竜帝と魔王の異世界冒険譚   作:桐谷 アキト

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53話 灼熱彩る炎獄の魔窟

 

 

 

【グリューエン大火山】の内部は、【オルクス大迷宮】や【ライセン大迷宮】以上に、とんでもない場所だった。

 

難易度の話ではなく、内部の構造が、とんでもなかった。

 

まず、マグマが宙を流れているのだ。

フェアベルゲンのように空中に水路を作って水を流しているのではなく、マグマが宙に浮いて、そのまま川のような流れを作っている。空中をうねりながら真っ赤に赤熱化したマグマが流れていく様は、まるで巨大な龍が飛び交っているようだった。

また、そんな環境のため、当然、通路や広間のいたるところにもマグマが流れており、迷宮に挑む者は地面のマグマと、頭上のマグマの両方に注意する必要があった。

 

更に、

 

「うきゃ!」

「おっと、大丈夫か?」

「はう、有難うございます、ハジメさん。いきなりマグマが噴き出してくるなんて……察知できませんでした」

 

と、シアが言うように、壁のいたるところから唐突にマグマが噴き出してくるのである。本当に突然な上に、事前の兆候もないので察知が難しい。まさに天然のブービートラップだった。ハジメが〝熱源感知〟を持っていたのは幸いだ。それが無ければ、警戒のため慎重に進まざるを得ず攻略スピードが相当落ちているところだった。

そして、なにより厳しいのが、茹だるような暑さ――もとい熱さだ。通路や広間のいたるところにマグマが流れているのだから当たり前ではあるのだが、まるでサウナの中にでもいるような、あるいは熱したフライパンの上にでもいるような気分である。【グリューエン大火山】の最大限に厄介な要素だった。

 

ハジメ達がダラダラと汗をかきながら、天井付近を流れるマグマから滴り落ちてくる雫や噴き出すマグマをかわしつつ進んでいると、とある広間で、あちこち人為的に削られている場所を発見した。

ツルハシか何かで砕きでもしたのかボロボロと削れているのだが、その壁の一部から薄い桃色の小さな鉱石が覗いていた。

 

「お?あれが静因石だな」

「うむ、間違いないぞ、主殿よ」

 

陽和の確認するような言葉に、知識深いティオが同意する。どうやら、この広間は砂嵐を突破して【グリューエン大火山】に入れる冒険者の発掘場所のようだ。

それを示すように、

 

「……小さい」

「ほかの場所も小石サイズばっかりですね……」

 

残されている静因石は、ほとんどが小指の先以下のものばかりだった。ほとんど採られ尽くしたというのもある上に、サイズそのものも小さい。

 

「この量だと作れても数人分だな。やはり、深層にいかないと大量採取は望めないな」

「ここだともう採り尽くされてしまったのね」

 

やはり表層部分では、静因石回収の効率が悪すぎるようで、一気に、大量に手に入れるには深部に行く必要があるようだ。これまではこういった広間で細々と回収していたのだろう。

その後も、ハジメの“鉱物系探査”を使って微量ながらも静因石を回収していき、暑さに辟易しながら、七階層ほど下に降りた。

記録に残っている冒険者達が降りた最高階層だ。そこから先に進んだ者で生きて戻った者はいない。その事実に気を引き締めつつ、八階層へ続く階段を降りきった瞬間、強烈な熱風に煽られたかと思うと、突如陽和達の眼前に巨大な火炎が襲いかかった。オレンジ色の壁が螺旋を描きながら突き進んできた。

 

「おっと」

 

そんな火炎に対して、炎やマグマ全般を無効化できる為に先頭を歩いていた陽和が軽い様子で口をガパッと開いた。

人など簡単に消し炭にできそうな死の炎は、陽和が火花一つ残さず吸い込んでいき後ろには一切通させなかった。

陽和は“全属性耐性”の派生技能の一つに“炎熱吸収”というものがあり、炎や熱を吸収し魔力に変換できるのだ。その為、この火炎砲撃は陽和にとっては飲み水にも等しく、火炎を全て飲み込んでしまった。炎を呑み込みゴクンと喉を鳴らした陽和は炎の味に感想を溢す。

 

「ふぅ、味はそこそこだな。大迷宮なんだからもう少し上質な炎用意しといてくれよ」

「いやいやそれは無茶振りすぎるわよ。というか、炎って味とかあるの?どれでも同じじゃないの?」

「魔力の質とか成分によって変わるぞ?水とかも水質で味変わるだろ?それと同じだ。その点、ユエやティオの炎は美味いからいくらでも食えるな」

「……マジもんの滅竜◯導士じゃねぇか」

「……確かにね」

 

某人気漫画でドラゴンと同一の特性を宿し、竜殺しの魔法を使う特殊な魔導士の存在を思い出しハジメは眉をひくつかせてしまう。雫も漫画のキャラと全く同じことをした陽和に、同じ感想を抱いてしまう。

ユエ達も何度見てもやはり人が炎を食う光景はなれないなと苦笑いを浮かべてしまう。

 

「それはともかく、どうやらアレが襲撃者の正体みたいだぞ?」

 

陽和が指を差した方向には襲撃者の正体が見えており、それは雄牛だった。全身にマグマを纏わせ、立っている場所もマグマの中だ。鋭い二本の曲線を描く角を生やしており、口から呼吸のたびに炎を吐き出している。耐熱性どころか炎無効化できるだろと思わざるを得ない魔物だった。

