竜帝と魔王の異世界冒険譚   作:桐谷 アキト

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41話 フューレン帰還

 

 

 

【中立商業都市フューレン】

 

あらゆる物と人と思惑が入り混じる世界最大の商業都市は、愛も変わらず盛大な活気で満ち満ちており、都市の周囲を丸ごと囲む高く巨大な壁の向こうからは、相当な距離を隔ててもなお、都市内の喧騒が聞こえてくるほどだ。

 

門前にできた、名物と言っても過言ではない入場検査待ちの長蛇の列。その列に並んでいる観光客や商人、冒険者達は、その喧騒を耳にしながら、気だるそうに、あるいは苛ついたように順番を待っている。

 

そんな入場検査待ちの人々の最後尾に、実にチャライ感じの男が、これまた派手な女二人を両脇に侍らせて気怠そうにしながら順番待ちに不満をタラタラと垂れ流していた。取り敢えず何か難しい言葉とか使っとけば賢く見えるだろ、という浅はかさを感じさせる雰囲気で、順番待ちの改善方法わ【フューレン】の行政官達の無能ぶりをペラペラと頭の悪さを浮き彫りにしつつ語っている姿に、周囲の商人達が吹き出しそうになりつつ堪えているのだが、チャラ男達はそれに気付いていないようだ。

 

と、そんな時、チャラ男の耳に聞き慣れない音が聞こえ始めた。まるで蒸気を噴き出すようなキィィィィッという甲高い音だ。

最初こそ無視していたものの、前方の商人達や女二人が目を丸くして自分の背後を見ていることと、次第に大きくなる音に男は「なんだよ!」と文句を垂れつつ背後の街道を振り返った。

そして、見たこともない黒い箱型の物体が猛烈な勢いで砂埃を巻き上げながら街道を爆走してくる光景を目撃して、「おへぇ⁉︎」と奇妙な声を上げながらギョッと目を剥く。

俄かに騒がしくなる人々は、魔物かと逃げ出そうとするが、ソレの速度は彼らの予想を軽く超えるほどであり、あっという間にすぐそこまで迫っていた。

チャラ男が硬直し、列に並ぶ人々が絶望する中、爆走する黒い物体は、行列の前でギャリギャリと尻を振りながら半回転し砂埃を盛大に巻き上げて急停止した。

 

その停止した黒い物体ー魔力駆動四輪“ブリーゼ”を人々が凝視し混乱する中、そのドアが開いた。

 

「相変わらず、うんざりしちまう行列だなぁ」

「………ん。仕方ない」

 

周りのことなど知ったことじゃないと、現れたのはハジメとユエだ。続いて、現れたのは、

 

「おい、もう少し安全運転を心がけろ。もう少しで行列にぶつかるとこだったぞ」

「確かにな。あそこの男なんか硬まってるぞ」

「ですねぇ。もう少し手前でとまってもよかったんじゃないですか?」

「ふむ、何とも奇怪な乗り物じゃな。これが、主殿達の世界では当たり前にあるのじゃろう?驚きじゃな」

「え、ええ、文明の差がすごいですね……」

 

ハジメの運転に悪態をつく陽和と相槌を打つセレリアとシア。車の存在に驚いているティオとウィルだった。

ちなみに、陽和は人前に出ているので、仮面を着用している。今つけているのは目元に切り込みがあり、赤い炎の紋様が刻まれている白い面だ。

行列の人々の注目に対し、「お騒がせしてすまない」と頭を下げて謝罪する陽和とウィルだったが、人々の視線が自分に向いていないことにすぐに気付いた。

人々の注目の対象は、視線の先で背伸びをし体をほぐしている美女・美少女達らしい。

未知の物体も、そこから人が出てきたことも、既にどうでもいいらしく、セレリア達の動きばかりに目が釘付けになっており、動くたびに、「ほぅ」と感心の声やらうっとりとした溜息やらがそこかしこから漏れ聞こえた。

 

ハジメはブリーゼのボンネットに腰掛けながら、凝った体をほぐす。ブリーゼは、魔力を操作することで直接駆動系統を動かしているので、運転席に座らずとも動かせるのだ。もちろん、操作難易度は上がるが、車体をベンチがわりにしつつトロトロと移動させるくらいは問題ない。

ハジメが肩の凝りをほぐすように首をコキコキしていると、ユエがその背後に周り肩を揉み始め、そんな二人を見て寂しくなったシアがウサミミをへにょ〜としながらハジメの傍に寄り添うように座り込んだ。

早速のんびりし始めた3人をよそに、陽和もまた背中や首の凝りを解しているとウィルが尋ねた。

 

「あの、ヴァーミリオン殿。四輪で乗り付けてよかったのですか?できる限り隠すつもりだったのでは……」

『もう、今更だしなぁ。あんだけ暴れた以上、どうせ情報は拡散される。いつか来ると思ってた日が少し早まっただけのことだろう。……まぁ俺としてはもう少し自重して欲しかったんだがなぁ……はぁ』

 

ウルの町で大暴れした以上、アーティファクトのことについては拡散されるだろう。それならばもう隠さずに人目を気にせずに使っていこうということなのだが、陽和としては行列から少し離れた場所で仕舞えばそんなに騒ぎになることはなかったのになぁと呆れていたりする。

 

「え、えーと、確かにその通りですね。その、どんまいです」

「……ハジメの奴一度見られたからって、自重しなくなったな。ソルの胃が心配だ」

「主殿のこれまでの苦労が伺えるのぉ。災難じゃな」

『まったくだよ』

 

既にイチャイチャな空気を作っているハジメ達をジト目で見てキリキリと若干痛む胃を押さえながら諦めたようにため息をつく陽和にウィル達が慰めの言葉をかける。

そんな彼らの様子に、未知の物体&超美少女&美女の登場という衝撃から立ち直った人々は、今度は様々な感情を織り交ぜて注目し始める。

女性陣は、セレリア達の美貌に嫉妬すら浮かばないのか熱いため息を吐き、見惚れる者が大半。その一方で、男達はセレリア達に見惚れる者、陽和やハジメに嫉妬と殺意を向ける者、そしてハジメのアーティファクトやセレリア達に商品的価値を見出して舌舐めずりする者に別れた。

