ライズの次はサンブレイクときましたか!なんか名前だけでも不穏な展開になりそうですねー。
来年の夏かー。今からもう楽しみだ。
それと、この作品とは関係ない話なんですがアンケートを取ります。
実は今、僕のヒーローアカデミアのSSの設定を考えててモンハンのモンスターの能力を主人公の個性にしたいんですけど、どのモンスターにしようか書きたい候補が多くて正直悩んでいるんですよ。
だから、この際アンケートでどういうのを見たいのかなぁと知りたくてアンケートを取らせていただきます。
本当に、軽い気持ちでやっていいので大丈夫ですよ〜。
と言うわけで、最新話どうぞ。
ハジメと再会し、パーティー再結成を決めた後、ハジメとユエに館の部屋を次々と案内されて一息ついたその日の晩、陽和は露天風呂に浸かっていた。
「あ゛ぁぁぁぁ〜〜〜〜気持ちいぃ〜〜」
天井の太陽が月へと変わり淡い光を放つ様を見ながら、陽和は全身を弛緩させて緩み切った声をあげていた。
ここは、陽和が寝かされていたベッドとはまた別の場所の屋外にあり、大きな円状の穴とライオンぽい動物の彫刻が口を開いた状態で縁に鎮座しているまさしく大浴場のような場所だ。
彫刻の隣には魔法陣が刻まれており、そこに魔力を注げばライオンもどきの方から温水が飛び出す仕組みだ。どこの世界でも、水を吐くのはライオンというのは決まっているようだ。
「あぁ〜大迷宮でまさかこんな温泉に入れるなんてなぁ〜〜〜」
頬を緩めながら陽和はそう言う。
確かにこんな大迷宮に極上の温泉があるとは誰が思うだろうか。
これまでもセレリアと行動するようになってから何度か風呂に入っていたものの、それは陽和が錬成で岩を変形させてそこに水を溜めて炎で温めていたモノであり、見張りもしなくてはならなかったため、それほどゆっくりと浸かることなどできていなかった。
常々、足を伸ばして湯船にゆっくり浸かりたいと陽和は思っていたのだ。
それが思わぬところでようやく叶ったのだから、日本人であり、生粋の風呂好きでもある陽和が頬を緩めるのは仕方のないことだろう。
『随分と気持ちよさそうな声を上げるな。相棒』
弛緩しきって風呂に首まで浸かる陽和にドライグが話しかけた。
陽和は緩み切った表情のままドライグに応える。
「当たり前だろ〜〜。だって、温泉だぞ?日本人なら、誰もが好きな古き良き文化なんだ。気持ち良いに決まってるだろ〜〜」
『……いくらなんでも緩みすぎじゃないか?』
「別にいいだろ〜。オルクスの攻略を終えたんだから、これぐらいのご褒美は許してくれ」
『まぁ別にどうこう言うつもりはないが……』
「はぁぁ〜〜〜最高だぁ〜〜〜」
ドライグが何か言っていたが陽和はまた呑気な声をあげて風呂を堪能する。
「そういえば、ドライグは温泉入ったことあんのか?それともやっぱドラゴンだから水浴びか?」
『温泉か……『ウェルタニア』には風呂の習慣があったからな。俺も温泉には入ったことがあるぞ。湯に浸かるのは中々に気持ちよかった』
「ドラゴンサイズだろ?相当でかかったんじゃねぇのか?」
『いや、そうでもないぞ。小さな湖が天然の温泉になっていてな。世界的に見ても有数の巨大温泉だったんだ』
「へーさすが異世界。そんなものがあんのか。しかし、ドラゴンが温泉か……」
湖規模の温泉。想像するだけでもさぞ気持ちよさそうだ。そして、そこに全身を浸かり温泉を堪能するドライグの姿。……なんか、シュールだ。
帝王としての威厳ある姿しか知らない陽和からすれば、温泉に浸かる姿はちょっとどころかかなり意外だ。
『………おい、なんか変なこと考えてないか?』
「気の所為だ」
思考を察知したのだろう、そう不審気に尋ねたドライグに陽和は言葉を濁し視線の先にある滝へと視線を送る。
「しかし、よく設計されてるなぁ。この温泉は」
視線の先に滝があるようにしているのは、中々に風情があるもので陽和はオスカーの建築の才能に感心の声を上げる。
しかし、オスカーをよく知るドライグはそうではなかったようで………
『確かにデザインに関しては素晴らしい。オスカーは能力だけでなく、センスも高かったのは確かだ。だがなぁ……はぁ……』
「どうした?ため息なんてついて」
何かを思い出してため息をついたドライグは心配そうに尋ねた陽和に、心底残念だと言うふうに応える。
『オスカーはネーミングセンスが酷いんだよ。性能もデザインも素晴らしいのだが、ネーミングセンスだけは本当に酷くてなぁ……ヘスティアも一歩間違えれば、あいつが考案した名前をつけられてるところだっただろうな』
「ちなみにどんな名前をつけようとしたんだ?」
『………………………………………………………………………………………………“神ぶっ殺すドラッ剣”』
「……………今なんて言った?」
とてつもなく長い沈黙の後に告げられた名前に、陽和は目を丸くしながら思わずそう尋ね返してしまった。
ドライグはまたため息をつくと、再びその名を口にする。
『………はぁ、気持ちはわかるから、もう一度だけ言う。オスカーが考えた名前は………“神ぶっ殺すドラッ剣”、だ』
「………聞き間違えじゃなかったのか。……いや、それは、あぁ、うん…………酷いな」
『ああ、他のメンバーもたいして変わらなくてな。いくつかいい案があったのだが、しっくりくるものは結局なく、俺が後継者に名前を決めさせると言うことで、落ち着かせたんだ』
「お、おう」
あの時は大変だった、と昔を思い出しながらしみじみと語るドライグに陽和は頬をひくつかせることしかできなかった。
きっと名付けの背景に壮絶な戦いがあったのだろう。ドライグの声音からはそんな苦労がありありとうかがえた。
さっきの記録映像ではあんなにも心優しそうな青年として映っていたのに、このネーミングセンスの酷さは一体どうして……と思わざるを得なかった。
『………まぁ、とにかく、相棒がいい名前をつけてくれて助かったよ』
「……ああ、俺も自分で名付けれて心底良かったと思ってる」
