を被る方法。

それが、メルドを襲う事だった。

メルドは神の使徒の教育係であると同時に、重吾が言った通り、クラスメイト達から最も信頼されている人。

そんな人が襲われたと知れば、多かれ少なかれ怒りなどの負の感情を抱くのは当然の事。

   

「メルドさんを襲えば私達が怒る事や先生が戸惑う事は分かっていたわ。だから、陽和はメルドさんを襲う事で、対外的に神の使徒と敵対する姿勢を見せたのよ。

そしたら私達が疑われることもなくなり、心が壊れる可能性を少しでも減らせる。そこにメルドさんの証言が加われば、私達が疑われる事は、確実になくなるわ」

 

クラスメイト達は誰一人として疑われる事はなくなり、陽和が邪竜の力を得る為の独断の凶行だと言うことになる。そうする事で、クラスメイトを守ることができるのだ。

 

「そして、上層部はメルドさんを倒した陽和を討伐する為に必ず私達神の使徒の力を借りようとする。でも、私達は敵対しているとは言え、仲間を、クラスメイトを殺すことなんてできない。それに、陽和の実力もよく知っているからこそ、邪竜の力を継承して更に強くなった彼には、私達が束になっても勝てない事は分かりきっているわ。……ただ一人を除いてね」

「雫ちゃん、もしかして……」

「ええ、『勇者』である光輝だけは、陽和と、いいえ、悪しき邪竜と戦うことを迷うことなく決断するわ。実際、彼は迷うことなく決めたしね」

 

『勇者』天之河光輝。

形だけで中身のない『正義』に心酔し、全てをご都合解釈と思い込みで押し通そうとしている彼ならば、メルドや警備兵を傷つけた陽和を許しはしないだろう。

そして、正義感の強さや陽和を既に『悪』と認識していることから、光輝はイシュタルの説明を受け頼まれた後は、迷わずに陽和と——邪竜と戦うことを選択するだろう。

たとえ、先生である愛子や、仲間である雫達の制止があってもだ。

実際に止めたのは愛子だけだったが、邪竜の邪悪さを丁寧に吹き込まれた光輝は陽和の思惑通りにあっさりと陽和と敵対する道を選んだ。そして、皆を守る様な発言までしてのけた。

 

「こう言うのは失礼だけど、光輝の思考パターンはわかる人には本当に分かってしまうのよ。陽和もなんだかんだ言って長い付き合いだから、嫌っていても彼の考えている事は、何となく分かってしまうわ。

だから、今回はそれを利用したの」

 

光輝は全てを自分の中で完結し、ご都合主義と思い込みで全部押し通している。普通の常識がある人間からすれば、面倒極まりない性格だが、それは裏を返せば、その思考パターンがわかっていれば、誘導も容易いと言う事だ。

光輝の直情的な性格は普段ならば迷惑極まりないが、今回の作戦では逆に大いに役に立ってくれた。

イシュタルによって事情を聞かされたクラスメイト達は邪竜討伐の協力に戸惑っていた。

神の使徒に選ばれておきながら、何故邪竜を討つことに迷っているのか、本当に分かっていないイシュタル達にとっては疑問に思う中、ただ一人『勇者』である光輝だけは迷わずに戦う選択を選んだのだ。

 

正義感が強く、助けを求められれば断らないのが光輝だ。当然、今回も助けを乞われた以上は助けようと決断する事は分かりきっていた。

その決定は、イシュタルにとっては望ましいものであり、思い通りだった。

イシュタルも気づいているのだ。

光輝がこちらの言うことを全面的に信じてくれていることを。だから、『邪竜』がいかに残虐非道な存在なのかを説明し、勇者である光輝に助けを求めたのだ。

その結果、光輝は見事イシュタルの思惑通りに邪竜討伐の意思を表明してくれたと言うわけだ。きっと、彼は心の内で笑っていたことだろう。

だが、それは同時に陽和にとっても思惑通りだったのだ。

 

光輝の事だ。陽和が今回の凶行に及んだと知れば必ず怒りを抱くだろうし、『悪』だと決めつけている陽和を討伐する事に他の生徒達とは違い、躊躇いは抱かないだろう。そして、『(陽和)』を裁くことに罪悪感も抱くわけがない。