しかし、話しかけることはせず、タイミングを伺い他を牽制し合っている。そんな中、例のチャラ男が自分の侍らせている女二人とユエ達とを見比べて悔しそうな表情を浮かべてあからさまな舌打ちをして、早速暴挙へと出たのだ。

 

「やぁ、君達。よかったら、俺とお茶でもしない?」

 

と、チャラ男はセレリアとティオにズカズカと近づくと陽和を無視して実に気安い感じでセレリア達に声をかけたのだ。だが、それで終わらずにチャラ男はセレリアの頬に、いきなり手を触れようとしてのだ。

見た目こそチャラいものの、ルックス自体は普通にイケメンの部類だ。それ故に、口説けば必ず堕ちるとでも思っているのか、セレリアが冷たい視線を向けているのに自信ありげに触れようとしたのだが、

 

『おい』

 

その手は陽和によって止められる。チャラ男の手を払った陽和はセレリアの肩を抱き自分の方へと寄せながらはっきりと言った。

 

『こいつはお前程度が触れていいような安い女じゃないんだよ。分かったら失せろ』

「ひっ」

 

自分よりも高い視点から見下ろされ低い声音で告げられた男は、仮面の奥から覗く眼光に竦み情けない悲鳴を漏らす。

だが、それにプライドでも刺激されたのか、チャラ男は陽和を下から上まで見ると勝ち気な笑みを浮かべ、

 

「ふ、ふんっ、顔を隠してるお前に言われてもなぁ。どうせその仮面の下には醜い顔面があるんだろう?顔で僕に勝てないからって、ムキになるなよ」

 

と、得意げな様子で陽和を侮辱したのだ。

別に陽和のルックスは醜いわけではない。むしろ、目の前のチャラ男よりもレベルは遥かに上だ。

突然の言葉に陽和は『何を言ってんだこいつ』と若干呆れていたが、陽和に抱き寄せられ頬を赤くしていたセレリアの表情がスンと一気に険しくなる。

一気に険しくなり殺気をピリつかせたセレリアに、ハジメ達が『あーあ、あいつ終わったな』と思う中、セレリアが口を開く。

 

「おい、貴様、私の前で彼を侮辱するとはいい度胸だな」

「ん?なんだい?どうせ事じっへぶぅっ⁉︎」

 

チャラ男は最後まで言い切ることができなかった。顔面にセレリアの拳が突き刺さり、ペキャと乾いた音が響くと勢いよく宙に飛び見事な放物線を描き、10メートルほど先の地面にベシャと音を立てて落ちた。

ピクリとも動かないチャラ男が地面に横たわる。露わになっている顔面は、鼻が見事に折れて歯も数本折れている。実に無様で哀れな姿になったが、侍っていた女二人含めて誰も介抱することはなく遠巻きに見ており、唖然とした様子でセレリア達へと視線を転じる。

セレリアは絶対零度の眼差しをチャラ男に向けており、最後に冷たく言い放った。

 

「貴様程度の醜男が彼を見下すなど烏滸がましいな。貴様など全てにおいてソルの足元にも及ばない」

 

冷たい眼差しでそう言い放ったセレリアは、早々に男から視線を外すと陽和の胸元にスリスリと頬を寄せる。彼女の尻尾はまるで喜びを表現するようにブンブンと揺れており、彼女が心底陽和に惚れ込んでいるのだと誰もが気付いた。

陽和はやれやれと息をついて彼女の頭を撫で、ハジメ達は『仲睦まじいことで』とか『よく言った』と言った感じの眼差しをむけていた。

 

『……そこまで怒らなくてもよかったんじゃないか?』

「何を言う。惚れた男を侮辱されたんだ。怒らないわけがないだろう」

『まぁ、あいつうざかったしあれぐらいならいいか。ありがとうな』

「ああ!」

「ふぅむ、伴侶がいると言ったがしっかりと大切にしておるみたいじゃのぅ、主殿よ」

『……まぁ、な』

 

セレリアはチャラ男の手から庇ってくれたことに喜びを露わにしていた。実際、セレリアの許可なく軽々しく触れようとしたチャラ男には、陽和が彼女自身を大切に思っていたが故に許すわけがない。その後も、自分の顔を侮辱したことに関しては、別になんとも思っていなかったが、セレリアが怒ってくれたことには素直に嬉しかった。

ティオはなんだかんだ言ってセレリアを大切にしている陽和に微笑ましい眼差しをむけている。他の者達も二人の絆に生暖かい視線を向けており、彼を中心にほんわかな空間が広がる。

 

その時だ。前方から簡易の鎧を着て馬に乗った男が3人、おそらくは門番だろう。近くの商人達に事情聴取をしながら、近づいてきていた。

商人の一人が陽和達を指さし、次いでチャラ男を指差す。門番の一人が、仲間に指示を出してチャラ男の方へと向かわせて、残った二人が外野から見ればイチャついているようにしか見えない陽和とセレリアの元へと近づいてきた。

男二人は、嫉妬的な意味で目つきを若干険しくし高圧的に話しかけてくる。

 

「おい、お前!この騒ぎはなんだ!それにその黒い箱?もなんなのか説明しろ!」

 

視線がセレリア達女性陣にちらちらと向いていたため迫力は皆無だったが、陽和は苦笑いを浮かべながら丁寧に応じた。

 

『お騒がせしてすみません。この物体は我々の移動用のアーティファクトです。移動用ですので、武装などは特に積んでおりません。ご安心ください』

 

そう言うと、陽和はセレリアの頭を撫でながら門番の一人が駆け寄ったチャラ男へと視線を向ける。

 

