安定の三万字越えで草。
そして、今回は陽和が眠った後の話です。赤竜帝ドライグがどうなるのか、その力はどんなものなのか。それらが明らかになります!
そして、今回はオリキャラが出ますよー!どんな人物なのかは、是非読んで確認してください。
それはそうと、モンハンストーリーズ2がついに発売しましたな。私も、初日から早速やりこんでいますよ!!
とにかく最高!!最高すぎる!!
今は、とにかくレベル上げと虹卵を求めてバトルを挑みまくって、巣を漁りまくっています‼︎とにかく、虹色遺伝子が欲しい!!あとは、早く古龍の卵が欲しいです。
それと、機会があれば、共闘したりトーナメントでバトルしたいですねぇ。
彼女にとって、兄は英雄だった。
いつだって守ってくれたし、いつだって味方でいてくれた。
親が亡くなり、自分も辛いはずなのに、兄は小さかった妹の為に手を尽くして側にいてくれた。
背負われた時の大きな背中の温もりが、撫でられた時の大きな手の温もりが、少女は大好きだった。
いつか自分も兄と同じ冒険者になって兄と肩を並べられるほどに強くなって、次は守りたかった。
もう大丈夫だよと。もう泣くだけの私じゃないからと。兄を安心させたかった。
けれど、その願いは叶うことはなかった。
ある日、兄はある事を境に変わってしまった。
魔人族を愛していた彼は、いつしか神の為と言うようになり狂ったのだ。
口を開けば、神の為にと言う言葉を繰り返すようになり、自分にはそれがひどく恐ろしいものに見えた。
だから、少女は逃げ出した。
兄を、魔人族を止める力を得る為に彼女は国を飛び出した。逃げ出した彼女は、何度も追っ手の追撃を逃れながらひたすら駆けた。
今は変えることはできない。変えるだけの力が自分にはない。
それが分かっているからこそ、ひたすら走り続けた。
かつての同胞を愛し平和であった国を取り戻すために。
そして、いつの日か兄とまた笑い合える日が来ることを望んで。
▼△▼△▼△
「……………ッ」
『オルクス大迷宮』100階層『継承の間』。
その空間の中心にある台座の上で、大の字で寝ていた陽和は唐突に目を覚ました。
パチッと目を開きスッと身を起こすと胡座になって体をグググッと解した。
「……久々に、寝れたな」
台座の上で寝たために固まった体をほぐしながら、陽和は呑気にそんなことを考えていた。
いつもと変わらず硬い石床だったものの、周囲に魔物がいないことや赤竜帝の力を継承すると言う目的の一つを達成したこと、疲労が蓄積していたことから彼は、張り詰めていた緊張を無意識のうちに解いてしまい、熟睡していたのだ。
「しかし………」
体を解した陽和は自身の左腕を見る。
服が破れあらわになっている自分の左腕は、柔らかい肌色の皮膚に覆われた硬くしなやかな筋肉のある人間の腕ではなく、赤い鱗と甲殻に覆われたゴツゴツとした無機質ながらも生物的な感触もある熱が宿る竜の腕だったからだ。
まるで、籠手を嵌めていると思うような重厚な竜腕の甲の部分には、自分が嵌め込んだ翡翠色の宝玉がある。指も赤黒い鉤爪が生えており、簡単なものならば、容易く切り裂けそうなほどの切れ味を有しているのが見るだけでも分かった。
試しに手をグーパーと何度も開き握れば、籠手のような嵌めている感覚ではなく、生身の時と変わらない感覚が返ってきた。
「まじで竜の腕に変わったわけか……」
そう呟きながら、陽和は変わり果てた腕をコンコンと叩いたり、下側を見たりと色々していく。
「なんか戦隊モノで出てきそうな見た目だよな。それか、ガ◯ダムとか…それに……」
確かにこの腕はそういった見た目のものを連想させる。変身スーツとか、機械アニメのロボットの腕装備など、男なら心くすぐられる腕だ。
陽和はそんな事をしながら、短く呟くと鎧を脱いで服を捲り自身の胸元を見る。
ちょうど鳩尾あたりに、ハンドボールサイズの翡翠色の宝玉があったのだ。
どうやら、転生して肉体が作り変わるときに、生えてきたようだ。
「これだと…ウルト◯マンか、アイア◯マンか……」
あの某宇宙戦士や、某軍需企業の天才社長みたく、胸に生命維持的な装置を連想させる丸型の宝玉があった。
時間制限とか、あるのだろうか?
そんなことを呑気に考えていたとき、あることに気づいた。
「ドライグ?」
陽和は彼の名を呟きながら周囲を見渡し探す。いないのだ。どこを見渡しても、眠る前まで側にいた相棒の姿が。
「おい、ドライグ?ドライグッ‼︎」
陽和は血相を変えながら彼の名を叫び、周囲を何度も見渡す。眠る直前に聞こえた言葉を陽和ははっきりと覚えている。だからこそ目覚めた後近くにいて、何らかの方法をとるのではないかと思ったのだが、どういうわけかドライグの姿がどこにも見当たらない。
これからよろしく頼むと言われたはずだ。後で話をするといったはずだ。
だが、彼は宝玉を移植した後何が起こるかわからないともいった。それはつまり、自分があの後どうなるのかもわからないのではないだろうか。だとしたら、まさか………
「嘘、だろ……」
陽和は顔を青ざめる。これから共に戦うつもりだったからこそ、先程は話を後にさせて寝たのだ。なのに、消えてしまっては話しをすることもできない。
最悪の状況を想像して陽和の顔が悲痛なものに変わっていく。しかし、そんな彼に待ち望んだ声がかけられた。
『ここだ、相棒』
「ッッ⁉︎ドライグッ⁉︎」
陽和は声が聞こえた方向、自身の左腕を見る。見れば、甲の宝玉部分が点滅していたのだ。
それで、陽和はドライグがどこにいるのか気づいた。
「ドライグ。お前まさか、俺の中に宿っているのか?」
ハジメからその手の小説も勧められ読んでいた陽和は、自分にドライグが宿ったのだと理解したのだ。ドライグも静かに肯定した。
『そうだ、《赤竜帝の宝玉》を通して相棒の中に宿らせてもらった』
「そうか…そうか、ならいい」
陽和は深く安堵のため息を漏らすと、脱力する。相棒が消えていないことに心から安堵したのだ。
『心配をかけたようだ。もっと早く伝えられれば良かったんだがな……』
「いや、ドライグは悪くない。ただ、何かしていたのか?」
『ああ、相棒の肉体の調整を続けて、さっき終わったところだ。それでだ、相棒』
「どうした?」
『何か自分の肉体の状態を見れるようなものはないか?調整したから、それを踏まえて説明したいのだが……』
「ああ、それなら……」
そう言って、陽和はそばに置いてあったバックパックを手を伸ばしてとると、中をゴソゴソと漁りステータスプレートを取り出した。
「これなら、自分のステータスを見れるぞ」
『ほぉ、そんなものが今はあるのか。便利だな』
「昔はなかったのか?」
『ああ、そういったものは初めて見るな……まぁいい、とりあえずそれを見てみろ」
「おう」
そう短く応えて、陽和は朱色のステータスプレートを起動させる。一瞬淡く輝くと自身のステータスが表示される。
そこに目を落とせば………
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紅咲 陽和 17歳 男 レベル:1
天職:竜継士 職業:冒険者 ランク:金
筋力:6130
体力:6110
耐性:6090
敏捷:6110
魔力:6130
魔耐:6100
技能: 赤竜帝の魂[+倍加][+部分竜化]・全属性適正[+火属性効果上昇][+光属性効果上昇][+風属性効果上昇][+雷属性効果上昇][+発動速度上昇][+魔力消費減少][+高速詠唱][+持続時間上昇][+連続発動][+回復魔法効果上昇]・全属性耐性[+火属性効果上昇][+光属性効果上昇][+風属性効果上昇][+雷属性効果上昇][+火属性無効][+炎熱吸収]・物理耐性[+治癒力上昇][+衝撃緩和][+身体硬化]・複合魔法[+火属性効果上昇][+光属性効果上昇][+高速詠唱][+風属性効果上昇][+雷属性効果上昇][+持続時間上昇][+連続発動][+魔力消費減少]・剣術[+斬撃速度上昇][+抜刀速度上昇][+刺突速度上昇]・体術[+金剛身][+浸透頸][+身体強化][+闘気探知]・剛力[+重剛力]・縮地[+重縮地][+爆縮地][+震脚][+無拍子][+瞬動]・先読[+先読II]・高速魔力回復[+回復速度上昇][+魔素吸収]・気配感知[+特定感知][+範囲拡大][+特定感知Ⅱ][+範囲拡大Ⅱ]・魔力感知[+特定感知][+範囲拡大][+特定感知Ⅱ][+範囲拡大Ⅱ]・言語理解・竜炎・竜光・臨界突破・魔力操作・想像構成
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「………ちょっっと待て」
陽和は自身のステータスの変化に思わず待ったをかけてしまう。
『どうした?相棒。何か問題でもあるのか?』
「大ありだ、滅茶苦茶ステータス上がってんじゃねぇか。レベルもリセットされてるし」
頭を抱えながら彼は呻くようにドライグの言葉に応えた。確かに今までのステータスを鑑みてみれば、このステータスの上がり様は異常の一言に尽きる。
気になるものはあるが、技能数が増えているのはこの際百歩譲ってまぁいい。肝心な事は、レベルがリセットされたにもかかわらず、数値がエグいほどに上昇していることだ。全ステータス+5000はさすがに異常すぎる。
だが、陽和の思いに反して、ドライグはさもありなんというふうに平然と応えた。
『いや、俺の力を受け継いだのだから基礎的な能力は軒並み上がってても不思議ではないぞ。レベルの方は相棒が竜人として転生したからだ。それに、レベルがリセットしてもステータスは引き継がれた上に、更に上昇しているのだからいいではないか』
「まぁ……そうだけどな……」
陽和はドライグに一応の納得をみせる。ドライグは少し上機嫌になりながら、話を続ける。
『しかし、相棒のポテンシャルは素晴らしいな。レベル1でこれなのだ。成長すれば、もっと凄まじいことになるぞ』
「マジか?」
『ああ。むしろ、エヒトと戦うにはまだまだ足りないぐらいだ。だから、これから強くなってくれよ?相棒』
「………なるほど、流石はイカれてても神は神か。本物のバケモンだな」
陽和は『神』という存在の規格外さを思い知る。
ちなみに、勇者である光輝の成長限界が全ステータス1500前後であり、限界突破の技能で数値を3倍に上昇させることが出来るが、それでも今の陽和には届かない。
