竜帝と魔王の異世界冒険譚   作:桐谷 アキト

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タマミツネ希少種がきたァァァァァァァ!!
なんですかあれ!?美しさとかっこよさがカンストしたモンスターになってるじゃないですかっ!しかも、炎の色もマガドの鬼火よりも淡い薄紫色でとてつもなく幻想的でしたね。

とにかく、アプデ来たら真っ先にやって一式作るしかない!!


と、それは置いといて本編は、いよいよ決着です。




29話 決着

 

 

 

 

 

「…………え………………?」

 

 

 

それは、誰の声だったか。

 

陽和に抱えられているセレリア?

ユエとシアを抱えているハジメ?

ハジメに抱えられているユエ?

それともシア?

それとも、今まさに大量の巨石を落としたミレディか?

 

違う。誰かのものではない。ある一人を除く全員の声が揃ったものだった。

誰もが驚愕する光景があったからこそ、そんな声が出てしまった。

 

その光景とは———振り落ちる巨石群に無数の赤い軌跡が奔って、全て例外なくバラバラに斬り裂かれた光景だ。

 

切り裂かれた巨石群は見事な残骸と化して天井へと弾かれ打ち上げられる。

 

「……う、嘘だろ……?」

「……え……あ、ぇ?」

「……は……?」

「………?」

『な、なにが……』

 

巨石群が粉々に切り裂かれた光景にハジメ達が混乱の声をあげ、ミレディも動揺の声をあげる。

と、その時、

 

「間一髪間に合ったか」

『うん、本当にギリギリだったね」

『だが間に合った。流石は相棒だ』

『えっ?』

 

聞き覚えのある声がふたつと、全く聞き覚えのない声が一つ、計三つの声の会話が聞こえてきたのだ。

その声達の元に視線を向ければ、そこにいたのは竜聖剣・ヘスティアを振り抜いた姿勢で佇む赤髪翠眼の竜人の少年。そう、陽和だ。しかし、その様相は前とは少し変わっていた。

 

「陽和…?なんだ、それは?」

 

彼に庇われる形で抱き抱えられていたセレリアが真っ先に気付く。

陽和が手にしているヘスティアが以前と少し異なっていたのだ。

 

刀身に浮かぶ模様がどこか違っていて、黄金色の炎の紋様に加えて、それらを囲むように同じく黄金色の植物の蔓のような紋様まで浮かんでいたのだ。

刀身の根元に宿る翡翠の宝玉は青緑色に変わり、刀身は翡翠色の輝きを帯びていた。

 

『なに…それ……』

「ミレディ。俺は貴女に示さなくちゃならない。俺が自由の意志を継いだことを」

 

陽和の変化に困惑するミレディ。彼女には分からなかったのだ。彼に何が起きたのかを。

陽和は近くのブロックに着地してセレリアを下ろすとミレディが困惑するのに構わずに話し続ける。

 

「だから、これは証明だ。貴方達解放者のエヒト討伐の悲願を受け継いだ俺が、神へと抗えることができるという証明を。そして、俺こそが力を受け継いだ新たな赤竜帝であると!!」

『……!』

 

ミレディが息を飲み巨大ゴーレムが僅かに後退する。陽和はミレディから一切視線を逸らさずに見据えると、相棒へと声を張り上げる。

 

「ドライグ!」

『応!見せつけてやろう‼︎』

 

そして、陽和とドライグは心の昂りのままに叫ぶ。

 

『「“竜帝化(バランス・ブレイク)”ッッ‼︎‼︎」』

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!!!』

 

発動するのは陽和の切り札。

刹那、光炎の柱が生まれ空間を紅白に照らす。やがて光炎の柱が消えて顕現するは赤き竜の力を宿した鎧を纏う陽和。

勇壮な紅蓮の甲殻に身を包み、紅蓮色の輝きを纏い宝玉と眼光を鮮やかな翡翠に輝かせていた。

 

『すごい。すごいねそのオーラ。もうあのクソ人形にも勝るオーラだ』

 

陽和自身から放たれるオーラの濃密さにミレディは心の底から嬉しそうに笑う。

自分達が未来に託した希望の一つが、現れたことが嬉しくないわけがない。そんな彼女に陽和は笑みを浮かべる。

 

「まだだ。もう一つあるぞ」

『え?』

 

困惑の声を上げる彼女に陽和はヘスティアを水平に構える。

 

「貴女達が創り俺に託した竜聖剣・ヘスティア。この剣に宿るヘスティアが有する力。その権能を今から見せよう。ヘスティア行けるな?」

『ああっ!いつでも行けるよ!思う存分暴れてくれ!』

 

青緑の宝玉を点滅させながら応えたヘスティアの気力十分な声音に陽和は無言で頷くと、右手を刀身に添えながら今目覚めたばかりの技能を発動する。

 

「“女神の契り(フレア・ブレッシング)”」

『ッッ⁉︎』

 

その技能を発動した瞬間、再びドンッと空間が鳴動して、彼の纏うオーラが更に膨れ上がると紅蓮に混ざり翡翠色の輝きも全身に纏ったのだ。

それに加えて、両腕の籠手には花と蔓が絡み合ったような翡翠色の模様が指先から肩まで浮かび上がる。

紅蓮と翡翠。二色の魔力光を放ち周囲に燐光を散らし佇む陽和の圧力は先ほどよりも濃密になり、伝わる波動にミレディだけでなく後方で見ていたハジメ達も目を見開いていた。

 

「な、なんだアレ……」

「わ、わかんないですっ!でも、なんというか、このオーラは……」

「………ん、温かい」

 

肌に伝わるオーラ。確かにそれは凄まじいが、ハジメ達は不思議と恐怖や怯えなどの感情は湧き上がらず、かわりに焚き火に当たるような温かさを感じていた。

 

「陽和、お前、その力は……」

『聖剣の力を解放した?……もしかして、聖剣に封じたあの女神ちゃんと契約を交わして新しい技能を発現させたのっ!?今この土壇場でっ!?』

 

ミレディはドライグと共に竜聖剣を創り上げた者の一人だ。だからこそ、竜聖剣に女神が宿っていることも当然知っており、この力の上昇が過去の勇者のそれと酷似していたことにも気づき、そう推測したのだ。

そしてその推測は正しい。しかし、陽和はその推測には答えずに竜聖剣の鋒をミレディに向けて構えると告げる。

 