マグマ牛は、自身の火炎砲撃をあっさり喰われたことに腹を立てたのか、足元のマグマを飛び散らせながら、突進の構えをとっている。

そんなマグマ牛に陽和が正面からぶった斬ろうと竜聖剣を抜こうとした時、シアが待ったをかけた。

 

「陽和さん、私にやらしてください!」

 

既にドリュッケンを手にしているシアは、気合十分な感じで鼻息を荒くしている。

積極的なシアの様子に陽和は最近つけてもらった新機能を試したいんだろうなぁと内心で察して、了承の意を示して頷く。

 

「いいぞ、やってこい」

「よっしゃーですぅ!殺ったるですぅ!」

 

蛮族じみた気合いの声を上げると、トットッと軽くステップを踏み、既に突進を開始し迫ってきているマグマ牛に向かって飛びかかる。

体を空中で一回転させ遠心力をたっぷり乗せると、正面から突っ込んできたマグマ牛に絶妙なタイミングでドリュッケンを振り下ろす。狙い違わず、振り下ろされたドリュッケンは、吸い込まれるようにマグマ牛の頭部に直撃した。と、その瞬間、直撃した部分を中心にして淡青色の魔力の波紋が広がり、次いで、凄まじい衝撃が発生。マグマ牛の頭部がまるで爆破でもされたかのように弾けとんだ。

シアは、打ち付けたドリュッケンを支点にして空中で再び一回転すると、そのまま慣性にしたがって崩れ落ちながら地を滑るマグマ牛を飛び越えて華麗に着地を決めた。

 

「お、おうぅ。ハジメさん、やった本人である私が引くくらいすごい威力ですよ、この新機能」

「ああ、みたいだな……〝衝撃変換〟、どんなもんかと思ったが、なかなか……」

「ミンチよりもエグいなぁ。頭が木っ端微塵に吹き飛んだぞ」

 

機能を実装したハジメだけでなく、陽和達も思わずドン引きの声をあげてしまうぐらい、なかなかの威力だった。

それは、ハジメが口にした“衝撃変換”という固有魔法のおかげだ。

これは、かつて【オルクス大迷宮】で陽和が怒りのままにミンチにした馬頭の魔物アハトドの能力だ。

三体目のアハトドをミンチにした陽和はハジメに食わせたら能力獲得できるなと気づき、こっそりと肉片を回収していて、後日ハジメに食わせたのだ。

ステータスは目立つほど上昇しなかったものの、お目当てである固有魔法は獲得することができ、それを生成魔法で鉱石に付与してドリュッケンに組み込んだのだ。

 

その後、先を急いだ陽和達は階層を下がるごとにバリュエーションが増える魔物達に次々と遭遇していった。

マグマを翼から撒き散らすコウモリ型の魔物。壁を溶かして飛び出てくる赤熱化したウツボモドキ。炎の針を無数に飛ばしてくるハリネズミ型の魔物。マグマの中から顔だけ出し、マグマを纏った舌をムチのように振るうカメレオン型の魔物。頭上の重力を無視したマグマの川を泳ぐ、やはり赤熱化した蛇など、やはりというべきか全ての魔物が炎を纏ってそれを武器にしていた。

 

生半可な魔法では纏うマグマか赤熱化した肉体で無効化してしまう上に、そこかしこに流れるマグマを隠れ蓑に奇襲を仕掛けてくる魔物は厄介なこと極まりなかった。なにせ、魔物の方は、体当りするだけでも人相手なら致命傷を負わせることが出来る上に、周囲のマグマを利用した攻撃も多く、武器は無限大と言っていい状況。更に、いざとなればマグマに逃げることもでき、それだけで安全を確保出来てしまうのだ。

例え、砂嵐を突破できるだけの力をもった冒険者でも、魔物が出る八階層以降に降りて戻れなかったというのも頷ける。しかも、それらの魔物は、倒しても魔石の大きさや質自体は【オルクス大迷宮】の四十層レベルの魔物のそれと対して変わりがなく、貴重な鉱物である静因石も表層のものとほとんど変わらないという割に合わなすぎる内容であれば、挑戦しようという者がいないのも頷ける話だ。

もっとも、炎熱を完全無効化できる陽和の前には雑魚に等しく、雷や風、光属性魔法をメインに悉くを駆逐していった。今回の迷宮攻略での最大の功労者は陽和で決まりだ。

そして、陽和とティオ以外にとってなにより厄介なのは、刻一刻と増していく暑さだ。

 

「はぁはぁ……暑いですぅ」

「……シア、暑いと思うから暑い。流れているのは唯の水……ほら、涼しい、ふふ」

「むっ、ハジメよ!ユエが壊れかけておるのじゃ!目が虚ろになっておる!」

「……今すぐに水風呂に飛び込みたい気分だわ」

「うぅ……暑いぃ、水を浴びたいぃ」

「こっちではセレリアがグロッキーになってる。ここらで一度休憩にしよう」

 

炎熱や暑さに強い陽和やティオ以外全員がダウン状態だった。一応、冷房用アーティファクトをフル稼働しているのだが、この熱気の前ではまさに焼け石に水だ。とめどなく滝のような汗が流れており、ユエとシアは意識が朦朧とし始めている。セレリアは更に酷く、もうグロッキー状態で辛うじて歩けている状態だった。

