竜帝と魔王の異世界冒険譚   作:桐谷 アキト

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13巻読了。とても、とても、とても素晴らしい内容でした。
元々なろうで読んでいたから展開は知っていたのですが、追加修正した部分も加筆したところも全てがとても新鮮で読み応えがありました。
それにもう読み終わった時は感動で思わず涙ぐんでしまいましたよ。
しかも、外伝・零のネタバレもあって私的にはここであの話の続きが!?って驚愕&感動でいっぱいでした。

つまり、何が言いたいかというと、13巻最高でした!!!ただそれだけです!!




30話 託された願い

 

 

 

汚物の如く流されたハジメ達四人は、激流で満たされた地下トンネルのような場所を猛スピードで流されている。

 

呼吸ができるような場所もなく、ひたすら水中を進み、なんとか壁に激突して意識を失うような下手だけはしないように必死に体をコントロールさせるので精一杯だった。

と、その時、ハジメ達の視界が自分達を追い越していく幾つもの魚影を捉える。どうやら流された場所は、他の川や湖とも繋がっている地下水脈のようだ。ただ、流されるハジメ達と違って魚達は激流の中を逞しく泳いでいるので、どんどんハジメ達を追い越していく。

そのうちの一匹が、いつの間にか、必死に息を止めているシアの顔のすぐ横を並走ならぬ並泳していた。なんとなく、シアはその魚に視線を向けて、目があった。

 

魚とだ。しかし、魚ではあるが人間の顔。それもおっさん顔だ。何を言っているのだと言うだろうが、事実おっさん顔の魚、つまり人面魚と目があっているのだ。

どこか太々しさと無気力さを感じさせるそのおっさん顔の人面魚は、どこかあの懐かしきシー◯ンを彷彿とさせていた。

驚愕に大きく目を見開くシア。思わず息を吐きそうになって慌てて両手で口元を押さえた。しかし、驚愕のあまり視線をそらすことができず、目があったまま激流の中を進んでいく。

永遠に続くかと思われた時間は、シアの頭に声が響いたことで唐突に終わる。

 

———なに見てんだよ。

 

終わらせたのは舌打ち付きのおっさんの声だった。

今度こそシアは耐えられず水中でブフォア!と盛大に息を吐き出してしまう。

そしておっさん魚はそのままスイスイと激流の中を泳ぎあっという間に先へ行ってしまった。

後に残されたのは白目を剥いて力なく流されるウサミミ少女だけだった。

それからも彼らは必死に耐えながらも流されていき、やがて、

 

「どぅわぁあああ——!!」

「んっ———!!」

「…………」

「おおおおお———!!」

 

とある泉に出たのだ。

巨大な水柱の如き噴き上がる水の勢いそのままに四人は飛び出してきた。

四人は10m近くまで吹き飛ばされると、そのまま泉にドボンッ!と音を立てて落下した。

 

「ゲホッ、ガホッ。〜〜っ、ひでぇ目にあった。あいつ、いつか絶対に破壊してやる。ユエ、シア、セレリア、陽和、無事か?」

「ケホッケホッ……ん、大丈夫」

「ゴホッ、……あ、あぁ、私もだ」

 

なんとか水面に上がったハジメは、悪態を吐きながら皆の安否を確認する。しかし、帰ってきたのはユエとセレリアの返答だけだった。

 

「シア?陽和?おい、シア!陽和!どこだ!」

「シア、ハル兄……どこ?」

「ん?…ッッ、おい、ハジメ下だっ!」

 

セレリアの声に水中に潜り目を凝らせば、シアが底の方に沈むところだった。意識を失っていることと、ドリュッケンの重さのせいで浮くことができないようだ。

ハジメはすぐさま“宝物庫”から圧縮した超重量の鉱物を取り出すと、それを重りがわりにして一気に潜行して、地面を蹴り付けてシアを引っ張り上げる。

シアを引きずりながら岸に上がる。仰向けにして寝かせたシアは、顔面蒼白で白目を剥いており、呼吸と心臓が停止していたのだ。

 

「ユエ、セレリア、どっちか人工呼吸を!」

「……じん……なに?」

「?なんだそれは?」

「あ〜、だから、気道を確保して……」

「「????」」

 

シアの容態を見て心配蘇生を試みようと二人のどちらかに頼み込むが、二人は訳が分からず首を傾げているだけだ。

回復魔法がある弊害だろうか。この世界には地球程医療技術が発展していないのだろう。

しかし、こうしている間にもシアの命は刻々と危険に晒されており、腹を括ったハジメは、

 

「あ〜くそっ!」

 

悪態をつきつつマウストゥーマウスを決行した。

そうなると当然ユエが一瞬不機嫌そうになり、セレリアが驚いた反応を見せた。

しかし、それがシアを救う方法であるからと理解できるから、おとなしくジーッと静観している。

ハジメは、ユエの無機質な視線とセレリアの好奇心が宿る視線を努力して無視しながら肺に酸素を送り続ける。

 

(…まったく、見直したと思ったら、全部終わった後で死にかけるとか……お前はホントに残念ウサギだよ)

 

ハジメが内心で苦笑いを浮かべつつ、人工呼吸を続けると何度目かの後に遂にシアが水を吐き出した。

水が気管を塞がないように顔を横に向けてやる。体勢的には完全に覆い被さっている状態だ。

そして、ハジメはこの瞬間に距離をとっておくべきだった。

 

「ケホッケホッ……ハジメさん?」

「おう、ハジメさんだ。ったくこんなとこで死にかけたんじゃッーんぅ⁉︎」

 

むせながら横たわるシアに、至近から呆れた表情を見せつつもどこかホッとした様子を見せるハジメに、突然シアがガバチョ!と抱きつき、そのままキスをした。

まさかの反応と距離の近さに、ハジメは避け損なった。

 

「んっ⁉︎んー‼︎」

「あむっ、んちゅ」

「……おぉ、これはまた濃厚な」

 

シアは両手でハジメの頭を抱え込み、両足を腰に回して完全に体を固定すると遠慮容赦なくハジメの口内に舌を侵入させて絡ませる。

シアの剛力と自身の体勢的に咄嗟に振り解けずにもがくハジメ。

実を言えば、シアは途中からハジメにキスされてることを理解していた。体は動かず、意識もほとんどなかったが、水を飲んだ瞬間に咄嗟に発動した身体強化がそのような特異な状況をもたらしたのだろう。

そして、惚れた人から何度もキスされたことによりシアの感情メーターは振り切れており、ハジメを逃すものかとしっかりとホールドしたのだ。

 