更に言えば、光輝が陽和と敵対する事を選ぶ事で、他のクラスメイト達が疑われる可能性は完全にゼロになり、またメルドも罪に問われる事は完全になくなる。

つまりは、陽和が『絶対悪』である事を決定づけるための最後の一押しとして彼は光輝の歪んだ正義感を利用したのだ。

それは、陽和がかつて邪竜の存在を知り、勇者である光輝の事について危惧していた最悪の可能性だったのだが既に覚悟を決めている陽和にとっては、望み通りの展開だったのだ。

 

『…………』

 

作戦の詳細やその真意について全て聞かされた彼らは、誰もが驚愕のあまり声を出さないでいた。

メルドの手助けがあったとは言え、上層部が下すであろう判断や、自分達が抱いた感情や反応、今、王宮を取り巻く状況全てが、彼が予想し、そうなるように仕向けたものだったからだ。

まさしく、自分達は彼の掌の上で踊らされたと言うわけだ。

誰もが戦慄するが、それ以上に安堵もした。

 

「では、紅咲君は悪意で今回の事件を企てた訳じゃないんですね……」

 

愛子が深く息をつきながら、心底安心したように呟く。その声には喜びや安堵が多分に含まれていた。

そんな彼女に雫は微笑みながら答える。

 

「彼が邪竜の力を継承するつもりなのは確かです。ですが、安心してください。彼は私達を傷つけるような事はしませんし、先生の言う通り、邪竜の力を決して悪い事には使いませんよ。人を助け守る為や元の世界に帰る為に使います」

「そうですか。……それは、良かったです。…えぇ、本当に、良かった…」

 

愛子は肩の力を抜いてそう嬉しそうに呟く。陽和が悪意でこんな事をしたのではないと知れて、嬉しかったからだ。

重吾や優花も陽和が本当に外道に堕ちた訳ではないと知って安堵する中、愛子は嬉しそうにしながらもある疑問を浮かべる。

 

「っそういえば……紅咲君は、どこに向かったんですか?」

 

陽和が王都を脱出した詳細は知った。

だが、そのあとは?

彼のことだ。王都を脱出したあとは、何らかの目的を持って行動するはず。ならば、脱出した後の向かう先も決めて、既にそこに向かって、或いは既に到着しているはず。

そんな疑問に、雫が応えた。

 

「———オルクス大迷宮です」

「えっ⁉︎」

 

愛子は思わず驚くが、すぐにその目的に気付いた。

 

「ぁ…もしかして、南雲君を探しに、ですか?」

「はい。目的の一つとして、彼は一足先に南雲君を探しに潜りました」

「一つ?複数あるってこと?」

 

優花が零した疑問に雫は頷く。

 

「ええ。彼の目的は二つあって、一つは南雲君を探すこと。そしてもう一つは……赤竜帝の力を継承すること。その二つの目的を果たす為に彼はオルクス大迷宮に潜ったのよ」

「南雲君の捜索は分かりますが、何故力の継承も行おうとしているんですか?まさか、確証があるんですか?」

 

愛子は恐る恐るつぶやく。

確かに陽和が邪竜の力を継承するとは言っていた。だが、何処で継承できるか。いや、そもそもどこかで継承できる物なのかすらわからない。

だが、彼は継承することを目的の一つとして大迷宮に潜った。ということは、彼はまさかオルクス大迷宮で継承できると確信していたのではないだろうか?

その疑問を雫は肯定する。

 

「ええ、具体的には分かりませんが、先週オルクス大迷宮に潜った時、彼曰く『呼ばれている』感覚があったそうです」

「それって……」

「はい、恐らくは赤竜帝でしょう。彼は赤竜帝の魂、あるいは残滓のようなものがオルクス大迷宮の深層にあるのではないかと推測していました」

 

陽和は雫とメルド、レイカには事前に大迷宮で自分だけが感じたであろう違和感の事を話していた。

そしてその違和感の正体が、本当に赤竜帝なのかを確かめる為に大迷宮に潜ると伝えているのだ。

 

「深層に赤竜帝が本当にいるかは定かではありませんが、何らかの痕跡はあると彼は踏んでいます」

「そうでしたか。わかりました。ですが、一人で大丈夫なのでしょうか?」

「大丈夫ですよ」

 

愛子が零した疑問に雫は愛が故の彼への信頼を、彼女は躊躇わず口にする。

 

