今回はただただ、ひたすらに暴れて暴れまくって蹂躙するだけです。
追記:諸事情により、四神をモチーフにしたオリジナル魔法風・雷・重力の複合魔法“青龍”の使用属性を水・雷・重力の複合魔法に変えます。
(何だよ、これは……何なんだよ、これは!!)
ウルの町を襲う数万規模の魔物の大群の遥か後方で、即席の塹壕を堀り、出来る限りの結界を張って必死に身を縮めている少年、清水幸利は目の前の惨状に体を震わせながら言葉を失った様に口をパクパクさせていた。ありえない光景、信じたくない現実に、内心で言葉にもなっていない悪態を繰り返す。
そう、魔物の大群をけし掛けたのは紛れもなく、行方不明になっていた愛子の生徒、清水幸利だった。
とある男との偶然の邂逅の末に交わした契約により、ウルの町を愛子達ごと壊滅させようと企んだのだ。しかし、容易に捻り潰せると思っていた町や人は、全く予想しなかった凄絶な迎撃により未だ無傷であり、それどころか現在進行形で清水にとっての地獄絵図が生み出されていた。
ドゥルルルルルルル!!!と独特の音を響かせながら、無数の紅き閃光が殺意をたっぷりと乗せて空を疾駆している。瞬きの間よりも早く目標へと到達した紅光の弾丸は、大地を鳴動させ雄叫びを上げながら、突進する魔物達を例外なくただの肉塊へと変えていく。
毎分一万二千発の死が無慈悲な壁となって迫り、一発で纏めて数十体を纏めて貫いていく。
肉体を爆散させて崩れ落ちる様に、死の射線から逃れようとするが、射手たるハジメが逃すわけなく二門のメツェライを扇状に薙ぎ払い、狙った魔物全てを穿った。
シアはアルカンを担いでおり『好きに飛んでいけ〜』と言わんばかりに引き金を引きまくり、パシューと気の抜ける音と共にロケットランチャーを連発していた。
しかし、その間抜けな音とは裏腹に、火花の尾を引いて大群のど真ん中に突き刺さった弾頭は、大爆発を起こして周囲数十mの魔物達を纏めて吹き飛ばした。直撃を受けなくても、その余波だけで魔物達は肉体を内外問わず損傷しもだえる。そして、立ち上がれないまま後続に踏み潰され息絶えていった。
しかも、弾切れがなく全弾撃ち尽くしたとしても、ハジメから配備され傍に積み上げられた弾頭をすぐに装填して連射している。
今度はロケットランチャーではなく、魔物達の頭上で爆発すると眼下へと燃え盛る大量の炎を撒き散らしたのだ。焼夷手榴弾と同じものであり、摂氏3,000度の燃え続けるタール状の液体が魔物達を焼き滅ぼしていく。
ティオはハジメの兵器ではなく己の魔法で戦っている。
突き出された両手の先からは周囲の空気すら焦がしながら黒い極光が放たれる。竜化状態の時に放ったブレスだ。陽和とは違い人間状態の時は口からではなく手から放つらしい。
もっとも、陽和も手からブレスを放てるが口から放っているのは『その方がイメージしやすいから』らしい。陽和の障壁には受け止められたものの、その黒炎は射線上の一切を刹那のうちに消滅させて大群の後方にまで貫通した。
ティオはそのまま腕を水平に薙ぎ払っていき、それに合わせて黒い砲撃は真横へとスライドして触れるもののを悉く焼滅させる。
砲撃が止んだ後には、抉られ黒く焦げた大地しか残っていなかった。しかし、その殲滅力の代償に魔力を相当消耗したらしく、ティオは肩で息をしている。しかし、すぐさま凛々しい笑みを浮かべるとスッと背筋を伸ばした。
戦闘が始まる前に事前に陽和の回復魔法“ディア・エイル”によって魔力がほぼ回復したおかげでまだ少々余裕は残っていたティオは、担当範囲の魔物の先陣をあらかた殲滅していたことから、魔力消費の少ない魔法へと切り替える。
「吹き荒べ頂の風、燃え盛れ紅蓮の奔流———“嵐焔風塵”」
少しでも魔力消費を抑えるためにあえて詠唱をする。そうして解き放たれたのは、F4クラスの竜巻にも匹敵する火炎の竜巻だ。
直径数十mの渦巻く火炎が魔物の群れへと爆進し、周囲の魔物達を纏めて巻き上げると、そのまま火炎で呑み込み灰燼へと変えていく。
全てを灰燼へと帰す殲滅の竜巻は、存分に戦場を蹂躙していた。
そして、遠距離攻撃を行っているメンツの中でユエの殲滅力は飛び抜けていた。ユエはハジメ達が迎撃を始めても瞑目したまま静かに佇んでいる。ユエの担当範囲の攻撃がないことを悟った魔物達が、破壊の嵐から逃れようと四方から魔物が集まってくる。
密集して突進を始める魔物達だったが、500mの辺りまで近づいたところでユエがようやく動いた。
スッと目を開き徐に右手をきがると、一言囁くように、されど世界へ宣言するように力強く魔法を唱えた。
「———“壊劫”」
発動されたのはミレディより授けられた神代魔法が一つ重力魔法だ。魔法の天才たるユエを以てしても発動に時間がかかる魔法だ。
ユエの詠唱と同時に現れたのは、渦巻く闇色の球体。その球体が薄く薄く引き延ばされた。
