竜帝と魔王の異世界冒険譚   作:桐谷 アキト

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エイプリルフール?知らんな。
そんなことよりも、いよいよ皆様待望のシーン前半部始まるぞぉぉ!!

サブタイトルからも察せる人もいるかもしれんが、今回は原作展開に色々付け加えたので、滅茶苦茶長いです!!

賛否分かれるかも知れませんが、この展開こそ私が書きたかった展開なので、どうかご容赦の程を!!

では、45話どうぞ!!




45話 瑠璃の涙

 

 

「うっ………」

「鈴ちゃん!」

「鈴!」

 

呻き声をあげて身じろぎしながら、ゆっくり目を開けた鈴に、ずっとそばについていた香織と恵理が声に嬉しさを滲ませながら鈴の名を呼んだ。

鈴は、しばらくボーッとした様子で視線をキョロキョロと動かすと、力無く笑いながらゆっくりと口を開いた。

 

「し、知らない天井だぁ〜」

「鈴、あなたの芸人根性はわかったから、こんなときまでネタに走って盛り上げなくて良いのよ?」

 

喉が渇きしわがれた声で必死にネタに走った鈴に、駆けつけた雫が呆れと称賛を半分ずつ含ませた表情でそうツッコミを入れた。

今の彼女は先ほど重吾に逃げろと言われた時の弱々しい様子はもうなかった。もう立ち直ったのか、あるいは無理矢理押さえ込んでいるのか。どちらかは定かではないが、一見すれば冷静に見える様子の彼女は、傍らの革製の水筒を鈴の口元に持っていき水分を摂らせる。

ごきゅごきゅと可愛らしく喉を鳴らして水分を補給した鈴は、「生き返ったぜ!文字通り!」と、割とマジでシャレにならないことを言いながら頑張って身を起こした。

瀕死から意識を取り戻して、即座に明るい雰囲気を撒き散らすクラス一のムードメーカーに、今の今まで沈んだ表情だったクラスメイト達も口元に笑みを浮かべた。

 

しかし、その雰囲気とは裏腹に顔色は悪い。疲労に加えて血が足りてないからだろう。青白い顔で目の下にもうっすらと隈ができており、見せる笑みが少々痛々しかった。

体を何箇所も貫かれて、それでも起き抜けに笑みを見せられるのは、間違いなく彼女の“強さ”だ。雫も香織も、そんな鈴に尊敬混じりの眼差しをむけていた。

 

「鈴ちゃん。まだ、横になっていた方がいいよ。傷は塞がっても流れた血は取り戻せないから……」

「う~ん、このフラフラする感じはそれでか~。あんにゃろ~、こんなプリティーな鈴を貫いてくれちゃって……“貫かれちゃった♡”ってセリフはベッドの上で言いたかったのに!」

「鈴!お下品だよ!自重して!」

 

鈴が恨みがましい視線を虚空に向けながらそんな事をいい、恵里が頬を染めて鈴を嗜めた。

周囲で何人かの男子生徒が思わずといった感じで「ぶっ!?」と吹き出していたが、雫がひと睨みするとスっと視線を逸らす。

 

「鈴、目を覚ましてよかった。心配したんだぞ?」

「よぉ、大丈夫かよ。顔、真っ青だぜ?」

 

起きていきなり騒がしい鈴に、光輝と龍太郎が近寄ってくる。一時期、“限界突破”の影響で弱体化し、かつ、手痛い敗戦に落ち込んでいた光輝だったが、この即席の隠れ家に逃げ込んでからそれなりの時間が経っているためか、今ではどうにか持ち直していた。

 

「おはよー、光輝君、龍太郎君!何とか逃げ切ったみたいだね?えっと、みんな無事……あれっ、一人少ないような……」

「ああ、それは遠藤だろ。あいつだけ、先に逃がしたんだ。あいつの隠形なら一人でも階層を突破出来ると思って……」

 

光輝と龍太郎に、笑顔で挨拶すると、鈴は周囲のクラスメイトを見渡し人数が足りないことに気づく。鈴は戦闘中に意識を喪失し状況を把握できていないので、光輝達は彼女の疑問に答えると共に現状の説明も行なった。

ちなみに、近藤と斎藤も既に石化は解除されていて鈴より早く目を覚ましており、事情説明は受けている。

 

「そっか、鈴が気絶してから結構時間が経っているんだね……あ、そうだ。カオリン、ありがとね!カオリンは鈴の命の恩人だね!」

「鈴ちゃん、治療は私の役目だよ。当然のことをしただけだから、恩人なんて大げさだよ」

「くぅ~、ストイックなカオリンも素敵!結婚しよ?」

「鈴……青白い顔で言っても怖いだけだよ。取り敢えずもう少し横になろ?」

 

香織に絡んで、恵理に諌められ、行き過ぎれば雫に物理的に止められる。普段通りの彼女達の姿に、もう二度と生きて帰れないんじゃないかと、負の思考に囚われ始めていた者達も、次第に心の余裕を取り戻していった。

が、そんな明るさを取り戻し始めた空気に、水を差す輩はいつでもどこにでもいるものだった。

 

「……なに、ヘラヘラ笑ってんの?俺等死にかけたんだぜ?しかも、状況はなんも変わってない!ふざけてる暇があったら、どうしたらいいか考えろよ!」

 

水を差したのは檜山パーティーの一人近藤礼一だ。彼は鈴を睨むと怒鳴り声を上げる。そして、声は出していないが、隣の斎藤良樹も非難するような眼を向けていた。

 

「おい、近藤。そんな言い方ないだろ?鈴は、雰囲気を明るくしようと……」

「うっせぇよ!お前が俺に何か言えんのかよ!お前が、お前が負けるから!俺は死にかけたんだぞ!クソが!何が勇者だ!」

 

近藤の発言を諌めようと光輝が口を出すが、火に油を注いだ結果となり、近藤は激昂すると今度は光輝を責め立て始めた。

 

「てめぇ……誰のおかげで逃げられたと思ってんだ? 光輝と雫が道を切り開いたからだろうが!」

「そもそも勝っていれば、逃げる必要もなかっただろうが!大体、明らかにヤバそうだったんだ。魔人族の提案呑むフリして、後で倒せば良かったんだ!勝手に戦い始めやがって!全部、お前のせいだろうが!責任取れよ!」

 

龍太郎の怒声に近藤が言い返して二人は睨み合う。近藤に共感しているのか斎藤と中野も立ち上がり龍太郎と対峙する。

 

「龍太郎、俺はいいから……近藤、責任は取る。今度こそ負けはしない!もう、魔物の特性は把握しているし、不意打ちは通用しない。今度は絶対に勝てる!」

 

龍太郎の肩に手を置いて宥めた光輝は握りこぶしを握ってそう力説したが、斎藤が暗い眼差しでポツリとこぼした。

 

「……でも、〝限界突破〟を使っても勝てなかったじゃないか」

「そ、それは……こ、今度は大丈夫だ!」

「なんでそう言えんの?」

「今度は最初から〝神威〟を女魔人族に撃ち込む。みんなは、それを援護してくれれば……」

「でも、長い詠唱をすれば厄介な攻撃が来るなんてわかりきったことだろ?向こうだって対策してんじゃねぇの?それに、魔物だってあれで全部とは限らないじゃん」

 

確かに限界突破状態での光輝の神威は切り札足り得るものだ。だが、限界突破を使った光輝でも敵わないからこそ今の状況に陥ってしまっている。

それが光輝への不信感を芽生えさせてしまい、今までであれば疑わずに受け入れて来た光輝の言葉であっても受け入れられるものではなくなっていたのだ。

光輝に口々に文句を言う近藤達に、龍太郎が反論してしまい売り言葉に買い言葉の喧嘩がヒートアップする。

次第に、周りで言い争いを止めようとしていた者達までもが険悪なムードになってしまい、最終的に各々武器を構え始めてしまうほどだ。

光輝が「龍太郎!」と叫びながら彼の肩を掴んで制止するが、龍太郎は止まらず、近藤も意地になっているのか止める気はなかった。

その光景に雫だが落ち着くように説得を試みようとした時、不意にコンコンと壁を叩く音が聞こえたのだ。

 

「「「「ッッ!?」」」」

 

小さくも確かに聞こえた音に全員の視線が通路の先のカモフラージュした壁に集中する。

 

「グゥルルルル……」

「フシュー……」

 

次いで、魔物の唸り声や荒い鼻息まで聞こえて来た。全員の脳裏に自分達を襲った魔物達の姿が過り、険悪なムードは一瞬で吹き飛んで、緊張に強張り嫌な汗が噴き出る。

完全回復には、今しばらく時間がかかる。鈴などはとても戦闘が出来る状態ではないし、香織と綾子も治癒に魔力を使いすぎて、まだほとんど回復していない。

前衛組は、ほぼ完治しているが、魔法主体の後衛組も半分程度しか魔力を回復できていない。回復系の薬もほとんど尽きており、最低でも後数時間は回復を待ちたかった。

特に、回復役の香織と綾子、それに結界師の鈴が抜けるのは看過できる穴ではなかった。なので、光輝達は、どうかまだ見つからないでくれと懇願じみた気持ちで外の部屋と隠れ部屋を隔てる壁を見つめた。

見つめていたのだが、その懇願はー

 

 

「———この状況で言い争いとは、随分と愚かだな」

 

 

嘲笑うような侮蔑の言葉に裏切られた。

直後、轟音を立てて隠し部屋と外を隔てる壁が外からの強い衝撃に木っ端微塵に粉砕された。

 

「うわっ!?」

「きゃぁああ!!」

 

衝撃によって吹き飛んできた壁の残骸が弾丸となって隠し部屋へと飛来して、直線上にいた近藤と吉野に直撃する。二人は悲鳴を上げて思わず尻餅をついてしまった。

次の瞬間、唖然とする雫達の眼前で立ち込める砂塵の中から、男の声が聞こえてくる。

 

「まさかこんなところに隠れていたとはな。随分と戻って来てしまった。だが、見つけたぞ」

 

聞こえて来たのはカトレアとも違う低い男の声。だが、明らかに味方ではない者の声に光輝達に緊張が走る中、男が姿を現す。

現れたのは2メートル超えの身長に筋骨隆々とした体格の大男。ローブを纏っていたがフードはおろしてある為、鉄の錆を思わせる赤茶色の短髪が露わになっている。

その大男もカトレアと同様肌は浅黒く、耳は尖っている。つまり、魔人族だ。

雫はその男を見た瞬間に、この男がカトレアの隣に控えていたローブの大男だとすぐに理解した。

先程の戦いではカトレアの脇に控えたまま一切戦闘行為のそぶりを見せなかった大男。雫よりも明らかに強い大男が遂に動き出した。その事実に、焦燥を顕にした雫は危機感が逸るままに叫ぶ。

 

「全員動きなさいっ!!」

 

雫の怒号が響くと同時に、大男の左右から魔物達が雪崩れ込んできた。

 

「戦闘態勢!」

「ちくしょう!何で見つかったんだ!!」

 

光輝が号令をかけながら聖剣を抜いて目の前に迫るキメラに斬りかかる。龍太郎も悪態をつきながら、通路の前に陣取り魔物の侵入を防ごうとする。

だが、

 

「オォオオオオ!!」

「ぐぅう!!」

 

ブルタールもどきの砲弾のような体当たりを受けてしまい、組みつかれ押し倒れてしまう。その隙に、黒猫が何十匹と一気に侵入を果たして即座に触手を射出したのだ。

弾幕の如き密度で放たれたそれは、容赦なく近藤達に襲いかかる。彼らは慌てて手持ちの武器で迎撃しようとするが、明らかに触手の数が多すぎて防ぐことは叶わないだろう。

あわや、串刺しにされるかと思いきや、

 

「「———“天絶”!!」」

 

三十枚の光り輝く障壁が近藤達の眼前の空間に角度をつけて出現し、どうにか軌道を逸らした。二十枚の障壁を鈴が、十枚の障壁を香織が展開した。

だが、咄嗟に出したものである上に、鈴は絶不調、香織は魔力がつきかけている状態のため、障壁の強度は脆く、触手の猛攻に耐えきれず次々と砕かれていく。

そして、数本が障壁を打ち砕き、中野と斎藤を貫こうとした時。

 

「“波城壁”!!」

 

凛とした声が響き、水の障壁が展開され触手を弾いた。それを成したのは雫だ。彼女は既に瞳を青く輝かせており、無詠唱無陣で障壁を展開したのだ。

触手の猛攻を防ぎ切った雫は、この場で一番警戒すべき大男を注視しながら声を張り上げた。

 

「っ、光輝!“限界突破”を使って外に出て!部屋の奴らは私達がなんとかする!」

「だが、鈴達が動けないんじゃ……」

「このままじゃ押し切られるわ!一点突破で外の魔人族を討って!」

「光輝!こっちは任せろ!絶対、死なせやしねぇ!」

「……分かった!こっちは任せる!“限界突破”!」

 

雫のと龍太郎の言葉に一瞬考えるものの、状況を打開するにはそれしかないことは光輝もわかっているため、決然とした表情で、今日二度目の“限界突破”を発動し、純白の光のオーラを纏うと外にいるであろう女魔人族を倒す為に外に飛び出た。

 

(なんで今光輝を行かせて……いや、今はそれよりもっ!)

