竜帝と魔王の異世界冒険譚   作:桐谷 アキト

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ブルックの町に住む全男性に告げる。

自身の尊厳が大事ならば、至急各々の家に退避するべし。
窓も完全に閉じ切り、布団に包まりヤツに見つからないようにせよ。

彼女達に何もするな。手を出そうものなら、その者は地獄を見ることになる。

繰り返す。ブルックの男達よ。何もするな。彼女達に手を出すな。己の尊厳が大切ならば。

奴が、奴が来てしまうぞ。股間潰しの女神が………漢女達の女神(スマッシュゴッデス)が。


…………今回はあの悲しい事件が起こってしまう話です。男にとっては地獄のあの事件です。今回は短めです。







26話 その事件の名はスマッシュ

 

 

 

『ごめんなさい。生まれたばかりの貴女にこんな役目を押し付けてしまって。貴女にはこんな重圧を背負わせたくなかった』

 

 

()()が生まれたあの日、ボクを産んでくれた()()()は、ボクを抱き抱えながら涙交じりにそう謝ったのを覚えている。

周りには何人かの人間の姿があって、更にはとても大きな、見上げるほどの大きな体の赤い竜がいたんだ。

ボクを見下ろす人達は、涙を流したり、悲しい表情を浮かべたりしていたけど、同時に何かを託すような視線もボクに向けていた。

 

生まれたばかりのボクには何が何だかわからず、結局その真意を問う前に、お母様に使命を与えられ一振りの剣にその身を封じられたんだ。

 

それから、ボクは本当に気の遠くなるほどの年月を、かの王と共に地下で過ごした。

その時のボクは、生まれたばかりかつ、封じ込められていたせいか自我というものが希薄であり、意思疎通も取ることすらできなかった。

 

ボクと共に地下である人を待つことになった王は、ボクに何度も語りかけてさまざまな話をしてくれた。時折、眼鏡をかけた人間も来てくれては彼らで楽しげに話をする姿もあった。

 

やがて、話しかけてくれた人間も来なくなって、かの王も肉体が朽ちて魂を宝玉に移した。それでもなお、王はボクに何度も話しかけてくれた。

 

卵から孵る雛を心待ちにしているかのような。いつか話せる日を楽しみにしているかのような。王の言葉からは、そんな優しい慈愛の想いが伝わってきた。

 

それから、どれだけ時間が経ったのか分からないほどの年月が過ぎた時、

 

 

——————漸く、君が来てくれた。

 

 

夜空のような深い黒髪に、優しさと勇気を秘めた赤黒の瞳を持つ君が来てくれた。

あの広間に来てくれた君を見た時、ボクは直感したんだ。

 

この人こそが、ボクが仕えるべき主人であり、この世界を救ってくれる英雄なんだって。

 

そうして、君はかの王と言葉を交わして、王の力を受け継ぐことを決意した。

ボクは、その時の彼の言葉を一言一句全て覚えている。彼の言葉には嘘偽りがなく、心の底からそう思っているのだと理解したよ。

そして、力を継承し彼の髪が夜空の黒から炎の如き勇壮な赤へと、瞳が秘めた輝きはかわらないけど鮮やかな翡翠へ変わった。それからしばらく、かの王と少し話した後、ボクのことをようやく握ってくれた。

掌から伝わる彼の熱は、とても暖かくていつまでも触れていたいと思わせるような温もりがあった。そして、彼が血を垂らし真の適合者として繋がった時、ボクは彼の心を感じた。

 

彼の心はとても温かくて、とても優しくて、とても心地が良かったんだ。

 

激しく燃え盛り万物を焼き尽くすような劫火の熱さではなく、暗闇を優しく照らし迷い人を導くような穏やかな灯火のような温もり。

ボクは、彼にそんな熱を感じた。

 

それだけじゃない。

 

彼はボクに名前もくれた。

 

いつか巡り合うであろう主に名付けてもらいなさいと、お母様達から言われていた通りにかの王が彼に名付けを託した。

そうして付けられた名前は彼の世界において聖火と守護を司る護り火の女神の名前だった。

 

嬉しかった。そうあれと願われて生まれ剣となったボクに、奇しくも聖火と守護を司る女神の名前を授けてくれたんだから。

 

使命を与えられたボクに、彼は存在意義を、そして戦う意味もくれたんだ。

 

だからこそ、ボクはその名に恥じぬように在るよ。

 

 

我が名は()()()()()

 

 

かの王と共に英雄に至るであろう君の支えとなるべく大いなる母より生まれた◾️◾️。

 

 

ボクは、解放の意志を受け継ぐ英雄である主と世界を愛した誇り高き王と共に世界を救ってほしいと願いを託された者。

 

 