形成されたのは500m四方の正四角形。太陽の光を遮る闇色の天井が、直後眼下の魔物目掛けて落下した。
次の瞬間、怒ったことは端的に説明するなら『大地ごと魔物が消滅した』だろう。事実、後ろの壁からハジメ達の蹂躙劇を唖然とし見ていた町の人々からはそうとしか見えなかった。
何が起きたのかを説明すると、闇色の天井が魔物ごと大地を陥没させて、500m四方、深さ十mのクレーターを作り上げたのだ。
ユエの放った一撃で、一度に二千体近い魔物が一瞬で圧殺され、運悪く術の境界線上にいた魔物は体を寸断されて臓物を撒き散らす。
後続の魔物達は、突進の勢いを止めることが叶わず次々と巨大な穴の中へと落ちていき、再び数千体の魔物が圧殺されていく。
「うむ、流石はかつて名を轟かせた古の吸血姫。魔法の腕に関しては妾では敵わぬな。まさに見事じゃ」
「………ん、光栄」
ユエは憧れの存在である竜人族のティオにそう称賛されたことに少し嬉しそうにしている。
「じゃが、ユエにばかりいいところは見せてられん。妾も主殿に期待されておるのでな。妾の力もこの程度のものではないと示さなければのうっ!!」
ティオはそう意気込むと突き出した両手の先に再び黒い輝きを宿し、今日一番の極太の奔流が放たれる。気合い十分に放たれた黒炎は大群を貫通するどころかその後ろの地面まで数百m先まで貫き抉ったのだ。
魔物達は魔法と砲撃。その二種の遠距離攻撃によって近づくことすら叶わず悉く殲滅されていった。
それが
それらだけでも十分異常だ。
だが、それ以上に異常な光景がある。それは魔物の大群の右側だ。
「むぅ……しかし、凄まじいのう。あれが主殿とセレリアの力か。我らが帝王もさることながら、彼女も随一の戦士のようじゃな」
砲撃の手を緩めないままティオが大群の右側へと視線を向けながら感嘆交じりに呟く。
彼女の視線の先、右側ではあちこちが凍りつき、あるいは燃え盛っていると言う異常な光景が広がっていた。そして、その緋炎と紫氷が混ざる領域内では絶えず爆音と轟音が鳴り響いているのだ。
更には、その中では赤と紫の閃光が縦横無尽に駆け回っている。
その二つの閃光の正体は、陽和とセレリアだ。
ハジメ達が遠距離砲撃で迎撃しているのに対して、彼らは大群の右側へと飛び込んで近接攻撃で直接魔物を蹂躙しているのだ。
セレリアは“銀狼魔装・氷牙”を纏っており氷の爪牙を以て戦場を駆け回る。
「“凍雨”‼︎“氷弾”‼︎“氷魔槍”‼︎」
魔法を連続で発動していき、次々と氷属性の魔法攻撃を超至近距離から放ち、周囲の魔物達を悉く切り裂き、貫き、打ち砕いていく。
まさしく狼の如く縦横無尽に駆け回るセレリアのスピードに翻弄され魔物達は攻撃を当てるどころか掠らせることすらできないでいる。
そんな状況の中、どこからともなく放たれる氷魔法や鉤爪での攻撃は不意打ちでしかなく、気づけば隣の魔物が崩れ落ちているという事態になっていた。
わけもわからず殺されていく光景に戸惑いを隠しきれていない魔物達は逃げようとあるいは抜け出して攻め込もうと試みても、次の瞬間にはその命を狩られている。
捕食者たるセレリアを前に背を向けて逃げられるわけもなく、どこからともなく聞こえる狼の咆哮を聞きながら魔物達は弱肉強食の摂理に則って次々と屠られていった。
陽和は四肢に炎を纏っており、雷炎を宿したヘスティアを目が追いつかないほどの速度で振るい周囲にいる魔物達を悉く焼き斬っていく。
彼は“竜帝化”による竜の鎧を纏わずに“スカーレット・アルマ”のみを使っている。人々の目があるため公に赤竜帝の力を使うわけにはいかず、“スカーレット・アルマ”のみを纏って自身そのものを火炎と化して戦場を炎で蹂躙しているのだ。
『“
『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost‼︎‼︎』
“スカーレット・アルマの火力を上げる詠唱が唱えられ、同時に“倍加”により力が倍増していく。四肢の炎の勢いが急速に激しさを増し、爆破の勢いまでも上げていく中、陽和はついにそれを解放する。
『“
『Explosion‼︎‼︎』
彼の雄叫びに応え四肢に纏う炎が勢いよく爆ぜる。
ドォンッッと炎が轟音を上げながら爆ぜて、戦場に一際巨大な爆炎の華が咲く。半径300mを超える範囲が爆炎に呑み込まれ範囲内の魔物およそ1500体ほどを悉く灰燼に帰す。
一瞬にして自身の周囲の魔物達を焼滅させた陽和は、徐にヘスティアを掲げて魔法を唱える。
『“ファイアボルト”“アストラル・ウインド”』
言霊に応えて陽和の頭上に現れたのは無数の炎雷の塊と風光の光球だ。夜天に散りばめられた星の海のように晴天に浮かび上がる紅緋と緑白の星々は術者たる陽和がヘスティアを振り下ろすと、流星が如く大地へと降り注ぐ。
まさに流星群となり、陽和が焼滅させた円形の範囲外にいる魔物達を次々と蹂躙していく。