「彼なら大丈夫です。

彼は誰が相手でも負けません。何があっても、どれだけ時間がかかっても、必ず生きて私の元に帰って来てくれる。そう約束してくれたんです。

だから、私は信じています。彼が無事に生きて帰って来てくれることを」

 

雫は瞳を閉じると首から下げている愛しい人から貰った火のネックレスを手にし、そう力強く呟く。

彼女の表情には心配の色は一欠片もなく、揺るがない強い信頼が伺えて、彼女が本気でそう思っていることを証明している。

その力強い言葉と昨日とは変わった、どこか艶っぽい雰囲気に愛子達は思わず瞠目する。

特に親しく、親友の間柄でもある香織ですら見たことない彼女の姿には戸惑いを隠せていなかった。

そんな中、唯一メルドだけは彼女の雰囲気と、昨日までは無かったはずの火のネックレスを見て全てを理解した。

 

(そうか。お前はちゃんと、想いも伝えれたのか。よかったな)

 

陽和が雫に長い間心の内にしまっていた想いも全て伝えられて、そしてそれが見事成就した事に彼は心の内で密かに祝福の言葉を送る。

メルドは一区切りついたのを見計らって口を開く。

 

「陽和からお前達宛てに手紙を預かっている」

「手紙、ですか?」

「そうだ。畑山教諭、優花、重吾の三人に渡すよう昨夜陽和から託されたものだ」

 

そう言って、メルドは懐から三通の手紙を取り出して、三人にそれぞれ渡す。

 

「これはあいつが昨夜、事前に準備していたものだ。朝教皇様達が皆を集めて話をするだろうから、その後に渡してほしいと託された」

「じゃあ、私達を呼んだのは……」

「ああ、君達三人にだけ真相を話し、手紙を渡すためだ」

「でも、なんで私達にだけなんですか?」

「陽和が君達を信用しているからだ。

優花と重吾はいざと言うときに周りに流されずに冷静な判断ができ、畑山教諭は自分達の教師であると同時に、生徒の事を第一に考え、今まで真摯に向き合ってきたその姿勢を尊敬しているから、とあいつは言っていたな。その上で、お前達に話しても他言するような事は決してしないだろうと判断し、信頼に足る者として手紙を残したのだ」

「え…紅咲が?」

「俺達の事を、そんな風に……」

 

陽和からの思いがけない評価に重吾と優花が驚く中、愛子は感極まったような表情をしていた。

威厳ある教師を目指し、日々頑張ってはいるがその努力は空回りし『愛ちゃん』という愛称で呼ばれ小動物のように可愛がられている彼女からすれば、一人とは言え生徒に尊敬されている事を知れば、嬉しいのは仕方がない話だ。

そして、三人は各々が封を開けて手紙を読み始めていく。

基本的には、自分が邪竜と関わりがあるかも知れない事。近いうちに王国から姿を晦ます事。自分なりに世界を旅して帰還の方法を探る事。教会の言う事をあまり信じないようにする事。などなど、大まかな事は共通していたが、それに加えてそれぞれに宛てたメッセージもあった。

 

三人が手紙の内容に目を通して驚いたりと様々な反応を見せる中、香織が隣に座る雫に少し気まずそうにこっそり耳打ちする。

 

「ね、ねぇ、雫ちゃん。もしかして、私邪魔だった?」

 

香織の気持ちもわからなくはない。

雫の判断とは言え、元々優花達の三人にしか明かされるはずのなかった衝撃的事実を、自分も聞いてしまったのだ。

今回の話は軽々に参加していいものじゃない事は、香織とて分かっているのだろう。だから、自分がここにいるのはまずかったのでは、と思ったのだ。

そう戸惑う香織に雫はやんわりと微笑んだ。

 

「大丈夫よ、確かに最初は香織には明かすつもりはなかったけど、陽和ならきっと許してくれるわ。ここで聞いたことは絶対に他言しなければそれで良いから」

「う、うん、それは勿論だよ」

 

香織は必死に頷く。

こんなこと他言したら、この場にいる全員の命が危ないからだと簡単に理解できたからだ。

そして、三人が見守る中、ほぼ同時に三人が手紙を読み終わり、顔を上げる。

重吾は呆れ笑いのようなものが浮かんでおり、口の端を釣り上げて笑みを隠せないでいた。

優花は目の端に涙を溜めながらも、笑みを浮かべている。そして、愛子は止めどなく涙を零し泣いていた。

 

