子供の純粋さは穢れた大人達には眩しいものだ。
そして、時と場合によってはその無垢さは、大人達にとっての爆弾へと変わる。
無自覚かつ正直に言ってしまう幼子の言葉は、穢れた大人の体面を容赦なくぶち壊してしまうのだ。
「あっ!パパぁー!!おかえりなのー!」
「むっ!ミュウか」
冒険者や商人達の喧騒で満ちる中、負けじと響いた元気なミュウの声。周囲にいる人達の目元が微笑ましそうに和らげられる。
ステテテテー!と可愛らしい足音を立てながら、ハジメへと一直線に駆け寄ったミュウは、その勢いのままハジメへと飛びつく。ハジメが受け損なうなど夢にも思っていないらしい。
テンプレだと、ロケットのように突っ込んで来た幼女の頭突きを腹部に受けて身悶えするところだが、生憎、ハジメの肉体はそこまで弱くない。むしろ、ミュウが怪我をしないように衝撃を完全に受け流しつつ、しっかりと受け止めた。
「ミュウ、迎えに来たのか?ティオはどうした?」
「うん。ティオお姉ちゃんが、そろそろパパ達が帰ってくるかもって。だから迎えに来たの。ティオお姉ちゃんは……」
「妾は、ここじゃよ」
人混みをかき分けて、妙齢の黒髪金眼の美女が現れる。言うまでもなくティオだ。ハジメは、いつはぐれてもおかしくない人混みの中で、ミュウから離れたことを非難する。
「おいおい、ティオ。こんな場所でミュウから離れるなよ」
「目の届く所にはおったよ。ただ、ちょっと不埒な輩がいての。凄惨な光景はミュウには見せられんじゃろ」
「なるほど。それならしゃあないか……で?その自殺志願者は何処だ?」
どうやらミュウを攫おうとしていた輩がいたらしい。目立たないようにフードで耳を隠していたのだが、それでもフードから覗く顔は幼くとも整っており、非常に可愛らしい顔立ちであることから、攫おうと考えたのだろう。だが、ティオがこっそりと処理してくれたらしい。
しかし、それを聞いてもハジメは安心せず親バカ全開で物騒な表情を浮かべながら、そんな危険なことを口走った。そんな彼にティオが呆れるように嘆息する。
「やめんか。幼子の前で何て顔をしとる。妾がきっちり締めておいたから落ち着くのじゃ。子を思う気持ちは分かるが、父親であるのならば落ち着いた姿を見せるのも必要なのじゃぞ」
「……チッ、まぁいいだろう」
「……ホントに子離れ出来るのかの?」
『……無理だろ』
ティオの説明に一応の納得を見せるが、明らかに不満気だ。そんな彼にティオはいざ別れの時大丈夫なのか?と危惧し、陽和が無理だと断言した。最初はパパ呼びを辞めさせようとしていたのに、今ではもうすっかり親バカだ。過保護に磨きがかかってきている。
ちなみに、既に外にいるため陽和はしっかりと仮面を着用し変声機能もオンにしている。
『ティオ、留守番ありがとうな』
「ふふ、なに妾も妾で独自に動いて情報を集めてたから何も問題はないのじゃ。それに主殿の様子からして、伴侶殿は無事救出できたようじゃな」
『ああ、何とか間に合ったよ。彼女がそうだ』
そう言いながら陽和は雫の肩を掴んで抱き寄せる。
急に肩を掴まれ抱き寄せられ、雫がちょっと驚き初々しそうにする様子に、ティオは微笑む。
「ふふ、その子がそうなんじゃな。初めましてじゃ、妾はティオ・クラルス。主殿の仲間じゃ。これからよろしく頼むぞ」
「え、あ、はい、八重樫雫です」
「ふふ、初々しくて可愛らしい子じゃのぅ。主殿がぞっこんなのも納得じゃ」
「ぞ、ぞっこんて……それは嬉しいけど、はっきり言われると恥ずかしいわ」
「愛いのぅ」
ティオの言葉に雫は更に顔を赤らめてもじもじしてしまう。その様子にティオは更にくすくすと笑ってしまう。
「南雲に娘だって?いつの間に子供作ったのか?」
「髪色的にシアさんとの子供?」
「え、でも、南雲、ユエさんとめっちゃ親し気だったけど……」
「まさかっ、既に不倫が起きてるだとっ⁉︎」
「てか、八重樫さんのあんな顔見たことねぇぞ……」
「恋って人を変えるんだね。あの八重樫さんがあそこまで……」
「あの黒髪の人、あいつのこと主殿って呼んでるのは何故だ?」
陽和達の会話を聞いていた重吾達は殆どが唖然としている。男子達は、「どんな経験を積んできた!?」と視線がユエやシア、セレリア、ティオに向けられ、邪推をしている。今日で1番の驚きだった。
とはいえ、冷静に考えれば、行方不明中の4ヶ月間で四歳くらいの子供ができるなんてありえないのだが、これまでの衝撃の事実の数々と、死地から生還したことにより冷静さが失われていて、見事に勘違いが発生していたのだ。雫も「どういうこと?」と言わんばかりに、ハジメとミュウを交互に見ている。
そんな中、一人唖然とする重吾達の中から、ゆらりと進み出る者がいた。顔には笑みが浮かんでいるのに全く目が笑っていない……香織だ。香織は、ゆらりゆらりと歩みを進めると、陽和や雫が何かを感知して止めるよりも先に、クワッと目を見開き、ハジメに掴み掛かった。
「ハジメくん!どういうことなの!?本当にハジメくんの子なの!?誰に産ませたの!?ユエさん!?シアさん!?セレリアさん!?それとも、そっちの黒髪の人!?まさか、他にもいるの!?一体、何人孕ませたの!?答えて!ハジメくん!」
「ご、誤解だ!掴むのやめろ!」
ハジメの襟首を掴みガクガクと揺さぶりながら錯乱する香織。ハジメは何とか引き離そうとするが、香織は、何処からそんな力が出ているのかとツッコミたくなるくらいガッチリ掴んで離さない。
香織の背後から、「香織、落ち着きなさい!彼の子なわけないでしょ!」と雫が諌めながら羽交い絞めにするも、聞こえていないようだ。
そうこうしているうちに、周囲からヒソヒソと噂するような声が聞こえて来た。
「何だあれ?修羅場?」
「何でも、女がいるのに別の女との間に子供作ってたらしいぜ?」
「一人や二人じゃないってよ」
「五人同時に孕ませたらしいぞ?」
「いや、俺は、ハーレム作って何十人も孕ませたって聞いたけど?」
「でも、妻には隠し通していたんだってよ」
「なるほど……それが今日バレたってことか」
「ハーレムとか……羨ましい」
「漢だな……死ねばいいのに」
どうやらハジメは、妻帯者なのにハーレムの主で何十人もの女を孕ませた挙句、それを妻に隠していた鬼畜野郎という事になったらしい。
未だにガクガクと揺さぶってくる香織を尻目に天を仰ぐハジメは、不思議そうな表情をして首を傾げる傍らのミュウの頭を撫でながら深い溜息をついた。
▼△▼△▼△
「うぅ〜」
「大丈夫だからね〜、よしよし」
動揺していた香織は冷静さを取り戻した後、自分がありえないことを往来で叫んでいたことに気づき羞恥心のあまりに雫の胸に顔を埋めていた。それを優しく受け止めながら頭を撫でる雫のの姿はまさにお母さんだ。
話は聞いていたティオとセレリアも『本当にオカンじゃな(だな)』という目で見てる。