一方、そんな光景を見ているユエはというと、めちゃくちゃ不機嫌そうだ。しかし何故か止めには入らない。小声で「今だけ、ご褒美」と呟いてることから、シアの気持ちを汲んで、迷宮で頑張った分のご褒美も含めて許すことにしたようだ。

しかし、瞳から光が消え掛かっており、内心相当な葛藤があったことは明白。恐らく、ハジメはしばらくユエの相手を夜通しし続けなければならないだろう。ご愁傷様だ。

そして、セレリアはと言うと完全にこの状況を楽しんでいた。自分には関係ないのをいいことに高みの見物を決め込んでおり、シアとハジメの面白おかしなキスシーンをコメディ映画でも見るかのように楽しそうに見ていた。

 

「わっわっ、なに!?なんですか、この状況!?す、すごい……濡れ濡れで、あんなに絡みついて……は、激しい……お外なのに!アブノーマルだわっ!」

「ん?君はマサカの宿の……」

 

突然遠くから聞こえてきた声にセレリアが振り向くとそこには妄想過多な宿の看板娘のソーナがいた。ついでに、体をくねらせているクリスタベル。そして、嫉妬の炎を瞳に宿し、剣にかかる手をもう片方の手で必死に抑えている男の冒険者達と、それを冷めた目で見ている女冒険者だった。

セレリアはハジメとシアがイチャコラ(?)してるのを横目に彼女達に近づく。

 

「君達はどうしてここに?」

「あ、実は隣町に用事があってクリスタベルさんと一緒に行った帰りに冒険者さん達と会ってついでに護衛してもらっているんです。それで今お昼休憩で水を汲もうとしていたところで、ちょうど貴女方が泉から飛び出てきたんです」

「あぁなるほどな……」

 

ソーナから簡潔に事情を聞かされたセレリアは納得を示し頷く。

 

「隣町ってことは、ここはブルックからそう離れてはいないんだな?」

「はい。馬車で1日って所ですけど、その、後ろのアレはいいんですか?」

「構わない。じきに終「うきゃぁああ!!」……ほらな?」

「で、ですね」

 

ハジメ達を放置していいのかと尋ねるソーナに答えようとしたセレリアは後ろから聞こえるシアの悲鳴と、その直後に響いた派手な水飛沫音に後ろを見ずにそう言った。

そして、背後を見れば荒い息を吐きながら髪をかきあげるハジメの姿があり、シアが泉から這い上がってきていた。

どうやら、ハジメがシアを強引に引き剥がして泉に放り込んだらしい。

 

「ゆ、油断も隙もねぇ。蘇生直後に襲い掛かるとか……流石に読めんわ」

「うぅ〜。酷いですよぉ〜。ハジメさんの方からしてくれたんじゃないですかぁ〜」

「はぁ?あれは歴とした救命処置で……って、お前、意識があったのか?」

「う〜ん。あったような、なかったような……でも、何となくわかりました。ハジメさんにキスされているってことだけは!うへへ」

 

思い出し気持ち悪い笑みを浮かべるシアにハジメはドン引きし苦い表情を浮かべる。

 

「その笑い方やめろ。……いいか、あれはあくまで救命処置であって、深い意味はないからな?変な期待はするなよ?」

「そうですか?でも、キスはキスですよ。このままデレ期に突入ですよ!」

「ねぇよ。っていうかユエ、お前も止めてくれよ」

「………今だけ……でも、シアは頑張っているし……いや、でも……」

「ユエ〜?ユエさんや〜い?」

 

虚空を見つめたまま未だブツブツと呟くユエにダメだとため息をつくハジメは肝心なことを思い出す。

 

「って、そうだ。おい、陽和はどうした!?あいつはどこに行った!?」

 

陽和がここにいないことを思い出し、ガバッと立ち上がり周囲を忙しなく見渡すハジメ。

その表情は心配と焦燥が浮かんでおり、本気で彼の身を案じているのがわかる。ユエやシアも気づき忙しなく周りを見渡すも陽和の姿は一向に見当たらない。

 

「まさか……」

 

もしや、地下水脈で逸れてしまったか?そう思い、顔を青ざめるハジメにセレリアが近づき声をかける。

 

「落ち着けハジメ。ソルならあそこに残った」

「は?残った?なんでそんな事が分かんだよ?」

 

何故そんなことがわかるんだと問い詰めるハジメに、セレリアは流される瞬間に見た光景を伝える。

 

「ヘスティアを床に突き刺して激流に耐える姿を見たからな。私もなんとか残ろうとしたが激流に流されてしまったんだ」

 

あの時、セレリアだけは陽和があの空間に残ったことを気づいていた。

ヘスティアを床に深々と突き刺し、片脚も床に突き刺して激流に耐えている姿を彼女だけが見ていた。付け加えて言うならば、穴に落ちる瞬間にセレリアは陽和と目が合っており『大丈夫だから、待ってろ』とそういう意思が伝わってきたのを感じたのだ。

 

「きっと彼は彼女と話したいことがあったんだろう。だから、私達はここで彼が出てくるのを待っていればいい」

 

「それにだ」と彼女は言葉をつなげて信頼に満ちた表情を浮かべ笑う。

 

「あいつは相棒の記憶を通して彼女達の軌跡を見たらしい。それならば、きっと私達が知らないことも数多く知っているだろう。それ故に、彼が彼女達に対して抱える想いは私達が想像できないほどに大きいかもしれない」

 

そう言うとセレリアは自身の後ろにいるソーナ達に一瞬視線を向けると小声でハジメにだけ聞こえるように言う。

 

「………それと、ここには既に他の人の目がある。外で大っぴらに彼の名前を叫ぶな。勘づかれたらどうする?」

「っっ、そ、そうか。確かにそうだったな。悪い」

 

ハジメも漸くソーナ達の存在に気がつき、ついでにクリスタベルを決して見ないようにしつつ小声で謝る。

そして、軽く息をつくと泉へと視線を向けながら呟いた。

 

「それなら、ここで待つしかねぇか。万が一同じとこに出てきて俺らがいなかったらあいつも困るだろうしな」

「ああ、彼が戻ってくるまでここで野営しよう」

 

セレリアとハジメは相談して今後の方針を決める。そんな二人に、クリスタベルが近づいてきた。傍には顔を真っ赤にしているソーナもいて『お、大人だなぁ、大人の階段登る所見ちゃったぁっ』とかブツブツ呟いている。