 

その際、大男が一切止めるそぶりを見せずに光輝を素通りにさせたことに一瞬疑問を感じた雫だったが、考えても仕方ないと判断し、素早く指示を出した。

 

「皆!散り散りになってはダメっ!一塊になって!」

 

雫の指示に全員が動き、魔物達と応戦しながら鈴と香織の元へと集まり円陣を組み始める。絶不調とはいえ魔力はそれなりに残っている鈴と治癒師である香織のそばにいる方が安全であるし、回復もできる。少し時間を要しながらも円陣を組めたことに、雫は内心で安堵すると次の行動に移る。

 

「永山君、龍太郎!少し時間を稼いでちょうだい!」

「了解した!」

「おうよ!」

 

重吾と龍太郎に時間稼ぎを頼んだ雫は二人の後ろに移動すると剣に青い魔力を宿しながら静かに目を閉じた。

 

「スゥー」

 

雫は小さく息を吸うと、目を閉じて周囲の気配を探る。仲間の位置、魔物の位置、数、それらを高めた感知能力を以って把握する。

そして、全ての気配を感知し把握した雫はきっちり10秒後にカッと目を見開き剣を振りかぶると、鋒を地面に突き刺しながら魔力を滾らせて叫んだ。

 

 

「———“青槍・百花”ッッ!!」

 

 

雄叫びを上げた直後、円陣の外側の地面に亀裂が走り青い輝きが溢れ、花が咲き誇るかのように地面を突き破り伸びるのは水の槍花。それは一寸のズレもなく全ての魔物を文字通り串刺しにした。

ザシュ!と音を立てて魔物達は下側から貫かれ、水槍に体を持ち上げられ空中に縫い付けられてしまう。半分ほどが頭や心臓を貫かれ即死し、残り半分が四肢や胴体を貫かれ致命傷を負い、苦しそうに悶えながら死んでいった。

 

「……ほぅ」

 

青い水槍が空中に溶けるように消え、魔物達が次々と地面に崩れ落ちる光景に雫達の戦いを静観していた大男の口から感心の声が漏れる。

大男の視線は自然と魔物を一瞬で殲滅した雫へと向けられる。

 

「はぁー……はぁー………」

 

剣を地面に突き立てている雫は片膝をつき荒い呼吸を繰り返す。敵味方問わず周囲の気配を全て把握して、敵だけ狙うというのはかなりの集中が必要であり、たった10秒とはいえ消耗を強いられてしまい、頬をつぅと冷や汗が伝っていた。

 

「八重樫大丈夫か!?」

「雫ちゃん!」

 

重吾と香織が慌てて雫へと駆け寄る。

雫はまだ完治しきっていない。勇者の光輝や他の仲間の回復を優先させた結果、前衛組の中では一番回復が出来ていないのだ。

だからこそ、今の一撃は明らかに無理をしたものだと分かってしまった。

だが、雫は身を案じる仲間達に笑みを浮かべず、警戒を露わにしたまま視線を鋭くしている。

 

「………いえ、まだ大丈夫よ。それよりも、警戒を解かないで。まだあの男が残っているわ」

 

そう言いながらも雫は通路の入り口で佇む大男から一切視線を逸らさない。

視線を逸らせばまずいと本能が最大級の警鐘を鳴らし続けている。だから、雫は一時であっても緊張を緩めない。緩めばその時点で()()()()()()()()()と本能が告げていたから。

それは『竜の恩恵』を持っている雫だからこそ感じ取ったものだ。他の者達ではあの大男の強さの底を測れてはいなかった。

そんな中、戦いの成り行きを腕を組んで静観していた大男が口を開く。

 

「見事だな。一瞬にしてあれほどの水の槍を展開し、魔物だけを貫くとは。水属性の魔法に特化した者であっても難しい芸当だろう」

 

雫が警戒する中、大男は雫の腕前を素直に称賛した。

事実、今の雫の攻撃は見事というべきものだった。この部屋に雪崩れ込んだ魔物の数は総勢百を超える。そんな百体を超える魔物の軍隊だけを狙い水の槍で全滅させたのだ。魔法の威力もさることながら、味方と敵を判別し敵のみを狙い撃ちしたその精度も素晴らしかった。

敵味方が入り混じらず円陣によって一箇所に固定されていたのも幸いしたが、それでも絶え間なく動く魔物達の気配を一匹も逃すことなく捉えたその精度は、魔人族の精鋭であっても難しいだろう。

まさかの敵である魔人族が味方を称賛した事に他の者達が戸惑いを隠せない中、呼吸を整えて立ち上がった雫は誰よりも前に進み出ると気丈に大男に問いかける。

 

「一つ、聞いてもいいかしら?」

「なんだ?」

「何故、光輝を止めなかったの?あなたなら足止めぐらいわけないでしょ?」

 

周囲の魔物達も全滅させて少しばかり余裕ができた雫はそんな疑問を投げかけた。大男はそんな問いかけになんでもないように答える。

 

「確かに俺ならば勇者を足止めすることなど容易い。だが、カトレア様が勇者への余興を用意したというから通らせただけだ」

「余興?」

「ああ、勇者には効果覿面のな」

 

そう言って大男は口の端を吊り上げて嗤う。

それは明らかな嘲笑。その余興の内容がよほど面白いのか、それとも勇者がその余興にどんな反応をするのかを想像してか。

とにかく、大男の言う余興が自分達にとっては碌でもないことは明白だった。

そしてくつくつと嗤っていた大男だったが、再び雫へ視線を向けると今度は疑惑の表情を浮かべる。

 

「しかし、分からないな。何故お前は魔法を詠唱も陣も使わずに発動できる?それは魔物にしかできない芸当のはずだ。いくつかの例外はあれど、お前は人間族だろう。何故、魔力の直接操作ができる?」

「…………………」

 

大男の問いかけに雫は沈黙する。

ただただ目を細めて青く輝く竜眼を向けるだけだった。しかし、周囲の者達は違った。

何人かが雫に疑惑の視線を向けていたのだ。

大男の疑問は誰もが一度は感じていたことだ。あのベヒモスとの一戦以降、彼女は急に水属性魔法を使い始めた。しかも、彼女の水属性魔法の腕前は凄まじく、水術師の適性を持つクラスメイトと並ぶ、いや超えるほどの実力を持っていた。

確かに元々ステータスが高く主力の一人であり、彼女には何度も助けられたことはあるが、戦闘の度に詠唱をしなければ魔法陣も使わずに水魔法を使えているのは正直疑問だったのだ。

それに、あの目が青く輝いたり、その間ステータスが超向上している事に関しては、雫本人が「火事場の馬鹿力」とはぐらかすばかりで一向に真実を話さない。それが疑惑に拍車をかけていた。

 

「「……っっ」」

 

大男が尋ねた疑問にクラスメイトが同調し雫に疑惑の眼差しを向ける中、真実を知る重吾と香織はまずいと内心で焦る。

雫の強さの正体までは明かされはしないだろう。だが、魔力操作の技能が魔物にしかない物である以上、雫の強化が碌なものではないと勘繰ってしまう者達も出てきてしまうはずだ。そうなればこの後の戦いに支障が出かねない。

そうなる前に何とかしないと、そう焦る二人だったが、渦中の本人である雫は凛とした態度のままあっけらかんと答えた。

 

「そんなこと今関係あるのかしら?それよりも、今私に斬られる心配はしなくていいの?」

 

雫は剣をスッと持ち上げると剣に水刃を纏わせて鋒を大男に向けながら凄まじい気迫を放つ。

隙あらば斬る。そう言わんばかりに研ぎ澄ました鋭い剣気を放ち徹底的に抗う姿勢を見せる雫。彼女の気迫に大男は口唇を吊り上げ牙を剥き出しにすると、暗闇に輝く黄土色の瞳を牙の如く歪めながら獰猛に嗤った。

 

「ハハっ、いい気迫だ。お前の気迫からは確かな覚悟が伝わってくるぞ。全く、滾らせてくれるな」

『ッッ!!』

 

ゾワリと感じた悪寒に重吾達は背筋に冷たいものが流れ、何人かが「ひっ」と悲鳴を溢してしまった。

雫の気迫に嗤う大男から突如放たれた重圧。獣のように荒々しい威圧はかつて自分達がベヒモスに対して感じていた恐怖を優に上回っており、原始的な恐怖を想起し心臓が鷲掴みにされたような感覚に陥っていた。

引き連れていた魔物達の恐ろしさとは比較にならないほどの圧倒的恐怖。その重圧に大男の背後に獰猛な獣の姿を幻視してしまったクラスメイト達は心身を金縛りにあったかのように硬直させてしまう。

だが、大男は恐怖に硬直するクラスメイト達には興味がないらしく、一切雫から視線を逸らさないまま呟く。

 

「他の雑魚には興味ないが、お前とはいい戦いができそうだな」

「どうでもいいわ。ただ私はあなたを斬るだけよ」

 

黄土色の獣眼と瑠璃色の竜眼が交錯する中、大男が腕組みを解く。ソレに合わせ雫もザリと地面を踏み締めて足に力を込める。

そして、あわや同時に動こうとした時、大男がピクリと一瞬体を震わせたかと思えば、光輝が飛び出した方に視線を向け唐突に呟いた。

 

「………どうやら、あちらは決着がついたらしい。余興は成功したようだな」

「何ですって?」

 

余興は成功した。ソレが意味するところはつまり、勇者光輝が敗北したと言うことだ。

 

「光輝が負けたっ?嘘を言うんじゃねぇっ!!」

 

光輝が敗北したと言うことを信じられない龍太郎が愕然としながらも、平静を取り繕うように叫んだ。クラスメイト達の何人かも信じられないと言う表情をしている。

大男はそんな彼らを「ハッ」と鼻で笑うと現実を見るように告げた。

 

「信じられないのならば出てきて己の目で確かめるといい。嘘か真実かはすぐに分かる」

 

そう言うと大男は背を向けて部屋の方へと歩いていく。そして、背中越しに振り向いた彼は爛々と輝け黄土色の獣眼を向けながら、雫達に出るように促す。

 

「それに、たとえそこに籠城したところでお前達に未来はない。潔く出てこい。出なければ力尽くで引き摺り出すぞ」

 