確かにそんなに前をつけられては、使う方にしてはたまったものではない。と言うか、絶対に改名させると断言できる。
だって、恥ずかしいし。
尊敬する英雄の一人の酷すぎるネーミングセンスに驚きつつも、再び無言になり温泉でくつろいでいると、突如ペタペタと足音が聞こえてくる。脱力しきっていた陽和はハジメが来たんだろうなぁと思いつつ顔を上げてそちらへと振り向いた。
「ハジメ、ここの温泉はいいなぁ〜。極上じゃ、ねぇ……か……?」
陽和は振り向きその先にいた人物を見て固まる。
何故なら、来たのは彼ではなくー
「ふむ。いい湯だな」
体にバスタオルを巻いただけのセレリアだったのだから。
彼女はタプンと音を立てながら湯船に入り平然と陽和の隣に腰を下ろすと温泉に満足げな声を上げた。
淡い月明かりと仄かな湯気が、褐色の肌を照らし、白銀の髪が湯に浮かび広がる。
「………」
月に照らされた白銀の髪や、湯に濡れ火照り始めた肌、鎖骨から胸に沿って落ちていく水滴など、湯に浸かる彼女の姿はやたらと艶かしくて陽和は思わず視線を逸らしながら、彼女を非難する。
「……なんで入ってきたんだ。俺入ってるだろ」
ソレに対しセレリアは笑いながらその非難を肯定して意志を示す。
「ふふ、そうだな。だが、私とて早く湯船に浸かりたかったんだ」
「理由になってねぇよ」
そう突っ込みながら、陽和は視線を横に逸らし続ける。そうして、しばらく無言の時間が流れた後、セレリアが月を見上げながらふと呟く。
「なぁ、陽和」
「ん?」
「あの時、私を助けてくれてありがとう。お前がいなければ、私はここに辿り着けなかった。お前があの時助けてくれたから、今の私があるんだ」
「大袈裟だな。そんなこと気にしなくていいのに」
「ああ、お前ならそう言うだろうな。だから、これは私が勝手に言うことだ。気にしなくていい」
陽和の返答を予測していたセレリアはそう言って、表情を赤らめると、さらに続ける。
「あの時、私を守る為に立ち上がったお前の背中は、その、すごく、カッコよかったぞ。……思わず、惚れてしまうぐらいにな」
「……彼女持ちにそれ言う?」
セレリアの言葉に陽和は思わず振り返りながら、複雑な表情を浮かべた。だって、彼女の表情が本気としか思えないからだ。
潤んだ瞳に火照って赤みを増した頬。熱に浮かされた表情に陽和は本気だと理解してしまった。
彼女も陽和に彼女がいることは知っている。なのに、それを言ったと言うことは、あえて言ったということになるから。尚のこと、心臓に悪い。セレリアは面白そうに、しかし妖艶に笑った。
「ふふっ、冗談だ。ただ、カッコよかったのは事実だぞ」
「……そ、そうか」
正面からそう言われたことに陽和は思わず目線を逸らして気恥ずかしそうに言う。
陽和から見てセレリアは魅力的な女性だ。
褐色の肌によく映える白銀色の髪。雫と大した差がないほどの高身長とすらりと伸びた長くしなやかな脚。出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる抜群のスタイル。雫よりも大きいであろう豊かな胸。
どこをとっても、セレリアは間違いなく世間一般で言う美女に該当する。
それに、人格、戦力共に陽和もまた彼女に全幅の信頼を置いている為、そんな仲間に真っ向からそんな事を言われては、いくら彼女持ちとは言え妙に意識して目線を逸らしてしまうのは仕方がないこと。
………ただし、それはあくまで男側の主張であり、彼女からすればきっと「なに他の女に目移りしてんのよ」案件だ。
雫もきっとその例に漏れないだろう。それで、泣かれてビンタでもされたら陽和の心は間違いなく折れる。
そして、そう目線を逸らし思考を巡らす陽和をセレリアは無言で見上げると、「だから」と言い更に頬を赤らめるととんでもない行動に出る。
「これはほんの礼だ。受け取れ」
「は……?」
セレリアが陽和に両手を伸ばして頬に触れるとそのまま自分の顔を近づけてきて、彼の左頬に自分の唇を重ねてきたのだ。
突然のことに陽和は目を見開いて硬直してしまう。
「ん…ふふ」
そして、唇を離し陽和から離れようとしたセレリアは自分の唇をぺろりと舐めて妖艶な笑みを浮かべる。それには、流石の陽和も硬直していたのもあって彼女の表情に釘付けになってしまう。その時、更なる追い討ちがかけられた。
「あ……」
「ッッ⁉︎⁉︎⁉︎」
なんと、セレリアが体に巻いていたバスタオルが解けたのだ。そうすれば、当然彼女の美しい肢体が露わになり、押さえつけられていた豊満な胸が、たゆん、と大きく揺れた。
「す、すまんっ‼︎」
揺れたソレをはっきりと見てしまった陽和は、直後顔を真っ赤にしながらそう謝罪して勢いよく彼女から距離を取って、背中を向けるとタオルを腰に巻きながら、勢いよく立ち上がる。
「俺はもう上がるっ‼︎それと、さっきのは本当にすまんっ‼︎‼︎出来る範囲で侘びはするっ‼︎‼︎」
口早に言うと陽和は驚異的な速度で湯船から上がって、さっさと浴場から出て行った。
「…………」
一人残されたセレリアは落ちたタオルを拾うと、体に巻かずに縁に丸めて置いて首まで深く浸かる。
「………ふぅ、やっぱり駄目だったか……」
セレリアは分かっていたと言うふうに呟く。
こうなることは半ば予想できていた。大迷宮での激戦を終えて、漸く一区切りがついたのだ。僅かな時間だが今まで溜め込んでいた想いをどうしても伝えたくて、今回の行動に出た。
だが、結果はこの通り。大胆に迫り、尚且つ予想外なことがあってもなお陽和は自分に靡かなかった。
「………余程、彼女の事を愛しているんだな。お前は」
それだけ恋人の、雫のことを一途に愛しているのだろう。
道中でも彼女のことをどれだけ愛しているかなども話には聞いていた為に、こうなる結果も予想できていた。
でも、それだけ一途に愛されている彼女のことをセレリアは一人の女としてー
「…………羨ましいなぁ」
