竜帝と魔王の異世界冒険譚   作:桐谷 アキト

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今回の話は零やアフターの内容を知ってたらより理解できる内容だと思います。

そして、遂にあの子が来ますよ。


28話 新たな契り

 

 

 

ライセン大迷宮攻略が始まり1週間が経過した。

これまで数々のトラップとウザい文に体よりも精神を削られ続けており、スタート地点に戻されること7回。致死性のトラップに襲われること48回。金ダライ、トリモチ、異臭のする白い液体のぶっかけなどなど全く意味のないただの嫌がらせ169回。

 

最初こそ、ミレディへの怒りが内心を満たしていたが、4日を過ぎたあたりから『もうどうでもいいかぁ』と投げやりになっていた。

それに、食糧は十分にあるし、身体スペック的にも早々死ぬことはない。探索の結果、マーキングのおかげで迷宮の構造変化には一定のパターンがあることもわかった。

そして、今陽和達はとある部屋で休息をとっており、壁にも誰か上がりながらユエとシアがハジメの肩に、セレリアが陽和の肩にもたれるようにし寝ていた。

 

「気持ちよさそうに寝やがって………ここは大迷宮だぞ?」

 

ハジメの苦笑い混じりの囁きが響く。

彼は見張りのために起きていたのだ。ハジメは、なんとなしに抱きしめられている腕をそっと解くと、ユエの髪を撫でる。僅かに頬が綻んだように見えて、ハジメの目元も僅かに緩んだ。

次いで、反対側に視線を転じれば、ハジメの方に盛大に涎を垂らしながらムニャムニャと口元を動かして、実に緩んだ表情で眠るシアがいた。

ハジメは不意に彼女の髪にも手を伸ばしそっと撫でると、ついでにウサミミもモフる。

すると、緩んでいた表情が更に緩んで安心し切ったものに変わった。その変化に、ハジメはなんとも複雑な表情を浮かべつぶやく。

 

「まったく、俺みたいなヤツのどこがいいんだか……こんなところまでついてきやがって……」

 

悪態はついているもの向ける眼差しはひどく柔らかかった。ハジメとしてもシアのことはユエのような愛情は抱かなくとも、それでもけっこう気に入っているようだ。

そんな彼の独り言だったのだが、不意にそれに応えるものがいた。

 

「………そりゃお前のことが好きだからだろ」

 

突如、向かい側から掛けられた声にハジメはピクッと震えつつそちらに視線を向ける。

陽和が起きており、ハジメ達の様子に嬉しそうに目を細めていたのだ。

 

「わりぃ、起こしちまったか」

「元々浅い睡眠だったからな。少し目が覚めただけだ」

 

そう軽く言葉を交わすと、陽和は笑みを浮かべる。

 

「しかし、ユエといいシアといい、本当にお前は信頼されてるんだな。昔のお前が見たら卒倒しそうだ」

「……かもな」

 

確かに昔の事なかれ主義のハジメが見たら、目を丸くして驚くことは間違いないだろう。その様子を自分で想像して笑ったハジメは陽和に視線を向ける。

 

「そう言うお前も、随分懐かれてるみたいだな」

 

ハジメは陽和の右肩あたりに視線を向けながら、ニマニマとした笑みを浮かべてそう言う。

見れば、陽和の右肩にもたれるセレリアは安心しきった表情を浮かべており、しかも右腕を豊満な胸の間にがっちりと挟みながら気持ちよさそうに寝ていたのだ。

信頼し切って寝ている姿に陽和は苦笑を浮かべてしまう。

 

「……全くだな。こうも無防備に信頼されるとなぁ…」

 

陽和はなんとも言えない表情を浮かべつつセレリアの髪を優しく撫でる。その手つきは非常に優しく、向ける視線もとても穏やかなものだった。

それを見て、ハジメが徐に尋ねる。

 

「なぁ、お前はどう思ってるんだ?」

「どう、とは?」

「セレリアのことだ」

「………」

 

ハジメの言葉に沈黙する陽和。そこまで言われれば、ハジメが何を言いたいのかわかってしまったからだ。

 

「全てが終わった後、お前はソイツのことどうする気なんだ?」

「…………俺は…」

 

陽和はハジメの問いかけに応えることができず、セレリアへと視線を向ける。今も穏やかな寝息を立てている彼女の顔を見て陽和は思う。

 

(彼女に好意を向けられているのは悪い気はしない。だが、既に俺には雫がいるからな……)

 

これまで何度も彼女のアプローチを断ってきたのに、何度断っても諦めずに好意を向けてくるのは確かに悪い気はしなかった。

人柄、戦闘力共に信頼できる魅力的な女性だ。

だが、陽和には既に雫という恋人がいる。だから、どうしようとも彼女の想いに応えることはできない。

ユエやシアのように、雫がこの場にいれば何か違ったのかもしれない。だが、ここには雫がいない為、セレリアを受け入れて仕舞えば雫を悲しませるだけになるだろう。

 

「………俺は、彼女の気持ちを受け入れることはできない。……だが、これまで苦楽を共にした仲間だ。だから、無碍にはしたくない」

「……具体的には?」

「……まぁ、俺達の故郷を、地球を見せてやりたいとは思っている。家族にも会わせたいな」

 

神を打倒し魔人族を解放して、陽和達が元の世界に帰れる方法を見つけて帰れば、そこではいさよならというわけにはしたくない。

これまでも、これからも苦楽を共にする仲間に地球の光景を見せたり、家族に紹介するぐらいは良いのではないかと思ったのだ。

 

「……大切な仲間だからな。地球に戻って二度と会えなくなるってのはしたくない。どうにか、世界を行き来する方法も見つけないとな」

「……へぇ、お前も随分とセレリアを大事にするじゃねぇか。下手をしたらプロポーズと思われても仕方ねぇんじゃねぇの?」

「……まさか。それはないだろ。セレリアだって分かってるはずだ」

「ふ〜ん……だとよ、セレリア」

「は?」

 

陽和がガバッとセレリアを見れば、セレリアは目をぱっちりと開けておりこちらを見上げていたのだ。しかも、どこから話を聞いていたのかは定かではないが、顔だけでなく耳まで真っ赤なことから聞いていたことは明白。

 

「………どこから聞いてた?」

「……ハジメが『セレリアのことだ』って言ってたあたりから」

「ほぼ最初からじゃねぇか」

「ちなみにユエも起きてたぞ」

「はぁ?」

「……ふふ、ごちです」

「はぁ〜〜」

 

陽和は頭を抱えて露骨にため息をつくと、恨みがましそうな視線をハジメとユエに向ける。

 

「おい、テメェ。気づいてた上で俺に聞きやがったな?」

 

ハジメがセレリアが起きていたと気づいた上であの質問をしたと気づき、鋭く睨む。ハジメは呑気に笑った。

 

「ははっ、普段揶揄ってる分の仕返しだ」

「この野郎、すっかり図太くなりやがって」

「なぁ……陽和」

「………なんだ?」

 

セレリアに振り向けば、彼女は上目遣いでこちらを見上げていた。セレリアは陽和を見上げると少し弾んだ声で尋ねる。

 

「……さっきの話は本当なのか?」

 

その問いかけに陽和は照れ臭そうに顔を晒しつつ、左手で頭をかきながらポツポツと答える。

 

「……まぁ…‥嘘は、言ってない。大切な仲間ってのも本当だしな。……だから、全てが終わったら、地球を見せてやる。…約束だ」

 

気恥ずかしそうに答えた陽和にセレリアは満面の笑みを浮かべて、

 

「ああっ、楽しみにしてるぞ」

「………おう」

 

そう言って、嬉しそうに陽和の腕を一層強く抱きしめたのだ。胸の弾力がより明確に感じられたが、それを表に出さないように堪えつつ顔を逸らして陽和は照れる。

と、そのとき、ハジメとユエがヒソヒソと小声で話し始めた。

 

「これは浮気か?」

「……ん、ギリセーフ?」

「……アウトじゃね?」

「……証拠撮っとく?」

「……そうだな」

「おいこら待て。外野共」

 

誘導したくせに、その元凶がわざとらしく、雫が聞けば修羅場待ったなしになりかねないことをしでかそうとしていることに、陽和が眉を顰める。

そうして、説教をかまそうとしたとき、シアがムニャムニャと寝言を言い始めた。

 

「むにゃ……あぅ……ハジメしゃん、大胆ですぅ〜、お外でなんてぇ〜、……みんな見てますよぉ〜」

「…………」

 

空気が固まり、にやけていたハジメの瞳の奥から笑みが消えた。

寝言でなんてことを言いやがると冷ややかな視線を向けつつ、ハジメはシアの鼻を摘み口を塞いだ。穏やかだったシアの表情が徐々に苦しげなものに変わっていくが、気にせず塞ぎ続けてると、

 

「んー、ん?んぅ〜!?んんーー!!んーー!!ぷはっ!はぁ、はぁ、な、なにするんですか!寝込みを襲うにしても意味が違いますでしょう!」

「そんなことはどうでも良い。で?お前の中で、俺は一体どれほどの変態なんだ?お外で何かをしでかしたんだ?ん?」

「えっ?……はっ、あれは夢!?そんなぁ〜、せっかくハジメさんがデレた挙句、そのほとばしるパトスを抑えきれなくなって、羞恥に悶える私を更に言葉責めしながら、ついには公衆の面前であっへぶっ!?」

 