「さぁ、行くぞ。解放者リーダーミレディ・ライセン。俺は今一度貴女に挑戦するっ‼︎‼︎」

『ッッ‼︎うんっ、何処からでもかかってきなよ‼︎‼︎私達が希望を託した竜継士の力。私に見せて‼︎‼︎後継者くん‼︎』

「そのつもりだっ!!」

 

ミレディが両腕を大きく広げ歓喜の声を上げる。待ち望んだ竜継士。それが今自分の目の前にいて、自分の予想外な進化をしている。ならば、その力。解放者の長として見定めないわけがない。

その歓喜に答え陽和は灼熱に燃え盛る竜翼を広げて果敢にミレディに挑む。

ミレディは迫る陽和に浮遊ブロックとゴーレム騎士達をけしかける。

全方向から唸りを上げて浮遊ブロックもゴーレム騎士が陽和を今度こそ圧殺せんと襲い掛かるものの、

 

 

「“スカーレット・アルマ”ッッ‼︎‼︎」

 

 

猛き熱光の火炎が剣と四肢に宿り、凄まじい熱光が爆ぜて、竜人の全身から炎が噴き出て広間を紅蓮に彩る。

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost‼︎‼︎‼︎』

 

同時に左手の翡翠の宝玉から凄まじい倍加の音声が連続で鳴り響き、陽和が纏う火焔が揺らぎ、昂り、一気に肥大化する。

そして、

 

 

「“猛り吼えろ(ヴェルフレア)”ァァァッッ‼︎‼︎」

『Explosion‼︎‼︎』

 

 

起爆と解放。二つの猛りが一つとなって爆ぜる。

彼の心の猛りに応じて倍加され増幅された火焔が爆ぜて、陽和を中心に太陽と錯覚するような爆焔の大華が咲き誇り、近寄る障害その全てを焼き払った。

 

『……うそっ⁉︎何その魔法っ⁉︎』

 

砕けた浮遊ブロックと火達磨と化して落ちていくゴーレム騎士達の光景にミレディは心の底からの驚愕の声をあげる。

このライセン大峡谷では魔力の分解作用により魔法の出力が格段に下がる。この領域でもそれは例外ではなく、むしろ分解作用がより強まったこの場所では中級以上は使えないはずなのだ。

しかし、今の魔法の出力はそれこそ上級に匹敵する。しかし、倍加により最上級にまで威力が跳ね上がっていた。

だが、本来ならあの規模の魔法はここでは使えないはず。

 

どうしてここであの規模の魔法が使える!?

 

そもそも、あの魔法はなんなんだ!?

 

上級クラスの魔法を行使したことと完全初見の魔法の破壊力にミレディが戸惑う中、陽和は勇猛に笑い左手を前に突き出す。

 

「“ファイアボルト”ッッ‼︎‼︎」

『ッッ‼︎⁉︎』

 

左腕には紅緋の炎雷が迸り二十発も連射され。ミレディに襲い掛かる。流星の如く火花の尾を引く炎雷の弾幕を前にミレディは浮遊ブロックの盾が間に合わないと瞬時に理解すると両腕を胸の前でクロスさせる。

直後、ミレディを炎雷の弾幕が襲い爆焔がミレディの巨体を呑み込んだ。

爆音が幾度も響き、爆ぜる炎雷が広間を再び赤く彩る中、燃え盛る爆炎の中からミレディが姿を表す。

 

『ふぅ〜すごい威力の魔法だねぇ〜。防がなかったら危なかったかもねぇ』

 

現れたミレディは両腕が肩口から先が爆砕されており、間一髪というふうに安堵する。そんな彼女に、陽和は真横から声をかける。

 

「両腕がもがれたって言うのに随分余裕そうだな」

『え?ーッッ⁉︎』

 

気づいた時にはもう遅く、ミレディの真横に移動していた陽和が焔纏う足でミレディの横っ腹に狙いを定めていたのだ。

そして、足が触れる直前、

 

「“火華”」

 

鍵となる一言を詠唱し、足の炎を爆ぜさせる。

爆炎と爆風を推進力に加えた蹴りは、見事ミレディの横っ腹に突き刺さり装甲を再び砕きながら蹴り飛ばしたのだ。

ミレディの巨体が真横へと吹き飛び浮遊ブロックに叩きつけられる。

 

『ぐっ、生身で私を何度も吹っ飛ばすとか、一体どんなパワーしてるのさっ』

「まだこんなものじゃないぞ?こんなのは序の口だ。これで倒れてもらっちゃ困る」

『ふふ、言うねぇ。なら、ミレディちゃんももう少し本気を出しちゃおうかなぁ』

 

そう呟きつつ両腕を再構築したミレディは立ち上がり拳を構える。

 

『さっ、後継者くん。続きをやろうよ。まだまだ戦えるんでしょ?』

「ああ。思う存分見せてやる」

 

戦闘継続の意志を見せるミレディに陽和は笑うとヘスティアを構えて再び襲い掛かった。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

解放者ミレディ・ライセンと赤竜帝紅咲陽和は第三ラウンドにして激闘を繰り広げていた。

彼女が重力魔法で駆使する浮遊ブロックやゴーレム騎士、それに加えて騎士王の巨体から繰り出されるヒートナックルやモーニングスターの攻撃に対し、陽和は竜聖剣ヘスティアによる剣技と魔法で対抗する。

 

戦況は陽和が有利だった。

 

ミレディが操る浮遊ブロックやゴーレム騎士はまず相手にならず、近づくことすら叶わない。ミレディ自身が殴り合ったとしても、倍加による超強化が施された陽和は、彼女の装甲を正面から何度も何度も砕き確実に追い詰めていた。

そして、そんな彼らの戦いを傍観していたハジメ達は動揺を隠せなかった。

 

「……おいおい、どうなってやがるんだ?」

「………ん、異常」

「えーっと、どうして陽和さんはあんなに魔法連発できるんでしょうかね?」

 

ハジメ達が口々に呟く。

陽和の強さをよく知っている彼らであっても、陽和に起きた変化は分からなかった。それに加えて、この領域で上級クラスの魔法を補助媒体なしに使いこなしているのは異常だったのだ。

そんな中、ハジメ達から少し離れた浮遊ブロックに座り込んでいるセレリアは先程の陽和の様子を思い返す。

 

(……さっき陽和はヘスティアの力を見せると言っていた。そして、陽和の声に応えたドライグではない少女の声。……あの竜聖剣からその声は聞こえた。ということは、まさか……あの竜聖剣には《赤竜帝の宝玉》と同じように何かが宿っていて、陽和はその何かと力を共鳴させて強くなったのか?)