『それで、あの男についてですが……私の連れに手を出そうとした為止めたのですが、男が私を侮辱したことに連れが怒ってくれて殴り飛ばしただけです。その辺りは周囲の皆さんも見ているはずですよ』

 

そう言われ門番が周囲を見回せば、誰もが一糸乱れぬ動きで冷や汗を流しながら頷いていた。

周囲の様子から陽和の言い分が正しいことを把握する。しかも、それに加えてあっさりと捨てられた女達が怒り心頭のままにチャラ男を侮辱し有る事無い事を言っていた為、門番達はあっさりと納得すると「そいつは災難だったな」と言ってくれた。

 

そして、門番の一人に取り調べのために詰め所にチャラ男を連行させた後、門番の一人が陽和を見て何かに気づくと、隣の門番に小声で何かを確認し始めた。相手の門番が同じように「そういえば」と陽和達をまじまじと見つめており、恐る恐ると尋ねてきた。

 

「……き、君はソルレウス・ヴァーミリオンという名前で合ってるか?」

『ん?ええ、はい。私がそうですが……あぁ、もしかしてイルワ支部長から?』

「あ、ああ、ギルド支部長から通達は受けていたから、すぐに通そう」

 

どうやらイルワから話を通されているのか順番待ちを飛ばして入場させてくれるようだ。

陽和は、ハジメにブリーゼを走らせながら門番の後をついていく。列に並ぶ人々の好奇や羨望、嫉妬の、視線を尻目に悠々と進みながら陽和達は再び【フューレン】へと足を踏み入れた。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

【フューレン】に入ってすぐ、陽和達は冒険者ギルドにある応接室に通されていた。

 

差し出された如何にも高級そうなお茶と茶菓子をバリボリ、ゴクゴクと遠慮なく貪りながら(主にハジメ、ユエ、シアが)待つこと五分。部屋の扉を蹴破らん勢いで開け放ち飛び込んできたのは、陽和達にウィル救出の依頼をしたイルワ・チャングだ。

 

「ウィル!無事かい!?怪我はないかい!?」

 

以前の落ち着いた雰囲気などかなぐり捨てて、視界にウィルを収めると挨拶もなく安否を確認するイルワ。それだけ心配だったのだろう。

 

「イルワさん……すみません。私が無理を言ったせいで、色々迷惑を……」

「……何を言うんだ……私の方こそ、危険な依頼を紹介してしまった……本当によく無事で……ウィルに何かあったらグレイルやサリアに合わせる顔がなくなるところだよ……二人も随分心配していた。早く顔を見せて安心させてあげるといい。君の無事は既に連絡してある。数日前からフューレンに来ているんだ」

「父上とママが……わかりました。直ぐに会いに行きます」

 

イルワは、ウィルに両親が滞在している場所を伝えると会いに行くよう促す。ウィルは、イルワに改めて捜索に骨を折ってもらったことを感謝し、ついで、陽和達に改めて挨拶に行くと約束して部屋を出て行った。

ウィルが出て行った後、改めてイルワと陽和が向き合う。イルワは、穏やかな表情で微笑むと、深々と陽和に頭を下げた。

 

「ヴァーミリオン君、今回は本当にありがとう。まさか、本当にウィルを生きて連れ戻してくれるとは思わなかった。感謝してもしきれないよ」

『いえいえ、生き残っていたのはウィルの運が良かったからですよ』

「ふふ、そうかな?確かに、それもあるだろうが……何万もの魔物の群れから守りきってくれたのは事実だろう?紅の英雄様に女神の騎士様?」

『ああ、そんなふうに呼ばれてるんですか。しかし、情報が回るのが早い。流石はギルドの幹部といったところですかな?』

 

にこやかに笑いながら、陽和とハジメが大群との戦闘前にした演説の内容から文字った二つ名を呼ぶイルワ。陽和が何気なく呟き、ハジメの頬が引き攣る。どうやら、ギルド支部長には、陽和達の移動手段より早い情報伝達方法があるようだ。

 

「ご明察だよ。ギルドの最上級幹部専用の長距離連絡用のアーティファクトがあるんだ。私の部下が君達に付いていたんだよ。といっても、あのとんでもない移動型アーティファクトのせいで常に後手に回っていたようだけど……彼の泣き言なんて初めて聞いたよ。諜報では随一の腕を持っているのだけどね」

 

そう言って苦笑いするイルワ。もしかしたら、尾行ついでに秘密の一つでも知ろうとしたのか。

それが彼の指示か、部下の独断かは定かではないがギルド支部長としては当然の措置なので、特に咎めはしない陽和。むしろ、圧倒的速度で置いていかれ、ようやく辿り着いたかと思えば十万の魔物との戦いという非常識な戦場に遭遇し、その後も、さっさと帰って置いていかれ、今も必死に馬を駆って戻ってきているだろうことを思うと……労いたいほどだ。

 

『なんと言うか、まぁその部下の人はちゃんと労ってください』

「うん、そうさせてもらうよ。それはそうと、大変だったね。まさか北の山脈地帯の異変が大惨事の予兆だったとは……二重の意味で君に依頼してよかったよ。十万の魔物の大群を殲滅した力にも興味はあるが……何があったか、聞かせてくれるかい?ヴァーミリオン君……いや…」

 

イルワは一度言葉を止め意味深な表情を浮かべると、

 

 

「———『赤竜帝』紅咲陽和君」

 

 

いきなり陽和の本名を呼んだのだ。

瞬間、陽和はスッと目を細め凄まじい威圧がイルワに叩きつけられる。更にはハジメ達も座りながらも身構えており、空気が急に張り詰めたものへと変わった。

気づけば、イルワの首元にはヘスティアの刃が添えられており、表情を強張らせて冷や汗を流すイルワに陽和が首元に刃を添えながら静かに問う。

 

 

 

『その名をあえて呼んだと言うことは、俺がどう言う対応に出るかも覚悟の上ということでいいですか?』

 