いつの日か、真の意味で君の力になれる日を心待ちにしているよ。

 

 

誰よりも心優しき『最後の英雄』にして、誰よりも誇り高き『赤竜帝』。

 

 

そして、愛しき我がマスター。

 

 

 

 

 

———紅咲陽和君。

 

 

 

 

 

▼△▼△▼△

 

 

「………ん……ぁっ……」

 

 

朝日の輝きと鳥の囀りで陽和は目を覚ます。

陽和は寝ぼけ目を擦りながら上体を起こすと、大きくあくびをして伸びをした。

 

「ふわぁ〜〜〜あぁ、よく寝れた」

 

グググッと体を伸ばした陽和は、久々にゆっくりと寝れたことに安堵の声を出す。

ここまで静かにかつ安らかに眠れたのは本当に久々だ。奈落時代は夜毎に聞こえてくるハジメ達が致す音だったり、樹海では葉っぱや木の上で寝ており、寝床は固かった。

だからこそ、今回のように静かに過ごせてかつ柔らかいベッドで寝れたというのは本当に久しぶりだった。まぁ、問題は一つ残ってはいるが、寝る時よりもむしろ寝起きの時なので、今は問題ない。

そして、ベッドの上で体をほぐした陽和はふと考え事をする。

 

「そういえば………あれは……夢、だったのか?」

 

うろ覚えだが、誰かが自分の名前を夢の中で呼んでた気がする。だが、誰かが分からない。顔も影になっていて見えなかったし、声も聞き覚えがないものだ。

自分は、誰かの記憶を見ていたのだろうか?だとしたら、あり得る可能性はドライグなのだが、どうもドライグではないような気がした。

 

「一体、誰の記憶なんだ?」

 

いくら考えても答えは出てこず、首を傾げる陽和に相棒が声をかけた。

 

『おはよう相棒。朝からどうしたんだ?』

「おはよう、ドライグ。実はな、誰かの記憶らしき夢を見たんだが、その誰かが分からなくてなぁ」

『ふむ。何か特徴はないのか?』

「特徴ねぇ。……あ、そういえば」

 

ドライグにそう尋ねられ、陽和はいくつか思い出した。

 

「確か、お母様から使命をもらったって言ってたな。後、そのお母様らしき人がその子に謝ってもいた。どっかの貴族か?」

『お母様、か。顔は見れたのか?』

「いんや、見えなかった。ただ……」

『ただ?』

 

陽和は一度口を閉じると、穏やかな微笑みを浮かべカーテンの隙間から見える青空へと視線を向ける。

 

「……すげぇ優しい声だった。とても思いやりに満ちていた声で、きっとその人はとても優しいんだろうなぁ」

『………そうか』

「……その娘であろう子も、きっと良い子なんだろう。何を言っていたのかは、ほとんどわからなかったけどな」

『……………』

 

肩をすくめて笑いながらそう言った陽和に、ドライグは何か思い当たる節でもあるのか、考え込むように黙り込んだ。

 

「もしかして、ドライグは何か知ってるか?」

 

魂がつながり度々ドライグの記憶を垣間見ていた陽和が、もしかしたらドライグが過去に出会った人達なのかと思いそう尋ねるも、返答は陽和の予想とは違った。

 

『………いや、すまないな。心当たりはないな』

「……そうか、お前が知らないなら誰なんだろうな」

『さぁな。とはいえ、相棒がそう思うのなら悪い奴ではないのだろう』

「それは違いないな」

 

彼女達が良い人であることは間違いないと、それだけは断定できる。

そう笑い合った時、隣のベッドのシーツがモゾモゾと動く。

 

「………んぅ……うぅん………」

 

艶かしい声を上げながら、シーツから顔を覗かせるのは白銀の髪。次いで現れるのは、整った顔立ちの少女だ。言わずもがなセレリアのことである。

彼女は薄く開いた瞼から橙色の瞳を覗かせながら、モゾモゾとシーツから顔を出して陽和に寝惚けた目を向けた。

 

「んぅ……陽和ぉ……もう、起きたのか……早いなぁ」

「おはようセレリア。まだ早いから寝てていいぞ?」

「んぅぅん……なら、そうさせてもらおぅ……」

 

まだ完全に目覚めていなかったセレリアは、陽和の言葉に迷いなく頷き再び夢の世界へと飛び立った。ごろんと寝転がりシーツを抱き抱えると陽和に背を向けて寝息を立てて寝てしまった。

だが、ここで問題が一つ発生する。

 

「はぁ、全く毎度毎度。俺の身にもなってくれよ」

 