その数はおよそ5000。ユエが“壊劫”で圧殺した魔物の数の倍以上を流星群で鏖殺して見せたのだ。
周囲の魔物を一切合切殲滅した陽和は、自身を遠巻きに見ている魔物達を見据える。
魔物達は一様に恐怖の色を瞳に宿しており怯え切っていた。だが、それでも撤退することを選ばずその場にふみとどまっていたのだ。
陽和は獰猛に笑うと翡翠の眼光を鋭くしながらヘスティアを構えて告げる。
『死にたい奴らからかかって来い。この赤竜帝が相手をしてやろう』
魔物にとっての死刑宣告をして陽和は魔物達を蹂躙すべく再び大群へと身を投じた。
▼△▼△▼△
十万という普通ならば戦うことすら諦めるような魔物の大群をたった6人が次々と数を減らしていく非現実的な光景に、人々は歓声をあげる。
大地に吹く風が、戦場から蹂躙された魔物の血の匂いを町へと運んだせいで、吐き気を催す人々が続出したが、そんなことよりも目の前の蹂躙劇に湧き上がっていた。
町の重鎮や護衛騎士達は、初めて見るハジメ達の力に呑まれてしまったかのように呆然としたままだ。生徒達は、改めてその力を目の当たりにし、自分達との〝差〟を痛感して複雑な表情になっている。
本来、あのような魔物の脅威から人々を守るはずだった、少なくとも当初はそう息巻いていた自分達が、ただ守られる側として町の人々と同じ場所から、『無能』と見下していたクラスメイトの背中を見つめているのだ。複雑な心境にもなるだろう。
優花はただただ力強い眼差しで戦場を眺めていた。その瞳には強固な信頼の光が宿っており、自身に想いを託してくれた友人ならば大丈夫だと信じて疑っていない様子だった。
愛子は、ただひたすら祈っていた。陽和達の無事を。そして同時に、その戦場から一切目を逸らずに真剣な眼差しで見つめていた。それは自分の選択が彼らを凄惨極まりない戦場へと送り込んだことへの罪悪感から目を逸らしてはいけないと意志を強固にしていたからだ。
やがて、魔物の数が目に見えて減り、密集した大群のせいで隠れていた北の地平が見え始めた頃、遂にティオが倒れた。魔力枯渇で動けなくなったのだ。
「むぅ、妾はここまでのようじゃ……もう、火球一つ出せん……すまぬ」
うつ伏せに倒れながら、顔だけをハジメ達の方に向けて申し訳なさそうに謝罪するティオの顔色は、青を通り越して白かった。文字通り、死力を尽くす意気込みで魔力を消費したのだろう。
そんな彼女を連絡を取り合うために設置していたスピーカーから陽和が労う。
『上々だ。いい戦いっぷりだったぞ。あとは任せて休め』
「ふふ、光栄じゃ。とはいえ、もっと主殿の為に戦いたかったんじゃがな。仕方あるまい。今回は主殿のお言葉に甘えさせてもらおうかの」
『ああ、そうしてくれ』
ティオを労った陽和は次にハジメ達へと指示を出す。
『それじゃあ、予定通りハジメ達は引き続き後方支援に徹してくれ。残りの魔物達は俺とセレリアで片付ける』
「本当にいいのか?俺とシアなら乗り込んで暴れられる余力は十分にあるぞ?」
打ち合わせ通りとはいえ、二人だけに危険な場所に行かせるままなのは納得できず、そう言う。シアも隣でドリュッケンを構えてうんうんと頷いている。
『いや、もう数も一万を切っている。それなら俺とセレリアが思いっきり暴れて片付けたほうが早い。それにこっから大技使って堰き止めるつもりだ。無理に来ようとしたら巻き込まれるぞ』
「……あいよ、分かったよ。ただ派手にやりすぎて主犯格をうっかり殺すなよ?」
『ハハハッ、そんなことはしないさ。それに瀕死レベルなら俺の魔法で回復できる。多少痛い目にあっても死なないさ』
攻撃の余波で清水を巻き込んだところで死なない限りは陽和の魔法で回復できるので問題ない。指示を出し終えた陽和は最後にセレリアへと声をかけた。
『セレリア、一旦合流するぞ』
『了解した』
そして二人は通信を切った。ブツっという音と共に陽和とセレリアからの通信が切られる。
「……まぁあいつらなら、何の問題はないだろうな」
ハジメはそう呟くと早速“シュラーゲン”を構えて陽和達の支援の準備をはじめた。
▼△▼△▼△
陽和の指示に従い魔物達の殲滅を一時中断したセレリアはその場から離脱すると、魔物達と防壁の中間地点あたりまで後退する。セレリアの速力ならば魔物達に追いつかれるどころか、更に引き離せるので背後からの攻撃を受ける心配もない。
そして、ある程度のところまで後退したセレリアは遠くから陽和がかけて来るのが見えた。
「ソル!」
『セレリア、怪我はなさそうだな』
「ふっ、この程度で私が傷を負うわけがないだろう」
『そう言うと思ってたよ』
彼女が傷ひとつ負っていない様子に陽和は一つ頷く。その声音には確かな信頼と僅かばかりの安堵があった。
分かっていたとはいえ、万が一のことを考えていたのだろう。怪我がない様子に陽和は内心で安堵していたのだ。