あれだけ魅力的で頼もしい男に一途に愛され大切にされているのだから、雫もさぞかし幸せなのだろう。
今まで恋人がいなかったセレリアにとって、陽和とは理想の恋人だったのだから。
セレリアはクスリと笑うと腕をググッと伸ばす。
「……ま、私は二番目でも構わないんだがな……」
彼女としては別に一番でなくてもいい。
そもそも、彼女がいると分かっていながら想いを伝えたのだ。
どうしてもこの想いを秘めておくことはもうできなかった。
あの時、自分を守って死にかけ、そのあと再び自分を助けてくれたあの背中に彼女は心を奪われてしまったのだから。
▼△▼△▼△
「……はぁ……はぁ……」
脱衣所に駆け込んだ陽和は未だ顔を赤くして荒い息を繰り返す。
「セレリアのやつ……なんだって、あんな急に……」
息を整えた陽和は体をタオルで拭いながらそんなことを呟く。
まさか、あそこまで露骨に好意を寄せられ、あまつさえ頬にキスまでされるとは思っていなかった。
そして、最後。あれは事故ではあったものの、それでもガッツリと見えてしまいそれまでの彼女の艶かしい姿や色気を感じさせる表情も相まって、陽和の理性が揺らいだのだ。
(………正直、やばかった……)
陽和とて年頃の男子。
恋人と身体を重ねたとはいえそれはたった一度だ。ここに辿り着くまでの一ヶ月はあまりそういったことを考える余裕はなかったものの、道中で風呂から上がってきた彼女の姿に悶々としていたのも事実だ。
さっきも雫という恋人がいなければ、勢いに任せて手を出していた可能性も十二分にあったのだ。それを耐え切った陽和の鋼の理性を、よく頑張ったと褒めるべきだろう。
そして、何度も深呼吸して昂りかけていた劣情を抑えて冷静になった彼は、着替え始める。
『なんだ相棒、セレリアとは契らないのか?』
「……いきなり何言ってんのお前」
着替え始めた時に、セレリアが来てからずっと静観していたドライグが突然そんなことを言ったのだ。陽和は突然の物言いにジト目になる。
しかし、それでもドライグは平然と話を続けた。
『いや、あそこまで好意を寄せられているんだ。受け入れて契ってもよかったんじゃないのかと思ってな。よく手を出さなかったものだ』
「……………恋人がいるのに、そんなことしたら駄目だろ」
『別に相棒の年頃なら色を知ってもいいだろう。それに、恋人が一人と決まっているわけでもあるまい』
「…………一応聞くけど、ドライグが地上にいた頃はハーレムは多かったのか?」
世界や時代が違えば、今の日本のように一夫一婦制ではなく一夫多妻の形もあったのだろうと推測して尋ねたのだ。
『ああそうだな。当時の王族や貴族共は大体正室に加えて愛人とかも多くいた。それに、俺が英雄と認めた者達も多くの異性に囲まれていたな』
「やっぱりかー」
予想通りの答えに陽和は頭を押さえてため息をついた。予想はしていたが、やはりドライグの異性の感覚はそちら側だったらしい。
『なんだ?相棒の世界では違うのか?』
「そうだな。一夫多妻制を容認してる国は少ない。今は一夫一婦制が主流だ。だから、恋人がいながら、他の女性とそういうことをするのは浮気にあたる。世間からも後ろ指を刺されるし、周囲の目も冷たくなるだろうな。俺はそんなことをして雫を悲しませたくないんだ」
『ふむ、そういうものなのか。しっかりしているんだな』
「……まぁ雫のことは大事だからな。今もずっと俺の帰りを待ってくれているんだ。なのに、他の女と寝たなんて最低だろう?」
『……なるほどな。確かにそれも頷ける考えだ』
自分の気持ちの他に雫のことも考えて陽和はそう言う。確かに、セレリアが自分に好意を向けてくれたことは悪い気がしなかった。かといって、彼女と肉体関係を結ぶとはいかない。
それは、雫に対する最悪最低の裏切りに他ならないからだ。
と、そこでふと気になったことがあった。
「そういえば、ドライグって…恋人、というか番いの竜はいたのか?」
『……………………ああ、いたな』
しばらくの沈黙の後に、そう答えたドライグの言葉には静かな悲しみが宿っていた。それに気づいた陽和はすかさず謝る。
「……すまん、話したくないなら話さなくていい」
『……悪いな。いつか話せる時が来たら、話そう』
「ああ」
『……まあとにかく、相棒は真面目な性格な分、女難で苦労するタイプだな。強大な力は危険な力も呼び寄せるが、同時に異性も魅了する。相棒なら多くの異性に囲まれて、人間の言葉でいうモテモテ、というやつになりそうだ』
ドライグは無理やり話題を戻してそんなことを言う。
こっそりと陽和の記憶を覗いたことはあるが、恋人である雫以外に陽和に好意を抱いている女性が何人かいるのをドライグは確認している。
それには陽和は思わずげんなりとした顔を浮かべる。
「いや、ハーレムに憧れがないわけじゃないが、リアルでそうなると面倒ごとにしかならないだろ?」
『そうかもな。ただ、今の段階でも相棒の様子からして、間違いなく修羅場と言うものは起こると簡単に予想ができるぞ』
「………勘弁して」
人間や亜人達の人種族の間で時折繰り広げられる男女のあれこれの修羅場。今まで何度かその光景を見たことがあるドライグは、平然とそんなことを陽和に言う。
しかし、一途に雫を愛している陽和にとっては悪い報告以外の何でもなく、肩を落とし若干暗くなった。
………ちなみに、余談だが、この時ちょうど、遥か上の表層のとある階層で迷宮攻略中だった一人の美少女剣士が、何かを察知して怖い顔をしてパーティーメンバーを震え上がらせたとかなんとか。
そうして、着替え終わり脱衣所から廊下に出た陽和。この短時間で色々あった為にこの後すこし外に出て涼もうかなと思った時、彼に声がかけられる。
「お、陽和」
声をかけてきたのはハジメだ。ラフな格好でこちらに歩いてきていた。
「ハジメか。ユエは一緒じゃないのか?」
「あぁアイツは今、セレリア用の服を作っているところだ。邪魔するのも悪いからな、外に散歩しようかと思ったんだ」