聞いていられなくなって、ハジメは強化済みデコピンをシアに叩き込む。シアは、衝撃で大きくのけぞった挙句、背後の壁で後頭部を強打し涙目で蹲った。

 

「はぁったく、まぁ良い全員目が覚めたようだし、探索開始するか」

「…‥言いたいことはまだあるが、いいだろう」

 

陽和はまだまだ物申したいことはあるが、シアのせいで興が冷めたのでハジメに同意して立ち上がる。

 

「………うぅ、優しさって、どこかに落ちてないですかね?」

「……?ハジメはドロップしてくれる」

「ぐすっ、それはユエさんだけですよ。ちくせう」

 

シアが少々やさぐれた様子で立ち上がる。既に他の四人は準備万端だ。今度は、スタート地点に戻されないことを祈って、五人は迷宮攻略を再開した。

 

▼△▼△▼△

 

 

探索を再開してからしばらくして、陽和達は1週間前に訪れてから一度も入ったことのない部屋にたどり着く。

そこは、最初にストレスが天元突破した元凶たるゴーレム騎士達の部屋だった。ただし、今度は封印の扉は最初から開いており、向こう側は部屋ではなく大きな通路になっていた。

 

「ここか……包囲されても面倒だしな。扉は空いてるんだし一気に行くぞ!」

「んっ!」「おう!」「ああっ!」「はいです!」

 

陽和達は、ゴーレム騎士の部屋に踏みこむと一気に駆け出す。部屋の中ほどを通過すると、案の定ゴーレム騎士達が両サイドの窪みから飛び出してくるが、完全に出てくる前に前方のゴーレム騎士達を叩き潰しておく。

 

「陽和!」

「任せろ!」

 

時間を稼いだハジメが陽和に声をかけながらユエを抱き抱える。セレリアもシアを担ぐと加速して前方に駆け出したのだ。

声をかけられた陽和は背中から翼をだすと、勢いよく羽ばたかせながら地面を蹴り、二人の疾走よりもはるかに速い速度で飛翔すると、ハジメとセレリアの腕を掴んで一気に祭壇まで飛ぶ。

ゴーレム騎士達が猛然と追いかけるが、陽和の飛翔速度には到底及ばずグングンと突き放され、ついには追いつかれることなく扉を通過した。

これで逃げ切り勝ちだとハジメはほくそ笑みつつ背後へと振り向き、次の瞬間にはその笑みは剥がれ落ちた。なんと、ゴーレム騎士達は前回とは違い、扉をくぐって追いかけてきており、さらには……

 

「なっ!?天井を走ってるだと!?」

「……びっくり」

「重力さん仕事してくださぁ〜い!」

「さっきよりも加速してないか!?」

「一体、どうなってやがるっ!?」

 

追いかけてきたゴーレム騎士達は重力を無視して壁やら天井を走っており、しかも先ほどよりも明らかに速い速度で追いかけてきていたのだ。

流石にこればかりはハジメ達も度肝を抜かれた。

 

(……重力を無視……重力干渉の魔法。てことは、重力魔法か)

 

その中で唯一、陽和だけはこのカラクリに気づいており、ゴーレム騎士達の重力無視の動きが重力に干渉する神代魔法ー重力魔法によるものだと気づく。

 

「ハジメ、重力魔法だ。ゴーレム騎士達の不可解な動きは重力操作によるものだ」

「っっ重力操作か!なるほど道理でっ!」

 

ハジメが迎撃しつつ聞いた陽和の情報に納得を示す。

 

(しかし、ここまで使ってこなかったことを考えると、まさかこの近くにいるのか?)

『恐らくはな。ミレディが操れる範囲内に入ったのだろう。でなければ、ここまで使わなかった理由などあるまい』

(ああ。そうだな)

 

これだけの数の騎士を操るには魔力消費が激しいはず。なるべく消費を抑えるために術者本人の近くまで来なければ使えないというのならば、この先にミレディがいるのだろう。

その時、ハジメが陽和に声を張り上げる。

 

「陽和!回避だ!」

「っっ、ちっ‼︎」

 

ハジメの叫びに陽和が視線を後ろに向ければ、頭部、胴体、大剣、盾とバラバラになったゴーレム騎士達の残骸が猛烈な勢いでこちらへ迫ってきたのだ。それは、まさしく“落下”してきたような速度で陽和達に迫る。

陽和は翼の角度を調整しつつ複雑な軌道で飛び、ゴーレム騎士達の残骸を躱していく。

ゴーレム騎士達の残骸は、そのまま勢いを落とすことなく壁や天井に激突しながら前方へと転がっていった。

 

『おい、相棒!前を見ろ!』

「ああくそっ、そりゃそうなるよなぁ」

 

ドライグの指摘に陽和が前方を見て悪態をつく。

前方では落下したゴーレム騎士達が再構築したようで、隊列を組んで陽和達を待ち構えていたのだ。

盾を全面に押し出し腰をどっしりと据えて壁を作っており、二列目以降は一列目を支えていてのだ。

受け止めようという魂胆だろう。

 

「チッ、面倒だな」

「おい、陽和。そのまま突き進め」

 

舌打ちする陽和にハジメはそう言いながら、“宝物庫”から一つの兵器を取り出した。

手元に十二連式の回転弾倉が取り付けられた長方形型のロケット&ミサイルランチャー“オルカン”だ。ロケット弾は長さ30センチ近くあり、その分破壊力は高い。弾頭には生成魔法で“纏雷”を付与した鉱石が設置されており、この石は常に静電気を帯びており、着弾時に弾頭が破壊されることで燃焼粉に着火する仕組みなのだ。

ハジメはそれを片腕で構えつつ陽和に声をかける。

 

「陽和、掴み方を変えてくれ。両手が空いてなきゃこいつは使えないからな」

「ああ」

 

陽和はセレリア、ユエ、シアを尻尾を巻き付けて後方で持ち上げると、ハジメの肩を掴んでぶら下げる。

両手が空いたハジメがオルカンを脇に挟んで固定すると口元を歪めて笑みを作る。

 

「お前ら耳抑えてろ!!ぶっぱなすぞ!陽和は悪いが耐えてくれ!」

「おうよ!」

「ん」

「ああ」

「えぇ〜、なんですかそれ!?」

 

初めて見るオルカンの異様さにシアが目を見張るが、他二人は耳を塞ぐ。シアのウサミミはピンっと立ったままだが、ハジメはお構いなしにオルカンの引き金を引いた。

バシュウウ!と火花の尾を引きながらロケット弾が発射され、ゴーレム騎士達に直撃して轟音と大爆発を発生させた。

 

「「〜〜〜〜〜ッッ!?!?」」

 

通路全体を激震させながら大量に圧縮された燃焼粉が凄絶な衝撃を撒き散らし、ゴーレム騎士達を原形を留めない程に破壊し尽くす。こうすれば、再構築には時間がかかるだろう。

陽和達は、一気にゴーレム騎士達の残骸を飛び越える。

 

「ウサミミがぁ〜、私のウサミミがぁ〜!!」

「くぅ〜〜、分かってても響くなこれ」

 

シアがウサミミをペタンと折りたたみ、両手で押さえながら涙目になって悶える。陽和も飛行を続けながらも、顔を顰めて悶えていた。一番聴覚に優れた兎人族と、五感の高い竜人であり耳を塞げなかった陽和はオルカンの轟音に耳をやられていた。

 

「だから、耳を塞げっていったろ。あと、陽和はすまん」

「ええ?なんですか?聞こえないですよぉ」

「………ホント、なんで残念ウサギ」

「陽和、耳は大丈夫か?」

「……ああ、まだ少し痛むが、何とか、な」

 

ハジメとユエが呆れた表情でシアを見る傍で、セレリアが陽和の耳を案じる。

そしてそれから2分ほど飛び続け通路の先に巨大な空間が広がっているのがわかる。

 

「お前ら通路を抜けるぞ!」

 

陽和の言葉に全員が頷く。背後からは依然としてゴーレム騎士達が襲いかかってくるが、それらを迎撃しつつ通路を飛び出し、目の前に浮かんでいた正方形のブロックに飛び移る。

ブロックは何故か横に移動しようとしていたものの、陽和の咄嗟の機転で何とか降り立った。

 

「陽和、ナイスだ」

「ハルトさん流石ですぅ!」

「……ん、すごい」

「ありがとう陽和」

「おう」

 

無事に降りれたことにハジメ達が陽和を称賛する。陽和も多少の疲れはあるものの得意げな表情を見せる。

ひと段落ついて余裕が生まれたのか、シアが周りを見ながら苦笑いを浮かべる。

 

「……あはは、常識って何でしょうね。全部、浮いてますよ?」

 

シアの言うとおり、陽和達が入った空間では様々な形状、大きさの鉱石でできたブロックが無数に浮遊していたのだ。

空間は球状で、直径は2キロ以上はありそうな広大な空間だ。完全に重力を無視した空間だが、陽和達はしっかりと重力を感じており、ブロックだけが浮遊していた。

そんな空間で、先ほどまで追ってきていたゴーレム騎士達が陽和達に襲い掛からずに、縦横無尽に飛び回っていた。重力を無視し細やかな動きをしていることから……

 

「ここが最終の部屋だと考えていいな」

『ああ、間違いなく全ての元凶がここにいるぞ』

 

陽和とドライグの会話にハジメ達が賛同し、表情を引き締める。そして、全員が周囲に目を凝らし観察していた時、シアの焦燥に満ちた声が響く。

 