香織が盛大な自爆をし、オカンな雫が慰めてどうにか落ち着かせた頃、陽和達は入場ゲートを離れて、町の出入り口付近の広場に来ていた。ハジメの漢としての株が上がり、社会的評価が大暴落した後、陽和達はロア支部長の下へ依頼達成報告をし、陽和が天井をぶち抜いたことへの本気の謝罪と弁償をし、二、三話してから、色々と騒がせてしまったので早々に町を出ることにしたのだ。
そもそも、イルワの手紙をロアに届けるのと、雫を迎えに行く為にやったようなものなので、旅用品で補充すべきものもなく、すぐに出ても問題はなかった。
ちなみに、既に雫はパーティーを抜けて陽和達についていくことを重吾達に伝えている。重吾は勿論快諾し、他の女性陣達はキャーキャーと騒ぎながらエールを送り、遠藤、野村も気にするなと苦笑いしながら承諾する。檜山達小悪党組が難色を示していたものの、陽和の圧に反論することすらできず押し黙った。脳筋の龍太郎も雫と陽和が恋仲なのは見ていた為、「まぁしゃあねぇか」と承諾し、雫の抜けた穴は自分がもっと強くなってカバーすると意気込んでいた。
ぞろぞろと重吾達が出て行こうとしている陽和達の後についてきたのは、見送りの為である。その一団の中にいる香織は、未だ羞恥に悶えつつも、頭の中は必死にどうすべきかを考えていた。
このままハジメと別れるのか、それともついていくのか。心情としてはついていきたいと思っている。やっと再会できた思い人と離れたいわけがない。しかし、明確に踏ん切りがつかないのは、光輝達のパーティーを抜けることへの罪悪感とハジメが少し変わってしまったことに対する戸惑いがあった。雫はそんな香織の心情を察せてはいるが、こればかりは香織自身が出すべき結論だと静観することを選んだ。
先程香織はユエと見つめあった時に、自分がそうであるようにユエがハジメを強く想っていることを察したのだ。しかも、その上で以前とは異なるハジメの様子に戸惑う自分の動揺を見透かされ嘲笑されてしまった。
想い合う二人。その片割れに「その程度で戸惑うなら諦めろ」と言外に嗤われ、香織は自分の想いの強さを疑ってしまったのだ。
自分の想いの強さはユエに負けているのではないか。今更、想いを寄せても、既に想い合っている彼の迷惑なだけではないか。何より、今の自分は今の彼をちゃんと見られているのか。過去のハジメを想っているだけではないのかと。
加えて、帰る途中でのユエの尋常ならざる実力の高さとハジメのパートナーとしての威風堂々とした立ち振る舞いに、香織は女としても術者としても圧倒され、自信を喪失してしまっているのだ。
香織が迷いから抜け出せないまま、いよいよ、陽和達が出ていってしまうというその時、何やら不穏な空気が流れる。それに気がついて顔を上げた香織の目に、10人ほどの男が進路を塞ぐように立ちはだかっているのが見えた。
「おいおい、どこ行こうってんだ?俺らの仲間、ボロ雑巾みたいにしておいて、詫びの一つもないってのか?アァ!?」
薄汚い格好の武装した男が、いやらしく顔を歪めながらティオを見て、そんなことを言う。どうやら、先ほどティオが締めた連中の仲間のようだ。報復に来たのだろう。もっとも、その下卑た視線からは、ただの報復ではなく、別のものを求めているのが明らかだった。
陽和達が、下衆共に呆れていると、それを恐怖で言葉も出ないと勘違いしたようで、おそらく傭兵崩れの者達が更に調子に乗り始める。
その視線が、セレリアや雫、ユエ、シアにも向く。舐めるような視線に晒され、心底気持ち悪そうに陽和とハジメの陰に体を隠す雫、ユエ、シア。セレリアは「今ならまだ助かるのにな」と露骨に呆れて軽蔑の眼差しを向けている。
約一名は別として、他の女三名は怯えていると勘違いしたのか、陽和達を恫喝し始める。
「ガキ、わかってんだろ?死にたくなかったら、女置いてさっさと消えろ!なぁ~に、きっちりわび入れてもらったら返してやるよ!」
「まぁ、そん時には、既に壊れてるだろうけどな~」
何が面白いのか、耳障りな笑い声を上げる男達。その時点で彼らの運命は決まった。
いつもの通り、空間が物理的な圧を持っていると錯覚しそうな凶悪な威圧が男達に襲いかかり腰を抜かし座り込んでしまう。そんな彼らに、ミュウをティオに預けたハジメが歩み寄る。
男達は今更ながら、自分達が絶対に手を出してはいけない奴等に喧嘩を売ってしまったことに気づき、無様に怯えながら慌てて謝罪しようとするが、威圧のせいで立ち上がることも、口を開くこともできないので、ただただ震えるだけだった。
ハジメは座り込んでいる男達を見下ろすと、足を上げて男達の股間に狙いを定めて男の象徴とともに骨盤ごと踏み砕くと言う悪魔的所業を躊躇いなく実行した。
あまりに容赦ない反撃に、重吾達がドン引きしたように後ずさる。特に、男性陣は全員が股間を押さえるか、内股になって顔を青褪めさせていた。陽和もいつかのブルックでのユエの悪魔的所業を思い出して目を逸らしている。
そんな彼らを尻目に、ハジメは泡を吹いて気絶する男達を山のように積み上げると、満足げに頷いた。
「よし」
『いや情操教育ぅっ!!』
頷くハジメに陽和が後ろからツッコみの叫び声を上げながら、ハジメに問い詰める。
『おま、お前なぁっ!いくら何でもやりすぎだろっ⁉︎せめて気絶させるだけで充分だろうがぁっ!ミュウの前だぞっ!!』
「安心しろ。流血沙汰にはしてねぇから問題ねぇ。それに、ミュウを怯えさせたんだぞ?万死に値する」
『すっかり親バカだなおいっ!だが、それならミュウの見てないところでな……っ、ティオっ!ミュウはどうしてるっ⁉︎』
ハジメへの説教の途中で肝心のミュウがこんなスプラッタな光景を見ていたらと慌てて後ろへ振り返りながら、陽和はティオに尋ねた。
「心配無用じゃ!目と耳は妾がしっかり塞いでおるっ!ミュウは何も聞いておらんし、何も見ておらんっ!」
『でかした!』
ティオはミュウを自身の豊満な胸元に埋め、さらには耳も塞いで視覚聴覚共にシャットアウトしていたのだ。ミュウに血生臭い光景を見せることは回避できたと陽和は彼女の機転に全力でサムズアップする。
『はぁ、とにかく、こいつら路地裏に移すか。セレリア、手伝ってくれ』
「ああ」
ミュウの視界に映らないように陽和とセレリアが重力魔法を使って男共を路地裏に移していく中、ユエ達が口を開く。
「いつになく怒ってましたね〜。過保護に磨きがかかっているような」
「……ん、それもあるけど……私達のことでも怒ってた」
「えっ⁉︎私もですか?えへへ、ハジメさんったら……有難うございますぅ〜」
「……ユエにはすぐに見透かされるな」
「……ん。ハジメのこといつも見てるから」
「ユエ……」
「『イチャつくんなら手伝えっ!このバカップルっ!!』」
二人の世界を作り始めたハジメとユエに、陽和とセレリアからお叱りのツッコミが飛んでくる。ハジメが問題を起こし、陽和がそれに怒ると言ういつも通りの光景にティオ達が笑っている。
香織はユエやシアと親しげに話すハジメをじっと見つめており、その瞳の中には隠しきれない驚きがあった。