陽和は露骨にため息をつく。

最近陽和を悩ませている問題が今ちょうど発生している。

彼の視線の先ーセレリアの格好はタンクトップとパンツのみという実に悩ましい格好であり、青少年的に実に目に毒な格好をしているのだ。

これが、奈落のオスカーの屋敷で過ごし始めてから野営するとき以外はずっと続いているのだ。寒さに耐性のある彼女だからこそ、なるべく薄着で寝たいと言う考えなのだろうが、彼女自身のスタイルがシア以上のため、色々動くとまぁ…なんと言えばいいか……豊かな果実が服から溢れそうなのだ。それに、形のいい尻も見えてしまうので、本当に目に毒である。

そして、付け加えると彼女は寝相が悪いほうだ。布団なんて良くずらしてしまうので、シーツで隠れないこともザラにある。

もしも、これで煩悩に負けて手を出したとしても陽和ならばいつでもウェルカムなセレリアのことだ。平然と続きを促してしまうだろう。そうなっては、事後になって陽和は雫への罪悪感で倒れてしまう。

だから、目の保養にもなる絶景を前に、陽和は目を逸らしながら自分が使っていたシーツを被して視覚的な遮断をいつも試みているのだ。

シーツを被してなんとか対処した陽和は、外を見ながら呟く。

 

「…………とりあえず、朝風呂に行くか」

 

日課になっているシャワーと朝風呂。

以前は朝練でかいた汗を流したり、気分を整えたりする目的だったが、セレリアと行動を共にするようになってから新たに加わったもう一つの目的も果たす為に陽和はラフな格好に着替えて仮面を被り、風呂の空き時間を確認するために廊下へと出た。

 

『………なぁ、相棒よ』

「なんだ?」

『……一途を貫くのもいいが、あそこまでアプローチしてるんだから、いい加減受け入れてやれ。でないと、相棒はそろそろ甲斐性無しのヘタレと呼ばれることになるぞ?』

「………黙ってろ」

 

陽和は1日が始まって早々相棒に揶揄われることに青筋を浮かべつつそう一言言って、一階に向かった。

その間、心の中で相棒の冷やかしが鬱陶しかったのは言うまでもない。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

それから更に時間が経過して、全員が目を覚まして朝食を食べる為に部屋を出て食堂に降りてきた陽和達を見た宿の女将さんがニマニマとした笑みを浮かべ、

 

「おはようございます、昨晩はお楽しみでしたね?」

 

マジでそんなことを言い放った。

その目には隠す気のない好奇心の色が宿っており、隣に立つ女の子も同様の笑みを浮かべている。正直、二人のいかにもな態度に陽和は目覚めて早々イラッと来たものの、一度深呼吸をついて落ち着くと返す。

 

『おはようございます。別にそういうのじゃありませんよ』

 

そう返して、陽和達は食堂に入り早々に席に着くと、昨夜の夕食同様好奇の視線に晒されており、陽和達は手早く朝食を食べ部屋に戻る。

そして、部屋に戻った後、陽和達はそれぞれ用事を済ませることにした。陽和とセレリアの部屋に集まった三人に陽和は予定を話す。

 

「とりあえず、俺とセレリア、ユエとシアで必要なものの買い出しに行くか。ハジメは何か済ませたい用事があるんだろ?」

「ああ、ちょっと作っておきたいものがある。構想は出来ているし、数時間もあれば出来るはずだ。ホントは昨夜やろうと思っていたんだが……何故か妙に疲れてできなかったんだよ」

 

チェックアウトは昼なのでまだ数時間、時間の余裕があるハジメは部屋で済ませておきたい用事がある為残ることになり、ユエとシアの二人にジト目を向けながらそんな事を言った。

昨夜何があったかは、聞くと面倒臭そうなので陽和達は当然のようにスルーする。

 

「あ、そ、そうでした。ユエさん。私ちょうど服を見ておきたかったんです。いいですか?」

「……ん、問題ない。私は、露店も見てみたい」

「あっ、いいですね!昨日は見ているだけでしたし、買い物しながら何か食べましょう」

 

ハジメの非難の視線からサッと視線を逸らし、きゃいきゃいと買い物の話を始めるユエとシアは阿吽の呼吸で話題を晒すと、そそくさと部屋を出ていった。

 

「…………あいつら、実は結構仲良いだろ」

 

ハジメが立ち去った二人に虚しい呟きを零すも、陽和達は揃って笑みを浮かべるだけだ。

 

「じゃ、俺らも行くか」

「そうだな。じゃあ、ハジメ、留守番任せたぞ」

「………おう」

 

そうして陽和達もユエとシア達の後を追って部屋を出ていった。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

ハジメのジト目から逃亡を図ったユエとシアに続いて、陽和とセレリアも再び町に出ていた。

まだ、昼頃までは数時間かかると言ったところなので、彼らは昨日のうちに立てていた予定通りに動く。

 

