竜帝と魔王の異世界冒険譚   作:桐谷 アキト

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今回で3巻のウル編は終了です。そして、後書き的な展開なので短めですね。

あと、当作品とは関係ないことなのですが、『小説家になろう』というサイトでオリジナル小説の投稿を始めました。
タイトルは『雪月花のソード・ワルツ』です。下にリンク貼っておきますので、興味がありましたら是非読んでください。よろしくお願いします。
https://ncode.syosetu.com/n7986ic/

では、話を戻して、原作3巻ラストどうぞ!!



40話 生徒と教師

 

 

 

清水が敗北を認め、愛子と陽和の言葉を受け入れた後、陽和達はウルの町から少し離れた街道へと移動していた。

陽和達は町に長居することはせず、ウィルを連れフューレンに帰還しようとしているのだ。愛子達がついてきたのは見送りの為である。その中には清水もいる。ちなみに、愛子がいるのに教会の騎士達がいないのは、愛子に待機しろと命令されたからだ。

邪竜認定されている陽和を危険だとまだ考えているデビッド達は最初こそ万が一に備えて愛子の側を離れたくはないと渋ったものの、愛子の厳しい言葉にやむなく従い町の門の手前で待機し遠巻きに陽和達の様子を眺めていた。

町からは生き残ったことを喜ぶ住民達の喧騒が聞こえており、その喧騒を聞きながら愛子が名残惜しそうに呟く。

 

「もう行くんですね」

「ええ、依頼もありますし、あちらもウィルの帰還を心待ちにしているでしょうから」

 

ハジメが取り出したブリーゼを背に愛子と言葉を交わす陽和。彼は先程、脇腹を貫かれた際に服にも穴が空いてしまったので着替えている。今は白と赤のシャツに黒のズボン、赤の籠手、脚甲、肩当てを着用しており、その上には深紅色のケープを羽織っている。完全和装から西洋風の冒険者が着るような格好へと変わっていた。

面に関してはスペアの他にも別タイプの仮面を作っていた為、問題はなく、今は素顔をあらわにしている。

 

「そうですか。それなら、ご家族を安心させる為にも早く連れ帰ってあげないといけませんね。それと、今回は本当に助かりました。紅咲君がいなければ、きっと私は清水君の苦悩にも気づかず無惨に殺されていたでしょう」

「……そうかもしれませんね。でも、そうはならなかった。先生の言葉があったから清水を止めることができたと思いますよ」

「いえいえ、紅咲君のおかげです。君の言葉で私も気づかされたんですから。今回のことは全て君がいたから無事に解決できたんです」

 

陽和の言葉に対して愛子は自分ではなく貴方こそが事件を解決に導いたのだと称賛する。その称賛に陽和は気恥ずかしそうに笑った。

 

「俺はただ俺がそうしたかったからやっただけですよ」

「そうですか。なら、そういうことにしておきましょうか」

「ええ、そうしといてください」

 

陽和の照れ隠しに愛子はくすくすと笑いながらそう返す。そして、笑っていた陽和は少し表情を引き締めると、話題を変える。

 

「清水のことお願いします。勿論、清水だけでなく他の皆のことも」

「ええ、任せてください」

 

清水が降伏宣言をした後、その場で清水の処遇も決まった。出された沙汰は『愛子の監視下におき、彼女達と行動を共にすること』とこれまでとあまり変わらない措置だった。しかし、行動する際は必ず誰かの同伴が必要であり、何か不穏な動きを見せれば即捕縛し牢獄に送ると言う条件付きだが。

デビッド達ははじめこの選択に反発した。陽和達のおかげで被害はなかったものの、十万の魔物を洗脳支配した力は危険だと判断し、王都に連行した後に然るべき裁きを下すべきだと主張したのだ。

だが、彼らの要求を愛子は当然却下。陽和同様大事な生徒を守る為ならば行動を厭わない彼女は、不退転の意志をあらわにし清水を守ると宣言した。

生徒達の保護者は自分であり、彼にこんな凶行をやらせてしまったのは、自分の不甲斐なさが原因だ。

そして、清水に頼んだように、自分は彼の先生である為ここで彼を引き渡してまえば先程の言葉が嘘になると断固としてデビッド達の要求を拒否した。

 

陽和と一件での愛子の意志の強さを目の当たりにしていたデビッド達はしばらく首を捻り唸っていたが、やがて根負けし愛子の提案を受け入れた。ただし、彼の行動の同伴については自分達も交代で同伴すると条件をつけた。