脅しでもなく本当に力尽くで出そうとするだろう。それがはっきりと分かってしまった雫達は少しの逡巡の後、恐る恐る外に出る。

外に出た雫達の視界に映ったのは、見たこともない巨大な馬頭の魔物に持ち上げられているボロボロの光輝の姿だった。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

隠し部屋から外に出た光輝は、大量の魔物を引き連れ、その奥で白鴉を肩に留め周囲を魔物で固めているカトレアをまっすぐに睨む。

 

「ふん、手間取らせてくれるね。こっちは他にも重要な任務があるって言うのに……」

「黙れ!お前は俺が必ず倒す!覚悟しろ!」

 

光輝はそう宣言すると短い詠唱と共に聖剣に魔力を一気に送り込む。本来の“神威”には遠く及ばず、カトレアにも届きはしないだろうが、それでも道を切り開くくらいはできるはずだと信じて詠唱を省略した“神威”を放とうとした。

しかし、輝きを増す聖剣を前にカトレアはうっすらと笑みを浮かべると、自身の周囲に待機させていたブルタールもどきに命じて何かを背後から引き摺り出してきた。

何をする気だと訝しむ光輝だったが、引き摺られてきた“何か”を見て愕然としてしまい、思わず聖剣を下ろしてしまった。

そして、目を大きく見開くと、震える声で彼の名を呼んだ。

 

「………め、メルドさん?」

 

そう、そこには、四肢を砕かれ全身を血で染めた瀕死のメルドがブルタールモドキに首根っこを掴まれた状態でいたのだ。

一見すれば、全身を弛緩させていることから既に死んでいるようにも見えるが、時折、小さく上がるうめき声が彼等の生存を示していた。

 

「おま、お前ぇ!メルドさんを放せぇッ!?」

 

光輝が見るも無惨なメルドの有様に激昂し、我を忘れたように魔人族の女へ突進しようとしたその瞬間、見計らっていたかのような絶妙のタイミングで、突然巨大な影が光輝を覆いつくした。

ハッとなって振り返った光輝の目に、壁のごとき巨大な拳が空気を破裂させるような凄まじい勢いで迫ってくる光景が映った。

光輝は本能的に左腕を掲げてガードするが、その絶大な威力を以て振るわれた拳はガードした左腕をあっさり押し潰して、光輝の体そのものに強烈な衝撃を伝えた。ダンプカーにでも轢かれたように途轍もない速度でぶっ飛び、轟音と共に壁に叩きつけられる。背後の壁が、あまりの衝撃に放射状に破砕するほどだった。

 

「ガハッ!」

 

光輝はあまりの衝撃で肺から空気が強制的に吐き出され、壁からズルリと滑り落ち、四つん這い状態で無事な右腕を頼りに必死に体を支えるも、その口から大量の血が吐き出される。どうやら、先の一撃で内臓も傷ついたようだ。

しかも脳震盪も起こしているようで、視線の焦点が定まらない。必死に事態を把握しようと辺りを彷徨い、そして、見つけてしまった。先程まで光輝がいた場所で拳を突き出したまま残心する、体長三メートルはあろうかという巨大な魔物を。

その魔物は、頭部が牙の生えた馬で、筋骨隆々の上半身からは極太の腕が四本生えており、下半身はゴリラの化物だった。血走った眼で光輝を睨んでおり、長い馬面の口からは呼吸の度に蒸気が噴出している。明らかに、今までの魔物とは一線を画す雰囲気を纏っていた。

その馬頭は、突き出した拳を戻すとともに、未だ立ち上がれずにいる光輝に向かって情け容赦なく濃密な殺気を叩きつけながら突進を始める。

馬頭は光輝がうずくまる場所の少し手前で跳躍すると、振りかぶった拳を光輝の頭上から猛烈な勢いで突き落とす。光輝は本能がけたたましく鳴らす警鐘に従ってゴロゴロと地面を転がりながら、必死にその場を離脱した。

 

直後、馬頭の拳が地面に突き刺さり、ソレと同時に赤黒い波紋が広がったかと思うと轟音と共に地面が爆砕した。

これが、この馬頭の固有能力“魔衝波”だ。効果はシンプルで、魔力を衝撃波に変換する能力だ。シンプルが故に凄まじく強力な固有魔法だ。

 

「くそっ」

 

何とか脳震盪からだけは回復した光輝は、必死に立ち上がり聖剣を構える。しかし、その時にはもう馬頭が眼前に迫ってきており再び拳を突き出していた。

光輝はどうにか聖剣を盾にするも、すでに左腕は粉砕され、右腕一本のみの防御。あっさりと吹き飛ばされてしまう。その後も、かろうじて致命傷だけは避けていくものの、四本の腕から繰り出される“魔衝波」を裁くだけで精一杯となり、また最初の一撃によりダメージが深刻なため、動きが鈍く、反撃すらできないでいた。

 

「ぐぅう!何だ、こいつの強さは!俺は〝限界突破〟を使っているのに!」

「ルゥアアアア!!」

 

苦しそうに表情を歪めながら、〝限界突破〟発動中の自分を圧倒する馬頭の魔物に焦燥感を募らせる光輝は、このままではジリ貧だと、ダメージ覚悟で反撃に出ようとした。

だが……

 

「ッ!?」

 

その決意を実行する前に、遂に、光輝の〝限界突破〟の時間切れがやって来てしまい、一気に力が抜けていった。短時間に二回も使った弊害か、今までより重い倦怠感に襲われ、踏み込もうとした足に力が入らなくなった。

その隙を馬頭が逃すはずもなく、突然バランスを崩し、死に体となった光輝の腹部に馬頭の拳がズドン!と衝撃音を響かせながらめり込んだ。

 

「ガハッ!」

 

血反吐を撒き散らしながら体をくの字に折り曲げて吹き飛び、光輝は再び壁に叩きつけられた。〝限界突破〟の副作用により弱体化していたこともあり、光輝の意識はたやすく刈り取られ、肉体的にも瀕死の重傷を負い、倒れ込んだままピクリとも動かない。むしろ、即死しなかったことが不思議である。おそらく、死なないように手加減したのだろう。手加減をするだけの余裕が馬頭にはあったのだ。

 

馬頭が光輝に近づき首根っこを掴んで持ち上げる。完全に意識を失い脱力している光輝を、馬頭は魔人族の女に掲げるようにして見せた。

 

「ふふ、よくやったね」

 

カトレアはそれに満足げに頷くと隠し部屋の前で何か話をしていた大男に合図を送る。

しばらくすると、大男に促され警戒心たっぷりに雫達が現れた。そして、馬頭の魔物がその手に脱力した光輝を持ち上げている姿を見て、表情を絶望に染めあげた。

 

「うそ……だろ?光輝が……負けた?」

「そ、そんな……」

 

意味のない言葉が零れ落ち、ほとんどが言葉が出ないようで立ち尽くしている。そんな、戦意を喪失する彼等に、カトレアが冷ややかな態度を崩さずに話しかけた。

 

「ふん、こんな単純な手に引っ掛かるとはねぇ。色々と……舐めてるガキだと思ったけど、その通りだったようだね」

「……なにをしたの?」

「ん?これだよ、これ」

 

雫の問いかけにカトレアは、未だにブルタールもどきに掴まれているメルドへと視線を向ける。彼女の視線を辿り、瀕死のメルドを見た瞬間、雫は理解する。

大男が言っていた余興。それはメルドをあえて生かし光輝の気を逸らすために使ったと言うことだ。知り合いが瀕死で捕まっていれば、光輝は確実に反応する。しかも、かなり冷静さを失って。

光輝の直上的な性格に先の戦いで気づいたカトレアは、確実に潰すためにメルドを利用したのだろう。光輝はまんまと引っかかって敗北した。

 

(……成る程。まんまとやられたわけね)

 

敵の思うように動いてやられた光輝に若干の怒りと呆れを感じた雫は、再びカトレアに問うた。

 

「……それで?私達に何を望んでいるの?わざわざ生かして、こんな会話にまで応じている以上、何かあるんでしょう?」

「ああ、やっぱり、あんたが一番状況判断出来るようだね。なに、特別な話じゃない。前回のあんた達を見て、もう一度だけ勧誘しておこうかと思ってね。ほら、前回は、勇者君が勝手に全部決めていただろう?中々、あんたらの中にも優秀な者はいるようだし、だから改めてもう一度ね。で?どうだい?」

 

カトレアの言葉に何人かが反応する。それを尻目に、雫は、臆すことなく疑問をぶつけた。

 

「……光輝はどうするつもり?」

「ふふ、聡いね……悪いが、勇者君は生かしておけない。こちら側に来るとは思えないし、説得も無理だろう?彼は、自己完結するタイプだろうからね。なら、こんな危険人物、生かしておく理由はない」

「……それは、私達も一緒でしょう?」

「もちろん。後顧の憂いになるってわかっているのに生かしておくわけないだろう?」

「今だけ迎合して、後で裏切るとは思わないのかしら?」

「それも、もちろん思っている。だから、首輪くらいは付けさせてもらうさ。ああ、安心していい。反逆できないようにするだけで、自律性まで奪うものじゃないから」

「自由度の高い、奴隷って感じかしら。自由意思は認められるけど、主人を害することは出来ないっていう」

「そうそう。理解が早くて助かるね。そして、勇者君と違って会話が成立するのがいい」

 

雫とカトレアの会話を黙って聞いていたクラスメイト達が、不安と恐怖に揺れる瞳で互いに顔を見合わせる。魔人族の提案に乗らなければ、光輝すら歯が立たなかった魔物達に襲われ十中八九殺されることになるだろうし、だからといって、魔人族側につけば首輪をつけられ二度と魔人族とは戦えなくなる。

それは、つまり、実質的に〝神の使徒〟ではなくなるということだ。

 

「わ、私、あの人の誘いに乗るべきだと思う!」

 

どんな未来を迎えるのか分からなくなってしまい、誰もが言葉を発せない中、意外なことに恵里が震えながら必死に言葉を紡いだ。それに、クラスメイト達は驚いたように目を見開き、彼女にマジマジと注目する。

必死の提案をした恵理に、その提案を許せるはずもない龍太郎が睨みつけ怒鳴った。

 

「恵里、てめぇ!光輝を見捨てる気か!」

「ひっ!?」

「龍太郎、落ち着きなさい!恵里、どうしてそう思うの?」

 

龍太郎の剣幕に、怯えたように後退る恵里だったが、雫が龍太郎を諌めたことで何とか踏みとどまった。そして、深呼吸するとグッと手を握りしめて心の内を語る。

 

「わ、私は、ただ……みんなに死んでほしくなくて……光輝君のことは、私には……どうしたらいいか……うぅ、ぐすっ……」

 

ポロポロと涙を零しながらも一生懸命言葉を紡ぐ恵里。そんな彼女を見て他のメンバーが心を揺らす中、一人、恵里に賛同する者が現れた。

 

「俺も、中村と同意見だ。もう、俺達の負けは決まったんだ。全滅するか、生き残るか。迷うこともないだろう?」

「檜山……それは、光輝はどうでもいいってことかぁ? あぁ?」

「じゃあ、坂上。お前は、もう戦えない天之河と心中しろっていうのか?俺達全員?」

「そうじゃねぇ!そうじゃねぇが!」

「代案がないなら黙ってろよ。今は、どうすれば一人でも多く生き残れるかだろ」

 

檜山の発言で、更に誘いに乗るべきだという雰囲気になる。檜山の言う通り、死にたくなければ提案を呑むしかない。

しかし、それでも素直にそれを選べないのは、光輝を見殺しにて、自分達だけ生き残っていいのか?という罪悪感が原因のようだ。まるで、自分達が光輝を差し出して生き残るようで踏み切れないのである。

