感想欄で指摘があったので、こちらで雫の新衣装について説明を。
ベースはタマミツネ希少種の装備にしていて、カラーリングは陽和の紅白と対照的な青白色です。脚と腕の装備は藍色ベースに色を変えて、腰に関しては希少種の腰装備が一番近いかと思います。
上着に関しては、モンハンと違って袖なしとなっており、具体的なイメージとしてはFGOの巴御前の第三再臨のような肩から先が露出してるものをイメージしていただければいいかと。そして、その上から武士が身につけていたような小さめの肩当てを装着している感じです。
完全に私の好みです。ハイ。
というわけで、新衣装説明はこのぐらいにして、最新話どうぞ!!
オアシスの底より現れたのは、体長10mで無数の触手をうねらせ、赤く輝く魔石を持っているスライム型の魔物だった。
「なんだ……この魔物は一体なんなんだ?バチュラム……なのか?」
『バチュラムなのは確かですが、普通のバチュラムではないでしょうね』
バチュラムとはトータスに存在するスライム型の魔物なのだがサイズは体長1mが精々で、水を汚染する毒素をもってるなんて聞いたことがない。
もっとも、このバチュラムがどんな存在なのかを陽和はすぐに思い至った。
(まぁ十中八九、魔人族の変成魔法なんだろうな)
『むしろそれしかないだろう。変成魔法は可能な範囲であれば、何にでも改造できる。毒素を付与することなど造作もないことだろう』
『それにしても、中々面白い魔物を作ったねぇ。毒素を排出するバチュラム。成程水場ではタチが悪いね』
陽和達はこのバチュラムを突然変異体とかではなく、魔人族の変成魔法を施された魔物だと判断する。それはこれまでの経験則からなる推測によるものだ。陽和がそんなことを考えている間にも、バチュラムは怒り心頭といった様子で触手を伸ばして攻撃してくるが、雫とティオが水刃と炎で応戦しており、後ろのランズィ達に攻撃を届かせないようにしている。
陽和も核と思しき赤い魔石へと向けて雷炎槍を連射するものの、魔石はまるで意志を持っているかのように自由自在に動き回っており回避していて、スライムの流体を抉るだけに留まっていた。しかも、スライムらしく抉られて穴が空いた部分はすぐに塞がり修復してしまった。
それを観察していた陽和は「ふむ」と頷くと、唐突に攻撃をやめた。突然の攻撃停止にその場の全員が疑問に思い訝しむ中、陽和は雫へと視線を向ける。
『雫、お前がやってみろ』
「え?」
『俺は手を出さない。ティオもだ。雫、お前が一人で奴を倒すんだ』
3人で手を合わせて戦えばいいはずなのに、あえて彼女一人に戦わせようとしている陽和の言葉にランズィ達はどうしてだ?と疑惑の視線を向けるが、ティオだけは陽和の意図に気付いたのかくすりと小さく笑みを浮かべていた。
『水場はお前のフィールドだ。それをうまく活かしてあのバチュラムを倒せ。大丈夫、お前ならやれる。それに、危なくなったら俺がフォローする。遠慮なく実力を試していいぞ』
「……っそういうことね。ええ、いいわ。私に任せて」
雫もまた陽和の意図を理解すると笑みを浮かべながら龍刀・薄明を構えながら一歩陽和達の前に進み出る。
陽和は逆に少し下がりながらティオに声をかける。
『さて、ティオ少し下がるぞ。雫の邪魔になる』
「ふふ、承知じゃ。ほれ、領主殿と部下達も彼女の邪魔をしたくなければ、下がるのじゃ」
ティオは踵を返すとランズィ達を促す。だが、いきなりそんなことを言われて彼らが納得するわけがない。当然抗議の声を上げた。
「ま、待ってくれ!なぜわざわざ彼女一人に戦わせる⁉︎ソルレウス殿たちも加勢すれば良いのではないか⁉︎その方が確実に倒せるはずだ!一人では危険だ!」
ランズィの言い分は何一つとして間違ってはいない。陽和やティオが加勢すればあの程度の魔物はすぐに倒せるだろう。
だというのに、あえて雫一人に戦わせようとしているのが理解できなかったのだ。それは部下達も同意で困惑の眼差しを陽和に向けている。
だが、陽和はそんな彼らの疑問に鼻で笑いながら、平然と返した。
『はっ、危険?何を言ってるんですか?』
そう言うと、陽和は視線を前に戻して仮面の下で瞳を細めながら、自身ありげな表情で笑みを浮かべはっきりと告げる。
『俺の恋人は、あの程度の魔物にやられるほど柔じゃない』
その視線の先では、雫がたった一人で水の触手の猛攻を完全に捌き切っていた。
「———“流水剣舞”」
剣術の派生技能である“流水剣舞”。
流れる水の如き流麗さで舞を踊るように剣を振るう技能によって薄明を目にも留まらぬ速度で振るい宙に青の軌跡を生みながら襲いかかる触手の悉くを切り裂いていったのだ。
ランズィ達は予想外な光景に目をぱちくりさせる。
陽和やティオは予想通りだと言わんばかりに笑っていた。そんな中、雫は次の攻撃に移行する。
「———“水刃・乱れ咲き”」