生徒達と騎士達が一名ずつ清水に同伴すると言う提案に、愛子は生徒達がいるので下手なことはしないだろうと判断し、更に清水の意見も聞いた。清水は憑き物が落ちたような少し晴れ晴れとした表情を浮かべながら、

 

『………もう変なことをする気はない。でも、それで先生達が納得するなら、甘んじて受け入れる』

 

と、言ったのだ。その後、自身を救ってくれた愛子と陽和を見ながら更に、

 

『………他の奴らなら信じないけど、先生と紅咲の言葉なら信じようと思う』

 

と、二人への信頼を確かに言葉にしたのだ。これには愛子は「清水ぐぅ〜ん」と感激のあまり涙を流し、陽和は心底嬉しそうに声を上げて大笑いした。その二人に清水は若干頬を赤くして顔を逸らした。

それが彼の精一杯の照れ隠しなのは誰の目から見ても明白で、空気は自然と緩んでいた。

そして、清水の処遇が決まったのだが、あくまでこれは内輪の話。町の人達にどう説明するかと考えていたが、ここで陽和が一つ提案をした。

 

『魔人族に脅されてたってことにすればいいんじゃないか?』と。

 

陽和曰く、今回の一件は魔人族に脅され仕方なく大軍を造らされていたことにすること。しかし、これは実質的な被害が出ていなかったからであって。

町に被害が出ていればこの説明でも説得は難しいだろう。

そして、ウィルが同行していた冒険者の件だが、こちらも同様の理由にすることにした。ウィルはこの決定に多少の難色を示したものの、清水を説得する陽和達の姿を見ていたことで理解を示し、危険を承知で受けた冒険者が亡くなってしまったことも、大元を辿れば魔人族に唆されてしまったことが原因にあるので渋々了承した。

 

「それと、お前ら……」

 

陽和はそこで漸く愛子から視線を外して優花以外のクラスメイト達に視線を向けた。

昇達はやはり未だに気持ちの整理がついていないのか複雑な表情を浮かべていた。事情が事情であるために仕方ないかと思った陽和は自分から一歩近づく。

 

「色々と思うところはあると思う。園部からは俺がお前達を殺そうとし、世界を滅ぼそうとしていると話が伝わっていることを聞いた。きっととても不安にさせたことだろう。それに関しては本当にすまなかった」

 

そう言って頭を下げる。彼らが誰一人として疑われないようにと思って実行した作戦だったが、心までは慮ることができていなかったことを恥じたのだ。

頭を下げる陽和に昇達はなんて返したらいいか戸惑う中、淳史が恐る恐ると口を開いた。

 

「………確かに、突然クラスメイトが世界を滅ぼそうとしてるなんて言われて混乱してた。情けない話、ビビってた」

「……そうだろうな」

 

そう思われて仕方ない。むしろ当然のことだと少し表情を暗くさせてしまう。でも、それで終わりではなかった。拳を握りしめた淳史は意を決して更に続ける。

 

「……でも、山で俺たちを守ったり、先生や清水を庇ったり、清水を説得するお前の姿を見てると正直分からなくなった。なぁ、紅咲、お前は……実際何を考えてあんなことをしたんだ?」

「……………」

 

淳史の問いかけに無言になってしまう陽和。

ここで全てを話してしまうことだって出来る。それに騎士達も遠い場所にいるため、会話が聞かれることはないだろう。

話すタイミングとしては最適なはずだ。だが、

 

(………果たして、受け入れてくれるだろうか…)

 

彼らを冤罪から守る為に行なったことと言えばそれまで。しかし、そう言ったところで理解してもらえるかどうか。

そんな風に思い悩み答えられないでいる陽和に事情を知らない淳史達が不安げな表情を浮かべる中、一人助け舟を出すものがいた。

 

「私達を守るためよ」

 

優花だ。淳史達の視線が彼女に向けられる中、優花は陽和が行動を起こした理由を簡潔に話す。

 

「紅咲があの事件を引き起こしたのは、私達を守る為よ。私達の心が壊れないようにね」

「どういうこと?優花ちゃんは、知ってたの?」

 

妙子の問いかけに優花は静かに頷く。

 

「ええ、私と先生、後何人かはあの事件の真相を知ってるわ」

「な、なんで……」

「後で部屋でちゃんと話すわ。だから、今は紅咲は決して教会が言うような絶対悪じゃないってことを信じてあげて」

「私からもお願いします。事情はあとでちゃんと説明しますから」

 

優花だけでなく愛子もそう言う。その様子に淳史達は顔を見合わせる。その顔は明らかに戸惑いを隠せていなかった。

でも、

 