雫やハジメはまだマシだがお互いに汗だくなのには変わりなく、陽和が休憩をするべきだと提案した。

広間に出るとハジメにマグマから離れている壁に穴を開けて、休憩用の空間を作りユエ達を招き入れてマグマの熱気が直接届かないようにしつつ、マグマの噴射にも襲われないように安全を確保させる。

 

「ふぅ……ユエ、セレリア、氷塊を出してくれ。でないと、致命的なミスを犯しそうだ」

「ん……了解」

「……分かった」

 

ユエとセレリアが虚な目をしながら、何とか部屋の中央に巨大な氷塊を出現させて、陽和とティオが気を利かせた風を吹かせて部屋全体に冷えた空気を行き渡るようにして部屋を一気に冷やしていく。

 

「はぅあ〜、涼しいですぅ〜、生き返りますぅ〜」

「……ふみゅ〜」

「はぁ〜、快適ねぇ」

「…………」

 

女の子座りで崩れ落ちたユエ、シアが目を細めてふにゃりとする。タレユエとタレシアの爆誕だ。

雫も冷気を浴びて心地よさに顔を蕩けさせながら、体の力を抜いた。セレリアはもはや言葉を発することすらできずに、氷塊に抱きつくように密着している。狼耳と尻尾がへにゃりと垂れていて、氷に頬を当てているその表情はこれでもかと緩み切っていた。

 

「ユエ、シア、だれるのはいいけど汗くらいは拭いておけよ。冷えすぎると動きが鈍るからな」

「……ン〜」

「了解ですぅ〜」

 

間延びした声でのろのろとタオルを広げて体を拭くユエとシアを横目に、陽和も雫とセレリアにタオルを手渡す。

 

「ほら、雫とセレリアもタオルで拭いておけ。セレリアはともかく、雫は冷えすぎると体に悪いからな」

「ええ、ありがとう」

「……んぁ〜」

「セレリアがやばいな。雫、拭くのを手伝ってやってくれ」

「承知よ。任せて」

「妾も手伝おう。ほれ、セレリア腕を上げよ」

「……うぅ〜」

 

雫は普通にタオルを受け取って首の辺りを拭いていたものの、セレリアがまだぐったりとしておりタオルを受け取っても微動だにしなくなってしまった。

よほど参ってるなと苦笑いを浮かべた陽和は、雫に介抱を頼むと壁に腰を下ろした。ティオもセレリアの介抱に参加して体を拭くのを手伝う中、ハジメに声をかける。

 

「妾や主殿はともかく、ハジメはまだ余裕そうじゃの?」

「いや、お前らほどじゃない。流石に、この暑さはやばい。もっといい冷房系のアーティファクトを揃えておくんだった……てか、こんな暑さでも大して汗かかねぇ辺り、流石は炎の竜ってところか」

 

ハジメがネクタイを緩めてタオルで首元の汗を拭きながら、二人に視線を向けてそう言う。彼の指摘通り、ティオはこんな暑さの中でも意識が朦朧とするどころか多少の汗ですんでおり、まさしく自然体だった。

陽和に至っては汗一つかいておらず、快適空間にいるかのように余裕でくつろいでいるほどだった。

集中力も健在である為、探索では先頭が陽和、最後尾をティオが務めて仲間達に被害が及ばないようにしていた。

 

「俺もティオも火炎を操る竜だからな。この程度の炎熱でどうこうなるわけがない。まぁ俺に限っては炎熱は全部無効化できるし、吸収もできるからな」

「もっとも、ここの大迷宮のコンセプトからすればイカサマもいいところじゃがな」

 

ティオの発言にハジメが首を傾げた。

 

「コンセプト?」

「ああ、大迷宮にはそれぞれ解放者からの教えが込められてる。【オルクス大迷宮】は各地で集めた生成魔法以外を除く全ての神代魔法を使って、バリュエーション豊かな魔物との実戦経験の積み重ねによる鍛錬を目的とし、【ライセン大迷宮】では、魔力が使えない状況でのあらゆる攻撃への対応力や突破力。そして、ここ【グリューエン大火山】では暑さにより集中力が阻害される中で、いかに奇襲に対処できるかというコンセプトがあるんだ」

『大迷宮は総じて神に抗うための力を身につける試練の場所だ。七つの大迷宮でそれぞれ神との戦いを想定した環境を用意しており、エヒトに対抗する為に必要な経験値や能力を養うためのものだ』

「………そういえば、前にそんなことを話してたな。攻略することに変わりはないから、深くは考えなかったが、改めて考えてみりゃ確かにその通りだ」

 

陽和とドライグによって伝えられた大迷宮のコンセプトと存在意義に「なるほど」と頷くハジメ。解放者との関わりがあり、大迷宮製造の目的も知っているドライグや、彼を通じて全てを知っている陽和は、最初から全てを教えてくれることはなかったが、こうして状況の合間に説明はしてくれるので、とても参考になる。

もっとも、ハジメは「攻略情報あんなら最初に教えてくれよ」と当初文句を言ったのだが、陽和は「それだとお前達の成長につながらないだろう?折角の冒険だ。発見する楽しみもある、兎に角考え続けろ」と、ハジメ達の成長を考えて、情報を小出しにしていくスタンスを変えることはなかった。もっとも、陽和にそう言われたハジメは「なら、やってやるよ」と俄然やる気を滾らせていたりする。