 

セレリアは聞いた情報を並べてその結論に至る。

確かに彼女が思い至った通り陽和が新たに発現した技能が関係している。

 

———固有技能:女神の契り

 

魂の契約を交わした者に祝福を与える技能。

効果は魔力、体力の自動回復と魅了や洗脳などの邪となる影響を浄化する破邪の力を与える。

 

“倍加”により力が凄まじい勢いで上昇し、“祝福”の力が分解作用のせいで凄まじい勢いで消費していく魔力を消費した端から回復させていく。

故に今の陽和の継戦能力は普段のそれを遥かに上回っていた。

分解作用が強すぎるため、回復は追いついていないものの、魔力の消費を大幅に減らすことはできていたのだ。

 

これこそが陽和が女神ヘスティアと正式な契約を交わして得た力。陽和の新たな相棒がもたらした女神の加護なのだ。

その魔力の無限回復があるからこそ陽和は出し惜しみをしない。初めから全力全開の“スカーレット・アルマ”でミレディを追い詰めていっているのだ。

 

紅蓮の火炎を纏い、紅緋の炎雷と共に翔る英雄の姿に、セレリアは蠱惑的な感覚に身を振わせると笑みを浮かべる。

 

「……全くっ、お前ってやつはどこまで昂らせてくれるんだっ!」

 

セレリアは人知れず歓喜する。

自身が認め惚れた英雄()が、今この瞬間にも更なる高みへと飛び続けているのだから。

どこまで強くなるのかと。どこまでいくのかと。

なんて追いかけ甲斐のある背中なんだと彼女は歓喜に身を震わせたのだ。

だからこそ、彼女はすぐさま行動に移す。

 

「ハジメっ‼︎陽和の援護をするぞっ‼︎手伝えっ‼︎」

「ッッ!ああ、了解だっ‼︎」

「ん!」

「はいですぅ!」

 

声を張り上げたセレリアにハジメ達は大きく頷き、動き出した。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

無数のブロックが浮遊する球状の空間。

巨大騎士王とそれに追従する騎士達に相対するは紅緋の炎雷を携えた紅蓮の竜人。

ブロックや騎士が自由自在に動き、炎雷が轟声を上げてはそれらを迎え撃つ。

 

二つの力の激突の中心では、巨大な騎士王と竜人が拳を、モーニングスターを、剣をぶつけ合い凄まじい攻防を繰り広げていた。

 

しかし、更なる進化を経た竜人の猛攻を前に騎士王ーミレディ・ライセンは次第に追い詰められて行っていた。

ミレディ自身もそれは理解しているのだろう。陽和の猛攻を何とか凌ぎつつ悔しそうな声をあげる。

 

『くぅ〜〜このままじゃこっちがやられちゃうなぁ。しょうがない。あんまり使っちゃだめなんだけどぉ……君には特別だよ』

 

そう呟くや否、ミレディは右腕を陽和に向けて突き出して一言。

 

『“壊劫(えこう)”』

「ぐっ⁉︎」

 

直後、陽和が急激にその体を下方へと落とされる。

それは、陽和の頭上に超重力場が発生したからだ。ピンポイントで発生した重力場が陽和を捉えて下方へと落としたのである。

 

(やべっ、早くぬけ、ねぇとっ!)

『相棒‼︎下だっ‼︎』

『マスター‼︎』

「っ⁉︎」

 

急激にかかった重力に陽和は対処が遅れてしまい、どうにか抜け出そうとするものの相棒達の警告に自身の眼下からブロックが迫っていることに気づく。

そして、その時にはすでに遅く、直後陽和はブロックと引かれ合うように激突する。

 

「がっ⁉︎」

 

鎧越しでも伝わる衝撃に陽和は思わず苦悶の声をあげる。

激突した際に解除されたのだろう。重力の拘束から解き放たれた陽和は破片を散らしながら空中を無様にボロ屑のように舞う。

その隙をミレディは逃さない。

 

『これで止めぇ‼︎‼︎』

 

右手のヒートナックルと左腕に握るモーニングスターを同時に後方に振りかぶりながら陽和へと勢いよく迫る。

同時攻撃で一気にケリをつける気だろう。

重力の加速をも加えた豪速の突進で陽和へと瞬く間に肉薄したミレディは陽和にとどめを刺そうとする。

だが……

 

「………“浄火の大光盾(アイギス)”ッッ‼︎‼︎」

 

陽和の最硬度の防御魔法が展開される。

赤き炎と白き光の二重防壁。渦巻く紅白の大盾が具現する。

間一髪展開されたその障壁は、迫るヒートナックルとモーニングスターの攻撃を見事受け止めた。

 

『ッッ⁉︎なんて硬度の防御魔法なのっ⁉︎』

 

魔法の天才と謳われたミレディですらその魔法の防御性能の高さに驚愕する中、体勢を立て直した陽和は不敵に笑う。

 

「どうだ?俺のとっておきの防御魔法だ。驚いてもらえたか?」

『………うん。素直に驚いたよ。“聖絶”よりも上じゃないの?ソレ』

「ああ、その通りだ。開発にはだいぶ苦労した。さて、ソレはそうと……」

 

何とか破らんとヒートナックルとモーニングスターを障壁に押し当てて力を込め続けるミレディに陽和は彼女の後方を見上げながら告げた。

 

 

「…………俺は、一人で戦ってるわけじゃないぞ?」

『ッッ⁉︎⁉︎』

 

 

陽和の言葉にハッとしたミレディは弾かれたように頭上を見上げる。

頭上からはハジメがシュラーゲンを構えつつ落ちてきていた。

 

「とりあえず、吹っ飛びな‼︎」

 

シュラーゲンからはバリバリと紅いスパークが迸っており、ミレディが何かをするよりも早くシュラーゲンからは魔弾が放たれ、ミレディの頭部を狙い撃った。

頭部から煙を吹き上げながら弾き飛ばされるミレディに更なる追撃がかかる。

 