そして、一般的な人間族の成長限界が100〜200であり、天職持ちが300〜400、魔人族や亜人族は種族特性により、一部で300〜600辺りなのだから陽和のステータスはチートそのものなのだが、やはり神を相手にするならばこれでも足りないらしい。
それもそうだろう、仮にも陽和は超常的存在である『神』殺しを為そうとしている。だからこそ、生半可なステータスでは足りないのだ。
ドライグの言葉に陽和は納得した後、次の話題にうつる。
「話はわかった。なら、次は技能の話をしてくれないか?」
『無論だ。まず、“赤竜帝の魂”の派生技能の“倍化”だな。倍加は俺の能力の一つで、その名の通り、自身の力を倍にする能力だが、俺の力の場合は10秒ごとに倍加していく』
「10秒ごとにだと?」
陽和は思わず聞き返してしまった。
赤竜帝の力の一つである“倍加”単純に2倍するだけではなく、十秒ごとに2倍していくということのようだ。
だが、これは時間を稼げればかなり強力な力だ。なぜなら、単純に一分間倍加をかけ続ければ、単純計算で64倍に強化されるのだから。
『ただ、時間がかかるのと、キャパシティを超えた倍加はできないのが欠点だ。だからこそ、下地となる肉体を鍛えておく必要がある』
確かに時間をかけられれば凄まじい強化ができるが、裏を返せば短期決戦には向いていない。そして効果そのものは青天井だが、肉体のキャパシティを超えた強化はできないし、リバウンドも大きい。
ゆえに基礎能力を鍛えることで、一度の倍化でも十分に強くできるようにしておくべきなのだろう。それは陽和も同意だった。
『とはいえ、これは基本的に10秒ごとであって、感情的になったり、力を完全に解放できれば10秒待たずとも連続で発動できるがな』
「感情的になれば、力が上がるのか?」
『少し違うが、感情の爆発は竜の力と相性がいいからな』
「へぇ、そんなものなのか。あと、力を完全に解放ってのは?」
『そのままの意味だ。流石に転生したばかりだから仕方ないが、受け継いだとはいえ、相棒はまだ俺の力を完全に解放できていない』
陽和の零した疑問にドライグはそう応えて、続ける。
『ここで、もう一つの派生技能“部分竜化”にも繋がる話だが、相棒は竜人に転生したとはいえ、まだ部分的にしか肉体を竜化できない。
そして、部分的にしか竜化できない人間形態と完全に竜化できる竜形態とでは出せる力の出力が格段に違う。完全解放ができるようになれば、十秒ごとの倍加ではなくなり、自在に倍加できるだろう』
「てことは、俺はまだ未熟だから、お前の力を完全に扱えてないってことか」
『有り体に言えばそうだ。眠る前の自分の転生した姿。あれは覚えているか?』
「ああ」
陽和は眠る直前、天井を貫いた大出力のブレスを放った際の自身の姿を覚えている。
四肢は完全な竜の腕に変わり、胴体も半分以上が竜の肉体に変わっていた。しかし、あれでもまだ不完全だったようだ。
『初めてであそこまで変化できたことには驚いたが、アレでもまだ不完全な姿だ。そして、竜形態には人型と竜型の2種がある。体力、耐性、魔力や魔耐などは変化はないが、人型は小回りが効く分スピードが、竜型はパワーが増大することになる』
「確かにサイズを考えれば、そうなるか」
そこら辺は創作物と変わらないんだな、と陽和は1人納得した。
『俺の固有能力は他にもあるのだが、それは派生技能として目覚めてから話そう。竜化に関しては、力の完全解放ができるようになればできるはずだ』
「なら、地道に鍛えていくしかないか」
『そうだな。まぁそこら辺は安心しろ。俺がこれから相棒のサポートに回るから、何かわからないことがあれば、いくらでも聞いてくれ』
「ああ助かるよ。ドライグ」
『おう。なら早速、新たに目覚めた技能についても説明していこう」
そして話は次の話題へと切り替わり、ドライグは新たに目覚めた技能についても話していく。
『次は“竜炎”と“竜光”だな。これは火と光属性が大幅に強化されるものだ。これは常時発動型であり、魔力を消費、あるいは大気中の魔素を吸収して威力を高めることができる』
曰く、赤竜帝の炎はあらゆるもの全てを焼き尽くす破滅の炎であり、赤竜帝の光はあらゆるもの全てを絶望に染める凶兆の光であると、真実は違えど邪竜伝説にも記されてはいたからこそ、赤竜帝が火と光の竜であることは知っていたが為に陽和は火と光に補正がかかることは別に驚きはしなかった。
それに、先ほど赤竜帝の条件に火と光属性に類い稀な適性が求められているとも言っていたからだ。
『そして、次に魔力操作だが、これは魔力を直接操作する技能だな』
「魔力を直接操作できると何か変わるのか?」
『ああ、変わる。魔法発動の際に詠唱が不要になるんだ』
「マジかっ⁉︎」
陽和は目を見開き驚愕をあらわにする。
詠唱が不要。それはつまり、戦闘においては大きなアドバンテージになる。強力な魔法ほど長い詠唱を必要とする為、放つにはどうしても時間がかかってしまう。
だが、ドライグの話が正しければ、その長い工程を省略することができる。
『更に言うなれば、“想像構成”の技能は頭の中で魔法陣をイメージすることで、魔法陣が不要になる技能だ』
「嘘だろっ⁉︎」
陽和本日二度目の驚愕。
先ほど“魔力操作”の技能で詠唱が不要になり、だいぶ戦闘が楽になると思ったばかりなのに、まさかの魔法陣すらも不要な技能も会得していたのだ。
詠唱や魔法陣が必要ないということは、最上級などの超高火力の魔法ですらもノータイムで放てるということ。それは、今の世界にとっては、アドバンテージを通り越してもはやチートや反則としか言いようがないだろう。
『相棒の反応から察するに、今の世界では魔法陣や詠唱は必要みたいだな』
「そうだが、昔は違ったのか?」
『ああ、違ったな。俺の知る戦士達は魔法陣や詠唱は使わずに、技名だけ唱えていたな。いや、むしろ、それが当たり前だった』
ドライグが言うには、当時の解放者や教会の戦士達を含めた世界中の人間全員が、種族特性による差異はあれど、魔法陣や詠唱を使わずに魔法が使えていたらしく、現代では魔物しか持っていないと言う固有魔法も多くの者達が有していたらしい。
魔法陣や詠唱を使うにしても、それは初見の魔法を行使するぐらいだとか。しかし、今の世界では魔法陣や詠唱が必要不可欠。それが意味するところは、つまり………
「……まさか、解放者達のような存在が再び現れた時、そいつらにだけ魔法陣や詠唱を使わせることで戦闘での不利を押し付けようとした?」
『かもしれんな。だが、奴はそこまで計算高くはないだろう。狡猾ではあるものの、用心深いと言うわけではない。おそらく、自分が楽しむ為。それ以外にはないだろう』
「………マジでクソ野郎だな。エヒトってのは」
陽和はドライグから聞かされたエヒトの悪辣さにあからさまに嫌悪を浮かべ、そう吐き捨てた。
『ハハハ、奴が外道なのは今に始まったことじゃない。さて、話を戻そう。最後に“
俺と俺の力を継いだ者にしか発現しない超限定レア技能、とでも言ったところか。
これの効果は“限界突破”と同様に自身の力を強化させるものだが、限界突破が3倍なのに対して、こちらは5倍だ』
「……本当に滅茶苦茶だな。勇者が霞むぞ」
陽和は多少げんなりしながらそう呟く。
ただでさえ、今のステータスでも光輝が限界突破を使っても届かないと言うのに、5倍にできて仕舞えば、もはや勇者なんて足元にも及ばない程度の雑魚に成り下がってしまう程に雲泥の差がついてしまう。
勇者として息巻いている光輝が自分のステータスに驚愕する姿を想像すれば、優越感ではなく哀れと思うだろう。
『そう言えば、今代にも勇者はいるのだな。どう言う奴なんだ?』
「あり得ない正義を盲信して、現実を見ようともせず人の話を聞いて考えを改めることすらしない、自分の思う通りに世界が動くと勘違いしている勇者と呼ばれる価値などないクソ餓鬼」
『ず、随分はっきり言うんだな』
バッサリと切り捨てて、忌々しそうに唾棄する陽和にドライグは思わず驚く。
なぜなら、ドライグが知っている勇者は誰もが気高い志を持つ人格者であり、中には尊敬できるものすらいたのだから。
陽和はドライグの言葉にエヒトの話を聞いた時よりも、強い嫌悪を浮かべて吐き捨てる。
「当たり前だ。お前も一度見れば分かる。多分だが、お前が知る歴代の勇者達と比較するのも馬鹿らしいほどにな」
『………そうか。まぁ相棒が言うのなら、相当だな。しかし、だとしたら、今代の勇者は期待できないな』
「……その言い分だと、過去の勇者達はエヒトと戦っていたのか?」
『そうだ。元より、勇者は奴に対抗するための切り札の一つだ。だが、あらゆる伝承が歪められた今は、神の味方として知れ渡っているのだろうな』
「なるほどな。だとしたら、今代の勇者は諦めろ。ありゃ駄目だ」
まず間違いなく光輝は神の味方をする。というより、この世界の人間達がエヒトを神として崇め奉っている以上、光輝もそれに従うだろう。
大多数の意見を信じる彼だ。むしろ、神を打倒せんと動く自分達を異端として糾弾するだろう。その未来が容易く思い浮かばれる。
『一応、自分でも判断するつもりだが相棒の言葉を信じよう。さて、話は変わるが早速魔力の操作をしてみよう。先程から何か変わった感覚があるはずだ』
「言われてみれば、何かあるな」
確かにドライグの言う通り、目を覚ましてから何か違和感のようなものはずっとあった。
温かいような冷たいようななんともいえずに、それが何か溜まっているようにも感じる。
『その奇妙な感覚が魔力だ。
魔力操作が発現したから、体内の魔力をよりはっきりと知覚できるようになったのだ。よし、早速始めていこう。その魔力を操作してみろ』
「ああ」
体内で渦巻く魔力の感覚に、意識を集中させていく。やがて、魔力の感覚をはっきりと捉える。陽和が感じた魔力の感覚、それは炎にも似ていた。
『落ち着いて意識を集中させろ。自分が流しやすいイメージを作るんだ』
(イメージ………なら、俺は炎だな)
自分の中で最もイメージしやすいもの。それは幼い頃からずっと見てきた紅咲家が祀ってきた炎だ。陽和は自身のうちに炎を燃え上がらせるイメージを思い描いていく。
(まだ、足りない。もっとだ。もっと燃え上がらせろ)