彼らの目的は、食料品関係と道具類の調達だ。それと、セレリアの服だ。

セレリアは奈落時代に着ていたボディースーツと、ユエお手製の服の二つしか持っていない。男物の服ならば数はそれなりにあるのだが、やはりセレリアは自分に合った服が欲しいようだ。そして、道具店や食料品店がこの時間に混雑するのは昨日の観光でチェック済みなため、まず服屋に向かうことにした。

キャサリンのマップは本当に素晴らしく、冒険者向きの店があり、しかも普段着もまとめて買えるという点で、二人はその店を即決した。

二人がその店に足を運べば、その入り口にはちょうどユエとシアがいた。どうやら、二人も服から先に選ぶつもりだったらしい。

 

「お、二人も最初は服か?」

「……ん、ハル兄も?」

「ああ、俺らはセレリアの服を先にな」

 

陽和達はそんなことを話しながら、さっそく店内に入る。その店は、流石キャサリンがオススメするだけあって、品揃え豊富、品質良質、機能的で実用的、されど見た目も忘れずという期待を裏切らない両店だった。

ただ、そこには……

 

「あら〜ん、いらっしゃい?可愛い子達ねぇん。来てくれて、おねぇさん嬉しいぃわぁ〜。た〜ぷりサービスしちゃうわよぉ〜ん?」

 

化け物がいた。

身長2m強、全身に筋肉という天然の鎧を纏い、劇画かと思うほど濃ゆい顔。禿頭の四箇所から長い髪が一房ずつ生えており、頭の天頂で複雑にゆわれている。まるで天に昇る龍の如き頭頂から真っ直ぐにさかまきながら伸びた髪の先端には、可愛らしくピンクのリボンが結ばれていた。

動くたびに全身の筋肉がピクピクと動きギシミシと音を立て、両手を頬の隣で組み始終くねくねと動いている。服装は………フリフリのフリル。丸太のような腕と足、バッキバキに割れて隆起した腹筋が露わになっていた。

もうやばい。何がやばいって、存在の全てがやばい。あまりにも冒涜的な男女の性別を凌駕した奇怪生物がそこにはいたのだ。

 

セレリア、ユエとシアはその怪物を見た瞬間に硬直する。シアはすでに意識が飛びかけていて、ユエは奈落生物以上に見える化け物の出現に覚悟を決めた目をしている。セレリアは、冷や汗を流してどう逃げようか考えていた。

 

「あらあらぁ〜ん?どうしちゃったのお嬢さん達。可愛い子がそんな顔してちゃだめよぉーん。ほら、笑って笑って?」

 

どうかしているのはお前の方だ。笑えないのはお前が原因だ!というか、近づかないでぇ‼︎と盛大にツッコミ、泣き喚きたい衝動に駆られたが、三人はなんとか耐える。人類最高レベルのポテンシャルを持っている三人だったが、この化け物には何故か勝てる気がしなかった。

何故か、陽和は平然としていたが。

しかしだ。なんというか物凄い笑顔で体をくねらせ接近する化け物に、ついユエとセレリアは呟いてしまった。

 

「……人間?」

「……怪物」

 

その瞬間、化け物が怒りの咆哮をあげた。

 

「だぁ〜れが、伝説級の魔物すら裸足で逃げ出す、見ただけで正気だがゼロを通り越してマイナスに突入するような化け物だゴラァァァアアアア‼︎‼︎」

「ご、ごめんなさい……」

「す、すみませんっ」

 

ユエとセレリアがふるふると震え涙目になりながら後ずさる。シアは、へたり込み……少し下半身が冷たくなってしまった。

それを見かねた陽和が彼女達を庇うように前に立って怪物に話しかける。

 

『すまないな。貴女のような方は初めてお会いしたみたいで、連れは少し驚いてしまっていただけなんだ。気を悪くさせてしまったな』

 

憤怒する意味不明な奇怪生物を前に平常通りの対応をした陽和に、セレリア達が後ろで勇者を見るような目で驚愕に大きく目を見開いた。

彼女達が驚く中、化け物は陽和の謝罪に再び笑顔を取り戻し接客に勤しんでくれた。

 

「いいのよ〜ん。それでぇ?今日は、どんな商品をお求めかしらぁ〜ん?」

『そうだな。今日は彼女達の服を見繕いに来たんだ。冒険用と普段着をいくつか買い揃えておきたい。ただ、俺では合うものを選べないから、貴女に頼みたいんだが、構わないか?』

 

陽和が自分達がここに来た目的を伝えて、更に彼?彼女?に服選びを頼み込む。

陽和は服を買わないので関係ないが、服を買おうと考えていたシアとセレリアは陽和の服の裾を掴みもう帰りたい、勘弁してとふるふると首を振っていた。ユエも戦慄の眼差しを向けている。