「…‥俺は信じるよ」

 

ぽつりとされど力強い言葉が響いた。

その声に全員が振り向くと、その視線の先には清水がいた。清水は一切に視線を向けられたことに一瞬驚きつつも答える。

 

「俺は、紅咲の言葉を信じるよ。それにさっき先生も言ってたけど、世界を滅ぼすとか危険なことを考えてる奴が、わざわざ人助けなんかしないだろ。…‥俺は、紅咲に救われたばかりだ。だから、信じる」

「清水、お前……」

 

清水の信頼に満ちた言葉に陽和は驚きを隠さず思わず彼の名を呼んでしまう。清水はそれに気づくと、気恥ずかしそうにぼそぼそと呟く。

 

「……ただ、恩人が誤解されたままなのは嫌なだけだ」

「……くくっ」

 

清水の言葉に陽和は笑いを堪えきれずに小さく笑ってしまう。そして、笑みを浮かべた陽和は改めて淳史達に向き直る。

 

「玉井、相川、宮崎、菅原。俺は、断じて世界を滅ぼす為にこの力を受け継いだんじゃない。俺は……託された約束を果たし、地球に帰る。その為に、赤竜帝の力を継承したんだ。そのことをどうか知っていてほしい」

 

そう言って頭を下げる。彼らの間には沈黙が広がる。ハジメ達が成り行きを見守る中、数秒の沈黙の後に淳史が口を開いた。

 

「うし、分かった。じゃあ、信じる」

「……は?」

 

あまりにもあっさりと信じたことに、陽和は拍子抜けてしまう。そんな彼に、淳史は少し口ごもりつつも答えた。

 

「いや、だってさ、先生や園部が信じてたみたいだし、俺らもお前の戦う姿は見てたから……もう疑わないよ。それに、正直、お前が俺らを裏切るとは思いたくなかったし……」

「玉井……」

「むしろ、お前が変わってなくて安心したよ。天之河なんて目じゃないほどに滅茶苦茶に強くなったお前が敵とか、もう詰んでるしな。ほんっと変わってなくて安心したわっ。な?」

 

張り詰めた緊張の糸をほぐすように安堵のため息交じりにそう言った淳史は昇達へと視線を向ける。視線を向けられた彼らは、安心し切った表情を浮かべて、頷いていた。

 

「だよなぁ。特にあの戦いを見た後だと、マジで味方のままで安心したわ」

「ねー。紅咲君が敵にいたらもう人類の滅び待ったなしだったよ」

「紅咲君が変わってなくてよかったわ。正直、あの邪竜認定は信じたくなかったのよ」

 

口々にそう呟く彼らに優花は笑みを浮かべ、愛子が目の端に涙を滲ませて穏やかに微笑む。

事情を説明するまでもなく、彼らは自分の目で判断して陽和を味方だと判断してくれたことに、心の底から安堵した。

そして、あっさりと信じられた陽和はというと彼らの様子にぽかんとしていたが、やがて、

 

「………ぷっ、くくっ、ふははっ、なんだよそれっ」

 

堪えきれないように吐き出して笑い声を上げてしまう。その笑い声に釣られて淳史達まで笑い、しばらく笑い声が続き漸く落ち着いた陽和が笑みを浮かべる。

 

「さてと、じゃあ、話したいことも話せたし、そろそろ行こうかな」

「そうね。そろそろ行ったほうがいいわ」

 

優花がちらりと後方の方を見ながら言う。遠くから見えるデビッド達は痺れを切らしているように見えたし、もしかしたら、住民達が来るかもしれないからだ。

 

「じゃあそろそろ……て、早いなお前ら」

 

住民達が押し寄せる前に早々に立ち去ろうと、ハジメ達に声をかけようとしたのだが、すでにハジメ達はブリーゼに乗り込んでいた。

 

「おい、早く乗らねぇと置いてくぞ」

 

ハジメは窓から呑気に顔を出しながら陽和を見下ろす。まぁ彼らとしてはずっと蚊帳の外なので暇だったのだろう。『早く行こうぜ』感が滲み出ていた。

『全く…』と肩を竦めて苦笑いを浮かべた陽和は、もう一度優花達に振り向く。

 

「じゃあ、そろそろ行くわ」

「ええ、気をつけてね。それと、雫のことちゃんと守ってあげなさいよ」

「ああ、分かってる」

「紅咲君、それに他の皆さんも、大丈夫だと思いますが、どうか気をつけてくださいね」

「ええ、ありがとうございます。先生」

 