 

そうして話を聞き納得したハジメから視線を外して、なんとなくセレリアへと視線を向けた。セレリアはあぐらをかいて氷に背をあずけているのだが、現在彼女はパーカーを脱ぎタンクトップ姿なのだ。元々ヘソ出しのスタイルであり、胸元も顕になっていてとにかく露出が多かったのだが、今はそれに加えて流れ落ちる大粒の汗がタンクトップを濡らして豊満な乳房に張り付いてしまっている為、普段よりも形がはっきりとしてしまっている。呼吸のたびに揺れる巨乳を直視できず、陽和はすっと無言で視線を逸らしたのだが、その先にはティオがいて、はだけさせた胸の谷間に汗が流れ落ちて消える色気ある姿を見てしまい、更になんとなーく視線を逸らしてしまう。

 

だが、更に視線を逸らした先には雫がいて、彼女も汗を拭っており、その光景に目が離せなくなった。

汗を拭くためにはだけさせた胸元は、ほんのりと赤みを帯びていて色気をはなっていた。さらには、今の彼女は肩当てを外しているため、肩と二の腕は剥き出しになっており、脇やわずかに横乳すらも見えてしまっているのだ。ただでさえ白磁で透き通った肌なのに、それが汗に濡れて光る様は酷く艶かしくて、全身から滴る汗、上気した肌、濡れて張り付いた髪や着物、熱のこもった荒い吐息。彼女を構成する要素一つ一つが魅力的であり、もの凄い色気を放っていた。

 

「「…!!」」

 

目を逸らすことも忘れて凝視している陽和の視線に、雫が気づかないはずもなく、雫はこちらへと視線を向けてきてバッチリと目が合う。雫の艶姿に見惚れてたのは明白であり、陽和はバツが悪そうに目を逸らすが時折雫をチラチラと見てしまう。それをバッチリと見てしまった雫は、一気に顔を赤くさせて視線を逸らすものの、自分が手に持つタオルと陽和を交互に見ながら、恐る恐るとタオルを持つ手を陽和の方へと伸ばし、陽和が無言のまま受け取ろうとした時だ。

 

「お・ふ・た・り・と・も!少しはTPOを弁えて下さい!先を急いでいる上に、ここは大迷宮なんですよ!もうっ!ほんとにもうっ!」

「「っっ⁉︎⁉︎」」

 

シアの抗議の声に二人はビクゥッと弾かれたように跳ねて、手をそれぞれ戻してしまう。そして、恐る恐るシアを見るものの、彼女の視線は自分達にではなくハジメとユエに向けられていた。

どうやら、今の抗議の声はハジメがユエの首筋に手を伸ばして汗を拭こうとしたのを止めようとしたらしい。

 

((……や、やばかった))

 

二人はシアの言葉により正気に戻り、もう少しで理性が吹っ飛びそうだった有様を猛省する。シアが声を上げなければ、間違いなく止まれなかったので、内心でホッと安堵していた。

 

「いや、まぁ、何だ。しょうがないだろ?ユエがエロかったんだ。無視できるはずがない」

「……ジッと見てくるハジメが可愛くて」

「反省って言葉知ってます?大体、どうしてハジメさんは私を見ないんですか。すぐ隣で私もきわどい格好していたのに……ぐすっ、自信なくしますよぉ~。ねぇ、ティオさん、セレリアさんもそう思いますよね?」

「ふふっ、まぁ二人は相思相愛じゃから仕方ないじゃろう。とはいえ、妾は主殿が胸に少し反応しておったので、それで満足じゃ。くふふ」

「…‥私も、陽和が胸を見ていたのには気付いたからな。それでよしとするさ」

 

ティオの胸元を流れる汗やセレリアの揺れる胸を、陽和が見ていたことはバッチリバレていたらしく、二人は揃って満足げに笑っていた。

そして、暑さからだいぶ回復したセレリアはニヤリと笑うと、陽和と雫へと視線を向けながら、揶揄うように呟く。

 

「………まぁ、当の陽和は恋人に見惚れていて手を出す寸前だったがなぁ。シアの声で弾かれたように戻ったぞ」

「じゃなぁ、二人の世界に浸って雫からタオルを受け取り拭こうとしておった。じゃが、それだけで終わるような雰囲気でもなかったのぅ」

 

どうやら二人の艶姿を見ていたことがバレていただけでなく、雫とのやり取りもガッツリと見られていたらしい。

再度ビクッと体を揺らした二人は揃って顔を赤くして、ハジメ達の生暖かい視線から逃れるように顔を背ける。雫はタオルを顔に押し付けて体育座りのまま膝に顔を埋め、陽和は口元を手で隠して真横に視線を背けた。

だが、二人とも耳が真っ赤なので誤魔化しようがなく、全員からのニヤニヤを頂戴してしまった。

その二人の初々しいやりとりを見たシアが、「お二人が羨ましいですぅ!ハジメさぁん!私のことも拭いてくださいっ!!」と怒りだし、先ほどのTPO発言を忘れて、ハジメの前で脱ぎ出したのだ。ティオが慌てて止めるものの、止まらなかったのでハジメが取り敢えずゴム弾を発砲して黙らせた。

胸をモロ出ししてのたうつシアを前に、ハジメはユエの汗を拭いつつ、ここに香織がいなくてよかったと内心で安心した。

 