その内心を分かっていたのだろう。セレリアはくすりと微笑んだ。
「それで、早速やるのか?」
『ああ、準備はいいか?』
「問題ない。魔力も補充済みだ。まだまだ暴れられるぞ」
『OK。それならやるぞ』
「ああ」
背中合わせで並び立ち魔物を見据える二人。陽和が左手を、セレリアが右手を迫る魔物の大群へと向け構える。膨大な魔力を練り上げ高ぶらせながら高らかに宣言するが如く、魔法を唱えた。
「“魔氷凍河”ッ‼︎‼︎」
『“劫火浪”ッ‼︎‼︎』
刹那、放たれたのは紫氷の濁流と緋炎の津波だ。
全てを凍てつかせる雪崩の如く迫る氷河と全てを焼き尽くさんと津波の如く迫る大火。相反する属性の二種の津波は相剋を起こすことなく、魔物の大群へと共に迫り魔物達が逃げる間もなくあっという間に呑み込んだ。
半分が氷河に飲まれ魂の芯まで凍り尽くされ哀れな氷像となり、半分が大火に呑まれ跡形もなく焼き尽くされ灰となった。
長さ150m、横幅800m。放たれた津波は見事に魔物達の進路を塞ぎ巨大な壁として立ちはだかったのだ。
『セレリア‼︎』
「ああ!』
陽和の掛け声に応えセレリアが地面に手をつき魔力を込める。すると、二人の足元から氷の柱がせり上がり彼らを上空へと押し上げたのだ。
斜め前へと迫り上がった氷の柱は魔物の大群を見渡せるほどの高さまで伸びていく。そして、大群を一望した陽和は指示を出す。
『指示を出してるリーダー格とかは気にしなくていい。お前はとにかく魔物の数を減らせ。どうせ殲滅するのに変わりはないからな』
「了解した」
『清水の拿捕は俺がやる。あらかた片付けたら合流しよう。行くぞ』
そう言って二人は氷の柱を蹴り空へと飛び上がり、魔物の群れへと一気に降下する。
通せんぼされていた魔物達が、頭上に差した影に見上げれば二つの人影が空から降ってくる光景が映る。
そして、次の瞬間には、その人影がそれぞれ巨大な氷槌と炎の球体を携えており、それぞれ魔物の大群へと叩きつけた。
「“凍破轟槌”ッ‼︎」
『“炎天”ッ‼︎』
巨大な氷の戦鎚が魔物の大群に振り下ろされ、直撃した魔物を圧壊し、周囲の魔物達を地面を殴り砕いた余波で吹き飛ばしていく。
更には太陽と見紛うような巨大な炎の球体は着弾した瞬間、大爆発を起こし周囲の魔物を纏めて灰燼へと帰した。
『それじゃあ後でな』
「ああ、そっちは任せたぞ」
「ああ」
二人はそう短く交わすと重力魔法で落下方向を調整してそれぞれ別の場所へと降下する。
セレリアは先程の自身の戦鎚が炸裂した場所へと降り立った。
シュタっと軽い身のこなしで着地したセレリアに魔物達のほとんどがビクッと反応する。その様子はほとんどが恐怖に怯えている様子だった。
その様子にセレリアは牙を剥き出しにしながら笑う。
「私との力量差は理解しているが、ボスのせいで逃げ出せないでいるのか。哀れなことだな」
魔物達はほとんどが及び腰だ。しかし、洗脳されたリーダー格の魔物の命令のせいで逃げられず、攻撃するしかない状況にいるようだ。
だが、そんなことセレリアにとっては知ったことではない。
「わざわざ時間をかける必要もない。こっからは本気で行かせてもらうぞ」
そう言うとセレリアは全身から可視化するほどの紫色の魔力を吐き出しながら獣のように四つん這いになる。氷を纏う鋭利な鉤爪を構えた彼女は、グググッと全身に力を込めて、次の瞬間消えた。
いや、消えたと錯覚するほどの凄まじい速度で飛び出した彼女は、その勢いのまま爪牙を振るう。
一筋の紫色の閃光が駆け抜けた後、その場にいた魔物達は一瞬後にズルリとその身をずらして血と臓物を撒き散らしながら細切れになる。
一瞬にして数十体の魔物が惨殺されたことに、他の魔物たちが恐怖に青ざめる中、セレリアは牙を剥き出しにして吼えた。
「どうした貴様らぁっ!!そのように怯えていてはただ私に狩られるだけだぞっ!!生き残りたくば戦えっ!!出来なければ、ただ狩られるだけだぞっ!!」
単純な魔力の放射による暴風を放ちながら、セレリアは雄叫びをあげた。本能的恐怖を刻まれた魔物達はセレリアに完全に恐れをなしておりボスの命令が出ているのにも関わらず、誰も近寄ろうとしなかった。
それを見たセレリアが魔物達を屠ろうと鉤爪を構えた時だ、後方から高速接近する複数の気配をとらえた。セレリアは冷静に背後に鉤爪を振るい迎撃しようとする。
だが、
「グルァアアアアッッ」
「んっ?」
その新手、黒い体毛に四つの紅玉のような眼を持った狼型の魔物達は、それを予期していたかのように寸前で急停止してバックステップで見事にかわしてみせた。
普通ならば切り裂かるのがオチだ。少なくとも、この大群の魔物達ならばそれだけで終わると確信すらしていた。だが、新手の魔物達はセレリアの攻撃をかわして見せたのだ。それを成した魔物達を改めて見たセレリアは思わず目を見開いてしまう。
「お前達は……」
