竜帝と魔王の異世界冒険譚   作:桐谷 アキト

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ウッチャイヒシュラヴァス‼︎‼︎

FGOの水着イベで水着アナスタシアが言ってた言葉だけど、確かに妙に耳に残る単語だ。

ちなみに調べたら、インド神話に出てくる7つの頭を持つ空飛ぶ馬で馬の王らしいよ。




16話 再会

 

 

 

ヒュドラを完全消滅させた陽和はクレーターの端に飛び降りると、竜化を解除する。

陽和の身体が赤く発光し、赤い魔力の粒子を散らしながら崩れていく。竜の身体が赤光の粒子となって消えていき、中から陽和が姿を表した。

 

「……はぁ……はぁ……はぁ……」

 

ふわりと着地した陽和は一気に襲いかかった疲労感に両膝をついて荒い呼吸を繰り返す。

 

「……ギリギリ、だったな……」

 

陽和は汗を流しながら、息も絶え絶えにそう呟く。

覚醒し“竜帝化”を使用してからの戦闘時間は約9分。たった9分でも今の陽和ではギリギリだった。

先の一撃で瀕死になるまで追い込まれ、そこからなんとか回復して立ち上がったとしても、消耗しきっていることには変わらなかったからだ。

 

「………この力……結構、消耗、するな……」

 

しかも、この“竜帝化”の力は自分が想定していたよりも大幅に魔力と体力を消耗するのだ。

今の消耗している状態では、確かにドライグが言った通り10分以上は持たないということも納得がいく。

 

『相棒、見事だった。初めての竜化であそこまで戦えるのは中々いなぞ』

「ドライグ……ああ、ありがとう……ただ、竜帝化(これ)思った以上に疲れるな……もう、戦えねぇぞ……」

 

陽和はなんとか笑みを浮かべて左腕に宿る相棒にそう軽口を叩く。それにドライグも笑みを浮かべた。

 

『ははは、まあ死にかけの状態から無理やり回復したのもそうだが、あの土壇場で力を完全解放して戦ったんだ。その上、“臨界突破”まで使った。相棒が思っている以上に、消耗するのは当然だ。……ただ、はじめての竜化だからか、竜としての戦い方はまだまだだったがな』

 

笑みを浮かべてそういうと、最後に辛口な評価をする。陽和は一瞬驚くと困ったように笑う。

 

「全く、俺の相棒は手厳しいなぁ。命懸けだったんだぞ?少しは労ってくれよ」

『無論だ。初めてなんだから稚拙なところもあるのは仕方ない。これからも俺がビシバシと指導するから、覚悟しておけよ?』

「へいへい、わぁったよ」

 

肩をすくめてそう手を振りながら陽和に、ドライグは少しの沈黙の後、照れ臭そうに陽和を労う。

 

『……まぁ、なんにせよ、よくやった。相棒のことは信じていたが、正直あの時は俺もヒヤヒヤした。だからこそ、こうして無事に生きて勝ったこと、本当に嬉しく思うぞ』

「………ドライグ」

『だから、これからも共に戦おう。俺はお前の相棒なんだからな』

「………おう。これからも頼むぜ。相棒」

『ああ』

 

陽和は左手の宝玉に向けて笑みを浮かべると、右手でコツンと拳をぶつけた。

 

『さて、俺は言いたいことは言ったからな、次は彼女の番だ。彼女も言いたいことは山ほどあるだろうからな。長くなるかもしれんぞ?』

「陽和っ———!」

 

そうドライグが面白そうに言うのと同時に、遠くから自分を呼ぶ一人の少女の声が聞こえて来る。

首だけ動かしてみれば、セレリアが涙ぐみながらも満面の笑みを浮かべて、こちらへと走ってきていた。元気そうな様子に、陽和は心の底から密かに安堵する。

 

「……そうか、今度はちゃんと守れたのか」

『そうだ。相棒はちゃんと守れたんだ。絶望的な状況の中、お前は足掻いて確かに仲間を守って、自分も生きている。

これ以上の戦果はない。誇っていいぞ、相棒』

「……ありがとうな」

 

ドライグの惜しみない賞賛に陽和はただ短くそう答えた。その直後、セレリアが陽和の元へと辿り着いた、彼女は勢いを殺しながらも陽和に躊躇なく抱きつく。

 

「陽和っ‼︎」

「うおっと」

 

セレリアは陽和の胸に飛び込む。

陽和はセレリアを受け止めきれずに、後ろに尻餅をつく形になりながら、彼女を受け止める。セレリアはすぐに顔を上げた。

 

「この大馬鹿者っ‼︎お前ってやつは、本当にどこまで私を驚かせれば気が済むんだ‼︎あれほど、凄まじいなんて聞いてないぞっ‼︎」

「いやー俺もまさかここまでとは思ってなかったよ」

 

叱咤か賞賛か分からない物言いに陽和は彼女の頭を撫でながら、自分でも驚いてると軽口を叩く。

陽和はセレリアの肩を掴み優しく押しながら、側に座らせると、目の端に浮かんでいた涙を拭う。

 

「だが、お前が俺を信じて守ってくれたからこそ、俺はアイツに勝てた。この戦いは俺だけじゃない。俺とお前、ドライグの3人の力で掴んだ勝利だ。だから、俺からも礼を言わせてくれ。

俺を信じてくれてありがとう。お前は最高の仲間だよ」

「陽和……」

 

そう言って、陽和はセレリアにニッと笑みを浮かべた。

陽和の言う通り、あの時セレリアが陽和を信じて時間を稼いでくれなければ、挽回の機会は無かった。彼女がいたからこそ、覚醒できてヒュドラにも打ち勝つことができたのだ。

だからこれは陽和一人の勝利ではない。陽和とセレリア、ドライグの3人の力があったこその勝利だ。その事を陽和はセレリアに感謝したのだ。セレリアはそれにまた涙ぐんでしまう。

陽和はやれやれとセレリアの頭を優しく撫でる。そんな時、ドライグが声をかける。

 

『俺も一人にカウントするのか?相棒』

「当然。お前はドラゴンだが、こうして会話できてるし、俺の大事な相棒なんだ。なら、一人でも一頭でも変わらんだろ?」

『相棒ぉ』

 

今度はドライグまでもが涙ぐんだような声を出していた。きっとセレリアと同じで目の端に涙を浮かべているのだろう。

陽和は面白そうに快活に笑う。

 

「ハハハハ、どうした?セレリアもドライグも案外涙もろいんだな?」

「う、うるさい。お前にそんな事を言われたら、泣きたくもなるだろうっ。それに、これは嬉し涙だっ。何が悪い!」

『やかましいぞ、相棒っ!こんなもの、感動するに決まってるだろうっ!』

「ハハハハハハハハ!」

 

セレリアとドライグに反論でもない反論をされてしまい、陽和はまた快活に笑った。

ちょうどその時だ。

 

「「『ッッ』」」

 

ちょうど陽和達の後方にある、広間最奥にあった扉が独りでに開いたのだ。

 

『この先はオスカーの隠れ家だろう。二人ともおめでとう。見事、オルクス大迷宮攻略達成だ』

 

ドライグの労いと賞賛に陽和とセレリアは顔を合わせるとそろって笑みを浮かべる。そして、いざ向かおうと立ち上がろうとした時、陽和は足をガクンと曲げて崩れ落ちる。

それをセレリアが咄嗟に抱きしめることで受け止める。

 