陽和は更に意識を集中させて、魔力の炎を更に燃え上がらせていく。やがて、大きく燃え盛る感覚ができたと同時に、陽和は次の行程に移る。
(次は……この炎熱を全身に伝わらせていく)
炎の熱が全身に広がるように、その熱量を、魔力の猛りを維持させたまま全身の血管に張り巡らせるように、熱を全身に流し込んでいく。
『ほぉ……』
ドライグがその陽和の様子に思わず感嘆の声を上げるが、陽和はそれに気づかずに魔力操作を続けていく。
熱い感覚が全身に行き渡ったのを確認した陽和は、次に脳内で魔法陣のイメージを構築していく。
構築するのは、陽和が最も使い慣れている火属性魔法の一つ“スカーレット・アルマ”。
(構築完了…やってみるか)
陣を構築し終えた陽和はスッと立ち上がると、ドライグの言葉を、自分の技能を信じ魔法陣と詠唱なしで魔法名を唱える。
「“スカーレット・アルマ”」
『ッッ⁉︎』
刹那、陽和の全身からかつてないほどの熱光の火炎が爆ぜる。“スカーレット・アルマ”発動の証だ。
陽和は自身の四肢に宿る炎の感覚に静かに目を開き、己の肉体を見下ろす。
見れば、自分の四肢には激しく燃え盛る紅蓮の炎が宿っており、無陣無詠唱の魔法行使が可能になったことを示している。
更に言うならば、四肢に宿る紅蓮の炎は何もしていないのにその熱量を大幅に増しており、これが“竜炎”の技能の効果なのだろう。
「よし、出来た」
『見事だ。魔力操作を教えていたはずなのに、まさか魔法発動まで実践してのけるとはな』
満足げに頷く陽和にドライグが素直な賞賛を送った。事実、陽和の一を聞いて十どころか二十、三十を知る様は見事としか言いようがなかった。
「お前の教え方が良かったな、簡単にできた」
『ふっ、何を言う。お前の才能が素晴らしいのだ、飲み込みも早い。ここまで教え甲斐がないのは初めてだぞ?それに、今の魔法。相棒のオリジナルだな?』
「ああ、そうだ。ほかにもいくつかあるぞ」
『素晴らしい魔法だとしか言いようがないな、式もよく組み立てられている。さぞかし強力な魔法なのだろう。しかも見た限り燃費もいいな』
「だろ?作るのに結構苦労したんだ』
陽和はドライグなら賞賛に得意気に言った。自分が苦労して開発した魔法がこうして誰かに褒められるのは嬉しいものだ。
『ああ本当に見事だ。これほどに式が精密に組まれ尚且つここまで高威力のものは久しぶりに見た。これがまだ魔法を知ってから一ヶ月余りの少年が作ったとは思えんな。世界中の魔法使い達が嫉妬するだろう』
「ははは、そいつは悪いな。まぁ多めにみてくれよ」
ドライグの皮肉に陽和は笑いながらそう答える。実際にドライグの説明が良かったのもあるのだが、それ以上にドライグの言う通り、陽和の才能と飲み込みの速さが凄まじいのだ。
ここまでの人間はドライグといえど、そうそう会ったことはない。というより二人目だ、これほどの才能の塊に会うのは。しかし、彼が自分の後継者であることは僥倖だった。
「しっかし、せっかく考えた詠唱だったんだがなぁ……」
『何か問題があるのか?』
「いやな、魔法陣も詠唱も必要ないっていうからさ、せっかく考えたオリジナルの魔法の詠唱とか魔法陣とか、考えたからさぁ」
戦闘での利点を考えるならば魔法陣や詠唱が不要になることは大きい。それは理解してはいるが、その反面せっかく苦労して魔法陣と詠唱を考えたのにそれを言えないのは少し残念だったのだ。
陽和もまだ17の少年だ。その手のものに憧れるし、やってみたい気持ちはある。彼もまだまだ男の子なのだ。
残念そうにする陽和にドライグは応えた。
『その気持ちはあまりわからんが、魔法陣はイメージして構築すればいいし、詠唱は魔力消費を抑えたい時や余裕がある時に唱えればいいのではないか?そうすれば、無駄になることもないだろう』
「んー、まぁ、そうか。そうだよなぁ、そう考えればそれでいいかな」
『さっきから何をそんなに悩んでいるのだ?』
「男のロマンについて」
『そ、そうか……』
真顔で言い切った陽和にドライグは少し戸惑いながらもそう応えると、話題を切り替えた。
『まぁ、もう感覚も掴めただろうから、魔力操作と想像構成のレクチャーは終わりにしよう。何か質問はあるか?』
「いくつかな。まず、この腕は戻るのか?流石にこの腕のまま地上には出れないだろ」
陽和はそう言って自分の左腕を持ち上げる。
彼の言う通り、竜の腕へと変わったままだったら、地上へ出たとしてもかなり不便を強いられるはずだ。流石に義手とはとてもじゃないが言い切れない。
そんな陽和にドライグは安心しろ、と言う。
『今はまだ力を定着させるために部分竜化しているだけで、力が相棒に馴染み使いこなせるようになれば、変化は自在になる。今は慣れないだろうが、そこは慣れてくれ』
「戻るのなら、なんでもいいよ」
戻せることがわかった以上は、焦る必要はない。地道に慣らしていこう。そう判断した陽和はドライグにそう返した。
そして、陽和の視線はあるモノへと注がれる。
「なぁ、あの剣はなんだ?ただの剣ってわけじゃないだろ?」
視線の先にあるのは台座中央に置かれている紅蓮色の長剣だ。陽和が力を継承するときから、ずっと気になっていたモノだ。
自分でも分かるほどにただならない存在感を放っており、生半可な剣ではない最高級のアーティファクトの類のはずだ。
『ああ、あの剣か。ちょうどその話をしようと思っていたところだ』
ドライグはそう答えて、剣について話していく。
『その剣は俺の鱗や鉤爪をベースに解放者の主要メンバー達が心血を注ぎ、俺の全てを注ぎ込んだアーティファクトの剣———この世界に存在するもう一つの聖剣だ』
「ッッなるほど、どうりでこの存在感か」
陽和はドライグの説明に納得する。
確かにこれほどの存在感だ。聖剣に分類されてもおかしくない。しかも、光輝が使っている聖剣にも負けず劣らずの存在感だ。
『竜の聖剣ということで竜聖剣と呼称してはいるが、正式な名前はついていない。だから、相棒が名付けてくれないか?』
「俺に?」
思わず疑問を溢す陽和にドライグはどこか楽しそうに応えた。
『それは竜継士に、つまりは相棒に託された武器だ。ならば、その使い手たる相棒が名付けるのは至極当然のはずだ。それに、彼らにもその許可はもらっている』
「俺でいいのか?」
『ああ、構わない。あいつらだと色々と意見が食い違って時間がかかりすぎるからな』
彼が言うには、この剣を作ったものの全員が名付けようと躍起になりそれぞれ名前をつけていったのだが誰かが言えば、誰かが反発するを繰り返して中々決まらなかったので、痺れを切らしたドライグが後継者に名付けさせるということで、決着をつけたのだ。
「なぁ、解放者って結構愉快なメンバーだったりするか?」
ドライグの話を聞いて、もしかしたらそうなのではないかと思った陽和は思い切ってそう尋ねた。ドライグはそれに小さく笑うと、素直に肯定する。
『フッ、ああ、愉快な奴らだったぞ。どれだけ絶望的であっても誰もが未来に希望を持って、どれだけ苦しくても誰もが笑顔で進み、最後まで自分を貫き理不尽に足掻き続けた奴らだった。『これからの未来が自由な意思のもとにあらんことを』、その言葉を信条として彼らは戦った』
昔を懐かしむようにそう応えるドライグ。きっと、彼は今思いを馳せていることだろう。
脳裏には昔日の想いが、共に戦った仲間達の笑顔があるはずだ。その顔が分からずとも、声だけでそれを感じ取った陽和は左手の宝玉を優しく撫でる。
「そっか。なぁ、今度聞かせてくれよ。お前の仲間達のことを」
『ああ、相棒が構わないのならいくらでも話そう』
「約束だぞ」
ドライグとそんな約束を交わした陽和は徐に剣の元に近づく。
剣身の色は定かではないが、剣身の根元には翡翠色の宝玉が、鍔は黄金に、柄と鞘は炎を思わせる紅蓮色であり、鞘には炎を模した黄金の模様が刻まれている。鞘から抜かずともそれが、聖剣と呼ぶに相応しい至高の剣であることがわかる。
陽和はそれを前にして、静かに呟く。
「ドライグ。俺は大事な人達を守るために戦う」
『ああ』
「たとえ何かが起きようとも、俺は、何があっても雫を、家族を、俺が大事だと思う人達を何がなんでも守り抜く」
『ああ』
それは誓いの言葉。
赤竜帝として転生し、これより神に、世界に挑む英雄の決意と覚悟の証明。
この世界に来てからすぐに志した覚悟を彼は改めて魂に刻みつけるように紡ぐ。
「そして、お前達解放者の意志を受け継ぎ、俺は狂神エヒトを倒し世界を救う。俺はその為に力を受け継いだ」
陽和は剣に左手を伸ばし柄を握る。同時に、左手の宝玉と剣の宝玉が共鳴を始め強く輝き、剣もまた赤い光を帯び始める。
「俺の炎は、俺の力は、立ちはだかる者を打ち砕き、守るべき者を守り抜く為にあるものだ。だからこそ、この剣もまた傷つけるのではなく護るために使おう」
『名は…決まったんだな?』
「ああ決まった。この剣は護り火の剣だ。敵を焼き祓い、味方を照らし暖める希望の聖剣。その願いと俺の誓いを込めた剣だ。
故にその名に相応しい名を、俺は俺の世界の火の神々の一柱から借りよう」
『その名は?』
陽和が名を借りようとしている神は、ギリシャ神話において炉を司り悠久の聖火を宿す女神であり、炉を守り家や国家の中心に坐す聖火の守護神。その名は———
「ヘスティア。この剣の名は——竜聖剣・ヘスティアだ」
陽和はそう呟きながら、剣を鞘から抜き放ち掲げる。現れた剣身は刀よりも幾分か幅がある両刃の剣。
そして鞘同様、惚れ惚れするような炎の如き勇壮な紅蓮色に染まっており、宝玉を包むように黄金の炎の模様が描かれ、炎の尾が切先の方まで伸びている。
聖火の女神である『ヘスティア』の名に相応しい神秘的な剣だった。
『ヘスティア………異世界の火の神の名前か、いい名だ。気に入った』
どうやら、ドライグはヘスティアの名を気に入ったようで、満足げに呟いていた。
『名前は決まりだな。ならば、次はその剣に血を垂らしてみろ』
そしてドライグが新たな剣の名に満足した後、そんな事を言った。その内容には思わず陽和は首を傾げる。
「血?なんでだ?」
『その剣は生きていて相棒と共に成長するように作られているからだ。使い手が成長し、高みに至ればその武器もまたその使い手の強さに相応しくある為に強くなる』
「そんな武器が存在するのか……」