セレリアはその魔物達に見覚えがあった。
そう、それは自分が陽和と出会う前のこと、自身が未だ施設に囚われていた時兄達が作り上げた魔物達の中にあの黒狼の魔物もいたのだ。
それが意味することは、つまり。
「………兄さん達が動き始めたと言うことか」
いよいよ、本格的に人間族への侵攻を始めたということだ。何らかの目的があって清水に魔物を提供し、戦力増強の手助けをしたのだろう。
でなければ、いくら清水といえどたった一人で十万もの魔物を効率よく支配することはできない。十万もの魔物を短期間で集めれた理由を理解したセレリアはすぐに陽和にチョーカーの念話石を通して通信を繋いだ。
「ソル、私だ」
『セレリア?何があった?』
「今回の件だが魔人族が裏にいることがわかったぞ」
『なに?どう言うことだ?』
陽和の疑問にセレリアは自身を取り囲む15体の新手の魔物、四ツ目狼の動きに警戒しながら報告を続ける。
「今私の前にいる四ツ目の黒狼、それは兄さん達が作った魔物達だ。施設にいた時に見たのを覚えている」
『……なるほど。てことは、魔人族側から魔物の提供があったのか……だが、何故……』
「理由はわからない。とにかく、こいつらは奈落にいてもおかしくない強さだ。二尾狼と同程度といったところか」
セレリアは感じ取れる気配からして四ツ目狼の強さは奈落低層にいた電撃を使い、集団で狩りをする二尾狼と同程度だと推測した。
『分かった。あり得ないと思うが、気をつけろよ』
「そっちもな」
そう軽口を叩き合い通信を切ると、改めて四ツ目狼達に向き直る。四ツ目狼達は唸り声を上げながらセレリアの様子を伺っている。
「……さて、お前達の能力は何だったか、確かめさせてもらうぞ」
そう呟くとセレリアは自分から先手を仕掛けた。
「“氷爪刃”」
素早く腕を振るい氷の斬撃を放つ。この一撃にどのような対処をするかで能力に目星をつけるつもりだったのだ。だが、四ツ目狼達はかなり余裕を持ってー攻撃が来ることをわかっていたかのように回避したのだ。
セレリアが動き出したのに合わせて四ツ目狼達も動き、セレリアを背後から急襲する。完璧なタイミングでの急襲だったが彼女も獣の特性を得たことで獣の野生本能とも言うべき直感を獲得している。
彼女は足に魔力を集中させ身体強化を発動すると、地面を砕きながら飛び上がり回避する。
それを読んでいたのだろう。別の四ツ目狼が飛び上がってセレリアに噛みつこうと顎門を開いていた。このままいけばセレリアに一撃を見舞えるだろう。
もっとも、それが、誘導されたものでなければだが。
「ああ、そうだった。お前達の能力思い出したよ」
「ッッ⁉︎」
思い出したように呟いたセレリアは空中に飛び上がったまままるで落ちるように加速して四ツ目狼に急接近すると下顎と前右脚を掴んだ。そして、牙が並ぶ顎門を開くと四ツ目狼の喉元に噛みつき食い千切ったのだ。
血を噴きながらビクビクッと痙攣する四ツ目狼を空中で放り投げて着地すると、プッと肉片を吐き出して口についた血を拭うと不敵に笑う。
「お前達の能力は“先読”系統のものだったな。兄さん達がそんなことを話していたのを思い出した」
セレリアは過去の記憶を遡ってこの四ツ目狼の固有魔法が“先読”系統のものだったと思い出したのだ。
「もう能力もわかった。なら、あとは狩るのみだ。狼同士、白黒つけるか」
そう挑発的に言うと鉤爪を構えると、前へと駆け出して再び仕掛けた。今度は氷の斬撃を飛ばしつつ地面から氷の槍を生やし攻撃する。
しかし、それらは“先読”で回避され、上方と後方から息のあった波状攻撃を仕掛けてくる。セレリアは内心で見事な連携だと感心しながらも冷静に対処する。
一番に顎門を開いて飛び込んできた四ツ目狼をひらりとかわすと、軽く飛び上がり頭部を踏み潰す。下を向いたセレリアに上から飛び込んできた別の四ツ目狼の噛みつきをヴァナルガンドに噛み付かせることで防ぐと、瞬間的に顔面を凍らせて逃がさないようにして喉元に噛みつき再び食い千切った。
噴き出す鮮血を浴びる中、包囲しつつ攻撃を仕掛けてきた5体の四ツ目狼を見て、セレリアは獣以上に獰猛に笑うと小さく呟いた。
「———“崩陣”」
彼女が小さく呟いた直後、セレリアに噛みつこうとしていた四ツ目狼五体が急に空へと打ち上げられた。四ツ目狼は訳も分からず混乱している。
原理は実に単純だ。彼らは重力魔法によって重力を反転させられて空へと落ちたのである。
重力魔法“崩陣”。重力反転の魔法だ。
空へと打ち上げられ訳も分からず困惑している四ツ目狼達を見上げながらセレリアは右手をかざした。
「流石に重力への対処は先読でも出来ないようだな」
そう言うと打ち上げられた四ツ目狼達の周囲に氷の槍が無数に出現し、彼女が右手を閉じると同時に無数の氷槍が四ツ目狼達を串刺しにした。
氷槍に貫かれた四ツ目狼達は血飛沫を上げると、セレリアの周囲に崩れ落ちる。