薄明に纏わせた瑠璃色の魔力光を一層強く輝かせながら彼女は一言呟き、薄明を目にも止まらぬ速度で振るう。
そうすれば無数の水刃が薄明より放たれバチュラムへと殺到する。小さいながらも圧倒的な切れ味を有する水刃の雨はバチュラムを容赦なく切り裂いていきバラバラにしていった。
宙に無数の水の塊が浮かび上がり、水面へと落ちていく中、雫は薄明を納刀しながら腰に構えて、オアシスへと飛び込み、
「水面を滑ってるだとっ⁉︎」
ランズィが今日何度目かもわからない驚愕の声を上げる。部下達も口々に驚く中、陽和はほくそ笑んだ。
(流石雫。理解が早いな)
これこそ陽和が意図していたことだ。
雫は水竜として転生したことで水属性魔法に類稀な適性が生じた。水の操作に関してはユエを凌ぐほどであり、水属性魔法は彼女の剣術に並ぶ強みへと昇華した。
そこで、陽和は彼女に一つの戦い方を提案した。
それは自身が魔法で生み出した水だけでなく、湖や海などの水すらも利用するという戦法だ。
それは、解放者が一人メイル・メルジーネの戦い方を知っていたが故のもの。
彼女は神代魔法の一つ再生魔法の使い手なのだが、そもそも彼女は海人族であり水属性魔法が得意であった。水のアーチを宙に生み出し、中を泳ぐことで高速移動を可能にしたりと、怪我人の回収運搬なども可能としており水属性魔法の操作能力が凄まじく高いのだ。
それをドライグの記憶を通して知っていた陽和は雫に戦い方の幅を増やす為に提案しており、連日深夜、水属性魔法の鍛錬に付き合っていたのだ。
この水面滑走もその一つであり、滑走するだけでなく、走ることも可能なので水上においては雫は誰よりも早く移動することができるのだ。
なお、以前川で行ったこの高速移動を見たハジメと香織はというと、『『艦こ◯とかアズ◯ンの移動法だ』』と異口同音に呟いていたりする。雫もそれらを知っているが故に、苦笑いを浮かべていた。
今回陽和が雫に任せたのは、彼女の水属性魔法の実戦経験を積ませる為だ。これまで陽和の監督の元着実に水属性魔法を使いこなしつつあったものの、肝心の水場を利用した戦いはしていなかった。
その点、今回のこのバチュラムはいい練習相手になる。彼女一人でも十分に対処できる程度の魔物、オアシスという広大な水場。竜人の力を試すには絶好の相手だ。
そして、彼女の狙いはバチュラムの魔石の移動手段を封じること。全身を切り刻み小さな水塊へとバラバラにすることで核の魔石の回避先を無くす。そうすることで、再生する前に核をピンポイントで切り裂く。そういう作戦を組み立てて彼女は行動に移った。
だが、これには一つ問題がある。
(っ、流石に再生は早いわね)
それは流体が故にすぐに繋がり再生してしまい元の巨体を取り戻してしまうこと。
現に雫がバチュラムの目前まで迫った時には既に半分ほどの流体が繋がっており、再び雫へと触手を伸ばしてきたのだ。
「———“水天海廊”」
だが、この程度の弾幕はすでに障害ではない。水の槍を連射して触手を相殺した雫は、バチュラムの周囲を取り囲むように水のアーチを生み出すと、その上を滑り三次元的機動を行いながら全方位から水槍の連射を続ける。
マシンガンが如き連射にバチュラムは触手で防ごうとするものの、伸ばした先から潰されていき今や防戦一方だった。
そこに雫は極大の一撃を叩き込む。
「“極大・水刃”」
薄明より放たれたのは、巨大な水刃。それはバチュラムの流体を上下半分に断ち切り、あまりの衝撃に上部が宙に浮かび上がった。
雫は更に水の刃を振るっていき上部をバラバラにしていき、一際大きな水塊の中に核を閉じ込めると、薄明を納刀し抜刀術の構えを取りながら水のアーチを蹴り、宙に浮かぶ水塊すらも足場にして駆け上がって一瞬にして核へと肉薄すると、
「居合奥義———“雨斬”」
静かな声音と共に青が煌めき、神速の居合が解き放たれ、核を寸分違わずに両断してみせた。
両断された魔石は雫によって細切れに切り刻まれ、同時にバチュラムを構成していた水も力を失って水へと戻った。
ドザァーと大量の水が降り注ぐ音を響かせながら、激しく波立つオアシスを見つめるランズィ達は恐る恐ると呟く。
「……終わった、のかね?」
『はい。もうオアシスに魔力反応はありません。無事討伐に成功しました』
陽和の言葉に、自分達アンカジを滅亡の危機に陥れた元凶が、あっさりと撃退されたことにまるで狐につまれたような気分になるランズィ達。彼らが呆然とする中、水面を緩やかに滑走して雫が戻ってきて陸地に足を下ろした。
『お疲れ、見事な戦いぶりだった』
「ええ、貴方の期待に応えられて何よりだわ」
労う陽和に雫はやりきったと息を吐きながら表情を綻ばせた。ティオも彼女に近づくと微笑みながら彼女の戦いぶりを称賛する。
「中々見事な戦いじゃったぞ。元々の資質もあるじゃろうが、それでもすぐにあんなにも戦えるものは我が里でもそうおらん。流石は主殿が認めた強者じゃな」