ハジメが、近寄ってくる服屋の化け物に戦慄し逃げようとするも、セレリア達が全員知り合いだったらしく快く話をしているので、大っぴらに逃げることができずに数は後ずさるしかできなかった。

 

その後、クリスタベルはちょうどブルックの町に帰る所だから、馬車に便乗しないかという提案をしてくれたものの、仲間がまだ戻ってきておらず待つ旨を伝えて、代わりに陽和に前話していた新作の服の試着をさせてあげると言い彼女達を見送り、セレリア達は泉で野営を始めて陽和の帰りを待つことにした。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

ミレディを爆発から救ったのは流されたはずの紅咲陽和だった。右腕を前に突き出していたことから、彼がミレディを爆発から救ったのは明らかだった。

しかき、彼が着る着物はずぶ濡れであり髪からも水が滴って足下に水溜りを作っていることから、激流に巻き込まれたのは確かだった。

問題は、そこからどう抜け出したかだ。

 

『えっ?ど、どういうこと⁉︎君は、他の仲間と一緒に流れたはずじゃないのっ⁉︎なんでまだここに残ってるの⁉︎』

「貴女と話がしたかったからな。俺だけ残ったんだよ」

『で、でも、どうやって……?』

 

ミレディの当然の疑問に陽和はヘスティアを床に刺して実演しながら答える。

 

「ヘスティアを床に刺して固定して踏ん張った。重力魔法の方は同じ重力魔法で相殺させてもらった」

『えぇ……』

 

強引すぎるやり方にミレディは驚きを隠せなかった。

陽和は天井の紐をミレディが引っ張った時点でこの空間から強制的に出されると理解しており、方法は定かではなかったが何か対処をするべきだと思考を巡らせたのだ。

そして、激流で流されると分かった瞬間、陽和はユエの“来翔”をミレディは必ず妨害することも把握しており、まずヘスティアと右脚を床に突き刺して杭のようにして自分の体を固定。ついで、自身にかけられた重力魔法を自分の重力魔法で相殺して耐えやすい姿勢をとって激流から耐えたのだ。

しかし、重力魔法を継承したばかりの彼がどうして自分の重力魔法を相殺できたのか。練度的にまだ不可能なはずだ。

確かに、ミレディが思った通り実戦での使用経験はゼロだ。だが、練度がゼロではない。それはなぜかというと、

 

「神代魔法の使い手である貴女達の戦いをドライグの記憶を通してみていたからな。神代魔法の使い方はある程度既にコツは掴めている。要は見取り稽古って奴だな」

 

つまりは、そういう事だ。

陽和はユエ達とは違いドライグの記憶を通してミレディ達七人の神代魔法の使い手の戦いを数多く見てきた。最高にして最適なお手本の数々を見てきた彼は、神代魔法のコツをある程度掴んでいたのだ。

そうすれば、継承した直後でも使い方は自然とわかるものであり、陽和程の魔法の才能があれば初めての使用でも重力を相殺することぐらいはできるという事だ。

それを告げられたミレディは、今度は声を上げて笑った。

 

『あはは!成程、ドラちゃんの記憶でたくさん勉強してたわけなんだね。それなら納得だよ』

「本当なら、風魔法も使って服が濡れないようにしたかったんだけどな……重力魔法に意識が集中してた。やっぱ、そうすぐには使いこなせねぇか」

『いやいや、継承してすぐでこれなら上々だよ。きっと、君ならすぐに使いこなせるだろうね。うん、今からでも君の成長が楽しみだよ』

 

ミレディは嘘偽りない期待の言葉を送る。事実、彼の成長はミレディにとって楽しみなものだ。

自分達が託した希望が、悲願を果たしてくれるほどに強くなってくれればとそう願わずにもいられなかったのだ。

 

『———それで、私と話がしたいって言ってたよね。何を話したいの?』

「…………そうだな」

 

ミレディの問いかけに陽和は、感情を整理しているのか少し沈黙した後にそう答えると徐にミレディの前で片膝を突き、

 

「まずは———ありがとう」

『……え……?』

 

そう言って彼女を抱きしめたのだ。

小さいゴーレムの体はすっかり彼の腕の中にすっぽりと収まってしまう。

急なことに困惑するミレディを前に陽和はミレディを抱きしめたまま深い感謝と敬意が宿る言葉を紡いだ。

 

「神と戦う事を選んでくれてありがとう。

辛い現実を前に折れないでくれてありがとう。

諦めずに未来に託してくれてありがとう。

希望を信じてずっと待っててくれてありがとう」

『………っ』

 

陽和の声音には確かに感謝と敬意が宿っており、彼が心の底から自分を、自分達解放者を尊敬していることが確かに分かった。

そして、抱きしめられているからこそミレディは気づいた。

抱きしめる彼の腕が、体が震えていることに。

それが、今にも泣き出してしまいそうなのを必死に堪えているのだとミレディは分かってしまった。

そして、陽和は声を震わせながら言葉を更に紡いだ。

 

「手を取り合うことは罪じゃない。

情を交わすことは、笑い合うことは罪じゃない。

好きなものを好きということは罪じゃない。

俺達は、神の玩具なんかじゃないんだ」

『っっ⁉︎』

 

ミレディが驚いた様子を見せる。

もしも、肉体があれば目を大きく見開いていることだろう。

なぜなら、今の言葉はミレディ・ライセンが最期に人々に懸命に語りかけた言葉だったから。同時に、大切な姉同然の人が最期に遺した言葉であり自分の人生を大きく変えた言葉でもあった。

陽和は抱擁を解くとミレディの両肩を掴んだままだが、お互いの顔が見れるぐらいに体を離す。

当時のことを思い出してか、ついに堪えきれず陽和は涙を流し始めていた。

泣きながらも笑みを浮かべた彼は、ミレディの言葉を反芻するとそれを肯定する。

 

「ああ、貴女の、ベルタさんの言う通りだ。何一つ間違えたことは言ってない。

当然なんだ。あって当然なものなんだよ。

人々が紡ぐ何気ない日常は、何物にも変え難くて、尊いものだ。自分達の意志で生きることは罪であるはずがないんだ。

そんな当たり前を取り戻す為に戦った貴女たちの足掻いた軌跡が、無駄なはずがないっ」

 

陽和は心の中で膨れ上がる大きすぎる感情のまま言葉を紡ぐ。

ドライグの記憶を通して解放者達の軌跡を見てきたからこそ。見ることしかできなかったからこそ。せめて、現代において唯一彼女らの軌跡や想いを鮮明に知ることができた自分だからこそ、伝えるべきだと思ったのだ。