「狩りの腕は私の方が上手だな。さぁ、どんどん行こうか」
魔物達の返り血に全身を濡らしたセレリアは牙を剥き出しに笑うと、残る魔物の殲滅に踏み出した。
▼△▼△▼△
『………魔人族側からの魔物の提供、か』
一方、セレリアから報告を受けた陽和は戦場を駆け回り魔物達を切り裂きながら小さく呟くと、頭の中で情報を整理していく。
『わざわざ清水に魔物を提供したと言うことは魔人族が介入するほどの何かがあると言うこと。なら、その何かってのは……』
そこまで呟いた時、陽和は目を大きく見開くと背後の壁へと勢いよく振り向く。正確にはその壁の奥にいる存在の方へと視線を向けてだ。
全てを理解した陽和が忌々しげに吐き捨てる。
『あぁくそっ、そういうことかっ‼︎』
これまで得てきた情報を全てまとめ精査した末に導き出した結論。この戦いの目的が何なのかに気づいたのだ。
『狙いは先生かっ‼︎』
全て繋がった。
この魔物の大群の侵攻目的は【ウルの町】の破壊などではない。その目的とは【ウルの町】にいる“豊穣の女神”畑山愛子の抹殺だ。
では、なぜ愛子を抹殺するのか。
それこそ明白だ。彼女が“作農師”の天職を持っているからだ。
戦争とは何も戦力だけで解決する問題ではない。戦力以外にも兵士の士気、周囲の環境、……そして、食糧事情。
愛子の天職はその食糧事情を一変してしまうほどの影響力を有している。影響力だけでいえば勇者よりも強力な存在だ。
魔人族はそんな彼女に目をつけており、どうにか殺害しようと目論んでいたのだろう。それで何らかの理由で清水に目をつけ接触した。結果どんな取引をしたのかは分からないが、清水は魔人族と契約をして強力な魔物を借りる代わりに、愛子の抹殺を目論んだ。恐らくはそんなところだろう。
『……成程。確かにそれならば今回の事件も辻褄が合うな。あの作農師の小娘が狙いならば、大規模な侵攻も頷ける』
『……多分、生徒を使ったのは偶然だろうね。偶然、彼の天職に目をつけて彼を利用した、ってところかな』
相棒達も陽和の推測に同意を示す。彼らの中では魔人族が清水の力に目をつけて、何かを言って彼に愛子の抹殺を仕向けたと言う結論に至った。
それを理解した陽和は苛立ちを隠さずに露骨に舌打ちをする。
『……チッ、よりにもよって先生に一番ダメージがある方法を使いやがって』
陽和はまだ見ぬ清水を利用した魔人族に怒りをあらわにする。その魔人族としては都合良く利用できていいとしか思っていないだろうが、生徒を大事にしている愛子にとって、生徒自身に自分を殺すよう仕向けるのは精神的なショックが計り知れないことだろう。
陽和としては狙ってやったことでないとはいえ、愛子に最もダメージがある方法を選んだ魔人族に怒りを露わにした。
そして、陽和は怒りをその瞳に宿して眼光を鋭くさせると、低い声音でヘスティアに声をかけた。
『ヘスティア、一つ頼みがある』
『?何だい、マスター』
『武器の形状を変えることはできるか?』
陽和はヘスティアにそう尋ねたのだ。そして、彼女が理由を問うよりも先に陽和は自らその理由を話し始める。
『今はもう悠長に時間をかける気はない。恐らくはどこかで魔人族が様子を窺っているだろう。あるいはこの戦闘に乗じて先生を暗殺しに来るかもしれない。だから、今からは速度を上げる必要がある。この長剣では明らかにオーバーキルだ。それならば双剣に形を変えて回転を上げていった方が時間短縮にも繋がる。だから、ヘスティア、武器の形状を双剣に変えることはできるか?』
ここからは時間勝負だ。一刻も早く愛子と合流する為に、ここでの戦闘は早急に終わらして清水を拿捕しなければならない。
その為には、もっと回転数が必要だ。この程度の魔物相手ならば長剣どころか短剣でも一撃で殺せる。それならば、単純に両手で別々の魔物を狩れば単純計算で2倍の効率になる。何とも短絡的と言えるかもしれないが、今は最速でこの事態を収束させることが最優先事項なのだ。
陽和の頼みにヘスティアは少し沈黙する。その沈黙を不可能と受け取ったのか、陽和はすかさず謝罪した。
『出来ないなら出来ないでいい。無理を言ってすまないな』
『……いいや、出来るよ』
『……出来るのか?』
陽和の謝罪を否定して可能だと言ったヘスティアに陽和は半信半疑の様子で尋ねる。ヘスティアはふふんと得意げにすると自信満々に言い放った。
『マスター、ボクを誰だと思ってるんだい?そんじょそこらの剣と一緒にしてもらっちゃ困るぜ。ボクは君の女神だ。それなら、マスターの頼みの一つや二つ応えられなきゃ意味がない』
『てことは……』
『ああ、やってみせようじゃないか。けど、それには君のイメージが必要だ。君が思い描く双剣のイメージをボクと共有してくれ』
『分かった』
そうして陽和は自身が思い描く双剣のイメージをヘスティアに伝える。魂の契約を成したことでイメージの共有ができるようになったことで、陽和のイメージはヘスティアへと確かに伝わった。