優花と愛子と言葉を交わし、淳史達とも別れの挨拶を済ませた陽和は漸くブリーゼに乗り込もうとする。しかし、乗り込む直前に清水が彼を呼び止めた。

 

「なぁ、紅咲……聞いてもいいか?」

「ん?なんだ?清水」

 

乗り込もうとしていた陽和は清水へと向き直る。

陽和の問いかけに清水は真剣な表情を浮かべると、彼の話を聞いてからずっと胸の奥にあった疑問を口にした。

 

 

「あんたにとって『特別』って、『正義』って一体なんなんだ?」

「……………」

 

 

まっすぐな眼差しを向けられ、そう問われた陽和は、長い、長い沈黙の後に告げる。

 

 

 

 

「———さぁ。俺にもわかんねぇ」

 

 

 

 

「は?」

 

陽和の答えに清水だけでなく、話を聞いていた優花達までもが目を丸くする。そんな彼らに陽和は真剣な表情ではっきりと返した。

 

「俺もまだその答えは出せてないんだよ。俺にとっての『特別』とは、『正義』とは何か。それらについての答えはまだ出せてないんだ」

「あんたでも、出てないのか?」

「俺だってそこまでご立派な人間じゃないさ。これまで何度も迷って、悩んで、間違えてきた。だから、今すぐに答えを出すことはできねぇな」

「………そうか」

 

期待通りの答えが得られず心なしか肩を落とす清水に、陽和はくすりと微笑みを浮かべる。

 

「でも、それでいいと俺は思うぜ?『特別』や『正義』っては人の数だけ存在していて、唯一なんてものは存在しない。だからこそ、それらは追い求める価値がある」

 

陽和はニッと笑うと清水の肩に自分の拳をこつんとぶつける。

 

「どれだけ惨めでも、無様でもいい。迷って、悩んで、間違えて、それでも『一生』をかけて辿り着いた答えがお前だけの『特別』とか『正義』とかになると俺は思ってる。でも、そうだなぁ。強いて言うならば、『進み続ける』ことだな」

「進み、続ける?」

 

清水の困惑に陽和は頷く。

 

「ああ、どれだけ傷つき、絶望し、何度立ち止まろうとも前に進むことだけは止めるな。恐れずに、挫けずに、前に進み続けろ。そうすれば、いずれお前だけの答えに辿り着くだろうぜ」

 

そう告げる彼の意志は気高く、輝きは衰えず、その声音は力強かった。それを聞いていた優花や愛子、ハジメ達は彼らしいと笑う。

そして、清水はぽかんとしてたもののフッと表情を崩し、

 

「……そうかよ」

 

ただ一言そう返した。

そう返す彼の表情はとても晴れやかで、望んだ答えは得られなかったものの、それでも彼のこれから進む道に一筋の光明が差したのは確かだった。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

住民達の喧騒が未だに響く中、優花達は走り去るブリーゼを手を振って見送る。愛子達が大きく手を振って口々に感謝の言葉を口にする中、清水が隣にいる園部に小さい声で尋ねた。

 

「…………なぁ、園部」

「なに?」

 

手を振るのをやめた優花は清水の方に振り向く。清水は、走り去るブリーゼから視線を逸らさずに静かに告げた。

 

「俺でも、あいつみたいになれると思うか?」

 

これまでの彼では決して聞くことのないであろう言葉に、優花は少し目を見張ると、くすりと微笑を浮かべた。

 

「さぁね。それはあんた次第でしょ。あんたがこれからどう変わるかでなれるかもしれないわよ?」

「……ああ、そうだな」

 

現実的な言葉に清水は苦笑を浮かべる。

確かに彼のような人間を目指すのなら、これからの行いが重要になってくる。

そして、清水の表情からは諦めの色はなく、確かな決心が伺えた。その様子を見た優花は嬉しそうに息を吐くと一つ提案をする。

 

「そう思ってんなら、あんた私の特訓に付き合いなさい。私も強くなりたいしね」

「……乗った」

 

その提案に清水は一瞬驚くも、次の瞬間には笑みを浮かべて、優花の提案に賛同した。

優花は勝ち気な笑みを浮かべる。

 

「言ったわね。なら、ビシバシいくから覚悟しなさいよ」

「……上等だ」

 

優花の言葉に清水はやる気に満ちた表情でそう返した。

 

彼が不条理に心を歪め、周りが見えなくなり暴走することはもう二度とないことだろう。

一度は闇に染まり『悪』に堕ちたが、もう彼の心に闇はない。

 

彼の心には闇を照らし道を示す『灯火』が宿っていた。

 