『ああ。だからこそ、剣に使い手が己である事を示す為に血を用いる必要がある。《赤竜帝の宝玉》と《赤竜帝の血》があって初めて、竜聖剣・ヘスティアは使い手と、竜継士との適合を果たすんだ』
「なるほどな……」
ドライグの言葉に納得した陽和は、早速刀身に自身の右手の人差し指を乗せるとグッと力を込めて指に切り込みを入れると、指の皮膚は容易く裂けて血が溢れ剣に染み込む。すると、帯びていた紅蓮と翡翠の輝きが一層強く輝くき、それと同時に自分の中で何かが繋がる感覚を得た。そして、その輝きは一瞬で収まり剣は輝きを失う。
だが、篝火に刀身を輝かせるヘスティアは先程とは何か違い、力が漲っているようにも見えた。
『適合は完了した。これで竜聖剣・ヘスティアは名実ともにお前の相棒となった』
「みたいだな」
陽和はヘスティアを鞘にしまうと、剣帯を工夫して左腰に元々提げていた剣に重ねるように身につけた。
『一応全て話し終えたな。さて、これからどうする?相棒』
「……そうだなぁ、とりあえずここで得られる神代魔法を探すつもりだが、何処かあてはあるか?この階層を探したんだが、それらしい魔法陣が一つだけあった。あそこであってるのか?」
これからの予定を聞かれた陽和は少し思考に耽ると先程ドライグに言われた事を思い出しながら、思い切ってそう尋ねた。
『……………その件だが、今の相棒にとってはいい知らせか悪い知らせになるかはわからんが一応伝えるべきことがある』
「それは?」
『………………』
ドライグは陽和の問いかけにすぐには応えずに、少し長めの沈黙の後やがてこの大迷宮の真実の一つを告げた。
『このオルクス大迷宮は100階層ではない。200階層あり、ここはまだ半分に過ぎない』
「……………はっ?」
陽和はかつてないほどの驚愕に瞳を見開き、小さな動揺の声を漏らす。
『相棒が見つけた魔法陣はおそらくは、下の101階層。つまり、奈落一階層へと転移させるものだろう。神代魔法ーこの大迷宮では生成魔法だが、それは最終階層で得ることができる』
「……嘘だろっ……おいっ」
陽和は衝撃的な事実に苦虫を噛み潰したような表情を浮かべて、忌々しげに呟いた。
『まさか、それすらも伝えられていないほどに時が経ったのか。いや、100階層にも到達できるものが長い間現れなかったから、次第に失伝したのだろう』
「だとしても、失伝しちゃダメな奴だろっ」
ドライグの言葉に陽和はそう恨み言を吐き捨てる。100階層だと思えば、200階層でしたなんて、笑えない話だ。
呻く陽和にドライグは更に告げる。
『一度魔法陣で転移して仕舞えばもう戻れない。だから、退くならば此処が最後だ。此処から脱出し監視の目を逃れながら、他の大迷宮を攻略していき、最後に此処に再び挑戦する。それでもいいと思う。
だが、相棒。これは気休めにもならないが、一ついいだろうか?』
「なんだ?」
『相棒はここには俺の力の継承と親友を助けるためと言っていたな。そして、ここまで親友の痕跡は一つも無かった。そうだろ?』
「だから、それがどうしっ……っ、ちょっと待てっ。まさかっ……」
陽和はドライグに僅かに苛立ちを覚えながらそう不機嫌そうに返すものの、次第にドライグが言っていた意味に気づき始める。
ドライグはその気づきを肯定した。
『そうだ。本当に気休めにもならないが、まだ100階層あるということは裏を返せばその何処かに親友の痕跡があるかもしれないということだ』
つまり、今までは見つからなかったがここから下の階層にはまだ痕跡が残っている可能性があるということなのだ。
陽和の中で既に途絶えていた希望の火に再び火がついた。
『可能性は限りなく低いし、気休めにもならないが、まだ可能性がゼロではない以上は諦めずに捜索を続けるのもいいだろう。どうする?相棒』
どうするかなど、そんなこと決まりきっていることだ。陽和は口の端に笑みを浮かべながら力強く応える。
「進むさ。進むに決まってる。此処まで来たというのもある。だが、それ以上にお前の言った通りなら、俺はまだ諦めたくない。本当に最後の階層に辿り着くまで俺は探し続ける」
『承知した。ならば、俺もどこまでも相棒と共に行こう。我が身は既に相棒と一心同体。相棒の道こそ、俺がこれから進むべき道だ』
「よし」
陽和は脱ぎ捨ててあった鎧を身につけ直すと、バックパックを肩にかけて歩き始め、台座を降りると出入り口の通路へと向かう。
「早速行こう。時間が惜しいからな。改めて、これからよろしく頼むぞ。ドライグ」
『ああ、俺もだ。改めてよろしく頼む。相棒』
陽和とドライグはそう言葉を交わした。
こうして、地の底で赤竜帝とその後継者たる竜継士は長い年月を経てついに出会った。
▼△▼△▼△
「そういえば、良かったのか?」
『何がだ?』
『継承の間』を出て、両脇を炎が照らす暗い通路を歩いている陽和は、ふとそんなことを尋ねる。突然の質問に内容がわからなかったドライグはただそう返した。
「いやな、お前の遺骨。あの場に放ったらかしにしたままでよかったのかなって。ちゃんと埋めた方がいいだろ?」
陽和はドライグの遺骨をあの場に置き去りにした事に多少思うところがあった。
本人、いや本竜というべきなのだろうか。彼は魂だけとなって自分に宿り生きながらえているが、やはり遺骨は陽の光に当たる場所においた方がいいのではないかと思ったのだ。
だが、そんな気を遣う陽和にドライグは一拍置いて高らかに笑ってみせた。
『ハハハハハハハ‼︎‼︎なんだ、そんなことか。アレは気にしなくていい。もはやただの抜け殻だ』
「だが、お前の骨だろう?ちゃんと埋めてやるべきだと思うんだが……」
魂のみで生きながらえているとはいえ、やはり遺骨はちゃんと埋葬しておきたかった陽和はなおもそう言い淀む。しかし、ドライグは気遣い無用とやんわりと断る。
『大丈夫だ。それに今は埋葬なんてやってる暇はない。全てが終わった時、埋葬してくれるのならばそれでいいさ』
「そうか。お前がそういうのなら。そうしよう」
全てが終われば堂々と骨を埋めることができる。そういう意味も含めて、ドライグはそう言って、陽和を納得させた。
『だが、気を遣ってくれてありがとう』
「相棒なんだから当然だろ」
礼を言うドライグに陽和は平然とそう応えた。相棒だからこそ、魂は今ともにあれど、残った遺骨はしっかりと弔いをしてやりたかったのだ。
『相棒は本当に優しい奴だな。その気持ちだけ、ありがたく受け取っておこう』
「ああ」
(ああ本当に。お前のような男が、俺の力を受け継いでくれて良かった)
ドライグは改めて思った。
彼のような心優しい人間が、自分の後継者で良かったと。彼ならば、決して悪しきことには使わないと人柄を見て判断できた。
その後も、いくつか話をしながら通路を戻っていき、やがて魔法陣が刻まれていた扉のある場所まで辿り着いた。
陽和は此処に入った時と同じように左手の甲を扉にかざす。すると、再び魔法陣が輝き扉が音を立てながら開いていく。
扉が完全に開けば、目の前には小さな広間があった。
「此処まで戻ってきたか」
『相棒、転移魔法陣のある場所は覚えているか?』
「ああ、一応頭に入れてある」
陽和は100階層のマッピングも既に脳内で構築し終えているので、ここから転移魔法陣がある広間までの道も把握していた。
『なら良い。早速向かおう』
「おう」
そう言って扉を通り抜けて、扉が閉じる音を聞きながら、広間の中央まで歩いた時だ。
『「ッ⁉︎」』
陽和は咄嗟にヘスティアの柄を握り腰を低く落として身構えたのだ。彼は真剣な表情を浮かべ、広間の入り口の通路の奥をじっと見据えていた。
『……相棒、気をつけろ』
「分かってる」
陽和もドライグに言われずとも分かっていた。
この通路の先から明らかにこの階層には場違いな強い気配を放つ存在が近づいてくるのを感じ取った。耳をすませば、荒い息遣いと不規則的な足音も微かに聞こえてくる。
殺気や闘気などの特定の気配を感知する技能“闘気探知”や“魔力探知”“気配感知”にもバッチリ反応している。
しかし、感じ取った気配は奇妙なものだった。
(人の気配と魔物の気配が混ざっているな。何者だ?)
『分からん。だが、並大抵の強さではないのは確かだぞ』
人と魔物が混ざり合ったような人のようであり、人ならざる者でもある曖昧な気配に陽和は身構える。ドライグの言う通り、今感じてる存在は、100階層の魔物よりも遥かに強いことが明らかだった。
やがて、しばらく身構え続けると、通路の奥から足音を鳴らしてその存在がついに姿を表した。
ソレは一言で言えば———少女だった。
「……女…?」
陽和は思わずそう呟く。
陽和の眼前に現れたのは一人の少女だった。歳の頃は自分と同じぐらい、浅黒い肌に、白銀の長い髪、そしてピッタリと張り付くタイプのボディスーツを着ているが、所々裂けておりそこからは生々しい傷口が覗き、血が溢れている。
見るからに、此処まで激闘を繰り広げ消耗しているように見えるが、陽和は別のことに気を取られていた。
「……狼人族」
彼女は顔の横にではなく、頭部上部からピンと狼の耳が生えて、腰からも白銀の尻尾が、四肢は白銀の体毛に覆われており鋭い鉤爪も生えている。その特徴的な姿から、陽和は亜人族の一つ、狼の特徴を有する狼人族と判断したのだ。
(だいぶ弱ってるな……)
彼女は此処まで陽和と同じように戦い続けていて、消耗しきっているようにも見える。
『相棒、どうするつもりだ?』
(少し様子を見よう。彼女に戦う意思がないなら、話してみる)
『では、戦うことになったら?』
(それは仕方ない。一度気絶させる)
陽和はドライグと相談し、この後の方針を決めながらヘスティアからそっと手を離し、彼女の動きに構える。
そして、彼女が広間の入り口にたどり着いたとき、漸く陽和の存在を認識した。
彼女は陽和を視界に捉えると、目を見開き明らかに狼狽える。
「なっ、そんなっ、待ち伏せっ⁉︎」
(待ち伏せ?)
彼女の言葉に疑問を覚える。その後も、彼女は焦りや怒り混じりに呟く。
「くそ、追っ手は撒いたはずなのに、まさかここまで来るなんてっ‼︎」
追っ手を撒いた、待ち伏せ、と言うことは誰かから逃げてきたのだろうか?だということは、狼人族と言うのもあるし、まさか奴隷で逃げ出してきて追っ手から逃れるためにオルクス大迷宮に入った?
しかし、ソレでも疑問は残る。
(だが、だとすると、なぜ此処まで来れる?)