 

「あら、そういうことなのね。いいわよぉ、私に任せてぇ〜ん、とびっきり良いのを選んであげるわぁ〜〜」

『ああ、頼む』

「えっ、ちょ、ソル…?」

「ひぅっ……」

 

化け物が恐ろしい笑顔を浮かべてセレリアとシアをむんずと両脇に抱えて陽和達に背を向け店の奥へと歩いていく。

訳もわからず担がれた二人は、死刑宣告された罪人、いや食肉用に売られていく豚のような目をして陽和達を見ていた。陽和はそんな二人にサムズアップという残酷な仕打ちをして店の奥に消える二人を見送った。

そして、取り残されたユエは隣で他の服を物色しようと店内を見回していた陽和に恐る恐る尋ねる。

 

「………ソル兄、どうして平気なの?」

『まぁ、俺は別に初見じゃないしな。親父の知り合いにいるんだよ。ああいう人種が』

 

陽和が服屋の化物を前に平然とできていたのは、過去に同類と会っていたからである。

父春樹が芸能人であり、陽和はたまに父について行き仕事の場を見に行ったこともあるし、父繋がりで芸能人とも話して知り合ったことがある。

その中の一人に、あそこまでやばくはないものの冒涜的な存在がいたのだ。

SNSでは『もう人間の括りから外した方がいい奴』とか、『男女?アレにそんな性別存在するの?』とか、『火星のG人間すら裸足で逃げるレベル』とか、『どっかで怪人細胞でも食った?』とか、散々な言われようだが、本人はどこ吹く風といったふうに聞き流して己が道を進むある意味では誇らしい人格者。男女の性別を超越した漢であり乙女。漢女道を歩む芸能人と陽和は知り合っていた。

 

(……まぁ俺も最初は、大泣きしたけどさ)

 

………とはいえ、初めて出会った時こそスカートや袖からはみ出ている筋肉の塊と、自分の倍はあるであろうどぎつい顔面を前に、幼い頃の自分は大泣きして母に縋りついたが。

あの悍ましき最悪な出会いも、今となっては、そんなことあったなぁという懐かしい思い出であり、筋トレのコツを教えてくれたり、服のアドバイスをしてくれたりするので割と普通に良好な関係を築けている。

時折、尻にネットリとした視線を向けなければ、マシなのだが……

 

そして、理由は他にも。

 

(過去の解放者達の中にも、漢女が、しかも開祖が魔人族の人だったって知ったらセレリアはどう思うんだろうな)

『………まぁ、少なからず衝撃は受けるだろうな』

 

ドライグの記憶を通して見た解放者の面々の中にも漢女がおり、しかもそのうちの一人がセレリアと同じく魔人族にして、この世界での漢女道の開祖であろうとは夢にも思わないだろう。

セレリアがその事実を知れば、戦慄するに違いない。ドライグもそれには同意見だった。

 

 

きっと、あの化け物も名前にベルが入っているに違いない。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

しばらくして二人が店の奥から出てきたのだが、服屋の怪物改め店長のクリスタベル(見事陽和の予想通りベルが入ってた)の見立ては見事だった。

シアに関しては前とあまり変わらなく、サンダルだった足元が白いロングブーツに変わっている程度で露出具合はさほどの変化はない。

実は、彼女のスカートはホットパンツになっており、生地も丈夫なのだ。水着のような上着も、いわゆるビキニアーマー的な防具兼衣服だそうで、心臓部分をしっかり保護してくれるらしい。もっとも、腹部や太ももなどの重要箇所が露出しているのはどうかと思うが。

 

セレリアは露出具合が抑えられているデザインになっている。

まず黒のホットパンツは濃紺のデニム生地のようなズボンに代わっており、太ももの露出が完全になくなっている。黒のタンクトップもタートルネック状の白色のシャツへと変化している。ファーのついていたグレーのパーカーも、薄紫を基調としたジャケットのような半袖の上着に変わっていたのだ。白黒を基調としていた格好から、紺紫のカラーリングに変化しており、露出は少なくなりスタイルの良さが全面的に押し出された、クールビューティーなイメージを抱かせる格好になっていた。

 

「ど、どうだ?ソル。似合うか?」

 

多少緊張しながら陽和にそう尋ねたセレリアに陽和は素直に感想を伝える。

 

『ああ、よく似合ってる。お前らしさが出てていいな』

「そ、そうか」

 

陽和に素直に褒められたセレリアは嬉しそうに頬を赤く染めて少しもじもじとしていた。

それを見たクリスタベルは腰をくねくねさせながら、頬に手を当ててうっとりとした。

 