「おっと、大丈夫か?陽和」

「あぁ〜悪ぃ、セレリア、まだ十分に動けねぇわ」

「だろうな。肩貸そうか?私の肩ならいくらでも貸すぞ」

「……頼む」

「よし、頼まれた」

 

そう言って、セレリアは陽和の右腕を自分の首に回すと、陽和の体を支えながら優しく立ち上がらせる。

セレリアの補助を受けながら立ち上がった陽和は、彼女に支えられながらゆっくりと扉へと歩き出す。

 

「そういえば、俺のバックパックは?」

「ちゃんと持ってるから安心しろ」

「サンキューな」

 

そんな事を話しながら、二人は扉へと陽和に合わせてゆっくりと歩いていく。そんな中、セレリアが前を見ながら呟く。

 

「この先に、いるといいな」

 

何がとは言わない。彼もセレリアが言わんとしていることは理解しているからだ。だから、陽和は小さく笑みを浮かべると扉の先を見ながら頷く。

 

「きっといる。あいつなら、きっと……」

「……そうか、そうだな。お前が認めた男なんだ。なら、辿り着けているに違いない」

「ああ……」

 

そしてようやく扉へと辿り着いた二人は、僅かな緊張を抱きながら、扉の先へと足を踏み込む。光で見えなかった扉の先は———

 

「「———」」

 

見えた光景に二人は言葉が出なかった。

扉を抜けて広がる光景は、この大迷宮に似つかわしくないモノだった。

広々とした空間に、天井に輝く太陽を思わせる似た物体。空間の奥の壁は一面が滝となっており、川や畑、それに木々まで生えている。

そして、一際目立つ岩壁を削って作ったかのような石造りの3階建ての住居があり、白亜の壁が人工太陽に美しく照らされている。

 

「なるほど。……まさしく、隠れ家だな」

「これは……本当に、地下なのか?」

 

二人は地下とは思えない空間に、唖然とする。

まるで異空間に転移させられたのかと見紛うほどにその空間は、あまりにも美しく幻想的だったのだ。

そうして二人してこの空間に圧倒されていた時、ドライグが何かに気づく。

 

『む?おい、相棒。向こうの館に生物の反応が二つあるぞ』

「二つ?」

 

そう陽和が反応すると同時に、二人の視線の先にある館の正面玄関の扉がガチャと音を鳴らして開く。

中からヒョコと現れたのは歳の頃が12、3歳ほどの長い金髪の美しい少女だった。髪の隙間から覗く紅色の瞳が、どこか月を思わせている。

 

「子供……?」

「オスカーの子孫、か?」

 

どうみても子供にしか見えない少女に、二人はそう呟いた。そして、少女はパチクリと目を瞬かせるとすぐに顔を引っ込めて館の中に消える。

その対応に、二人はポカンとする。

 

「何だったんだ?」

「さぁ?とりあえず、あそこに行こう」

「おう」

 

少女の正体はさておき、あの館に入れば何かわかると踏んだ二人は、門前の階段をゆっくりと降りて、真っ直ぐ続く石畳の道を進んで館に向けてゆっくりと歩いていく。

 

(ドライグ、念の為お前は声を出すなよ?話すにしても、こう言う形でだ)

『わかってる。余計な混乱を避けるためだろう?お前がいいと言うまでは静かにしておこう』

 

陽和はドライグと心の内で密かにそう会話する。左腕からいきなり別のものの声が聞こえたとあれば、混乱する可能性もあるからだ。

そして、しばらく歩いた時、再び館の扉が開き今度は少女と共に別の人物が現れた。

 

「あれが、今回の攻略者なのか。俺らと同じ二人組のパーティーか。すげぇ振動が何度もしたから、あのヒュドラ相手に相当激戦繰り広げてたみてぇだな」

「ん、二人ともボロボロ」

 

現れたのは、180cmぐらいある大柄な男。

色が抜け落ちたかのような白い髪に、血を思わせる赤い瞳。右目は潰れたのか黒い布を眼帯にして巻いており、左腕は機械的な義手のようなものをつけている。

そんな青年は少女に連れられ外に出ると、陽和達の姿を視界に収めてそんなことを呟く。

どうやら、ヒュドラとの激闘での衝撃は扉の向こうにも伝わっていたらしい。

 

「私達よりも前に攻略したパーティーだったのか。助かった。とりあえず休める場所を提供してもら……陽和?」

 

とにかく、陽和を休ませようと彼らに交渉しようとしたセレリアはそう呟きながら、彼らに近づこうとするものの、その動きは止められる。

何事かと思い、陽和の方を見上げると、

 

「………ぁ……あぁ……」

 

陽和は目の前の二人組、正確には白髪の青年を見ながら目を見開きながら瞳を震わせ、声を震わせていた。

 

「?……ッッ、まさかっ」

 

陽和の様子に一体どうしたのかと一瞬疑問に思うものの彼女も気づいて、思わずバッと青年の方に振り返る。

青年の方は「おぉっ?」と若干驚いている。そして、ドライグも気づいたのか陽和に密かに尋ねる。

 

『相棒。まさか、彼がそうなのか?』

「てことは……」

 

ドライグとセレリアは陽和の様子から目の前の青年の正体を理解する。彼こそ、陽和が探している親友——南雲ハジメなのだと。

そして、白髪の青年——ハジメは二人の態度を不審に思ったのか、前に進み出て尋ねてくる。

 

「なぁ、あんたらさっきからどうしたんだ?それに、そっちはずっと俺を見ているが一体「ハジメ、なんだよな?」ッッ、おい、何で俺の名前を知ってるんだ?」

 

ハジメの問いかけを妨げて彼の名を言い当てた陽和にハジメは眉を顰めて警戒している。だが、今のやり取りでハジメだと確信した陽和は涙を流し唇を小さく震わせながら笑う。

 

「知ってるさ。知ってるに決まってる。だって、俺はお前の親友なんだぞ?姿形は変わっても、気づかないはずがないだろ?」

 

髪の色や瞳の色が違う。背丈が違う。纏う雰囲気が違う。口調が違う。目つきが違う。何もかもが記憶の中のソレとは大きく異なっている。

だが、分かったのだ。陽和には見た瞬間に分かってしまった。

だって、自分は彼の親友なのだから。

 

「は?親友?それはあいつ……ッッ、まさか、お前……」

 

ハジメは最初こそ怪訝そうにしていたものの、彼の顔をじっと見て遂に気づき、彼の名を口にした。

 

「……陽和、なのか?」

「ッッじゃあ、この人が……」

 

陽和の言葉に困惑しているハジメもようやく気づいたのか目を大きく見開きながら、遂に彼の名を呼んだ。

隣の少女も陽和のことは知っていたのか、ハジメと同じように驚愕の視線を陽和へと向ける。

陽和は涙を流しながらも満面の笑みを浮かべてハジメの問いかけに大きく頷いて肯定する。

 

「ああっ!お前の親友の、紅咲陽和だ」

「マジかよ。本当に……いや、その髪に目、あと腕はどうしたんだよ?」

 