こう言ってはなんだが、奴隷になる程度の存在がこのオルクス大迷宮の表向きの最終階層にたどり着けるほどの実力を持っているとは到底思えない。もし、持ってたとしても奴隷になるはずがない。どんな追っ手も真正面から叩き潰せるはずだ。
それに、彼女からは本来亜人族が持ち得ないはずの魔力を感じる。陽和の記憶が正しければ、亜人族は魔力を持たぬ種族のはず。
(今のままじゃ分からないな。情報が少なすぎる。もう少し分析『相棒ッッ‼︎‼︎』ッッ⁉︎)
彼女の動きに注視しながらも思考する陽和だったが、直後その思考はドライグの叫び声によって強制的に途切れる。
なぜなら、彼女が地面を蹴り砕きながら一っ飛びで陽和の眼前に迫り鉤爪を振りかざしてきていたからだ。
「ッッ⁉︎」
陽和は咄嗟に身を屈めて爪撃を避ける。
鋭い風切り音を立てて頭上を通り過ぎる爪撃に陽和は内心ひやりとした。
自身が予想していたよりもかなり素早い一撃が、彼女が間違いなく想定を上回る強敵だと言うことを示していたのだ。
「っぶね。いきなりかよっ‼︎」
「黙れっ‼︎貴様も
陽和の言葉に反応した彼女がどこかずれた発言をしているが、彼女の鬼気迫る様子に今現在、そうせざるを得ない事情を抱えていて焦燥に満ちているから出た言葉なのだろうと理解する。
「私の、邪魔をするなぁッッ‼︎‼︎」
「ぐぅっ⁉︎」
彼女は叫びながら、右脚を振り上げて一気に振り下ろす。悪寒を感じた陽和は咄嗟に“金剛身”と“重剛力”“身体強化”“身体硬化”“衝撃緩和”の防御系と強化系技能を同時発動して、両腕をクロスして受け止めるが、脚撃の重さに目を見開く。
(何だこの重さはっ⁉︎こっちも強化されてんだぞっ⁉︎)
強化されたステータスですら重いと感じるほどの一撃。単純なステータスならば、全てが6000オーバーの自分を超えていると確信できてしまうほどだ。現に、あまりの重さに複数技能を同時発動して受け止めたにも関わらず、それでも受け切れずに足元の地面は衝撃が伝播してひび割れている。
その後も、彼女は鉤爪、拳、脚を織り交ぜた乱撃を放ってくる。それを時に迎え撃ち、時に捌き、時に防ぎ、時に受け流していく。
戟音が鳴り響き、衝撃が一撃一撃のたびに辺りに放たれる。
幸いにも、殺気や敵意などの闘気を自動的に感知する“闘気探知”のおかげでどこに攻撃が来るかは分かりやすかったため、対処はしやすかったが、それでも一撃一撃が重かった。
「〜〜ッッ、くそっ‼︎」
攻撃が全てまともに当たらないことに苛立ちを滲ませる彼女だったが、陽和もまた苛立ちを滲ませていた。
(本当に何なんだ⁉︎この女はっ)
彼女の正体が全く分からずに、苛立つ陽和にドライグが声をかけてくる。
『相棒‼︎どうする気だ⁉︎』
(とにかく気絶させる‼︎このままじゃ埒があかない‼︎単純な力比べなら負ける‼︎倍加もぶっつけ本番だが使うぞ‼︎サポートは任せた‼︎)
『承知した‼︎』
「“部分竜化”ッ‼︎」
ドライグの了解を得たと同時に、陽和は瞬時に“部分竜化”の技能を叫び、右腕と両足を左腕と同じように竜化していく。
「竜の肉体ッ⁉︎まさか、貴様もかっ⁉︎」
ビキビキと音を立てて変化した四肢に、彼女は目を見開きそんなことを叫ぶ。陽和にはその意味がわからなかったが、動揺した一瞬を見逃さない。
『Boost‼︎』
左手甲の宝玉から突如音声が響いた直後、陽和は力が湧き上がってくるのを感じた。
これが“倍加”の力なのだろう。音声が少しばかり気にはなるが、今はまあソレは置いておこう。
陽和は膨れ上がる力のまま、左腕にのみ“スカーレット・アルマ”の炎を宿し一気にソレを振りかぶった。
「“火華”ッッ‼︎」
「ぁ、づぁっ⁉︎」
燃え盛る火炎の熱量に青ざめた彼女は咄嗟に腕をクロスさせて防ごうとするも、インパクトの瞬間緋炎が勢いよく爆ぜて、防御の甲斐なく彼女は爆焔に呑まれ吹き飛ばされる。
“竜炎”により火力を増した炎は容易く彼女を遠くまで吹き飛ばす。少しののちに、壁に激突するような音が爆煙の向こうから聞こえてきた。だが、
『相棒』
「ああ、まだ終わってない」
相棒の言葉に、陽和は全てを言われずとも理解していた。
今の一撃、確かに吹き飛ばせはしたものの、直撃してはおらず
そして、爆煙が薄れて向こうの様子が見えようとした瞬間、魔力が膨れ上がるのを感じた。
『来るぞっ‼︎‼︎』
「ッッ」
「———“
魔法名が紡がれた直後、爆煙を突き破り膨大な紫色の氷が陽和に襲いかかる。
「ッッ‼︎“スカーレット・アルマ”ッッ‼︎‼︎‼︎」
全てを凍てつくさんと視界いっぱいに広がり、雪崩の如く迫る紫氷の濁流に陽和は熱光の鎧を解き放ち、緋炎で迎え撃つ。
緋色の火炎と紫色の氷結が激突する。
轟音を伴い、熱気と冷気が激突しあたりが水蒸気の白霧に包まれる。
そして、白霧が収まり陽和の周囲が炎が燃え盛り、少女の周囲が氷に包まれる中、氷を踏み鳴らしながら彼女は姿を表す。
現れた彼女は全身に紫氷を鎧のように纏っていた。その様はまさしく氷の狼と思わせるようなものだった。
それを見て、先程の絡繰を陽和は完全に理解する。
「氷の固有魔法か」
『そのようだ。先の攻撃も、氷を盾にして防がれていたな』
そう。先程の一撃は彼女がインパクトの瞬間に間一髪、肉体を氷で覆うことで炎を緩和したのだ。
『Boost‼︎』
ここで二度目の倍加の音声が鳴り、陽和の力がさらに倍増する。
彼女は兜から覗く琥珀色の眼光を陽和に向けると、より鋭くし殺気が篭った声音で口を開く。
「炎の竜の力を移植された者か。ステータスは私とほぼ同等で、戦い慣れている。私との相性は最悪だな。……くそっ、奴め。私の対策の為にこんな切り札を作っていたのか」
(さっきから何を言ってるんだ?)
彼女は忌々しげにそう吐き捨てる。
力を移植。奴。対策。幾つか気になる単語が出てきたが、それでも陽和にはまだ分からなかった。
『………いや、待て。まさか、奴は……』
(ドライグ?何か分かったのか?)
その時、ドライグが何かに気づいたように呟いた。陽和はすかさず心の内で尋ねた。
ドライグは多少戸惑いながら答える。
『いや、あの女の正体だが、狼人族ではないように思える』
(なに?狼の特徴があるのにか?)
『そうだが、一つ例外がある。それは—「ガアッ‼︎」ッッ』
そして、ドライグがそれを告げようとした時、彼女が獣のような声をあげて再び襲いかかってきたのだ。
今度は両腕を合わして巨大な氷槌を作ると一気にそれを振り下ろしてきた。陽和は炎を爆発させながら、一気に距離を取る。
地面が容易く撃砕されるのを見ながら、陽和は空中でさらに爆破させて更に離れる。
『話は後だ‼︎今は戦闘に集中しよう‼︎』
「ああ‼︎“火華”ッ‼︎」
着地と同時に、陽和は両脚の炎を爆発させて彼女に迫る。
「ラァっ‼︎」
「ッッ⁉︎」
彼女は凄まじい速度で迫るそれを捉えると、両腕を振るい、あろうことか氷槌をこちらに投擲してきたのだ。
だが、陽和は回転しながら迫る氷槌に一瞬驚いただけですぐに落ち着き右手を前に突き出し、叫ぶ。
「“ファイア・ボルト”ォォッ‼︎」
「何っ⁉︎」
紫の氷槌は容易く紅緋の炎雷に打ち砕かれる。
しかも、それだけで終わらず氷槌を砕いた炎雷がそのまま彼女へと襲いかかった。
「くっ‼︎」
彼女はそれを間一髪避ける。直後、炎雷が彼女が先程までいた地面を、轟音を立てて容易く爆砕する。
避けたにも関わらず、彼女はその爆風だけで吹き飛ばされて地面を転がった。しかし、彼女はすぐに立ち上がり、獣のように四つん這いになりながら陽和を睨む。陽和もまた彼女を見据える。
『Boost‼︎』
「ッッ⁉︎」
しばらく睨み合いの硬直が続いた時、響いた三度目の倍加。流れ込む力が更に増大する。これで実質彼の力は8倍に跳ね上がった。
「ッッ‼︎」
彼女はそのオーラの増大を感じ取ったのか目を見開き、警戒心をあらわにしながらも、その音声を合図に全身から紫色の魔力を迸らせると陽和に直接突っ込むことはせずに周囲の壁に飛び移り、壁から壁へと次々と移動していく。
あまりの速度に陽和ですらはっきりとした視認は難しく、紫の影が動いているようにしか見えないほどだ。影が動くたびに、壁の一部は砕け、段々とその砕かれ具合は大きくなっていた。力が蓄積されていっているのだ。
(速いな。決めに来たか)
『始めから消耗していたように見えたからな。次で最後だ』
(応‼︎)
陽和は腰を低く落として、左手を強く握りしめて後ろに引き絞りながら、静かに力と炎を溜めていく。左腕の炎だけが更に激しく燃え上がりながら、二回り太い腕の形へと集束されていく。
やがて、反撃の構えがほぼ整ったと同時に、彼女もまた壁を最後に強く蹴り陽和へと迫りながら、右腕の氷を肥大化して巨大な鉤爪へと変え、陽和を切り裂かんと振りかざした。
「ハァッ‼︎」
「オラァッ‼︎」
氷の鉤爪と炎の拳が激突し、周囲に凄まじい衝撃を放つ。冷気と熱気の相反する物が激突したことで周囲には氷炎が荒れ狂う。
そして、暫くの拮抗の後、突如。
『Boost‼︎』『Explosion‼︎‼︎‼︎‼︎』
同じ音声とその直後にもう一つ、今までの音声とは違う音声が響き、左手の宝玉が一層光り輝き陽和の肉体に力が流れ込んで来た。
陽和は流れ込んでくる力の猛りのまま吼える。
「“
「ッッ⁉︎⁉︎」
刹那、左腕の火炎がかつてないほどに勢いよく爆ぜて、彼女の氷の巨爪を粉々に爆砕した。
「なっ、ガッ⁉︎」
爆砕の余波で氷の鎧すらも粉々に砕かれた彼女は、砕かれた勢いそのままに壁へと強く叩きつけられる。
「カッ、は……うっ……」
壁を砕くほどの勢いで叩きつけられた彼女は、小さく肺の中の空気を吐き出すと、気を失いズルズルと崩れ落ちた。
意識を失ったのを確認した陽和は構を解き、炎も消す。
『Reset』
「うおっ…」
そんな音声が響くと同時に、陽和の全身からは力が抜けてガクンッとよろめいてしまう。
『倍加の反動だな。今の相棒は少し休めたとはいえ、まだ回復しきっていない状態だ。無茶をしたわけではないが、4回程度でも消耗はする』
「なるほど。一度使ったから、倍加の感覚はよくわかった。それで、彼女は?」
陽和は斃れ伏す彼女の方へと視線を向けながら近づく。遠目から見れば、ピクリとも動かないように見えるが、少し近づけば胸元が上下しており、しっかりと呼吸をしていることがわかる。陽和は彼女が無事生きていることを確認すると、安堵の息をついた。
そこで陽和は思い出し、ドライグに尋ねた。
「そういえば、さっき彼女の正体に気づいたみたいだが、狼人族じゃなかったら何なんだ?」
『ああ、そのことか。話したいところだが、ちょうど彼女が教えてくれるようだぞ?』
「それはどういう……」
そう疑問に思いながらも視線を向ける陽和の前で予想外のことが起きた。
「なっ」
なんと、彼女の四肢の体毛が消えていき、すらりとした浅黒い素肌が露わになったのだ。
しかも、腰から生えていた見るからにふさふさな尻尾も短くなり、やがて消える。
頭部に生えていた耳も変えて、代わりに長い髪の隙間から尖った耳が生えてきたのだ。
尖った耳や浅黒い肌。その特徴を持つ種族は陽和は一つしか知らない。その種族は——
「魔人族、だと?」
驚くべきことに、狼人族だと思っていた少女は、魔人族だったようだ。