貴女達が残した希望は確かに未来に繋がったのだと。あの時、ミレディが選んだ選択が間違いでなかったことを。陽和はどうしても伝えたかったのだ。

 

「どこに恥じるとこがあるっ!?どこに笑われる道理があるっ!?そんなものあるわけがないっ!!貴女達の世界を愛するその心は、この世界の何よりも高潔だっ!!誇るべきものだっ!!胸を張っていいものなんだっ!!」

 

神エヒトはミレディ達解放者を追い詰める時きっと笑っていたことだろう。

それを想像して陽和の心には憤怒の炎が荒れ狂った。

ふざけるなと。彼女達の高潔な心を嘲笑う貴様を、俺が必ず殺してやると。

俺が、彼女達の想いを受け継いだ俺が、今も世界を弄び嘲笑う貴様を叩きのめし、人の強さを示し、このクソッタレな世界を終わらせてやると。

その猛々しい想いを、彼は誓いに変えて言葉としてミレディに示す。

 

「だから俺が、貴女達の『英雄』になるっ!!貴女達の想いを受け継いだ最後の解放者として、世界をエヒトから解放し、自由な意志の下に誰もが笑い合える未来を齎すっ!!貴女達が夢見た理想の世界をこの俺が実現させてみせるっ!!」

『…………………』

 

涙混じりに紡がれた想いに、ミレディは陽和の瞳をまっすぐ見つめ返す。

ドライグとヘスティアまでも沈黙し事の成り行きを見守る中、ミレディはそっと小さな手を伸ばすと陽和の頬に手を伸ばして優しく触れる。

 

『……………ありがとう、後継者くん。……うん、そっか、私達の歩んだ道は、確かに未来へ繋がっていたんだね』

「………」

 

きっと、肉体があれば頬には涙が流れていた事だろう。

震える声が、それを雄弁に示していた。

 

(私達の想いは……彼を動かしたんだ)

 

異世界の人間であり思想の影響を受けていないことも大きいだろう。だが、それでも、自分達が駆け抜けた激動の時代の遥か後の未来で、一人の少年が確かに神に抗った自分達の思想を認めてくれた。しかも、その少年が自分達の想いを受け継ぎ、代わりに宿願を叶えようとしてくれているのだ。

 

(夢でも幻でもないんだ。私達の止まっていた時間は……もう一度動き出したんだね)

 

自分達の止まっていた時間が漸く動き出したことにミレディは胸の奥が熱くなる。

そして、ミレディは今度は自分から陽和の首に腕を回して抱きしめると感謝の言葉を送った。

 

『本当に、ありがとうね。私達の想いを受け継いでくれて。君の覚悟と優しさに皆を代表して感謝するよ』

「っ、あぁ」

 

憧れの英雄達のリーダーであるあのミレディ・ライセンに感謝されたことに嬉しさを隠しきれない様子で涙を拭いながら大きく頷く。

そして、腕を離して陽和から少し離れたミレディは彼を正面から見据えて告げる。

 

『紅咲陽和君。私は、私達は君を解放者の一員として認めるよ。君の、誰かを想う心は、自分の意思で未来を掴み取ろうと進むその姿は、立派な人の姿だ。

そして、君はもう私達の同志で、仲間だよ。だからどうか、最後の解放者として私たちの宿願を背負って、世界を変えて欲しい』

「っっ!!」

 

ニコちゃん仮面が陽和をじっと見つめる。

感情など籠らないはずなのに、その眼差しは森の奥の泉の如く、ゾッとするほど深く澄み渡ったような感じがして陽和は思わず気圧される。

一つ一つの言葉が、重くのしかかるのを感じた。

これこそが、神を相手に戦った“解放者”達を束ねたリーダーミレディ・ライセン。

言葉の重みが、覚悟の強さが、自分など比にならないほどだった。

比べるものではないが、彼女のこれまでを考えれば納得できてしまうほどの重さだった。

だが、気圧されたのは事実であっても、それらはほんの一瞬。次の瞬間には、彼は微笑みを浮かべていた。

 

彼女が自分を認めてくれた。解放者として抗うことを許してくれた。自分に願いを託してくれた。

それらが万感の思いとなって彼の胸中に溢れていき、それらはやがて歓喜へと変わり、彼は確かに笑う。

その勇壮な笑みには、誰にも穢されない力強い意志と覚悟が宿っていた。

その翡翠の瞳には、強く燃え盛る決して消えない永久の聖火が宿っていた。

陽和は姿勢を正して片手を胸に添えると軽く頭を下げた。

 

「はい。俺は、二代目赤竜帝紅咲陽和は、自由の意志の下に最後の解放者として世界に変革を齎すことをここに誓います。

———全ての人が自由な意志の下にあることを願って」

 

陽和は大樹の前で紡いだ解放の意志を改めて彼女の前で紡ぐ。

それは、彼女が解放者の長だったから。真に敬意を表すべき英雄の前で彼はもう一度言葉を紡ぐことで、自身の決意を確かなものへと変えたかったからだ。

それを聞いたミレディは、ニコちゃん仮面を笑顔にして全身で喜びを表現して笑う。

 

『うん!ありがとう。君なら、やってくれる。そんな気がするよ』

「……ああ」

 

ミレディの言葉に陽和は頷く。

彼女が自分を信じてくれた。それだけでもここに残った意味はあったと思えた。

 

『それに、ドラちゃんも認めていて、しかも聖剣に宿る女神ちゃんとも契約を交わした。私が問うまでもなく君の決意と覚悟は本物なのは分かってたけど、どうしてももう一度確かめたかったんだ。回りくどいことしてごめんね?』

「構わないさ。俺も貴女の前で一度誓いを立てたかったんだ。お互いちょうど良かったと思えばいい。それに元はと言えば俺がどうしても話をしたくて残ったんだからな」

『そうだな。相棒はずっとお前に会いたがっていたぞ。尊敬すべき英雄にあって自分の覚悟を伝えて、いろんなことを話したいと。この大迷宮に入る前から色々と考えていたからな。お前があまり気負う必要はない』

『ふふ、そうだね。マスターの想いはボク達にも伝わっていたから、待ち望んだ対話ができてマスターも嬉しいんだよ』

「ちょっ、お前ら急に話に割り込むなよ」

 