「でぇやあぁぁぁぁ‼︎‼︎」

「はぁあああぁぁぁ‼︎‼︎」

『っっ⁉︎』

 

ドリュッケンを振りかぶるシアとヴァナルガンドを構えるセレリアだ。

二人は吹き飛び錐揉みするミレディに襲い掛かると胸部を殴り飛ばす。

ドガァァンッッと轟音が弾けて、ミレディの胸部の装甲が粉々に砕ける。その奥のアザンチウムの装甲は傷つきはしなかったものの、完全に胸部からは表面装甲を引き剥がすことができた。

 

『くぅ〜効くなぁ〜。それに、中々のコンビネーションだねぇ』

 

ミレディが3人の息のあった連携に感心の声を上げつつ、ブロックを手元に引き寄せて胸部の表面装甲を再構成しようとするものの……、

 

「やらせるわけがねぇだろっ‼︎‼︎」

 

陽和が再び迫る。

下方から勢いよく飛翔した陽和は雷炎纏う左拳を構えて狙いを定める。

 

『っっ、やばっ』

 

ミレディは再構成を中断すると慌てて両腕をクロスさせて防御の構えを取る。しかも、再構成に使おうとしたブロックを数個前方に移動させ盾のようにしつつだ。

だが、それらは何の意味もなさなかった。

 

「オラァァアアアッッッ‼︎‼︎」

 

雷炎纏う剛拳がブロックを勢いよく殴ると、圧縮されていた雷炎が爆ぜてブロックを容易く粉砕したのだ。

雷炎の爆発はブロックを砕くだけでなく、防御に構えた両腕すらも吹き飛ばしてみせた。

 

『ッッ⁉︎そ、そんなっ⁉︎』

 

ブロック数個と両腕を一撃で撃砕されたことに動揺するミレディに陽和の両サイドから飛び出してきたハジメとシアがミレディの胸部にしがみつく。

 

「シア、合わせろ‼︎‼︎」

「了解ですぅ‼︎」

 

ハジメの掛け声にシアが元気よく頷くと、ハジメは義手を、シアはドリュッケンを胸部に押し当てると、内蔵されているショットシェルを残弾が尽きるまで撃ち尽くす。

ドゴンッ!ドゴンッ!ドゴンッ!ドゴンッ!

轟音が何度も響き、激しい衝撃がミレディを吹き飛ばして背後に浮いていた浮遊ブロックの上に叩きつけた。

 

『こ、こんなことしても結局破れなきゃ意味がないでしょ〜』

「ユエ!セレリア!」

 

ミレディの嘲笑を無視してハジメがユエとセレリアの名を呼ぶ。すると、跳躍してきた二人が左右から魔法を発動した。

 

「凍って!」

「凍りつけ!」

「「“凍柩”‼︎‼︎」」

 

願いと共に氷の棺に対象を閉じ込める魔法のトリガーが引かれて、ミレディの背面を一瞬で凍らせて浮遊ブロックに固定させる。

 

『なっ⁉︎後継者くんはともかく、どうして君達まで上級魔法が使えるのさっ⁉︎』

 

驚愕の声をあげるミレディ。

彼女からすれば意味がわからなかったが、至極簡単な話だ。予めミレディを叩きつけるブロックを決めておきそこへ水を撒いておき、そのブロックへと飛ばしながらついでにミレディの背面にも水を撒いてその水を媒介に凍らせたのだ。

しかし、水を媒介にして消費魔力量を減らしたとはいえ、二人は自身の魔力だけでなく魔晶石からも大量に魔力を取り出す羽目になり、二人は肩で息をしつつ近くの浮遊ブロックにそれぞれ退避する。

二人は肩を上下させつつも頭上を仰ぎ見て声を張り上げた。

 

「やれぇぇ‼︎‼︎陽和ォッ‼︎」

「ん!ハル兄‼︎」

 

二人の掛け声に応えるように空間に紅白の太陽が生まれる。

 

『ッッ⁉︎』

 

ミレディが反射的に見れば、遥か上空で竜聖剣・ヘスティアを大上段に構える陽和の姿があった。

ヘスティアにはこれまで以上の凄まじい紅白の輝きが宿っており、迸る紅緋の雷炎が純白の光によって収束されている。

限界まで増幅されて蓄積された光炎が、今か今かと解放の時を待っていた。

 

「陽和さん、やっちゃってくださいですぅ‼︎」

「陽和ォッ‼︎ぶちかませぇぇ‼︎‼︎」

 

永遠に燃え続ける聖火を宿した聖剣の輝きに、シアやハジメも声を張り上げる中、陽和は静かに告げる。

 

「これで終わりだ」

 

そう告げるや否や、陽和は竜翼で大気を打ち下方へと急加速。

 

「はああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎‼︎‼︎‼︎」

 

光炎の尾を引きながら大地へと落ちる隕石が如く、雄叫びをあげ急降下する陽和を前にミレディは一瞬背後のブロックを操作して逃げようとするそぶりを見せるも、次の瞬間にはーー

 

 

 

『お見事』

 

 

 

そう呟き、徐に動きを止めた。

陽和は抵抗をやめたミレディへと一気に迫ると防御を許さない極大の必殺を、あらゆるものを灰塵に帰す聖火の一撃を解放した。

 

 

「“聖火の竜斬《ドラゴ・ウェスタ》”‼︎‼︎」

 

 

解き放たれた光炎が咆哮が如き雄叫びを上げる。

渾身の一撃が無防備なミレディの胸部に叩きつけられ、アザンチウムの装甲をいとも容易く爆砕する。

世界最高硬度の鉱石で作られた漆黒の装甲は、炎の轟声に呑み込まれる。

漆黒が紅白に塗り潰され、砕けたアザンチウムの欠片が宙を舞う。

漆黒の装甲を爆砕しながら切り裂いた聖火の一閃は、そのまま核をも容易く爆砕してみせた。

 

爆ぜた光炎はミレディの体を容易く呑み込むと、ゴーレムの巨体を焼きながら爆砕の勢いのままに落とす。

炎に包まれ火達磨と化したミレディの目からは光が消えて、そのまま地面へと墜落するとピクリとも動かなくなった。

 

 

七大迷宮の一つ。ライセン大迷宮が攻略された瞬間だった。

 

 

 

▼△▼△▼△

 

 