未だ信じられないのかハジメは愕然と呟いている。そんな彼に陽和はセレリアの補助を受けながら歩み寄って行き、手が届く距離まで歩くと一人で歩いていき彼へと右腕を伸ばし、彼の肩に手を置きながら感動のままに言葉を紡いでいった。

 

「良かった。良かったっ!本当に生きてて、生きててくれて、良かったっ」

「……陽和……」

「あの時、守れなくてすまなかったっ‼︎俺にもっと力があれば、お前は落ちなくて良かったのにっ……本当に、すまなかったっ……」

 

顔を俯かせながら嗚咽混じりにそういう陽和に、やっぱり背負わせてしまっていたんだなと悟り、少し暗い表情になる。

親友にこれだけ辛い思いをさせていたことにハジメは罪悪感が湧き上がっていたのだ。

そして、ハジメは助けに来てくれた親友に、優しさが宿る眼差しを向けながら言葉を返す。

 

「陽和、悪ぃな。色々と背負わせちまってた。俺はまぁこの通りしっかりと生きてるし……それに、ここまで助けに来てくれて、ありがとうな」

「……当然だっ!俺はお前の親友なんだぞっ‼︎ダチを助けるなんて、当然だろ?」

 

陽和はハジメの言葉に顔をあげると涙でくしゃくしゃになった笑顔をハジメへと向ける。

その笑顔はいつも自分が頼りにしていた彼の笑顔とは違うものだったが、久々に親友の笑顔を見れたことに、ハジメは表情を綻ばせる。

しかし、その直後、陽和はぐらっと一気に崩れ落ちた。

 

「ッッ陽和っ‼︎おい、しっかりしろ‼︎陽和っ‼︎おいっ‼︎」

 

咄嗟に受け止めたハジメは陽和にそう何度も呼びかけるものの、返事が聞こえない。

 

「……大丈夫。意識失ってるだけ」

 

少女ーユエの言葉に陽和を見ればただ意識を失っているだけで定期的な呼吸音が聞こえてくる。それに最悪の事態ではなかったと安堵したハジメに、今まで成り行きを見守っていたセレリアが陽和の手を取りながら声をかける。

 

「感動の再会のところ悪いが、彼にベッドを貸してくれないか?もう、彼は限界だから早く休ませてあげたい」

「あ、ああ、当たり前だ。それで、あんたは?魔人族、だよな?」

「そうだな。初めまして、南雲ハジメ。私はセレリア・ベルグライス。陽和のパーティーメンバーだ。見ての通り魔人族だが話すと長くなる。事情を話すのは先に彼を運んでからでも構わないか?」

「それで構わねぇよ。じゃあとりあえず陽和をベッドに運ぶか……」

 

そう言ってハジメとセレリアは陽和の両腕をそれぞれ肩に回して持ち上げて、ベッドルームへと運んでいった。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

深い眠りから意識を浮上させつつある陽和は、全身に伝わる感覚に疑問を浮かべる。

 

(何だこれ?……温かい?……それに、心地良いな……)

 

全身を何か暖かで柔らかなものに包まれてる感覚。それはこの大迷宮に入ってから久しく感じていない懐かしい感触ーベッドの感触がした。

全身を優しく受け止め、包み込むクッションと羽毛の柔らかさを感じながら、微睡む陽和の意識はゆっくりと浮上し、静かに目を開けた。

 

「…………ん、ここ、は………」

 

目を開けて、まず見えたのは高級感あふれる天井と暖かい光。

 

(……確か、俺は……セレリアと一緒に、あいつと戦って……)

「起きたか。陽和」

『相棒、大丈夫か?』

 

状況を把握しようと周囲に視線を配ろうとした陽和に、ふと横から二つの声がかかる。

左側を振り向けば、男物のシャツを着たセレリアがベッドの傍の椅子に座って、こちらを見ていた。本を読んでいたのだろうか。傍には本が置かれている。ベッド脇にはヘスティアが立てかけてある。

そしてもう一つは、中に宿る相棒の声。左腕の籠手からドライグが心配そうに尋ねていた。

 

「……セレリア、ドライグ……ここは?」

「ここはオスカー・オルクスの隠れ家だ。私達はこの大迷宮を攻略したんだ」

『相棒はここに辿り着いてすぐに意識を失ってな。こうして、ベッドに運んだんだ』

「……どのくらい、寝てた?」

「ほんの一日ぐらいだ。極限の疲労状態だっただけで、何も悪いところはない」

「そう、か」

 

セレリアから話を聞いた陽和はセレリアに支えられながらゆっくりと身を起こすと、周りを見る。

まず自分が寝ていたのは確かにベッドであり、純白のシーツに豪奢な天蓋付きの高級感あふれるベッド。場所は、吹き抜けのテラスのような場所で一段高い石畳の上のようだ。

久しく感じていない爽やかな風が陽和達の頬を撫でて、周りは太い柱と薄いカーテンに囲まれている。まるで、パルテノン神殿の中央にベッドがあるような感じだ。空間全体が暖かな光で満たされている。

 

「……あぁ、そうか。俺らは辿り着いたのか」

 

陽和はその光景を見て、意識を失う前に見たあの空間が幻ではなかったことを理解した。

 

「服は汚れてたからな。上だけ脱がせて一応拭いといたぞ。流石に下はそのままだが」

「そ、そうか。世話になった」

 

上半身が裸だったのはそういう理由だったらしい。流石に下は手付かずだったのは有難い判断だ。

 

「っそういえば……」

 

そして、陽和は思い出す。意識を失う直前、容姿は変わっていたが、それでも自分の大事な親友と再会できたことに。

だから、彼の所在を陽和は彼女に尋ねる。

 

「……ハジメは?ここにいるんだよな?」

 

ハジメの所在を聞かれたセレリアは少し不安そうな陽和にふっと優しく微笑むと、答える。

 

「安心しろ。心配せずとも現実だ。ちゃんと彼もここにいる。ほら」

 

そう言って、セレリアはある方向を指指す。

そこにはー

 

「おう。起きたか、陽和」

「ん。すっかり、元気」

 

白髪赤目の青年ーハジメと、ハジメと共にいた金髪紅目の少女だった。二人はカーテンをのけながら中に入ってくると、セレリアとは反対側に立った。

陽和はあの時見たハジメが夢ではなかったことに心の底から安堵しながら、ハジメをマジマジと見ながら尋ねる。

 

「ああ、見ての通り元気だ。それで、一応もう一回聞くが、ハジメで合ってるんだよな?」

「まぁ見た目が結構変わってるからなぁ。何なら、俺とお前しか知らないこと話してやろうか?俺らが出会った時のこととか……」

 

陽和に自分が正真正銘南雲ハジメであることを伝えるために自分たちの出会いを話して証明しようとしていたが、陽和はそれに対して首を小さく横に振る。

 

「いいよ、そんなことしなくても、お前がハジメであることは疑わねぇよ。確かに、口調とか見た目とか変わってて驚いたけどな」

 

そういうと陽和は目元を和らげて、表情を綻ばせると、心底彼の無事を安堵する。

 

「とにかく、お前が無事でよかった。本当に、生きてて良かった」

「………おう」

 

気恥ずかしかったのだろう。ハジメは頭をガシガシとかきながら陽和から目線を逸らして、そう小さく答える。

お互いの無事を確認して安堵したところで、陽和の視線はハジメにぴたりとくっついている少女へと向く。

 