今まで静観していた相棒二人が宝玉を輝かせながら会話に参加して陽和を揶揄ってきて、陽和は苦笑いを浮かべそう答える。

人と竜、そして女神がお互いに軽口を叩き合う仲睦まじい様子にミレディは微笑む。

 

『ふふふ、ドラちゃんも聖剣ちゃんもみんな仲がいいんだね。友達として何よりだよ』

「ま、まぁな。こいつらは頼もしい相棒だからな」

 

二人の相棒の軽口に答えつつ陽和は少し照れ臭そうにそう返す。それを聞いた相棒達の反応はというと、

 

『相棒。俺もお前達のことは頼りにしてるぞ』

『マスター、ボクもだよ』

 

どうしてか感動して感謝の言葉を伝えてきた。

しかし、魂のつながりがあるわけがその喜びの感情は陽和にも伝わってきてしまい、

 

「よ、よせ。お前らが感動すると気持ちが少し伝わってきて変な気持ちになるんだよ」

 

魂の繋がりを通じて伝わる感覚に陽和はむず痒くなってしまうのだ。

ミレディはくすくすと笑うと竜聖剣に目を向けつつふと尋ねる。

 

『ふふふ、ねぇ、その聖剣、ううん、ヘスティアちゃん持ってもいい?』

「もちろんだ。これは貴女達が造った剣なんだから。ヘスティアもいいよな?」

『うん。お母様の盟友なんだから、拒む理由はないよ』

 

ヘスティアとしても拒む理由はなく快く受け入れた為陽和は鞘ごと剣を抜きミレディに手渡す。

受け取ったミレディは体格差で全身で抱き抱えるようになってしまう。

 

『こうして話すのは初めてだけど、久しぶりだね。ヘスティアちゃん。私達のことは覚えてる?』

『久しぶりだね。ミレディさん。うん、ボクはしっかり覚えてるよ。なにせ、生まれて初めて会った人達だからね』

『ふふ、そっかぁ。でも、まさかヘスティアちゃんとお話しできる日が来るなんてねぇ。それに、なんだかとってもあったかいね』

 

ゴーレムである身体では温もりなんてわからないはずなのに、何故か竜聖剣からは芯から温まるような温もりが確かに伝わってきたのだ。

ミレディはそのまま何も言わずに温もりを確かめるように力強く抱きしめる。

 

『……あの時はちゃんと話せなくてごめんね。言い訳になるけど、時間がなかったんだ。でも、またこうして君に会えて話ができて私は嬉しいよ』

『……ボクもだよ。あの時、封じられる直前に見た貴女達はボクの生誕を祝福してくれた。永い時がたったけど、ボクもこうして貴女と会えて嬉しいよ』

 

自分達七人と赤竜帝ドライグ、女神ウーア・アルトが力を合わせてエヒトに対抗するべく創り出したもう一つの聖剣。

次代の希望たる新たな赤竜帝の為に用意した唯一無二の剣。

数千年の時を経て待ち望んだ英雄がこの聖剣を携えて現れてくれたことにミレディはとても感慨深い気持ちになっていたのだ。

 

対するヘスティアも生まれたばかりの時に自分の生誕をミレディ達が祝福してくれたことを覚えており、願いを託したことも覚えていた。だからこそ、こうして再会することができて嬉しかったのだ。

 

それから二人は和気藹々と会話をした。

陽和もドライグは彼女らの会話には参加せずに何も言わずに静観していた。

それからしばらくして、満足したのかミレディは竜聖剣を陽和に返した。

 

『ありがとう、ハルトくん。ヘスティアちゃんとお話させてくれて』

『ボクからもありがとう。マスター』

「二人が満足できたんならそれでいいさ」

 

二人の満足げな様子に微笑んだ陽和は竜聖剣を受け取ると剣帯に提げ直す。

ミレディはくるりと反転すると楽しさを隠さずにるんるんとスキップするような足取りで壁の一角に近づくと壁の一部をスライドさせたのだ。

おそらくは居住区なのだろう。中には本や写真などがいくつかせりだした壁棚に飾ってあった。

自室の扉を開けたミレディは陽和へと振り向く。

 

『よーし、ならもっとお話をしよう!!ハルちゃんには特別にミレディたんのお部屋に招待してあげるよ!!』

 

いつの間に呼び名が変わっているが、悪い気はせずむしろ嬉しかった。

その呼び方、『〜ちゃん』とは彼女が仲間と認めた者につける愛称だからだ。それは陽和がミレディに仲間と認められた証だ。

親しみを持って愛称で呼ばれたことに陽和は笑みを浮かべるとミレディの招待に快く応じた。

 

「ああ、是非」

 

そう言って、陽和はミレディの部屋の中へと入った。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

どれくらい時間が経ったのだろうか。

 

詳しい時間は不明だが、数時間は経過しているだろう。ミレディの部屋に招待された陽和は彼女とたくさん話をした。

自分のこれまでのこと。恋人のこと。解放者達のこと。地球の話や、ミレディが生きていた時代の話。それこそ他愛のない話などたくさんの会話をした。

 

時間の流れを忘れるほどの長く濃密な会話の時間を過ごしたのだ。その間、陽和もミレディも、ドライグやヘスティア、全員が心の底から楽しそうに笑っていた。

 

そして、思う存分話をした陽和は漸く会話を切り上げて元の継承の空間に戻ってきていた。

 

「じゃあ、そろそろ行くか。ミレディ、楽しかったよ。ありがとう」

『うん!こんなに楽しかったのは久しぶりだよ!私の方こそありがとうね!』

 

二人はそう別れの言葉を交わす。しかし、見送りにきたミレディはそう言葉を交わした後も何か言いたげな様子だった。

陽和はそんな彼女の様子に目敏く気づく。

 

「?どうした、ミレディ」

『……っ、あ、あのさ、一つお願いしてもいいかな?』

「?なんだ?」

 

何かを言いそうで言わない彼女は、少し躊躇った後意を決して遂にそのお願いを言った。

 

『え、とね、その、もしも君達の旅に、余裕があればなんだけど……その……』

「うん」

『……そ、それでさ……も、もし、ち、近くに寄ったら、遊びに来てくれないかな〜、なんて……』

「ああ、全然構わないぞ」

『え?い、いいの?』

 

断れると思っていたのだろう。あっさりと承諾を得られたことに驚くミレディ。しかし、陽和にとっては何も驚くことはなかった。

彼はミレディの前で片膝をついて目線を合わせると安心させるような笑みを浮かべると彼女の頭にポンと手を置いた。

 