陽和は思わずドライグに叫ぶ。
「ドライグ‼︎どういうことだ⁉︎」
『変成魔法だろうな。変成魔法によって彼女は、氷の狼の力を宿す魔人になったようだ』
「変成魔法。確か、神代魔法の1つだったな。どんな魔法なんだ?」
『簡単にいえば、生物を作り替える魔法だ。ただの生物の体内に擬似的な魔石を作ることで魔物に作り替えたり、魔物を従魔にすることで従えたり、強化することが出来る。
そして彼女もまた同じだ。先程、相棒に向けて炎の竜の力を移植された、と言っていた。つまり……』
「人体改造かっ‼︎」
陽和もドライグが言わんとしていることに気づく。つまるところ、彼女は魔人族であり、どこかで変成魔法の実験体にされ、この力を移植された後、どこかの施設から脱出しオルクス大迷宮に潜ったと言ったところだろうか。
そして、偶然遭遇した陽和を敵の追っ手だと誤解してしまい戦闘に突入。しかも、陽和が途中で部分竜化を使ってしまったせいでその勘違いに拍車がかかったのだろう。
ドライグはその考えを肯定する。
『真意は分からんが、大まかな事情はそれで合ってるだろう。とはいえ、彼女自身から話を聞くに越したことはないな。とりあえず、回復させよう』
「そうだな」
そう応えると陽和は遠くに置いてあったバックパックを背負うと彼女に近づき、膝裏と肩に腕を回して、自然な動作で横抱きに抱える。いわゆるお姫様抱っこというやつだ。
「とりあえず、元の広間に運ぶか」
『先程の『継承の間』は使わないのか?』
「今からあそこに戻るのもな。割と離れてただろ?歩いてる時に目覚めて暴れられても困るし、早く寝かして回復させたほうがいい」
『それもそうだな。なら、入り口はちゃんと塞いでおけ。いつ魔物が入ってくるかわからん。もっとも、今の相棒ならいくら集まろうと相手にならんだろうがな』
「ああ」
そんなことを話しながら、少女を抱えた陽和は元々いた広間へと戻ってくる。そして、広間へと足を踏み入れたと同時に、彼は魔法陣を脳内で構築すると足裏から錬成魔法を発動する。
「“錬成”」
たった一言で錬成魔法は発動し、通路に繋がる入り口の地面が盛り上がり、完全に塞ぐ。
これで魔物が近づいても、すぐに対処できるようになった。
「寝袋を枕にして、と」
入り口を塞いだ陽和は彼女を一度下ろして寝かせるとバックパックから、寝袋を取り出して小さく丸めるとそれを彼女の頭の下に置いて、枕代わりにする。
そして、彼女を寝かせた時、眠る彼女の表情が歪んだのを見た。
彼女は悲しげな表情を浮かべると、今にも泣きそうな声で魘されるように呟いた。
「うっ…ぅぅ…にい、さん……どう、して……」
(……兄さん、か…)
陽和は彼女の言葉に思わず手を止めてしまう。
『相棒?どうした?』
「いや、つい家族のことを、妹や弟たちのことを思い出してな」
兄と聞いて、陽和は家族のことを思い浮かべた。
今頃、あの子達はどうしてるだろうか?
きっと泣いてるはずだ。きっと悲しんでるはずだ。自分が辛いように、きっとあの子たちも自分と同じくらい、いや自分以上に辛いはずだ。
「きっと、あの子達は寂しがってるはずなんだ。だから、兄貴の俺が早く帰って安心させねぇと」
『……そうか。そうだな。下の子を守るのは、上の子、兄や姉の仕事だからな。ならば、勝って帰るしかないな」
「当然だ」
そう応えると、陽和は彼女の額に手をかざして回復魔法を発動する。
「“ヒール・ブレス”」
暖かい朱色の魔力光が陽和の掌から溢れて彼女を優しく包み込む。
淡い朱光が彼女の全身を包み、傷だけでなく枯渇しているであろう魔力をも癒していく。
『ほぉ、回復魔法までオリジナルか』
ドライグがその回復魔法の治癒の高さに感心する中、治癒は完了した。
魘されていた彼女は規則的な呼吸をし、少し穏やかな表情を浮かべていた。
「これでいいか」
治癒が完了した陽和は、彼女から距離を取ると自分と彼女の間て魔法で火種を作り焚き火を起こす。
「彼女が目覚めるまで気長に待つとしよう』
『そうだな。相棒もまだ消耗している。今は回復に専念しろ』
「ああ。…と、そうだ。それはそうと、さっきの音声はなんだったんだ?」
陽和は思い出したように彼に尋ねる。
戦闘が終わってから、どうしてもそれが聞きたかったのだ。
戦闘中に左手の宝玉からたびたび聞こえてきた、『Boost』『Explosion』『Reset』の音声。
どこぞのライダー装備みたいな物だったが、これが倍加に関係していることはわかった。
意味もなんとなく推測はできるが、一応ドライグに尋ねてみた。ドライグは少し困ったような、けれど楽しそうな声音で応える。
『《赤竜帝の宝玉》につけられた機能の一つだな。アレは俺の魂を封じ込める他に、移植した際に相棒の戦闘を音声でサポートする機能があるアーティファクトだ。
始めは入れるつもりはなかったのだが、ミレディとオスカーがなぜかノリノリになってしまってな、更には他の者達も悪乗りした結果加えられた音声機能だ』
「なるほどなぁ。そういうことか。それで、名前が出てきた二人は話から察するに解放者の中心メンバーか?」
『ああ。解放者のリーダーにして、天才魔法使いミレディ・ライセン。そして、稀代の錬成師オスカー・オルクスだ。全く、あいつらときたら……』
ドライグは呆れながらも思い出すように懐かしそうに笑いを浮かべる。なんだかんだ言って、彼らとの日々はドライグにとっても楽しかったのだろう。それがはっきりと伝わってきた。
『まぁそれは置いといてだ。とにかく、相棒も薄々勘づいているだろうが、『Boost』は倍加。これは何回倍加できたかわかるようにしてある。『Explosion』は倍加をストップし、一時的にその強化状態を維持するもの。そして、『Reset』は文字通り強化をリセットするものだ』
「感覚からして、そうだとは思ってたが、まぁ分かりやすいな」
音声は少しばかり気恥ずかしさはあるものの、戦闘において何回倍加したかなどがわかるのは正直言ってありがたかった。
それに、音声が出るような装備は、少しばかり少年心がくすぐられる。ハジメが聞いたら興奮しそうだ。
と、そんな時だ。焚き火を起こしながら談笑していた陽和達の前で、今まで眠っていた彼女が目を覚ました。
「んっ……ここ、は?……確か、私、は……」
▼△▼△▼△
「んっ……ここ、は?……確か、私、は……」
小さな呻き声を上げながら、ゆっくりと上体を起こした彼女は周囲を見渡す。
「お、目を覚ましたか」
焚き火の向こうにいる陽和の姿を視界に収めると一気に警戒心を露わにした。
「なっ‼︎貴様は、さっきのっ‼︎」
彼女は一気に飛び退いて陽和から距離を取り、四つん這いになると、陽和を鋭い眼光で睨め付ける。陽和はそれに対して、短くため息をついた。
「まぁ気持ちはわかるが、俺はお前の敵じゃないから、落ち着いてくれ」
「そんなことを言って信じるわけがないだろう」
「それは正論だが、もし仮にお前の敵だったとして、こんな呑気に構えてると思うか?拘束するとか、それなりの手段は取ってるはずだぞ。仮にもいきなり戦った相手なんだからな」
「た、確かにそうだが……」
陽和の言葉に一応納得するが、それでもやはり信じきれていないのか、いまだに疑惑の視線を陽和に向けていた。
陽和は先程まで殺し合っていたから信じれないのも分かるが、信じてもらわないと話が進まないため、彼女からの信用を得るためにどうにかして話を進めようとする。
「まぁ、疑うのは当然だけど……それよりも、傷の具合はどうだ?まだ痛むところはないか?」
「何を、言って……っ?どういうことだ?体が、軽い。それに、傷もないっ」
彼女は陽和の問いかけに一瞬疑問を浮かべるも、体がここに来る前よりも遥かに軽く、傷も一つも見当たらないことに驚愕した。
「結構ボロボロだったし、俺も俺で手加減できなくて、やりすぎちゃったからな。一応、治癒しておいた」
「そ、そうか。それは、ありがたいが……貴様、本当に何者なんだ?魔人族、じゃないのか?」
傷が全て癒やされた事実に、多少の驚きを見せるものの落ち着きを取り戻した彼女がそんなことを尋ねる。
しかし、その疑問に陽和は首を傾げた。
「?なんで、俺が魔人族なんだ?見た目は人間族のはずなんだが……」
「?何を言ってるんだ?肌色こそ違うが、耳と赤い髪は魔人族の特徴と一致する。だから、私は魔人族の追っ手と思ったんだが……人間族だったのか?」
「一応、今は竜人族なんだが……もしかして、俺見た目変わってるのか?」
陽和は彼女の指摘にあからさまに驚く。そんな時、今まで静観していたドライグが話に参加してきた。
『伝え忘れていたが、相棒は竜人に転生したから外見に多少の変化はあるぞ。顔つきに変化はないが、髪は赤くなって、瞳も俺と同じ翡翠。耳も竜人族のように尖っている』
「それは先に言ってくれ‼︎ドライグッ‼︎」
陽和は思わず叫ぶ。見た目の変化は重要だから、そういうのは先に言って欲しかった。
『お、おう。それはすまん』
「……とりあえず、一応俺は元人間族で、竜人族に転生したんだ。見た目の変化はそれで、魔人族とは何ら関係ない」
「あ、ああ、それは理解した」
彼女も今の会話を聞いて、多少の驚きは残るものの納得する。そして、頷いた彼女は陽和に近づくと徐に頭を下げた。
「とにかく、すまなかった。いきなり襲いかかったのに、治療までしてもらうとは。感謝しかない。
私の名はセレリア・ベルグライス。見ての通り魔人族だが、今は訳あって追われる身となっている」
「俺は紅咲陽和だ。異世界から神の使徒として召喚されたが、俺もお前と同じように人間族から追われる身となっている。そして、こっちが……」
『『赤竜帝』ドライグだ。今は相棒に宿らせてもらっている』
ドライグの名を聞いた魔人族の少女——セレリア・ベルグライスはあからさまに目を見開き、驚愕を露わにする。
「赤竜帝ドライグだと?まさか、伝説の邪竜か?」
どうやら、人間族だけでなく魔人族の間でもドライグは伝説の邪竜と記されているらしい。
まさか、伝説の邪竜がいようとは思わなかったのだろう。そう驚くセレリアに陽和は少し表情を顰めて告げる。
「魔人族でもそういう認識なのは分かったが、俺の前でドライグを邪竜と呼ぶのはやめてくれ。こいつは、伝説通りの悪い奴じゃないからさ」
「そ、そうなのか?」
「ああ。こいつはいい奴だ。伝説に記されているような神に仇なし世界を滅ぼす破滅の邪竜じゃない」
陽和はそう言い切ると、左手の宝玉に手を添えながら、静かな声音で告げた。
「真に世界を愛し、救うために最後まで抗った誇り高き守護竜で、今では俺の頼もしい相棒だ」
『………相棒』
ドライグは感極まったような声をあげる。きっと、実体があれば涙を流していたことだろう。
セレリアは陽和の表情と言葉に嘘偽りがないことを理解し、謝罪をする。
「……そうか。すまない。今のは失言だった」
「いや、これから気をつけてくれればそれでいい。それはそうと、どうして魔人族のお前がここにいるんだ?さっき、追われる身と言っていたが……」
「そうだな。貴様になら話してもいいだろう。それと、私のことはセレリアで構わんぞ」
「なら、俺のことも陽和でいい。セレリア」