なお、指摘されてしまった陽和と雫はというと、それっきり休憩が終わるまで口を開くことはなく、いざ出発しようとして目が合った時は、顔を赤くして恥ずかしそうに顔を逸らしてしまうほどだった。

その様子を見て、ハジメ達が再び生暖かい視線を向けたのは言うまでもない。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

『それじゃあ、ハジメ。言い訳を聞こうか』

「大量にあったのでついやってしまいました。反省してます」

 

【グリューエン大火山】。推定五十層。

なぜ推定なのかは、とあるハプニングにより具体的な階層を把握できていないからである。そして、赤竜状態へと変化した陽和がそう問いかけて、陽和の頭の上で正座するハジメがそんな返答をしていた。

 

なぜこんな状況なのかと言うと、端的に言えばハジメがミスをしたのだ。

 

少し前の階層で攻略しながらも静因石を探していたハジメ達は、自分達を炙り続けるマグマが時々不自然な動きを見せていることに気がついた。

岩などで流れを邪魔されているわけでもないのに大きく流れが変わっていたり、何もないのに流れが急激に遅くなっていたり、宙を流れるマグマでは一部だけ大量にマグマが滴り落ちていたり、と普通ならばありえない動きをしていた。

大抵、それは通路から離れたマグマの対岸だったり、攻略の障害にはならなかったので気にも止めていなかったのだが、たまたま〝鉱物系探査〟の効果範囲にその場所が入り、その不自然な動きが〝静因石〟を原因としていることが判明したのである。

 

陽和の解説を聞けば静因石は魔力を鎮静化する効果があることから、魔力が込められたものの流れを阻害することができ、この不自然な流れはマグマに込められた魔力を静因石が沈静化させているからこそ起きているのだと答えた。

だから、マグマの流れが不自然なところには静因石が大量にあると伝えれば、ハジメが早速探し、その結果、確かに大量の〝静因石〟が埋まっている場所を多数発見したのである。

マグマの動きに注意しながら、相当な量の〝静因石〟を集めたハジメ達は、予備用にもう少しだけ集めておこうと、とある場所に向かった。

そこは、宙に流れるマグマが大きく壁を迂回するように流れている場所だった。ハジメが錬成を使って即席の階段を作成して近寄り、〝鉱物系探査〟を使うと充分な量の〝静因石〟が埋まっていることがわかったのだ。

早速、錬成の〝鉱物分離〟を使い静因石だけを回収するハジメだったが、ここで致命的なミスを引き起こす。

 

静因石を取り除くと言うことは、阻害されていたマグマの流れが元に戻ると言うことだ。それは少し考えればわかることなのだが、暑さによる集中力の低下と何度も繰り返した〝静因石〟の回収に油断があったのか、壁の向こう側がどうなるかをハジメは気づかなかった。

それに気づいた陽和やティオが慌てて止めようとするも、時すでに遅く、静因石が取り除かれた壁の奥からマグマが勢いよく噴き出してしまったのだ。

ハジメは咄嗟に飛び退いたものの、噴き出すマグマの勢いは激しく、まるで亀裂の入ったダムから水が噴出し決壊するように、穴を押し広げて一気に雪崩れ込んできたのだ。

すかさず、竜化した陽和が全身を使った体当たりで物理的に蓋をしてマグマの流れを堰き止めているうちに、ハジメ達は陽和の頭部に乗り込んで即座に翼を広げて飛んだことでマグマに飲まれることは回避できたのだ。

それ以降、マグマに半身を浸かりながらマグマ川を泳いで移動して深部へと目指す途中で漸く落ち着き陽和がハジメにジト目を向けたところで、今に至る。

ちなみに、マグマに陽和は半身を浸からせているのだが、彼曰く『少し熱めの温泉みたいだ』と答え割といけるとのこと。雫達は流石は赤竜帝と思わざるをえなかった。

 

『まぁいい。さっきのはお前が反省するには十分だったろ。次からは慎重にやれよ?』

「うす、気をつけます」

 

多少は怒ったものの、怪我はなかったし静因石も採れたから結果オーライかと念押しするだけにとどめることにした。ハジメもさっきのは流石に肝が冷えたらしく、潔く反省する。

 

「あっ、陽和さん。またトンネルですよ」

「そろそろ、標高的には麓辺りじゃ。何かあるかもしれんぞ?」

 

シアが指差した方向を見れば、確かに、陽和が泳いでいるマグマが壁に空いた大穴の中に続いていた。マグマ自体に照らされて下方へと続いていることが分かる。今までも、洞窟に入る度に階層を下げてきたので、普通に階段を使って降りるよりかなり短縮できていることだろう。

そして、ティオの忠告に頷きながら、洞窟内に突入する陽和達。洞窟内は陽和が翼を広げても余裕があり、マグマの空中ロードが洞窟中央を蛇のようにくねりながら続いていた。

 

『直角に下降する。お前ら全員ちゃんと掴まってろ』

 

陽和の言葉に全員が頷き、角にしっかりと掴まる。念には念を重ねて、ハジメがワイヤーを使用し振り落とされないようにしっかりと固定する。

それを確認した陽和はマグマ川から飛び上がると、一度高く飛び上がりそのまま一気に下降し洞窟の中を飛翔する。

轟々と耳元で風の吹き荒れる音がする。洞窟の壁面を凄まじい速度で横切っていく中、マグマコウモリの群が陽和に襲い掛からんと岩壁の隙間から湧いとくるのだが、

 