「ところで、その少女は?大迷宮内に迷い込んだ子供か?」

「あぁ、こいつは……」

「私はユエ。ハジメの恋人」

「…………は………?」

 

答えようとしたハジメに変わって、子供の部分にムッと反応した少女が少し口早にそう自己紹介したのだ。

それを聞いた瞬間、陽和の時は止まった。

間の抜けた声をあげて、ポカンとした陽和は数秒の沈黙の後、眉間に手を当てながら、待ったをかける。

 

「おい、ちょっと待て。恋人?この子が?……ライクじゃなくてラブの方か?……いつの間に、あのハジメに彼女が?いやいやいや、そしたら、今までの苦労は何だったんだ?……ん?いやこれは親友として祝福してあげるべきなのか?…確かに、あのハジメに恋人ができたのはもちろん嬉しいが、白崎のこともあるからなぁ………うーん、雫に何て説明したらいいんだ?……あぁーやべぇマジで大誤算だ。生きてたのは嬉しいが、まさか恋人が出来ているとは、しかも奈落で………誰が予想できるかよ……」

「お、おい、陽和?」

 

眉間を抑えながらぶつぶつと何かを呟き続けるハジメは何事かと恐る恐る彼に声をかける。

ぴたりと陽和は呟くのをやめると、ゆっくりと顔を上げてハジメを見据えると、静かに彼の名を呼ぶ。

 

「………ハジメ」

「な、なんだ?」

「………せめて18歳まで待てよ?」

「おい待てコラ」

 

何を言うかと思えば、そんなことを言った陽和にハジメはジト目+どすの利いた声を上げる。

 

「いやだって、お前さ事情は知らんけど、いくらなんでも小、中学生の年の子と恋仲になっちゃダメだろ?せめて、もう5、6年待ってから恋人にしないと……」

「だー‼︎ちげぇよ‼︎話聞け‼︎」

「はっ!まさかそう言う趣味があったのか⁉︎なら、どう法をかいくぐるかの相談か⁉︎悪いが、それは出来ない‼︎ロリコンはまだギリ許容範囲だが、親友を性犯罪者にさせたくはない。そうなった日には俺は泣いてしまうぞ」

「だから違ぇって言ってんだろうがっ‼︎ユエは年上だ‼︎‼︎」

「ッッ⁉︎⁉︎なん、だ、と?」

 

ハジメから告げられたユエという少女の年上事実に陽和は愕然とする。

ただでさえ、ハジメに恋人が出来たということですら驚きなのに、まさかこんな少女が年上?クラスメイトの谷口鈴というちみっ子の例もあるから、同い年ならギリセーフと思っていた陽和は純粋に驚愕するとハジメから、ユエへと視線を向ける。

視線を向けられたユエは、陽和の無言の視線にこくりと頷いた。

 

「ん、300年以上生きてる」

「300っ⁉︎」

 

予想を遥かに超える年齢に陽和は驚愕しながら、ふと彼女の気配を感知して真剣な眼差しを彼女に向ける。

 

「なぁ、ユエさんでいいか?」

「……ユエでいい」

「なら、ユエ。君は人間じゃないよな?一体、なんの種族なんだ?長命種でも300年なんて竜人族か森人族でもない限り殆ど不可能だろ。

それに君からは竜の気配はしない。だから、竜人族ではないのはわかるし、耳も尖ってないから森人族でもない。そして、魔物でもない。いきなりこんなことを聞くのは失礼だと分かっているが、君は何者なんだ?」

 

陽和はそう真剣な眼差しでユエに問いかける。

彼女の存在を感知しても、どこか人間とは違うような感じがしたのだ。かといって、魔物とは異なる。

そして、本で調べた限り300年以上生きれる長命の種族は竜人族か亜人族の一種の森人族(つまりエルフ)ぐらいしかいない。

人間族の平均寿命は70歳、魔人族は120歳。他の亜人族も種族差はあるが森人族以外は大体同じぐらいだろう。それに、吸血鬼族も血を吸うことで、200年は生きられるらしい。

だから、300年などという長い時を生きている彼女がなんの種族か気になったのだ。

そんな時、左手の宝玉が点滅してドライグからフォローが入る。

 

『落ち着け相棒。彼女は吸血鬼族だ。聞けば、かつての女王だったらしいぞ』

「なに?吸血鬼族?」

「なんでも“自動再生”という固有魔法のおかげで、歳も取らないし魔力があれば塵にされない限りは死なないらしい」

「……っなるほど、だから300年も生きれるのか」

 

セレリアまでもがフォローに周りそう補足した。確かにそう言う理由ならば、長い時を生きれるのはわかった。

だが、どうしても懸念が残る。

 

「だが、どういう経緯でハジメと会ったんだ?あのハジメの容姿や性格の変化も気になる。……まさか、君が関係しているのか?」

 

陽和の瞳がすっと細められて、僅かな殺気が彼女へと向けられ、彼を中心に剣呑な空気になる。

陽和が懸念してること。それは彼女、ユエがハジメになんらかの悪影響を与えているのではないかと言うことだ。

ハジメの生存も恋人ができたことも純粋に喜ばしいことだ。だが、ハジメの変化が彼女の魔法など何らかの影響の結果だとしたら、流石に親友としてそれを看過することはできなかったからだ。

もしも、そうであるならば———

そう考えて剣呑な雰囲気になった陽和に対して、ユエは認めるわけでも否定するわけでもなく、小さく笑みを浮かべるとハジメへと視線を向ける。

 

「……ハジメ、本当にいい親友だね」

「…………」

 

ハジメはなにも答えずに、照れ臭そうに視線を逸らしたり

 

「……?何を言って」

「陽和、安心しろ。ユエはお前が思うような悪い奴じゃねぇ。俺の変化はユエに出会う前のものだ」

 

親友の身を案じてそう言った陽和の真意を察したハジメがそう言うと、陽和が少しだけ殺気を抑えながら、真偽を確かめる。

 

「そうなのか?」

「ああ。俺を心配してくれんのは分かったから、その殺気を抑えてくれ」

「………信じていいんだな?」

「ああ」

 

ハジメがそう頷き、しばらくハジメの瞳を見続けた陽和はやがてハジメが行っていることが本当だと理解すると、殺気を消してユエに頭を下げた。

 

「………どうやら、ハジメの言ったことは本当みたいだな。ユエ、変な勘ぐりをしてすまなかった」

「ううん、気にしてない。親友なら、そう考えるのも当然」

 

陽和に殺気を向けられたとはいえ、それが自分の恋人でるハジメのことを心配してのものだから、ユエも全然気分を悪くしてはいなかった。

むしろ、ハジメから聞いていた通りの人物でユエは安心したぐらいだ。

そして、安堵した陽和はそういえばとあることに気づいた。

 

「そういえばセレリアとドライグはもうハジメ達と自己紹介したってことでいいのか?つーか、ドライグ声を出しても大丈夫なのか?」

 

思い返せば、普通にセレリアは二人のことを知ってるようだし、ドライグも宝玉から平然と声を出している。だとすれば、自分が意識を失って寝ている間に、ある程度の自己紹介などはすませたと思うのが妥当だろう。

そして、その問いかけに二人は頷く。

 

「ああ。あの後にな。情報交換も済ませてるぞ」

『セレリアから許可をもらって話しかけたが、やはり驚かれた』

「そりゃそうだろ」

 