先程もそうだが、ハジメが暴力を躊躇わなかった。
それは香織の知るハジメとは違った。彼女が知るハジメは弱く抵抗する手段がなくとも、他人の為に渦中へ飛び込めるような優しく強い人だった。
その〝強さ〟とは、決して暴力的な強さをいうのではない。どんな時でも、どんな状況でも〝他人を思いやれる〟という強さだ。だから、無抵抗の相手を何の躊躇いもなく暴力を振るった姿は自分の知るハジメと余りに異なり衝撃だったのだ。
先程洞窟の中で自分を気遣ってくれた時に感じた以前のハジメは自分の錯覚だったのかと、優しさは消えてしまったのかと、不安に揺れてしまう。
「香織……」
そんな時だ。自分を呼ぶ声が聞こえ、白杖を掴む手にそっと誰かの手が添えられる。ビクンッと弾かれたようにその手を辿って見てみれば、自分に手を添えたのは雫だった。
雫は香織の瞳をまっすぐに見ながら、微笑みを浮かべると、優しく言葉を投げかける。
「香織、一瞬のことに惑わされちゃダメよ。ちゃんと南雲君のことを見てあげて。彼は、本当に変わってしまったの?」
「………………」
雫にそう言われ、香織は改めてハジメを見る。
ユエやシアと、自分に寄り添い、楽しそうに、嬉しそうに笑う彼女達に笑い返すハジメ。
その姿を見て香織は自然と疑問を浮かべる。
果たして、優しさを失った人が、あのような笑顔に囲まれ、自分も笑顔を向けるだろうか。あんな幼子が父と慕うだろうか。親友である陽和が対応が変われど、変わらずに親友と呼び共にいるだろうかと。
様々な疑問が浮上する。そして、ハジメの変わりように動揺して意識から外れていたが、そもそもハジメが迷宮に潜ってきたのは、自分に生存を知らせて義理を果たす為だった。
(ああ、そうだった……)
香織は気づいた。
ハジメが暴力に躊躇いを見せないのは、そして、敵に容赦しないのは、そうすることで大切な誰かを確実に守るため。誰かを想う気持ちがあるのは確かだ。それは、ハジメを囲む彼女達や彼の親友の笑顔が証明している。
(彼の、あの姿……)
香織は想像した。
ハジメは、髪の色を失っている。右目と左腕もない。きっと、想像を絶するような過酷な環境を生き抜いたに違いないと。何度も、心身共に壊れそうになったに違いないと。いや、もしかしたら……一度は壊れてしまったからこそ、変心したのかもしれない。それでも、ハジメは、ああやって笑顔に囲まれる道を歩んでいる。
(……うん、そうだったね)
その事実が、香織の心にかかっていた霧を吹き飛ばした。欠けたパズルのピースがはまりカチリと音がなった気がした。自分は何を迷っていたんだろうか。
目の前にいるのは他ならぬ“南雲ハジメ”その人じゃないか。
心寄せる男の子がいる。〝無能〟と呼ばれながらも、奈落の底から這い上がり、多くの力を得て自分に義理を果たしに来てくれた人がいる。
変わった部分もあれば変わらない部分もある。だがそれは当然だ。人は、時間や経験、出会いにより変化していくもの。ならば、何を恐れる必要があるのか。自信を失う必要があるのか。引く必要があるというのか。
知らない部分があるなら、傍にいて知っていけばいいのだ。今まで、あの教室でそうしてきたように。想いの強さで負けるわけがない!ハジメを囲むあの輪に加わって何が悪い!もう、自分の想いを嗤わせてなるものか!
「じゃあ、行きましょ?」
香織の瞳に決意と覚悟が宿る。傍らの雫が、親友の変化に頬を緩めて、手を離すと優しく言葉を投げかけながら、手を引っ張る。
「うん!」
香織は、今まで以上に瞳に〝強さ〟を宿し、雫に感謝を込めて頷くと、もう一つの戦場へと足を踏み出した。そう、女の戦場だ!
歩み寄ってくる二人に気がつくハジメ達。ハジメは、見送りかと思ったが、隣のユエは「むっ?」と警戒心を顕にして眉をピクリと動かし、シアも「あらら?」の興味深げに香織を見やり、ティオも「ほほぅ」と笑みを浮かべる。ちょうど戻ってきた陽和は雫と共にハジメへと歩み寄る香織の姿に『このタイミングで来るかぁ』と面白そうにし、セレリアが「へぇ」と状況を楽しもうとしていた。
様々な視線が向けられる中、香織は雫に背を押されてハジメの前に立つ。そして、
「ハジメくん、私もハジメくんについて行かせてくれないかな?……ううん、絶対、ついて行くから、よろしくね?」
「…………………」
第一声から、前振りなく挨拶でも願望でもなく、ただ決定事項を伝えると言う展開にハジメが黙り込んでしまう。すぐには理解が及ばなかったが、以前陽和との会話を思い出し「まさか……」と彼女の真意を問おうとした時、それよりも一瞬早くユエが進み出た。
「……お前にそんな資格はない」
「資格って何かな?ハジメくんをどれだけ想っているかってこと?だったら、誰にも負けないよ?」
ユエの言葉に、そう平然と返した香織。ユエが、さらに「むむっ」と口をへの字に曲げる。
香織は、ユエにしっかり目を合わせる。瞳の奥には、轟々と音を立てて燃え盛る熱い決意が見えており、これからの人生において、最大の難敵かつ好敵手になるであろう黄金の少女にただ決意を乗せた視線を叩きつける。
ユエが、その視線を受けて僅かに目を細めたのを確認し、香織はスッと視線を逸らして、その揺るがなくも、見たものの胸が締め付けられるほどの、切なさを宿した眼差しを、ハジメへと向けた。
そして、祈りを捧げるように両手を胸の前で組み、頬を真っ赤に染めて、深く、長い、深呼吸を一回する、ただ一言を紡ぐ為に。
きっと、あの日、街中で土下座をするハジメを見た時から、生まれた想い。それを震えそうになる声を必死に抑えながらはっきりと……告げた。
「あなたが好きです」
「……白崎」
覚悟と誠意の込められた言葉に、ハジメもまた誠意を言葉に宿して答える。
「俺には惚れてる女がいる。白崎の想いには応えられない。だから、連れては行かない」
はっきり返したハジメに、香織は一瞬泣きそうになりながらも唇を噛んで俯くものの、しかし、それを堪え零れ落ちそうな涙を引っ込めると目に力を宿して顔を上げた。
そして、分かっていると頷く。香織の背後で龍太郎達が唖然とし、呆然、阿鼻叫喚といった有様になっているが、そんなことはお構いなしに、香織は想いを言葉にして紡いでいく。
「……うん、わかってる。ユエさんのことだよね?」
「ああ、だから……」
「でも、それは傍にいられない理由にはならないと思うんだ」
「なに?」
「だって、シアさんもハジメくんのこと好きだよね?セレリアさんやティオさんは違うと思うけど、シアさんはかなり真剣だと思う。違う?」
「……それは……」
「ハジメくんに特別な人がいるのに、それでも諦めずにハジメくんの傍にいて、ハジメくんもそれを許してる。なら、そこに私がいても問題ないよね?だって、ハジメくんを想う気持ちは……誰にも負けてないから」