「むしろなんで駄目なんだ?仲間に、友達の所に遊びに行くのに、理由なんていらないだろ。違うか?」

『…………』

 

ニッと笑みを浮かべてそう言い切った陽和に、ミレディはしばし唖然としてしまう。

やがて、気を取り直したミレディはニコちゃん仮面を笑顔にすると大きく頷いた。

 

『うん、うん!確かにそうだね。友達と会う約束をするのに理由なんていらないよね。じゃ、じゃあ、余裕があったらまた来てくれる?』

「ああ約束だ。近くに寄ったらここに顔出しにくるよ」

『約束だよ?約束破ったらミレディさんは本気で怒るからね?』

「おうとも。そっちこそ約束を忘れるなよ?」

『ふふん、誰にものを言ってるのかな?超絶天才美少女魔法使いミレディちゃんだよ?約束の一つや二つ忘れるわけがないよ!』

 

胸を張ってウザさ満載に器用にもニコちゃん仮面でウィンクしてポーズを取るミレディ。ウザさ満点のポーズに陽和は思わず笑ってしまう。

 

「ははっ、それでこそミレディだ。それじゃあ、そろそろトラップの起動頼むよ」

 

翼を広げて天井付近まで飛び上がった陽和はそう言ってミレディにここから出る為のトラップの起動を頼む。

 

『うん!じゃあ、早速起動するね!』

 

そう言って、ミレディが天井からぶら下がっていた紐を引っ張れば床に大穴が開き、壁から激流が流れ込んでくる。

部屋の中心の大穴に水が流れ込み渦を巻く中、陽和はミレディへと振り向く。

 

「それじゃあミレディ俺は行くよ。貴女と話せて本当によかった」

『さらばだミレディ。いつかまた俺達はお前に会いに行く』

『またねミレディさん。今度会ったらもっとお話をしよう』

 

陽和、ドライグ、ヘスティアがそれぞれ別れの言葉を送る。しばらくは会えなくなるから、再会するまでの間どうか元気でいてほしい、そんな願いを込めて。

ミレディはそれらの言葉に対して頷くと、片手を大きく振る。

 

『うんっ、私はずっとここで待ってるから、絶対に遊びに来てね!』

「ああ」

 

そして陽和は頷くと、とても優しげな表情を浮かべると最後にミレディと目を合わせる。

陽和の翡翠の瞳とミレディの無機質な瞳が交わり、

 

「またな。ミレディ」

『またね。ハルちゃん』

 

そうお互いに再会を約束した。

そして、陽和は完全にミレディから視線を外すと翼を羽ばたかせて勢いよく渦に足から飛び込み、その空間を後にした。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

渦に飛び込んだ陽和は地下水脈を凄まじいスピードで泳ぐ。

翼や尻尾を駆使することで壁に当たらないようにかつ、普通に泳ぐよりも早く器用に泳いでいる。

流れに身を任せつつ泳ぐ陽和にドライグがふと尋ねた。

 

『ミレディとの会話は楽しかったか?相棒』

(……ああ、楽しかった。あんなにも話をできるとは思わなかったよ)

『ふふっ、マスターもミレディさんも本当に楽しそうだったしね』

 

陽和は心の中でドライグ達と会話する。

ミレディとの会話は本当に楽しかった。自分が記憶を通じて知っていたことを、実際に経験した彼女自身の口から聞いたり、自分の昔のことも話したりした。

本当にさまざまなことを陽和達は話すことができたのだ。

そのおかげで陽和は様々なことを知ることができた。

 

(………………)

 

陽和は会話の内容を思い出してか真剣な表情を浮かべ沈黙する。

 

『?相棒?』

『?マスター?』

 

突然黙り込む陽和に心配そうに声をかける相棒達。陽和はその瞳に鋭い意志の光を宿すと、真剣な口調で呟いた。

 

(ドライグ、ヘスティア。必ず勝とう。どんなことがあっても、必ずエヒトを殺して……世界を、救おう)

 

初めは、恋人や友を守り共に世界に帰る為。

 

その次は、神と戦い邪竜と呼ばれた『赤竜帝』との繋がりを確かめる為。

 

その果てに、陽和はこの世界の現状を知った。

ドライグが邪竜と、解放者達が反逆者と呼ばれるに至った経緯を。

 

経緯を聞いた彼は、自身が解放者達が託した希望だということを知った。自分に世界救済の使命を託したのだと。

 

使命感や義務感もあったかもしれない。

力と想いを託された自分がやらなければ、誰がやるのだと。だから、自分がやるのだと。

経緯を知り、同情したからかもしれない。

あまりにも辛かったから、世界を救う為に戦った彼らに対する仕打ちがこれなのかと怒りを抱いた。

 

報われてほしい。救われてほしい。そう思ったから、陽和は力と想いを受け継ぎ、過酷な運命に身を投じた。

 

初めこそこの覚悟と想いは受け継いだものだった。

 

だが、もうコレは借り物ではない。

 

この覚悟は、この決意は、本物だ。

 

世界を救いたいと願う想いも、神を必ず滅するという覚悟も誰にも否定させない。誰にも否定させない。

 

その決意の表れである言葉に、相棒達は揃って笑みを浮かべると感慨深そうに応える。

 

『……ああ、そうだな。勝とう、必ず』

『……うん。絶対に救おう。この世界を』

 

相棒達も陽和の想いの強さは魂の繋がりを通してはっきりと伝わってきていた。

相棒達の応えに陽和は笑みを浮かべると、話題を変えた。

 

(しっかし、あてもなく泳いでるがあいつらはどこに出たんだろうな)

 

一応、泳ぎながら気配感知と魔力感知の技能を発動してはいるものの未だ感知には引っかからない。

今の陽和の感知能力ならば全力を出せば半径3km圏内は感知できるのだが、それでもまだセレリア達の気配は捉えることができていなかった。

 

『そう気にすることもない。例え、あいつらと逸れたとしてもブルックに戻れば会えるだろう?それに相棒ならば距離にもよるが、重力魔法を併用すれば一日中には辿り着けるだろ』

『そうだね。マスターは強いしあの人形達が出てこない限りは問題ないだろう?』

 

ドライグの言う通り、陽和の飛翔速度は今やそこらの飛行機を凌駕している。余程遠くに出ない限りは、重力魔法も使った超加速で1日でブルックに辿り着くことができる。

それに、地上には陽和の相手になるものはおらず、一部の例外を除き彼が負けることはないだろう。しかも、その例外も一対一ならば勝てる自信が陽和にはあった。

 

(……まぁ、それもそうだな。気長に行くか)