それは、一人の『英雄』が胸に秘めていた破邪の灯火だ。その熱は『英雄』を通して多くの人の心にも伝わった。

雫や重吾、愛子や優花はその灯火の熱に当てられた者達だ。

 

そして、その熱は『英雄』に救われた清水幸利の心にも伝わっていた。

 

 

この日、清水幸利の心にも確かに、『灯火』が宿ったのだ。

 

 

その『灯火』を人々は『光』と呼び、『希望』と呼び、…………また『正義』と呼ぶのだろう。

 

 

少なくとも、一人の『英雄』の存在によって、一人の少年の心は確かに救われたのだ。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

【北の山脈地帯】を背にブリーゼが砂埃を開けながら南へと街道を疾走する。何年もの間、なんぜんなんまんという人々が踏み固めただけの道ではあるが、サスペンションのおかげで振動を最小限に抑えてフューレンへと向かって進んでいる。

もっとも、前の座席で窓を全開にして、ウサミミをパタパタと風に遊ばせているシアは、ブリーゼよりもシュタイフの方が好きらしく若干不満そうだ。彼女は、ウサミミが風を切る感触やハジメにギュッと抱きつきながら肩に顔を乗せる姿勢が好きらしい。

運転は当然ハジメで、その隣は定番のユエだ。後部座席には陽和、セレリア、ティオ、ウィルが座っている。

ブリーゼに揺られながら、後頭部で手を組んだ陽和が感慨混じりに呟く。

 

「はー、しっかし、ちょっとした捜索依頼がとんだ大事になったなぁ」

「だなぁ。まさか、十万の魔物を相手にするとは思わなかったぜ」

 

陽和の言葉にハジメが賛同する。元々はイルワが提案した交換条件でウィルの捜索に来ただけだったのだが、それがまさか恩師と再会したり、クラスメイトが操る十万の魔物と戦ったり、実はその時間に魔人族が関わっていたりなど、とにかく情報量が多かった。

しかしだ、

 

「何はともあれ、先生も守れたし清水も救えた。それに、ウィルも見つかったから結果としては上々だな」

 

今回は偶然に偶然が重なったものの、それでも当初の目的を達成できただけでなく、愛子が死なずにすみ、清水を更生させることができたのだから、依頼を受けた甲斐があるというものだ。

そして、名前が上がったウィルが苦笑いをしながら陽和に話しかけた。

 

「しかし、驚きました。まさか、ヴァーミリオン殿が赤竜帝の後継者だったなんて…」

 

ウィルもあの場にいたため陽和が教会で指名手配されている『邪竜の後継者』だということは把握している。しかし、邪竜ではなく、赤竜帝と言った辺り、陽和のことを気遣っているのは確かだった。

陽和は不敵に笑いながら、ウィルに尋ねる。

 

「俺のことを教会に報告するか?」

 

そんな彼の言葉にウィルは笑みを浮かべて首を横に張る。

 

「まさか。そんな事しませんよ。命の恩人を売るなんて、僕にはできません。あなた方には大きな借りがあるんですから」

「ならいい。報告しようものなら、口止めしないといけないからな」

「き、肝に銘じておきます」

 

陽和の冗談に聞こえない呟きにウィルは少し顔を青ざめる。ティオとの戦いや魔物の蹂躙劇を目の当たりにしている彼からすれば、陽和を敵に回すなど考えられない。それに彼らがいなければ自分は死んでいた。命の恩人である彼を売るなど到底できない話だった。

 

「ウィルのことはともかく、陽和は本当お人好しだよな。先生と清水を庇っただけでなく、清水の説得までしちまうとは……」

 

ハジメはバックミラー越しに陽和の顔を見ながらそう呟いた。その言葉に陽和は首を傾げる。

 

「?そんなにか?」

「自覚なしかよ」

 

ハジメは思わず呆れてしまう。それについては他の者達も同意らしく、

 

「……ん、ハル兄はお人好し」

「ですねぇ。とても優しいですよね」

「陽和ほどお人好しな人間は知らないな」

「妾でも主殿が優しい人間なのはわかるのぉ」

 

女性陣四名からも掛け値なしの賞賛が送られる。

 

『そうだな。相棒ほど心優しいやつはそうはいないだろう』

『だね。マスターは誰かを想える優しい人だよ』

 

更には相棒達までもが密かに賞賛してきた。

自分としてはそこまで大層なことをしていないと考えている陽和は、何ともいえない表情を浮かべる。

 

「んー、そんな大層なものか?別に大したことじゃないだろ」

「それを素で言えるのは、お前だからだ」

 