「逃げてくださいぃ!」

「「「「!?」」」」

 

陽和達は、問い返すこともなくシアの警告に瞬時に反応し、その場から飛び退く。陽和がセレリアの手をとって翼を広げて空に飛び、ハジメ達が近くを通りかかったブロック目指して離脱する。

直後、ズガガガン‼︎と凄まじい轟音と共に、隕石が落下してきたのかと錯覚するような衝撃が、直前まで陽和達がいたブロックを直撃して爆砕したのだ。

 

(っっ⁉︎何が起きたっ⁉︎攻撃かっ⁉︎)

 

陽和は飛び退く直前に、赤熱化した何かが落下してブロックを破壊し通り過ぎたのを見た。

 

「…‥なんだ、今のは……?」

「わからん。だが、巻き込まれたやつはいない。シアのおかげだな」

 

動揺するセレリアにそう答えつつ、陽和は別のブロックに視線を向けてハジメ達が無事なのを確認して安堵する。

今のは流石に危なかった。陽和ならば耐えれただろうが、他は死ぬ可能性もあったほどだ。それにあの時シアが真っ先に反応したということは、固有魔法の“未来視”が発動したと言うこと。つまり、言い換えれば今の攻撃は死を伴うような大きな危険だったと言うことだ。

陽和とセレリアはハジメ達がいるブロックに飛び降り合流すると、下を見る。すると、下方で何かが動き猛烈な勢いで上昇して陽和達の頭上で留まると、ギンッと光る眼光でこちらを睥睨してきた。

 

「おいおい、マジかよ」

「……すごく……大きい」

「お、親玉って感じですね」

「まさしく、ラスボスだな」

 

三者三様の意見を呟くハジメ達。

目の前に現れたのは超巨大なゴーレム騎士だ。全身甲冑だが、サイズが20mくらいあり、右手はヒートナックルの如く赤熱化している。左手には鎖がジャラジャラと巻き付いていて、フレイル型のモーニングスターを装備している。

ハジメ達はその巨大騎士に驚いてはいたものの、陽和とドライグだけは違う反応を見せた。

 

「アレは……騎士王か……」

『ああ、懐かしいな』

 

陽和がその巨大な何かを見て知っていたかのように呟き、ドライグが懐かしむ。

それは目の前にある黒の巨大騎士が、オスカー作のアーティファクト“騎士王”だったからだ。生前ドライグはその製作を手伝っており、記憶を通じて陽和も知っていたのだ。

そして、各々の反応を見せる中、周囲のゴーレム騎士達が飛来し、陽和たちの周囲を囲むように並びだす。整列したゴーレム騎士たちは胸の前で大剣を立てて構えており、その様は王を前に敬礼する騎士のように見える。

すっかり包囲されて緊張が高まる陽和達。辺りに静寂が満ち一触即発の張り詰めた空気の中、

 

『やほ〜。はじめまして〜。みんな大好きミレディ・ライセンちゃんだよぉ〜』

 

巨大ゴーレムのふざけた挨拶がその空気を破った。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

 

『行くんだな?』

 

 

 

どこかの森の中で、一頭の赤竜は一人の少女にそう問いかけた。

 

赤竜に問いかけられた少女ー美しい金髪と蒼穹の瞳を持つ少女は、赤竜に振り返らずに静かに頷く。

 

『うん、行くよ。この方法しか未来に希望を繋げないからね』

『………確かにそうかもしれん。だが、あいつらが…何より、ベルタはソレを望んでいないだろうな』

 

赤竜の言葉に少女は顔を俯かせ、表情に影を落とす。

そんなことは分かっている。仲間が、姉がこの選択を望まないことを。

でも、それでも………

 

『…………私は、信じて待つよ。いつか希望は現れてくれるって』

 

無茶で勝手なことをしようとしているのは重々承知だ。だが、それでも、少女は賭けた。

人は強いと。いつか必ずこの世界を変えてくれる存在が、希望が現れてくれるという可能性に。

 

『……………』

 

赤竜は彼女の言葉に何も返さず、無言で彼女の背中に視線を送る。

彼女の他の人よりも小さい背中に、どれだけの想いが背負われているのかをよく知っているから。

それでも尚、折れない彼女の鋼鉄の如き高潔な意志を感じ取ったから、赤竜は翻意させるような言葉は言わなかった。

その代わりに、赤竜は彼女に首を伸ばすと、横から頭を擦り寄せた。その行動に少女は小さく笑うと、赤竜の頭を優しく撫でる。

 

『………ふふ、ありがとうね』

 

赤竜は喉を鳴らすと、首を離して少女の隣への歩み寄り、伏せて彼女の顔を正面から見据える。

 

()()()()、これからお前は永い時を、暗闇の中で一人生きていかなくてはならなくなる。だが、忘れるな。他の仲間達は先に逝こうとも、未来永劫ずっとお前を想っていることを』

『うん。でも、それを言うならドラちゃんもだよね。ドラちゃんもずっと待ち続けなくちゃいけないでしょ?』

『そうだ。だから、俺はお前と約束しよう』

『?』

 

首を傾げる少女ー解放者リーダーのミレディ・ライセンに、赤竜ー赤竜帝ドライグは威厳に満ちた力強い声音で告げた。

 

『俺とお前はこれから永劫に等しい時を待ち続けなければいけない。だが、忘れるな。お前は一人ではない。例え会うことはできずとも、俺も永劫の時を生き続けることになるのだ。だから、いつか未来で、希望が現れた時に会おう』

『ッッ!!』

 

ドライグの約束にミレディは目を大きく見開くと、直後、笑みを浮かべる。

 

『うん、約束だよ。いつかの未来でまた会おうね。誇り高き赤き竜の帝王。赤竜帝ア・ドライグ・ゴッホ』

『ああ、約束だ。気高き解放者の長。美しき蒼穹の少女ミレディ・ライセン』

 

少女と赤竜はそう約束して、別れた。

 

それから数千年。

 

永き時を経て、大峡谷の奥底で遂に約束は果たされた。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

『やほ〜、はじめまして〜、皆大好きミレディ・ライセンだよぉ〜』

 

凶悪な装備と全身甲冑に身を固めた眼光鋭い巨大ゴーレムは、その見た目に反した軽い挨拶をしてきた。セレリア、ハジメ、ユエ、シアはいきなりのことに、包囲されているのも忘れてポカンと口を開けていた。

陽和だけは苦笑を浮かべつつ、一歩前に進み出て彼女に挨拶をする。

 

「初めまして。解放者の長ミレディ・ライセン。俺は紅咲陽和。ずっと貴女に会いたかった」

『お〜〜ちゃんと挨拶を返してくれるとは。他の若者達と違って、君は礼儀正しいね。うん、合格だ!』

 

『他の若者達と違って』のとこだけ強調した話し方に、ハジメ達はイラっとする。それを無視して、巨大ゴーレムは燃え盛る右手と棘付き鉄球を付けた左手で、やたらと人間臭い動きでパチパチと拍手する仕草までしたのだ。

そして、陽和の礼儀正しさに喜ぶ巨大ゴーレムは、陽和の左腕へと視線を向けると、

 

『ドラちゃんも久しぶりだね。会うのは数千年ぶりかな?声だけだけど元気そうで何よりだよ』

 

『ドラちゃん』。そう特徴的な呼び方でドライグの名を呼んだのだ。独特なあだ名にハジメ達が驚く中、ドライグが左腕の《赤竜帝の宝玉》を点滅させながら答える。

 

『ああ、久しいなミレディ。お前も元気そうで何よりだ。こうして再び会えたこと嬉しく思うぞ』

『うんうん私もだよ。またドラちゃんと話せるなんてね。それで君が宿ってる彼がそうなんでしょ?』

『ああ。俺達の意思を受け継いだ最後の英雄にして、力を継承した二代目赤竜帝だ』

『そう、そうなんだね。やっと、現れたんだ………』

 

巨大ゴーレム……いや、ミレディ・ライセンは感慨深そうに顔を上げて天を仰ぐ。待ち望んだ竜継士が現れたことに、感慨深い気持ちになったのだろう。全てを知る陽和にはそう感じた。そして、陽和はハジメ達に振り返ると未だに唖然としている彼らに説明する。

 

「ハジメ、オスカー・オルクスの手記を読んだからこそ疑う気持ちはわかるが、彼女は紛うことなきミレディ・ライセン本人だ。彼女は訳あって、神代魔法を使って魂を憑依させているんだ」

「………テメェがそう言うならそうなんだろうな。ドライグも親しげに話してるみてぇだし。どうやら、そこのデカブツがオスカーの手記にあったミレディ・ライセン本人みてぇだな。だが、どうやって……」

『およよ?久しぶりの友達との再会に狂喜乱舞していて後回しにしてたけど、後継者くんも含めて君らは皆オーちゃんの大迷宮の攻略者?』

 

わざとらしく首を傾げてそう尋ねる彼女に陽和がすかさず答える。

 

「ああ、俺達は全員オスカー・オルクスの大迷宮を攻略している。まぁ、順序が逆転してしまっていてここが二つ目なんだがな……」

『ふ〜ん、オーちゃんの大迷宮は、他の大迷宮を全て攻略した後に用意していたものなんだけどね〜。他の皆の神代魔法無しで攻略したとはそれはすごいことだよ〜。ミレディちゃんが褒めてあげよう!』

 

わ〜〜とわざとらしくパチパチするミレディにハジメはイライラしていたのかドンナーを向けた。

 