ユエは服を作るのが好きなそうで、今はどうやらセレリアの服を作っているところらしい。セレリアも陽和の記憶が正しければ、ボディスーツしか持っていない為、服は必要不可欠なのだ。
「へぇ、じゃあちょうどいい。少し散歩しようぜ」
「おう」
そう言って、陽和はハジメと共に館の外へと出た。
▼△▼△▼△
人工の月明かりが夜になった隠れ家を淡く照らす中、陽和とハジメは人工月を肴に庭にあるベンチに座って酒を酌み交わしていた。
「まさか、こんな地下で酒が飲めるなんてなー」
「いいもんだろ?宝物庫に保管されてたんだよ」
ハジメが作ったであろうガラス製のコップに、赤紫色のワインであろう酒を注いで飲んでいたのだ。しかし、なぜこんな大迷宮の最奥で酒があったのか。それはハジメの発言にもあった“宝物庫”が関係している。
ハジメの右手の人差し指に嵌め込まれた1cm程の紅い宝石の着いた指輪はオスカーが残したアーティファクトであり、“宝物庫”と言う名前のソレは宝石の中に作られた空間に物を保管しておけるという便利アイテムなのだ。
指輪に刻まれた魔法陣に魔力を流し込めば、半径1m以内の場所ならば任意に出し入れすることが可能らしい。
正確な大きさはわからないが、それでも相当量の物が入るらしく、ハジメがこの奈落で作ったアーティファクト類もここに保管されている。
酒もここに保管されていたそうだ。
そして、咎めるものがいないのをいいことに、酒を一気に煽った陽和は、氷の入ったグラスをカラカラと揺らしながら笑みを浮かべる。
「くぅ〜〜、美味いなぁこれ!」
「だろ?俺も初めて飲んだ時は驚いたもんだ」
初めて飲む酒の美味しさに思わず舌鼓を打った陽和にハジメも同意した。
そして、ハジメからボトルを受け取り酒を注いだ陽和は今度は一口だけ飲むと、軽く息をついて呟く。
「しっかし、今でも信じられねぇよ。まさか、ハジメに彼女ができるなんて。しかも、こんな大迷宮で」
「………そうだな。俺も正直驚いているところだ。だが、ユエのお陰でここまでこれた。ユエが居なかったら、俺はもう生きていないだろうし、例え生きていたとしても全く違う俺になっていたかもしれない」
ハジメは心底安堵したかのように呟いた。
彼は奈落の底で飢餓や苦痛の果てに変心したと言ってしまった。敵は容赦なく殺すという、以前の彼ならば想像すらしていなかった考えを持つようになっていた。
そして、力もだ。魔物の肉を食らって取り込んだ力はハジメを強靭な肉体へと変えてこの大迷宮でも生き抜ける強さを与えた。
力も心も以前とは大きく変化した彼だったが、ユエという少女と出会うことで人の心を失わずに済んだのだろう。そう推測した陽和は、穏やかに笑った。
「……そうか。それなら、尚更ユエには感謝しないとな」
「ああ」
そう言って、再び酒を飲んで空になれば注いで繰り返していき談笑する。
そして、ある程度飲んだ後少しだけ真剣な表情を浮かべた陽和はハジメに尋ねる。
「なぁ、ハジメ」
「なんだ?」
「………白崎のことはどうするんだ?薄々気づいてたんだろ?」
「…………やっぱり、そうなのか?」
陽和の問いかけにハジメもそう尋ね返した。
ハジメは薄々だが、香織が自分に好意を持っているんじゃないかと思っていたのだ。日々の言動もそうだし、オルクス大迷宮に入る前に二人だけで交わした会話でも自分を守ると言ってくれたこともあった。
それだけのピースがあれば、そう考えるのも、当然だ。そして、今の陽和の問いかけでその考えは確信に至ったのだ。
「そうだ。アイツらにはネタバラシになって悪いが、白崎はお前のことをお前に会う前から惚れていた。正確にはあの土下座の時からな」
「……あの時からか」
ハジメも思い出す。そう言えば、香織もハジメをあの土下座の時から知っていると言ってたのだ。
「白崎はそのあと雫に色々と話していたらしくてな、雫が俺に連絡をしてきて俺と雫の二人でハジメと白崎をどうにかして会わせようと話してたんだ」
「まさか、やたらと俺と白崎を二人きりにさせようとしてたのは……」
「そういうこと。お前らをくっつける為だな。割と悩んだんだぜ?お前らはお互いめんどくさかったから」
「うるっせぇな……」
笑いながら言った陽和にハジメはそう不貞腐れながら酒を一気に煽る。しかし、彼は“毒耐性”の技能のせいでいくら酒を飲んでも全く酔わないようなので、酔って逃げることもできない。陽和はそんなハジメの様子を見て微笑むと、月を見上げる。
「ま、白崎や雫には悪いが、俺としてはお前が幸せであればいいんだ。隣に幸せにしてくれる人がいるのなら、それで。ま、今までの苦労がパーになったのは少し辛いがな」
「謝んねぇぞ?俺は」
「ハハッ、そんなもんいらねぇよ。俺達の勝手な押し付けだ。勝手にやって、勝手に失敗に終わった。そんだけの話だ。恋愛なんて、誰にも予想できないんだからさ」
「……………お前だって経験ないだろうが」
「残念、今は彼女いるんだぜ?」
最もなことを平然と言ってのけた陽和に苦し紛れの反撃をしようとそう言ったものの、すでに10年来の片想いが報われて晴れて彼女ができた陽和にはなんの痛手もなく得意げに返された。
ハジメはそういえばそうだったと思い出す。
「……そういえば、八重樫とくっついたんだったな」
「おう、王宮から出る前にな」
「良かったじゃねぇか。ずっと片想いだったもんな。ようやく初恋が実ったってわけか」
「ああ、本当にな」
ニヤニヤと言ったハジメに陽和は笑みを浮かべて返す。ハジメとしてはいつもからかってばかりだから、反撃できるかもと思っていたのにこの反応だ。幸せそうな顔しやがって、と思わず毒づく。
だが、そう毒づくもののハジメもまた陽和に彼女ができたことは嬉しかった。
なぜなら、ハジメはずっと前から陽和自身から好きな人がいると聞いていたからだ。それで、どこが可愛いとか、こう言うところが惚れたとか、雫の好きなところをあげては、片想いを拗らせつつあったのを見てきた。