そう言って、香織は炎すら宿っているのではと思うほど強い眼差しをユエに向ける。そこには「私の想いは貴女にだって負けていない!嗤えるものなら嗤ってみろ!」と、香織の強い意志が窺える。それは、紛れもない宣戦布告だ。たった一つの“特別の座”を奪って見せると言う決意表明だ。
香織の射抜くような視線を真っ向から受け止めたユエは、珍しいことに口元を誰が見てもわかるくらい歪めて不敵な笑みを浮かべた。
「……なら付いて来るといい。そこで教えてあげる。私とお前の差を」
「お前じゃなくて、香織だよ」
「……なら、私はユエでいい。香織の挑戦、受けて立つ」
「ふふ、ユエ。負けても泣かないでね?」
「……ふ、ふふふふふ」
「あは、あははははは」
ハジメとは違う意味で、二人の世界を作り出すユエと香織。告白を受けたのは自分なのに、いつの間にか蚊帳の外に置かれている挙句、香織のパーティー加入が決定しているという事に、ハジメは遠い目をする。
『はっははは、これからもっと騒がしくなるなぁハジメ』
「香織、立派になったわね……」
陽和が呑気に笑いながらハジメの肩を叩き、雫が目の端に涙を浮かべながら、感激の眼差しを向けている。まじでオカンである。
その一方で、笑い合うユエと香織を見て、シアとミュウが傍らで抱き合いながらガクブルしていた。
「ハ、ハジメさん!私の目、おかしくなったのでしょうか?ユエさんの背後に暗雲と雷を背負った龍が見えるのですがっ!」
「……正常だろ?俺も、白崎の背後には刀構えた般若が見えるしな」
「パパぁ~!お姉ちゃん達こわいのぉ」
『龍と般若ってどっちが強いんだろうな?』
「時と場合によるんじゃないかしら?」
「ふふ、二人共中々。これからの旅が面白そうじゃ」
「ユエがあそこまで笑うとは、彼女は見所があるな」
互いに、スタ○ド?を背後に出現させながら、仁王立ちで笑い合うユエと香織。ハジメは、お前等そんなキャラだっけ?とツッコミを入れたかったが、やぶへびになりそうだったので、縋り付くミュウを宥めながら自然と収まるまで待つことにした。ヘタレと言う事なかれ。
無論、陽和とセレリアとティオは遠慮なく「ヘタレ乙〜ww」と言うことだろう。
だが、そんな香織の意志に異議を唱える者がいた。………“勇者(笑)”天之河光輝だ。
「ま、待て、待ってくれっ。香織が南雲を好きだって?ついて行く?わ、訳がわからない!なんで、そんな話になったんだっ!」
「………はぁ?」
『…………』
どうやら、会話を聞いてしまっていたらしい。迷宮を出たあたりから意識だけは取り戻しており、次第にはっきりとしてきた意識の中で香織の告白を聞いて混乱しているようだ。
ご都合解釈をフル回転して、雫に続き香織までもが奇行に走ったと決めつけたらしい。やはりというか、先ほどの陽和や雫に言われたことを何も顧みていない。呆れるほどのご都合主義な頭にハジメは眉を顰め、陽和はスッと目を細める。
フラフラとしながら香織へと歩み寄る光輝に、雫が香織を背に庇いながらはっきりと言った。
「少しは冷静に考えなさい。あんたは気が付いてなかったみたいだけど、香織はもうずっと前から彼を想っていたのよ。それこそ、日本にいた時からね。どうして香織が、あんなに頻繁に話しかけていたかを考えてみなさい」
「雫……何を言っているんだ。あれは、香織が優しいから、南雲を可哀想に思ってしてたことだろう?協調性もやる気もない、オタクな南雲を香織が好きになる訳ないじゃないか」
確かに事実だが面と向かって言われると意外に腹が立つことを言われハジメは頬をピクピクとさせてしまう。雫は光輝の言い分に露骨に呆れ冷たい眼差しを向ける。陽和なんかは今にも殴りかかりそうな雰囲気を醸し出しているほどだ。
彼らの様子を見て香織は自らけじめをつけるべく雫の前に出て光輝とその後ろの仲間達に語りかけた。
「光輝くん、みんな、ごめんね。自分勝手だって分かってるけど……私、どうしてもハジメくんと行きたいの。だから、パーティーは抜ける。本当にごめんなさい」
そう言って深々と頭を下げる香織に、女性陣は雫の時のようにキャーキャー騒ぎながらエールを送り、重吾、遠藤、野村の三名も、気にするなと苦笑しながら手を振る。しかし、それでも当然、光輝は納得できない訳で、未練がましく引き止めようとする。
「香織まで何を言っているんだ?おかしいじゃないか。雫も、香織も、ずっと俺のそばにいたし……これからも、同じだろ?二人は、俺の幼馴染で……だから……俺と一緒にいるのが当然だ。そうだろ、香織、雫」
「えっと……光輝くん。確かに私達は幼馴染だけど……だからってずっと一緒にいる訳じゃないよ?それこそ、当然だと思うのだけど……さっき雫ちゃんも言ってたけど、私の心は私だけのものだよ?光輝くんのものじゃないよ……」
「醜い勘違いもいい加減にしなさい、光輝。告白もしていないくせに、恋人を気取らないでくれるかしら。それに、あんたの言い分が正しければ、幼馴染は陽和も同じよ。あんただけじゃないわ」
幼馴染の二人に容赦なく言われて、呆然とする光輝。
その視線が二人の後ろにいる陽和達に向けられる。ハジメは、我関せずといった感じで遠くを見ており、陽和は仮面の奥から鋭い眼光でこちらを睨んでいる。
彼らの周りには美女、美少女が侍っている。その光景を見て、光輝の目が次第に吊り上がり始める。あの中に、自分の雫と香織が入ると思うと、先ほども湧き上がってきた黒い衝動が再び湧き上がってきたのだ。
そして、すでに彼の頭には洞窟内での陽和と雫の言葉など欠片も残っておらず、ご都合解釈をフル稼働させた。
「……二人共、行ってはダメだ。これは、二人のために言っているんだ。見てくれ、あの二人を。女の子を何人も侍らせて、あんな小さな子まで……しかも、兎人族と狼人族の女の子達には奴隷の首輪までつけさせられている。黒髪の女性もさっき紅咲のことを『主殿』って呼んでた。きっと、そう呼ぶように強制されたんだ。二人は、女性をコレクションか何かと勘違いしている。最低だ。人を簡単に殺すし、止めもしない。仲間である俺達に協力もしないし、罪を償おうという気もない。雫、香織、あいつらについていっても不幸になるだけだ。だから、ここに残った方がいい。残った方が幸せになれるっ!たとえ、恨まれても、君達のために俺は二人を止めるぞ!絶対に行かせはしないっ!!」
あまりに突破な物言いに香織達が唖然とする。雫はまさに冷徹そのものと言える冷たい表情を浮かべ、陽和はすでに拳を握りしめている。いつでも殴りに行ける体勢に入っていた。しかし、ヒートアップしている光輝は止まらず、何を思ったのか視線をセレリア達に向けた。
「君達もだ。これ以上そいつらの許にいるべきじゃない!俺と一緒に行こう!君達程の実力なら歓迎するよ。共に、人々を救うんだ。シア、だったかな?安心してくれ。俺と共に来てくれるのなら直ぐに奴隷から解放する。セレリア、さんも、魔人族のことは俺がなんとかするよ!ティオさんも、もう主殿なんて呼ばなくていいんだ!!」
そんなことを言って爽やかな笑顔を浮かべ、セレリア達に手を差し伸べる光輝。