「おい、昔馴染みとの再会に喜ぶのは結構だが、そろそろ戦闘に入らせろ。俺達の目的は神代魔法だけだからな」

『あれぇ〜、ものすごく偉そうだねぇ。こいつぅ』

「悪いな。ハジメの奴はこれがデフォルトなんだ。大目に見てやってくれ」

 

ハジメの態度に若干戸惑うミレディに、すかさず陽和がフォローを入れる。

 

『ううん、全然構わないよぉ〜。悪ガキは生意気でなんぼだからねぇ〜。私から見ればみんな子供だもん』

「ははは、それもそうだな。貴女はもう何千年も生きてるからな」

 

二人は仲良く笑い合う。俄には信じ難いが陽和の言葉は本当のようで、あの巨大ゴーレムがミレディ・ライセン本人というのは確かだ。

セレリアは単純に驚いており、ハジメは若干イライラした様子で見ており、ユエは相変わらず無表情でミレディを眺め、シアは周囲のゴーレム騎士達に気が気でないのかそわそわしている。

そして、笑い合っていたミレディは今度は陽和の腰に視線を向けた。正確には腰から提げられている竜聖剣・ヘスティアを。

 

『その剣……竜聖剣だね。まぁ後継者くんなら持ってて当然か。ねぇねぇ、その剣の名前を教えてもらってもいいかな?』

「もちろんだ。こいつの名はヘスティアだ」

『ヘスティアか〜。いい名前だね。何か意味とかはあるの?』

「元は俺の世界の火の女神の名前で、聖火と守護を司る女神だ。その名がふさわしいと思った。まぁ、貴女からすれば神の名を使ってるのはいい気はしないかもしれんが……」

 

彼女らは神から世界を解放しようとしているのだ。だから、異世界の神とはいえ、自分達が心血注いで作った聖剣に神の名をつけられるのは、いささか気分が悪いかもしれない。しかし、その意図に反しミレディは首を横に振る。

 

『ううん、そんなことないよ。確かに神は嫌いだけど、あくまで嫌いなのはエヒトだけだよ。……てか、君、今俺の世界って言った?もしかして、別の世界から来たのかな?』

「そうだ。俺と後ろの眼帯の男、ハジメはエヒトのクソ野郎に無理やりこの世界に連れてこられたんだよ」

『うぅわぁ、あのクソ野郎この世界に飽き足らず、他の世界まで巻き込んだのかぁ。チッ、ホント害悪だね。あのゴミクズボッチ野郎』

 

嘆息混じりの陽和の言葉にミレディは心底うんざりしたような様子になると、舌打ち混じりにそんな暴言を吐き捨てたのだ。

先ほどまでの軽薄な様子から声のトーンが下がり、殺意に満ちた声音にハジメ達が驚くが、陽和は苦笑を浮かべた。

 

『まぁ後継者君との談笑は後にして、君達に質問させてもらうよ』

「ああ、構わないよ」

『ありがとう。じゃあまず、後ろの君随分とイライラしてるようだからね。早いとこ君から話を聞こうかな』

「あ?なんだよ」

『君の目的はなに?何の為に神代魔法を求める?』

 

真剣さを秘めた声音からは嘘偽りを許さないという意志が感じられ、ふざけた雰囲気などがかけらもなかった。下手な返答をしたらどうなるかわからない思わせるほどに真剣なものだったのだ。

それでハジメは思う。

こちらが本来の彼女なのではないかと。思えば彼女も大衆のために神に挑んだ者。自らが託す魔法でなにを成す気なのか、知らないわけにはいかないのだろう。

オスカーが記録映像で遺言を残したのと違い、何千年もの間意志と自我を持った状態で、迷宮の奥深くで挑戦者を待ち続けるというのは、ある意味拷問でないだろうか。軽薄な態度はブラフで、本当の彼女は凄まじいほどの忍耐と意志、そして責任感を持っている人なのだろう。

あの陽和が本気で敬意を抱いているのだ。人柄も確かなのは間違いない。

ユエやセレリアも同じことを思ったのか、真剣な眼差しをむけていた。深い闇の底でたった一人という苦しみをユエはよく知っており、セレリアは誰かの為に戦ったことに、共感以上の何かを感じたのだ。

ハジメはミレディの眼光を真っ直ぐに見返しながら嘘偽りのない言葉を返した。

 

「俺の目的はあくまで故郷に帰ることだ。だから、世界を超えて転移できる神代魔法を探している。俺は、陽和とは違ってお前らの代わりに神の討伐を目的としているわけじゃない。この世界のために命を賭けるつもりは毛頭ない」

『……………』

 

ミレディはしばらく、ジッとハジメを見つめた後、その視線をユエ、シアへと巡らせると何かに納得したように小さく頷いた。そして、ただ一言『そっか』とだけ呟くと、今度はセレリアへと視線を向ける。

 

『それじゃあ、そっちの魔人族の君は?眼帯くんと左右の二人は目的が一緒みたいだけど、君は後継者君とも彼らとも違うようだからね。次は君の目的を聞かせて』

「勿論だ。私は魔人族を神の呪縛から解放し、元の優しい国へと戻すために戦っている。同胞を、そして兄を救うためにだ。その為に狂神討伐を志している」

『……うんうん、君は魔人族の解放かぁ。それに、お兄さんをねぇ。……ねぇ、君の身体もしかして、変成魔法の改造を受けていたりする?見た限り、狼かな?』

 

ミレディがセレリアの体の各部に視線を巡らしながらそう尋ねる。労わるような、気遣うような口調になった彼女に、セレリアは少し表情に影を落とすと静かに答える。

 

「………ああ。氷雪洞窟を攻略した兄が、魔王に命じられて、私に変成魔法を施して氷雪狼と合成させたんだ。……きっと、今でも国では人体実験は続いてるだろう。だから、兄さん達の凶行を止めたいんだ」

『…………うん、君の言いたいことはわかるよ。ヴァンちゃんとよく似てるから、君の気持ちはよくわかる。ありがとう、答えてくれて』

 

そう礼を言うと最後に陽和へと視線を向けて、真剣な声音で問いかけた。

 

『……最後に後継者君。戦う前に君の目的を、君自身の口から聞かせてくれないかな?』

「ああ」

 

陽和は静かに頷くと、ミレディを真っ直ぐに見返しながら、継承の時にドライグに告げた誓いを口にする。

 

「俺は貴女達の生き様に心を動かされた。

誰もが笑える未来の為に抗い戦った貴女達の行動は、意志は誰にも否定できないほどに尊く素晴らしいものだ。

だからこそ、その意志を俺は絶やしたくないと思った。幾星霜の時が経とうとも穢れなかった意志の強さに、未来に希望の灯火を残してくれたことに、心からの敬意と感謝を貴女達に捧げる」

『…………』

 

胸に手を当てて恭しく頭を下げる陽和にミレディだけでなくハジメ達までもが呆気に取られる中、顔を上げた真剣な表情のまま続けた。

 

「そして、だからこそ、俺は貴女達の意志に報いたい。貴女達が残した灯火を俺が引き継ぎ、未来へと持っていきたいと思った。

他の誰でもない。この世界に連れてこられたこの俺が、二代目赤竜帝として、貴女達の想いを、覚悟を、全てを背負いたい。俺がこの世界に自由を齎そう。俺は、その為にここに来た」

『………………』

 

ミレディはしばらく陽和をじっと見つめると、しばらく経ったのち、小さく笑う。

 

『………ふふ、そうなんだね。うん、君の想い確かに伝わったよ。本当にありがとう。私は、私達はずっと君みたいな人が現れてくれるのを待ってた』

「………」

 

天を仰ぎ見て何が感傷に浸る彼女に、陽和は穏やかな眼差しを向ける。

彼女はドライグと同じように、何千年も地下の奥底で希望が現れるのを待っていたのだ。

そしてこうして今、彼女達が最も待ち望んだ希望が遂に現れた。その想いはきっと言葉にできないほど大きいものだろう。

そして、少し経った後、ミレディが顔を下ろすと先ほどの空気は消え軽薄な雰囲気に戻った。

 

『よし、なら早速戦おうか‼︎見事、この私を打ち破って、神代魔法を手にして先に行くといい!』

「ああ、そのつもりだ。貴女に勝って俺達は先に行かせてもらう!」

 

意気込む陽和にハジメが待ちくたびれたかのようにオルカンを構えつつぼやく。

 

「ったく、やっと戦えんのかよ。話が長ぇよ」

「悪いな。必要なことだったんだ」

「別にそう言う意味で言ったんじゃねぇよ。んじゃまあ、早速……死ね」

 

ハジメが物騒な一言と共に問答無用でオルカンからロケット弾をぶっ放したのだ。火花の尾を引く破壊の嵐が真っ直ぐにミレディへと突き進み直撃すると、凄絶な爆音を引き起こし、爆煙がもうもうと舞った。

 

「………いや、イライラしてたのはわかってたけどな?でも、いきなりぶっ放すとかお前…」

「いいだろ別に。焦れったかったんだよ」

「……まぁアレで終わるわけないから構わねぇけどなぁ……」

 

そう言って爆煙に視線を向ければ、ちょうど爆煙の中から赤熱化した右手がボバッと音を立てながら現れて、そのまま横薙ぎに振るって煙を吹き散らしたのだ。

煙の晴れた奥からは、両腕の前腕部の一部を砕かれながらも大してこたえた様子の無いミレディが現れる。ミレディは近くを通ったブロックを引き寄せるとそれを砕き、そのまま欠けた両腕の材料にして再構成した。