「紅咲君は、凄いですね。……自分が一番危なくて、辛いはずなのに、ここまで私達のことを気にかけてくれてるなんて……」

 

愛子は素直にそう思わずにはいられなかった。

陽和が愛子に残したメッセージには、今後も生徒の身の安全を確保してほしいということや、生徒達の心が折れないように教師として支えてあげて欲しいなど生徒達の心身の安全と保証を願うものや、愛子自身が生徒達の最後の拠り所であることを覚えて欲しいなどの内容だった。

 

そして最後には、

 

『あの時、最後まで俺の味方でいてくれたこと、ありがとうございます。俺にとって貴女は尊敬すべき恩師です。

貴女の生徒を想う姿勢は何も間違っていません。だから、どうかこれからもその姿勢を貫いて下さい』

 

愛子への感謝などが記されていた。

自分が命を狙われているはずなのに、一番辛くて、誰かの助けが最も必要なはずなのに、それでも自分達の事を案じてくれた。

自分に、自分達に想いを託してくれた。

その優しさが、愛子は嬉しかったのだ。

愛子は震える手で手紙を握り締めながら、紙面にポツポツと何度も涙を落としながら呟く。

 

「ええ、彼がここまでしてくれたんです。なら、それに応えないと、教師じゃありませんね」

 

陽和の頼みに彼女の教師の矜持が動かされた。

生徒が命をかけて、己の危険すら顧みずに一世一代の賭けに打って出たのだ。

ならば、彼が託した想いに応えられないぐらいで、なぜ教師を名乗れようか。

愛子はゴシゴシと涙を拭うと、顔をあげて決然とした表情を浮かべると、メルドに頭を下げた。

 

「メルド団長、手紙を持ってきてくれたこと。そして紅咲君を助けてくれたこと。色々と本当にありがとうございます」

「礼はいい。あいつにも言ったが、これくらいしか私には出来ることがなかったのだ」

 

メルドは首を振り、陽和にも言ったことを彼女に伝えた。だが、愛子は「それでも」と続ける。

 

「貴方が私の大切な生徒を守ってくれたことには変わりません。だから、本当にありがとうございます。貴方の行動がなければ、私は大切な生徒を一人失っていました」

「……そうか。なら、素直に受け取っておこう」

 

メルドは愛子の力強い瞳に頷き彼女の感謝を素直に受け取った。

 

「ああ、それと先程雫が香織に言ったように、これは他言無用だ。バレて仕舞えば彼の努力の全てが無駄になる」

「ええ、分かっています。永山君達もそれでいいですね?」

 

愛子は了承すると、次いで視線を重吾と優花の二人に向ける。視線を向けられた二人は、一瞬視線を合わせた後、向き直り何か言われるまでもなく迷わずに頷いた。

 

「はい。この話はここだけの秘密にします」

「私も、絶対に他の人には話しません」

 

二人も愛子の言わんことは分かっている。

ここでの話を他人に漏らすということは、彼の期待を裏切ることにほかならないし、彼の人柄をよく知る二人からすれば、自然と信じることができたからだ。

そして、それだけではなく———

 

「……俺達は全員、陽和と南雲に助けられています。あの場にいた全員が二人に返しきれないほどの恩ができました」

 

あの時、陽和が一人残り戦っていたからこそ、ハジメと陽和が足止めしていたからこそ、重吾達はトラウムソルジャーの群れに集中し撤退の道を確保できていた。

二人のうちどちらか一人でも欠けていれば今頃、自分達はここにはいないはずだ。

なら、その恩に報いるべきだ。

 

その報いる方法が、これならば喜んで引き受けよう。

そしていつか再会した時に、心配させた罰で一発ぐらい殴ればいい。彼だって、それぐらいなら甘んじて受けてくれるはずだから。

 

「だから、俺達はあいつのことを信じます。

あいつが俺達のことを信頼しているように、俺達も先生やメルドさん達と同じぐらい信頼していますから」

 

重吾の言葉に優花は隣で頷く。

彼女も言葉にせずとも、重吾と同じ意見だった。

 

「二人とも……」

「……そうか」

 

二人の態度に、愛子は感極まったように瞳を潤ませ、メルドは小さく笑みを浮かべた。

そして雫もまた、二人に感謝の言葉を送った。

 