女達を侍ることを非難していたくせに、自分の元へと引き込み侍らせようとする頭のおかしい言動に、その場にいた誰もが唖然とする。陽和ですら絶句し、親友の龍太郎も初めて見る光輝の姿に戸惑っていた。雫はズキズキと痛む頭を抑え、香織は空いた口が塞がらない。
そして、勧誘を受けたセレリア達はと言うと、
「………頭、イカれてる」
「……うっわぁ、ソルさんにあそこまでボコボコにされたのに、まだ懲りないんですかね」
「周りとの評価と同一人物とは思えんのぉ。主殿に聞いていた通り、幼い童の我儘よりも酷い、聞くに耐えぬ物言いじゃな……主殿と比べるのも烏滸がましいのじゃ」
「正直言って気持ち悪い。さっきも思っていたがあんなのが勇者とか人間族終わったな。初めて人間族を哀れに思ったぞ」
全会一致での酷評だった。彼女達は総じて両手で腕を摩っている。よく見れば、彼女達の肌には鳥肌が立っていた。
そんな彼女達の様子に、手を差し出したまま笑顔を引き攣らせる光輝。視線を合わせてもらえないどころか、気持ち悪そうにハジメと陽和の陰にそそくさと退避する姿に、ショックを受けていた。
そこで陽和が頭をガリガリとかきながら前に進み出て、光輝を睨む。
『……もう聞くに堪えんな。お前の声は不快でしかない。だから』
そう言って陽和は光輝に右手を翳して一言。
『寝てろ』
「がっ!?」
瞬間、光輝の身体が勢いよく地面に沈んだ。
重力魔法で光輝にかかる重力を一気に数百倍にして地面に叩きつけたのだ。あまりの衝撃に地面は深さ1メートルほどのクレーターができてその中心いる光輝は突っ伏したままピクピクと痙攣するだけで動きもしない。
どうやら、今ので完全に意識を飛ばしたようだ。
更に陽和は土魔法を発動すると、クレーターを塞いで光輝を飲み込んで元の石畳へと戻す。小さな穴を開けて呼吸できるだけのスペースだけ確保して陽和は光輝を生き埋めにしたのだ。
『重吾、龍太郎、掘り起こすのは俺達が去ってからにしろ。こいつに今喋られたら不快だ。死にはしてないから、掘り起こしたら適当に回復させておけ』
「あ、ああ。分かった」
「お、おう」
重吾と龍太郎も今の醜態には庇おうとは思わなかったのか、陽和の言葉に戸惑いつつも頷いた。
そして、これでようやく出発の邪魔をするものがいなくなった…‥かと思えば、今度は檜山達が騒ぎ出した。曰く、二人の抜ける穴は大きすぎる。今度こそ死人が出るかもしれない。だから、どうか残ってくれと説得を繰り返す。特に、檜山の異議訴えが激しかった。
それでも香織と雫が頷くことはなく檜山達四人は二人の決意が固く困難だと知るや、今度は、ハジメを残留させようと説得をし始めたのだ。
「今までのことは謝る!これからは、仲良くしようぜ。な?」
と、檜山がふざけたことを抜かした。
思ってもいないくせに、馴れ馴れしく笑みを浮かべながらハジメの機嫌を伺う彼らに、ハジメだけでなく、雫達も不愉快そうな表情をしている。その中でただ一人が完全にキレた。
『ふざけるな』
「がっ!?」
陽和だ。彼は怒気を露わにすると、ゴキリと右手を鳴らしながら檜山達に右手を向ける。瞬間、檜山達の首元に赤光が纏わりつき宙へ持ち上がったのだ。
陽和が重力場を操作して作りだした見えない腕で檜山達の首を締め上げているのだ。
『あれだけ散々ハジメを虐めていたくせに、仲良くしようだと?ふざけるのも大概にしろ。それ以上ふざけたこと抜かすのなら、今度こそお前らの首を捻り潰すぞ』
「ひっ、ひぃぃぃ……」
酸欠と恐怖により顔を青ざめる檜山達は蓑虫のように空中で無様にもがくだけだった。誰も止めないのは、檜山達の言動に不快感を感じていたからだろう。
だが、意外な人物が介入してくる。他ならぬハジメだ。
「まぁ待てソル。そいつらはお前がわざわざ手を汚すような奴らじゃない。俺としては過去のことなんざどうでもいいし、殺す価値なんかないやつだ。お前が手を汚す必要はないぞ」
『だろうな。だから、これは俺個人の怒りだ。親友を蔑ろにしてきたくせに、掌を返すこのゴミどもを俺は許したくねぇ』
「親友冥利に尽きるな。つっても、檜山には聞きたいことがあるから、少し緩めてくれよ」
『…………チッ、分かった』
甚だ不本意だったがハジメの言葉に舌打ちをしつつも応じた陽和は檜山だけの拘束を緩める。呼吸ができたことで、激しく呼吸する檜山にハジメは口元に皮肉気な笑みを浮かべながら話しかけた。
「なぁ、檜山。火属性魔法の腕は上がったか?」
「……え?」
突然の質問に檜山がポカンとするが、質問の意図に気がつくと再び顔色を青ざめさせていった。
「な、何言ってんだ。俺は前衛だし……一番適性があるのは風だ」
「へぇ、てっきり火属性だと思っていたよ」
「か、勘違いだろ?いきなり、何言い出して……」
「じゃあ、好きなんだな。特に火球とか。思わず使っちゃうくらいにな?」
「………」
今や、檜山の顔色は青を通り越して白くなっていた。
その反応を見て、ハジメは確信する。そして、出ていこうとする香織への焦った態度から見て、その動機も察する。よく、今まで襲われなかったものだと、ハジメは香織をチラリと見やった。
ハジメ自身は、今更、復讐に身を焦がそうなどと言う気持ちを一切持ち合わせていない。敵対するなら容赦はしないが、そうでなければ放置の方針だった。檜山達の存在は、ハジメにとって、本当に路傍の石ほどにも価値がなかったのだ。
だから、あとは、怒りに燃える親友の好きにやらせよう。そう思いながら、ハジメは檜山達から背を向けると陽和の肩をポンと叩く。
「話は終わったから、あとは好きにしていいぞ」
『おう』
ハジメの承諾を得た陽和は仮面の下で獰猛に笑うと、檜山の拘束を再度強めながら四人を睥睨する。
『さて、ハジメの許可も降りたことだし、お前らはどうしてくれようか?ああ、安心しろ。殺しはしねぇから』
陽和はそう言うものの、檜山達は全く安心できなかった。なぜなら、現在進行形で首は絞められてるし、自分達を睨む陽和の眼光があまりにも恐ろしかったのだから。少しの思考ののち、陽和は何か考えついたのか、徐に竜聖剣を鞘から抜く。
まさか、斬り殺す気かと重吾達が慌てる中、陽和はヘスティアにイメージを送りつつ指示を出す。
(ヘスティア、戦斧)
『りょーかい』
軽い返事と共にヘスティアが淡い翡翠に輝き形を変化させて、巨大な戦斧へと形を変えたのだ。その戦斧は刃が象の頭ですら両断できそうなほどに広かった。
陽和はそれを何回か振り回して調子を確認すると、両手で構える。それは普通に使う時の構え方ではなく、ボールを打ち返すような構えだった。
重吾達が陽和がやろうとしていることに気づき、顔を青ざめる中、陽和は戦斧の刃の腹を檜山達に向けながら淡々と呟く。
『ハジメが気にしてないみたいだし、これぐらいで勘弁してやるよ』
そして片足を上げて、体を捻り、しっかりと踏み込んで!
『よっこら、せぇっ!』
勢いよく振り抜いて〜〜、インパクト!