 

 

刃が少しイルワの首に触れ、皮膚が裂かれ赤い線がじわりと浮かび上がる。命を握られている状態でイルワは一切陽和から視線を逸さずに、答えた。

 

「………ああ、分かってるよ。一応、言っておくけど私があえて君の名を言ったのは誠意を示す為だ」

『誠意とは?』

 

刃を首元から離し尋ねる陽和に、イルワは頷く。

 

「そうだよ。君達は私の恩人だ。たとえ、君が『赤竜帝』の力を持っていようとも、そんな君達と敵対するのは、私個人としても、ギルド幹部としてもあり得ない選択肢だ。だから、私は誓って命の恩人を裏切るような真似はしない。これはその為の誠意だよ。どうか信じてほしい」

『……………』

 

イルワの言葉に陽和はしばらく無言で彼を観察するように見る。ハジメ達がどうする気かと成り行きを見守る中、陽和は十数秒の沈黙の後に、

 

『いいでしょう。貴方の言葉を信じましょう』

 

そう言って剣を首から離して鞘に納めたのだ。

陽和が認めたことでハジメ達も警戒を解き空気が緩む中、イルワは大粒の汗を流しながら首元の傷を抑えて深呼吸をする。陽和は仮面を外して素顔を露わにしながら苦笑いを浮かべる。

 

「手荒な真似をして申し訳ありません。事情が事情ですので、貴方の対応次第ではこちらも実力行使に出る他ありませんでした」

「……いや……君の立場を考えれば、むしろここで殺されなかったことが奇跡のようなものだよ」

「そうですか。まぁ、もしも私のことを報告するのであれば、すでに教会の連中がいてもおかしくありませんからね。試させていただきました」

「……はは、君のお眼鏡にかなって何よりだよ」

 

イルワの言葉に笑みを浮かべた陽和は指をパチンと鳴らす。すると、イルワの首元の傷が淡く輝くと一瞬で治癒された。

傷があった場所を触り、若干驚いているイルワに陽和は笑みを浮かべる。

 

「傷は治癒しましたので大丈夫ですよ」

「そ、そうか。詠唱も陣もなしに一瞬で治癒するとは……つくづく驚かされてばかりだよ。それで、これで君は私を信用してくれるかな?」

 

イルワは目元を緩めながらそう尋ねる。陽和は十分だと頷いた。

 

『勿論、信じましょう。それで早速話をしていこうと思いますが、その前に提示した条件の一つの連れのステータスプレートを頼みます。ティオはどうする?』

「……三人の分を人前で用意するのかえ?……それなら、妾の分も頼めるかの?」

『……と言うことです』

「確かに、ステータスプレートを見た方が話の信憑性も高まるからね。なら、手配しよう」

 

何かを察したイルワは、職員を呼んで真新しいステータスプレートを4枚持ってこさせた。

結果、表示されたセレリア達のステータスは以下の通りだった。

 

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セレリア・ベルグライス 17歳 女 レベル:65

天職:魔法戦士

筋力:11000 [獣人形態+5000]

体力:13800

耐性:12570

敏捷:16100 [獣人形態+5000]

魔力:20600

魔耐:18000

技能: 格闘術[+身体強化][+魔法複合]・水属性適正[+魔力消費減少][+効果上昇][+持続時間上昇]・氷属性適正[+魔力消費減少][+効果上昇][+持続時間上昇]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作][+効率上昇][+高速詠唱]・想像構成[+イメージ補強力上昇][+複数同時構成]・氷蝕[+氷属性無効][+冷気変換][+氷纏][+絶対零度][+凍結侵蝕]・獣化[+氷魔狼][+身体能力上昇][+獣剛皮][+獣鋭爪][+感知能力超上昇][+咆哮][+治癒力上昇]・瞬足[+速度上昇][+瞬間加速]・生成魔法・重力魔法

 

※氷蝕 氷に完全耐性を持ち、冷気を吸収することで氷の威力を強めることができる。また、氷で触れた相手を冷気で蝕み一時的に凍結させることも可能。魔耐が高い者や高温度の炎熱には効かない。

※獣化 獣の力をその身で体現でき、身体能力が全て上昇する。宿す獣によって強化の補正値は変わる。

 

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ユエ 323歳 女 レベル:75

天職:神子

筋力:120

体力:300

耐性:60

敏捷:120

魔力:6980

魔耐:7120

技能:自動再生[+痛覚操作]・全属性適性・複合魔法・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作][+効率上昇][+魔素吸収]・想像構成[+イメージ補強力上昇][+複数同時構成][+遅延発動]・血力変換[+身体強化][+魔力変換][+体力変換][+魔力強化][+血盟契約]・高速魔力回復・生成魔法・重力魔法

 

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シア・ハウリア 16歳 女 レベル:40

天職:占術師

筋力:60 [+最大6100]

体力:80 [+最大6120]

耐性:60 [+最大6100]

敏捷:85 [+最大6125]

魔力:3020

魔耐:3180

技能:未来視[+自動発動][+仮定未来]・魔力操作[+身体強化][+部分強化][+変換効率上昇Ⅱ] [+集中強化]・重力魔法

 

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ティオ・クラルス 563歳 女 レベル:89

天職:守護者

筋力:770  [+竜化状態4620]

体力:1100  [+竜化状態6600]

耐性:1100  [+竜化状態6600]

敏捷:580  [+竜化状態3480]

魔力:4590

魔耐:4220

技能:竜化[+竜鱗硬化][+魔力効率上昇][+身体能力上昇][+咆哮][+風纏][+痛覚変換]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮]・火属性適性[+魔力消費減少][+効果上昇][+持続時間上昇]・風属性適性[+魔力消費減少][+効果上昇][+持続時間上昇]・複合魔法

 

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陽和には及ばないものの、全員召喚されたチート集団ですら相手にならないレベルのステータスだった。