「二人ともありがとう。陽和の事を信じてくれて」

「なに、あいつには学校にいた時から色々と世話になったからな。友達の頼みを聞いただけだ」

「私もよ。今の話なら色々と納得がいくからね。信じるには十分すぎるわ。それに…」

 

優花は手紙に書かれていた自分宛のメッセージを思い出して、勝ち気な笑みを浮かべる。

 

「あいつが珍しく私達に託してくれたんだもの。なら、それに応えなきゃね」

 

そう言い切った優花に雫もまた目の端に涙を滲ませながらも笑みを浮かべて「本当にありがとう」ともう一度礼を言う。

と、そこでその一部始終を見ていた香織がある疑問を零した。

 

「ねぇ、雫ちゃんひとつ聞いていい?」

「なに?香織」

「そのネックレス、朝からずっと気になってたんだけどもしかして、昨日紅咲君から貰ったの?」

 

香織の疑問に、雫は頬を僅かに赤く染め微笑みを浮かべる。

 

「ええ、全てを話し終わった後にこれをくれたの。それで、ちゃんと帰ってくるって約束してくれたのよ」

 

艶っぽい大人な雰囲気に、昨夜陽和との間で何かあったのは明確。その何かに、花の女子高生の好奇心が刺激されたのか香織だけでなく優花も便乗した。

 

「へー、雫にだけそんなことしたってことは、紅咲にとって雫は『特別』だったってことかしら?」

「ねぇねぇ、二人はどこまで行ったの?もうキスした?」

 

思いのほか、ぐいぐい来る二人に雫は顔を赤面させながらも嬉しそうに昨夜の告白を思い出しながらも、片目を閉じてウィンクすると人差し指を立てて唇に当てる。

 

「駄目よ。教えてあげないわ。そう言うのは私と彼だけの秘密なんだから」

 

今までにはない大人だが可愛らしい仕草に女子二人は黄色い声をあげる。

重吾はいつの間に付き合っていたのかと驚き、愛子は生徒同士の交際に教師として、純粋に祝福する。メルドもまた表情を綻ばせて祝福の言葉を贈った。

 

「あいつ、いつの間にかよ」

「二人はお付き合いされたんですね。おめでとうございます」

「俺からもおめでとうと言わせてくれ」

「ええ、ありがとうございます先生。それと、メルド団長もありがとうございます。陽和がレイカさんと貴方に気付かされたと言ってました」

 

二人の祝福の言葉に感謝の言葉を返し、そう続けて。雫はメルドとレイカの言葉があったからこそ、陽和と恋人関係になれたことを知っている。彼らの言葉がなければ、この関係になるのはもっと時間がかかったはずだから。あるいは、色々とあり叶わなかったかもしれない。

彼女はそれらも含めてメルドに深く感謝していた。

 

「ふ、ちょっとしたお節介だ。気にすることはない」

 

メルドは笑みを浮かべながら、そう短く返した。事実、メルド達にとってはちょっとしたお節介に過ぎないのだ。自分達はあくまで切欠を与えただけなのだから。

 

「でも、お付き合いしたとはいえ、二人はまだ学生なんですから節度あるお付き合いしてくださいね?そういうところは、先生厳しく行きますよ」

 

愛子はそう教師らしいことを雫に言う。

確かに二人の関係を祝福する気持ちはあるが、それとこれは別。教師として生徒達が清い交際をする様に若干厳しく言う。

もっとも、小動物がぷりぷりと言う様は厳しさなんて欠片も感じないが。

 

「え、ええ、分かってますよ。愛ちゃん先生」

 

雫は少し口籠もりながら当然に答えるが、その表情の裏では少し焦っていた。

なぜなら、もう既にそう言う行為を行なったからだ。しかも、彼からではなく自分から誘って行為に及んだ。

とはいえ、それは自分から話さなければ絶対にバレることはない。

 

問題は外見だ。

行為の最中は興奮していて気付かなかったが朝、姿見を見て初めて気付いた、体に散らばる彼に付けられた赤い斑点は服で上手く隠して、しばらくしてから来た初めてだった為の腰の痛みも今は何とか隠せている。

今でこそ、隠せているが風呂場とかは細心の注意を払わなければいけないだろう。

 