いきなり、左腕から声が聞こえたら自分だって驚くと断言できる。

 

「ああドライグのことはマジで驚いたわ。左腕から声が聞こえたかと思えば、中に宿っていて、しかもそれが伝説のドラゴンで神エヒトと殺し合った奴なんだから。驚かねぇ方が無理があんだろ」

「ん」

「……まぁ、そうなるか」

 

ハジメが思い出しながら笑みを浮かべるとそう答え、ユエも同意なのかうんうんと頷いている。

しかし、ハジメは次いで暗い表情を浮かべる。それはどこか、心配や気遣うようなものだった。

 

「……その、お前のこれまでのこともセレリア達から聞いた。“竜継士”の天職のせいで、殺されそうになって国や教会から追われる身になって、オルクス大迷宮に潜ったことを。それと、セレリアとパーティーを組んだ経緯もな」

「……そうか。話は聞いたのか」

「ああ。全部、な」

 

全部ということはここに来た目的も、赤竜帝の力を継承したことも全て知っているのだろう。

それを理解した陽和は密かにドライグに尋ねる。

 

(ドライグ。力の継承についてお前はどこまで話した?)

『全ては話してない。俺の力を受け継いだこと以外は容姿の変化だけだ。相棒が頼んでいる通り、相棒が完全に竜になることは流石に話していない。セレリアも話してはいないはずだ』

(……助かる)

 

実を言うと、セレリアと出会ってからしばらくして陽和はドライグとセレリアには他の親しい者達には陽和が最終的に竜になることを伏せておくよう頼んでいた。

自分が完全な人外になることは、その時が来るまでは知られたくなかったからだ。

二人も渋々了承してくれた。彼らなら口外することもないだろう。

そして、ドライグに礼を言った陽和はハジメに尋ねる。

 

「……なぁ、ハジメ。お前はあの後どんな道を辿ったんだ?お前がいいなら、教えてくれないか?」

「……そうだな。俺もお前のことは聞いたからな。少し長いが、それでもいいか?」

「ああ」

「わかった。じゃあ、あの後俺は———」

 

 

そうして訥々とハジメが奈落に落ちた後の話を静かに語っていく。

 

奈落に落ちた後、蹴り兎に襲われ、次に爪熊に左腕を喰われたこと。命からがらに逃げ出したものの、死にかけたこと。

神結晶という伝説の鉱石から溢れる不死の霊薬とも言われる神水のおかげで助かったものの長く続いた飢餓と幻肢痛、恐怖が彼の精神を蝕み、純粋な殺意へと変わり、過去の優しく穏やかで、対立して面倒を起こすよりも苦笑いと謝罪でやり過ごす考えが消え、生きるために邪魔な存在を容赦なく排除するという考えを抱き心が豹変したこと。

その後、魔物の肉を食ったことで肉体の崩壊が始まったものの神水の無限の再生が彼の肉体を癒していき、今の姿を形作ったこと。

そして、ハジメは長い試行錯誤の末に銃を作り出し、爪熊をはじめとした奈落一階層の敵を殺し、家族の元に帰るために大迷宮の攻略を始めたこと。

奈落でのサバイバル生活をしていく途中に、隣の少女ーユエと出会い彼女を助けて行動を共にしていたこと。そして、彼女と共に力を合わせて番人であるヒュドラを倒したことなど、ハジメが奈落に落ちてから最終階層を攻略するまでの経緯がハジメ自身の口から語られていった。

 

 

「———とまあ、俺らはこの大迷宮を攻略した後、他の迷宮攻略のことを考えてここで準備してしばらく経った時に、お前達がここにたどり着いたってわけだ」

「……………」

 

ハジメによって語られた彼が歩んだ道程。それらを陽和はじっと無言で聞き続け、話終わった後も沈黙する。

しかし、鬱血するほどに、あるいは鱗がギチギチと軋むほどに強く握りしめられた両拳が彼の心情を物語っていた。

やがて、陽和は絞り出すように震える声でつぶやく。

 

「そう、か。大変だったな……確かに、それだけのことがあれば、ここまで変わってしまうのも頷ける」

「………ああ」

「………ハジメ、話してくれてありがとう。辛いことを思い出させた」

 

陽和はハジメに感謝し、謝罪した。

聞くだけでも想像を絶する経験をしたのだと分かったから。それに対してハジメは平然とした顔で首を横に振る。

 

「別に構わねぇよ。確かに辛い事ばっかだったけど、全部がそういうわけじゃねぇから、お前が気にすることじゃねぇ」

「だとしても、お前が一番辛いときに何もしてやれなかったのは事実だ。だから、もう繰り返さない。お前を二度と危険な目には合わせない」

「……………」

 

陽和の強い決意が込められた言葉に、ハジメはしばらく無言になる。彼の瞳に宿る覚悟の炎。それを見た彼は、暫くの沈黙ののちにフゥと息をつきながら、彼の肩に軽く拳をぶつける。

 

「あのな、俺はもう昔みてぇに弱くねぇから、お前に守られるだけなんざゴメンだ。俺だってここの大迷宮攻略したんだ。そんじょそこらの奴にやられるほど弱くねぇよ」

「っっ……そうか、確かにそうだな。お前は強くなった。気配でもわかるぐらいにな」

 

そう言って二人はお互いに笑い合った。

そして、ハジメが徐に外へと歩き始め、彼はカーテンの手前で止まると陽和へと顔だけを振り向かせて言った。

 

「もう身体は動かせるんだろ?なら、お前に見せたいものがある」

「……見せたいもの?」

「いいから、ついて来い」

 

そう言ってハジメとユエはそのまま外へと出てしまう。何が何だかわからない陽和は首を傾げると、隣で呑気に本を読んでいたセレリアに尋ねた。

 

「なぁ、セレリア。あいつは何を見せたいんだ?」

「ん?ああ、それはついていけば分かる。どうせすぐ分かるだろうから、今はついて行けばいい」

「?…おう」

 

セレリアにもそうはぐらかされて頭に疑問符を浮かべる陽和だったが、大人しくベッドから降りた。ベッドから降りて体の調子を確かめている陽和にセレリアは心配そうに顔を覗き込む。

 

「陽和、身体は問題ないか?」

「ああ、久々にベッドで寝れたからか、体がだいぶ楽だ。一人で歩く分には問題ない」

「そうか。なら、行こう」

 

そして陽和はセレリア達の後をついていき、館内を歩いてある場所へとついた。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

「ここだ」

 

 

セレリア達に連れられ、陽和は三階の唯一ある部屋に辿り着く。奥の扉を開けて中を見れば、部屋の中央の床には直径7、8m程の精緻かつ複雑な見事な幾何学模様の魔法陣が刻まれていた。細かい所はだいぶ違うものの、それはどこか『継承の間』でドライグの力を受け継ぐときに使った魔法陣とどこか似ている。

そして、その奥には豪奢な椅子があった。

 

「この部屋がなんなんだ?」

「いいからあの魔法陣の上に立ってみろ」

「?ああ、分かった」

 

部屋を見回していた陽和はハジメに言われるがままに魔法陣の中央に足を踏み込む。

しかし、その瞬間、カッと魔法陣が太陽の如く輝いたのだ。

 

『ッ、なるほど、これがそうか……』

 