「いや〜ん、いいわぁ〜お熱いわねぇ〜。若いカップルの青春は目の保養になるわぁ〜」

『カップルではないんだがな。……まぁいい、なんにせよ感謝する。他にもいくつか選んだみたいだからそれも含めて全部買おう。幾らだ?』

「そうねぇ〜。全部だと……このくらいの額ね」

 

クリスタベルが数着分の服の値段をサラサラと計算して額をまとめてメモしたのを陽和に見せる。割と高かったもののこの数の服では少し割安だったので陽和は即決した。

 

『ああ、わかった。なら、これでいいか?』

「ええ、ピッタリちょうどいただいたわぁ」

 

陽和からちょうどの額分の金貨を受け取ったクリスタベルは服のポケットに仕舞うとジーッと陽和を見つめた。

 

『?なんだ?』

「……ねぇ、貴方は服を買わないのかしら?」

 

首を傾げる陽和にクリスタベルはそう尋ねる。

 

『いや、今はいいな。今日は二人の服を買うつもりだったんだ。それに俺は服の手持ちがいくつかあるからな』

「あらそぉ〜、それは残念だわぁ。貴方、仮面つけてるから顔はわからないけど、スタイル抜群でいろんな服が似合うだろうから、うちの新商品を着てもらおうと思ってたんだけどねぇ」

『……お褒めに預かり光栄だが、また次の機会にしてくれないか?今日は少し予定が立て込んでいてな。次ここに来たら、是非試着させてもらおう』

 

漢女の審美眼は確かなので、クリスタベルが考えた新商品というのは少し興味があったのだが、今日は本当に予定が立て込んでいるため陽和は遠慮した。

 

「うふふ、それは楽しみだわぁ。是非、次回来た時は色々とサービスさせてもらうわね」

 

クリスタベルは微笑みながらバチコンと強烈なウィンクを陽和に送る。初対面ならば背筋が震えるような悪寒に晒されるのだが、慣れている陽和はあっさりとそれを受け流した。

 

『楽しみにしていよう。では、また』

「えぇ、次の来店待ってるわぁソルきゅん」

「ありがとう。クリスタベルさん」

「ありがとうございますですぅ!」

「……ありがとう」

 

陽和に続いてセレリア達も各々お礼を言って店を出る。店長の笑顔も今となっては彼女?の人徳のおかげか愛嬌があると思えるようになった。

ちなみに、シア達が店の奥へ連れて行かれたのもシアが粗相をしたことに気づき、着替える場所を提供すると言うありがたい気遣いだったのだ。

一部始終を見てないハジメは兎も角、この場にいる全員の中でのクリスタベルの評価は爆上がりした。

 

「いや、最初はどうなるかわからなかったが、いい人でよかったな」

「ん……人は見た目によらない」

「ですね〜」

『お前らどんだけ怖かったんだよ』

 

そんなふうに雑談しながらそろそろ二手に再び別れようとした時、四人の周囲を数十人の男達が囲んだ。冒険者風の男が大半で、中にはどこかの店のエプロンをしている男もいる。

そのうちの一人が進み出た。

 

「ユエちゃんとシアちゃん、セレリアちゃんであってるよな?」

「?……ん。あってる」

 

何のようだと訝しそうに目を細めるユエ。シアは表向きは亜人族の奴隷にも関わらず“ちゃん”付けされたことに驚く。

そして、同じく“ちゃん”されたセレリアと、傍観している陽和の二人は昨日観光した時に薬屋の看板娘に忠告されたことを思い出して、「まさか…」とこの後の展開が予想できてしまった。

ユエの返答を聞いた男は、後ろを振り返り他の男連中に頷くと覚悟を決めた目でユエを見つめ、他の男達も前に進み出て……

 

「「「「「ユエちゃん、俺と付き合ってください‼︎‼︎」」」」」

「「「「「シアちゃん!俺の奴隷になれ‼︎‼︎」」」」」

「「「「「セレリアちゃん‼︎俺の彼女になってくれ‼︎」」」」」

 

全員が全員口を揃えてそんなことを言ったのだ。それぞれ口説き文句が異なるのは、シアが亜人族であり、奴隷の譲渡には主人の許可が必要だが、昨日の宿でのやり取りでシアとハジメ達の仲が非常に近しいことが周知され、シアを落とせばいけるんではないかと踏んだのだろう。

しかし、表向きは同じ亜人奴隷であるセレリアの口説き文句が違うのだが、その理由は昨日の陽和との観光にある。あの時、陽和と一緒に食べ歩くセレリアの笑顔に悩殺された男は多く、主人である陽和とも対等に親しげに話す姿に完全に心奪われたらしい。