「ありがとう、ティオさん。貴女にそう言ってもらえると光栄だわ」
ティオの賞賛に雫は少し照れくさそうに笑う。既に雫にとってティオは竜人としての先輩でもあり、博識な姿から尊敬に値する存在だ。同じ男を好いている者同士ということで話も合うらしく、雫はセレリアやティオともかなり打ち解けていた。
そして、ランズィは雫達が語らう傍らで、慌てて部下の一人に指示を出して水質の鑑定を行う。だが、
「どうだ?」
「……いえ、汚染されたままです」
ランズィの期待するような声音に、しかし部下は落胆した様子で首を振る。元凶は排除できたものの、一度汚染された水は残ってしまうという事実に、やはり落胆が隠せなかった。
「まぁ、そう気を落とすでない。元凶がいなくなった以上、これ以上汚染が進むことはない。新鮮な水は地下水脈からいくらでも湧き出るのじゃから、上手く汚染水を排出してやれば、そう遠くないうちに元のオアシスを取り戻せよう」
今までは水底にバチュラムが居た事で汚染された水が湧き出ているも同然だったが、その元凶が取り除かれたとなれば、地下水脈からあふれるのはただの新鮮な水だ。
それならば後はオアシスに溜まっている汚染された水を取り除けば良いだけの事。汚染の原因が判らずに先が見えない状況に比べればましだと、ティオの言葉にランズィ達はすぐさま気を取り直す。
「……しかし、あのバチュラムらしき魔物は一体なんだったのか……新種の魔物が地下水脈から流れ込みでもしたのだろうか?」
『いえ、あれは魔人族の仕業でしょうね』
「⁉︎魔人族だと?ソルレウス殿、貴殿がそういうからには思い当たることがあるのだな?」
新たな水源確保、汚染原因の排除、病人達の治療をそれぞれ請け負ってくれたパーティーのリーダーである陽和に、ランズィは敬意と信頼を持ったようで、最初の胡乱な眼差しはもはや微塵もなかった、
陽和は過去にウルの町で『豊穣の女神』愛子が狙われたことや、オルクス大迷宮で勇者一行を襲ったことがあることを説明して、結論を伝える。
『アンカジは海鮮系食料供給の中継点であり、その他の食料の供給も多大であることから、食料に関して最大の要所であり、弱点でもあります。供給路を潰すという点と立地的に救援を呼びにくい点から、魔人族が狙わない理由はないでしょう』
食糧関係において要所なのもそうだが、大砂漠のど真ん中という地理的な要素からも救援を呼びにくい、増援も向かいにくいという敵側にしては得にしかならない為、潰すに越したことはない。
そう伝えると、彼は低く唸り声をあげて苦い表情を見せた。
「魔物のことは聞き及んでいる。こちらでも独自に調査はしていたが……よもや、あんなものまで使役できるようになっているとは……見通しが甘かったか」
『こればかりは仕方ないかと思います。王都では新種の魔物の話など出ていないでしょうし、勇者一行も、ウルの町の件も1ヶ月以内の話です。今は情報の精査の段階かと思います。ですが、正直に言えば先手を打たれたというしかないでしょう』
「いよいよ、本格的に動き出したということか……ソルレウス殿……貴殿は冒険者と名乗っていたが……その強さ、やはり雫殿や香織殿と同じ……」
『さぁ、どうでしょうかね』
陽和が肩を竦めてそう返すと、ランズィは何か事情があるのだろうとそれ以上の詮索を止める。
どんな事情があろうとアンカジが陽和達に救われたことに変わりはない。恩人に対しては、無用な詮索をするよりやるべき事がある。
「……ソルレウス殿、雫殿、ティオ殿。アンカジ公国領主ランズィ・フォウワード・ゼンゲンは、国を代表して礼を言う。この国は貴殿等に救われた」
そう言うと、ランズィを含め彼等の部下達も深々と頭を下げた。領主たる者がそう簡単に頭を下げるべきではないのだが、陽和が何者であるかなど関わらず、きっと、ランズィは頭を下げただろう。
ほんの少しの付き合いしかないが、それでも彼の愛国心が並々ならぬものであると理解できる。その上、彼らにとっての心臓にも等しいオアシスの汚染原因を除去してくれたのだ。命を救われたに等しい行為に恩を感じるのは当然なのだろう。
だからこそ、周囲の部下達もランズィの行為を止めるどころか、一緒に頭を下げているのだ。この辺りは、息子にもしっかり受け継がれていて、仕草も言動もそっくりだった。
そんな彼等に、陽和は仮面の下でニッコリと微笑み、
『では、いずれ活気あるアンカジの姿を見せてください。砂漠の民の笑う姿をみれるのなら、それで十分ですので』
自分達はできることをやっただけ、この砂漠の民が笑えるのならば、それが最高の報酬だ。それを臆面もなく清々しく言い切った陽和に、救国に対する礼の他に、要望があれば可能な範囲で応えようと思っていたランズィは予想外な返答にぽかんと目を丸くするものの、数秒後には感激に満ちた笑みを浮かべる。
「ああ、ああっ、いずれ貴殿らに活気に満ちたアンカジの姿を必ず見せると約束しよう。ソルレウス殿、改めて感謝する」