勇者である光輝が限界突破を使っても勝てないだろう。この世界の通常の戦闘系天職を持つ者と比べれば、まさに以上だ。

何より、ユエやティオの本質を示す固有魔法や技能は、冒険者ギルドの最上級幹部であるイルワを以てしても、絶句させた。

 

無理もない話だろう。ユエやティオにおいては既に何百年も前に滅んだ種族と何百年経とうととも教会を通して伝説の一つとして伝えられる神敵たる種族の証なのだから。加えて、シアも兎人族が持っていいステータスではない。驚くなと言う方がどうかしているのだ。

というか、何よりも衝撃的だったのが、

 

『……おいおい、セレリアのステータスマジかよ』

「俺並みというか、一部は完全に負けてんだが……」

 

セレリアのステータスだ。彼女のステータスはハジメと匹敵しており、一部のステータスにおいては上回っているほどだ。しかも、獣人形態になれば敏捷だけは素の陽和のステータスにも匹敵するほどだった。

日頃の特訓で10000は超えていると思っていたが、これは予想外だった。

 

「いやはや……まさか、これほどとは……」

 

冷や汗を流しながら顔を引き攣らせるイルワに、陽和は苦笑いを浮かべつつ事の顛末を語って聞かせた。

普通に聞いただけならそんな馬鹿なと一笑に付しそうな内容でも、先にステータスプレートで裏付けの証拠を見てしまったので信じざるを得なかった。

イルワは、全ての話を聞き終えると、一気に10歳くらい老けたような疲れ切った表情でソファーに深く座り直した。

 

「……ヴァーミリオン君が赤竜帝なのもあるけど……なるほど、道理でキャサリン先生の目に留まるわけだ。それにヴァーミリオン君が元神の使徒なら、ハジメ君は君と同じ神の使徒なんじゃないのかい?」

「その通りです。俺とハジメは召喚された者です。それで、話は納得いただけましたか?」

「ああ、納得したよ。全部信じよう。では、改めて、私は約束通り可能な限り君達の後ろ盾になろう。ギルド幹部としても個人としてもね。まぁ、あれだけの力を見せたんだ。当分は、上の方も議論が紛糾して君達に下手なことはしないと思うよ。一応、後ろ盾になりやすいように、君達の冒険者ランクを全員“金”にしておく。普通は“金”を付けるには色々面倒な手続きがいるのだけど……事後承諾でも何とかなるよ。キャサリン先生と僕の推薦、それに“女神の双剣”という名声もあるからね」

 

イルワの大盤振る舞いにより他にも【フューレン】に滞在中はギルド直営の宿のVIPルームを使わせてくれたり、イルワの家紋入りの手紙を用意してくれたりした。今回の件もあるが、それ以上に陽和達と友好関係を作っておきたいと言うことらしい。

 

「正直ありがたいですね。使える手札は多い方がいざという時にうまく立ち回れます。依頼を受けた甲斐がありました」

「そう言ってもらえると、私も嬉しいね。……しかし、私が言うのもなんだが、君の正体はともかく、連れの彼女達の正体が露見するのは時間の問題だよ?聡い者ならそこから君の正体にも勘付くかもしれない。正直、私程度の援護では、最上級魔法を紙切れで防御しようとするようなものだと思うけど……」

 

カリカリと頬をかきながら苦笑いを見せるイルワに、陽和は笑みを浮かべる。

 

「全て覚悟の上ですよ。私としてもいずれは正体がバレると考えています。ですので、もしもバレた時に使える手札は多い方がいい。貴方の後ろ盾と厚意はその一つです」

「……なるほど。そう言うことか」

 

陽和にとってイルワの後ろ盾はあったらまぁ使えるだろうと言う程度のものであり、立ち塞がる障害は全て粉砕してみせると言う強い意志が窺えた。

陽和だけでなくハジメ達も全く不安も心配も抱いていない様子を見て、イルワは口元に浮かび上がる笑みを堪えることができなかった。

 

イルワ・チャングが未知に挑み冒険をする冒険者ギルドの幹部だから、だろう。陽和達の決意に期待と少しの恐怖と、湧き上がる高揚感を否定することはできなかったのだ。

 

彼はもはや確信すらしていた。目の前にいる教会の敵とも言える一行は、世界を変えるのだろうということを。

 

イルワは立ち上がると右手を差し出しながら笑みを浮かべる。

 

「冒険者ギルドの幹部として、君達の旅路が、最高に厄介で素敵な冒険となることを祈っているよう」

 

イルワの言葉に陽和は不敵に笑うと立ち上がりイルワの握手に応じた。

 

「冒険者としては嬉しい言葉です。感謝します」

 

そう言って二人は固い握手を交わす。

だが、ハジメ達はイルワの言葉に何となく、冒険者ギルドの幹部らしい言葉だと苦笑いを浮かべていた。そんな彼らを見て、イルワはここ数年多忙に呑まれて見せることのなかった、陽和と共に心からの快活な笑い声を上げるのだった。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

その後、イルワと別れた陽和達は【フューレン】の中央区にあるギルド直営の宿のVIPルームへとやってきていた。

20階の建物の最上階。窓からは観光区の様子を一望できるし、部屋と立派なつくりであり、広いリビングの他に個室が六部屋もあって、その全てに天蓋付きのベッドが備え付けられている。ソファーも絨毯もふかふかで、触れた瞬間に一級品であることが分かった。

陽和が椅子に座り、セレリアが隣の椅子に座る。ハジメとユエはソファーに身を沈めており、シアやティオは物珍しげに部屋を探検していた。

それから少し安らかな休息の時間を過ごしていると、部屋の扉をノックする音が聞こえた。

陽和が扉を開けると、そこにはウィルの他に二人の男女がいた。

 

「あ、ヴァーミリオンさん。先程も言った通り、挨拶に来ました。こちら、父と母です」

「ウィルの父のグレイル・クデタです」

「母のサリア・クデタです」

『私は冒険者のソルレウス・ヴァーミリオンです。わざわざご足労いただきありがとうございます』

 