「わかった陽和。それで、私がここに来た理由は———魔人族を止める為だ」
そうして彼女は話し始める。
自分の身の上を、ここに来た目的を、その全てを。
「私は、魔人族の国ガーランドの二人の英雄の一人の妹だ。兄の名はディレイド・ベルグライス。彼は、親友であり、冒険者としてパーティーを組んでいたもう一人の英雄フリード・バグアーと共にある偉業を成し遂げた」
「その偉業は?」
「七大迷宮の一つ、シュネー雪原にある氷雪洞窟を攻略したんだ。二人はそこで神代魔法の一つ変成魔法を獲得した」
彼らは氷雪洞窟に踏み込み、見事攻略した暁に先程ドライグとの話で出てきた変成魔法を獲得したのだ。そして、二人はその証を持って国へと帰還したらしい。
「帰還した二人は英雄として讃えられ、魔王からはその功績を認められ、将軍の地位を授かり二大将軍として魔人族を束ねるようになった。
その事は私も嬉しかった。私にとって、兄は誇りで憧れでもあったから」
そう話す彼女の顔は本当に嬉しそうであり、本心から兄を慕っていたことがわかる。だが、それは途端に悲痛なものへと変わる。
「………だが、ある日を境に兄さん達は変わってしまった」
「変わった?」
「ああ。元々2人は、魔人族が誰にも脅かされずに安心して暮らせる国にしようと氷雪洞窟攻略をしたんだ。
だが、2人が将軍の地位につきしばらく経った頃、2人は変わってしまった」
何度見ても信じられなかった、と彼女は補足し拳を強く握りしめる。ギッと音が鳴って握られた拳は悔しさがそのまま力となって現れたようだ。
「始めは『魔人族の為』と言って戦っていた。だが、次第にその言葉は消え、代わりに『我らが神の為』と言うようになって、信仰に執着するようになった」
「それって……」
セレリアの説明に、陽和は教会の連中のことを思い浮かべる。彼らも信仰に執着していた。
「そして、神の意思に従うことが至上の名誉だと唱えるようになり、国を平和にするのではなく異教徒を殲滅する為に戦うようになった」
「…………」
「私にはどうして兄さん達があそこまで変わってしまったのか分からなかった。
何度も訴えたよ。そんな考えは間違っていると。2人ともおかしいと」
そう何度も彼女は兄に取り合ったらしい。だが、兄の耳には一切届かずむしろ、逆になぜ信仰がわからないと怒られた。
彼女は当時を思い出したのか、青ざめると目の端に涙を浮かべる。
「私は怖かった。神の為だと言う兄さんの顔が、あまりにも昔と変わりすぎていたことに。昔は本当に優しかったのに、今はもうその優しさが消えていた。もう元の兄さんは居ないんじゃないかって、ただただ悲しかった」
それから、彼女は段々と兄から距離を取るようになっていた。だが、更に時間が経ち、衝撃的な事件が起きたのだ。
「ある日、私は魔王城に呼ばれた。
もしかしたら、私は異端者として裁かれるんじゃないかと兄に連れられながら思っていたが、実際は違った。いや、もっと恐ろしいものだった」
彼女は表情を青ざめるだけでなく、次第に身体を恐怖に震えるようになっていく。だが、それでも彼女は話し続けた。
「魔王は神託を受けたと言って兄に、私を変成魔法で肉体を作り変えるように言ったんだ。
魔物の力を私に合成して、新たな戦士にするつもりだった」
最初こそは流石にこの命令は拒否してくれると思っていた。いくら、不信心だとしても血の繋がった実の妹なのだ。実験台にはしないと思っていた。だが、事実は違った。
彼女は目の端から涙を流し、恐怖に体を震わせながら自身の震えを止めるように自分の腕で身体を抱きしめる。しかし、それでも震えは止まらずしばらく震え、やがて、ついにそれを絞り出すような声で話した。
「……あろうことか、兄さんはその命令を了承したっ」
「なっ」
予想外の事実に陽和はしばらく空いた口が塞がらなくなった。
なぜなら、陽和は人体改造は魔人族と敵対する種族、つまり人間族の誰かが行なったと思っていた。だが、事実は違って、同胞である魔人族であり、あろうことか実の兄が彼女を魔物と合成させたと言うのだ。
「私は何度も拒絶した。だが、私の懇願は決して聞き入れてもらえず、抵抗虚しく変成魔法をかけられた」
何度もやめてと泣いて懇願した。だが、その声は決して届かず、彼女は兵士達に鎖で身体を縛られ、兄自身の手によって魔物の力を移植された。そして———
「私は———化け物になった」
実験は成功。彼女は氷の狼の力を有する魔人として、魔人と魔物の合成兵、獣魔兵の第一号になったらしい。
事実、彼女の胸元には琥珀色に変化した魔石が埋め込まれており、魔力も直接操れるらしい。
しかし、獣魔兵はコストが大幅にかかるらしく、合成する魔物との適合率が高くなければできないという、人によって成功確率が変わるものだったのだ。
セレリアは運良く適合率が高く、無事成功したものの、他の成功例はなかったのだ。だからこそ、非常に手間がかかると言うことでディグレイドは新たな獣魔兵を生み出すのではなく、成功体、つまりセレリアを強化する方向に変えた。
そこからは、彼女はひたすら強化されていき、やがて国有数の生物兵器となり、魔人族でも5本の指に入るほどの強さを持つ存在になったそうだ。だが、それと引き換えに彼女の心は半ば壊れた。
「私はもう何も分からなくなった。
何が正しくて、何が間違っているのか。どうして自分がこんな体にされたのか。兄さん達はどうすれば元に戻るのか。もう、何もかも全部分からなくなってしまった」
そして、しばらく自身を取り囲む環境に絶望し無気力な日々を過ごしていた時、転機が訪れた。
「いつも私は実験が終われば施設に軟禁され、強力な鎖で逃げ出さないようにされていた。
だが、その日だけはどういうわけか鎖が緩んでいたんだ」
緩んでいた鎖を見た時、彼女は塞ぎ込んでいた心の中に、再び光が見えたような気がした。
そして彼女は、特製の拘束具である鎖が緩んでいたという一世一代の好機を無駄にしなかった。
「私はそれが最初で最後のチャンスだと思って、力の限り暴れて施設から逃げ出して、とにかくガーランドから離れることにした」
当然、貴重な成功体を逃さない為に追っ手の兵士や魔物が送り込まれたものの、皮肉にも強化されたステータスのおかげでその全てを掻い潜ることができて無事人間族の領土に逃げることができたらしい。
「私は魔人族を止めて、元の平和の国を取り戻したい。だが、今の私では国そのものを変えることはできない。だからこそ、その為の力を得る為に、神代魔法を求めてこの人間族の領土内にあるオルクス大迷宮に潜って、陽和と戦って今に至る、と言うわけだ」
「……………」
話し終えたセレリアに陽和は神妙な顔つきで少し沈黙した後、申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「その、すまん。軽々しく聞いていい話じゃなかった」
「いいや、私も誰かに吐き出せて少しスッキリしたんだ」
謝罪する陽和に、悪気がないと分かっていたセレリアは涙を拭いながら、笑みを浮かべ手を横に振りながらそう言った。
「むしろ、聞いてくれてありがとう。
ずっと不安で怖かったから、誰かに話せたのは良かった。それに、そんな顔をされてはな、そこまで怒ってくれるとは思わなかったよ」
「………まぁ、な。さっきドライグの話を聞いたばかりだからな」
ドライグからこの世界の真実を聞かされ、セレリアからは今の世界の現状の一つを聞かされた。だからこそ、思う。こんな狂った遊戯は早く終わらせるべきだと。
「……でも、少し気になったことがあった」
「うん?」
「両親はいなかったのか?兄の凶行を止めるか、セレリアを守ろうとするぐらいはするはずじゃないのか?」
「……両親か」
セレリアは陽和の言葉に少し悲しげな表情を浮かべると、目を伏せてその疑問に応える。
「……実は、だいぶ前に亡くなっているんだ。
父も母も冒険者だったんだが、氷雪洞窟に行ってそのまま帰らぬ人となった」
「ッッ⁉︎す、すまんっ」
「大丈夫だ。兄さんが2人の遺体を回収してくれたからな。ちゃんと墓地に埋めてあげることができた。それに、冒険者とはそう言うものだ。昔は受け止められなくて泣いたが、今はちゃんと2人の死を受け入れている」
「そう、か」
陽和は少し家族のことを考える。
もしも、セレリアと同じように家族を何らかの事情で失った時、自分は耐えることができるのだろうかと。
正直なところ、分からないとしか言いようがない。病気ならまだ心構えはできたかもしれないが、不慮の事故で失えばその時は自分はどうなってしまうのだろうか。
そこまで考えた時、セレリアがふと尋ねる。
「陽和は異世界から召喚されたと言っていたな。家族は向こうの世界にいるのか?」
「ああ、両親と妹2人に弟1人な」
陽和はセレリアの問いかけに頷き応えた。
「6人家族か。大家族だな。というと、陽和は4人兄弟の長男ってことなのか」
「そうだな。あの子達の兄貴だから、しっかりしないとっていつも思っていた。そして、だからこそ、セレリアの話を聞いて怒りを覚えた」
「…………というと?」
「俺にとって妹や弟は守るべき存在だ。もちろん両親も当然その対象だが、それでもやっぱり下の子達はいつか独り立ちする時まで、俺が守らないといけないなって思っているんだ」
陽和にとって家族とはそう言うものだ。
紅咲家の長男にして4人兄弟の一番上。
家庭において父親の次に多くのものを背負い、守るべき立場だ。下の子達はまだ弱いからこそ、自分が守らないといけない。守って、未来へと繋げなければいけないのだ。
だからこそ、妹を傷つけるのは家族を愛して、家族に愛されている陽和にとっては理解できないし、許せないことだった。
「くだらない神託に従って、妹を泣かせるなんざ言語道断だ。兄貴なら、妹はしっかり守るべきだろ。そのクズ兄貴は同じ兄貴として一発ぶん殴ってやる」
「ぷっ、あはははははは」
陽和は語気を強くし拳を握りしめながら、怒りが混ざった声音ではっきりと断言した。
それに、セレリアは思わず吹き出して笑ってしまった。
「一発ぶん殴るって、ずいぶん面白いことを言うな‼︎それに、神託をくだらないか‼︎そんなことを言う奴は初めて会ったよ」
「実際、くだらないからな。それに、家族を蔑ろにするような奴は、何発でもぶん殴ってもいいだろ。お前も兄貴を止める時ぶん殴ったらどうだ?」
「くくっ、ふふふっ、ああ、それもいいな。さぞかし痛快だろう」
セレリアは陽和の言葉に、可笑しそうに笑うと次いで好戦的な笑みを浮かべて言った。陽和は納得するように頷くと、腕を組みながら嫌な笑みを浮かべる。
「しかし、なるほどなぁ。
今の話を聞けば、俺に襲いかかったのも頷ける。つまりセレリアは、俺の事を炎の竜の力を有する成功体で、お前を捕らえるために送られてきた刺客、って思ったんだろ。そりゃあ俺の話を聞かないで、いきなり襲いかかるのも頷けるな」
「うっ、そ、そうだが。私が悪かったのは明らかなんだから、わさわざ掘り返さなくて良いだろっ‼︎」
「ははは、悪い悪い。つい、面白くて」
「………貴様は意地悪な奴だな」
彼女は少し拗ねた様子を見せそう呟く。そして、幾分か和らいだ表情になると、話題を変えて陽和に尋ねる。
「そ、それはそうと、陽和はどうしてここに?