『お気持ちはありがたく頂戴します。ですが、まだですよ。オアシスの汚染も、患者の治療もまだなんですから。それらが完了して初めて救国は果たされます』
「そ、それはそうだな。……では、早速で悪いのだが、患者はまだ大勢いる。そちらも頼めるだろうか?」
陽和の発言で気を引き締め直したランズィは政治家として、また一貴族としていずれ盛大に礼をしようと心の中で密かに誓いつつ、患者達を救う為、改めて静因石の採取を依頼した。
『そちらも引き受けましょう。もともと、私達は大火山に用があったので、静因石の採取は任せてください。ちなみに、どれくらい必要かなどリストにまとめたものはありますか?』
「もちろんだ。こちらを確認して欲しい」
快く引き受けてくれた陽和に胸を撫で下ろしたランズィは部下が持っていた現在の患者数と静因石の必要な採取量をまとめた書類を渡す。
相当な量であるものの、陽和やハジメには宝物庫がある為、この量でも問題なく運べる。
本来ならば多くの冒険者に依頼せねばならないものを、彼らならば問題なく引き受けてくれたことに、これで多くの患者を救うことができると、ランズィは彼らとの出会いを神に感謝した。
▼△▼△▼△
その後、水源を確保したハジメ達と合流した陽和達は香織とシアがいる治療院へと向かった。
医療院では、香織がシアを伴って獅子奮迅の活躍を見せていた。緊急性の高い患者から魔力を一斉に抜き取っては魔晶石にストックし、半径十メートル以内に集めた患者の病の進行を一斉に遅らせ、同時に衰弱を回復させるよう回復魔法も行使していた。
シアは動けない患者達を、その剛力をもって一気に運んでいた。しかも、その運び方が馬車を走らせるのではなく、馬車に詰めた患者達を馬車ごと持ち上げて、建物の上をピョンピョン飛び跳ねながら他の施設を行ったり来たりするという方法なのだ。
緊急性の高い患者は、香織が各施設を移動するより、集めて一気に処置した方が効率的だからと理にはかなってはいるのだが、非力なはずのウサミミ少女の有り得ない光景に、それを見た者は自分も病気にかかって幻覚を見始めたのだと絶望して医療院に駆け込むという姿が多々見られたので、余計に医療院が混乱するという弊害も発生してしまっていたのだ。
とはいえ、医療院の職員達は、上級魔法を連発したり、複数の回復魔法を当たり前のように同時行使する香織の姿に、驚愕を通り越すと深い尊敬の念を抱いたようで、今や、全員が香織の指示のもと患者達の治療に当たっていた。
陽和達がそんな八面六臂の活躍をする香織達の元に合流する。医療院のスタッフや患者達が、一緒にやってきたランズィに頭を垂れようとしたのだが、それを手で制したランズィは声を張り上げた。
「皆の者、聞け!たった今、オアシスを汚染していた原因が排除された!時間はかかるかもしれないが、我らのオアシスが戻ってくるぞ!加えて、水の確保もなった!救援が来るまで、十分に持つ量だ。さらに、ここにいる金ランクの冒険者達が、静因石の採取依頼を引き受けてくれた!あと数日だ。踏ん張れ!気力を奮い立たせ、この難局を共に乗り切ろう!」
心地よいランズィのバリトンボイスが民達の耳によく響いた。流石は、北大陸の要所を治める貴族というべきだろう。その演説には確かに力が宿っていた。
誰もが、一瞬何を言っているんだろうと戸惑ったように硬直していたが、領主の晴れやかな表情でその言葉の意味を理解した瞬間、建物が震えるほどの大歓声が上がる。
多くの人が亡くなり、砂漠の真ん中で安全な水も確保できず、絶望に包まれていた人達が笑顔を取り戻し始めた。
患者や家族達は互いに抱き合い、安堵に涙を流し、医療院のスタッフは仲間と肩を叩き合い、気合を入れ直している。大勢が陽和達の協力に感謝を捧げた。
そのとき、ランズィがチラリと陽和を見たのに気がついた陽和は、その意図を察して仮面の下で笑う。
『なかなかに気合の入る演出をやってくれましたね。ですが、まぁ、これを見せられては俄然やる気が湧きましたよ』
「ふふ、その意気でどうか頼む。我らアンカジの命運、貴殿らに託した」
ポンと肩を叩いてしてやったりという風な笑みを浮かべるランズィに陽和もまた笑みを返す。
『いいでしょう。アンカジの命運、確かに託されました。私達が成し遂げましょう』
「ああ、頼んだぞ」
ランズィに力強く頷いた陽和は、少し離れたところでハジメと何か言葉を交わしている香織に歩み寄った。
『香織、あとどれくらいなら持ち堪えられる?』
「ソル君、私の治療なら2日は持たせられるよ」
香織は大迷宮攻略には参加せずに、治療院に残り患者の治療を続けることにしたそうだ。
そして、治療を続けたとしても2日。それが香織の魔力的にも、患者の体力的にも、持たせられる限界のようだ。
香織の結論を聞いた陽和は一つ頷くと、袖をまくりながら周囲で寝かせられている患者へと視線を向けながら呟く。