どうやらウィルの両親グレイル・クデタ伯爵とサリア・クデタ夫人が挨拶に来たようだ。かつて王宮で見た多くの貴族とは異なり、随分と筋の通った人のように見える。ウィルの人の良さは間違いなく二人の遺伝だろう。

陽和が密かに納得しつつ丁寧に挨拶をすると、クデタ伯爵が頭を下げる。

 

「息子が大変お世話になりました。是非何かお礼ができればと思いまして……」

『いえいえ、報酬ならギルドからもらっているので十分ですよ。私共は依頼を受けて、達成した。それだけのことですから』

「そんな謙虚な……よろしければ自宅への招待や感謝の金品をお渡ししたいのですが…」

 

クデタ伯爵としては是が非でもお礼がしたいのだろう。家への招待や金品の支払いなど冒険者相手に滅多にしないであろう対応からもその本気度が伺える。

だが、それでもなお陽和は首を横に振る。

 

『本当に結構ですよ。そのお気持ちだけで十分です。しかし、それでも何かしたいと言うのなら……』

 

そう意味深な呟きをする陽和は一つ提案をする。

 

『私共が何か助けを必要とした時に、便宜の一つでも図っていただければ、と思うのですが、どうでしょうか?』

「そんなことでいいのかい?いやはや、息子からは君が身を挺して竜のブレスから庇ってくれたとも聞いてくれる。だと言うのに、随分と謙虚なのだね」

『それほどでもありませんよ。ただ、可能な範囲で便宜を図ってもらえるとこちらとしてもありがたいのですが、構いませんか?』

「ははは、分かったよ。では、君達が困ったとき、私たちが可能な限り力になると言うことを約束しよう」

『それで十分ですよ。ありがとうございます。伯爵』

 

快く提案を受け入れたクデタ伯爵と陽和は握手を交わす。クデタ伯爵の後ろで、ウィルがジト目を陽和に向けていたが気にしない。

 

「ではお話もほどほどに。皆様もお疲れでしょうから、私達はこの辺りで失礼します」

 

そして、ウィルのジト目に気づかないクデタ伯爵は最後に辞去の意を口にする。

 

『ええ、わざわざ足を運んでいただきありがとうございます。お礼の件期待させていただきます』

「ええ、お任せください」

 

そう自信満々に胸を張って返したクデタ伯爵は夫人と共に部屋を後にする。最後に、ウィルが陽和達に振り向き、感謝を口にする。

 

「ヴァーミリオン殿。それに皆さんも、助けていただき、本当にありがとうございました。また、会いましょう」

『ああ、ウィルも元気でな』

 

そしてウィルは頭を下げて、部屋の扉をパタリと閉じた。それを見送った陽和は仮面を外して素顔をあらわにすると、軽く息をついた。

 

「ふぅ、しっかし、律儀だなクデタ一家は」

「確かにな。だが、息子が無事に帰ってきたんだ。感謝するのも当然だろう。それに、そのおかげで貴族の後ろ盾も確保できたじゃないか」

「まぁな。つっても、多分使うことはないと思うけどな」

 

イルワの時と同様、今度は伯爵家の後ろ盾を得ることは確かに良かったのだが、陽和個人としては多分使うことはないだろうと考えていた。まぁ、あれば有効活用する程度の認識だ。

 

「とにかく、皆お疲れ。取り敢えず今日はもう休もう。明日買い出しとかをして、明後日にホルアドに向かう。それでいいか?」

 

陽和がリビングにいる全員を見渡しながら、今後の予定を口にした。誰も異論はないらしく賛成と頷いた。その後は部屋の散策をしたり、ソファーでくつろいだりと各々が雑談を交えつつのんびりして、その日は過ごしていた。

 

こうして、冒険者ギルドフューレン支部長イルワ・チャングより依頼された特別依頼は無事に達成したのだった。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

翌日。

陽和達一行は二組に分かれて行動していた。といっても、陽和、セレリア、ティオ、ユエとハジメ、シアという分け方だが。なぜこの分け方かというと、昨夜夕食どきにシアがハジメとデートしたいとねだったからだ。

ユエからもシアの頼みに付き合ってあげてほしいと言われたハジメはシアと共に観光区に遊びに出かけたのだ。その間、陽和達は買い出しのため商業区へ赴いていた。といっても、“宝物庫”には必要なものが大量に入っているので、旅の中で消費した分を少し補充する程度のことだ。したがって、大した食料品関係を買い漁る必要はなく、四人は商業区を適当に散策していたのだ。

ちなみに、余談だが陽和は【フューレン】でも頭痛薬と胃薬を求めており、いの一番に今度は2ヶ月分を買い込んだりしている。それを見たセレリアとティオは純粋に哀れみと同情の視線を向け、悩みの種であるユエは気まずそうに視線を逸らしていた。

 

そして、今は食料関係の店で陽和とセレリアが料理のレパートリーを増やすために食材を物色してる中、それを眺めているティオがユエに話しかける。

 

「ふむ。それにしても、ユエよ。本当に良かったのか?」

「? ……シアのこと?」

「うむ。もしかすると今頃、色々進展しているかもしれんよ? ユエが思う以上にの?」

 

ティオは若干面白がっており、「余裕ぶってていいのか?足を救われるかもしれないぞ?」と暗に言っていた。

まだ、新参者のティオにとって陽和とセレリアの関係はわかったものの、ハジメ、ユエ、シアの三人の関係は不思議だったのだ。そう思って聞いていた質問だったが、ユエは欠片も動揺せずにティオをチラリと見やると肩を竦めた。

 

「……それなら嬉しい」

「嬉しいじゃと?惚れた男が他の女と親密になるというのに?」

「……他の女じゃない。シアだから」

 

首を傾げるにティオにユエは、店を見て回りながら話を続ける。

 