 

陽和は色々と考えるのをやめて感知を続けながらひたすら泳ぐ。

それから5分ほど経った頃、ようやく陽和の感知範囲にセレリア達の反応が入った。

 

(………お、見つけた。というか、わざわざ待ってくれていたのか)

 

感知した限りではセレリアだけでなくハジメ達の反応もあったのだ。

セレリアにはそれとなく安心しろと伝えたのだが、どうやら皆待ってくれていたらしい。

そして、上を見れば黒く揺らめく水面の中に小さな光の点が見えた。どこかの泉だろうか。月の光が見えたのだ。

 

(……よし、一気に上がるか)

 

陽和は笑みを浮かべつつ翼を勢いよく打ち、尻尾を激しく動かして一気に加速して上昇する。

急上昇による急激な水圧変化をものともせずに上昇し光の元へとぐんぐんと近づき、遂に水面から飛び出し、地上へと出ることができた。

 

「うし、出れた」

 

水面から20mほどの高さまで勢いよく飛び上がった陽和は、飛び出る直前万が一を考慮して翼と尻尾を仕舞い、代わりに重力魔法を発動し緩やかに降りていく。

空を見上げれば、藍色の夜空に青白い月が浮かんでおり夜空を淡く照らしている。そして、気配のする方向、泉の岸に視線を下せば、野営をしていたのだろう。焚き火を囲んでいるセレリア達がこちらを見上げていた。

 

「よぉ、お前ら。待たせたな」

 

そう言いながら陽和はセレリア達の前に降り立つ。

 

「漸く戻ってきたな。丸一日も待たせやがって」

「……ん、長かった。でも、おかえり」

「お帰りなさいですぅ。陽和さん」

 

ハジメは悪態をつき、ユエとシアが陽和の帰還を労う。ハジメは悪態こそついていたものの、その表情は「心配かけやがって」と言いたげな様子であり、内心に気づいた陽和は肩を竦める。

 

「悪かったよ。ミレディとの話すのが楽しくてな。ついつい長居しちまったよ。てか、1日もいたんだな」

「ああ。時間を忘れるほどに熱中してたみたいだな」

 

ハジメ達にそう応えた陽和の下にセレリアも近づくと、笑みを浮かべながらそう言う。待たせたことを咎めるでもなく、子供の寄り道を許すようなそんな穏やかな様子に、陽和は「内心バレバレだな」と苦笑を浮かべてしまう。

 

「まぁな。ずっと話したかった相手なんだ。今を逃すと次いつ会えるかもわからないしな。話せるうちに話しておきたかった」

 

世界を救う旅がある以上、気軽にミレディの下に遊びにいくことはできない。だから、話せるうちに話したいことを話したかったのだ。

 

「で、待たせた俺が言うのもなんだが、今日は野営か?明日ブルックの街に戻る感じか?」

「そうなるな。もう夜も遅い。それに、ブルックの町までは馬車で1日かかる距離にあるようだし、今宿に行っても迷惑だろう」

 

セレリアが言うにはここからブルックの町には馬車で1日かかるようだ。とはいえ、陽和達は“白桜”や“シュタイフ”を使えば数時間で辿り着ける。だが、夜も遅い。今向かっても宿の受付時間には間に合わないだろう。

陽和もソレを理解して頷く。

 

「了解した。なら、詫びと言ってはなんだが今夜の夕食は俺が作ろう。あ、それとももう済ませたか?」

「いや、ちょうど今から作るところだった。タイミングが良かったな」

「そうか。なら、さっそく取り掛かろう………アァいや、その前に、話したいことがあったんだ」

「話したいこと?」

 

調理に取り掛かろうとしてソレをやめてそう言った陽和にセレリアだけでなく、ハジメ達も首を傾げる。

陽和は竜聖剣・ヘスティアの宝玉に手を添えると優しく撫でながら口を開く。

 

「お前らに紹介したい奴がいる。ヘスティア、話していいぞ」

『うん。セレリアくんハジメくん、ユエくん、シアくん。初めまして。ボクの名前はヘスティア。マスターの新たな相棒さ。これからよろしく頼むよ』

 

ヘスティアが青緑の宝玉を点滅させながらそう自己紹介する。しかし、自己紹介されたハジメ達はセレレア以外目を丸くすると、一瞬の沈黙の後、

 

「「剣が喋ったぁぁっ!?!?」」

 

ハジメとシアの驚愕の声が響く。

ユエも目を丸くして「うそん」といいたげに驚きをあらわにしており、驚いていないのはセレリアぐらいだ。

 

『ふふふ、いい反応をありがとう。自己紹介した甲斐があったよ』

「そりゃ普通は驚くだろ。てか、セレリアは驚かないのな」

 

ドッキリが成功したことに楽しむヘスティアにそう返した陽和は、唯一驚いていなかったセレリアに振り向いた。

 

「まぁ、私は一度二人が話してるのを目の前で見てたからな。あまり驚きはないな」

「そういや、お前は一番近くにいたからなぁ。会話を聞いていて気づいていてもおかしくないか」

『そうだな。ハジメ達は離れていたが、セレリアはお前が抱えていたからな。気づかないはずがないか』

『あぁ〜聞かれてたんだねぇ。ボクとしては全員が驚く顔を見てみたかったんだけど』

 

陽和とドライグがセレリアが気付いた経緯を理解してそう呟くが、ソレを聞いたヘスティアは少し残念そうだった。

彼女としては、全員が驚く姿を見てみたかったらしい。残念そうに呟くヘスティアにセレリアは苦笑を浮かべる。

 

「それはすまないな。一応、あの時驚いていたからそれで手打ちにしてくれないか?」

『あぁうぅん、気にしなくていいんだ。ボクが勝手に驚かそうとしただけだから』

「そうか。まぁいい何はともあれ、これからよろしく頼む」

『うん、よろしくね』

 

セレリアとヘスティアは早々に打ち解けているのだが、その状況についていけないハジメが当然のように待ったをかける。

 

「待て待て待て!なんでお前は普通に打ち解けてるんだよ!?」

「いや、だって、陽和の相棒だしな。彼が信頼してるなら、疑う理由もないだろ?」

 

当然のように言うセレリア。

セレリアとしては心底惚れている陽和が信頼を置いているなら、自分も歓迎すると言うスタンスであり、ヘスティアのこともドライグが陽和の中に宿っている以上似たような存在であり、ヘスティアと陽和が打ち解けているから疑う理由もないだけだ。