若干呆れ+ジト目でハジメにそう返された陽和は、わざとらしく肩をすくめる。その様子を見ていたウィルが何か納得がいったのか面白そうに笑う。

 

「なるほど。皆さんはヴァーミリオン殿のことをとても慕っているんですね。そして、ヴァーミリオン殿も皆さんのことをとても大事にされているんですね」

「手のかかる奴らばかりだけどな。特にハジメが」

 

ウィルの的を射た言葉にハジメ達が若干照れくさそうにしている中、頬杖をついて外の景色を眺めていた陽和が笑いながらそう言った。

それに異論を唱えたのは名指しされたハジメだ。

 

「おい、俺が特に手のかかる奴ってどういうことだ?」

「ブルックの町でお前がやらかしたことを思い返してみろ。このトラブルメーカーめ。お前のやらかしでこっちは胃痛に悩まされてんだぞ」

「……………ちょっと何言ってるか分からないな」

 

ジト目で告げられた言葉に露骨に目を逸らしたハジメはそう濁すと運転に集中するフリをする。

しかし、陽和の言葉に心当たりがあることは明白だった。陽和はため息混じりに呟く。

 

「ったく…‥お前ってやつは……頼むから、フューレンに戻っても問題起こすなよ?」

「いやいや、そう何度も起きねぇだろ。心配性だな、お前は」

「それ保証できねぇだろ。お前次町で問題起こしたら、その場で説教だからな」

「へーへー」

「おい聞けこら」

 

陽和の小言を適当に相槌を打って聞き流すハジメ。

そんな二人の様子にティオは服の袖で口元を隠しながらくすくすと笑う。

 

「ふふ、二人はまるで兄弟のようじゃな。主殿がしっかりものの兄で、ハジメが少々生意気な弟って言ったところかの?」

「あ、それは同意ですぅ。なんかそんな感じしてますよね」

「まぁ実際お互い兄や弟のように思ってるからな。その言い方はあながち間違いではない」

「……ん、微笑ましい」

「仲良いですね」

 

ティオだけでなくセレリア達までもが二人の様子に笑みを浮かべ、車内には笑い声が響いた。

 

こうして、新たな仲間。竜人族のティオを仲間に加えた陽和達一行は、フューレンへと向かった。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

陽和達が去って三日経ったウルの町。

 

荒れた大地の整備やおびただしい数の魔物の死体処理など頭の痛い問題は多々あるが、それでも町も人も無傷という、起きた事態に対してまさに奇跡としか言い様のない結果。

その吉報は、直ちに避難した住民達や周辺の町、王都にも伝えられた。戻ってきた住人達は再会した家族や恋人、友人達と抱きしめ合い、互いの無事を喜び合っておりウルの町は数日間さながらお祭りのような喧騒に包まれていた。

 

町の周囲には陽和達が残していった防壁がそのまま残っており、戦いの一部始終を見届けた者達は、いかに常識を超えた戦いだったのかを身振り手振りで、防壁から荒れた大地に視線をやりながら神話の語り部のごとく語って聞かせた。

避難していた人達、特に子供達はそんな彼等の話に目をキラキラさせている。抜け目のない商人達は、既にハジメが作った防壁をウルの町の新たな名物として一儲けする算段を付けるという強かさを見せた。

 

そして、町の人々は、陽和達のことを『豊穣の女神』が遣わした御使いだと信じており、ハジメの防壁は『女神の盾』と名付けられ敬った。

 

また、パーティーの中心である赤髪の青年陽和と白髪眼帯の少年ハジメは、二人合わせて『女神の双剣』と呼び、陽和は開幕の凄まじい一撃のインパクトが強すぎたからか『紅の英雄』という新たな二つ名も付けられ、ハジメは『女神の騎士』と呼ばれ敬われた。

それを聞いたデビッド達本当の護衛騎士達が、ハジメと愛子の口付けを思い出しながら「やっぱり、アイツは気に入らない!!」と荒れ狂ったり、陽和に対して複雑な心境を抱いているのは別の話。後に、自分達の二つ名を聞いて陽和が笑い、ハジメが身悶えるのも別の話だ。

 

多少の誤算はあったものの、陽和の思惑通り、愛子の名声と人望は鰻登りだった。

町を歩けば、全ての人間の視線が集まっているのではというほどの集中砲火を受け、中には「ありがたや~」と拝み始める人までいる。この町で、確かに目に見える形で人々を救った愛子は、正しく『女神』だった。その噂は、既に周辺へと伝播を始めている。少なくとも、ウルの町では既に教会の司教よりも愛子の言葉の方が重みを持っている程だ。