 

『ふふ、先制攻撃とはやってくれるねぇ〜。まぁこの程度じゃ私は倒れないけどねぇ〜、残念でしたぁ〜。私は強いけどぉ〜、死なないように頑張ってねぇ〜』

 

そう楽しそうに笑うと、左腕のフレイル型モーニングスターを射出する。予備動作なしで重力方向を調整して発射させたのだ。

陽和は翼を広げて飛び上がると、ヘスティアを横薙ぎに振るいモーニングスターを弾く。弾かれたモーニングスターは宙を泳ぐように旋回してミレディの手元に戻った。

 

「お前らやるぞ!ミレディを倒す!」

「おうよ」

「ああっ!」

「んっ!」

「了解ですぅ!」

 

陽和の掛け声と共に、七大大迷宮が一つ、【ライセン大迷宮】最後の戦いが始まった。

大剣を掲げたまま待機状態だったゴーレム騎士達も、陽和の掛け声を合図にし一斉に動き出す。通路でそうしたように、頭を陽和達に向けて一気に突っ込んできたのだ。

セレリアはブロックを勢い蹴って飛び上がり、自分からゴーレム騎士達に近づくと、鉤爪を器用に振るい、攻撃を躱しつつ次々と切り裂いていく。

ユエはくるりと身を躱しながらじゃらじゃらぶら下げた水筒の一つを前に突き出して、中に圧縮した水を利用した“破断”でゴーレム騎士達を両断していく。

シアはドリュッケンを振るい近づいてきたゴーレム騎士達を片っ端からぶん殴り、手元の引き金を引いてギミックとしてついていた砲撃機能でゴーレム騎士達を爆砕していった。

 

『あはは、やるねぇ〜。でも総数50体の無限に再生する騎士達と私。果たして同時に捌けるかなぁ〜』

「俺の仲間を舐めないでほしいな。あいつらは全員強いぞ?」

『へぇ、それは楽しみだね』

 

嫌味ったらしい口調にそう返した陽和は真上から迫り、ミレディに炎纏うヘスティアを振り下ろす。しかし、ミレディもただで斬られるわけがなく、普通に返答しながら、赤熱化した右手を振り上げてぶつける。

ガギィィンと音を立てて競り合うとミレディは笑った。

 

『ふふっ、すごい重いねぇ。こんなに重い攻撃は久しぶりだよぉ〜』

「その割には余裕そうだがな」

『さぁそれはどうかなぁ〜』

 

そんな呑気な言葉と共に陽和へとモーニングスターを落とす。しかし、銃声が一発響くと六条の閃光がモーニングスターに直撃して軌道が逸らされたのだ。

閃光が飛んできた方向に視線を向ければ、ハジメがドンナーを構えていた。

 

「サンキューハジメ!」

「援護は任せろ」

「ああ!」

 

声を張り上げた陽和は鍔迫り合いしている右拳めがけて足を振り上げる。翼のおかげで空中の姿勢補助も苦ではないため、器用に足を振るって赤熱化した右手を蹴り上げることに難なく成功した。

蹴り上げられた右手は大きく弾かれて上へと上がる。

 

『Boost‼︎』

 

ガラ空きになった胴体めがけて“倍加”した左拳を構え振り抜こうとする。だが、

 

「陽和避けろっ‼︎」

『相棒横だ‼︎‼︎』

「っっ⁉︎ぐっ⁉︎」

 

ハジメとドライグの警告が同時に響き、動作を中断し防御体制を構えた直後、陽和の体が横に吹っ飛ばされる。

空中をクルクルと回転しながら翼を広げて衝撃を殺し切った陽和は、顔を上げて吹っ飛ばした元凶を見る。

陽和を吹き飛ばした元凶は浮遊ブロックだった。

 

『操れるのが騎士だけとは一言も言ってないよぉ〜』

「ちっ、やっぱそう簡単に届かねぇか」

 

ミレディのにやつく声に陽和は悪態をつく。

ふざけた性格でも、神代の魔法を行使する“解放者”の一人。しかも、魔法の腕に関しては最強だった、天才ならぬ天災と呼ばれた存在。生半可な相手ではないと言うことだろう。

だが、

 

「まぁそんなのが負ける理由にはならねぇわな」

 

陽和は不敵に笑うと翼を広げて再びミレディに突貫する。こりもせずに正面戦闘を仕掛ける気なのかとミレディは思わず呆れる。

 

『また突撃?ワンパターンな男はモテないよぉ〜』

 

呆れつつミレディは陽和に向けてモーニングスターを射出。同時に浮遊ブロックを三つ上左右の3方向から放ったのだ。

 

「っっ、このっ‼︎」

 

迫るブロックとモーニングスターを前に、ハジメが遠くから援護射撃を放つものの、逸らすには数が足りず、そのまま隕石の如く陽和へと迫り、

 

 

「まさか。貴女相手にワンパターンな訳がないだろう?」

 

 

直後、真横から陽和の声が聞こえて、気づけばミレディの右腕が宙を舞っていた。

宙を舞う右腕は近くの浮遊ブロックにぶつかりその上に転がった。

 

 

『………え…………?』

 

 

ミレディが訳がわからず飛んだ右腕を見ながら呆然と呟く。

なぜ自分の右腕が切り飛ばされた?

なぜ潰したと思ってたはずの彼が自分の真横にいる?

どういうこと?全く訳がわからない。

 

しかし、ミレディが困惑する一方で、それをみていたハジメは今のカラクリに気づいた。

 

「………今のは、まさか……」

 

昔見たことがある。

陽和の実家ー紅咲家で毎年行われる神様へと奉納する舞ー火神神楽を見ていた時、それを見たことがあった。

 

絶妙な体捌きと独自の歩法によって、陽炎が生じたかのように残像を作りだし自身の場所を誤認させる武術。

 

火神神楽捌ノ型———“陽炎幻舞(かげろうげんぶ)

 

12個ある型の中で唯一、回避とフェイントを兼ねた武術である。

しかし、今陽和の足は地に着いていないはず。一体どうやって行ったのかはハジメも分からなかった。

とはいえ、分からなくて当然だ。なぜなら、これは陽和が独自に編み出した空中戦用の“陽炎幻舞”なのだから。翼の細かい羽ばたきによる激しい緩急と、絶妙な体捌きで間合いを誤認させたのだ。

 

「さぁ、次はこっちから行くぜ‼︎」

『上等‼︎かかってきなよ‼︎』

 

飛びかかる陽和に、ミレディは器用に右腕を再構築しつつ左腕のモーニングスターを放ち迎撃し、再び激突する。

その様子に援護射撃をしていたハジメは安堵の息をつく。

 

「ったく、ヒヤヒヤさせんじゃねぇよ」

 

陽和が一泡吹かせたことに心配して損したとボヤくハジメは、視線を外してユエ達へと向ける。ユエ達もなんとかゴーレム騎士達の攻撃を捌いてはいるものの、段々と捌ききれなくなっていたのだ。

セレリアが離脱したのも大きいのだろう。そのセレリアはというと陽和の元へと飛び出していった。

潰されそうになって時点で既に飛び出していたのだ。その真意は簡単に推し測れた。

 

「はっ、あいつは陽和にぞっこんだな」

 

メチャクチャ惚れられてんじゃねぇかとツッコむと、宝物庫からガトリング砲メツェライを取り出して、ユエとシアの間に立ち構えて、毎分一万二千発の死を撒き散らす化け物を解き放つ。

六砲身のバレルが回転しながら掃射を開始し、独特な射撃音を響かせながら空間を縦横無尽に舐めつくし、ゴーレム騎士達を次々とスクラップに変えていく。

回避または死角からの攻撃のために反対側に回り込んだ者達は、水のレーザーに横断されるか、戦鎚で叩き潰されていた。

瞬く間に40体のゴーレム騎士達が無惨な姿を晒しながら空間の底面へと墜落する。これでしばらく邪魔はないだろう。漸くミレディに専念できる。

 

『ちょっ、なにそれぇ!そんなの見たことも聞いたこともないんですけどぉ!』

 

異世界の兵器であるが故に初見だったミレディの驚愕の叫びを聞き流し、ハジメはメツェライを仕舞いドンナーを構えつつ全員に聞こえるように声を張り上げた。

 

「ミレディの核は、心臓と同じ位置だ!あれを破壊しろ‼︎」

『んなっ!なんで、わかったのぉ!?』

 

再度驚愕するミレディ。まさか、魔力そのものを見通す魔眼を持ってるとは思いもしなかったのだろう。核の位置が判明して全員の眼光が鋭くなる。

周囲を飛び交うゴーレム騎士は今は全て撃墜し残機ゼロ。陽和とセレリア、シアの近接主体をメインに全員で波状攻撃を仕掛ける。

 

陽和が翼をはためかせながらミレディの周囲を飛び回り、ヘスティアで斬っていく。陽和の戦闘に加わったセレリアも、足場を駆け回りながらミレディに鉤爪での攻撃を仕掛けていた。

しかし、流石と言うべきか二人の高速攻撃をミレディは時折、装甲を再構築させながら捌いていたのだ。そこに頭上から迫っていたシアが、頭部めがけてドリュッケンを振り上げていた。頭をまず潰す気なのだろう。

 

「でやぁああぁ!!」

 

極限まで強化した身体能力を持って大上段の一撃を繰り出すシアに、ちょうどセレリアを弾いたミレディが反応する。

 