何かに気づいたドライグがそう呟くのと同時に、陽和の目の前に突如黒衣の青年が立っていた。

魔法陣が淡く輝き、部屋を神秘的な光で満たす中、陽和の前に立つ半透明の黒衣の青年。その正体に陽和はすぐに思い至った。

 

「オスカー・オルクス……?」

 

継承の時も似たような状況だった陽和はすぐさまその青年の名を呟く。

 

『この姿、久しいな。出会った頃の姿だ。そうか、あいつは映像として残したのか』

 

昔の仲間の姿を数千年ぶりに見たからだろう。ドライグはそれが記録映像の類だと分かってても、懐かしさに若干声を弾ませていた。

 

『試練を乗り越えよく辿り着いた。僕の名はオスカー・オルクスだ。この迷宮を創った者であり、また解放者の一人でもあり、君の中に宿るドライグの戦友の最後の一人だ』

 

オスカー・オルクスが紡いでいく言葉に、最初は「……これも四回目だな」「これ四回は流石に退屈だな」と傍観しながら呟いていた彼らだったが、最後に告げられた言葉に揃って「ん?」と眉を顰める。

その間にも、オスカーの話は続いていった。

 

『この映像が出ているということは、僕達は賭けに勝ったんだろう。ドライグの力は見事“竜継士”に継承されたと思っていいんだよね。もしかしたら、そこにドライグもいるのかな?いいや、いるんだろうね。きっと、彼もこの映像を見ているんだろう』

「ッッこれってまさか、“竜継士”専用のか?」

「……みたいだな」

 

ハジメとセレリアがそう呟く。

彼らが眉を顰めた理由はそれだ。実を言うとハジメ達は魔法陣から流れる映像は、世界の真実を伝える為のものであり、人数分その映像は繰り返されていたが、陽和の時だけ違うセリフが流れていることに驚いたものの、彼の物言いからこれは“竜継士”のみに伝えられる映像だということに気づく。

 

『六つの試練を乗り越え、赤竜帝の力を継承してこの試練も乗り越えた君はもう全てわかっているはずだ。

他の大迷宮で知り、ドライグから聞かされて、君は悩み、怒り、僕達を恨んだかもしれない。

だが、それでも、君が『竜継士』として次代の赤竜帝としての道を選んでくれたこと。僕達の悲願を受け継いでくれたこと。君の覚悟に心から感謝と敬意を示そう。そしてどうか許して欲しい。僕達が果たそうとして果たせなかった全てを君に押し付けてしまう、僕達の不甲斐なさを』

『オスカー……』

 

そう言ってオスカーは深々と頭を下げた。

彼の言葉や表情には深い後悔や悲しみが宿っており、竜継士である陽和に全てを押し付けてしまったことへの大きな罪悪感がある事を伺える。ドライグも彼の言葉に悲痛な声を上げた。

オスカーは顔を上げると、罪悪感が残りながらも安堵するような表情を浮かべる。

 

『でも、これでようやく僕達は最後の希望を繋げることができた。どれだけの時が経ったのかはわからない。今の世界の状況がどうなってるのかもわからない。だけど、僕達はようやく『最後の英雄』である君に想いを託すことができたんだ』

「…………あぁ、そうだな」

 

感慨深そうに呟くオスカーに陽和は目を細め、小さく笑みを浮かべながら、そう同意してオスカーを見る。陽和の瞳には深い敬意が宿っていた。

 

『ドライグ、君にも感謝しなければならない。

遥か古の時より世界を守るために戦ってきた誇り高き赤竜帝。君の揺るぎない強靭な意志と王としての気高い背中に皆がどれだけ勇気づけられたことか。君は僕達解放者の象徴でもあり、真に敬意を表すべき帝王だ。

だから、ありがとう。僕達と共に戦ってくれて。君がいなければ、僕達はまず神と戦うことすら叶わなかっただろうからね』

『……礼を言いたいのは俺だ。お前達と出会えたから俺は……』

「ドライグ……」

 

オスカーからドライグへと向けられたメッセージにドライグは何かを言いかけるだけにとどまり、陽和が心配そうに左手の宝玉を優しく撫でる。オルクスは穏やかに微笑むと、視線を上下に動かしながら言う。

 

『……君は、僕達の希望になってくれた君は、男性かな?それとも、女性かな?もしかしたら、まだ子供かもしれないね。とても精悍な顔つきの青年かもしれないし、美しい女性かもしれない。まぁどんな姿でも構わないよ。どんな君でも、力を受け継いでくれたことには変わらないのだから。

君にはどうかドライグと仲良くなって欲しいんだ。お互いを支え合う相棒として、彼と共に戦って欲しい。

そして、直接会って礼を言えないのは残念だけど、全てを知りながらそれでも神殺しの運命を背負って僕達の想いを受け継いでくれたこと。本当にありがとう』

 

そう言って再び頭を下げて礼を言うオスカー。

その時、ちょうど映像がブレ始める。制限時間が近いということだろう。

ちょうど話を締めくくったオスカーは、最後に満足げに微笑んで言葉を紡ぐ。

 

『どうやら、時間のようだね。

君には最後の神代魔法“生成魔法”を授ける。全ての神代魔法と赤竜帝の力、そして君自身の力でどうか神殺しを成して、僕達が愛する世界を救って欲しい。

君という英雄に、僕達は全てを託そう。

以上で終わりだ。話を聞いてくれてありがとう。君のこれからが自由な意志の元にあらんことを』

 

その言葉を最後に、オスカーの映像はフッと消えてしまう。同時に、陽和の脳裏に何かが侵入してきた。少し痛むが、生成魔法を刷り込んでいるためと分かっていたために大人しく耐える。

やがて、痛みがおさまり魔法陣の光が収まった後、陽和は目を閉じると、小さく微笑んだ。

 

「約束する。貴方の思いはしかと受け取った。あとは俺に任せて見ててくれ」

 

もうオスカーはここにはいない。だが、それでもきっと何処かで聞いているのかもしれない。

そう願って陽和は宣言したのだ。

そして、目を開けた陽和はハジメ達へと振り向く。

 

「ハジメ、見せたかったのはこれであってるのか?」

「いや、あってるというか、確かにそこの魔法陣に立たせて映像を見せるつもりだったんだが……」

「実際に出てきた映像はお前達のとは違ったと。確かにこれは赤竜帝の力を継承した“竜継士”あてに残されたメッセージだったな。

それ以外の者達には大方この世界の真実とか解放者達がたどった結末とかの話じゃないのか?」

「全くもってその通りだ。本当なんでわかんだよ」

「そりゃあまあ、色々と考えれば気づく」

 

平然と言ってのけた陽和にハジメはため息をつくと、「しっかし」と言いながら陽和に怪訝な視線を向けて尋ねる。

 

「話は聞いてたが、お前はマジでこの世界を救おうとしてるのか?」

「ああ、そうだ。俺はそれを成すためにこの力を継承した。セレリアも神を殺して魔人族を解放するために俺とパーティーを組んでる」

「なんでそこまでする?魔人族のセレリアはともかく、俺達はこの世界とは本来関係ない人間だ。この世界がどうなろうと、お前がそこまでする義理はねぇんじゃねぇのか?」

「…………」

 