 

「やっぱり先生の魔法は凄いですよね。あんなに荒れてた大地もどんどん浄化されていって……あと一週間もあれば元に戻りそうですね」

「そうですね。町の人達も無事ですし、被害がゼロで本当によかったです」

 

魔物の死体で溢れている土地の浄化と開墾に尽力している愛子と優花がそう話していた。

愛子がちらりと視線を横に向けて見れば、そこには住民の男達や昇達と共に魔物の死体の撤去作業を行なっていた。しかも、ただ清水自身が手伝うだけではなく、大型の魔物を数体洗脳使役し、数人がかりで運ぶような大型の魔物の撤去も並行して行なっていたのだ。

 

最初こそ、町の中に魔物達がいることで住民達は怯えていたものの、清水が魔人族に脅されていたことや清水自身が率先して撤去作業に貢献していたことから、清水に対する意識は今や哀れみから感謝へと変わっており、彼が使役する魔物なら大丈夫だと判断するようになったのだ。

これまで勇者である光輝に向けられていたような感謝の言葉を、今度は自分自身に向けられていたことに、まだ慣れないのか気恥ずかしそうに顔を赤らめていたりする。その姿を見て愛子は心の底から良かったと思いつつ、今回の事件を解決に導いてくれた教え子のことを思い出す。

 

(本当に……紅咲君には感謝しかありませんね)

 

彼がいなければこの結果にはならなかった。

陽和は謙遜していたものの、愛子は彼の行動があったからこそ、町は救われ清水も改心することができたのだから。

 

(紅咲君は更に立派になりましたね。以前から、しっかりしている子でしたが、赤竜帝の一件から更に成長したみたいですね。私も見習わなければ)

 

愛子は密かにだが陽和を一人の人間として尊敬している。このトータスに来る前は愛子にとって陽和は頼りになる心優しい生徒という印象があった。

ハジメと親しくする姿は当然のこと、日々他の生徒達に頼りにされたりと、彼は多くの人々に頼られていた。だからこそ、陽和が一方的な『悪』にされた時も、愛子だけは彼の優しさを信じてずっと彼の味方でいた。しかし、その努力も虚しく陽和は悪者にされてしまった。

生徒を守るべきであるはずの教師が、事実を捻じ曲げ一人の心優しい生徒を悪者に仕立て上げたことに、守れなかったと己を責めた彼女は、態々彼の家を訪問して土下座して謝罪したほどだ。

 

だが、彼は愛子を責めなかった。

彼の家族も誰一人として愛子を責めることはなく、むしろこうして非を認めて頭を下げてきてくれたことに感謝していたほどだった。

 

その時からだ。彼の心の強さを人知れず尊敬するようになったのは。そして、その尊敬の念を一層強くしたのが、あの邪竜騒動の時だ。

自身が一番辛い状況であるはずなのに、他の生徒達のことを気にかけ彼らの心を慮りなるべく被害が及ばないように自ら自分を『悪』に貶めた。

生徒達の為に悪評をも背負い、守り通そうとするその行動は、本来ならば彼らの保護者であり、教師でもある自分こそしなければならなかったものだ。

なのに、自分は生徒の危機に何もできず、ただ守られるだけだった。自分のことを信頼し真実を手紙に残し、生徒達を託されたのは嬉しかったが、それまで何もできなかった自分をただただ恥じた。

 

そうして彼に恥じないような先生であろうと、日々を頑張っていた時、彼と再会した。

最初はハジメの生存のインパクトが大きかったことや変装していた為気づかなかったというのもあり、ハジメ達が去った後の会話でようやく気付いた。

そして、その時の彼との会話で理解した。

 

彼は、日本にいた時と変わらず、この世界でも誰かの為に行動し、その優しさで誰かを助けているのだと。

 

それから彼が世界を救う為に戦うことを決意したことや、ウィルに生きろと言ったこと。赤竜帝としての戦いぶり、十万の魔物との戦い。自分や清水を庇って腹を貫かれたこと、清水を説得して改心させたこと。

彼がこの町に来てからの様々な事柄を振り返ってみても、彼は自分なんかよりよっぽど人間として立派だった。大人であるはずの愛子よりも大人であり、愛子はそんな彼のあり方を一人の人間として見習わなければと思ったほどだ。

 

(そういえば、命の恩人といえば紅咲君だけでなく彼も……)

 

身を挺して自分達を庇った陽和と同じ命の恩人であるハジメを思い浮かべる愛子は今の今まで記憶の隅に封印していた救われた方法を思い出した。

そう。毒に蝕まれ死にかけた所を、ハジメの神水の口移しによって救われたのを。

 

(あ、あれは人工呼吸!救命措置!それ以外の何ものでもありません!べ、別にあんな激しいの初めてとか、まして気持ちよかった何て思ってません!ええ、断じて思ってなどいませんよ!)