そんなクラスメイト達に、絶妙なタイミングでカトレアから再度、提案がなされた。

 

「ふむ、勇者君のことだけが気がかりというなら……生かしてあげようか?もちろん、あんた達にするものとは比べ物にならないほど強力な首輪を付けさせてもらうけどね。その代わり、全員魔人族側についてもらうけど」

(ッッ、やられた……最初からソレが狙いってわけか)

 

その提案を聞いた雫は内心舌打ちする。

光輝を殺さずに生かした時点でこの可能性を考慮すべきだったかと、悔やんだ。

前回の戦いを見て、カトレアは自分達にも価値を見出し、勇者を潰して動けなくした上で、人質にして彼等の選択肢を狭めて追い込んでいる。

現に、光輝を生かすと言われて、それなら生き残れるし罪悪感も湧かないと、魔人族側に寝返ることをよしとする雰囲気になり始めていた。実際、光輝がどうなるかはわからない。だが、それでも今この場で死ぬよりはまだマシだった。

しかし、そこでカトレアが冷ややかな笑みを浮かべ何かを考えるそぶりを見せると、スッと雫へと指を向けて更なる選択肢を告げた。

 

「………あぁでも、そうだねぇ。剣士のあんたが私らに完全服従を誓ってくれるなら、あんたの後ろにいる雑魚共は見逃してあげるよ。あんたがこっちに寝返ってくれるなら、もうこれ以上の戦いはしないし、勇者君の命も保証しようじゃないか。勇者君とあんたを確保すればそこでさよなら。それならさっきの条件よりもいいんじゃない?」

「「「っっ!?」」」

 

新たに出された提案。それは雫が投降して魔人族に絶対服従を誓うのなら、他は見逃すと言うこと。しかも、勇者である光輝の命を保証すると言ったのだ。

雫一人の犠牲。しかし、犠牲と言っても命までは奪われないし、光輝も命を奪われることはない。雫を敵に売り渡しはするものの、誰一人として死なないし、生きて帰れる。

勇者と雫を差し出すのは心苦しいが、それでも生きて帰れる。今までよりはマシといえばマシな条件にクラスメイト達の心が更に揺らぎ始めた、しかしだ、それに異を唱えるものが二人。

 

「ふざけないで!雫ちゃんを売るなんて出来るわけないでしょ!」

「八重樫を売り渡すなど言語道断だ。そんな提案受け入れるわけがないだろう」

 

香織と重吾だ。二人は激情を露わにすると、雫を庇うように立った。自分達全員が魔人族に寝返るのならともかく、雫を差し出して生きて帰るなど出来るわけがない。

それは自分達の心を守るために戦った陽和への最大の裏切りに他ならないからだ。

そして、完全服従すれば仲間を見逃すと提案された雫は神妙な面持ちでカトレアにも尋ねた。

 

「随分と私を買っているのね。勇者の光輝に価値があるのは確かだけど、私はただの剣士よ。そこまで価値があるとは思わないけど」

「冗談はよしな。あんた、勇者君より強いじゃないか。水属性だけのようだけど魔法を詠唱と陣を無しに扱えるあんたは、頭の回転の速さも加えればそこの勇者君と比べる必要もないほどに明確な脅威だ。あんたはただの剣士の域をとうに超えているんだよ。それにある程度異教の使徒達の強さは把握できた。それを加味した上で勇者君とあんたを確保できるなら、他の雑魚はいらないって判断したんだよ」

 

カトレアはこの際最悪雫だけ確保できればいいと考えていた。一つはもちろん、人間族に齎すであろう衝撃だ。

“神の使徒”筆頭の勇者とそれに次ぐ実力者が魔人族側につく。その衝撃はきっと大きいはずだ。それだけでも十分アドバンテージがある。

二つ目が戦力の補充だ。カトレアがこの【オルクス大迷宮】に来た本当の目的は、迷宮攻略によってもたらされる大きな力だ。ここまでは手持ちの魔物達で簡単に一掃できるレベルだったが、この先もそうとは限らない。

()()()()()を使えばある程度まで進めると思うが、それでも万が一がある。幾分か魔物の数も減らされてしまったので、雫を手に入れて()()()()()と組ませれば確実に最奥まで進むことができると確信すらしていたのだ。なのに、光輝の命を保証するのは、詰まるところ雫への人質だ。これまでの戦いの様子からして雫は仲間を大事にする人間だとカトレアは感じた。それならば仲間を盾にすれば彼女も従うだろうと予想したのだ。

正直なところ、カトレアとしては勇者は害悪にしかならないと考えている。それよりも、雫の方が遥かに脅威だ。なので、もう光輝に勇者としての実力は期待せずに雫への強力な人質になればそれでいいと判断した。

 

(今ここで、死なないのなら……まだ未来はある)

 

雫はリスクを承知で提案を飲む側へと心の天秤が傾きかけていた。ここでカトレアの提案を飲み自分が魔人族に服従を誓えば、光輝だけでなく仲間の命も救える。何をされるか分かったものじゃないがここで死ななければ陽和とも再会できる可能性も再浮上してくる。

そして、魔人族に服従を誓ったことで心が縛られようとも彼ならば何が何でも救い出してくれる。自分が死ななければ彼ならばどうとしてくれると、そう心の中で信じていた。

 

(仕方ない、か。……皆が助かるのなら、私は……)

 

だから、雫は覚悟を決めて彼女の提案を飲もうと口を開いた時、突然苦しそうな声が響いた。

 

「み、みんな……ダメだ……従うな……」

「光輝!」

「光輝くん!」

「天之河!」

 

声の主は、宙吊りにされている光輝だった。仲間達の目が一斉に、光輝の方を向く。

 

「……騙されてる……アランさん達を……殺したんだぞ……信用……するな……人間と戦わされる……奴隷にされるぞ……逃げるんだ……俺はいい……から……一人でも多く……逃げ……」

 

息も絶え絶えに、取引の危険性を訴え、そんな取引をするくらいなら自分を置いてイチかバチか死に物狂いで逃げろと主張する光輝に、クラスメイト達の心が再び揺れる。

しかし、そんな彼に雫が静かに諭すように言ったのだ。

 

「……光輝、現実を見なさい。私達はもう、負けたのよ。彼女の提案を呑まないとこの場から生きて帰ることもできないわ。それならば、一人でも多く生き残れる選択を選ぶ。それが、今私達にできる最善よ」

「へぇ、てことはもう覚悟は決まったって思っていいのかい?」

 

雫の言葉に彼女の覚悟を察したカトレアが笑みを口元に浮かべながらそう尋ねた。クラスメイト達が、特に香織と重吾が驚愕に目を見張る中、雫はゆっくりと、だが確かに頷き、提案を受け入れようとした時、また一つ苦しげな、しかし力強い声が部屋に響き渡る。小さな声なのに、何故かよく響く低めの声音。戦場にあって、一体何度その声に励まされて支えられてきたか。どんな状況でも的確に判断し、力強く迷いなく発せられる言葉、大きな背中を見せて手本となる姿のなんと頼りになることか。みなが、兄のように、あるいは父のように慕った男。メルドの声が響き渡る。

 

「ぐっ……お前達……お前達は生き残る事だけ考えろ!……信じた通りに進め!……私達の戦争に……巻き込んで済まなかった……お前達と過ごす時間が長くなるほど……後悔が深くなった……だから、生きて故郷に帰れ……人間のことは気にするな……最初から…これは私達の戦争だったのだ!」

 

メルドの言葉は、ハイリヒ王国騎士団団長としての言葉ではなく、メルド・ロギンス個人としての言葉だ。それを晒したのは、これが最期だと悟ったからだ。

光輝達がメルドの名を呟きながらその言葉に目を見開くのと、メルドが全身から光を放ちながらブルタールモドキを振り払い、一気に踏み込んでカトレアに組み付いたのは同時だった。

 

「魔人族……一緒に逝ってもらうぞ!」

「……それは……へぇ、自爆かい?潔いね。嫌いじゃないよ、そう言うの」

「抜かせ!」

 

メルドを包む光は一見、光輝の〝限界突破〟のように体から魔力が噴き出しているようにも見えるが、正確には体からではなく、首から下げた宝石のようなものから噴き出していた。

それを見たカトレアが、知識にあったのか一瞬で正体を看破し、メルドの行動をいっそ小気味よいと称賛する。

 

その宝石は、名を“最後の忠誠”。カトレアが言った通り自爆用の魔道具だ。国や聖教教会の上層の地位にいるものは、当然、それだけ重要な情報も持っている。闇系魔法の中には、ある程度の記憶を読み取るものがあるので、特に、そのような高い地位にあるものが前線に出る場合は、強制的に持たされるのだ。いざという時は、記憶を読み取られないように、敵を巻き込んで自爆しろという意図で。

 

メルドのまさに身命を賭した最後の攻撃に、光輝達は悲鳴じみた声音でメルドの名を呼ぶ。しかし、光輝達に反して、自爆に巻き込まれて死ぬかもしれないというのに、カトレアは一切余裕を失っていなかった。

 

「……でも、あんたと一緒は御免だね」

 

それどころか、メルドの決死の覚悟を嘲笑った。

そして、メルドの持つ“最後の忠誠”が一層輝きを増し、まさに発動するという直前。

 

「喰らい尽くせ、アブソド」

 

と、カトレアの声が響いて、臨界状態だった〝最後の忠誠〟から溢れ出していた光が猛烈な勢いでその輝きを失っていった。

 

「なっ!?何が!」

 

よく見れば、溢れ出す光はとある方向に次々と流れ込んでいた。メルドが、必死に魔人族の女に組み付きながら視線だけをその方向にやると、そこには六本足の亀型の魔物がいて、大口を開けながらメルドを包む光を片っ端から吸い込んでいた。

六足亀の魔物、名をアブソド。その固有魔法は“魔力貯蔵”。任意の魔力を取り込み、体内でストックする能力だ。同時に複数属性の魔力を取り込んだり、違う魔法に再利用することは出来ない。精々、圧縮して再び口から吐き出すだけの能力だ。だが、その貯蔵量は、上級魔法ですら余さず呑み込めるほど。

魔法を主戦力とする者にとっては天敵である。

 

〝最後の忠誠〟の輝きが急速に失われ、遂に、ただの宝石となり果てた。最後のあがきを予想外の方法で阻止され呆然とするメルドに、突如、衝撃が襲った。

それほど強くない衝撃だが、『何だ?』とメルドは衝撃が走った場所、自分の腹部を見下ろす。

 

そこには、赤茶色でザラザラした見た目の刃が生えていた。正確には、メルドの腹部から背中にかけて砂塵で出来た刃が貫いているのだ。背から飛び出している刃にはべっとりと血が付いていて先端からはその雫も滴り落ちている。

 

「……メルドさん!」

 

光輝が、血反吐を吐きながらも気にした素振りも見せず大声でメルドの名を呼ぶ。メルドが、その声に反応して、自分の腹部から光輝に目を転じ、眉を八の字にすると「すまない」と口だけを動かして悔しげな笑みを浮かべた。

直後、砂塵の刃が横薙ぎに振るわれ、メルドが吹き飛ぶ。人形のように力を失ってドシャ!と地面に叩きつけられた。少しずつ血溜りが広がっていく。誰がどう見ても、致命傷だった。満身創痍の状態で、あれだけ動けただけでも驚異的であったのだが、今度こそ完全に終わりだと誰にでも理解できてしまった。

咄嗟に、間に合わないと分かっていても、香織が遠隔で回復魔法をメルドにかけるが、もうほとんど魔力が残っていない為、傷口が一向に塞がらなかった。

 

「まさか、あの傷で立ち上がって組み付かれるとは思わなかった。流石は、王国の騎士団長。称賛に値するね。だが、今度こそ終わり……これが一つの末路だよ。あんたらはどうする?」