とはいえ、それは陽和ラブなセレリアだけであり、ハジメ達は未だ困惑を隠さなかった。

そんな彼らに陽和は苦笑を浮かべる。

 

「まぁ驚く気持ちはわかるが、そう身構えないでくれ。こいつはドライグと同じようにずっと俺のことを待ってくれていたんだ。だから、すぐにとは言わないが受け入れてほしい」

「「「…………」」」

 

ヘスティアの宝玉を撫でつつそう懇願する陽和に、ハジメ達はしばしの間沈黙する。十数秒程時間が経ったのち、ハジメは大きく嘆息しながら頭をガシガシと掻く。

 

「………はぁ〜〜〜、分かったよ。別に危険物だからとかじゃなくて、単純に驚いてただけだからな。それに、お前が信頼してるなら避ける理由もねぇわな」

「……ありがとうな」

「いいって、まぁ剣に何かが宿っているってのは創作でもよくある話だからな。……けどよ、マジで何モンなんだ?」

 

伝説の武器や防具に精霊などの類が宿り持ち主をサポートする話はある種の定番であるので、ハジメはオタクとして理解を示す。

しかし、それとは別に何が宿っているのかは気になったのだ。

その問いに、陽和は少し言い淀む。

 

「あ〜、それなんだが……詳しくは話せないんだが、簡潔に応えてもいいか?」

「あぁ?まぁ、それでもいいけどよ……」

「サンキューな。それで、ヘスティアの正体なんだがな…‥簡単に言うと、こいつは女神だ」

「「「「は?」」」」

 

今度は陽和以外の全員がはもった。

ハジメ、ユエ、シアだけでなくセレリアまでもが目をまるくし呆けた声をあげたのだ。

気持ちはわかるので、苦笑いを浮かべつつ陽和は話を続ける。

 

「詳細は省くが、こいつは狂神エヒトに対抗する為に、とある女神によって生み出された女神だ。そして、解放者達とドライグが竜聖剣に彼女の魂を封じ込めて、竜継士が来るその日まで、あの継承の間でドライグと共に待ち続けていた女神だ。

俺は、さっきのミレディとの戦いで彼女と本当の契約を交わして新しい技能に目覚めたんだよ」

『といっても、ボクは生まれたての新米の女神だし、竜聖剣はマスターと一緒に成長するからね。もしかしたら、これからの成長次第では更なる技能を獲得できるかもしれないね』

「おぉ、そいつはいいな。まだまだ強くなれるのか」

『俺の方もまだまだ成長の余地はある。ヘスティア共々更に強くなれるぞ』

「だろうな。お前の力がこの程度のはずがねぇしな」

 

簡潔に女神ヘスティアの詳細を話した後、陽和は相棒達と和気藹々と話してる。

その様子に、というより、陽和が話したヘスティアの情報にユエ達がチートを見るような目を向け、ハジメが頭を抱えていた。

 

「やべぇよ、俺の親友が更にチート化してやがる。なんだよ、竜帝だけじゃなくて、女神とも契約を交わした?しかも、まだまだ強くなるって?いやいやいや、それどこの英雄だよ。マジもんの英雄譚の主人公じゃねぇか。やっぱ、天之河じゃなくて、こいつが勇者になるべきだろぉ。なんでこいつが勇者じゃないんだよっ」

 

ただでさえ、召喚された当初から陽和のスペックは勇者として破格のスペックを獲得した光輝を凌駕しているのだ。

だというのに、そこにかつてエヒトと互角の戦いを繰り広げた赤竜帝ドライグの力が加わり化け物スペックの自分を上回る異常すぎるスペックになったのに、そこに女神と契約して更に強くなっただと?

やばい。やばすぎる。もはや、チートなんて言葉じゃ生ぬるいほどの超強化が施されたのだ。

戦慄しないはずがない。

というか、何故これほどまでに特異な出会いを果たしている彼が勇者ではないのだろうか。おかしいだろう。

 

だが、ハジメは、ましてや陽和自身も知らない。

紅咲陽和の本質は『勇者』の資質とは異なることを。

彼の本質は『勇者』にあらず、『英雄』のソレだ。

彼は、何があっても勇者にはなれないしならないだろう。

 

なぜなら、彼が進む道は、英雄の道だからだ。

 

彼は愛する者、大切な者達を守らんが為に剣を取り、拳を握り、限界を超えて己を賭して願いを最後まで貫き通せる不屈の意志を持っている。

 

それは、『勇者』とは違う。

 

その観点で言えば、()()が求める『勇者』の資質を彼は有していないのだ。

だから、陽和は『勇者』にはならない。

彼は、『大切』を切り捨てる選択など決して選ばない。

彼は、護りたい者達全てを護る為に強くなることを選んだのだから。

 

それこそが、紅咲陽和なのだ。

 

そして、頭を抱えてぶつぶつと呟くハジメに陽和は笑みを浮かべて言う。

 

「まぁ、俺が勇者どうこうはおいといてだ。とにかく、時間はかけてもいいからヘスティアのことはちゃんと仲間として受け入れてくれよ?俺の大事な相棒なんだからな」

「色々と疑問は残るが、わーったよ。これからよろしくな、ヘスティア」

『うん、よろしくね』

「………ん、よろしく」

「よろしくですぅ」

 

ハジメに続いてユエ、シアもヘスティアを受け入れて挨拶を済ませる。

少しハプニングはあったもののヘスティアが問題なく受け入れてもらえたことに安堵の笑みを浮かべた陽和は声を張り上げる。

 

「よーし、今夜は腕によりをかけて作ろう!何かリクエストはあるか?何でもいいぞ」

 

陽和がそう言った瞬間、全員が我先にと食べたい料理をリクエストしていく。

一行の料理担当であり一番美味い陽和の料理はそれだけ仲間内で好評だったのだ。

それを陽和は余すことなく聞き、全てリクエスト通りに作っていき、陽和達は和気藹々と夕食を堪能した。

 

その夜、とある泉からは『うまぁーーいっ!』と言う歓声が響いたとか。

 

 

こうして陽和達は、二つ目の大迷宮の攻略を成し遂げ、また一歩悲願成就へと近づいた。

 

 

 





陽和とセレリアの人工呼吸を期待した人はいるか?いたらマジですみませんね。私はミレディとのお話を優先させたかったんです。
元々好きなキャラでしたが、13巻を読んでからますます好きになってしまいましたよ!!

そして、これにて原作2巻が終了。次からはあの駄竜が登場する3巻へと突入します!!

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