檜山がまず戦斧に打ち据えられ、他三人を巻き込み骨が折れる音を響かせながら綺麗な放物線を描いて、町外れにある公園へと飛んでいった。
地球だったならまさにホームランと言いたくなるほどの綺麗な放物線だ。
まさか人間野球をするとは思っていなかったハジメ達が目を丸くする中、竜聖剣を剣形態に戻した陽和は仮面の下で実に清々しい笑みを浮かべる。
『ふー、スッキリしたぁ』
たった今、人間をホームランしたとは思えないほどに爽やかな声をあげた陽和は竜聖剣を鞘に戻しながら、重吾に振り向く。
『あいつらも適当に回収しといてくれ。多分、死んでないから』
「お、おう」
重吾は少し引き攣った笑みで頷く。だが、仲間達には好評だったらしく、セレリア達が笑いながら歩み寄る。
「いやいや、綺麗に吹っ飛ばしたなぁ。見ていて気分が良かった」
「ふふっ、因果応報というやつかのぅ。あれが主殿曰くざまぁと言うやつかえ?」
「ソルさんめちゃくちゃ爽やかですねぇ。あの人達のこと、そんなに嫌いだったんですかぁ?」
「……ん。もっとやれば良かったのに」
他の三人は楽しそうに見ていたが、ハジメスキーなユエさんはもっと重い罰をご所望だったらしい。だが、もう彼らは吹っ飛んだあと。態々あっちにいくのも面倒だったから、陽和はユエの頭をポンと叩きながら言う。
『まぁ視界から消えただけでも十分だろ。どうせもう町を出るんだから、気にするだけ無駄だ。ハジメも気にしてないしな』
「……ん」
陽和の言葉でユエは一応の納得を示してくれたらしい。そして、話も制裁も諸々片付いたのでさぁ出発しようとしたところで待ったがかかった。
「陽和、出発する前に、一つ聞きたいことがあるんだけどいいかしら?」
『ん?雫、どうした?』
雫へと振り返った陽和はそう問い返した。雫はセレリアとティオに観察するような視線を一瞬向けると、すぐに陽和へと戻し妙な圧のある表情で静かに尋ねた。
「ずっと気になってたんだけど、セレリアさんとティオさんとはどういう関係なのかしら?随分と仲がいいみたいだけど」
『……っ⁉︎』
いきなりの問いかけに陽和はビクッと体を震わせると、仮面の下でダラダラと冷や汗を流しながら、必死な様子で答える。
『ふ、二人は旅の途中で知り合った仲間だが?』
「それは分かってるわ。私が聞きたいのは、彼女達とどう言う関係なのか聞いてるの。セレリアさんには信頼を寄せられていて、ティオさんには主殿と呼ばれているわね。私はそれについて聞きたいのよ」
『そ、それはセレリアに関しては最初に出会った仲間でずっと背中を預けて戦ってきたからで……ティオは俺と同族で、俺の覚悟に敬意を評してくれて主殿って呼び方になったんだよ』
「そう、それは本当なのよね?」
『本当だ。俺がお前に嘘をつくと思うか?』
「………………」
雫が猛烈なジト目を陽和に向ける。確かに陽和が嘘を言ってるようには見えない。だが、全てを話しているとも思えない。何か隠している。とても重大な何かを。でなければ、ここまで焦るだろうか。
乙女の直感が、彼女としての直感が光り、間違いなく何かあると雫は確信した。それを確認すべく、雫はちらりと件の女性二人にも視線を向ける。
それは陽和の言葉が正しいのかという判定をするためだ。視線を向けられたセレリアとティオはピクッと小さく体を震わせるものの、真剣な表情を浮かべて彼女から一切視線を逸らさなかった。
「………………」
彼女達の様子からしても、陽和が嘘をついている様子はない。状況をかいつまんで説明はしているものの、彼女達の様子からして、彼が不貞を働いたということはないだろう。表情は強張っているものの、そこまでのことはきっとしてはいないだろう。何より、陽和は義理堅い人間だし、セレリアもティオもしっかりしてそうだ。恐らくは問題ない。
そう判断して、ここでは一先ずの納得をしようとした時だ。
あの子が、言ってしまった。
「お兄ちゃん達はとっても仲良しなの!この前は一緒に寝てたの!」
「「『ミュウっ!?』」」
『『『ッッ!?』』』
陽和、セレリア、ティオが悲鳴じみた叫び声をあげて、ミュウへとババっと勢いよく振り向き、ハジメ達がギョッとした顔でミュウを見る。
そう、暴露してしまったのはミュウ。
かつて純粋さが故に陽和の鋼鉄の理性を僅かにでも打ち崩したという偉業を打ち立てたミュウが、またしても純粋に言ってしまったのだ。
ハジメの抱っこされているミュウはもうこれでもかと明るい純真無垢な笑顔を浮かべており、ニッコニコな笑顔のまま更に暴露する。
「お兄ちゃんが二人に頭なでなでしたり、二人が腕絡めたりとかとっっっても仲良しだったの!!」
『ミュウ待て!まじでストップっ!!』
「あ、あとでお菓子あげるから今はお口チャックだ!いい子だから!」
「今は本当に待っておくれ!パパにおねだりでもしておくのじゃ!!」
更にとんでもない爆弾発言をかますミュウに三名が盛大に顔を青ざめながら、どうにか口を塞ごうとさせる。
しかし、ミュウはお兄ちゃん達の慌てる理由が心底分からないらしく、「ミュ?」と可愛らしく首を傾げるだけだった。
そして、もうミュウが言ってしまった時点で手遅れだ。彼女はバッチリと聞いてしまったのだから。
あれやこれやと手を尽くしてミュウを黙らせようとした三名は唐突に感じた悪寒にビクンッと体を震わせると、ギギギと震えながらそちらへと振り向く。
「……………ふふっ」
振り向いた先にいる雫は笑っていたけど、目が笑っていなかった。先程の香織と似たような感じだったが、それとは比にならない威圧感を放ちながら、雫は静かに微笑みながら口を開く。
「………ねぇ、陽和」
『っっ⁉︎は、はいっ、な、何でしょうか?』
ビクゥッと体を震わせる陽和はその場で背筋を伸ばしてピンと立って敬語になる。そんな彼に、雫は人差し指で足元の石畳を指しながら言う。
「とりあえず、そこに正座して」
『……うす』
「もちろん、貴女達もね」
「「は、はい」」
陽和は勿論、セレリアやティオもそれに逆らうことができなかった。なぜなら、彼女の背後に三面六手の鬼神が、その六本の腕全てに青い炎纏う刀を構えてゆらりとステンバイしていたから。
ゴゴゴという効果音が聞こえるような有無を言わさない迫力に、歴戦の猛者であるはずの彼らは逆らうことができなかったのだ。なので、三人揃って大人しく正座をする。
そうして事情聴取もとい、浮気調査が始まった。
正座させられている三人は雫は淡々と質問をしていく。彼らの関係性、どこで出会ったか、陽和は二人のことをどう思っているのか、セレリアやティオは陽和のことをどう思っているかなどかなり深い所まで切り開いていった。とはいえ、ここは一応まだ町の中であるため、あまり大っぴらにできない事情はしっかりと伏せてはいる。
しかし、それでも虚偽など許すわけもなく、三人は冷や汗を流しながら正直に質問に答えざるを得なかった。
それを少し離れたところで見ているハジメ達や重吾達は、パーティー最強とそれに準ずる実力を持つ陽和達を、言葉と威圧で跪かせている雫に戦慄の表情を向けており、女子達は例外なくガクブルしていた。
「………なぁ、気のせいか?八重樫の後ろに阿修羅見えるんだが。……しかも、六刀流の」
「……ん。私も見える。青い気炎纏ってる」
「あ、あの、ソルさんの後ろにも赤い竜がいて首筋に刀突きつけられてるように見えません?」
「見えるなぁ。何かあれば首が飛びそうだ。ちなみに、ティオとセレリアの後ろにも黒竜と銀狼が見えていて刀が添えられているなぁ」
「……ん。まさに修羅場」
「し、雫ちゃん、なんか怖い……」
「パパぁ〜、怖いのぉ」