地面には倒れるゴーレムの傍に降り立った陽和は、未だ燃え続ける残骸に視線を向ける。

残骸は未だ紅い炎に覆われており、バチバチと表面装甲が焼かれる音が響いている。

炎の光に照らされながら陽和は鎧を解除すると、真剣な表情を浮かべ呟く。

 

「……終わったか」

『ああ。かなり弱体化しているとはいえ、相棒はミレディに打ち勝った』

『うん。この大迷宮最後の試練を攻略したんだよ。マスター達は』

「…………」

 

相棒達の賞賛に陽和が押し黙る中、ハジメ達が陽和の後方へと降りてきて声をかける。

 

「流石だな陽和。最後の魔法凄まじかったぞ」

「……ん、凄かった」

「本当に、凄かったですねぇ」

「ああ、本当にな」

 

三者三様の賞賛の言葉に陽和は彼らへと振り返るクスリと微笑んだ。

 

「ああ、まぁな。とはいえ、かなりの量の魔力を消費した。やっぱ大峡谷での魔法の連発は負担が大きいか」

「よく言うぜ。上級魔法相当の魔法を連発して膝すらついてねぇんだ。どんだけ馬鹿げた魔力量なんだって話だ」

「いや、それはこいつの、ヘスティアのおかげだ」

 

陽和はそう答えておろしていた右腕を上げてヘスティアを見せる。

翡翠色の輝きを纏う紅蓮の長剣は、聖剣と呼ぶにふさわしい神々しさと清廉さを宿していた。

以前見た時とは異なり、青緑へと変わった宝玉と、新たに加わった植物の意匠を見て、ハジメは先ほどのことを思い出してか徐に疑問の声を上げる。

 

「そういや、さっきお前の身に何が起きた?それに、その聖剣から声が聞こえたぞ。まさか、お前の変化と何か関係しているのか?」

「ああ、それはー」

 

先程の戦闘を見ていれば自然と出てくる当然の疑問に陽和が答えようとした時、突如声がかけられた。

 

『………後継者くん。お見事だったよ。本当に私を倒すとはねぇ』

 

ものすごく聞き覚えのある声にハジメ達がバッと声の方向ー炎に包まれているミレディに視線を向ければ炎の中で眼の光が浮かび上がっているのを確かに見た。

ハジメ達四人が咄嗟に距離を置き警戒を顕に身構える中、陽和は右腕を横に広げて宥める。

 

「落ち着けお前ら。もう終わった。彼女は何もできねぇよ」

『その通りだよ。試練はクリア。君達の勝ち。今は核の欠片に残った力で話してるだけだから、もう何もしないよ』

「…………」

 

陽和の言葉を証明するようにミレディの眼に宿った光は儚げに明滅を繰り返しており、ハジメ達は警戒を少し解き距離を詰めていく。

四人の緊張が少し解けたのを確認すると、陽和が彼女に声をかける。

 

「それで、ミレディ。何か話したいことでもあるのか?」

『……うん。そうだね。まずはおめでとう。君は、君達は私の期待以上の強さを、可能性を見せてくれた。それだけでも、十分に待った甲斐があったよ』

「………そうか。光栄だな」

 

惜しまない賞賛に陽和は少し照れ臭そうに苦笑いを浮かべる。

それを見たかどうかはわからないが、ミレディとまた苦笑いめいた雰囲気を出した。

 

『………ねぇ、後継者くん。どうか必ず私達の神代魔法を全て手に入れてね?あのクソ野郎共と戦うにはどうしても必要だからさ…』

「分かってるさ。ドライグの記憶を見ているからな、神代魔法がなくちゃ話にならないことはわかっているよ」

『あはは、そっか、ドラちゃんの……記憶を見たんだね……てことは、君は、全てを知ってるって……思っていいのかな?』

 

力が尽きかけているのだろう。次第に言葉が不鮮明に途切れ途切れになってゆく。

途切れ途切れになりつつもそう尋ねたミレディに、陽和は静かに首肯した。

 

「………ああ、俺は全てを聞かされている。貴女達が歩んだ軌跡。その全てを」

『?』

『……あぁ、そっかぁ。……だからなんだね……君が私と会った時点で、そこまで覚悟を決めていたのは……』

 

後ろでハジメ達が顔を見合わせて首を傾げる中、陽和の言葉を聞いたミレディは納得を示す。

 

『それなら……私は……これ以上は言わない。……君に神殺しの悲願を、託すよ。でも……これだけは……忘れないで』

 

これまでの人を挑発し、神経を逆撫でするような口調とは真逆の誠実さや真面目さを感じさせる口調に、ハジメ達が神妙な表情を浮かべる。

ユエやシア、セレリアは長い時を、使命、あるいは願いの為に、意志が宿る器を入れ替えてまで生きた者への敬意を、瞳に宿した。

ミレディは意外なほど真剣さと確信を宿した言葉を陽和に、陽和達に送る。

 

『……たとえ、私達の願いを受け継いだとしても……君は、君の思った通りに生きればいい………その選択が……………この世界にとっての………最良なはずだから………」

 

その声と合わせるようにちょうど炎が燃え尽きて、焼け焦げた騎士王の残骸が姿を表す中、その残骸が代わりに燐光のような青白い光に包まれていた。

その光はまるで蛍火の如く、淡い小さな光となって天へと昇っていく。死した魂が天へと召されていくようで、実に神秘的な光景だ。

それを黙って見送る陽和の隣を通り、ユエが徐にミレディのそばへと寄って行ったのだ。

すでに、ほとんど光を失った目をじっと見つめている。

 

『?なにかな?』

 

囁くようなミレディの声に、ユエも同じく囁くように言葉を贈った。

 

「‥‥お疲れ様。よく頑張りました」

「………」

 

それは労いの言葉。

たった一人、深い闇の底で希望を待ち続けた偉大な存在への、今を生きる者からのささやかな贈り物。本来なら、遥か年下の者からの言葉など不適切なのかもしれないが、ユエはこれ以外の言葉を思いつかなかったのだ。

意外だったのか。ミレディは言葉もなく呆然とした雰囲気を漂わせている。やがて、穏やかな声でミレディがポツリと呟く。

 

『……ありがとね』

「………ん」

 