光輝との一件以降雫と電話越しでしか話せないことに、ハジメ自身ももどかしく思っていたところだ。
だからこそ、兄のように慕う親友の初恋がやっと叶ったのだから親友として弟として嬉しいに決まってる。
「まぁ何にせよ、おめでとさん」
ハジメは陽和の肩をポンと叩き祝いの言葉を送った。陽和は一瞬驚くも、次いで満面の笑みを浮かべる。
「ああ」
満面の笑みを浮かべる陽和に、本当に幸せそうだな、と思ったハジメはふとあることを思いつく。そして、嫌らしい笑みを浮かべると陽和に尋ねた。
「……そういや、セレリアとはどうなんだ?」
「…っ、はぁぁぁぁぁ———」
ハジメの問いかけに陽和はピタッと固まると、酒を片手に持ちながらもう片方の手で頭を抱えるととてつもなく重く暗いため息を吐いた。
「お、おいどうした?」
予想外の反応にハジメは少し戸惑いつつ恐る恐る尋ねた。陽和はゆっくりと顔をあげると困り果てた表情で答える。
「………さっきセレリアが風呂に入ってきてな、頬にキスされた」
「マジか」
陽和が気づいていないだけで、セレリアが陽和に惚れていると言うのは外部の人間であるハジメ達からすればすぐに気づいたので、どうなったのかと思って尋ねたのだが、まさか風呂に突入して頬とはいえキスするなどと誰が思うだろう。
ハジメも思わずそんな言葉が口をついて出てしまった。
「……マジだ。しかも、あいつ冗談だって言ったけど俺に惚れたって言ったんだぞ?」
「冗談、には聞こえねぇな。キスのことを考えると」
「あれはマジで言ってやがる。俺には雫がいるってのに」
「でも、無下にはしないんだろ?」
「…………そりゃまぁ、ここまで一緒に戦ってくれた、大切な仲間だしな」
そう歯切れが悪い言い方をする陽和。
彼とて、セレリアに好意を向けられて悪い気がしなかったのも事実。全幅の信頼を置ける頼れる仲間と思っている彼女からの突然のアプローチを、陽和は彼女がいるからと無下にはできなかったのだ。
ハジメはそう答えた陽和を横目で見ながらふと思う。
(英雄色を好むように、色もまた英雄を好む、って言うからなぁ。地球にも多いが、この世界でも陽和に好意を寄せている奴は何人かいたし……)
陽和は地球にいた頃からそうだが、モテていた。学校でも毎年ラブレターをもらったり告白されたり、バレンタインのチョコも多数の女子から貰っていたのだ。
成績優秀、容姿端麗、スポーツ万能。この三拍子が揃っているのだからモテるのは当然と言うものだ。だから、ぶっちゃけると今更新たな女性に好意を向けられたと言われたところで驚かない。最も、覚えている限りここまで大胆な行動に出たのは彼女が初めてだが。
親友として何か力になれるようなことがあるか、とハジメは思考を巡らせるものの、
(………うん、面倒クセェな。成り行きに任せちまおうかな)
有り体に言うと、面倒くさい。
親友とはいえモテモテの野郎の贅沢な悩みの解決に力を出すのもどうかと思うのだ。一人の男として。
だから、ハジメはグビグビと酒を飲みながら、面倒臭さを隠さずに言った。
「………まぁお前ならなんとかなんじゃね?」
「………お前面倒クセェって思っただろ?思ったよな?」
「さて、なんのことやら」
顔を逸らして濁したハジメに陽和は更に詰め寄る。
「おいこっち向いて言ってみろや。適当に流したよな?」
「……思ってねぇぞ?贅沢な悩みしやがって、これだからイケメンは、とか思ってナイカラ、ウン」
「思ってんじゃねぇか‼︎‼︎ぜってぇー面倒くさがっただろ‼︎‼︎‼︎」
「……お前もしかして酔ってる?」
「酔ってねぇよ」
「いやそれ、酔ってる奴が言う常套句だぞっ⁉︎」
「うるせぇな‼︎‼︎ちょっと話に付き合えやぁ‼︎」
「うわめんどくせっ‼︎テメェ絡み酒かよ⁉︎」
酔わないハジメは兎も角、陽和は少し酒が入って酔ったのだろうか。顔は少し赤いしテンションも心なしか高いように見えた。
その後、ハジメは酒が入ってテンションが上がった陽和に困った顔をしながらも付き合い談笑をして夜が更けていった。
▼△▼△▼△
陽和とセレリアがハジメとユエと合流してから一ヶ月が経った。
ハジメ達と合流した後、陽和達はハジメ達と同じように拠点をフル活用しながら己を鍛え続ける日々を送っていた。
広大な地下空間。緑光石の淡い灯火だけが頼りの薄暗い空間で、ドゴン、という重い檄音が幾度となく響いていた。
壮麗なレリーフの彫られた巨大な柱がずらりと規則正しく並んでいたはずの場所は、その半分以上が粉々に砕かれたり、横に倒れたりしている。そんな空間を、赤と紫の二つの光が駆け回っていたのだ。
その二つの光は凄まじい速度で動きながら、幾度となく激突してその度に重い音を響かせている。
そして、彼らが一度距離をとった瞬間、凄まじい冷気を秘めた巨大な紫氷の刃が無数に解き放たれる。薄暗い地下空間を駆ける無数の紫の三日月は赤い光へと迫る。
直後、ザンッ!と、炎纏う剣が振り抜かれ、三日月の悉くが炎に焼き斬られた。
氷三日月を放った紫光の人影は、特に気にした様子もなく赤光へと再び接近していき、赤光の人影とぶつかると今度は拳と脚での近距離での凄まじい肉弾戦の応酬が始まった。
ドガガガガとありえない速度と音量でぶつかる拳と脚だったが、不意に紫光の人影が赤光の人影に力負けして吹き飛ばされた。
吹き飛ばされた紫に赤は背中から広がる翼を広げると一瞬にして距離を詰めて喉元手前に貫手を突き立てた。
「参った。今回も私の負けだ。陽和」
もう勝負はついたと判断した紫光の人影──紫氷の鎧を纏っていたセレリアは笑うと両手をあげて降参の意を示す。
「でも、前よりは良くなったんじゃないか?」
指を突き立てた赤光の人影ー陽和は貫手を解くと、彼女に手を伸ばすと彼女を引っ張って立ち上がらせた。
セレリアは砂埃をパッパッと今の陽和の姿を見ながら呟く。
「お前こそ、その形態を使いこなしつつあるな」