『パワーでゴーレムが負ける訳ないよぉ〜』

 

自身の言葉を証明してやるとでも言うように、ミレディは燃え盛る右手をシアめがけて振るう。

ドリュッケンとヒートナックルが凄まじい轟音を響かせながら衝突し、発生した衝撃波が周囲を浮遊していたブロックのいくつかを放射状に吹き飛ばした。

 

「こぉのぉぉ!!」

 

突破できないミレディの拳に、シアが雄叫びをあげて力を込めるが、やはり敵わず、しかも突如爆発して衝撃を撒き散らしながら張り切られた拳によって、盛大に吹き飛ばされたのだ。

 

「きゃああ!」

「シア!」

 

悲鳴をあげるシアにユエがすぐさま動き、横合いから飛び出してシアを抱き止めて“来翔”で軌道を修正してブロックに着地する。

 

『中々のコンビネーションだねぇ〜』

「だろ?だが、余所見厳禁だ」

『!?』

 

余裕な声で呟くミレディに背後から声がかかり、驚愕したミレディが慌てて背後に視線を転じれば、そこには既に拳を引き絞っていた陽和の姿があって、左腕が赤光に覆われていたのだ。

 

「一発喰らっておけ」

『Explosion‼︎』

『っしまっー』

 

ミレディの驚愕の言葉は陽和の拳と装甲が激突した檄音によって遮られる。

“倍加”で高めて強化して力を解放した炎拳は見事直撃し、ミレディを吹き飛ばすのと同時に胸部の装甲を木っ端微塵に破壊する。魔力の分解作用があるため多少の威力の減衰はあるが、それでもミレディの装甲を砕くには十分だった。

胸部から装甲の破片を撒き散らしながら吹き飛ぶミレディ。数十mは吹き飛ばしブロックにぶつかり漸く止まった。

ハジメ達はその間に陽和の元へと集まり、ミレディの様子を観察する。

 

「ナイスパンチだ。だが……」

「今のはいけたのか?」

「……ん」

「うぅ〜これで、終わってほしいですぅ」

「手応えはあった。だが、それだけだな。まだだ」

 

陽和がそう答えると同時に、ミレディが身を起こしながら感心を含んだ声で陽和達に話しかける。

 

『いやぁ〜。大したもんだよぉ〜。ちょっと焦っちゃったなぁ〜。君が全開で戦えてたら今ので終わってたかもね。うん。この場所に苦労して迷宮作ったミレディちゃん天才‼︎‼︎』

「殴った時、中に硬い感触があったからまさかと思ったが、やっぱアザンチウムの装甲か」

 

自画自賛するミレディに、陽和は胸部装甲の奥に見える漆黒の装甲を見るとそう悪態をついた。

アザンチウム鉱石。世界最高硬度と靭性を誇る鉱石であり、それで造られた装甲を破るのは至難の業なのだ。

 

『おや?知っていたんだねぇ〜、ってそりゃそうか。オーくんの迷宮の攻略者だものねぇ、生成魔法の使い手が知らない訳ないよねぇ〜。さぁさぁ、程よく絶望したところで、第二ラウンド行ってみようかぁ!』

 

ミレディは砕いたブロックから素材を奪って表面装甲を再構築すると、モーニングスターを射出しながら自らも猛然と突撃を開始した。

 

「ど、どうするんですか⁉︎ハジメさん!陽和さん‼︎」

「落ち着けシア、簡単なことだ」

 

火力不足に焦るシアに陽和は落ち着かせると不敵な笑みを浮かべて答える。

 

「動きを止めるだけだ」

「ああ、それしかねぇな」

「分かった」

「……ん、了解」

 

陽和の指示にハジメ達は同意してすぐさま行動を移す。迫り来るモーニングスターを回避すべく近くの浮遊ブロックに飛び移ろうとするハジメ達だったが、

 

『させないよぉ〜』

 

ミレディの気の抜けた声と共に、足場にしていたブロックが高速で回転する。

いきなり足場を回転させられて、バランスを崩すハジメ達にモーニングスターが迫るが、元々飛翔していた陽和が空を真っ向から受け止める。

右足を振り上げてサッカーボールを蹴るようにモーニングスターを蹴って弾いたのだ。

ハジメ達がなんとか着地したのを確認するや、すかさず陽和はミレディへと迫った。

 

『くぅっ‼︎』

 

ミレディはモーニングスターが戻るよりも先に陽和が到達すると理解したのか、ヒートナックルを構えて突き出す。だが、これには左腕に炎を纏わせて迎撃する。

二つの燃え盛る拳が激突して、熱風と衝撃波を周囲に放つ中、ふと陽和の視界に複数の影が現れる。

 

「ッッ‼︎」

 

影の正体はゴーレム騎士達だ。再生を終えたゴーレム騎士達がミレディに操作されて戻ってきたのだろう。

大した脅威ではないが、今はまずい。

ミレディのヒートナックルを迎え撃っている以上、他への対処は難しい。陽和を突き刺さんと迫るゴーレム騎士達にやばいと焦る陽和だったが、直後、紫の閃光が駆け抜けてゴーレム騎士達を切り裂いたのだ。

セレリアがブロックから飛び上がってきたのだろう。

 

「「………」」

 

二人の視線が交差して、セレリアと陽和は同時に笑みを浮かべる。

 

『なら、これはどぉ〜?』

「ッッ⁉︎」

 

ミレディがそう呟いた直後、ヒートナックルが強く輝き突如爆発を引き起こしたのだ。

爆炎に飲まれる二人。その隙にミレディはすかさず距離をとると様子を見る。

爆炎が晴れれば、そこにはセレリアを抱きしめ翼で自分ごと覆い隠す陽和の姿があった。

 

「助かった。陽和」

「無事なら良かった」

「陽和、私を飛ばしてくれ。一矢報いたい」

「了解だ。なら、ぶちかましてこいっ‼︎‼︎」

 

陽和はセレリアの腕を掴むと二回転して遠心力をつけて彼女を勢いよく投げ飛ばした。

そして、投げ飛ばした直後、ハジメ達の方から声が聞こえてくる。

 

「もっかい逝って来い‼︎バグウサギ‼︎」

「いいぃやぁぁぁぁ!!!」

 

義手に装填したショットシェルの衝撃の反動を利用した回転による遠心力で、ハジメがシアを投げ飛ばしたのだ。

 

「シア私に合わせろ‼︎‼︎」

「はい‼︎もう、こんちくしょうですぅ!」

 

セレリアがヴァナルガンドを構えつつシアに声をかけ、シアがヤケクソ気味な雄叫びを上げながらドリュッケンを構える。

急接近する二人を迎撃すべく、ミレディはシートナックルを放とうと拳をぐっと後ろに引き絞るが……構えたヒートナックルが突如飛来した紅緋色の閃光に弾かれる。

 

『わわわっ、なにっ⁉︎』

 

驚愕の声をあげるミレディ。

閃光の正体は陽和の“ファイアボルト”だ。魔力を普段の数倍こめたファイアボルトでミレディの右腕を弾いたのだ。

そこへ、セレリアとシアが到達する。

 

「はあぁぁぁぁ‼︎」

「りゃぁあああ‼︎」

 

気合のこもった雄叫びと共に、セレリアがヴァナルガンドに氷を纏わせて肥大化させ、シアが手元の引き金を引いてショットシェルを撃発させて加速させたドリュッケンを振るう。

ミレディは咄嗟に弾かれた右腕を引き戻し掲げる。直後、二つの豪速の一撃が直撃して右腕を肩口から先を容赦なく粉砕したのだ。

 

しかし、攻撃の勢いそのままに宙を泳ぐ二人はあまりにも無防備で、ミレディがそれを逃すはずもなくモーニングスターを二人に向けて射出したのだ。

 

だが、それは外れる。

正確には、飛翔してきた陽和が二人を掴んでその場から離脱したからだ。

更にはミレディが二人に意識を向けた瞬間、下方から放たれた水のレーザーが、いつの間にかついていた左腕の切れ込みに寸分違わず命中すると、その傷口を更に上がって左腕を切断したのだ。

 

「……ふふ」

 

そうほくそ笑むのはユエである。

 

『っっこのぉ!調子に乗ってぇ!』

 

ミレディがイラついた様子で声を張り上げて、浮遊ブロックを操作するものの、それらは陽和が複雑な軌道で飛翔することで悉く躱されてしまう。

 

「陽和、助かった。ありがとう」

「陽和さ〜ん。ありがとうございますぅ〜」

「二人ともよくやった。一度離脱するぞ」

 

そう言ってハジメ達の元へと戻った陽和達。と、片腕を失ったミレディが何故か、天井を見つめ目を強く光らせるだけで微動だにしていなかったのだ。

一瞬怪訝そうな顔を浮かべるも、猛烈に嫌な予感がして表情を強ばらせる一同に、シアの表情が青ざめた。

 

「皆さん避けてぇぇ‼︎‼︎降ってきます‼︎‼︎」

「降ってくる?ッッ⁉︎まさかっ‼︎」

 

“未来視”が発動したのか焦燥に満ちた声を張り上げるシアの言葉を聞き、陽和はミレディが何をしようとしているのかを察して天井を見上げた。

 

直後、それは起こった。

 

空間全体が鳴動して、低い地鳴りのような音が響く。天井からパラパラと破片が落ちてくる。いや、破片だけではない。天井そのものが落ちてこようとしているのだ。

 