ちなみに、ユエとミレディが最後の言葉を交わす後ろでは、ハジメが「もういいから、さっさと逝けよ」と口にしそうになり、それを敏感に察したシアとセレリアに「空気読めないのはどっちですか!ちょっと黙ってください!」「今いいところなんだから、お前は黙ってろ!感動ブレイカーめ!」と羽交締めにされた挙句、口を塞がれてモゴモゴとしていた。

さらには、陽和がユエのすぐ後ろで何ともいえない曖昧な表情を浮かべて苦笑いをしていたのだが、ユエ達はそれに気づくことはなかった。

 

『………さて、時間の‥‥ようだね。……君達のこれからが……自由な意志の下に……あらんことを……』

 

オスカーと同じ言葉を陽和達に送り、“解放者”の長ミレディ・ライセンは淡い光となって天へと消えていった。

辺りを静寂が包み、余韻に浸るようにセレリアとユエ、シアが光の軌跡を追って天を見上げる。

 

「……最初は性根が捻じ曲がった最悪な人だと思っていたんですけどね。ただ、一生懸命なだけだったんですね」

「……ん」

「……ああ、そうだな。使命のために長い年月を生きてきたんだからな」

 

どこかしんみりとした雰囲気で言葉を交わす三人。だが、ミレディに対して思うところが皆無の男、ハジメはうんざりした様子を醸し出す。

 

「はぁ、もういいだろ?さっさと先に行くぞ。それと、断言するがあいつの根性の悪さも素だと思うぞ?あの意地の悪さは、演技ってレベルじゃねぇよ」

「ちょっと、ハジメさん。そんな死人に鞭打つようなことを。ひどいですよ。全く空気読めないのはハジメさんのほうですよ」

「……ハジメ、KY?」

「ハジメ、いくらなんでもその言いようはないだろうに」

「……念のため言っておくが、俺は空気が読めないんじゃない。読まないだけだ」

「それはそれでどうかと思うけどな」

 

そんな雑談をしていると、いつのまにか壁の一角が光を放っていることに気づく陽和達。その場所に向かおうと、浮遊ブロックを足場にして飛び移れば、足場の浮遊ブロックがスィーと動き出して、光る壁まで陽和達を運んでくれた。

 

「「………」」

「わわっ、勝手に動いてますよ。これ、便利ですねですぇ」

「……サービス?」

「ん?」

 

勝手に運んでくれる浮遊ブロックにシアは驚き、ユエが首をかしげる。セレリアは何かに気付いたのかそんな声を小さく漏らしていた。ハジメはなぜか嫌そうな表情で、陽和に至っては苦笑いが止まらない。

10秒もかからず光る壁の前まで進むと、その手前5m程の場所でぴたりと動きを停めた。すると、光る壁は、まるで見計らったようなタイミングで発光を薄れさせていき、音も立てずに発光部分の壁だけが手前に抜き取られ、奥には光沢のあるしろい壁でできな通路が続いていた。

陽和達の乗る浮遊ブロックは、そのまま通路を滑るように移動していき、進んだ先には【オルクス大迷宮】にあったオスカーの隠れ家へと続く扉に刻まれていた七つの紋様と同じものが描かれた壁があった。

陽和達が近づけば、やはりタイミングよく壁がスライドしてさらに奥へと進む。

そうして、くぐり抜けた壁の向こうには………

 

『やっほー、さっきぶり!ミレディちゃんだよ!』

 

ちっこいミレディ・ゴーレムがいた。

 

「「…………」」

「ほれ、みろ。こんなこったろうと思ったよ」

「‥‥途中からまさかと思ったが、本当にそうだったとは」

「よ、さっきぶりだな。ミレディ」

 

言葉もないユエとシア。予想していたのかうんざりとしているハジメ。まさかと思っていたことが現実で驚くセレリア。唯一分かっていたのか気軽に手を振る陽和。

ハジメはこの状況を予想しており、陽和は初めからこうなることがわかっていたのだ。

そもそもミレディはあの騎士王が本体ではないのだ。だから、騎士王を倒しても彼女自身が消滅するわけではない。最後の会話も演技であることはわかっていたものの、陽和はあえて乗って話をしただけにすぎない。

そして、黙り込んで顔を俯かせるユエとシアに、ミレディが非常に軽い感じで話しかける。

 

『あれぇ?あれぇ?テンション低いよぉ〜?もっと驚いてもいいんだよぉ〜?あっ、それとも驚きすぎて言葉が出ないとか?だったら、ドッキリ大成功ぉ〜だね⭐︎』

 

ちっこいミレディは、人間らしいデザインだ。華奢なボディに乳白色の長いロープを身に纏い白い仮面をつけている。

ニコちゃんマークが微妙に腹立たしい。そんなミニミレディは、語尾にキラッ!と星を瞬かせながら、陽和達の眼前までやってきた。未だ、ユエとシアの表情は俯いている。

そんな中、ユエとシアが、ボソリと呟くように質問する。

 

「……さっきのは?」

『ん〜?さっき、あぁ、もしかして消えちゃったと思った?ないな〜い!そんなことあるわけないよぉ〜!』

「でも、光が昇って消えていきましたよね?」

『ふふ、中々よかったでしょう?あの“演出”!やだ、ミレディちゃん役者の才能まであるなんて!恐ろしい子!』

 

テンションの上がりに比例してウザさまで上がっていく。そんなミニミレディを前に、ユエは手を前に突き出し、シアはドリュッケンを構える。

それには流石に「あれ、やりすぎた?」と動きを止めるミニミレディ。

 

『え、えーと……』

 

ゆらゆら揺れながら迫ってくるユエとシアに、ミニミレディは頭をカクカクと動かした言葉に迷うそぶりを見せると意を決したように言った。

 

『テヘ、ペロ⭐︎』

「………死ね」

「死んで下さい」

『ま、待って!ちょっと待って!このボディは貧弱なのぉ!これ壊れたら本気で不味いからぁ!落ち着いてぇ!謝るからぁ!」

 

無表情の吸血姫とウサミミがミレディを潰そうと襲い掛かるも、それは後方から伸びた腕によって止められる。

 

「はい、お前らステイ。埒があかんからやめとけ」

 

二人の悪鬼を止めたのは陽和だった。彼は、二人の首をむんずと掴身持ち上げつつ宥めたのだ。

ミレディはその隙にすかさず壁際まで退避する。

 