『ユエ、結界を。速度を上げて突っ切る。しっかり掴まれ!』

「ん!」

 

陽和の指示にユエが自分達を包むように結界を展開した瞬間、陽和は翼を大きく広げて咆哮を上げると一気に速度を上げる。

速度を上げて群を突破しようと試みる陽和の巨体に対抗するように、夥しい数のマグマコウモリは、まさに鳥類の一糸乱れぬ集団行動のように一塊となって波打つように動き回る。翼がマグマを纏い赤熱化しているのでさながら炎龍といったところだろう。

それを前に陽和は牙を剥き出しにして唸るように嗤う。

 

『本物の竜を前に、ささやかな抵抗だな!お前ら少し耐えろよ!』

「ま、待って!陽和、何をーきゃっ⁉︎」

「うおっ⁉︎」

「んっ⁉︎」

「わきゃっ⁉︎」

「うぁっ⁉︎」

「むっ!」

 

ユエの結界の上に自身も結界を展開して更に防御を重ねた陽和は全身に雷炎を纏うと風の加速を加えながら翼を羽ばたかせて一層速度を上げて一本の巨大な槍と化す。

頭上で雫達が急激な加速に驚いているが、それに構わずに陽和は突貫し、炎龍と化したマグマコウモリの群れへと顎門を大きく開いて喰らいつくさんと襲いかかる。

当然、マグマコウモリ達は、炎弾を放ちつつも雷炎の竜槍とかした陽和を回避するべく二手に分かれて迂回しようとしたものの、陽和の速度のほうが圧倒的に早く、逃げることすら叶わず一部は喰われ、大半は雷炎に焼かれて血肉を撒き散らし殲滅された。

マグマコウモリの群れを突破した陽和は、そのまま洞窟の中を速度を維持したまま飛翔する。

 

「う〜む、主殿の機動力は凄まじいのぅ。この巨体でこの速度、末恐ろしいのじゃ」

「ああ、本当にめちゃくちゃだ」

 

角にしっかり掴まりながら、ティオとセレリアが苦笑い気味に賞賛を贈る。

 

「な、なんつー速度だよ。一瞬首が持ってかれたかと思ったぜ」

「ですねぇ。急な加速でしたもん」

「でも、簡単に突破できた。しかも、魔物も早すぎて追いつけてない」

 

冷や汗を流しながら思わず首に触れてちゃんと繋がってることを確認して安堵するハジメにシアとユエがそう返した。

確かに急激な加速に体がもってかれそうだったが、そのおかげで魔物の群れは一瞬で突破することができ、今や新たに湧いてきた魔物も陽和の速度に追いつくことすらできず、ぐんぐんと引き離されていた。

 

「……も、もう凄すぎて、何が何だかって感じだわ」

 

陽和の荒技に目を丸くした雫は、何度めかわからない驚きを浮かべると、乾いた笑みを浮かべながらそんなことを言う。

 

『……短縮の為に強引に行ったんだが、怖がらせてしまったか?』

「あ、ううん、そんなことないわ!少し驚いただけよ。さっきの砂嵐の突破といい、ドラゴンの姿でも戦い慣れてて凄いなって思っただけなの」

『まぁドライグの指導のおかげだな。でも、お前に褒められるのはやっぱり気分が良い』

「もう大袈裟よ」

 

グルグルと嬉しそうに喉を鳴らし上機嫌な陽和に、雫は苦笑を浮かべながら頭の上で座り込み、甲殻を優しく撫でた。撫でられている感触は伝わっているのか、陽和は気持ちよさそうに更に喉を鳴らした。

 

「おい陽和。出口が見えたぞ」

『わかった。そろそろ出るか』

 

ハジメの言葉に全員が視線を前に向ければ、光が見えた。洞窟の出口だ。その数秒後、猛烈な勢いを維持したまま洞窟の外へと飛び出した。

飛び出した先の空間はかつて見た【ライセン大迷宮】の最終試練の部屋よりも、広大だった。

球体ではなく自然そのままに歪な形のため、正確な広さは把握できないが、少なくとも直径3キロ以上はある。地面はほとんどマグマで満たされ、ところどころに岩石が飛び出しわずかな足場があるだけだった。

周囲の壁も、大きく迫り出している場所もあれば、逆に削れているところもあり、空中にはやはりマグマの川が無数交差していて、下方のマグマの海へと消えていっている。

 

煮え立つ灼熱の海にフレアの如く噴き上がる火柱。

もしも、地獄の釜というものがたるのならば、きっとこんな光景に違いないだろう。

何より、目についたのはマグマ海の中央にある小さな島だ。海面から十メートル程の高さにせり出ている岩石の島。それだけなら、ほかの足場より大きいというだけなのだが、その上をマグマのドームが覆っているのである。まるで小型の太陽のような球体のマグマが、島の中央に存在している異常は陽和達の視線を奪うには十分だった。

 

『ドライグ、あれがナイズの隠れ家で合ってるのか?』

『ああ、間違いない。あそこがそうだ』

「だが、最後のガーディアンはどこにいる?現れる気配はないぞ?」

 

陽和とドライグの確認の会話にハジメが周囲を警戒しつつそう呟く。

 

「向こうにある階段は、正規ルートの階段かしら?」

「可能性は高いのぅ。妾達、大分ショートカットしてきたからのぉ」

 