「ッッ、ヤベェ‼︎」

「っ⁉︎こいつぁ‼︎」

『ふふふ、お返しだよぉ。騎士以外は同時に複数を操作することできないけど、ただ一斉に“落とす”だけなら数百単位で行けるからねぇ〜、見事凌いでみせてねぇ〜。特に後継者くんは、私達の想いを継ぐなら、これくらい突破しなきゃ話にならないよぉ〜』

 

呑気なミレディの言葉に言葉を返す余裕もない。この空間の壁にはいくつものブロックが敷き詰められており、その全てが落ちてくるのだ。

一つ一つが軽く10トン以上はありそうな巨石が、豪雨の如く降ってくるのだ。焦らないわけがない。

 

「陽和っ、どうするんだっ⁉︎」

「合流してる余裕はねぇ!とにかく掴まれ‼︎」

 

動揺して焦るセレリアに手を伸ばした陽和は、すぐさまセレリアを片腕で抱き抱えると翼を広げて飛ぶ。

ハジメ達の元へと向かう余裕はない。だから、ハジメと視線を交わしお互いどうにか凌げとアイコンタクトし陽和は羽ばたいた。

その間もミレディはずっと天井を見つめたままだ。ゴーレム騎士とは操作系統が異なるのか、一切の自律性が見受けられない物体、しかも数百単位の巨石を天井から外すのには集中がいるようだ。

そして、陽和の視界の端でハジメがユエとシアと合流して寄り添うと同時に、天から巨石群が降り注ぐ。

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ‼︎‼︎ゴバッ‼︎‼︎

 

天井からブロックが外れ、地響きが鳴り止む代わりに轟音を立てながら自由落下する巨石群。しかも、一部は軌道調整が可能なのか、陽和とハジメを狙い打つように二つに密集して落ちてきたのだ。視線を巡らせればミレディは猛スピードで壁際に退避していた。

 

「ドライグ‼︎ヘスティアに力の譲渡‼︎同時に魔力操作のサポート任せた‼︎‼︎」

『ああっ‼︎任せろ‼︎』

「陽和っ‼︎何する気だっ⁉︎」

 

陽和に抱きかかえているセレリアが声を張り上げる。陽和はヘスティアを構え全身から魔力をたぎらせつつその疑問に応えた。

 

「どうにかブロックをぶった斬って道を開く。それしか方法はない」

「あの量をかっ⁉︎そんなの魔力がいくらあっても足りないだろっ⁉︎」

「全部じゃないっ。最短にあるやつだけを斬ってミレディの懐に辿り着くっ‼︎」

 

そう叫ぶや否、今まで溜め込んだ“倍加”の力を解放し、その全てをヘスティアに譲渡する。

 

『Explosion‼︎‼︎』『Transfer‼︎‼︎』

 

ヘスティアは眩い紅蓮の輝きを纏い刀身から雷炎を迸らせる。分解作用があっても尚激しく昂るヘスティアを構えて陽和は更に手札を切る。

 

「“臨界突破(オーバーリミット)”ッッ‼︎‼︎」

 

紅白のオーラが陽和の全身を包み込み、陽和のステータスを5倍に跳ね上がる。分解作用で急激に魔力が消費していくものの、5倍に増やした魔力量でのゴリ押しで陽和は身体強化をも発動する。

“限界突破”の亜種である“臨界突破”はすべてのステータスを上昇させることができる。外側に纏った魔力の鎧は霧散されるものの、内側に作用する効果は健在だ。よって、高まった知覚能力と身体能力、そして魔力量は影響を受けない。

それに、ドライグが魔力操作をサポートしてくれているおかげで、陽和は制御に意識を割かなくてすんだ。

陽和はセレリアがきっちり自分の首に腕を回して掴まっているのを確認すると、ヘスティアを構え迎撃の為に飛翔する。

 

豪速を以って落下してきた巨石群がミレディへと飛翔する陽和へと到達する。

 

「オオオォォォォォォォッッッ‼︎‼︎」

 

陽和は雄叫びをあげて降り注ぐ巨石群を斬り裂き、殴り砕き、弾き飛ばしていく。

赤い閃光が巨石群を突破せんと突き進むが、それは次第に速度を落としていってしまう。

 

(くそっ、数が多すぎるっ‼︎‼︎)

 

巨石群を迎撃する陽和は現状に歯噛みする。

高まった知覚能力で巨石群の全てを認識できているが、なにぶん数が多い上に速度もある。次第に迎撃が間に合わなくなってきていたのだ。

 

(まさか……ここで終わりなのか?)

 

一瞬湧き上がった不安。それを心の内で口にした瞬間、陽和は己への怒りで歯をギリッと噛み締めた。

 

(ふざけんなっ‼︎ここで終わってたまるかっ‼︎)

 

一瞬弱気になった自分が情けない。

降り注ぐ死を前に気弱になってしまったことは恥だ。

 

なぜ不安になった?

 

なぜそんなことを思った!?

 

ここには俺だけじゃない。仲間が、友がいる!!

ハジメは死に物狂いで突破しようとしている。

ユエとシアはハジメを信頼して命を託している。

自分の腕の中にいるセレリアも、自分を信頼して命を預けた。

守るべき仲間が、共に戦う仲間がいるというのに、なぜ一人弱気になったんだ!?

 

しかも、ここにはミレディがいる。

彼女の前で無様を見せるわけにはいかない。

何より、彼女達が託した希望を受け継いだ自分が、彼女の想定内で終わっては意味がないのだ。

勝たなければ、越えなければ、彼女に示しがつかない。

彼女のこれまでの覚悟と想いに自分は応えなくちゃいけないんだ!!

 

 

だからっっ!!

 

 

 

「俺はっっ‼︎‼︎先に進まなくちゃいけねぇんだよっ‼︎‼︎‼︎」

 

 

 

陽和は心からの本心を腹の底からあらん限りの声で叫び、ヘスティアを握る手にこれまで以上の力が込められる。

その時だった。

 

 

 

 

『うん。ボクは君の想いに応えよう』

「っっ⁉︎⁉︎」

 

 

 

 

どこからともなく少女の声が聞こえた直後、陽和の左腕の宝玉がドクンと鳴った。

そして、ヘスティアの柄の宝玉が鮮やかな紅蓮の輝きを放ち、直後、陽和の意識が暗転した。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

 

『っっ⁉︎……ここ、は?』

 

 

暗転した意識が戻った時、陽和の視界に映る光景はライセン大迷宮最奥部の空間ではなかった。

無数の木々が陽和の周囲に生え並ぶ森の光景だったのだ。木々の間からは陽光が差し込んでおり、陽和の視界を淡く照らす。

 

『なんだ?俺は大迷宮にいたはずじゃないのか?』

 

訳がわからず周囲を仕切りに見渡しながらそう呟く陽和に上から声がかけられる。

 

『ここは精神世界だ。相棒』

 

聞き慣れた相棒の声。振り返ってみればそこにはドライグがいた。

勇壮な紅蓮の鱗に全身を包み佇む、誇り高く威厳のある姿は、何もしてなくても凄まじい威圧感を感じて、陽和は若干驚きつつも口を開く。

 

『ドライグ、お前までどうしてここに?』

 

ドライグが実体化している時点でここが現実ではないことは分かった。だが、どうして自分達だけがここにいるのか見当がつかなかったのだ。

その理由をドライグが教えてくれた。

 

『それは、相棒と俺が彼女に呼ばれたからだ』

『彼女?』

『会えばわかる。この先で俺達を待っているぞ』

 

見ろと鼻先を陽和の背後へと向けて見るように促す。振り向けば、いつのまにか木々で造られたトンネルのようなものがあり、道ができていたのだ。トンネルの大きさはドライグが翼を広げても余裕があるほどに広い。

 

『いつの間に……』

『歩くのでは時間がかかるからな。ここからは俺が運ぼう。相棒、俺の背に乗れ』

『ああ』

 

ドライグが片翼を広げて地面へとつけて乗るように促す。陽和が翼を伝って背中に乗ったことを確認するとドライグは翼を羽ばたかせて飛び上がった。

 

『へぇ、ドラゴンに乗るってこんな感じなのか』

 

竜になれる自分が、まさか乗る側になるとは思わず、ドラゴンに乗って飛ぶ感覚に感心の声をあげる。ドライグはその感心に嬉しそうに笑う。

 

『ククッ、俺も相棒を乗せることができて嬉しいぞ』

『現実じゃあ乗せる側だからなぁ。精神世界ではドライグに乗せてもらうのもありかもな』

『それはいいな。その時は相棒が満足いくまで乗せよう』

『頼むよ』

 

それから光が差し込むトンネルをしばらく飛び続けて、陽和達はトンネルの出口に出る。そして、広がった光景に揃って驚いた。

なぜなら、目の前には見上げるほどの超巨大な大樹があったから。

 

『おい、あれって……』

『ウーア・アルトによく似ているな』

 

その大樹は、壮麗で威容に満ちた姿は、現実にあるウーア・アルトが青々とした葉を広げていればこうなっているのだろうと理解できるほどに酷似しているものだった。

しかし、ウーア・アルトとは似ているようで似ていない。それは、枝の先についているのが葉ではなく花だったから。

 

青々とした葉ではなく、赤と白が混ざった美しい紅白色の花。

 

そう、それは、まさしく、

 

『……桜…』

 

桜の木だったのだ。

この世界では決して見ることができないと諦めていた桜を、よもや精神世界とは言えみれたことに陽和が唖然とし見上げる中、ドライグが言葉を投げかける。

 