 

カトレアが赤く染まった砂塵の刃を軽く振りながら光輝達を睥睨する。再び、目の前で近しい人が死ぬ光景を見て、一部の者を除いて、皆が身を震わせた。魔人族の女の提案に乗らなければ、次は自分がああなるのだと嫌でも理解させられる。

その空気を見かねた雫が再度提案に乗ろうと声を発しかけた時、

 

「……るな」

 

今度は、未だ馬頭に宙吊りにされながら力なく脱力する光輝が小さな声で何かを呟いた。満身創痍で何の驚異にもならないはずなのに、何故か無視できない圧力を感じた。

 

「は?何だって?死にぞこない」

 

カトレアも光輝の呟きに気がついたようで、どうせまた喚くだけだろうと鼻で笑いながら問い返す。

光輝は、俯かせていた顔を上げ、真っ直ぐにカトレアをその眼光で射抜いた。

 

「ッッ!?この威圧感……」

 

カトレアは光輝の眼光を見て思わず息を呑んだ。なぜなら、その瞳が白銀色に変わって輝いていたからだ。得体の知れないプレッシャーに思わず後ずさった。

……これ以上こいつを生かすのはマズイ、と判断して即座に馬頭に命令を下す。

 

「もういい!アハトド!殺りな!」

「ルゥオオオ!!」

 

馬頭、改めアハトドは、カトレアの命令を忠実に実行し、〝魔衝波〟を発動させた拳二本で宙吊りにしている光輝を両サイドから押し潰そうとした。

が、その瞬間、カッと爆ぜるような光が光輝から溢れ出し、それが奔流となって天井へと竜巻のごとく巻き上がった。そして、光輝が自分を掴むアハトドの腕に右手の拳を振るうと、ベギャ!という音を響かせて、いとも簡単に粉砕してしまったのだ。

 

「ルゥオオオ!!」

 

先程とは異なる絶叫を上げ、思わず光輝を取り落とすアハトドに、光輝は負傷を感じさせない動きで回し蹴りを叩き込む。

大砲のような衝撃音を響かせて直撃した蹴りは、アハトドの巨体をくの字に折り曲げて、後方の壁へと途轍もない勢いで吹き飛ばした。轟音と共に壁を粉砕しながらめり込んだアハトドは、衝撃で体が上手く動かないのか、必死に壁から抜け出ようとするが僅かに身動ぎすることしか出来ない。

 

「…………」

 

光輝は、ゆらりと体を揺らして、手を伸ばす。

途端、落ちていた聖剣が反応して飛び出し、光輝の手に収まったのだ。聖剣を構えた光輝は射殺さんばかりの眼光でカトレアを睨みつけると同時に、竜巻のごとく巻き上がっていた光の奔流を自身の体へと収束し始める。

 

———〝限界突破〟終の派生技能[+覇潰]。

 

通常の〝限界突破”の上位互換の技能であり基本ステータスの五倍の力を得ることが出来る。ただし、唯でさえ限界突破しているのに、更に無理やり力を引きずり出したのだ。今の光輝では発動は三十秒が限界。効果が切れたあとの副作用も甚大だ。

だが、そんな事を意識することもなく、光輝は怒りのままにカトレアに向かって突進する。今、光輝の頭にあるのはメルドの仇を討つことだけ。復讐の念だけだった。

 

「くっ!」

 

カトレアが焦った表情を浮かべ、周囲の魔物を光輝にけしかける。キメラが奇襲をかけ、黒猫が触手を射出し、ブルタールモドキがメイスを振るう。

しかし、光輝は、そんな魔物達には目もくれずに、聖剣のひと振りで容易くなぎ払うと、怒声を上げながらカトレアのもとへ踏み込んだ。

 

「お前ぇー!よくもメルドさんをぉー!!」

「チィ!」

 

大上段に振りかぶった聖剣を光輝は躊躇いなく振り下ろす。魔人族の女は舌打ちしながら、咄嗟に、砂塵の密度を高めて盾にするが……光の奔流を纏った聖剣はたやすく砂塵の盾を切り裂き、その奥にいる彼女を袈裟斬りにした。

砂塵の盾を作りながら後ろに下がっていたのが幸いして、両断されることこそなかったが、カトレアの体は深々と斜めに切り裂かれて、血飛沫を撒き散らしながら後方へと吹き飛んだ。

そして、背後の壁に背中から激突し、砕けた壁を背にズルズルと崩れ落ちたカトレアの下へ、光輝が聖剣を振り払いながら歩み寄る。

 

「まいったね……あの状況で逆転なんて……まるで、三文芝居でも見てる気分だ」

 

ピンチになれば隠された力が覚醒して逆転するというテンプレな展開に、カトレアが諦観を漂わせた瞳で迫り来る光輝を見つめながら、皮肉気に口元を歪めると、懐からロケットペンダントを取り出した。

そして、

 

「ごめん……先に逝く……愛してるよ、ミハイル……」

 

カトレアは愛しそうな表情を浮かべると、手に持つロケットペンダントを見つめながら、そんな呟きを漏らしたのだ。

その表情に、その言葉に光輝は思わず振り下ろした聖剣を止めてしまった。カトレアは覚悟した衝撃が訪れないことに訝しそうに顔を上げて、自分の頭上数ミリの場所で停止している聖剣と、目をこれでもかと見開き愕然とした表情を浮かべる光輝の顔を見て全てを悟った。

 

「……呆れたね……まさか、今になってようやく気がついたのかい?『人』を殺そうとしていることに」

「ッ!?」

 

それは、かつて陽和が危惧していたこと。

光輝は魔人族を人として認識してはおらず、魔物と同類の存在としか思っていない。魔人といえど、『人』を殺すと言うことが何なのかを理解していない彼は、最悪なタイミングでその事実を理解するだろうと、陽和は予想していた。

そんな彼の予想は的中したのだ。

光輝はカトレアが愛しそうな表情で恋人の名を呼ぶ声を見聞きしたことで、ようやくその事実を認識してしまったのだ。ソレは確かにこれ以上ない最悪のタイミングだった。

 

「まさか、あたし達を『人』とすら認めていなかったとは……随分と傲慢なことだね」

「ち、ちが……俺は、知らなくて……」

「ハッ、“知ろうとしなかった”の間違いだろ?」

「お、俺は……」

「ほら、どうしたのさ?所詮は戦いですらなく唯の〝狩り〟なんだろう?目の前に死にかけが一匹いるよ?さっさと狩ったらどうだい?あんたが今までそうしてきたように……」

「……は、話し合おう……は、話せばきっと……」

 

光輝が、聖剣を下げてそんな事をいう。そんな光輝に、カトレアは心底軽蔑したような目を向ける。

その直後、光輝の視界に何か巨大な影が落ちるのを見た。震える瞳で後ろを振り向き見上げれば、そこには拳を振りかぶった大男がいて、光輝が動くよりも先に横っ腹にその拳が叩きつけられた。

 

「ガッ、ハァッ!?」

 

鎧と骨が砕ける音が幾度となく響き、アハトドに受けた一撃など生ぬるいような重すぎる一撃が胴体にめり込み、光輝の体をとてつも無い勢いで横の壁へと殴り飛ばした。

盛大に吐血し轟音と共に壁を粉砕しめり込んだ光輝は、先ほど自分がアハトドにしたように、いやソレよりも酷い状態で壁にめり込んだままピクリとも動かなかった。

壁にめり込んだ光輝はあまりの衝撃に、両腕があらぬ方向に折れ曲がり、全身から血を噴き出し小刻みに痙攣していた。

 

「ぐっ……かっ……はっ……」

「光輝君!」

「光輝!!」

 

“覇潰”状態で防御力もかつてないほどに高まっていたはずの光輝を一撃の元に瞬殺した大男は、カトレアの傍らで片膝をつくと白鴉に回復を発動させながら労るように声をかけた。

 

「カトレア様、ご無事ですか?」

「……ああ、なんとか、ね。てか、あんた、止めに来なかったのは、この結果が、分かっていたのかい?」

「ええ、あの小僧ならばどんな状況でも人を殺すことはできないと判断しました。例え、それが絶好の機会であっても」

 

カトレアが光輝に斬られた時、その時点で止めに入らなかったのは、光輝がカトレアを殺すことはできないと分かっていたからだ。

彼の直上的な性格を見て、カトレアがメルドを使った余興をしたように、大男もまた光輝がカトレアを殺そうとして動きが止まる瞬間を潰そうと考えていたのだ。

結果は成功。勇者は戦闘不能となり、もう挽回の奇策も無くなった。

 

「それで、この後はどうしますか?」

「………そうだね。もう交渉なんてする必要もない。皆殺しだ。あんたはあの剣士の女を殺りな。全隊、攻撃せよ!!」

 

カトレアは首輪をつけて寝返らせる懐柔案から脅威を片付ける殲滅案へと方針を変える。雫の力を利用するために勇者光輝は人質にしておくのも危険すぎるし、強者を従える為に、自らあえて致命的な爆弾を抱えてしまうぐらいなら、雫共々葬り去った方がまだマシだと判断したのだ。

幸いにもこちらの()()()()()なら勇者にも対抗できることは把握できた。だから、もう用はない。

直後、魔物達が猛烈な勢いで雫達を蹂躙しようと牙を剥くが、

 

 

 

「———“波城壁”“青槍・千輪”」

 

 

 

凛とした声が響き、魔物達の進路を阻むように激流の壁が立ちはだかる。

更に、激流の壁からは無数の水槍が連射され、足止めを喰らった魔物達を貫き、体内で破裂して内臓を蹂躙していく。

弾幕が如き密度かつマシンガンのように連射され続ける水槍に大男はすかさずカトレアを抱えると足元から黒曜の石壁を生み出し、その水槍を凌ぐ。

凄まじい轟音を立てて石壁に水槍は殺到するものの、石壁は少し削れるだけで砕くには至らなかった。しばらくすると水槍の掃射が終わり、激流の壁も消える。

 

「やはり、お前は厄介だな……」

 

水槍を凌ぎ切った大男は石壁を解除しながら今の攻撃を成した存在へと視線を向けると黄土色の瞳を細めながら小さく呟く。

その視線の先には———

 

 

 

「雫、ちゃん……」

「八重樫……」

 

 

 

全身から青い魔力を揺らめく炎のように滾らせながら、瑠璃色の竜眼を光り輝かせる一人の女剣士———八重樫雫が仲間達を背にしながら凛と佇んでいた。

 

確かに挽回の奇策はない。

 

ただ、正攻法ならばまだある。“赤竜帝の恩恵”を宿す雫ならばまだ太刀打ちできる可能性があった。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

「……し、しず、く………」

 

光輝は“覇潰”の影響か瀕死の重傷を負い動けなかったとしても意識だけは保つことができ、たった今自分を救い出した幼馴染の名を掠れた声で呼んだ。

地面に転がされている彼の傍にはメルドも寝転がされていた。雫は先程足止めかつ掃射を行っている際に水の鞭を操作してどうにか二人を回収したのだ。

二人を回収した雫は後ろにいる香織と辻に素早く指示を出した。

 

「香織、綾子、魔力が回復したらすぐに二人を回復してあげて。まだ息はあるから間に合うわ」

「えっ、う、うんっ」

「は、はいっ」

 

香織と辻は雫の指示にすぐさま動いて残り少ない魔力をうまく使いながら二人の回復を試みる。気休め程度にしかならないが、今はとにかく彼らを死なせないようにすることが一番だ。

そうしてほんの僅かだが、回復が始まったのを確認した雫は再びカトレア達に視線を向ける。

魔物達に損害を与えることはできたが、肝心の大男には傷を与えることができなかった上に、カトレアはもう既に完治していた。その現状に忌々しげに呻く。

 