雫達も僅かな異変を見逃さないと周囲に視線を向けるが、唯一見つけたのは大きな足場とその先に階段がある場所だ。おそらくは、あの階段が正規ルートなのだろう。

 

『まぁ待て。じきに姿を現す』

 

大迷宮の詳細を知る陽和は何が起きるかを知っているため、落ち着いた様子でソレを待つ。

直後、宙を流れるマグマから、マグマそのものが弾丸の如く飛び出してきた。

 

「むっ、任せよ!」

 

ティオの掛け声と共に魔法が発動し、マグマ海から炎塊が飛び出して頭上より迫るマグマの塊を相殺したのだ。

しかし、それはただの始まりに過ぎず、次の瞬間にはマグマ海や頭上のマグマの川からマシンガンの如く炎塊が撃ち放たれた。

 

『掴まってろ!』

 

陽和がそう叫び、翼を羽ばたかせて凄まじい機動力でマシンガンを回避していく。時折、回避が間に合わないものもあったが、腕や翼、尻尾で弾くことで凌いでいく。

頭上にいるハジメ達も守られっぱなしはごめんだと各々の手段で迎撃していく。

そうしてしばらくマグマ海の上を飛びながら迎撃を続けていた時、ソレは遂に現れた。

 

「「「「ゴォアアアアア!!!」」」」

『っ、来たかっ!!』

 

腹の底まで響くような重厚な咆哮が無数に響いたかと思うと、陽和の真下のマグマ海から大口を開けたまま巨大な蛇が数体襲いかかってきた。

 

『Boost‼︎‼︎』

『———“轟電雷華”』

 

顎門を開き迫るマグマ蛇八体を、陽和は全身から雷撃を解き放つことで迎え撃つ。腹部や腕、首に噛みつこうとしていたマグマ蛇達は例外なく弾けて消えていく。

だが、そこでハジメ達は目を見開いた。

 

なぜなら、マグマ蛇は確かに弾け飛んだのだが、それはマグマの飛沫が飛び散っただけであり中身が全くなかったのだ。これまでの魔物達とは違い肉体すらマグマで構成されていたことにハジメ達は驚愕を隠さなかった。

 

『もう一発だ』

 

だが、陽和は知っていたため特に驚くことなく、体の大半を失いながらも陽和へと体当たりを行うマグマ蛇達を容易く避けるともう一度雷撃を放ち木っ端微塵にしながら大きく距離をとった。

 

「おい、陽和。これはどうなってるんだ?」

『これが最終試練の相手なんだよ』

 

尋ねてくるハジメにそう返した陽和は視線をマグマ海へと向ける。マグマ海からはザバァ!と音を立てながら次々と出現するマグマ蛇の姿があった。

 

『あのマグマ蛇が最終試練の相手だ。試練の内容は持久戦。あのマグマ蛇を規定数倒せば、中央の島のドームが解除されて中に入ることができる』

 

30体以上のマグマ蛇が鎌首をもたげ、陽和達を包囲しながら睥睨するのを見渡しながら、陽和は試練の内容をざっくりと説明する。

内容を聞かされたハジメはなるほどと納得する。

 

「……この暑さであれを相手にするのか。大迷宮のコンセプトにもあってるから納得だな」

 

ただでさえ暑さと奇襲により疲弊しているであろう挑戦者を、最後の最後で一番長く深く集中しなければならない状況に追い込む、というのは大迷宮に相応しいいやらしさだ。確かに、かなりショートカットできたとはいえ、陽和とティオ以外は大分精神を疲労させている。だが、その表情に疲労はなく、攻略法が分かった今俄然やる気が湧いていた。

だが、ここで雫が当然の疑問をこぼす。

 

「でも、規定数ってどこでわかるの?私達が数えないといけないのかしら?」

『いや違う。中央の島に埋め込まれている鉱石が一体倒すごとに一個ずつ光るからソレを目印に戦うんだ。見てみろ』

 

ドライグに促され、中央の島に視線を向ければ、確かに岩壁に埋め込まれている無数の鉱石の一部がオレンジ色に輝いていた。鉱石が並ぶ間隔と島の外周から考えれば、二列であることからざっと二百個の鉱石が埋め込まれていることになる。

そして、現在輝いているのは鉱石は八個。陽和が雷撃で粉砕した数と同じだった。

 

「……ざっと二百体か。耐久レースにしてもなかなかに面倒だな、こりゃ」

『……本来は百体なのだがな、相棒が、竜継士がいるので難易度が上がって数が増えたのだろう』

「えっ、陽和さんがいる場合、難易度上がるんですかっ⁉︎」

「……ん、そういえばオルクスも、聞いた話だと私達よりも難易度が上だった気がする」

「ああ、最終試練のヒュドラとかかなり違ったからなぁ。そっちは二足で立つなんてことしなかったらしいな」

「仕方あるまい。主殿は赤竜帝の力を継ぐ者じゃ。ならば、神と戦う為により過酷な試練を課せられるのは想定内のことじゃ」

『………なんか、すまんな。俺のせいで難易度があがっちまって』

 

単純計算で倍の数を倒さなければいけないという難易度の変動に、陽和が若干申し訳なさそうに謝罪する。

だが、その謝罪に雫が何を言ってるんだと鱗をペシっと叩きながら反論した。

 