『うん、伝わったよ。早速やってみよう!』
そうヘスティアが意気込むと同時に龍聖剣が淡い翡翠の光に包まれる。鞘までもが翡翠に輝き、光の球体へと変わると、陽和の両手と左腰に球体が収束しやがて形を成した。
現れたのは片刃の剣身に根元に宝玉が埋め込まれている双剣の姿だった。鞘も双剣用に二つになっている。意匠は変わらず元の竜聖剣のおよそ半分ほどのサイズになった双剣に陽和は思わず笑みが溢れた。
『どうだい?マスター』
『ハハっ、最高だ。イメージ通りだ。しかも、よく手に馴染む』
『それはそうだ。竜聖剣は相棒のためにある剣。相棒と共に成長するのだからな。馴染んで当然だ』
そもそも竜聖剣は陽和の為に作られた剣だ。
そして使い手と共に成長するように作られたからこそ、使い手の手に馴染むのは当然のこと。
満足がいく出来栄えに陽和が剣を試し振りして喜ぶ中、ドライグは言った。
『さて、ここからは加速していくぞ。元より、そのために双剣へと変えたのだからな』
『ああ、早速行くぜ』
そうして双剣を構えた陽和は両足に魔力を込めると一言つぶやく。
『“火華”』
その言葉の直後、陽和が纏う両足の炎が勢いよく爆発し彼の体を一気に前へと押し出す。爆破のタイミングに合わせて強化した脚力で飛び出した彼は、そのまままさしく閃光となって視界に映る魔物達に襲いかかった。
そこからは圧倒なんて言葉が生ぬるいほどの猛攻。
減速するどころか、更に加速し続ける陽和は単純に攻撃回数が2倍になった事でこれまで以上の速度で周囲の魔物を切り裂き、焼き尽くしていく。
そして、約一分程経過し、魔物達を1000体近く屠った陽和の視界の端に魔物に向かって何やら喚いている人影を見つける。
地面から顔だけを出しているせいで、一瞬生首かと見間違えるが、その頭は動いていた。そして黒いローブで覆われていたことから、それが清水だと気づく。
清水は倒されていく魔物達に癇癪を起こす子供のように喚いており、陽和を指差して何かを叫んでいた。すると、群れの影に隠れて陽和の隙を窺っていた四つの赤い眼を持つ黒狼、セレリアから伝えられていた四ツ目狼が一斉に飛び出してきたのだ。その数、28体。他の魔物よりも格段に速い速度で疾駆してきた四ツ目狼達は見事な連携で陽和を取り囲み、波状攻撃を仕掛けてくる。だが、
『シィッッ‼︎‼︎』
それは陽和の短い呼気と共に振るわれた赤い軌跡を前にあえなく崩れ落ちる。赤い軌跡の線上にいた四ツ目狼達は全て例外なく切り裂かれており、直後その身を炎で焼かれる。
何体かは“先読”により回避の素振りを見せていたものの、陽和の剣速が彼らの反応速度を凌駕していたために回避が間に合わなかったのだ。
『あまり時間はかけたくないんでな。こいつで一掃しよう』
一瞬で半数の四ツ目狼を屠った陽和はそう呟くと、空高く飛び上がり右手を掲げながら詠唱を唱える。
『我が声に応じ顕現せよ。四方の東を守護せし、木を司りし青き霊獣よ。歳星の水雷をその身に宿し祓魔の叢雲となれ。蒼天に昇りて不浄を祓い給え。“青龍”‼︎‼︎』
陽和の頭上に立ち込めた暗雲からは青い稲妻がバチバチと迸り、水が渦を巻き収束する。
その直後、現れたのは青白い雷と青い激流で構成された巨大な青い龍だった。水雷纏う青龍の威容に清水や魔物達、果ては町の人々まで呆ける中、陽和は右腕を振り下ろした。
グォォガァァァァァ‼︎‼︎
雷鳴が如く激しい咆哮を轟かせながら青龍は主人の命に従い眼下の魔物を蹂躙すべくその身をくねらせる。
大口を開けた青白色の龍に魔物が吸い込まれ食われていき、運良く捕食から逃れられたとしてもその蛇のような長大な体から放たれる雷撃と水刃によってその身を焼かれ、斬られていく。
水・雷・重力複合魔法“青龍”。
水属性魔法の“氾禍浪”に雷属性魔法の“天灼”を複合させそれを重力魔法によって龍の形へと成形した複合魔法だ。
基本的な仕組みはユエの“雷龍”とほぼ同じ。違うことといえば、全身から雷撃と水刃を放つことだろう。これによって正面の敵だけでなく全方位の敵にも対応できるようになっている。
そして、青龍は戦場を自在に動き回り進路上だけでなくその周囲の魔物すら次々と屠っていく。青龍で大半の魔物は片付けられると判断した陽和は清水へと視線を向ける。
『あ、逃げようとしてやがる』
すると、タイミングよく最後の一体と思われる四ツ目狼に跨り逃亡を図る清水の姿を発見した。
だが、陽和がやすやすと逃すはずがない。
『逃すかよ』
陽和は重力魔法で清水目掛けて勢いよく落下しながら双剣を構える。
不穏な気配を感じた四ツ目狼がチラリと背後を振り返り陽和の存在を確認することはできたのだが、あまりの陽和の速さに回避が間に合わず胴体を切り裂かれ地面に崩れ落ちる。