「……最初は、ハジメにベタベタするし……色々下心も透けて見えたから煩わしかった……でも、あの子を見ていてわかった」

「わかった?」

「……ん、あの子はいつも全力。一生懸命。大切なもののために、好きなもののために。良くも悪くも真っ直ぐ」

「ふむ。それは見ていてわかる気がするの……だから絆されたと?」

 

ティオは、短い付き合いながら今までのシアを脳裏に浮かべて頬を緩める。

亜人族にあるまじき難儀な体質でありながら笑顔が絶えないムードメイカーな少女に自然と頬が綻ぶのだ。まだ、若いがゆえに色々残念なところや空回るところはあるが、ティオもシアの事は気に入っている。しかし、唯一無二の恋人とデートさせる理由としては些か弱い気がして、結局は気に入ったからという理由だけなのかと確認をとる。

 

「……半分は」

「半分?もう半分は何じゃ?」

 

ティオの疑問顔に、ユエは初めて口元に笑みを浮かべて答えた。

 

「……シアは、私の事も好き。ハジメと同じくらい。意味は違っても大きさは同じ……可愛いでしょ?」

「……なるほどの……あの子にはハジメもユエもどちらも必要ということなんじゃな……混じりけのない好意を邪険に出来る者は少ない。あの子の人徳というものかの。ふむ、ユエのシアへの思いはわかったが……じゃが、ハジメの方はどうじゃ?心奪われるとは思わんのか?あの子の魅力は重々承知じゃろ?」

 

ユエは、それこそ馬鹿馬鹿しいと肩を竦めると、今度は妖艶な笑みを見せた。目を細め、頬を染め、チロリと舌が唇を舐める。少女のように小柄でありながら全身から溢れ出る色気に、周囲を歩く者達が男女に関係なく足を止めて見蕩れている。そして、同じようにユエに目を釘付けにされながら歩いてきた歩行者と衝突してあちこちで事故が起きていた。

その色気は隣にいるティオの色気溢れる豊満な肉体ですら霞むほどで、当のティオも思わず見惚れていた。

 

「……ハジメには『大切』を増やして欲しいと思う。でも……『特別』は私だけ……奪えると思うなら、やってみればいい。何時でも何処でも誰でも……受けて立つ」

普段の乏しい表情とのギャップに若干驚いたティオは苦笑いを浮かべた。

 

「成程のぅ。絶対の自信ゆえか。お互いを愛し愛されとるのじゃな。うむ、実に微笑ましいことじゃ」

「………ん」

 

カラカラと笑うティオにユエは若干気恥ずかしそうに視線を逸らした。憧れの竜人族から真っ直ぐにそう言われては、流石のユエも恥ずかしいのだろう。

そんなユエにティオはもう一つ質問をした。

 

「それならば、主殿のことはどうなんじゃ?ハジメとの関係を見ればユエとは別の『特別』ではないかと思うんじゃが」

「確かにソル兄は私が唯一認めているもう一つの『特別』。それはハジメがソル兄を兄と慕っているから」

 

ユエはハジメが陽和をユエとは違う意味合いで『特別』扱いしていることを素直に認める。

 

「最初私はソル兄に嫉妬してた。どんな状況であってもハジメの心に残り続けていた人だったから。側にいなくてもハジメを支え続けていたソル兄が羨ましかった」

 

最初ユエは陽和のことを羨んでいたのだ。それは、陽和という存在が奈落の化け物に変心しつつあってもなお、彼の心に残り続けていたから。

暗闇の中で燃える灯火のような存在に、ユエは自分がその役割でなかったことに嫉妬していた。

だが、そんな嫉妬も陽和と出会い交流を深めていくうちに消えた。

 

「でも、実際会ってみたらソル兄は本当に優しい人だった。ハジメのことを何よりも気にかけていて、ハジメの為に怒れる人だった。ソル兄と交流していくうちに私もソル兄の優しさや頼もしさに触れていって、嫉妬なんて馬鹿馬鹿しいって思った」

「ふむ、絆された、ということかの?」

「そうなる。私もソル兄の人柄に触れていくうちに、ソル兄が誰かの為に行動できる勇気の持ち主で、同時に誰かを想い誰かの為に怒れる優しい人だって分かったの。そして、ハジメと同じようにソル兄が兄だったら嬉しいなって私は思うようになった」

 

陽和の人柄に触れて彼の本質を知ったからこそ、ユエはハジメが兄と慕っているのに感化されて陽和のことを兄と慕うようになったのだ。

だが、不安がないわけじゃない。それは、

 

「でも、私はソル兄のその優しさが不安。頼られてばかりで頼ることが殆どないから、いつか背負いすぎて潰れてしまうんじゃないかって思ってる」

「それは妾も同感じゃな。主殿は他の者達から頼られてはいるが、頼る姿は見なかったのう。ウルの町でも助けて救うことはあっても、誰かに頼ることはしていなかったように思える。むしろ、頼らないようにしておるのではないか?」

 

ティオは薄々だが気づいていたのだ。かつてドライグやセレリアが危惧していた陽和の優しさ故の弊害について。誰かに頼られることは多々あっても、彼自身が誰かに頼ろうとしていないことを。一人で全てを背負おうとしていることを短い時間だが、優れた観察眼で気付いたのだ。

 

「……そう。だから、私はハジメに『大切』を増やしてもらいたいと思っているのと同じぐらいに、ソル兄には頼ってもいいんだって気づいて欲しい。それでソル兄にも幸せになってほしい」

 

そう言うユエの瞳はとても優しげであり、彼女が心の底から彼のことを心配しているのだと分かった。

その様子を隣で見たティオはフッと笑みを浮かべると、

 

「じゃな。妾も主殿の幸せを願っておる。彼ほど優しい人間はおらん。じゃから、その優しさがちゃんと報われてほしいと思っておる。我らの悲願を託してしまっているとはいえ、惚れた女として彼の為に何かできることがあれば尽力は惜しまんつもりじゃ」