『そうか、分かった。なら、出発までの間俺も少しだけ手伝おう。出発は30分後だ。それまで各々装備を整えて準備しておけ。そこの職員さん、まだ処置が済んでいない重症患者のところへ案内してくれ』
「あ、はい!分かりました!」
出発は30分後と決めて、陽和はそれまでの間に香織の負担を減らすべく応急処置を手伝うことにしたのだ。
ビィズの補足であらかじめ陽和も類稀な回復魔法の使い手だと聞かされていた職員は陽和の頼みにすぐに頷き、特に危ない状態の患者のもとへと案内していく。
雫、ティオ、セレリアが彼の手伝いをするべく着いていく中、ハジメと香織は再び会話をしていた。それを尻目に、陽和は重症患者が寝かされているエリアに案内された。
案内された場所では等間隔にベッドが並べられており、香織の指示を受けたのだろう。テキパキと職員が動いていた。だが、まだ処置が済んでいないからか、彼らは一様に苦しそうな表情であり、まさに今際の際といった様子だった。
「これは、酷いわね」
「じゃな、はやく応急処置をせねば手遅れになるのぅ」
「ああ、それに見た限りでは全員発熱が酷い。氷嚢を用意しなければまずいな」
『雫、セレリアは水と氷を出してスタッフ達の手伝いをしてくれ。ティオも二人のサポートだ』
雫とセレリアに水と氷塊を出させて患者の発熱を抑えさせる処置をさせて、ティオにそのサポートを行わせる。
陽和は患者達を見渡しながら無限回復の技能を発動する。
『———“女神の契り”』
直後、翡翠の輝きが陽和の全身から解き放たれる。職員達や香織達が何事かと振り向く中、陽和は両腕に紅白の輝きも宿しながら、足元に植物の蔓と花が浮かぶ魔法陣を出現させる。
『数が数だし全員危険な状態だからな。少々強引に行こう。纏めて癒す。———“廻聖”、“ディア・エイル”』
発動したのは、ビィズにも施した“廻聖”と完全回復魔法“ディア・エイル”だ。
ビィズに施した魔力抽出を行いながら、重症であり瀬戸際であるためにより効果の高い“ディア・エイル”で肉体の衰弱そのものすら癒していく。
紅白と翡翠の輝きが患者達の体を包み込み、蛍火の如し魔力粒子を両手の宝玉に吸収していきながら、陽和は重症患者の肉体を癒していく。
その様子に、十数個のバケツに冷たい水を補充させるのを手伝っていた雫は感嘆の声を上げる。
「何度見てもすごい回復魔法。なんでもありね」
「主殿は我々のリーダー兼ヒーラーでもあるしのぅ。香織には悪いが、彼こそ現在の世界最高のヒーラーじゃろう」
「同意だ。あいつの回復魔法はまさにチートってやつだろうな。しかも、無限回復の技能もあるから、魔力切れを気にする必要もない」
「……ほんと、滅茶苦茶ね」
治癒師の天職を持たないはずなのに、治癒師をも上回るほどの回復出力を見せつける陽和の技量の高さに、雫は改めてとんでもない男が自分の恋人なのだと理解した。
「あはっ、あはははははっ」
「ふふっ、ふふふふふふっ」
それから少し治療を続けた時、不意に医療院に不気味な笑い声が二つこだまする。陽和達が揃ってそちらへと振り向けば、その視線の先では香織とユエが笑い声を上げながら睨み合っていたのだ。
しかも、香織の背後には刀を振り回す般若がいて、ユエの背後にも暗雲と雷を纏う龍がいるのだ。目を逸らしたくなるような異様な光景に、既に周囲の職員達や患者達はドン引きして、全力で目を逸らしていた。
こんな時に女の戦いを繰り広げる二人に、陽和は呆れた少女を浮かべる。
『……あいつらは何やってるんだ。こんな時に』
「……香織ったら、今は恋敵バトルしてる場合じゃないでしょ」
雫も自分の親友が患者そっちのけで恋敵と女の戦いをしている有様に額に手を当てて頭痛を堪えるような仕草をする。
なんか親友が予想外な方向へ突き進みかけていることに、親友としてちょっと心配になってきたのだ。
ティオとセレリアも言葉にはしなかったものの、呆れているのは確かだった。
その時だ、流石に見かねたのだろう。ハジメが香織とユエにデコピンを炸裂させて鎮圧する。しかし、一度は沈静化したものの、再びヒートアップして修羅場になってしまった。ハジメの目が遠くなる。
「やれやれ、あいつらはよく飽きないな。もう少し仲良くできないのか?」
「どうじゃろうなぁ。ユエにとって初めてのライバルとも言えるからのぅ。どうにかマウントを取りたいのじゃろう」
「マウントって正妻の余裕を見せる気はないのか?」
「どうじゃろうなぁ」
セレリアとティオが呆れながらもその修羅場を楽しんでいる。しかし、周囲にいるランズィ達は修羅場に置いてけぼりで、シアは「最近影が薄い気がしますぅ」と己の状況を省み中で、ハジメに抱っこされているミュウは、またユエと香織が喧嘩しているとお怒りモードだった。そして、ハジメはというと事態の収拾を諦めてしまい、ミュウの世話をランズィに頼んでいた。