それは、表向きの主人である陽和がセレリアの隣にいるにも関わらずに口説いてきたのだから、本気度がうかがえるというもの。

ちなみに、彼女達の後ろでは陽和が頭を押さえてため息をついていた。

で、告白を受けた三人はというと………

 

「……シア、道具屋はこっち」

「あ、はい。セレリアさん達は食料品屋ですよね?」

「ああ、一軒で揃うと良いんだがな……」

 

何事もなかったかのように会話を再開したのだ。

 

「ちょっ、ちょっと待ってくれ!返事は⁉︎返事を聞かせてく———」

「断る」「断ります」「興味ない」

「ぐぅ……即答……だと」

 

まさに眼中にないという三者三様の態度に男は呻き、何人かは膝を折って四つん這いに崩れ落ちる。しかし、諦めが悪い奴はどこの世界にでもいる。まして、彼女達の美貌は他を隔絶している。暴走する者が出ても仕方ない。

 

「なら、なら、力ずくでも俺のものにしてやるぅ‼︎」

 

暴走した一人の男が雄叫びをあげて、それに呼応するように他の連中の目もギンと鋭い光を宿す。

四人、正確には三人を流さないように取り囲むとジリジリと迫って行く。

 

「う、おおおおぉぉぉ‼︎‼︎」

『っっ、ルパ◯ダイブだとっ』

 

そして遂に、最初に声をかけてきた男が、雄叫びを上げながらユエに飛びかかった。日本人が彼の姿を見たら「あっ、ル◯ンダイブ!」と叫ぶだろう。現に、陽和はリアルでやる奴がいるのかと迎撃しようとした拳を止めるほど驚いていた。

そんな彼に、ユエは冷めた目を向けて一言。

 

「“凍柩”」

 

直後、男が首だけを残して氷の柩に閉じ込められ、重力に轢かれて落下すると情けない悲鳴を上げて地面に転がる。周囲の男連中は水系上級魔法に分類される魔法を一言で発動したユエに困惑と驚愕の表情をむけて、勝手に解釈を始める。

ユエは、ツカツカと氷の柩に包まれれ男の元へと近寄ると、周囲の男達への牽制も兼ねてあるお仕置きを実行する事にした。

 

「シア、セレリア。一つ教えてあげる」

「はい?」

「ん?」

 

突然名前を呼んだユエにそろって二人は首を傾げる。ユエはそのまま話を続ける。

 

「女だからって守られるだけじゃダメ。自分も戦ってこそいい女になれる」

「え?あ、はい…」

「どうしたいきなり?」

「こういう時の対処法を見せてあげる」

 

そう手短に答えたユエは氷に手をかざして男を包む氷を少しずつ溶かしていく。それに男は解放してもらえると思ったのか、表情を緩めて熱っぽい眼差しを向けた。

 

「ゆ、ユエちゃん。いきなりすまねぇ!だが、俺は本気で君のことが……」

 

未だ氷に包まれた男が思いを告げようとするも、その言葉は途中で止まった。なぜなら、氷が溶けたのは一部だけだったからだ。しかも、その場所はー

 

「あ、あのぉユエちゃん?どうして、その、そんな……股間の部分だけ?」

 

ユエガとかした部分は、男の股間部分のみで他は以前氷に包まれている。嫌な予感が全身を襲い、冷や汗を浮かべた男が「まさか、嘘だよね?そうだよね?ね?」という表情でユエを見つめる。

 

『ッッッッ⁉︎⁉︎』

 

陽和もユエがやろうとしている事に気づき戦慄し、後退る。

ユエがやろうとしていることは、男を物理的に殺さず、されど社会的に殺してしまう最も男の尊厳を奪える禁忌。『ま、まさか、お前っ』と陽和が怯えの眼差しを向ける中、ユエは酷薄な笑みを浮かべて。

 

「………命は奪わない。だけど、尊厳を奪う」

 

残酷な宣告と共に処刑は執行された。

ユエの掌から放たれた男殺しの風の礫が連続で男の股間に叩きつけられる。

 

———アッ———ッッ‼︎

———もうやめてぇ——

———おかぁちゃーん‼︎

 

聞きたくない生々しい音と共に男の悲鳴が響き渡る。執拗に狙い撃ちにされた男の股間の中身は、きっと見るに堪えない悲しい事になっているだろう。

ユエの容赦のない残酷な行為に、囲んでいた連中も、無関係な野次馬達も、近くの露店の店主達も関係なく崩れ落ちて自分の股間を両手で隠した。

 

『何も聞こえない何も聞こえない何も聞こえない何も聞こえない何も聞こえない何も聞こえない何も聞こえない何も聞こえない何も聞こえない』

『相棒⁉︎どうしたっ‼︎しっかりしろォォォ‼︎‼︎』

 