「…‥全く、少しぐらいはダメージがあって欲しかったんだけどね」

「並の兵であれば今ので小隊規模を全滅できていただろうな。だが、生憎と俺には通じない。それだけの話だろう?」

「そうね。単純にあなたの防御が私の攻撃を上回った。それだけの話ね」

 

大男とそう言葉を交わす雫。大男とカトレアを睨む彼女の瞳には、光輝とは違いはっきりとした殺意が宿っていた。

 

「……へぇ、あんたは、やっぱり殺し合いの自覚があるみたいだね。むしろ、あんたの方がよっぽど勇者に相応しいんじゃないかい?」

 

雫をそう評したカトレアに雫は首を横に振りながら剣を構え答える。

 

「……いいえ、私や光輝よりもよっぽど勇者に相応しい人はいるわ。でも、そんなこと今はどうでもいいわ。今はただ、貴方達二人を殺してこの場を切り抜けるだけよ」

 

敵を殺す。それを確かに言葉にした雫に、何とか意識だけは保っていた光輝が止めるように言う。

 

「………ダメ、だ……雫……人殺し、なんて…間違って…る……」

 

この状況でもなお甘ったれたことを言う光輝に若干の苛立ちと多分の呆れを含んだ眼差しを向けて睨むと、突き放すように言い放った。

 

「光輝、私達は戦争をしているのよ。敵を殺さないと私達が殺されるわ。それにこれは元を正せばあなたが選択したことでしょう。分かり切ったこととは言え本当に貴方には呆れるわ」

「……しず、く……?」

「私はこれ以上あなたの夢物語に付き合う気はないわ。一人で勝手に後悔して絶望してなさい。自分の選択が大きな間違いだったってね」

 

呪い。あるいは怨嗟の言葉が光輝に刃となって突き立てられた。

今までの彼女ならば決して口にしないであろう明確な侮蔑の言葉。それには誰もが困惑を隠せない。

そんな中、彼女の鬼気迫る様子に香織と重吾は何故か危機感を抱かざるを得なかった。

 

「雫ちゃん?」

「八重樫?」

 

彼女の名を呼ぶ二人。

詳しくはわからない。ただ、今の彼女を止めるべきだとそう心が警鐘を鳴らしていた。

二人が謎の感覚に戸惑う中、雫は重吾と香織に振り向くといつものような優しく穏やかな微笑みを浮かべながら、静かに声をかけた。

 

「永山君、香織、一つ頼まれてくれないかしら?」

「頼み?待て。お前、何を言って……」

「雫ちゃん…待って………」

 

雫の青く輝く瞳に何かを感じた香織がやめてと、その先を言わないでと首を横に張る中、雫は苦笑いを浮かべながらその頼み事を口にした。

 

「………もしも地上で彼に会えたら、私の代わりに謝っておいて。私はもう……帰れそうにないから」

「「っっ!!」」

 

その言葉が告げられると同時に、彼女の目尻に光るものを見た二人は、全てを察して声を張り上げる。

 

「雫ちゃんっ、駄目っ!」

「待てっ八重樫っ!!」

 

二人は雫を引き留めようと慌てて手を伸ばす。

しかし、それよりも一瞬先に左手を二人に向けた雫は二人を視界に納めてクスリと微笑むと一言。

 

 

「———ごめんなさい」

 

 

そんな謝罪を口にし、小さく呟いた。

 

 

「———“氾塊浪”」

 

 

彼女の掌にほぼ一瞬にして巨大な水球が形成され、香織達を纏めて飲み込む。飲み込んだ大質量の巨大水球は直後、激流へと変化すると正八角形の四つの出入り口の一つの奥へと流れていった。

 

「けほっ…けほっ……雫、ちゃんっ」

「ごほっけほっ、く、くそっ、八重、樫っ」

 

激流がおさまり水浸しで咳き込みながら、焦燥に満ちた表情で雫を探す香織と重吾。周りを見れば仲間達がいて光輝とメルドもいる。…………しかし、彼女の姿はどこにもなかった。

そうして周囲を見渡して前方を見た時、遠くに青い魔力を全身から滾らせ自分達を背に立つ一人の少女の姿を見た。自分達は彼女の魔法によって、流されたのだと。逃されたのだと理解した。

水を宿らせた剣を片手で構えている彼女は、香織達に声を張り上げる。

 

「私が時間を稼いでいるうちに走りなさいっ!走って地上に逃げてっ!!」

「いやっ、駄目だよっ!雫ちゃんも一緒にっ!!」

「八重樫っ!それは、それだけはダメだっ!」

 

香織と重吾が現実を否定するように叫ぶ。他のクラスメイト達も雫がやろうとしていることを理解してしまい、表情を青ざめさせたり、あまりの衝撃に口を塞いでしまう。

そして、香織と重吾が雫の元へと駆けようとする。だが、

 

 

 

「走れぇぇッッ!!」

 

 

 

雷鳴が如く響いた一喝が二人をその場に縫い付けた。

やがていち早く硬直から回復した重吾は、こちらに背中越しに振り向く彼女のどこまでも優しい眼差しの奥に、覚悟を見てしまった。

 

「〜〜〜っっ、くそぉっ!!」

 

歯噛みし、悔しさに悪態を吐き捨てた重吾が取った選択は………

 

「全員走れっ!死ぬ気で走れェェッッ!!」

 

遁走だった。

重吾は香織の手を取り担ぐと雫に背を向けて、叫ぶように指示を出しながら駆け出したのだ。

 

「いやあああっ!永山君離してっ!雫ちゃんがっ!雫ちゃんがぁっ!!」

「お、おい、永山っ!雫を見捨てるのかっ!?」

 

香織は重吾の肩からどうにか降りようと暴れ、龍太郎が雫を見捨てる決断をした重吾に非難の声を上げる。重吾はそんな彼に振り向くと、キッと睨み胸ぐらを掴みあげると叫んだ。その瞳から悔しさのあまり涙を流しながら。

 

「状況を理解しろっ!今、俺達はあいつに逃されたんだっ!俺達では足手纏いだからっ。俺達は弱いからっ。八重樫に守られたんだっ!!」

 

ギリッと唇を強く噛み締めるあまり、唇から血が溢れる。その痛みなどなんともないと言うふうに重吾は悲痛に叫んだ。

 

「八重樫の覚悟を無駄にするなっ!守られた俺達には、もう生きて帰ることしかあいつの覚悟に報いることができないんだっ!!」

 

本当ならば雫を守りにかけ出したかった。友に守ると頼まれていたから、友の信頼に応えたかったから。

だが、だがっ!今この状況で戻ったところで、自分達では何の力にもならないっ。彼女の全力の前では足手纏いにしかならないっ。

弱いから逃された。その事実に、悔しさのあまり唇を噛みちぎり、涙を流した重吾は瀕死で動けない光輝も脇に抱えると叫んだ。

 

「メルド団長を運べっ!とにかくここから一歩でも早く離れろっ!!」

「離してっ!もう繰り返さないって決めたの!決めたのに!離してよぉっ!!」

 

重吾が仲間達に指示を出し、他の者達がそれぞれ目の端に涙を浮かべたり、悔しそうにしながらも渋々彼に続いて駆け出す。

香織はかつてハジメが奈落に落ちた時以上に悲痛な形相で叫んで雫へと必死に手を伸ばす。しかし、その手は空を掴むばかりで一向に届かず、雫の背は段々と遠ざかってしまった。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

「これでいい……」

 

遠ざかる香織達を見送った雫は嬉しそうに目を細めながらそう呟くと、最後に自分の覚悟を汲んでくれた友へと感謝の言葉を贈る。

 

「………永山君、ありがとう」

 

雫は決断したのだ。自分を切り捨て、仲間を救うための選択を。

もはやあの状況で全員で生還することは叶わない。そして、光輝の暴走のせいで魔人族側に自分が寝返り他の仲間を逃す方法も無くなった。

その末に残った選択肢など、全滅か自分一人が殿で残るかの二つだけだった。

だから、雫は自分一人の犠牲を選んだ。

確かに罪悪感は残る。大好きな親友に二度も同じ光景を見せてしまったのだから。

でも……

 

(香織を見捨てて生きるのも、香織と共に死んでしまうのも、私には選べなかった。やっぱり、香織には生きていて欲しいもの)

 

大切な親友が死んでしまう未来を選ぶよりはマシだ。重吾に前もって言われていたことも、雫には選べなかった。

自分一人ならば逃げ出せる隙は何度もあった。しかし、仲間を見捨てることはどうしても選べなかった。仮に地上に逃げることができて、その果てに陽和と再会を果たしたとしても、自分は一生後悔し続けるだろう。憎み、呪って、責めて、心を壊す未来が容易に想像できた。

仲間を見捨てた未来では、自分はもう二度と胸を張って生きていけない。仲間を見捨てて生きるような人間に彼の隣に立つ資格もない。

それならば、仲間を守り抜いて死んだ方がよっぽど他人に誇れるし、何より陽和に胸を張れる選択だった。

 

仲間を見捨てて罪悪感に塗れた生よりも、仲間の為に戦って堂々とした誇りある死を。誰よりも優しくて、されど不器用な雫は後者を選べてしまう人間だった。

 

香織は悲しむだろう。重吾は怒るだろう。

陽和は………きっと一生許さないと思う。自分も、陽和がこの選択を選べば一生恨む自信があるから。

だけど、もうこれしかない。これしかなかったから。この選択を受け入れるしかなかった。

 

「だから生きて……香織」

 

感傷もそこそこに雫は親友に言葉を贈ると、目尻に浮かぶ涙をピッと親指で払い、視線を戻して今斬るべき敵達を見据える。

カトレアは雫の決死の行動に明らかに苛立っており、素早く魔物達に追撃を命じた。

 

「チィっ!逃すなっ!追えっ!」

「ハッ!」

 

魔物達が雄叫びを上げ香織達を追いかけ、大男も勇者達を逃さないと駆け出そうとした。その時だ。

 

 

「“極大・水刃”“流穿・水礫波”ッッ!!!」

 

 

裂帛の雄叫びと共に極太の水刃が振り抜かれ、同時に鉄砲水が如き水の弾丸が無数に放たれる。弾丸は半数が魔物達へと。そして、もう半数は………香織達を流した通路の出入り口の天井に。

 

「っっ、お前っ!!」

 

魔物達を切り裂いてもなお進み続ける水刃を回避した大男が驚愕に目を見開く中、大男の視線の先で通路の天井の壁が崩壊し、通路を塞いでしまったのだ。

 

「誰一人として行かせないわっ!全員、ここで斬り捨てるっ!!」

 

通路を塞ぎ更には水流の壁で完全に通路に蓋をした雫は流水宿る剣を構えながら吼えた。

彼女の気迫は思わず魔物達も怯み数歩後退るほどだった。

 

「やってくれたね!この小娘がっ!」

「決死の覚悟を決めた強者ほど厄介なものはない。してやられましたね」

 

カトレアは雫に完全にしてやられたことに怒りに表情を歪ませると激情のままに吐き捨てる。大男もまた雫の覚悟に目を見張らざるを得なかった。

そして、カトレアは目を吊り上げて魔物達に指示を出す。

 

「そんなに死にたいならあんたからお望み通り殺してあげるよっ!!全隊、あの女を殺せっ!!」

 

数十匹の魔物が雫を抹殺せんと全方位から一気に仕掛ける。キメラが牙を剥きながら鉤爪を振り上げ、ブルタールもどきがメイスを振り上げ突撃し、四ツ目狼が彼等の隙間を縫うように駆けて、黒猫が彼らの背に乗ったり上から触手を伸ばしてくる。

雫はそれらを前にゆらりと剣を構えると、青い眼光と全身に纏う輝きを一層強くさせながら、凛とした声音で堂々と名乗りをあげる。

 