腕を組んで三人を見下ろしながら淡々と質問をしていく雫の背後には三面六手の阿修羅の幻影がいて、陽和達の背後にもそれぞれ、赤竜、銀狼、黒竜の幻影があるのだが、阿修羅が構える六本の刀の内三本がそれぞれの首筋に突きつけられているのだ。虚偽あらば斬ると言わんばかりに構えられている青い炎纏う刀に、赤竜達は揃いも揃ってプルプルと哀れに震えているような幻影があった。
やばい。とにかくやばい。あの四人の中では雫は実力的には一番劣るはずなのに、既に格上である彼らを威圧してのけているのだ。
それは、これまでの旅路ではあり得ない光景であり、どちらかといえば叱る側の常識人枠の三人が、叱られていると言う光景にハジメ達は内心で自分達の上下関係の上に雫が君臨したように思えてしまったのだ。
親友である香織は雫のこれまで見なかった姿と威圧感に純粋に怯え、この状況を招いた元凶であるミュウは反省などするわけもなく、ハジメに抱きついてガクブルしている。
それからもしばらく雫による尋問は続き、情報を絞り出して自分なりに整理した雫は小さく息をついて頷いた。
「そう……つまり、ミュウちゃんのあの言葉は文字通りということなのね?」
『は、はい。添い寝のことです。それ以上のことはしてません。ほんと、マジで、信じてください』
「……じゃあ、一線は超えてないのね?」
『は、はい。超えてません』
ビクビクしながら陽和はそう答える。陽和の様子からして本当に手を出してはいないのだろう。むしろ、添い寝したのもその一度だけで、テロ組織を潰した際のご褒美だったことや、ミュウの純粋さに根負けしたということから不本意だったことは理解できた。
そして、雫の視線は次に後ろの二人に向けられる。そう、添い寝を強請った泥棒狼と下僕竜に。
「じゃあ、貴女達は陽和に好意があってそれでアプローチしてたってわけね。それで、添い寝もその一つだったと」
「言い訳はしない。割と苦労したから、頑張ったご褒美にと…強請った」
「妾もじゃ。セレリアと同じく、主殿に貢献した褒美をもらいたかっただけなのじゃ」
「そう……」
素直に認めた二人に雫は頷くと、しばし考え込む。それから、少しして彼女は二人に尋ねた。
「……じゃあ、最後に一つだけ。貴女達は私と陽和の恋人の座を賭けて争うつもりなのかしら?」
『っ、おいっ、しずっー』
スッと目を細めた雫は返答次第ではここで争うことも辞さないようだった。陽和がそれにやばいと感じて慌てて止めようとはいるものの、しかし、彼女の問いかけに二人はあっさりと答えた。
「いや、それはないな」
「それはないのじゃ」
「え?」
あまりにもあっさりとした問いかけに雫は拍子抜けを喰らったかのように目を丸くする。そんな彼女にセレリア達は自分達の考えを伝えた。
「確かに私はソルのことが好きだ。愛している。だが、それは貴女との絆を大事にしている彼だからこそだ。貴女を蹴落としてまで彼の恋人になろうとは思わん。なんなら、私は2番目でいいと思ってるからな」
「同感じゃな。そもそも、妾は主殿がお主と恋仲であることを承知で旅についてきた。妾もセレリアと同じく主殿が紡いだ縁を大事にしたいと思っておる。じゃから、妾は一番じゃなくても、側に置いてくれるのなら構わんのじゃよ」
「……………」
雫は彼女達の言い分にじっと二人を観察する。
二人の瞳はあまりにも真剣だ。どう見ても嘘を言っているようには見えない。本心からそう思っていっているのだと瞳が物語っていた。
そして、自分本位な恋ではなく、ちゃんと陽和や自分との関係のことまで考えて、その上で真摯に、誠実に陽和に想いをぶつけているのだと理解してしまった。
彼女はこの世界での恋愛観を思い出す。市民ならともかく、権威ある者達は往々にして一夫多妻の者が多いと言うことを。そう言う価値観だからこそ、恋人持ちだろうと関係なくアプローチしてもおかしくはないのだ。けれど、恋愛は一人対一人が雫の中では常識だ。だからこそ、彼女達の言葉は2番目で構わないと言われても些か抵抗が残っている。
しかしだ。
(ここで彼女達を拒んだら……陽和は悲しむわよね)
自分の恋人に言い寄るから嫌だと言うことはできる。でも、それをして仕舞えば、陽和が悲しむだろう。
だって、今までの聴取からでも陽和は彼女達を大切な仲間として信頼を寄せているし、洞窟でもセレリアの想いを大事にしていた。
背中を預けて共に戦ってきた彼女達の間には確かな絆があった。だから、彼女達を嫌うということは、その絆を、彼が紡いだ縁を否定するということ。それは、それだけはしたくなかった。
そこまで考えた雫は小さく息をついた。
「……はぁ……もういいわ。貴女達が陽和に好意を寄せているのは許可します」
「「『っっ!?』」」
まさかの雫から許可が降りたことに三人は揃って目を丸くする。そんな彼らに雫はやれやれとため息をついた。
「だって、この世界の価値観的にはそっちの方が普通でしょ?そ陽和はかっこいいもの。助けられたりとかしちゃったら、惚れちゃうのも仕方ないわ。それに、貴女達が本気で陽和に好意を寄せているのは理解したわ。一目惚れとかじゃなくて、彼の人柄に惚れ込んでいるのは、私も同じだしね」
そう言って肩をすくめる雫。自分もまた彼に惚れた動機が彼女達と同じく彼の人柄であるので、同じ動機で惚れた彼女達の気持ちは分かってしまうのだ。
それに正直なところ、ここで拒んで仕舞えば本気の戦いに戦わずして逃げると言うことであり、それをしてしまったら自分が情けなく小さい存在になってしまうんじゃないかと思ったのだ。まぁそれは絶対にここでは言わないが。
彼女達の気持ちに理解は示した。好意を寄せることも許した。しかし、その上で雫は彼女達にどうしても言っておかなければいけないことがあった。
「でも、貴女達に一つだけ言っておくわ」
「なんだ?」
「何かの?」
二人の問いかけに雫は穏やかな笑みを浮かべると、口を挟まずに傍観していた陽和に近寄ると、彼の前で中腰になり、彼の頭に手を伸ばすと、スッと仮面をずらして素顔をあらわにさせ、
『?しず、むぐっ」
「彼は私の恋人よ。振り向かせられるものなら、振り向かせてみなさい」
何かを言おうとした陽和を有無を言わさずにその豊かな胸元に抱き寄せながら、そう言い放ったのだ。
見せつけるように陽和を抱き寄せた雫の大胆な行動に、ガクブルしていたはずの女性陣が黄色い声をあげ、ハジメ達は「おぉ⁉︎」と修羅場からの惚気への転換に驚く。雫は誰をも魅了するような笑みを浮かべながら、更に言い放った。
「彼の『一番』も、『特別』も、私だけだから」
勝ち誇ったかのような笑みを浮かべ更に陽和を抱きしめる力を強めながら、そう言い放つ雫にセレリアとティオは正座しながらも怯んでしまう。
「こ、これが…正妻の余裕か」
「格の違いを見せつけられた気分なのじゃ」
二人から見た雫の女としての余裕は凄かったらしい。
なぜか、ハジメ達の方では香織がムカつくドヤ顔をしている。ユエやシアは雫の乙女っぷりにびっくりしていた。ハジメもハジメで学校では見たことがない雫のギャップに驚いていた。
そんな中、抱き寄せられている陽和はと言うと、
『……………』
抵抗どころか、言葉を発することすらしていなかった。
ただただされるがままに雫に抱き寄せられたままである。しかもめちゃくちゃ機嫌が良さそうだ。
心なしか幻影の赤竜が犬のように尻尾を振っているようにすら見える。どうやら、恋人が自分に独占欲を向けていることが無性に嬉しく、また恋人の温もりを堪能して幸福感を感じているようだ。
その温もりがナニかとは言わない。彼も思春期の男子高校生なのである。
それから雫は陽和を胸元から離してセレリア達の元へと歩み寄る。その際に陽和が名残惜しそうにしていたのだが、誰も気づかなかった。