「……ん。是非そうして欲しい」

 

陽和を兄と慕うユエと彼を恋慕うティオが陽和のこれからを案じてそんなことを話す。ティオは任せろと言わんばかりにカラカラと快活な笑みを浮かべる。彼女がわざわざこんな話題を出したのは自分達との関係を良好にする為だと気付いたのだユエは、うまくやっていけそうだと笑みを浮かべた。

そんな風に二人の距離が若干縮まった時、

 

『なんだ?随分打ち解けてるな』

「そのようだな。何か面白い話でもしたか?」

 

物色を終えて袋一杯に食材を抱えている二人が会話に参加してきたのだ。

 

「二人とも、買いたいものは見つかったのかえ?」

『ああ。さすがは商業都市だ。中々手に入らない食材も売ってていいな。これでレパートリーが増える』

「それは重畳じゃな。主殿の料理は美味しいからのぅ。楽しみじゃ」

 

既にティオも陽和の料理には胃袋を掴まれている。女として惚れた男の料理に胃袋を掴まれたのは何とも複雑ではあるが、美味いものは美味いので仕方ない。

 

『で、何の話をしてたんだ?』

「ふふっ、なに、シアのことじゃよ。時に二人はシアのことをどんな子だと思っとるんじゃ?」

 

買い物を終え合流した二人にティオがクスクスと笑いながら二人に尋ねた。ユエのためにも陽和のことはうまいこと隠した。ティオの質問に二人は顔を見合わせて少し考えると陽和が先に答える。

 

『……そうだなぁ。とにかく、底抜けに明るい奴じゃないか?あとは、好きなものにひたむきに頑張ってる健気な奴だな』

「私も似たようなものだな。あの子は私達のムードメーカーだ。ああいう明るいところは好ましいと思っている」

 

陽和もセレリアもシアに対しての評価は概ねユエが抱いていたものと似ていた。二人は、恋愛感情が絡んでいない分、純粋に仲間としての意見だ。

二人の意見にティオは成程と頷く。

 

「なるほどのぅ。あの子はまさしくムードメーカーというわけなんじゃな。差し詰め、妹のように皆思っておるのか」

『そうなるな。俺らのパーティーの妹キャラってところだな』

「ふふ、そうかそうか」

 

嬉しそうに頷くティオに首を傾げた陽和は懐から地図を取り出しながら話題を変える。

 

『まぁそれはそうと、そろそろどこかで休憩するか?近くにオープンカフェがあるそうだ』

「それはいいな。そろそろ小腹が空いてきたところなんだ」

 

そうして近くのオープンカフェに移動しようと、穏やかな雰囲気で四人が歩き出そうとした直後だ。

 

「ぐへっ!!」

「ぷぎゃあ!!」

 

四人の視線の先の建物の壁が轟音と共に破壊され、そこから二人の男が吹き飛んできたのだ。男達は悲鳴を上げながら地面に着弾し、そのまま顔面で地面を削りながら数メートル先でようやく停止した。

よく見たら、二人はもはや屍だった。

更に、同じ建物の窓を割りながら数人の男がピンボールのように吹き飛ばされてきた。それでもなお、その建物の中からは壮絶な破壊音が響き渡っており、その度に建物が激震し外壁がひび割れ砕け落ちていく。

 

そして、十数人の男達が目も当てられない無様な姿で死屍累々と転がる頃、建物が遂に崩落した。

 

『………おい、うっそだろぉ』

 

野次馬が悲鳴を上げながら、蜘蛛の子を散らすように距離を取る中、陽和が頭痛を堪えるように額を抑えて天を仰ぎ見て、ティオはポカンとしておりユエとセレリアは聞き慣れた声と気配に、その場にとどまりつつ呆れた表情を粉塵の中へと向けた。

 

「ああ、やっぱりお前らの気配だったか………」

「あれ?皆さん?どうしてこんなところに?」

 

粉塵の中から現れてきたのはハジメとシアだった。

デートに出掛けてきた格好そのままに、馴染みの武器を抱える姿は違和感満載で、特にシアは服装が可愛らしいものだけに凶悪な戦鎚の姿は異常だ。

現れた二人に呆れた表情のままユエ達は呟く。

 

「……それはこっちのセリフ。デートにしては過激すぎ」

「デートで人を薙ぎ倒して、建物を壊すなど普通はあり得ないな。何をしたんだ?」

 

二人の言葉にシアは乾いた笑みを浮かべ答える。

 

「あはは、私もちょっと想定外だったんですが、まぁ成り行きで、その『おい、お前ら……』……あー、ソルさん…」

 

会話の途中で割り込んできた陽和にシアが冷や汗を流しながら答えにくそうな表情を浮かべる。

陽和は仮面越しにでもわかるほどに目が笑っていなかった。ゴゴゴと音が聞こえてきそうな威圧感を全身から滲み出しており、仮面を外さずとも陽和が青筋を浮かべていることは明らかだった。

 

『俺はお前に問題起こすなよって言ったよな?』

「あ、いや、これには深い事情があってな……」

 

【フューレン】に向かう前に車内で問題を起こすなとあれほど釘を刺したのに早速やらかしてくれたハジメに陽和が非難の視線を向けるが、ハジメとシアの様子から何かあったのは明白。

 

『そうかそうか。人を薙ぎ倒し、建物をぶっ壊すほどの深い事情か……』

 

だから取り敢えず、

 

 

 

 

『…………話は聞くから簡潔に説明しろ』

「「あ、はい」」

 

 

 

 

事情聴取をすることにした。

 

 

 

 

 





ようやくセレリアのステータスを出せましたぁ。
ハジメが魔物の肉を食ってあんなに強くなったらなら、元々魔人族でスペックが高いセレリアが魔石を埋め込まれ改造されたならこれぐらいのスペックになってもおかしくはないだろうなぁと私は思っています。
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