流石に大迷宮にミュウは連れていくことはできないので、香織と共に留守番をさせることになっている。ハジメ達の関係に苦笑い気味のランズィは、快くミュウの世話を引き受けた。
その後、女の戦いを繰り広げる二人は陽和の拳骨を受け、陽和と雫の二人から説教を頂戴するハメになった。
そして、30分が過ぎいよいよ出発の時間になった頃、出発を雰囲気で察したミュウは寂しそうに顔を俯かせてしまう。ハジメは膝をついてミュウと目線を合わせ、ゆっくり頭を撫でた。
「ミュウ、行ってくる。いい子で留守番してるんだぞ?」
「うぅ、いい子してるの。だから、早く帰ってきて欲しいの、パパ」
「ああ、出来るだけ早く帰る」
服の裾をギュッと両手で握り締め、泣くのを我慢するミュウと、それを優しく宥めるハジメの姿は、種族など関係なく、誰が見ても親子だった。
修羅場と説教により冷えた空気がほんわかと暖かくなる。ハジメはミュウの背中を押し、香織の方へ行かせた。その傍で香織は雫の手を握って見送りの言葉を送る。
「雫ちゃん、私は残るけど大迷宮気をつけてね」
「ええ、香織も一人で大変だろうけど頑張ってね。私達もなるべく早く攻略して戻るわ」
「うん、私待ってるから。ちゃんと戻ってきてね」
「勿論よ」
手を取り合いながら仲睦まじくお互いを案じるその姿は側から見れば背後に百合の花が咲き誇っているように見えており、職員達はなんとな〜く直視できずに視線を逸らしてしまい、本来の恋人であるはずの陽和が「俺が雫の彼氏なのに…」と何とも言えない表情を浮かべてしまっている。ハジメ達も「これが百合空間か」と独自空間の展開にちょっと驚いている。
その後、百合百合しいオーラを無意識のうちに出してしまっている二人は周囲の反応に気づかないまま別れを済まして、雫は陽和たちのところへ、香織はハジメの方へと振り向くと声をかけた。
「あ、ハジメくん……その、いってらっしゃい」
「お、おう、ミュウの事頼んだぞ」
「うん……それで、その……キス、ダメかな?いってらっしゃいのキス……みたいな」
「……ダメに決まっているだろ。ていうか何だいきなり」
「ほっぺでもいいよ?ダメ?」
香織が、頬を染めてもじもじしつつも、意外な程強い声音でそんな事をいう。どうやら、ユエに対抗していくには、こういう時に引いてはならないと考えているらしい。
今、思えば、日本にいた時も割かし積極的だった気がするが、自分の好意を自覚し告白した後の香織は、本当にグイグイと押してくる。
ハジメの背後で「あっ、じゃあ私も!」と声を上げるウサミミをスルーして、ハジメが、きっぱり断ろうとすると、まさかの相手に機先を制された。
「ミュウも~。ミュウもパパとチュウする!」
無邪気に手を伸ばして来るミュウに、便乗する香織。ハジメが、色々言って躱そうとするが(ミュウには強くは言えない)、遂には、
「パパは、ミュウが嫌いなの?」
と、涙目でそんな事を言われてはグゥの音も出ない。
陽和はそれを見て「分かるぞ。ミュウのその顔には勝てないよなぁ」とかつてミュウの純粋さに負けた者として嬉しそうに頷いていた。
結局、香織とミュウ、そして何故かシアと互いの頬にキスをすることになり、今度は、多くの患者が倒れている中で、生暖かな視線を向けられてしまう。
しかも、出入り口で待つ陽和、雫、セレリア、ティオからも生暖かい視線を向けられてしまい、ハジメは逃げるようにブリーゼへと乗り込んで【グリューエン大火山】へと出発するのだった。
▼△▼△▼△
【グリューエン大火山】
それは、【アンカジ公国】より北方に進んだ先、約100キロの位置に存在している。
見た目は直径約50キロメートル、標高三千メートルほどの巨石だ。普通の成層火山のような円錐状の山ではなく、いわゆる溶岩円頂丘のように平べったい形をしており、山というより巨大な丘と表現するほうが相応しい。ただ、その標高と規模が並外れているだけだ。
この【グリューエン大火山】は、七大迷宮の一つとして周知されているが、【オルクス大迷宮】のように、冒険者が頻繁に訪れるということはない。それは、内部の危険性と厄介さ、そして【オルクス大迷宮】の魔物のように魔石回収のうまみが少ないから……というのもあるが、一番の理由は、まず入口にたどり着ける者が少ないからである。
その原因が、
「……まるでラピュ○だな」
「……ラ○ュタ?」
「「確かに」」
思わず、日本を代表する名作アニメのワンシーンを思い出し呟いたハジメに、ユエ達異世界組が首を傾げ、地球組が同意だと頷く。
ユエ達の疑問顔に肩を竦めたハジメは、ブリーゼの車内から前方の巨大な渦巻く砂嵐を見上げた。
そう、【グリューエン大火山】は、かの天空の城を包み込む巨大積乱雲のように、巨大な渦巻く砂嵐に包まれているのだ。
その規模は、【グリューエン大火山】をすっぽりと覆って完全に姿を隠すほどで、砂嵐の竜巻というより流動する壁と行ったほうがしっくりくる。