 

突然、赤面したかと思ったら、いきなり頭を抱え始めた愛子は誰にともなく言い訳を繰り返す。

とはいえ、愛子とて大人。恋愛経験が皆無というわけではない。だが、しかし、見た目や言動の愛らしさに反して本気の恋愛とは縁が極めて薄いというのが実情だったりする。

なぜなら、日本には見た目十代前半の少女である愛子に本気になるのは大抵『〇〇紳士』だけだからだ。愛子の中身を知って、いいなぁと思う男は多くいるが、だれも不名誉さ爆発の『ロ◯◯◯』というレッテルを貼られたくないので、大抵いい友達で終わる。

 

この世界では、十代前半で嫁ぐのは珍しくもなんともないらしく、愛子の童顔低身長という少女の見た目でも気にする者はいない。

故にデビッド達は本気なのだが……恋愛経験の少なさと、自分のようなチンチクリンに興味を持つ男なんていないと割り切ってしまっているため異世界の男性陣から送られるラブコールにも一切気がつかないのだ。そのほかにも今は生徒達のために行動したいという思いが更にフィルターをかけてしまっていた。

 

というわけで、ハジメのなした救命措置という名の口付けは、愛子にとってかなり衝撃的だった。心が落ち着いて、一度思い出してしまうと脳裏にこびりついて離れないくらいに。

 

(……大体、彼にはユエさんとシアさんという恋人が……二人もいるなら今更一人増えたところでって私は一体何を言っているの!私は教師!彼は生徒!ってそもそもそういう問題じゃない!別に、私は何とも思ってませんし!それに何故か普通に受け入れてましたけど二股ですよ!不純異性交遊は禁止です!不誠実です!恋愛は紅咲君や八重樫さんのように一途であるべきです!……二人いっぺんに何て……ッハレンチな!そんなふしだらな関係は許しません!ええ、許しませんとも!)

 

頭を抱える動作に加え、首を激しく横に振る行動まで加わる。。

 

(……しかし、ユエさんは彼にとってかなり特別な感じでしたね。私とあまり体型もスタイルも変わらないのに……ひょっとして彼は、こ、小柄な女性が好みなのでしょうか?た、例えば、わ、私みたいな?いやいやいや、何を言ってるの私ぃ!彼の好みを知ってどうするの!大体、彼は八つも年下だし……そう言えば、ユエさんは吸血鬼族でかなり長く生きているんでしたっけ?つまり、彼は小柄で年上の女性好き?それなら私もワンチャン…ってだからそんな事考えてどうするの!正気に戻るのよ畑山愛子!あなたは教師!彼は生徒!ちょっとキスされたくらいで、狼狽えるなんて教師失格です!)

 

頭を抱えたかと思えば、顔を両手で押さえてイヤイヤをし始め、また頭を抱え、またイヤイヤをし、最終的には「私は教師ぃー!」と叫びながら大出力の浄化魔法を連発する愛子の様子に、住民達は感心していたが生徒達やデビッド達騎士達はちょっと引いており、唯一優花だけが何かを察知し、「え、先生、まさか……」と戦慄していた。

 

 





というわけで、愛子は原作通りにハジメハーレムに加わることになりました。
なぜ、陽和ハーレムに入らないかというと、陽和と愛子はお互いに純粋に尊敬しており、恋愛感情なんてかけらも抱いていないからです。学校にいた時の様子でも愛子は彼は心が強いと評価しており、彼には何度も手伝ってもらったことがあるので、愛子は陽和に対しては純粋な尊敬と感謝しかないのです。
そして、原作ではハジメの口移しでの神水がきっかけとなり、学校にいた頃と現在のハジメを比較し、変わってはいても根底の良いところはちゃんと残っていることを理解した上で、ユエやシアの様子を見て自分にもチャンスがあるのではと意識し始めてましたので、こちらの愛子もハジメの口移しがきっかけで彼のことを意識し始めたということにさせていただきました。

そして、今回で3巻は終了し、次回からはいよいよ4巻。原作では香織が合流する展開でしたが、こちらでは待ちに待った恋人との再会イベントです!!とはいえ、その前に貴重な出会いがあるのでそちらを終えてから、ですね。



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