今の陽和の姿は大きく異なっていた。
顔も含めて全身が鎧のような紅蓮の甲殻に包まれているのだ。部分竜化した時の姿よりも重厚で、分厚い甲殻に覆われ各部に宝玉が埋め込まれている姿は、赤竜帝の姿を鎧の形に変えたかのようなものだった。頭部もヒーローものの兜をかぶっているように見える。
『“竜帝化”の人型もだいぶ安定してきたじゃないか、相棒』
ドライグも感心の声をあげる。
彼の言うとおり、陽和のこの鎧形態は“竜帝化”の竜人形態であり、ヒュドラを圧倒した赤竜の姿が『竜帝形態』で、この姿がその竜人形態というわけだ。
最初は形態移行に手間取っていたものの今では自在に変化できるようになっている。そして、このオルクス大迷宮の地下で一ヶ月ドライグの指導の元ガッツリと鍛え続けた結果、魔力の消費や回復量などの効率化のおかげで陽和は“竜帝化”の時間を人型竜型両方とも一ヶ月ほど持続できるようになっていたのだ。
「そうだな、大分安定した。大体の魔物なら倍加なしで倒せるようになったよ」
『ああ、相当強くなった。セレリアの成長も凄まじいが、相棒は俺と出会ったばかりとは比較にならないほどに強くなったな』
“竜帝化”を解除して元の姿に戻った陽和にドライグはそう称賛する。実際、この一ヶ月での陽和の成長も凄まじいものだった。
力が解放でき“竜帝化”を使えるようになった陽和はそれだけでもステータスが上昇したものの、決して驕ることはせずにセレリアやハジメ、ユエと共に鍛え続け高めていった。
そして、その一ヶ月の猛特訓の結果上昇した陽和のステータスは現在こうなっている。
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紅咲 陽和 17歳 男 レベル:61
天職:竜継士 職業:冒険者 ランク:金
筋力:21130 [竜帝形態+10000]
体力:21110
耐性:21090
敏捷:21110 [竜人形態+10000]
魔力:21130
魔耐:21100
技能: 赤竜帝の魂[+倍加][+部分竜化][+譲渡][+竜帝化]・全属性適正[+火属性効果上昇][+光属性効果上昇][+風属性効果上昇][+雷属性効果上昇][+発動速度上昇][+魔力消費減少][+高速詠唱][+持続時間上昇][+連続発動][+回復魔法効果上昇]・全属性耐性[+火属性効果上昇][+光属性効果上昇][+風属性効果上昇][+雷属性効果上昇][+火属性無効][+炎熱吸収]・物理耐性[+治癒力上昇][+衝撃緩和][+身体硬化]・複合魔法[+火属性効果上昇][+光属性効果上昇][+高速詠唱][+風属性効果上昇][+雷属性効果上昇][+持続時間上昇][+連続発動][+魔力消費減少]・剣術[+斬撃速度上昇][+抜刀速度上昇][+刺突速度上昇]・体術[+金剛身][+浸透頸][+身体強化][+闘気探知]・剛力[+重剛力]・縮地[+重縮地][+爆縮地][+震脚][+無拍子][+瞬動][+残像]・先読[+先読II]・高速魔力回復[+回復速度上昇][+魔素吸収]・気配感知[+特定感知][+範囲拡大][+特定感知Ⅱ][+範囲拡大Ⅱ]・魔力感知[+特定感知][+範囲拡大][+特定感知Ⅱ][+範囲拡大Ⅱ]・言語理解・竜炎・竜光・臨界突破・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作][+効率上昇]・想像構成[+イメージ補強力上昇][+複数同時構成][+遅延発動]・生成魔法
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もはや何もいうまい、としか言いようがないだろう。魔物の肉を食らって10000を超えるステータスを持つハジメをも凌駕するほどだ。
このステータスを見たハジメは「安定のチート野郎め……」と肩を落としていた。
陽和とセレリアは凄まじい速度で90から99階層の周回を繰り返しており、組手稽古をする傍ら魔物を片っぱしから片付けていってを繰り返して、隠れ家で休んで回復すればまた周回に出るという理想の訓練環境で鍛え上げていったのだ。
セレリアもレベルは相当上がっているはずなのだが、いかんせんステータスプレートが無いため確認しようがなかったのだ。
まぁそれでも陽和の見立てなら、平均10000はありそうだが……。
更にいうとこの一ヶ月で彼らの装備も充実した。“錬成師”であるハジメと“生成魔法”を使いこなす陽和との合作で彼らはいくつかのアーティファクトを作り上げた。
例えば、セレリアが身につけている肘まである紫の狼の装飾が施された白銀色の籠手。これもアーティファクトであり、世界最高硬度の鉱物アザンチウム鉱石を使用した装甲で覆われており、名前を“ヴァナルガンド”という。指部分はないという籠手にしては珍しい形状だったが、これは、彼女が獣化した際に強力な武器である鉤爪を使えるようにするためだ。彼女の脚部、膝から下のブーツ型のアーティファクト、こちらは名前を“フロスヴィルト”と言い、同じくアザンチウム鉱石を使った装甲で作られており、強力な脛当てにもなるし、脚撃にも活かせるものとなっている。これで彼女の肉弾戦の戦闘力は上昇したと言えるだろう。
尚且つ、“生成魔法”という鉱物に魔法を付加できる神代魔法のお陰で“ヴァルナガンド”には“金剛”と“浸透頸”“高速魔力回復”が、“フロスヴィルト”には“瞬動”と“空力”“残像”が付加されている。
どちらも手の甲と膝に小さな橙色の宝玉が埋め込まれていて魔力ストックにもなっている。
ハジメならば習熟度や適正の問題で神結晶以外の鉱物には複数付与ができなかったが、陽和の技量ならば最大四つまでの複数付与が可能になっていた。アザンチウム鉱石には二つか三つがが限界だ。
そして、陽和に関しては“ヘスティア”があるし“竜帝化”によって鎧を纏えるようになったので装備はそれだけで十分だった。