ハジメの言い分も理解はできる。

ハジメとしては勝手に召喚して戦争しろなんてほざく神なんて迷惑としか思っていないし、この世界がどうなっても知ったことではない。

お前達の世界のことはお前達の世界の住人がなんとかしろ、という切り捨てるスタンスでいた。

本来なら関わることもないことだった。だからこそ、わざわざ他の世界の為に命を賭けて神を殺し世界を救うなんてことをしなくてもいいんじゃないのかと、そう彼は言っているのだ。

 

『……………』

 

ドライグはハジメの心情も頷けるために、何も言わなかった。

だが、ドライグはこの返答を知っている。なぜなら、今の質問はかつて自分がした質問に近い内容だったからだ。だからこそ、ドライグは陽和の意志を知っており、疑っていない。

そして、ドライグ達が見守る中、ハジメを正面から見つめ返していた陽和はくすりと微笑んだ。

 

「確かにお前の言い分もわかる。この世界のことはこの世界の奴らがなんとかするべき問題。そう言い切れば、それで終わりだ」

「だったら……」

「だが、俺はこの世界に来てしまった時点で、無関係じゃいられなかった。俺には赤竜帝の後継者“竜継士”の天職があったからな。表向きは神に敵対し、世界を滅ぼそうとした伝説の邪竜と関わりがあったから、初めから俺はもう他人事ではいられないんだよ」

 

ハジメとは違い、陽和には“竜継士”という天職があった。光輝の“勇者”と同じように、その天職が一度発現して仕舞えば、相応の運命を背負うことになる。

陽和はその結果、理不尽に命を狙われることとなったぐらいだ。だからこそ、もう他所の問題だと無視はできなかった。

 

「どの道、力を継承していなかったら、俺はここまで辿り着けてはいなかったし、どこかでのたれ死んでたことだろうな。

こうしてお前に再会することも叶わず、雫との約束を果たすこともできなくなっていた。

だから、ドライグの力を継承したのは俺としても好都合だったんだ」

「陽和……」

「それにだ。神に対抗するには赤竜帝の力は必要不可欠だ。継承していなければ、雫やお前、そして家族、故郷を守れないからな」

「ちょっと待て。なんでそこで家族が出てくんだ?地球の話は関係ねぇだろ」

「これは俺の推測で同時に確信でもあるが、エヒトはいつか必ず地球に干渉してくるはずだ」

「なっ」

 

ハジメは目を見開く。異世界だけの問題だけかと考えていた彼の事だ。陽和の口から地球にいる家族にも危険が及ぶ可能性があることを知らされ驚愕したのだ。

 

「エヒトは異世界への干渉が可能だ。それがどれだけの規模かは分からない。だが、俺達を召喚できたことから、地球へ干渉することが可能なのは確認できている。そして、ドライグから聞かされた奴の性格から考えるに、もしかしたら、奴は地球にも興味を示し、新しい玩具にするのではないかと推測できる」

「………確かにそう言われりゃ納得もいくが、実際どうなるかはわかんねぇだろ」

「そうだな。実際どうなるかは分からない。だが、もし可能だと仮定してそうなれば、抗う術を持たない俺たちの家族はなすすべもなく奴の悪意に蹂躙される事になる。そんなことは許さない。必ず、俺が奴を倒しそんな未来にはさせない」

 

陽和は拳を握りしめてそう強く断言する。

トータスにいる恋人や親友だけでなく故郷にいる家族までもが狂神の悪意に蹂躙されることは、なんとしてでも避けなければいけない事態だ。だからこそ、それをさせないためにも力の継承は必須だったのだ。

そして、確かにそれも世界を救うことを決意した要因の一つだ。だが、陽和が継承することを決めた最大の理由は———

 

 

「なによりも……俺が、彼らを助けたいと思ったからなんだ」

 

 

陽和は穏やかに微笑みながら、そう言った。

 

ただ助けたい。

 

始まりは、たったそれだけのことだった。

召喚された当初から世界の歪みに薄々気付いており、教会から追われ大迷宮へと逃げ込んだ果てに、ドライグと出会い彼から世界の真実を聞かされ、世界を救うために戦った英雄達の穢れなき強固な意志と鮮烈な生き様に彼は心を動かされた。

 

そして、自分が次代の赤竜帝として“竜継士”の天職を授かり、神殺しの運命と世界の解放を託された。その託された想いに陽和は応えたかった。

 

「俺は、次代の赤竜帝として託された俺自身が彼らの想いを受け継ぎたいと思った。彼らが残した希望の灯火を、消したくはなかったんだ」

 

誰かが彼らの想いを受け継ぎ、願いを果たさなければ、この世界はいつまで経っても狂神の手からは解放されない。これからも玩具として弄ばれるだけだろう。

そんな未来にさせないために誰かがその役目を引き継がなくちゃいけないのなら、赤竜帝として力を受け継いだ自分が引き継ごうと決意したのだ。

 

「俺はこの世界で親しい人ができた。俺を信じてくれる者、俺を慕ってくれる者、俺に託してくれた者。縁を結んだ人達がこの世界にもできた。だから、俺は彼らもひっくるめて全て守りたい。たった、それだけのことなんだ」

 

そう、彼を突き動かしたのは優しさ。

誰かを助けたい。誰かを守りたい。そんなちっぽけなことに過ぎないのだ。

 

「だから俺は力も、想いも、願いも全て受け継いだんだ」

 

全ては守りたいという一心で。

陽和は最後にそう言って、話を締めくくった。

 

「………」

 

ハジメは無言で陽和を見る。

何度も見た炎のような強い意志と覚悟が宿る瞳と穏やか笑みを浮かべているが、同時に決意に満ちた凛々しくもある表情。

無理矢理でもなく、苦しんだ様子もない。本当に彼自身が心の底から望み、本気で助けたいというのがハジメには分かってしまったのだ。

 

(ほんと、変わらねぇのな。お前は……)

 

ハジメは心の内で密かに呟く。

彼は昔からそうだった。昔から変わらなかった。

いつも彼は誰かを助けていた。助けたいと思い彼は動いていた。困っていた人には手を差し伸べていたし、頼ってくる人には力を貸していた。

彼は、底抜けにお人好しなのだ。

勿論、善意一色というわけではない。ハジメを虐めていた檜山達には怒り、的外れなことを言う光輝とはよく対立していた。

だが、それでも彼は困っている人を見捨てられないタチなのだ。己の信念を曲げず、真っ直ぐに貫き通す。そう言う男なのだ。彼は。

 

その優しい在り方は変心したハジメとは違い、世界や自分の存在が変われど変化することはなく、今もなお『紅咲陽和』という人間を突き動かす原動力となり得ていた。

 

そして、そんな心身共に強い彼を、自分は『兄』と思って慕っているのだから。

 

「……」

 

ハジメは困ったようにフゥと嘆息すると呆れ笑いを浮かべる。

 

「ったく、底抜けなお人好しだよお前は。全く変わってねぇ。まぁ、お前ならそう言うと思ってたがな。ただ、いつか後悔することになるかもしれねぇぞ?」

「その時はその時だ。何もしないで後悔するよりはマシだろ?」

「チッ、そりゃそうだがよぉ」

「悪いな、性分なんだよ」

「知ってるよ。何年お前の親友やってると思ったんだ」

「7年ぐらいだな」

「真面目に答えんなよ」

 