「『赤竜帝』眷属が一人、八重樫雫」

 

そして、魔物の大群を前に地面を踏み締めると、

 

 

「いざ、参る!!」

 

 

地を蹴り、大群へと飛び込んだ。

 

 

 

▼△▼△▼△

 

 

迫る魔物達の大群を前に飛び出した雫は、グンと身を屈めると上体を前に倒す。そして、地面スレスレになるまで倒れた直後、地面に足跡を刻むほどに強烈な踏み込みをして爆発的な速度で前へと飛び出し、自身の前方の魔物達を一瞬で切り裂いていった。

 

「はああぁぁぁぁぁっっ!!!」

 

爆発的な速度で魔物の大群の一角を切り崩して包囲網から突破した雫はクルッと振り返り、背を向けたままの魔物達へと剣を突き出し、一言。

 

「“破断”ッ!!」

 

青く光り輝く剣から水のレーザーが放たれ、背を向けたままだった魔物達が穿たれ、切り裂かれていく。たった数秒間で魔物達が二十数体切り捨てられてしまった。

“赤竜帝の恩恵”を発動した状態の雫にとって、キメラやブルタールもどき達は既に相手ではない。アハトドならばまだしも、それに劣る魔物達では一対多であっても相手にならなかったのだ。

そして、ここでアハトドが地面を踏み鳴らしながら迫ってきた。

 

「ルゥオオオオオオオ!!」

 

独特の咆哮を上げながら、極太の左腕を振り抜こうとしていた。しかも、左の二本を同時にだ。

背を向ける雫へと真っ直ぐに振り下ろされるソレは確かに雫を捉えたかのように思えた、しかし。

 

「っっ」

 

雫は背を向けたままトンッとバックステップしてアハトドの懐へとあえて潜り込むと剣を空中で手放し、次の瞬間アハトドの二つの左手首をそれぞれ片手で掴むと、

 

「せぇあっ!!」

 

見事な一本背負をしてのけた。

アハトドの振りかぶりの威力を利用して合気をも利用した投げ技。アハトドの両足は軽々と地面から離れて、ふわりと視界が逆転した刹那、アハトドの巨体は地面に叩きつけられた。

ついでに、雫を追いかけた黒猫や四ツ目狼が数体巻き込まれて下敷きにされ、生々しい音を立てて潰れる。

 

「ルゥオオ!?」

 

アハトドが訳もわからず戸惑いの咆哮を上げつつも起きあがろうとするが、投げ飛ばした雫は手放した剣を拾い上げるとすかさず、アハトドの頭部を突き刺し絶命させた。

 

「次!」

 

アハトドの死体を踏みつけ、他の魔物達の殲滅へと駆け出そうだとした時、雫の頭上に影がかかる。

ゾワリと悪寒を感じた雫は、背後を確認せずに前方へと勢いよく飛んだ。

直後、雫がいた場所に圧倒的な何かが振り下ろされ、アハトドの死体を巻き込んで地面を爆砕させた。間一髪回避した雫はそれを成した存在へと視線を向け呻くように呟く。

 

「くっ、来たわね」

「これ以上魔物を減らされるのも困るのでな。そろそろ俺が相手をしよう」

 

地面を爆砕したのは大男だ。

魔力を使った様子もないことから、素の身体能力でアハトドが“魔衝波”以上の破壊を見せた。その事実に雫は冷や汗を流してしまう。この場で一番危険な存在が遂に動き出したのだと。

 

「カトレア様。ここからは俺が引き受けます。魔物達は下がらせ温存しておいてください」

「……そうだね。こいつらじゃあの小娘には勝てないからね。あんたに任せるよ。だが、勇者達の追跡もある。楽しむのはいいけどあまり時間はかけないようにしな、バート」

「ハッ」

 

バートと呼ばれた大男はカトレアにそう言われ頷くと、地面から拳を引き、手にこびりついた血を払いながら雫を見下ろす。

 

「味方ならば頼もしかったであろうに、敵であることが惜しいな。だが、仕方のないことだ。お前は敵にしておくには危険すぎる。ここで狩らせてもらおう」

「お褒めに預かり光栄ね。でも、逆にあなたが私に狩られるとは思わないのかしら?」

 

バートの掛け値なしの賞賛に、雫はそんな軽口を叩きながら剣を構えて流水を再び宿らせて鋭い剣気を放つ。空気を切り裂くような剣気にカトレアが背後で息を呑む中、直接向けられるバートは獰猛に嗤う。

 

「ハハハ、それは思わんな。何せ、俺はまだ本気を出していない。本気でないのに負けると思うか?」

「なんですって?」

 

あれだけの破壊を見せたのにまだ本気ではない。それに雫が思わず眉を顰めてそう尋ね返してしまう。

 

「ああ。だが、餞別だ。お前のその気高い覚悟に敬意を表して、俺も力を見せよう。どうせ殺すのだ。情報が漏れる心配もない」

「ッッ!」

 

そう言った直後、バートの肉体に変化が起きる。

四肢が髪と同色の赤茶色の分厚い体毛に覆われ、肩、背中、胸部も同様に覆われていく。

指先からは血のように赤い鉤爪が生える。40センチはあろう長い鉤爪は湾曲しており、並の刃物よりもはるかに鋭かった。

尖った耳は毛皮に覆われ消え、代わりに頭の上部にピンと小さな耳が生える。

口から覗く歯は全てが鋭い牙へと変わり、長い犬歯が見える。

 

「な、なによ……それ……」

 

半人半獣へと肉体を変化させていくバートの姿に、雫は動揺を隠さなかった。

気を抜けば喰われかねないような荒々しい獣気に、雫は恥も外聞もなく泣き出してしまいそうな恐怖に身を震わせ、剣がカタカタと揺れる。

肉体を変化させていく大男の姿はまさしく、

 

「………く、熊?」

 

熊の獣人の姿に他ならなかった。

雫は知る由もない。魔人族はとある大迷宮を攻略したことによって、肉体改造の神代魔法を手にしており、魔物の魔石を魔人へと移植して魔物の力を行使できる魔人と魔物の融合兵を生み出せるようになったことを。

 

その融合兵の名は『獣魔兵』。

 

これまで実戦投入されてこなかったからこそ、その存在は秘匿されており、今回勇者が相手ということで満を辞して実戦投入されたのだ。

しかし、パートは本来投入されるはずのなかった存在だ。本来投入されるはずだった『銀狼』の呼び名を持つ少女は数ヶ月前に脱走してしまったが故に、バートが投入された。

 

「改めて名乗らせてもらおう。俺の名はバート・ガルディア。魔人族が精鋭『獣魔兵』が2()()()()ー『紅熊』だ。これより狩りを始める」

 

そう名乗った魔人族のバート、改め『紅熊』のバートは大きく息を吸うと、牙を剥き出しにし、

 

 

「ウオオオオオオオオォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!」

 

 

洞窟を揺るがすほどの凄まじい怒号が如き雄叫びをあげた。直接受けた雫が思わず硬直してしまうほどの咆哮。

そんな中、『魔獣』の黄土色の双眼が、前を向き、狩るべき『獲物』を睨め付けた。

そして、硬直する『獲物』を前にした『魔獣』は牙を剥き出しに獰猛に嗤うと、狩りを開始した。

 

「オオオオオオオォォォォォォォッッ!!」

 

踏み込んだ地面を崩壊させながら、爆進。

硬直する雫目掛け鉤爪生える巨腕を振りかぶった。

強化状態の雫を上回る敏捷さを発揮し、魔獣は雫を凶爪の範囲内に捉えた。

 

「ッッ!!」

 

間一髪、硬直から回復した雫は全筋力を総動員して強引に真横へと飛んだ。直後、雫がいた場所に剛腕は叩きつけられ、地面を爆砕した。

しかも、それだけにとどまらず、有り余る強力すぎる膂力が空気を震わせて、衝撃波の斬撃が放たれ地面に四本の亀裂を刻みながら背後の壁を破壊した。

 

「…………」

 

先程よりもはるかに凶悪な破壊を見せたバートは、地面に右腕を振り下ろしたまま、視線を横に向ける。その先には回避した雫がいた。

しかし、彼女は……

 

「はぁ……づぅ…ぁっ…」

 

荒い呼吸を繰り返し大粒の汗を流す雫は左肩を押さえており、押さえている右手の間からはとめどなく血が溢れており、力無くぶら下がる左腕はボロボロだった。

雫は今の一撃を完全に回避できていなかった。

避けきれずに肩に斬撃が掠り、左腕が余波で砕かれ砕けた破片に打たれてしまっていたのだ。

荒い呼吸を繰り返す雫は、表情を驚愕に染め絶望に瞳を揺らしている。

 

(膂力だけで、斬撃を飛ばすなんてっ!?)

 

埒外の膂力の破壊力もそうだが、あの剛腕ならば腕を振るうだけで空気を震わせて衝撃波を斬撃として放つことができるらしい。

あまりにも力任せな荒技に雫は愕然としていた。

だが、込み上げる恐怖を気力でぐっと堪えると、右腕だけで剣を構えて立ち上がる。

 

(お願いっ!!あと少しで良いからっ、力を貸してっ!!)

 

雫の懇願に右手の紋様は確かに応えて、青い輝きを増し魔力を一層滾らせる。

バートは心が折れずに戦闘続行の意志を示す雫に、口唇を歪める。

 

「はっ、いいなお前。これを見ても尚まだ戦う意志を残しているか。それならば、容易く死んでくれるなよ?」

「……ッッ!」

 

雫はそれには応えずに今度は自分からバートに突進する。己に与えられているステータスを総動員して、雫はバートに肉薄すると水纏う剣を突き出した。

 

「“流水槍”ッッ!」

 

渦巻く水を宿らせ鋭利な水槍へと変えた剣の鋒をバートへと突き出す。しかし、それはあっさりと鉤爪に弾かれてしまう。だが、この突きは三段構えだ。一撃目が弾かれることなど想定済み。故に、雫は弾かれた反動を利用して、二撃目を放とうとする、しかし、

 

「遅いな」

 

バートのそんな一言が聞こえ、雫がニ撃目を繰り出すよりも早く鉤爪が振るわれ、雫の身体に四条の爪痕が刻まれる。

 

「……こふっ」

 

左肩から右太腿にかけて深々と切り裂かれ鮮血を噴き出す雫は、口から血の塊を溢しながら後ろへと蹌踉めく。

明らかに致命傷。今すぐに治癒しなければ手遅れになるほどのだ。しかし、それでもなお彼女は己の命を燃やした。

 

「ッッ!!」

 

倒れそうになるのを踏ん張った雫は瑠璃色の瞳を輝かせ、全身からも魔力を滾らせると、強く握りしめた剣に水を纏わせバートの首目掛け振るったのだ。

瀕死の中での命を燃やした一撃。

剣に宿った流水はこれまで以上に鋭く、極限まで研ぎ澄まされた至高の一閃だった。

この状況ではまさに奇跡ともいえよう。

 

これなら目の前の魔獣にも届くっ。

 

魔獣の首を刎ねることができるっ!