せいぜい変わったことといえば、彼の左耳に付けられている金の枠に嵌め込まれた翡翠色の勾玉のイヤリングだろう。
これは神水が出なくなり膨大な魔力を内包することしかできなくなった神結晶の一部を加工したものだ。
最初、ハジメが神結晶の一部を錬成でネックレスやイヤリング、指輪などのアクセサリーに加工してユエに渡したのを聞いて自分も“錬成”で作ったものだ。いざという時の魔力ストックにもなるし、このイヤリングには魔力補充の他にも、“念話”を付与して込められた魔力に比例して遠方と会話できるようにしたり、念の為の防御魔法“天絶”を付加したり、陽和オリジナルの回復魔法“ヒール・ブレス”が付加されている。
後、今はつけてはいないがアザンチウム鉱石と大迷宮内に生えていた上質な木材で作られた狐のお面。これは、彼が地上では指名手配されているというのもあっての変装用アーティファクトである。これには、万が一にも砕かれないように“金剛”が、任意の相手の認識を誤認させる闇属性魔法の一つ“幻夢”が、そして変声の機能が付加されている。眼の部分の薄緑のレンズには遠くの景色を見るための“遠見”が付加されている。陽和渾身の変装道具である。
他にも、ハジメが魔力駆動二輪、つまり魔力で動くバイク“シュタイフ”を作ったと聞いてバイクに乗りたかった陽和はハジメに作り方を教えてもらいながら自分も魔力駆動二輪“白桜”を作った。
そして、雫に渡す為に神結晶で作り青色に加工したアクセサリー一式を密かに持っていたりする。更にいうと彼女に渡すように刀も作っていた。
ハジメがアザンチウム鉱石で刀身のベースに陽和が自分の鉤爪や鱗を混ぜ合わせて作り、薄紅色に鮮やかな花吹雪が散りばめられた見事刀が出来上がった。鞘も陽和の鱗や甲殻をベースに使っており、彼女に合わせて色を変えて白と薄紫色の鞘を作って陽和とハジメは一振りの日本刀を完成させたのだ。
銘を“龍刀・薄明”だ。陽和とハジメは満足のいく出来にガッツポーズをした。
そして、これは余談だが、ドライグ曰く最高峰のアーティファクトである“赤竜帝の宝玉”は宝物庫の役割も担っているらしく、宝物庫がなく肩を落としていた陽和はとても喜んだ。
セレリアには銀と紫の結晶で形作られた三日月型のネックレスが首から下げられておりこちらには陽和と同様に魔力ストックの他に“念話”と“ヒール・ブレス”が付加され、更に彼女には魔人族であることを誤魔化すために魔力を込めれば耳を人の形にできる、陽和と同じく変装用も兼ねた“幻夢”が付加されている。
「そろそろ夕食の準備しないとな。今日はここまでにするか」
「ああそうだな。私もいい感じに腹が減ってきたよ」
鍛錬を終えた二人は横並びに立つと隠れ家の方へと向かう。歩いていると、セレリアが横から陽和の横顔を見上げながら尋ねる。
「今日は何を作ろうか?」
「んー、まぁ明日出発の予定だからなぁ。ちょっと豪華に行くか」
「確かにそれがいいな」
陽和達一行の食事担当は陽和とセレリアだ。
なぜなら、ハジメとユエは料理が下手だからだ。ユエに至っては王族だった故か、とにかく酷い。もう何を作っているのかわからないような冒涜的なものを作ってしまうのだ。
一度、ユエとハジメの合作料理を食べたことがあるが、その日は不味くて食べきれなかった。
それからは、料理上手の陽和とセレリアが担当するようになった。しかし、ユエはことあるたびに何かを入れようとするので二人の悩みの種だ。
そして、陽和の言葉にもあった通り、彼らは明日、ついにオルクス大迷宮を出て地上へと戻る。
漸くの旅立ちに地上の光に飢えている彼らは今か今かと楽しみにしていた。陽和やセレリアは勿論のこと、ハジメとユエも少し前から表情が更に明るくなっていたほどだ。
「ふふ、陽和の料理は美味いからな。魔物肉もよくあそこまで改良したものだ」
セレリアは陽和の料理を思い出しながら、感心して呟く。彼女の言った通り、陽和はこの一ヶ月で見事魔物肉の味の改良に成功したのだ。
多少違いはあるものの、その味はそこらの肉料理と遜色なく魔物肉の不味さを知っていたハジメとセレリアは感動して涙を流すほどだ。
「ホント苦労した。どれだけ試行錯誤したことか」
「ああ本当に色々してたものな」
毎日毎日魔物肉を前に何度も試行錯誤して美味へと近づけようとしていた陽和の頑張りを見ていたセレリアは、しみじみと感慨に浸る陽和に微笑んだ。
「今日は腕によりをかけて作らないとな」
「そうだな。ふふ、共同作業か。楽しみだ」
「………」
セレリアの言葉に陽和はなんとも言えない表情を浮かべる。
実は、あの風呂での一件以降セレリアのアプローチが始まったのだ。時折風呂場には乱入してくるし、鍛錬後に汗で濡れて火照った姿を見せたり、共に調理をする際にこんなことを言ってきたりと、露骨なアピールが、もうすごかった。
陽和とて彼女を大切な仲間だと思っている以上無下にはせず、やんわりと何度も言ってはいるのだが…………恋する乙女は止められないということなのだろう。
陽和はセレリアには何も答えずに複雑な表情のまま隠れ家へと戻っていった。
その日の夜は宣言通りに今までで一番豪華な夕食になり、
そして、翌日。彼らはいよいよ出発の日を迎えた。
三階にある“生成魔法”を授けられた時に使った魔法陣の上に彼らは立っていた。
「漸く出発か。この一ヶ月、色々とあった。なぁ、セレリア」
「あぁ本当になぁ……」
陽和はそう言いながら、ジト目をハジメとユエに向ける。
ハジメは気まずそうに目を逸らしたが、ユエはどこ吹く風と受け流している。セレリアも陽和の意見に同意で二人にジト目を向けていた。
実を言うと、この二人。恋人同士であり既に大人の階段を登っているのだ。それに関してはまだいい。だが、問題はそこではなく……
「どこでも好き放題に盛りやがって……俺ら耳いいんだぞ」
「全くだ。毎晩毎晩よくあそこまで励んでたものだ」
「うぐっ」