回復魔法を使えば治せるかもしれないが、それを誰かに頼むのも恥ずかしいし、なによりも彼が愛してくれた証をそうあっさりと消したくはなかった。

だからこそ、今もまだ少し痛むし、斑点はまだ消えていないが上手く隠し通すよう努める他になかった。

しかし、もしもその努力虚しくバレてしまってら、まず間違いなく目の前にいる小動物が特大の雷を落とすことは確定している。そしてそのまま生徒指導説教コースに直行だ。

 

それは面倒だし、何より恥ずかしい。

陽和ならば難なく流せるかもしれないが、乙女である雫にとっては羞恥心が振り切れてしまうだろう。

だから、雫は生来の気質で何とか誤魔化す。

雫の言葉に、彼女に普段のしっかり者のイメージを抱いている愛子は容易く誤魔化された。

 

「ええ、分かってますよ。お二人はしっかりしていますからね。一応、言っただけです」

「は、はい」

 

何とか回避はできたと、密かに安堵する雫。

だが、彼女の隣に座る香織がピーンと何かに気づき一瞬ニンマリとした笑みを浮かべていたのには気付かなかった。

長い付き合いからか、香織は雫が既に大人の階段を登っていることに気づいたのだ。だが、それは本人達の名誉と尊厳の為に伏せることにした。

その代わりに、今夜は雫の部屋にでも泊まって質問責めでもしてやろうかと密かに恐ろしいことを企んでいたが。

そう香織が悪巧み?を企てる中、重吾がぽつりと呟く。

 

「……けど、付き合った翌日に離れ離れか。それは辛いな」

 

その言葉に一瞬、空気が静かになる。

優花が咄嗟に重吾を咎めた。

 

「ちょっと永山!」

 

優花にそう指摘され、自分が失言したことを理解し顔を青褪めるとあわてて雫に謝罪する。

 

「あっ、す、すまんっ!そういうわけで言ったわけじゃ……」

「大丈夫よ永山君。気遣いありがとう」

 

重吾の必死な弁解に、雫はみなまで言わなくてもいいと言外に言う。

 

「確かに辛いのは事実よ。やっと初恋が叶ったのにすぐに離れ離れになるのは悲しいし、寂しいわ。叶うなら、彼の帰りを待つんじゃなくて、一緒に行きたかった。隣で支えて戦いたかった。彼と1秒たりとも離れたくなかったわ。

でも、私なら大丈夫よ。何があっても頑張れるわ」

 

雫は穏やかな、されど力強い表情を浮かべて胸元の火のネックレスを見ながら自身の胸中を明かす。

 

「たとえ彼が私の隣にいなくても。遠く離れ離れになっていたとしても。私と彼は繋がっている。彼がくれたこの護り火が私に力をくれる。

それに、彼なら必ず帰ってくるわ。だから大丈夫。

彼から貰ったこの『熱』がある限り、私の心は折れないわ」

 

昨夜、彼に刻んでもらった熱。

温かな太陽のような男から貰った優しく、深い熱情の炎が、今もなお雫の心を暖め照らしてくれる。だからこそ、雫は今もこうして強くあれるのだ。

 

普段通りの凛とした雰囲気とその場の誰をも魅了するような可愛らしい雰囲気の二つが相反せず共存しているような彼女の姿に全員が呆気に取られた。

しっかり者の印象が強い雫の思いがけないギャップに、彼女の本質を知らない四人は驚く。

そして、親友である香織は目を見開く。

香織は雫がすぐに本心を抑え込んで誰かを優先してしまうことを知っている。そんな彼女が本心を隠そうとせず、それどころか自身の気持ちを曝け出したことに驚いたのだ。

 

だが、それも一瞬。香織は雫がついに自分以外に、いや自分以上に心の底から甘えられて、頼れる人と結ばれたのだと理解し、ひどく優しげで柔らかい慈愛に満ちた微笑みを浮かべ、雫の手を握る。

 

「本当に良かったね。雫ちゃん」

 

香織は雫が陽和をずっと幼い頃から好きだったのを知っている。

高校に入るまでは、唯一自分が甘えられる男の子と聞かされ、名前と顔しか知らなかったが、高校に入り陽和と出会い彼が雫の言う男の子なのだと理解してからはハジメへの猛アタックの傍で一人密かに二人をくっつけようと色々画策していたのだ。