ハハハと快活に笑う陽和にハジメはったくと呆れながらも笑みを浮かべる。

久しぶりの親友とのやりとりにハジメも嬉しいのだろう。黙って見守っていたユエとセレリアにはそんな心情が手に取るようにわかった。

一頻り笑った陽和は軽く息をついて落ち着くと、ハジメに尋ねる。

 

「なぁ、ハジメ。お前はこの後は他の大迷宮の攻略って言ってたよな?」

「そうだ。神代魔法を覚えるのが、地球への帰還の方法に一番手っ取り早いだろうからな」

 

神代魔法を覚える事が地球への帰還への近道になるのは合っている。実際、この世界に召喚された際に使われた転移魔法は神代魔法の一つ空間魔法に分類される物だ。

ドライグから話を聞いて、保証はされているため間違いはないだろう。

 

「いつ出発するとかは決めているのか?」

「正直、早く地上に出たいのは山々なんだがな、ここには学べるものも多いし、拠点としても最高だからな。今はここで色々と準備しているところだ」

「そうか。う〜ん、俺達はどうすっかなぁ」

 

ハジメの今後の指針を聞いた陽和は腕を組んで少し悩む。確かにここは拠点としては最高だ。ここにとどまり、準備をするのもいいだろう。

だが、陽和としてはなるべく早く神と決着をつけたいと言うのも本音だった。

だから、陽和はパーティーメンバーでもあるセレリアに尋ねた。

 

「なぁ、セレリア。お前はどうしたい?」

「私か?私はまぁお前の判断に任せるつもりだが……」

「だが?」

「ハジメにも提案されたんだが、彼らと一緒に行動しないか?」

「ハジメ達と?」

 

そう言って振り返った陽和にハジメは頷く。

 

「ああ。お前らは神の討伐前に残りの大迷宮を攻略するんだろう?なら、ここで別れるんじゃなくて、四人で世界を回って大迷宮を攻略しないかってことだ」

「………う〜ん、確かにそれは有難いが、お前らはいいのか?俺とセレリアは厄介ごとを抱えているんだぞ?」

 

陽和は邪竜の後継者として人間族の国と教会から異端者として指名手配されているし、セレリアも魔人族の領土から脱走しており、魔人族に追われている。二人とも追われる立場にある曰く付きなのだ。世界を旅している間に、それぞれの勢力から襲われるのは目に見えている。

だからこそ、そんな厄介ごとには巻き込みたくないという意味で陽和はハジメに尋ねたのだ。

しかし、ハジメは鼻で笑うと歯を剥き出しにきて言い切った。

 

「ハッ、そんなこと知ったことかよ。敵対する奴は全部薙ぎ倒す。そんだけの話だろ。

それに俺としても親友がいてくれるんなら心強い」

「……本当逞しくなったなぁお前」

 

陽和はハジメの逞しさに少しだけ驚きつつ、ユエへと視線向けながら彼女に尋ねた。

 

「ユエはいいのか?折角恋人と二人旅できたかもしれないのに」

 

ハジメは兎も角、ユエはどう思っているのか気になった陽和は彼女にそう尋ねた。

ユエは無表情のままコクリと頷いた。

 

「……ん、大丈夫。ハジメの言ったことだし、それにハル兄は私も信頼しているから」

「ハル兄?」

 

了承してはもらえたものの、その後に言われた渾名に陽和はポカンとする。

こうしてちゃんと話すのは初めてだが、なぜほぼ初対面かつ300も年上の彼女に兄などと言う愛称で呼ばれるのだろうか?

そんな疑問を浮かべポカンとする陽和にセレリアが笑いながら捕捉した。

 

「ふふ、なんでもハジメがお前のことを兄貴のように思ってるらしくてな、ハジメの兄なら自分にとっては義理のお兄ちゃんだと言うことらしいぞ」

「セレリア⁉︎テメェ言うなって…!」

「別にいいだろ?隠すようなことでもあるまいし」

「恥ずいだろうがっ‼︎」

 

セレリアの言葉にハジメがギョッと慌てながら声を上げる。どうやら、彼は自分が陽和を兄のように思っていることは知られたくなかったようだ。

 

「ぷっ、あはははははは」

 

しかし、慌てふためくハジメに対して、陽和は一瞬驚いた後、吹き出して笑い声をあげたのだ。突然のことにハジメは呆気に取られる。

腹を抱えて笑った陽和はしばらくして落ち着くと、目の端に浮かんだ涙を拭う。

 

「いやー悪い悪い。なんだハジメも俺のことをそう思っていたのか。どうやら、俺達は本当に気が合うみたいだな」

「は?なに言ってんだ?もってどういう?」

「俺もお前のことは弟みたいに思ってたからな」

「は?」

 

さらなる事実に呆気に取られるハジメを無視して、陽和はユエに手を差し出す。

 

「改めてユエ。これからよろしくな」

「ん。よろしく」

「あと、ハジメのこと恋人として助けてくれてありがとうな。親友として礼を言いたかった。これからもあいつのことをよろしく頼むよ」 

「ん、当然。私はハジメの恋人だから」

「頼もしいな」

 

そして、ユエにそう言った陽和は改めてハジメへと向き直り、手を差し伸ばした。

 

「それじゃ、お言葉に甘えて俺らとお前らでパーティー結成だ。これからまたよろしくな、ハジメ」

「……お、おう」

 

手を伸ばした陽和に先ほど言われた衝撃が落ち着いていないのだろう、ハジメは少しどもっていた。その様子に陽和は嫌な笑みを浮かべた。

 

「どうした〜?まさか兄貴のように思ってた俺から弟だって思われてたことに照れてんのかぁ?この照れ屋さんめ」

「う、うるせぇなっ‼︎そんなんじゃねぇ‼︎」

「照れなくてもいいんだぞ〜?お兄ちゃんはそんな弟も許すからなぁ」

「悪ノリしてんじゃねぇよ‼︎テメェまた俺のこと揶揄ってるだろ⁉︎」

「当然。だってお前いじるの楽しいし」

「あ゛あ゛ぁぁ‼︎‼︎」

 

昔のように陽和がハジメを揶揄い、ハジメがドスの効いた声をあげる。しかし、ハジメも本気で怒ってはいない様子だ。

これこそが、彼らの日常だった。

そして、一頻りハジメを揶揄って楽しんだ陽和は咳払いをする。

 

「コホン。では、話が脱線したので戻してと」

「……ほぼテメェのせいだろうが」

「まぁまぁ久々なんだから許せって。……まぁ、それは置いといてだ。改めて、これからまたよろしくな、ハジメ」

 

笑みを浮かべて改めて手を差し伸べながらそう言った陽和に、ハジメも落ち着きを取り戻すと陽和と同じように笑みを浮かべて、彼の手を力強く握る。

 

「ああ、改めてよろしくな。陽和」

 

ガシッと強く握られた手は、まるで二人の友情の固さを示しているようだ。

 

 

こうして、暗き大地の奥底で、紅咲陽和と南雲ハジメは無事再会を果たすことができたのだった。

 

 





陽和とハジメが遂に再会できたぜ。

あとは、奈落編は後1話か2話で終わるかなー。それでその後は、少し地上組の方に移るかもしれん。

と言うわけで、また次回もよろしくお願いします。では、さらば!

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