陽和すらも、ユエ達から距離をとり囲んでいた男達のところまで後退り、両手で必死に耳を押さえながら完全に背を向けてブツブツと呟きながらうずくまっている。彼の心の中ではドライグが慌てながら必死に正気に戻そうと呼びかけている。

普段は陽和とユエで上下関係が成立しているのだが、こと今の事に関してはユエが完全に上になっていた。

 

「………お、俺の……息子が……ガクッ」

 

永遠に続くかと思われた集中砲火は、男の意識喪失と共に終わった。一撃で気絶はできず、確実にダメージを蓄積させ激痛を感じさせる風の魔法。恐ろしき神業だ。

ユエは人差し指の先をどこぞのガンマンのようにフッと吹き払い、置き土産に言葉を残した。

 

「……漢女になるがいい」

 

この日、一人の男が死んだ。

男は後に第二のクリスタベル、マリアベルへと生まれ変わり、クリスタベルの下で厳しい修行を積んだ後、2号店の店長を任され、その確かな見立てで名を上げるようになるのは別の話だ。

 

そして、ユエがこの所業から後に“股間スマッシャー”と二つ名がつき、冒険者ギルドを通して王都にまで名を轟かせ、男性達を震え上がらせるのだが、それもまた別の話である。

 

 

何にせよ、ここにまた一人、漢女道の魔窟に誘われたのは間違いない。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

 

その後、再び別行動を取った陽和とセレリアは、食料品を大量に買い込んで一杯になった袋を四つほど抱えながら宿に戻った。

そして、一階から二階に上がり廊下に着くと、周りに人がいないことを確認して陽和は左手に宝玉を出現させて一瞬輝かせて宝玉の中に食料品を収納した。

人目があるところで宝物庫を使って注目を浴びたくないという陽和の考えであったのだが、実はユエやシアが買い物の際にハジメから宝物庫の指輪を受け取っており、普通に外で使っているので更に注目を浴びてしまっていたので意味はあまりなかった。

そして、袋を宝玉にしまった陽和はハジメ達の部屋をノックして中に入る。

 

『ハジメ、食料品の買い出し終わったぞ』

「おう、サンキューな。揃ったのか?」

『ああ。いくつか店は回ったが必要なものは全部揃えられた。で、それがシアの新しい武器か』

 

陽和はハジメの後ろにいるシアに視線を向けながらそう尋ねる。

彼女の手には直径40cm、長さ50cm程の銀色の円柱に側面には取っ手がつけられている物体が握られていたのだ。

 

「はい!ハジメさんが私の為に作ってくれた大鎚型アーティファクト“ドリュッケン”ですぅ」

『見た感じ、それは待機形態だな。魔力流せば変形するのか?』

「その通りです!」

 

そう答えてシアが魔力を流してみれば、カシュン!カシュン!と機械音を響かせながら取手部分が伸びて、槌として振るうのにちょうどいい長さになったのだ。

その後もシアの説明を聞けば、どうやらこのドリュッケンには、幾つかのギミックを搭載しており、魔力を特定の場所に流すことで変形したり内蔵の武器が作動したりするそうだ。

ハジメが済ませたかった用事とはこの武器の作成のことだったようだ。

陽和はドリュッケンの出来に素直に感心する。

 

『いい出来じゃないか。実戦でどう使うのか楽しみだな。それにハジメの成長に合わせてまだまだ改良できそうだ』

「ああ、今の俺ではこれくらいが限度だが、これから随時改良していくつもりだ。オスカーのアーティファクトをドライグの記憶を通して知っているお前にも色々アドバイスもらうつもりだから、その時は頼むぜ」

『おう。できる限りサポートしよう』

 

そう話した陽和は話題を変える。

 

『じゃあ、そろそろいくか?』

「ああ、行こうぜ」

 

陽和とハジメはセレリア達を連れてチェックアウトを済ませる。その時、宿の看板娘が陽和達を見て頬を染めていたがスルーする。

外に出れば、太陽は天頂近くに昇り燦々と暖かな光を降らせている。陽和は太陽を背にしてセレリア達に振り向くと、ひとつ頷いて笑みを浮かべて口を開いた。

 

 

『うし、行くぞ。ライセン大迷宮攻略へ』

 

 

セレリア達は全員が力強く頷き、スッと足を前に踏み出し、セレリア達も追従する。

 

 

大迷宮攻略の旅が、再開した。

 

 

 





ボク口調のヘスティアですが、先に言っておきましょう。ダンまちのヘスティアがモデルです。以上。
ちなみにですけど、陽和のイメージソングは個人的にCHICO with HoneyWorksの『プライド革命』が似合うと思うんですけど、皆さんは何かこれが似合うとかあります?
あったら感想欄に書いてください。お待ちしてます。


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