神の使徒が召喚されたと言う話は私も噂で聞いていたが、その1人がなぜ追われる身となっているんだ?」
「そうだな。セレリアはちゃんと話してくれたし、俺も全てを話そう。ドライグ、この世界のことも話して良いか?」
『構わん。彼女なら話を聞いてくれるだろう』
彼女相手に隠す理由もないうえ、ドライグからの了承を得た為、陽和はここに来るまでの経緯とこの世界の真実の全てを話した。
黙って話を聞いていた彼女は、驚きや怒り、悲しみなどの感情を浮かばせながら、それでも陽和の話を聞き続けた。
「———と、まぁそう言う理由で俺は一人オルクス大迷宮に潜ったと言うわけだ」
そして話し終えた陽和にセレリアは驚きに満ちた表情を浮かべ、感心混じりの言った。
「そうか……すごいな。陽和は」
彼女は素直にそう思った。
全く関係のないはずの異世界の人間のはずなのに、理不尽に召喚され異端者とされ追われる身になったと言うのに、それでも陽和はこの世界の為、そして愛する者の為に戦おうとしているのだから。
「しかし、狂った神の遊戯か……」
この世界の真実を聞かされたセレリアは驚きを多分には含みながら、片手で頭痛を堪えるように頭を押さえると深く、深くため息をついた。
そんな彼女に、ドライグは告げる。
『恐らくは魔人族側の神も、エヒトかその眷属神といったところだろう。お前の兄達が変わってしまったのも、神の仕業のはずだ。
信じ難いことなのは認める。だが、それでも本当のことだ。だからどうか、信じて欲しい』
「いや、信じよう。むしろ、全てに合点がいった。確かに、赤竜帝殿の話を照らし合わせれば、全てが辻褄が合う。私は、貴殿の話を全て信じよう」
「随分とあっさり信じるんだな。多少戸惑うと思っていたんだが……」
この世界の人間じゃない陽和ならともかく、魔人族である彼女は、この世界の真実を聞かされて戸惑うなどの反応を見せると陽和は思っていた為に、彼女のこの反応に少し驚いたのだ。
そんな彼に、セレリアは多少不快な様子で応える。
「確かに、何も起きていなければ、否定していたかもしれない。
だが、私は被害を受けた側だ。神に信仰を抱くつもりもないし、むしろ、邪神だと思っていたからな。私の考えが間違ってなかったとむしろ安堵した」
「ああ、確かにそうだな」
確かに彼女は魔人族が信仰する神の神託のせいで、肉体を改造された被害者なのだ。怒りや憎みこそあれど、神に敬意を払うつもりなんてあり得ないだろう。
「しかし、そちらの教会もクズの集まりだな。神の使徒だと敬っていたくせに、都合が悪い存在ならば、真偽も確かめずに異端か。
全くもって、度し難いな」
「言えてる。でもまぁ、あのままだと普通に殺されてたんだよな」
「間一髪だったんだな。よく成功したものだ」
「いやぁ、マジでギリギリだった」
陽和の脱出の経緯も聞いていたセレリアは賞賛し、陽和はあの時のことを思い浮かべながら、そう応える。
2人して笑い合った後、陽和は真っ直ぐな視線をセレリアに向けると一つある提案をした。
「なぁ、セレリア。俺はこれから更に下層に潜りこの大迷宮を攻略するつもりだ。そこで一つ提案がある」
「それは?」
「俺とパーティーを組まないか?」
「っ、良いのか?」
「ああ、むしろお前ほど強い奴が加わってくれるのは、願ってもないことだ」
元々1人で下の階層を攻略するつもりだった為、彼女程の強者がパーティーに加わってくれれば負担は大幅に減るし、効率も桁違いだ。
彼女は陽和の真っ直ぐな瞳を見かえした後、尋ねる。
「オルクス大迷宮を攻略した後は、他の大迷宮も攻略していくのか?」
「そうだな。そしてその後、狂神エヒトを殺し世界を救うつもりだ」
「一応聞くが、狂神エヒトを殺せば魔人族も元に戻せる可能性はあるんだな?」
確信にも近い問いかけにはドライグが応える。
『ああ、ほぼ断言できる。全てを弄び、狂わせてきたエヒトを滅ぼせれば、世界は解放される。もう狂った遊戯に踊らされることもなくなるだろう』
それを聞いて彼女の方針も固まった。
セレリアは陽和に再び視線を戻すと、力強い眼差しを向けた。
「なら、私からもお願いしたい。どうか、私を、セレリア・ベルグライスを紅咲陽和のパーティーに加えさせてもらえないか?私も神殺しの旅に同行させて欲しい」
「決まりだな」
陽和は立ち上がると、セレリアに右手を差し伸べる。それは友好の証だ。これから共に戦う仲間としての、始まりの挨拶。
「なら今日から共に戦う仲間だな。改めて俺は紅咲陽和だ。これからよろしくな。セレリア」
『俺もよろしく頼むぞ。セレリアよ』
1人と一体からの歓迎の言葉にセレリアは笑みを浮かべて、立ち上がると陽和の手を強く握り返した。
「セレリア・ベルグライスだ。こちらこそ宜しく頼む。陽和、ドライグ殿」
『ドライグで構わんぞ』
「分かった。よろしく、ドライグ」
『ああ』
握手を交わした陽和は手を離すと、焚き火を消してバックパックを手に取る。そして、丸めていた寝袋を拾い上げて、錬成で作った壁に穴を開けると通路へとでた。そして、出た所で振り返り彼女に言った。
「早速行こう。下層に向かう為の転移魔法陣はもう見つけてある」
「ああ」
セレリアはそう頷き、陽和の後を追う。
道中、魔物たちが襲ってきたが軽く瞬殺していきやがて、魔法陣がある広間にたどり着いた。
先程、2人がいた広間より少し広く、広間の中心には大きめの魔法陣が一つあるのみだ。
「ここが、そうなのか?」
「ああ、恐らくな。ドライグこれがそうか?」
『ああ、間違いない。これが、下層へと続く転移魔法陣だ』
やはりこれが下層へと行く為の魔法陣のようだ。あとは、魔力を注げば起動するが、その前に陽和はセレリアへと視線を向ける。
「セレリア、ドライグ。俺は彼らの意思を継いで、神殺しを為して囚われている世界を救い、元の世界に家族の元へ帰る」
陽和がそう自身の目的を告げると、セレリアはそれに応えるように不敵な笑みを浮かべる。
「私は魔人族を止め、元のあるべき優しく平和な国を取り戻し、家族を神の呪縛から解放する」
「お互いの目的を果たす為に、俺達は神代魔法を全て手にして、神に、世界に喧嘩を売る。これから長い旅になるだろう。
その為に、まずこのオルクス大迷宮を攻略する。
ここが始まりだ。ここを越えれば、もう戻ることはできない」
「愚問だな。そんなこともう既に覚悟の上だ。今更引き返すつもりはない」
『同感だ。我が身は魂のみだが、それでも我が意志は決して揺るがん』
陽和の問いかけに、セレリアとドライグはそう力強く応える。
それが初めからわかっていたのか、陽和は笑みを浮かべて頷くと、魔法陣に魔力を注ぎ起動させる。魔法陣が光り始め、その輝きは段々と強くなる。
「なら、行こう。
俺達が始めるのは世界の解放と神殺しの旅だ。
どれだけ大きな苦難が待ち受けようとも、俺達はその全てをぶち壊す。そして、世界を救おう」
「ああ‼︎」
『応‼︎』
セレリアとドライグが力強く頷いたと同時に、魔法陣の光が一際強くなり2人の視界を光で満たす。やがて、光が収まった時、2人の姿は消え下層へと転移した。
これより始まるのは、
世界を揺るがし、歴史に名を刻みし一世一代の大事。
かつての英雄達が次代に残した希望の灯火を受け継ぎ、解放の意志を掲げて、世界を支配する神を打倒し世界を救う英雄達の旅路。
英雄達が選び紡ぐ『
テッテレー セレリア・ベルグライスが仲間になった!!!!
はい。と言うわけで、オリキャラは魔人族で変成魔法の実験台にされたセレリア・ベルグライスという方でした!!
コンセプトとしては男口調+狼+???+???………という感じですね。属性はいくつかさらにありますので、お楽しみに。
そして、赤竜帝ドライグの口調や、本家と同じように戦闘中の音声機能をありにしたのですが、皆さん的にどうでしょうか?
自分的には良いと思うのですが、何分世界観が違うからありふれだと異様に見えるんですかね?
そこらへんは分かりませんが、とにかく今作では本家同様音声ありにしていくので、そこら辺はよろしくお願いします!!
では、また次回お会い致しましょう!!皆さんもコロナや熱中症にお気をつけてください!!
感想、評価、お待ちしております!!