「……ちょっと何言ってるかわからない」
陽和とセレリアの呆れが多分に含まれた言葉にハジメは言葉を詰まらせ、ユエは某芸能人のようなことを言って言い逃れようとしていた。
そう、彼らは風呂や寝室だけでなく、この館の至るところで致していやがったのだ。ハジメ曰く、ユエに押し切られたと言うが受け入れた時点で言い訳は聞き入れない。
どこかしこで致しており、五感が発達している陽和達にとってはユエの悩ましい声だけでなく、聞きたくない変わった水音まで聞こえてくることや、嫌な匂いまですることだってあった。
正直にいえば、この一ヶ月は生殺し状態でもあったのだ。二人とも年頃であり、ユエの悩ましい声に触発されて悶々としていることだって多々あった。
階層の周回を繰り返していたのはそう言った理由もあり、盛ってる二人の情事の音を聞かないために、かつ悶々とした気持ちを戦いで発散させるためでもあった。しかし、その間もセレリアのアプローチもあったので手を出さずに耐え切った陽和の理性には脱帽しかない。
「と、とにかく!全員、準備はいいな?」
強烈なジト目に耐えきれなかったハジメは少し声を上げながら、3人を見回す。
今のハジメの格好は白のシャツに袖無しのグレーのセーター、黒いズボンにロングコートだ。露わになっている左腕はアーティファクトの黒い義手であり、右目はヒュドラの戦いで無くなったらしく、魔力の流れや強弱、色を見ることができる神結晶を使った魔眼石を使った義眼を詰め込んでおり、常に光るらしく薄い黒布を使った眼帯を右目につけてある。太腿にはベルトが巻かれておりハジメの主武装である二丁拳銃ドンナーとシュラークが装着されていた。
黒コートに白髪に義手、そして眼帯の姿に陽和は「マジ厨二で草www」と腹を抱えて笑ってハジメを絶望させて膝から崩れ落ちさせたのはまた別の話だ。
「………ん、大丈夫」
ユエはフリル付きの白いシャツに黒い短いスカートとハジメとは対照的な白いロングコートに頭には黒いリボンが乗っかっている格好だ。
「ああ。全く問題ない」
セレリアは黒のタンクトップに黒のホットパンツを着ており、白いファー付きのグレーのパーカーを羽織っている。両腕と両脚には“ヴァルナガンド”と“フロスヴィルト”が装着されている。へそ出しの格好は寒いのだろうかと思うが、氷使いの彼女には問題ないのだろう。
「いつでもいけるぞ」
陽和の格好は一言で言うと和装だ。
白を基調とし、裾は緋色と桃色のコントラストが目立ち、紅白の紐に、袴は薄紅色で端には両脚に一輪ずつ白い桜の意匠が際立つ。
髪はこの大迷宮に入ってから一度も切っていないせいか、うなじあたりまで伸びている為、今は白い紐で結んでポニーテールのようになっている。そして、顔の横には白面に赤と金の意匠が施された狐のお面がある。左腰には陽和の愛剣である“ヘスティア”が紐で結ばれて提げられている。
袖や袴の裾から覗く四肢は赤い鱗で作られた籠手や足袋のような形の膝まである脚甲が装着されている。しかし、太さは陽和の腕や足ぐらいのサイズで陽和が鱗を使って作ったものである。ちなみに、籠手は手の甲部分に丸い穴が空いており、それは手の甲の宝玉を出せばピッタリとはまるように作られている。
これは人の目があるところで戦う場合のことを考えての装備でもある。人目があるところで“竜帝化”するわけにもいかないので、それを考えての措置だ。
しかしそれは建前で陽和の場合は和装の方が落ち着くのが本音だ。家でも私服は和装の方が多いからといった理由もある。
そして、その姿に、ハジメもコスプレ感あるなと笑われた意趣返しに言おうとしたものの、似合いすぎて違和感がなかったので反撃ができなかった。
そして、準備が整って気合十分といった彼らを見渡したハジメは魔法陣を起動させながら静かな声で告げる。
「………俺達の武器や力は、地上では異端だ。聖教教会や各国が黙っていると言うことはないだろう」
「ん……」
「ああ」
「そうだな。特に俺は一番やばいな」
「兵器類やアーティファクトを要求されたり、戦争参加を強制される可能性も極めて高いだろう。陽和に至っては軍が動くことは確実だ」
「ん……」
「確実にあり得るな」
「ああ、あり得る。俺は既に世界の敵と認識されている。教会や国と敵対することもあるだろう」
『その通りだ。邪竜と認識されている俺達は正体がバレれば、確実に戦うことになるだろう』
陽和とドライグの言葉にハジメは犬歯をむき出しにして獰猛な笑みを浮かべると一呼吸をして右拳を前に突き出す。
「だが、俺達なら負けねぇ。俺がお前達を、お前達が俺を守る。それで俺達は最強だ。全部薙ぎ倒して、世界を超えるぞ‼︎」
「んっ‼︎」
「ああっ‼︎」
「おうっ‼︎」
ハジメの言葉に各々が力強い返事をして笑みを浮かべると、ハジメに倣って拳を突き出す。そして、四つの拳がコツンとぶつかると同時に魔法陣の輝きが更に強くなって、カッと光が爆ぜ彼らの視界を光で満たした。
光が晴れればそこには誰もおらず、赤い光の残滓だけが残っていた。
遂に始まったのだ。
彼らが自分達の意志で己の願いを果たす物語。
赤竜帝を継いだ英雄とありふれた職業を持つ親友とその仲間達の世界を救う物語が。
一応これで一区切りつきましたね。次回からは主人公サイドではなく雫達地上組の話を書くつもりです。
そして、ここで補足説明なのですが、セレリアの新しい服装はぶっちゃけるとダンまちのベートの格好が一番近いです。と言うか、武装以外はほとんど同じ。
陽和の和装の格好はベースはタマミツネ防具をイメージしました。
ミツネSをベースに、頭部だけガンナーの狐のお面に変更した感じですかね。
神社の息子だから和装キャラにしたかったんです。“竜帝化”するとガッツリ全身鎧を囲む形にはなりますがね。
まぁざっくりですが、二人の衣装説明はこんな感じです。
アンケートの方も気軽にお願いします!
と言うわけで、次回お会いいたしましょうさようなら!