その衝撃で清水は吹き飛び地面を転がった。あいにく身体能力は召喚組らしく高く、体を強く打ち付けつつもすぐさま起き上がった。そして、既に自分の目の前に陽和が立っているのに気づいた清水は激情に顔を歪ませて悪態をつく。
「くそっ!なんだよ!なんなんだよ!!何だよお前はぁっ!!」
『…………』
ヒステリックに叫ぶ清水に何も返さないまま陽和は無言で近づく。無言で近づく陽和に恐れをなした清水は後退りながらもひたすらに虚勢を張る。
「俺の計画は完璧だった!!なのに、お前が、お前達のせいで!!こんなことがあってたまるかよ!!」
『……………』
「本当なら俺が勇者になるはずだったのにっ!!お前のせいでっ全部パーだっ!!」
癇癪を起こしながらひたすらに陽和を罵り続ける清水。それにもううんざりしたのか、陽和は双剣を鞘に納めつつ冷徹な声音で言い放った。
『話は後で聞こう。今はもう眠れ』
「こ、この化け物ガペッ!?」
清水が何かを言い切る前に彼の顔面を掴んだ陽和はそのまま地面へと叩きつける。地面が軽くヒビが入るほどの力で叩きつけられた清水は、一瞬にして気絶してしまった。
『………清水』
陽和は気絶する清水を見下ろすと悲しげな声で彼の名を呼ぶ。彼は仮面の下で悲しそうな表情を浮かべると、拳を強く握りしめながら静かに問うた。
『………なぁ、何がお前を駆り立てたんだ。どうして、こんなことをしたんだ』
答えを求めない問いかけをした陽和は、清水の首根っこを掴むとそのまま担いでハジメ達の元へと歩いて行った。
魔物達は既にほとんどが殲滅されており、生き残った魔物達ももう逃げ出した後だった。
陽和は焼けこげた地面を踏みしめながら歩いていくと途中でセレリアと合流した。
「ソル」
『……セレリア……その格好は大丈夫なのか?』
陽和は一瞬セレリアの無事に安堵するものの、直後には血塗れの姿に表情を険しくしつつ彼女の無事を確かめるために近づいた。
セレリアは陽和の心配そうな声音に笑みを浮かべて返した。
「大丈夫だ。全部返り血だから気にするな」
『そうか。それなら、いいんだ。ただ流石にそれで戻ったらまずいだろう。せめてここで血を落としていけ』
「ああ、そうするよ」
そう返してセレリアは魔法で水を出すと豪快に頭から被り血糊を落とした。あらかた血を落とし終えたセレリアは着ていた上着を脱いで、水気を絞りだしながら陽和が担いでいる人物のことを尋ねた。
「………で、そいつが清水か?」
『そうだ』
セレリアに短く返した陽和はそのまま黙り込んでしまう。その様子に何か悟ったのか、セレリアが彼の顔を覗き込んだ。
「……陽和、大丈夫か?」
『怪我もないしな、問題はないぞ』
「いや、そうじゃなくて、どことなく辛そうに見えたんだ」
『……ッ‼︎』
セレリアの鋭い指摘に陽和は少し動揺してしまう。事実、陽和は清水の変わりようにショックを受けていたのだ。
どうせここで誤魔化したところで彼女には通用しない。だから、観念して己の胸の内を明かした。
『………正直、どうして清水がこんなことをしでかしたのかは分からない。あまり関わりはなかったが、ここまで狂気的な行動を起こすような奴じゃなかったと思う』
「………」
『勇者の天之河やハジメを虐めていた檜山達は別にどうでもいいが、他の皆のことは俺なりに心配していたんだ。だから、こんな事件を起こしたのは……正直、ショックだった』
「………陽和」
そう言って悲しげに目を伏せる陽和にセレリアまでも少し悲しげな表情を浮かべると、彼の片手に手を伸ばして優しく掴んだ。
「………それでも、きっと大丈夫だ。それにお前が尊敬する先生もいる。ちゃんと理由を聞いてあげればいいんじゃないのか?」
『…………そうだな。それしかないよな』
セレリアの言葉にそう頷く。
確かに愛子もいるため、彼女と一緒にしっかりと彼から事情を聞けばいい。
そうこれからのことを決めながら、陽和とセレリアはハジメ達が待つ城壁のところへと歩いて行った。
どうでしたか?
今作品では、原作とは違い陽和とセレリアが大群に飛び込んで魔物達を殲滅しました。それ以前の遠距離攻撃でも、陽和とセレリアの実力を際立たせるためハジメ達が原作通り遠距離攻撃をしているのに対して、近距離で五万の軍勢を食い止め蹂躙する展開にさせていただきました。
陽和達一行の中での強さの順番はと言うと、陽和がダントツでセレリアがハジメとほぼ互角、ユエ、ティオ、シアという順番ですね。
そして、今回出てきた“四神”モチーフは“青龍”さんです。属性は五行に倣って木属性ーつまり、風と雷の複合魔法にしました。
セレリアの戦闘シーンは彼女自身が狼の性質を変成魔法で移植されたことから、獣の力を宿していることを強調する為にああいった野性じみた戦い方にしたのですが……実際に想像すると、なかなかにエグいでしょうね。敵の喉元を食い違って返り血に塗れた姿で戦う姿ー戦士というよりはもはや獣同然ですね。