「とにかく、これからよろしくね。セレリアさん、ティオさん。私のことは雫でいいわ」
「なら、私のことも呼び捨てで構わん。これからよろしくな、雫」
「妾もティオで構わぬよ。雫、よろしく頼むのじゃ」
セレリアとティオは立ち上がると雫と仲良く握手を交わす。しかし、彼女達の背後には再び幻影が出現して、吹雪を背負って氷纏う銀狼、黒雲を背負い炎を吐く黒竜、青い炎を纏い六本の刀を構える阿修羅が、三竦みで睨み合っていたのだ。
三人とも笑顔であるはずなのだが、バチバチと背後の幻影が睨み合っているから、全く微笑ましい光景ではなかった。そして、三人が妙に仲良くなったところで、そろそろ出発しようと言うことになり、香織と雫が宿に預けてある荷物を取りに行こうとしたとき、陽和が雫を呼び止める。
『雫、その、すまなかった』
「陽和?急にどうしたの?」
『いや、その、寂しい想いをさせていたのに、更に傷つけるような事をした。俺が不誠実だった。だから、本当にごめん』
そう言って陽和は頭を下げる。
セレリアやティオは大切な仲間であることには変わらない。だが、かと言って恋人が待っている身としては平手打ちをされてもおかしくないことを自分はしてしまった。自分のことを信じ待ってくれていた彼女に対して、それはあまりにも不誠実だ。故に、陽和は心からの謝罪をする。
そんな彼の謝罪に雫は微笑むと首を横に振る。
「いいえ、私も少し大人げなかったわ。それに実のところ、そこまで怒ってないの。ただ少し嫉妬してて意地悪をしちゃっただけ」
『雫……』
「だって私の知らない貴方を二人は知ってるから、それがちょっと羨ましかったの。だから、お互い様ってことにしましょ」
そう言って陽和を許した雫は「でも」と言って陽和に顔を近づけると、彼を見上げながら妖艶な笑みを浮かべて、
「……その代わり、しばらくは私に独占させてね」
そんなことを言い放ち、仮面にキスをしたのだ。
突然のことに硬直する彼をよそに、雫は悪戯が成功した子供のように笑うと、すぐさま離れて香織の後を追いかけていった。不意打ちを喰らいその場で立ち尽くす彼を置いて。
実に軽い足取りで走り去る雫をよそに陽和は微動だにしておらず、どうした?とハジメが恐る恐る近寄る。
「おい、どうした?」
『…………なぁ、ハジメ』
「あ?」
ハジメに声をかけられ漸く動いた陽和は、その場でしゃがむと仮面の上から顔を抑えながら悶えるように言った。
『……………俺の嫁可愛すぎんだが、どうすればいい?』
「知るか」
真剣な声音で言ったとは思えない内容に、親友のハジメは躊躇なくバッサリと切り捨てた。
▼△▼△▼△
それから少しして雫と香織はそれぞれ荷物を持って戻ってきた。その間に立ち直った陽和は見送りに来てくれた重吾達永山パーティーの面々と話をしていた。他には鈴や恵理などの女性陣もあり、報告を済ませて戻ってきたメルドもいた。
そして、ホルアドの入り口でハジメが出した魔力駆動四輪には、驚きを通り越して呆れの眼差しを向けていた。香織や雫が他の面々としばしの別れを惜しむ中、陽和も重吾やメルド達と別れの言葉を交わしていた。
ちなみに、龍太郎はせっせと光輝を掘り起こしている。半分ぐらいまで掘り起こせたようだ。
『それじゃあ、俺達はそろそろ行きます』
「ああ、今回のことは本当に助かった。お前がいなければ全滅していただろう」
『でしょうね。今回は本当に運が良かったです』
握手をしながら二人はそう話す。メルドは自身の恩人でもある教え子たる彼に誇らしさと同時に感謝の眼差しを向けている。陽和は仮面で表情が見えないが、メルドの救出が間に合って本当に安堵していた。
「お前の、お前達の旅の無事を微力ながら祈っている。どうか、お前達の目的が果たされることを願おう」
『ありがとうございます。貴方こそどうか平穏でいてください。全てが終われば共に酒でも酌み交わしましょう』
「ああ。お前とはまだだったからね。今から楽しみだ」
次の再会の時に酒を酌み交わす約束をすると、陽和は次に重吾に視線を向けた。
『重吾、引き続き任せたぞ。あのバカは信用ならんからな。お前が皆を引っ張っていけ』
「ああ、あれを見た後では流石にな。あそこまでだとは思わなかったからな、俺が気をつけておこう」
『任せたぞ。お前になら安心して任せられる』
重吾はいくら光輝が勇者でカリスマがあるとはいえ、今回の度重なる醜態は態度を改めざるを得なく、以前のように全面的に信頼してしまうことは避けようと結論を出した。龍太郎は親友だからこそ光輝を信じるのかもしれないが、他のメンバー達は光輝への疑心と不信が芽生えてしまったので自分が主導で守っていこうと彼は心に決めたのだ。
陽和もメルドもその考えには同意している。陽和はともかく、メルドは少し悲しそうだったが、光輝の抱える危うさは十分承知しているので、異論は挟まなかった。
そうして今後の方針を簡単にだが決めると陽和が徐に宝玉から魔法陣が刻まれた紙と文章が並ぶ紙を取り出して手渡した。
『ああ、そうだ。重吾、これ辻に渡しておいてくれ』
「ん?これは、何の魔法だ?」
『それは俺が開発した二つの回復魔法だ。一つは“ヒール・ブレス”でもう一つが“ディア・エイル”、メルド団長を回復する時に使った魔法だ』
「っっ、あれのことか。でも、いいのか?お前が編み出したものなんだろ?」
『別に問題はねぇよ。秘伝とかじゃないから好きに使え。効率化も済ませてあるし、魔法陣と詠唱文もその紙に書いてある。治癒師の天職を持つ辻なら十分に扱えるだろう。お前らの戦闘も少しは楽になるはずだ』
治癒師の香織が抜けてしまうことになる以上、前線での回復はもう一人の治癒師である辻にかかっている。腕こそ香織に劣るものの、それでも異世界人のスペック。この世界での治癒師よりは遥かに腕が上であり、彼女ならば問題なく扱うことができるだろう。
「ありがたいな。正直、かなり助かる。本当にお前には感謝しかない」
『いいって。俺とお前の仲だ』
重吾は笑みを浮かべながら素直に礼を言って、陽和が気にするなとヒラヒラと手を振った。
そうして重吾達が見送る中、陽和達一行はホルアドを後にして、次の目的地【グリューエン大砂漠】にある七大迷宮の一つ【グリューエン大火山】へと向かった。
はい。というわけで、ミュウちゃんやっちゃってくれました。
まさかの添い寝を陽和が明らかにして土下座するのではなく、ミュウが暴露して修羅場に持っていくという方向にしました。
そして、満を辞して雫のスタンド登場ー六刀流の阿修羅さんです。しかも、もれなく刀には青い炎を纏っているというオプション付きです。
更にセレリアとティオもスタンドを出現。こちらに関しては、彼女達の性質を色濃く出したものとなり、氷纏う銀狼と炎吐く黒竜となりました。
雫との修羅場に関しては、最後はあんな形で丸く納めるのが妥当かなだと思いました。もっとドロドロした展開でも良かったんですけど、雫の性格的にドロドロまではいかないかなぁと思って今回の展開にしました。
ドロドロにいくのは般若さんを出現させたヤンデレ崎さんでしょうからね。清楚乙女を地でいく雫にドロドロは似合いません。
そして、ここから少しネタを挟みます。
第一次恋の修羅場大戦の勝敗結果。
『雫の一人勝ち』
(正妻の乙女力がチートだったため)
というわけで、次話は光輝達残留組の話を書いてから、いよいよグリューエン大火山へと向かうことになります。
これからも、引き続きこの作品をよろしくお願いします!!
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