『相棒、根本を見てみろ。彼女がいるぞ』

『え?』

 

ドライグの言葉に視線を下ろして大樹の根元を見れば、そこには確かに誰かがいた。

 

白を基調とした衣を身に纏い、ピンク色の長い髪を靡かせる小さな少女。静謐さと優しさを宿した青緑色の瞳はこちらをまっすぐと見ており、整った顔には穏やかな微笑みが浮かんでいた。

 

『女の子?』

 

陽和が彼女の容姿を見て思わずそう呟く。

見た限り、身長が140cm程と子供だと思っても仕方がなかったからだ。

 

『ドライグ、あの子は一体……』

『それは彼女自身が話す。とにかく、彼女の元へ向かうぞ』

 

ドライグが着地してズンズンと歩いて彼女の目前まで近づくと、片翼を地面につけて無言で陽和に降りるように促す。

訳が分からない陽和は多少困惑しつつもドライグから降りると少女の前へと立った。

 

『なぁ、君は…『やっと会えた』っ』

 

初めて口を開いた少女の声音は透き通っており、どこかで聞き覚えのある声だった。どこで聞いたことがあったかと必死に思い出そうとしている陽和に、少女は近づくと目の端に涙を浮かべる。

 

『ずっと、ずっとこの日を待っていたんだ。君達とこうして会える日が来るのを。君が彼の力を受け継いだ日から、ボクはずっと君と話をしたかった』

『っっ‼︎なぜ、それをっ……いや待て、君の声はっ……さっき』

 

少女の言葉に目を見開いて驚いた陽和はようやく気づく。少女の声。それは、この精神世界に来る直前に聞いた声だと。

そうすれば、自然とこの少女が誰なのか分かってしまった。気づいてしまった。だから、彼は、

 

『……まさか……君は、ヘスティア、なのか?』

 

自然とその名を口にしていた。

目の前の少女ー竜聖剣・ヘスティアは満面の笑みを浮かべると、

 

『うんっ!そうだよっ!ボクはヘスティアだ!』

 

そう言いながら、陽和に抱きついたのだ。

抱きつかれた陽和は、ヘスティアを反射的に受け止めつつも混乱を隠せなかった。

 

『ま、マジかよ。いや、ドライグから話を聞いて意志があることは分かってたけど、まだ話せる段階じゃないって言ってたよな?』

 

大樹の前でドライグに全てを知らされたあの日、ヘスティアのことにも当然触れており、ドライグ曰く『女神が宿っているがまだ起きていないらしく、会話できる段階にはない』と言っていたのだ。

そう、陽和が振るう竜聖剣にはとある女神の魂が封じられているのだ。

大樹ウーア・アルト。否、大樹の化身“女神ウーア・アルト,,が産んだ女神にして分御霊。

名前をつけられておらず、産まれた直後に竜聖剣にその魂を封じこめられた一柱の女神。

そんな女神こそが、今陽和に抱きついている少女ーヘスティアだった。

意思はあるものの会話できる段階ではなかったはずなのに、どうしてと困惑する陽和から離れたヘスティアがその疑問に応える。

 

『うん、ドライグ君の言う通りだよ。確かにボクは今までは会話することはできなかった。それは、ボクがそれに足りるまで成長できていなかったからなんだ』

『っそういえば、竜聖剣は生きていて、俺と共に成長するように造られていたんだったな』

 

陽和は竜聖剣の成り立ちを思い出す。だとすれば、彼女は今の段階でようやく使い手と会話できるほどに成長したと言うことなのだろう。

ドライグが後ろからその呟きに答える。

 

『俺の予想としては後ニヶ月は先だと思っていたんだがな。予想以上の成長速度だ』

『あはは、それはまぁマスターとの親和性が元々高かったからね。なんでか分からないけど、ボク達の相性は元々良かったみたいなんだ』

『相棒は俺との親和性も元から高かったな。それに加えて女神とも相性がいいとは‥‥今更ながら相棒は本当に人間だったのか?』

『いきなり人外疑惑か?勘弁してくれよ。俺は元はれっきとした人間だ』

 

陽和が笑いながらそう返す。竜に加えて女神とも魂との親和性が元から高かったなど、陽和個人が持つ資質を抜きにしても真人間かどうかを疑うだろう。だが、自分は継承する以前は紛れもなく真人間のはずなので、それを否定する。

そこで陽和はヘスティアへと振り向き尋ねた。

 

『まぁそれはそうと、ヘスティア。俺達はなぜここに呼ばれた?俺達は戦闘中で、しかも相当にヤバい状況だったのは分かっているはずだ。その上で、どうして呼んだんだ?』

 

ヘスティアは陽和の質問にくすりと微笑むと胸に手を当てて応える。

 

『ボクは君と、マスターと本当の契約を結ぶためにここに呼んだんだ』

『契約?あの時、血を取り込ませたはずだ。あれじゃなかったのか?』

 

あの時、血を染み込ませて適合を果たしたはず。それで十分だったのではないのか、と尋ねる陽和に立ち上がったヘスティアは首を横に振った。

 

『ううん、あれはあくまで適合するだけ。ボクと君が魂で真に繋がるものじゃないんだ。いわば、第一段階の仮契約さ。そして、今が本契約の時なんだ。だから、ボクは君達をここに呼んだ。君達の繋がりにボクも加えてもらうようにね』

 

そう言うと、ヘスティアは陽和から一歩下がり片膝をつくと恭しく頭を下げたのだ。

 

『この世界が欲し求めた『希望の英雄』紅咲陽和様。ボクは貴方を久遠の主と定め、御身を守る剣となり絶望を祓う為の一助となろう。どうか、ここにボクと契約を結んでほしい』

 

彼女が契約の口上を口にした直後、ヘスティアと陽和、ドライグを囲むように炎の輪が生まれ、同時に木々の間を風が駆け抜けて桜の花びらが舞い上がったのだ。

舞い上がる火の粉と花びらが混ざり、火華となって空中を彩る様は幻想的で神秘的だった。

その幻想的な光景を見上げて、静かに笑みを浮かべた陽和はヘスティアへと左手を伸ばし告げた。

 

『女神ヘスティア。これから我が剣となり、かの英雄達から託された悲願を叶う為に、誇り高き赤き竜の帝王と共にどうか力を貸してほしい。

二代目赤竜帝紅咲陽和はここに貴女と魂の契約を結ぶことを認めよう』

『……うん、ありがとう。なら、契約を結ぼう』

 

嬉しそうに表情を綻ばせたヘスティアは、立ち上がると陽和の左手に自身の左手を重ねる。

すると、陽和の左手が勝手に竜化して、大樹に近づいた時のように宝玉に独特な翡翠色の紋様が浮かび上がったのだ。

紋様が浮かぶと、宝玉が強く脈動して自分と彼女とのつながりが一層強くなったことを理解した。

 

そして、ヘスティアが紅蓮と翡翠の輝きに身を包むと、繭のように己を包み込んで姿を変えていき、やがて現れたのは聖剣としての姿で柄が陽和に握られていた。

 

『契約は完了したよ。これでボクは正真正銘君だけの聖剣になった。他の人には使わせないでくれよ?』

『ああ、当然だ。お前は俺の剣だ。俺以外に使わせてなるものかよ』

『ふふっ』

 

陽和はヘスティアを腰の剣帯に提げて鞘から引き抜く。淡い翡翠色の輝きを浴びる紅蓮の刀身は変わらずだが、纏う輝きが一層強くなり、そして優しいものになっていたのだ。

柄を通じて手に伝わる感覚もどこか違くて、無機質な金属ではなく温もりが感じられていた。

そして、振り返った陽和にこれまで静観していたドライグが声をかける。

 

『無事に契約できたようだな。相棒よ』

『ああ、待たせたな』

『構わんさ。それとこれからよろしく頼むぞ。ヘスティア。共に相棒を支えよう』

『うん。ボクからもよろしく頼むよ。ドライグ君』

 

相棒同士挨拶を交わせた様子に陽和はくすりと笑うとドライグに右手を差し伸べる。

 

『ドライグ』

『ああ』

 

ドライグは陽和の右手に自分の顔を近づける。直後、ドライグの体が紅蓮色の輝きに包まれると形を変えて光の球体へと姿を変えると《赤竜帝の宝玉》の中へと入ったのだ。

ドライグが自分の中に入ったことを理解すると、背中から翼をはやしながら声を張り上げる。

 

『ドライグ!ヘスティア!準備はいいな!?』

 

これからの旅路を共にする相棒達に声をかけた陽和に、相棒二人は当然のように頷く。

 

『ああ、万全だ!ミレディに見せつけてやろうじゃないか!!俺達の今を!!』

『うん!ボク達こそが自由の意志を受け継いだと証明する為に!!』

 

二人の頼もしい言葉に陽和は口の端を吊り上げて勇猛に笑う。

 

『『『さあ、行こう!!!』』』

 

三人は声を合わせて大空へと飛び立った。

 

 





はい、ということでミレディとドライグがようやく再会したのに加えて陽和の新しい相棒、ヘスティアもようやく出すことができましたね。
これからは陽和は自分の中に二人の魂があるということになるわけです。

ヘスティアの見た目ですが、黒髪ではなくピンク髪なのでダンメモのイベントに登場した女神ヘスティアのもう一つの姿ーウェスタの見た目そのものです。

そして、次回決着です。


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