しかも、この砂嵐の中にはサンドワームや他の魔物も多数潜んでおり、視界すら確保が難しい中で容赦なく奇襲を仕掛けてくるというのだ。
並みの実力者達では【グリューエン大火山】を包む砂嵐すら突破できないというのも納得だ。
「つくづく、徒歩でなくて良かったですぅ」
「流石の妾も、生身でここは入りたくないのぉ」
「本当にブリーゼ様々だなぁ」
ハジメと同じく窓から巨大砂嵐を眺めるシア、ティオ、セレリアも、ブリーゼに感謝感謝と拝んでいる。その時、巨大砂嵐を見上げる陽和が一つ提案をする。
「ハジメ、ここからは俺が竜化して頂上まで運んだ方がよくないか?」
「は?お前、あの砂嵐を飛行で突破するつもりか?」
突然の提案にハジメがバックミラー越しに何を言ってるんだと咎める視線を向ける。
「そうよ。ブリーゼがあるんだし、態々貴方が竜化して突破することはないわ」
他の者達も疑問顔を向け、雫も無理にすることはないと言う中、陽和は答える。
「ここの大迷宮の入り口は頂上だ。ドライグの記憶を見た限り、頂上までの途中まではブリーゼで進めるがそこからは徒歩になる。それに、砂嵐を進むなら魔物達も相手にしなくちゃいけない。それなら、俺が竜化してブリーゼごと運んでいけば魔物達の相手もしなくていいし、徒歩で登山をしなくてもいい。ショートカットできるなら楽した方がいいだろ?」
『そうだな。この砂嵐は相棒ならば突破も容易い。障害もない上に登山もしなくていいのなら、相棒に運んでもらうべきだと思うぞ』
陽和とドライグの正論にティオ達は「確かに…」と頷く。
いかに壁と見紛うほどの巨大砂嵐でも陽和の飛翔能力ならば突破できるし、飛行する分、地上の魔物達は相手にしなくていい。更にこの炎天下の中登山までしなくていいのならば、これ以上に楽な話はないだろう。
陽和の提案に思案顔を浮かべるハジメは少し考えた後、ブリーゼを砂嵐の手前で停車させると陽和の提案を了承した。
「まぁ、確かにお前の言うとおりだな。じゃあ、早速頼んでいいか?」
「ああ、ちょっと待ってろ」
そう言って陽和はブリーゼを覆うように結界を展開して砂が車内に入らないようにすると、ブリーゼから降りて早速竜化をする。
「“竜帝化”」
『Welsh Dragon Balance Breaker‼︎‼︎‼︎』
力強い音声が響き、彼の全身から紅蓮の輝きが解き放たれるとその中から、赤銅色の砂漠よりも更に赤い紅蓮色の竜が姿を現した。
『グゥルルルルゥゥ』
砂漠の赤銅色よりも、赤い鮮やかな紅蓮色の竜鱗を陽光に煌めかせながら、ズシンと砂漠に降り立った陽和は体をブルルルと振りつつ、翼を広げてパタパタと動かした。
「あれが……竜化した陽和の姿、なのね……」
ユエ達はこの竜の姿は見慣れたもので、特になんの反応を示さなかったが、ロマン好き人間のハジメは何度でも見飽きないようで赤竜の姿に子供のように目を輝かせている。
赤竜になった姿を見たことがなかった雫は初めて見る堂々たる威容に思わず見惚れていた。ティオが見惚れている雫に嬉しそうに声をかける。
「ふふふ、壮観じゃろう?あれが主殿のもう一つのお姿。我らが帝王、赤竜帝のお姿じゃ」
「え、ええ、話には聞いていたけれどとても迫力のある姿だわ。ハジメとティオがあそこまで熱弁するのも当然ね」
雫は竜と化した姿を見たことはなかったが、それがどんな姿かはティオやハジメからこれでもかと聞かされており、ティオは竜人族の王への憧れ、ハジメは男のロマンへの憧れからそれはもうとてつもない熱量で陽和の竜化した姿のかっこよさを熱弁しており、流石に恥ずかしいと陽和に止められたほどだったのだ。
『よし、行くぞ。ちゃんと捕まってろよ』
赤竜と変化した陽和はそう言うとブリーゼに片腕を伸ばしておもちゃを持つように上から掴む。
そして、翼を大きく広げて羽ばたかせると咆哮を上げながら両脚と片腕で砂漠を蹴り空へと飛び上がり砂嵐へと突っ込んだ。
砂嵐の内部は、まさしく赤銅一色に塗りつぶされた閉じた世界だった。ハルツィナ大樹海の霧のように、先が見えないが砂嵐の分、物理的影響は大樹海よりも大きい。
ここを抜けるには魔法の障壁や体を覆う布などで魔物を警戒しなければならず、それは至難の業だ。
太陽の光がほとんど届かない薄暗い中を翼を羽ばたかせながら悠然と突き進む。
陽和の巨体は砂嵐の中で熱砂に打ち付けられているがそれは何の障害にもならず、吹き荒れる暴風をものともせずに突き進む。
『それでいい。風を強く意識しろ。この砂嵐の中なら無理に自らの力のみで飛ぶのではなく、風を翼で捉えて最小限の力で飛ぶんだ。風が大空へと導いてくれる』
『わかった』
ドライグが砂嵐の中を飛ぶ際の翼の動きを適宜指示していく。陽和はそれを素直に聞き入れながら、翼の角度をしきりに調整しながら砂嵐の中を飛翔して高度をぐんぐんと上昇させていく。
『うっわぁ、ボクは実感したことがないからわからないけど、この砂嵐の中飛ぶのは大変じゃないかい?』