 

「ぁ…あああああああぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」

 

そう確信した雫は命を削るかのような雄叫びをあげながらそのまま剣を振り抜く。

だが、現実はどこまでも非情だった。

 

 

「——————」

 

 

カキィン!と甲高い音を立てて、渾身の一刀が黄土色の魔力纏う紅い鉤爪によってあっさりと受け止められてしまった。

受け止められた剣からは青い輝きが消えていき、全身から放っていた魔力も霧散してしまう。右手の紋様も急速に光を失い始めた。

完全に力を使い果たした雫に、バートはどこまでも冷たい声音で宣告した。

 

「お前はよく戦った。もう十分だ。終わりにしよう」

 

そう告げた直後、無防備な雫の腹部に掌底が容赦なく叩きつけられた。

 

「ガッ、はぁっ!?」

 

ドゴン!と凄まじい衝撃が体を突き抜け、内臓が傷つきでもしたのか彼女の口からは肺に残ったありったけの空気と共に血の塊が大量に吐き出される。

身体がくの字に曲がった雫は大きく打ち上げられると天井へと叩きつけられ、破片と共に地面へと落ちようとする。

しかし、そのまま楽に地面に落ちることをバートは許さなかった。

 

 

「———“剛獣魔爪”」

 

 

バートが右腕を掲げ、黄土色の魔力を帯びた黒曜の岩石を纏わせ、岩石の剛腕へと変化させる。剛腕は歪な『爪』となり、次の瞬間、雫へと振り下ろした。

 

「ぐっ……かっ……“波じょ…う、へき”……」

 

何度も吐血し激痛に喘ぐ雫は自身の眼前に水流の障壁を展開するが、その防御を嘲笑うかのように黒岩の剛腕は防御ごと雫を叩き潰した。

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ!?」

 

地面へと叩きつけられた雫は声にならない悲鳴をあげる。四方に亀裂を生み出す絶壊の一撃は、雫の骨という骨を砕き、肉体をズタボロに破壊した。

 

「………………………」

 

地面に沈んだ雫はピクリとも動かず、全身の傷から流れる血が血溜まりをつくる。

微動だにせず満身創痍の見た目からは、もうすでに事切れてしまったのかと思うほどだった。しかし、微かに開かれた瞳には輝きは消えておらず、口からはヒューヒューと掠れた呼吸音が微かに聞こえて、まだ生きているのだと分かった。

だが、彼女の命はもはや風前の灯火。あと10分ももたずに死ぬだろう。

地面に半ば埋まる雫に歩み寄ったバートは彼女の頭を掴み引き摺りだすと足がつかないほどの高さまで持ち上げ目線を合わせ静かに尋ねる。

 

「お前の目から光が消えないのは……仲間を逃がせたからだろう?」

「…………」

 

雫は何も応えない。応える余力がないのだが、それでもその唯一輝いている瑠璃色の瞳が何よりも雄弁に物語っていた。

雫はこの敗北は無駄ではないと思っていた。大した時間稼ぎはできなかったが、それでも重吾達ならばある程度の距離は移動できたことだろう。

 

「………っ」

 

それならば自分の戦いは意味があった。そう思い、雫は口の端をわずかに吊り上げ、勝ち誇ったかのような笑みを浮かべる。

しかし、バートはそれに悔しがるそぶりを見せず、淡々と告げた。

 

「だが、無駄だったな。使徒とはいえただの人間が、魔獣の縄張りから逃げれると思ったか?」

「———ッッ」

 

バートの言葉に雫は大きく目を見開き、表情を凍り付かせた。そんな彼女にバートは空いた腕を塞いだ通路の方へと向ける。

直後、通路を塞いでいた瓦礫が一人でに動き、左右の壁に一体するように溶け込むと、その奥から黒曜の岩牢に囚われた重吾達が現れた。

 

「雫ちゃんっ!」

「八重樫っ!!」

 

岩牢に囚われている香織と重吾が満身創痍の雫の姿に声をあげる。他の者達もあまりに痛々しい姿に絶望に表情を歪めた。

雫は逃したはずの仲間達を見ながら、あまりの衝撃に声を震わせる。

 

「どう……し……て………」

「自分を殿にして仲間を逃したのは見事だ。だが、所詮はそれだけのこと。魔力を流し奴等の逃走ルートを誘導して追い込めば捕獲も容易い」

 

そう、確かにあの場から逃げることはできた。だが、それだけだ。土属性の魔法を魔物と同じく詠唱、陣も必要なしに発動できるバートは、雫達が隠し部屋にいる間にこの階層全体に己の魔力を張り巡らせていくつかの捕縛トラップを作っていたのだ。

あとは、土壁を遠隔で操作して道を塞ぎ、トラップへと誘導すればいいだけの話。

結果、重吾達はあっさりと捕まってしまい、岩牢に囚われこうして元いた通路のところまで移送されたのである。

つまり、雫の仲間を逃し自分が残る決死の覚悟は全くの無駄だったということだ。

 

「ふふ、お仲間を逃す為に命を賭けたのに、そのお仲間は間抜けにもあっさりと捕まったわけか。なんとも哀れな結末だね」

「……ぁ……ぁあ」

 

四ツ目狼に座りことの成り行きを見ていたカトレアが笑みを浮かべ嘲笑った。そして、最悪な現実を叩きつけられて絶望に身を震わせる雫の瞳からは涙がとめどなく流れる。

自分の決死の覚悟が、命懸けの時間稼ぎが、その全てが無駄だったことに、かろうじて保っていた心が、遂に折れた。

心が砕ける音が自分の中で静かに響いて、瞳からも輝きが消えて虚になる。

圧倒的な暴威によって失意の底に叩き落とされた雫は、虚な瞳から涙を流し続けることしかできなかった。

 

「最後に何か言い残すことはあるか?遺言ぐらいは聞いてやろう」

 

そう告げてバートは鉤爪を構えた雫へと向ける。

あの鉤爪は雫の体を容易く貫くことだろう。貫かれた瞬間、自分は確実に死ぬと自然とわかってしまった。

 

(………あぁ………私は……死ぬのね……)

 

己の末路をはっきりと理解してしまった雫は、涙を流しながら悟った。恐怖が心の奥底から湧き上がってくる。叶うなら今すぐに逃げ出したい。

だけど、身体は全くいうことが聞かないし、自分の中の冷静な部分が無理だと言っていた。

熱を持っていたはずの心は、急速に冷えていき今ではもう深い暗闇に呑まれていた。

 

(……皆、ごめんなさい……勝てなかったわ)

 

雫は自分に向けて必死に手を伸ばして何かを叫ぶ親友達の姿を見ながら、謝罪する。

守れなくてごめんなさいと。弱くてごめんなさいと。覚悟を汲んでくれたのに、それに応えられなかった不甲斐なさを詫びた。

力無く目を伏せた雫の視界に赤く輝く結晶が映った。

それは片時も離さずに身につけていたはずの炎のペンダント。おそらくは先程斬り裂かれた時にチェーンが切れてしまったのか。

恋人からもらったネックレスを見て、脳裏にはあの夜の光景が心に浮かんだ。

 

(陽和………)

 

誰よりも愛おしい恋人の存在に心が疼く。

自分の心を温め続けてくれた、その名の通り太陽のようなカッコ良くて、優しい自分の英雄。

長い片思いが報われ心身共に結ばれた日、青い月の下で約束をしたあの夜。

再会を約束した。一緒に桜を見に行こうと約束した。だけど、それはもう叶わない。自分は今ここで彼を置いて先に死んでしまうのだから。

 

(……約束を破って、ごめんなさい。……愛してるわ、陽和)

 

あなたよりも先に逝ってしまう不義理をどうか許してと。

不幸を押し付けてしまうけど、どうかあなたは生きてと。

雫は心の内で呟いた謝罪を言葉にしようと小さく口を開く。

 

「………たす、け……て……」

 

だが、そんな内心の謝罪とは裏腹に出てきた言葉は助けを求める言葉だった。

無意識に出てきてしまった言葉。無意識が故にその言葉は止まらなくて、最後には、

 

 

 

「……………………はる……と……」

 

 

 

自分の心を救ってくれた頼もしい恋人(英雄)の名を呼んでしまった。

だが、その声はあまりにも小さくて、近くにいるバートだけが辛うじて聞き取れた。バートは彼女の遺言を聞き取ると、一人で仲間の為に戦った気高き剣士を讃えた。

 

「さらばだ、気高き英雄よ。お前のことは忘れない」

 

最後にそう言って、雫の心臓を目掛けて命貫く凶爪を突き出した。

 

 

 

 

『オオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッ!!』

 

 

 

 

 

次の瞬間、紅蓮の咆哮が轟く。

 

洞窟の奥から飛び出してきた紅蓮がバートを横から強襲すると、炎雷纏う左拳を振りかぶり炸裂させる。

竜帝の左拳はバートの胸部に直撃し、バートの目があらん限りに見開かれる。

 

そして。

 

 

 

『Explosion‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎』

「ファイア・ボルトオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォッッ!!」

 

 

 

大咆哮が轟いた。

 

「———————————————ッッッッ!?」

 

零距離で巨大な炎雷が爆ぜて、炎雷の轟声が雄叫びをあげて、バートの巨躯を吹き飛ばす。

バートを飲み込んだ炎雷はそのまま爆進し、背後の壁面に激突し大穴をあけ崩壊させた。

凄まじい衝撃に洞窟は大きく揺れ、一瞬の出来事にその場にいた全員が時を止められたかのように硬直した。

 

「——————」

 

そんな中、バートの手から解放された雫が重力に従って地面に崩れ落ちようとした時、スッとそれを優しく抱き留めた者がいた。

 

「雫……」

「……………ぁ」

 

雫は自分を包み込む『熱』に、瞳を照らす『赤』に、自分を呼ぶ『音』に小さく声を漏らす。

自分を抱き留めた者は真っ赤な鎧に身を包んでいて、竜を模した兜の奥から見える眼光は鮮やかな翡翠に染まっていて、自分を優しく見下ろしていたのだ。

 

(………ああ…)

 

 

その瞳を見た瞬間、雫の瞳から再び涙が流れる。

しかし、今度は悲しみの涙ではなく、喜びの涙だ。

 

すぐに分かった。兜を被っていて顔が見えなくても、目の色が変わっていても、関係ない。

 

纏う気配は、伝わる温もりは、耳を震わせる声は、何一つとして変わっていなかったから。

 

その鮮烈な『赤』は記憶の中で魅入られた美しい『赤』のままだったから。

 

雫はふと昔彼と一緒に読んだ絵本の物語を思い出した。

 

自分を守ってくれた騎士達が倒れ、一人で戦うことを選ばざるを得なかったお姫様。

しかし、敵は強力かつ多勢でお姫様が叶う訳もなく、死の寸前まで追い込まれた。

 

そんなお姫様を救う者が一人だけいた。

 

お姫様を救ったのは———赤い鎧の騎士様だった。

 

 

(———来てくれた)

 

 

生を諦め冷えた心が急速に温まっていく。彼から貰った熱が、灯火が、暗闇に呑まれていた雫の心を照らし、温めていく。

 

 

(———約束を、守ってくれた)

 

 

喜びや愛おしさが胸の中一杯に満ちて、満ちてなお溢れ続ける幸福が涙となってとめどなく流れる。

輝きを失いかけていたはずの右手の竜の紋様が、自分の歓喜に呼応しているかのように鮮やかな瑠璃色の輝きを取り戻した。

雫は溢れる喜びのままに口を動かして、

 

 

 

「…………はる、と…」

 

 

 

英雄の名を呼んだ。

 

 





すまんな、香織。オルクスでの君の感動シーンはないんだ。
ここでは陽和が主人公だからね。どうか許しておくれ。

さてさて、今作では光輝がカトレアを殺せそうなところで殺さなかった後で大男ーバートが叩き潰して動けなくなったので、雫が覚悟を決めて殿になって香織達を逃す展開となりました。
しかし、雫の覚悟も虚しく『獣魔兵』という勇者をも超える強力な化け物の前には敵わなくて、あわや殺されるというとこで、ついに恋人たる陽和が駆けつけてきましたね。

危機に陥ったヒロインを、主人公が助ける。王道と言えば王道ですが、王道だからこそ魅力に溢れて仕方ない。

そして、いよいよ次回。内容はごくシンプルです。

陽和、ブチギレて暴れます。

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