「……ハル兄離して。あいつ殺せない」

「離してください、陽和さん。あいつは殺ります。今、ここで」

「なんでそのネタをお前らが知ってるのかは気になるが……おい、ミレディ。ふざけたい気持ちはまぁわからないでもないが、こいつらはせっかちなんだ。先に継承を済ましてくれないか」

 

若干呆れな表情で呟くと、陽和はミレディの方へと振り向いてそう提案した。

ミレディは流石にやばいと思ったのか、素直に従い頷いた。

 

『う、うん、流石にやりすぎたかなーと思ってたからねぇ。うん、やる、やるから皆魔法陣に入ってねぇー』

 

まだ悪鬼達の視線が怖いのかその場から一歩も動かないまま魔法陣を起動させ始めた。

溜飲を下げて落ち着きを取り戻したユエとシアを下ろしながら、陽和は1番に魔法陣の中に入る。

 

「ちっ、やっとかよ。待たせやがって」

「まぁまぁ継承できるんだから別に構わないだろう」

 

ぼやくハジメやそれを宥めるセレリアなど他の面々も入っていき、直接脳に魔法の知識や使用方法が刻まれていく。オルクス大迷宮を経験している四人は無反応だったが、シアだけは初めての経験にビクンッと体を跳ねさせた。

ものの数秒で継承は完了し、あっさりとミレディ・ライセンの神代魔法“重力魔法”を獲得した。

 

『はいこれで終了だねぇ。分かってる通りミレディちゃんの魔法は一応重力魔法。うまく使ってね。……って言いたいところだけど、眼帯くんとウサギちゃんはびっくりするレベルで適性ないね!』

「やかましいわ。それぐらい想定済みだ」

 

ミレディの言う通り二人には重力魔法の適性がなくて、自分達でもまともに使えないのは分かっていたことだった。ユエが生成魔法をきちんと使えないのと同じように、彼らには重力魔法の適性がないだけの話だ。

 

「まぁ、ウサギちゃんは体重の増減くらいなら使えるんじゃないかな。眼帯くんは……生成魔法使えるんだから、それでなんとかしなよ。それで、残りの三人なんだけど……」

 

ついで、ミレディはセレリアに視線を向ける。

 

「狼ちゃんは普通かな。実戦では問題なく使えるレベルだと思うよ」

「そうか。それならありがたいな」

 

魔人族として魔法適性がそもそも高いからかセレリアは普通に使えるようだ。

 

「金髪ちゃんは適性バッチリだね。修練すれば十全に使えるようになるよ。それで、最後に後継者くんだけど、君も適性バッチリだね。それに、君ならドラちゃんの記憶を見ているわけだし、直ぐに使えこなせると思うよ。てか、君魔法適性も高いんだね。さすがドラちゃんの力を受け継ぐだけあるよ」

「そりゃどうも。お褒めにあずかり光栄だ」

 

ミレディの真面目な解説にハジメは肩をすくめ、ユエとセレリアは頷き、シアは打ちひしがれ、陽和は軽く感謝する。

落ち込むシアを尻目に、ハジメは唐突に要求突きつけた。しかも、遠慮容赦なしのレベルの。

 

「おい、ミレディ。さっさと攻略の証を渡せ。それから、お前が持っている便利そうなアーティファクト類と感応石みたいな珍しい鉱物類も全部よこせ」

『……君、セリフが完全に強盗と同じだからね?自覚ある?』

 

ニコちゃんマークの仮面が、心なしかジト目をしている気がする。しかし、ハジメは気にしない。

ハジメの背後では陽和が額に手を当ててため息をついている。しかし、それもハジメは気にしない。だって、ハジメだもの。

ミレディは、ごそごそと懐を探ると一つの指輪を取り出して、それをハジメに向かって放り投げてパシっと音をさせて受け取るハジメ。ライセンの指輪は、上下の楕円を一本の杭が貫いているデザインだ。

 

『はい、後継者くんにも一つ渡しておくよ』

「ああ、ありがとう」

 

そして、ミレディは攻略の証をハジメに渡すと、もう一度懐を探って同じ指輪を取り出すと、トテトテと陽和の元まで歩いて手渡した。

ハジメと陽和で扱いが違うことに密かにイラっとするも、武力行使には出なかった。

 

『それじゃあ次は鉱石類だね。クリアた君達には元々渡すつもりだったから、持ってってよ。仲良く分けてね』

 

そう言ってミレディは自身が持つ“宝物庫”を起動して保管していた大量の鉱石類を陽和達の前に出現させた。

 

「いいのか?助かる」

『ぜひ有効に使ってね〜』

 

陽和は満足したのか、鉱石類の二割ほどの分量を『赤竜帝の宝玉』の中に仕舞う。大体鉱石類の取り分に関しては大部分を錬成師のハジメが持つことになっている。

しかし、陽和が満足してもよしとしないのがハジメクオリティーだ。残りの鉱物類を全て“宝物庫”に仕舞うと、冷めた目をミレディに向けた。

 

「おい、それ“宝物庫”だろう?だったら、それごと渡せよ。どうせ中にアーティファクト入ってんだろうが」

『あ、あのねぇ〜。これ以上渡すものはないよ。“宝物庫”も他のアーティファクトも迷宮の修繕とか維持管理とかに必要なものなんだから』

「知るか。寄越せ」

『あっ、こらダメだったら!』

 

本当に根こそぎ奪おうとするハジメに焦った様子で後ずさるミレディ。彼女が所有しているアーティファクト類は殆どが迷宮のために必要なものばかりで、それ以外では役に立たない。それを説明しようとしたとき、再び救いの手が伸ばされる。

 

「おいこらやめろ」

「イデッ」

 

陽和だ。

ハジメの背後から呆れた様子の陽和が近づき頭の上に割と強めの拳骨を落として強制的にストップさせたのだ。

痛みに頭をさするハジメは恨みがましそうに陽和へと視線を向けて睨む。

 

「おい、何するんだよ。俺はただ攻略報酬として身包みを置いていけと言ってるだけじゃないか。至って正当な要求なはずだろ?」

「お前は一回正当の意味を辞書で調べ直した方がいいな。明らかに追い剥ぎ以外の何者でもないぞ」

『そうだそうだー!ミレディちゃんは不当な要求に抗議の声をあげるぞー!』

 

いつの間に壁際に後退したミレディは浮遊ブロックを操作して天井付近に移動した上で陽和の説教に便乗する。

 