『そうでもない。我々竜とは天空の覇者だ。その王がこの程度の砂嵐を飛べないなど威厳に関わるほどだ。慣れてきたらもっと早く飛んでもいいほどだ』
『そんなものなのかい?』
『こればかりはプライドの問題だな』
『ハハハ、流石ドライグの言葉は重みが違うなぁ。手厳しい』
どうやらドライグの中ではこの砂嵐の中でも飛べて当たり前らしい。陽和はそれを聞きながら、流石は竜の王と呼ばれる存在だと思うと同時に、手厳しいなと苦笑いしてしまう。
「すげぇな。遊園地のアトラクション乗ってるみてぇだ。迫力が桁違いだ」
「そうね。砂嵐の中、ドラゴンに運ばれながら空を飛ぶなんてそれこそゲームやアトラクションの中じゃないと経験できないもの」
景色が砂嵐の中だけと言う限定された状況ではあるものの、某魔法使いのアトラクションや、某夢の国での空を旅するアトラクションを彷彿とさせる光景に、ハジメと雫、地球組は若干興奮を隠しきれていない。
ブリーゼの中であり、尚且つシートベルトもしっかりしているため、車内で振り回されると言うことはない上、陽和が安全に運んでくれるので、ハジメ達は勿論のこと、ユエ達も全員完全にお気楽モードでドラゴンタクシーを楽しんでいた。
それからしばらくして、特に危なげなく巨大砂嵐を突破し、ボバッ!と音を立てて砂嵐を抜け出た陽和達の目には青空の景色が映った。
どうやら竜巻の目にいるようだが、横を見ても砂嵐の壁が見えるだけで、不意に下を見れば数百メートルは下にエアーズロックを巨大化させたような岩山が見えた。
どうやら、砂嵐の中で相当な高度を上昇していたようでグリューエン大火山を見下ろせる位置に飛び出したようだ。
『ん?あ、あれか。ハジメ、入口見つけたぞ』
「あったか。じゃあそこに降りてくれ」
頂上には大小様々な岩石が無造作に乱立しており、その中に群を抜いて大きな岩石ー歪にアーチを形作る十メートルほどの岩石だ。それを陽和が上空から発見したのだ。
そして、アーチ状の岩石の前に陽和はズシンと降り立つとブリーゼをそっと優しく下ろした。車内にいたハジメ達がブリーゼから降りてくる。
「うわぅ……あ、あついですっ」
「ん〜………」
「確かにな。……砂漠の日照りによる暑さとはまた違う暑さだな」
「………これは、早めに攻略しなければ、私は倒れてしまいそうだ」
「ふむ、妾はむしろ適温なのじゃが……まぁ普通は暑さで応えるのかもしれんのぉ」
「……私もこれはきついわ。今すぐに水に浸かりたいぐらいよ」
外に出た途端、襲いきた熱気に、ティオと陽和以外の全員がうんざりとした表情になる。
冷房の効いた快適空間にいた弊害で、より暑く感じてしまうというのもあるだろうが、異世界の冒険者、あるいは旅人だというのに、現代日本の引きこもりのような苦悩を味わっているのは……自業自得としか言えない。
最後に降りた雫は平然とするティオにうんざりした表情のままそう返すと、赤竜状態の陽和に近づき労う。
「陽和、私達のこと運んでくれてありがとうね。とっても楽に頂上まで来れたわ」
『グルルルゥ♪』
手を伸ばして下顎を撫でながら礼を言う雫に陽和は露骨に機嫌をよくしたのか、猫のように気持ちよさそうに喉を鳴らし、犬のように尻尾をブンブン揺らし喜びを表現していた。
その様子を見ていたハジメは思わず呟く。
「………忠犬と飼い主かよ」
ハジメとつけた例えに全員がうんうんと頷いた。
雫はお姉様やオカンなどのあだ名がつけられているが、今日この日新たに『飼い主』というあだ名がつけられることになった。ちなみに、雫に褒められる時の陽和は『忠犬』のようになるとも追記しておく。
「おーい、お前ら、そろそろ行くぞー」
「っ、ええ、分かったわ!」
『おう』
ブリーゼをしまったハジメは二人に声を張り上げる。雫が振り返り、陽和が竜化を解除して彼女の隣に降り立つと仲良く横並びになりながら駆け足でハジメ達の元へと向かった。
そして、アーチ状の岩石の下に向かえば、そこには【グリューエン大火山】内部へと続く大きな階段を発見した。陽和は階段の手前で立ち止まると肩越しに背後に控えている仲間達の気合に満ちた顔を見やり、自信に満ちた笑みを浮かべると一言、大迷宮挑戦の号令をかけた。
「よし行くぞ。攻略開始だ!」
「ええ!」
「おう!」
「うむっ!」
「ああっ!」
「んっ!」
「はいです!」
異性のいい返事を聞いた陽和は階段へと足を踏み出して、仲間達と共に【グリューエン大火山】攻略を開始した。
雫ちゃんが初手からだいぶ強いですけど、まぁ元々神の使徒として実戦経験は積んでますし、眷属転生後は陽和の監督の元魔法と剣術を上手く複合させた戦い方を練習していたので、転生後初の魔物相手の実戦でもこれぐらい戦えてもなんらおかしくないです。
なお、水面滑走の移動の仕方に関しては、まさに艦これやアズールレーンのキャラ達の移動法と全く同じです。艤装はないけど、代わりに水属性魔法で滑っています。