恋愛系の映画チケットを密かに渡したり、三人で行くはずだった買い物を仮病を使い二人だけにしたりと、それはもう色々と企んだ。

だが、お互いが遠慮していたせいか幼馴染での付き合い以上にはならなくて、結局何一つ進展しなかった。

そんな矢先に、あの暴力事件があって二人は距離を取らされるようになっていた。

それ以降は、光輝の干渉もあって思うように二人を一緒に出掛けさせることはできなくなっていた。

 

だからこそ、ずっと見てきた二人がこうしてやっと晴れて恋人になったことが香織は親友として純粋にとても嬉しかったのだ。

その意図は雫にも確かに伝わった。

 

「ありがとう。香織」

 

雫はそう感謝を伝え、香織の手を握り返した。

それを皆が温かい眼差しで見ている中、雫は全員を見渡し、少し真剣な面持ちを浮かべる。

 

「あと、私と陽和が付き合ってる話なんだけど、彼か私が言うまで黙っていてほしいの」

「ああ、まあそれは仕方ないな」

「別にそれぐらいはいいわよ」

 

重吾と優花はその理由をすぐに察して頷く。

愛子とメルドも了承したと言うふうに頷いた。

四人が察したのは、邪竜である彼と恋仲になっていることが上層部にバレれば、雫が罰せられることだったのだが、事実は少し違う。

確かにそれもあるが、1番の理由は光輝だ。

周囲の事が自分の思った通りに進むと信じて疑わない彼が、雫と陽和が交際すると言う最もありえない事柄を知れば、何をしでかすか分からないからだ。

香織はそれを理解しており、その未来を想像してか少し青褪めた表情で頷いた。

それを見たメルドが立ち上がり言った。

 

「それじゃあ、話はこれで終わりだな。

長々と話していては、色々と感づかれるかもしれん。今日はここまでにしよう」

「ええ、そうした方がいいでしょう。それで、メルド団長、陽和の事ですが……」

「分かっている。何か情報が入り次第随時伝えよう」

「はい。ありがとうございます」

 

メルドと雫はそう言葉を交わす。

メルドはこれから王国騎士団団長として、神の使徒の育成のほかに、陽和の捜索の総指揮を取ることになっている。ゆえに、陽和に関して何か情報が有れば雫達に密かに提供するつもりだ。

そして、話が終わりその後幾つか話した後、全員が部屋を後にする。

この後は訓練があり、この場にいる全員が参加し愛子は見学するつもりだ。

 

そして、各々が装備を取りに散る中、雫と香織もまた一度部屋に戻り装備を取ってきた後、合流して共に訓練場へと向かっていた。

 

「………」

 

しばらく歩いて、とある場所を通った時、雫はふと足を止めた。

 

「雫ちゃん?どうし……」

 

香織は突然の行動に戸惑うもののすぐに気付き口を閉じる。

雫は自分の目の前にあるもう一つの訓練場ー普段から陽和が好んで使う場所ーの前で火のネックレスを片手に握り、祈るように目を閉じていたのだ。

 

今の彼女の胸中がどんななのかが分からないほど香織は馬鹿ではない。特に、先程の話を聞いた後では尚更のこと。だから、香織は握られていない彼女の手を取ると、

 

「雫ちゃん、もっと強くなろうね」

 

そう力強く言った。

雫は目を開けるも香織に視線を向けることはなく、空へと視線を向けながら答える。

 

「えぇ、一緒に頑張りましょう」

「うん!」

 

香織は雫に満面の笑みをつけてそう頷く。

 

 

香織はハジメの為に。生存を信じいつか彼の元へと行く為に。

 

 

雫は陽和の為に。愛する人の隣に並び立ち、支える為に。

 

 

お互い惚れた男の為に強くなる事を決意して、その決意を胸に秘めて、二人は歩き出した。

 

 

 




はい、と言うわけで10話無事投稿できました。

今回は、陽和ではなく王都に残されたものたちの話になりましたね。
同時刻では陽和は大迷宮で絶賛ソロで驀進中です。

そして、雫。既に経験したからか、多分、原作よりもちょっと大人な感じになっていますねー。妖艶さというか何というか。とりあえず、今までの雫よりも大人っぽいのは確かだと思います。

とはいえ、雫と、恋仲になった以上は原作も4巻以降から大幅変更になりますよね。
氷雪洞窟まじでどうしよ。


感想と評価待ってまーす。



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