『というか、君の価値観どう考えてもおかしいよ!うぅ、まさかオーちゃんに口酸っぱく言われてたことを、私が言うようになるなんて……』

「ちなみに、そのオーちゃんとやらの迷宮で培った価値観だ」

『オーちゃぁーーん‼︎』

 

ミレディの慟哭が響く。

よもやおかしいと言った価値観が、かつての大事な仲間が創った大迷宮で培われたものだとは思いもよらなかったのだ。

 

「いや、すまんな。こいつは少し前まではまともだったんだよ。ただ、オルクスで本当に色々とあってな。………うん、本当に、悲しい変化なんだよ。昔はあんな風じゃなかったのになぁ」

「おい」

 

なんとか擁護しようとするものの、最後には諦めた陽和にハジメは思わず突っ込んでしまう。

 

『はぁ〜後継者くんと狼ちゃんはまともそうなのになぁ。これからの旅で君達の胃が心配だよ。……さて、話は終わったし、君達を強制的に外に出すからねぇ!戻ってきちゃダメだよぉ!』

 

そう陽和達の胃を案じると、ミレディはいつの間にか天井からぶら下がっていた紐を掴みグイッと下に引っ張った。

 

「「「「?」」」」

「……あ」

 

一瞬、「何してるんだ?」と言う表情をするハジメ達と、何かに気づいた陽和が思わず声を漏らしてしまう。

その直後、嫌と言うほど聞いてきたあの音が再び聞こえてきた。

ガコン‼︎

 

「「「「!?」」」」

 

そう、トラップの作動音だ。

その音が響き渡った瞬間、轟音と共に四方の壁から途轍もない勢いで水が流れ込んできたのだ。正面ではなく鉄砲水のように噴き出す大量の水は、瞬く間に部屋の中を激流で満たす。同時に、部屋の中央にある魔法陣を中心に蟻地獄のように床が沈み、中央にポッカリと穴が空いた。激流はその穴に向かって一気に流れ込む。

 

「てめぇ!これはっ!」

 

ハジメは何かに気がついたように一瞬硬直すると、すぐに屈辱に顔を歪めた。白い部屋に窪んだ中央の穴、そこに流れ込む渦巻く大量の水……そう、まるで便所のように!

自分達はまさしく流されようとしているのだ!

 

『嫌なものは、水に流すに限るね⭐︎』

 

どう言う原理かはわからないが、ニコちゃんマークを変化させてウィンクするミレディ。

イラッとした雰囲気そのままに、ユエが咄嗟に全員を魔法で飛びあがらせようとする。ユエの魔力残量は少ないが、この空間は分解作用の影響を受けないため、全員を激流から脱出させる程度のことは可能だった。……はずなのだが、

 

「———“来『させなぁ〜い‼︎』ッッ⁉︎」

 

ユエが“来翔”の魔法を使おうとした瞬間、ミレディが右手を突き出して同時に重力魔法で上から数倍の重力の負荷をかけられて激流へと沈められた。

 

『それじゃあねぇ〜。迷宮攻略頑張りなよぉ〜』

「ごぽっ……てめぇ、俺たちゃ汚物か!いつか絶対破壊してやるからなぁ!」

「ケホッ……許さない」

「殺ってやるですぅ!ふがっ」

「もう少し、マシな方法が、あるだろっ⁉︎」

 

ハジメ達は捨て台詞を吐きながらなすすべなく、激流に呑まれ穴への吸い込まれて行った。

穴に落ちる寸前、ハジメが何かを仕返しと言わんばかり投げつけたようだが、ハジメ達が穴に流されると!流れ込んだ時と同じくらいの速度であっという間に水が引き、床も戻って元の部屋の様相を取り戻した。

 

『ふぅ〜、濃い連中だったねぇ〜。それにしてもオーちゃんと同じ錬成師に、吸血鬼族、魔人族、兎人族……それにドラちゃんの後継者かぁ。まるで私達みたいでなんだか、運命を感じるなぁ。……ふふ。さてさて、迷宮やらゴーレムの修繕やら、しばらくは忙しくなりそうだな。……ん?なんだろ、あれ』

 

汗などかくはずもないのに、額を拭う仕草をしながら、ミレディはそう独りごちる。そして、ふと視界に見慣れないものを見つけた。

近づいてみれば、壁に突き刺さったナイフとそれにぶら下がる黒い楕円形の何か。しかし、数秒のうちにその正体に気がつき狼狽える。

 

『へっ⁉︎これって、まさかっ⁉︎』

 

それは、ハジメお手製の手榴弾だったのだ。仕返しにと投げつけた物体はナイフに括り付けた手榴弾の事だった。

迷宮内でも何度か使っていたのを見たことがあるミレディは、それが爆発物だと察して急いで退避しようとする。実は、今の彼女では重力魔法を十全には扱えない。生前に比べて遥かに燃費が悪くなったからだ。だから、この爆発は抑え込むことができない。

『やばいやばいどうしよう』と狼狽えるミレディの焦りも時すでに遅し。ミレディが踵を返した瞬間、手榴弾はカッと閃光を放ち、

 

 

 

「———“壊劫”」

 

 

 

何かに圧し潰されて消えた。

突然発生した赤光の何かが手榴弾を完全に圧壊させて爆発を抑え込んだのだ。

 

『……え?』

 

訳がわからないとミレディは数秒驚愕に硬直する。

今の一連の事柄は重力魔法によるものだ。しかし、今の自分は重力魔法を使える状態にはない。では、自分以外の誰かがやったのだろうか。

だが、この空間には自分以外はいないはずだ。では、誰が?

困惑するミレディに彼女の背後から足音が聞こえてくると同時に声がかけられた。

 

「大丈夫か?ミレディ」

『……え?』

 

その聞き覚えのある声にミレディは驚きを隠せなかった。

だって、彼はついさっき他の仲間と共に流されたはずだ。どうしてこの空間に未だ残っているのかがどうしてもわからなかった。

勢いよく振り向いた彼女は、自分の名を呼んだ者の名を呼んだ。

 

 

 

『後継者、くん…?』

 

 

 





陽和君チート技能発現させてて草。
光輝の聖剣と後々どんどんチート化していったので、ヘスティアと本当の契約を交わした陽和ならばすでにこの時点で技能を発現させててもなんらおかしくないはずなんですよね。

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