「何言ってるのよ。あなたが悪いわけじゃないでしょ。なら、協力して戦う理由はあれど、責める理由はないわ。一緒に試練を乗り越えましょ?」

「だな。神と戦うんだ。それならば試練がより過酷でもかまわん。ソレに裏を返せば、普通に攻略するよりも強くなれるってわけだ。俄然滾ってきた」

「じゃな。妾達は長き時を待ち続けた。ソレに比べれば、難易度の変動など些事に過ぎぬ。主殿に課せられた試練、竜人の一人として乗り越えて見せようぞ」

 

雫に続きセレリア、ティオがやる気を一層漲らせながらそう言い切った。雫、ティオはすでに部分竜化を発動し竜の翼を出していつでも飛び立てるようにし、セレリアも“銀狼魔装・氷牙”を纏って拳を鳴らしている。

ハジメ達も言葉にしていなかったものの、陽和の謝罪に心外だと言わんばかりの様子で各々得物を構えていた。

陽和はそんな空気を感じ取ると思わず笑みを浮かべてしまい、その後声を張り上げて指示を出す。

 

『ハハハッ、なら多くは言わん。総員散開して各個撃破しろ』

 

陽和の指示に全員が元気よく頷いた瞬間、陽和の頭から雫達が各々の飛行手段で飛び立ちマグマ蛇へ反撃を開始する。瞬間、マグマ蛇達が襲いかかり、マグマの塊が豪雨の如く降り注ぎ、大質量のマグマ蛇が不規則な動きを以って獲物を捕らえ焼き尽くさんと迫る。

ハジメは“空力”で、ユエは重力魔法で、雫とティオは竜の翼で、セレリアとシアは脚甲とブーツに付与された“空力”によって宙を移動してマグマ蛇達への攻撃を開始する。

 

『景気づけだ。ぶち抜いてやる!』

 

その場でホバリングを続けていた陽和がそう言って、大きく息を吸い込めば顎門には膨大な量の雷炎が宿り、紅緋の輝きが臨界点に達した瞬間、一気に解き放たれる。

 

『グゥガァァァァァァァ‼︎‼︎‼︎』

 

咆哮と共に放たれた雷炎のブレスは正面から迫っていたマグマ蛇三体を一瞬にして消し飛ばし、更に自身の周囲を一周するように放たれたことで周囲を取り囲んでいた十体ものマグマ蛇をも消滅させていった。

 

『ハッ、こんなもんか。大したことないな』

「むっ、主殿流石じゃな!妾も負けてはおれん!存分に味わうが良い!」

 

一気に18体を消し飛ばしてドヤ顔を浮かべる陽和にティオが対抗心を露わにして、両手を揃えて前に突き出し、両手に膨大な量の黒色魔力を収束圧縮していく。次の瞬間には、竜のブレスが一気に解き放たれる。

黒色の閃光は正面のマグマ蛇を容易く消滅させて、その後横薙ぎに振るわれたことにより、巨大な黒色閃光のブレードのようにマグマ蛇達を計七体消滅させた。

一気に八体消滅さしたティオはドヤ顔でのたまう。

 

「これで八体じゃ!主殿よ!妾が一番多く倒したら、添い寝を所望するぞ!無論、二人っきりで一晩じゃ!」

 

そんなことを言い切ったティオに陽和が若干呆れつつ断ろうとした時、セレリアがソレを遮った。

 

「なにっ⁉︎それならば私も参戦するぞ!陽和!私も勝ったら一晩だ!いや、いっそのこと抱いてもらうのもありか?うん、そうしよう!」

 

マグマ蛇を一気に氷漬けにして粉砕したセレリアは、名案が閃いたと言わんばかりにそんな要求をしてくる。ティオの条件よりも更にタチの悪いご褒美の所望に陽和が眉をひくつかせていると、雫までもが参加してくる。

 

「駄目よ!一番になるのは私よ!二人っきりで1日過ごすわ!」

 

声を張り上げながら、正面に迫ったマグマ蛇を水刃で細切れにして、周囲のマグマ蛇に水の弾丸を撃ち込み続ける雫は、占有権を主張しながらティオとセレリアに勝利宣言をした。

普段ならば恥ずかしくて絶対に大声で言わないはずなのに、戦いの昂揚感でアドレナリンが出たのだろう。大胆にもそんなことを言い切ったのだ。

その光景を見て、「そう来なくては張り合いがないのぉ!」とティオが、「今日こそは抱いてもらうぞ!陽和!」とセレリアが、それぞれ対抗心を剥き出しにして、より一層苛烈な攻撃を繰り出して、討伐数を伸ばしていく。

 

『あ、あいつら試練そっちのけで景品優先してんじゃねぇか』

『ははは、好かれていていいことじゃないか』

『モテモテだ。ハーレムってやつだね!』

『……お前ら、この状況楽しんでるだろ』

 

雫達の勝手な競争に赤竜から竜鎧を纏う竜人形態へと姿を変えた陽和は眉をひくつかせる。相棒達は露骨に揶揄う。夜のアレコレ以外で全く取れない二人っきりの時間を、丸一日雫はご所望のようだ。

 

「随分と人気者だなぁ。見てる分には面白ぇけど」

 

ハジメが“空力”で空を歩きながら、陽和へと近づき呑気に笑う。他人事だと笑う彼に陽和は兜を解除してジト目を向けると、ある一点を指差しながら告げる。

 

「………お前も、人のこと言えねぇだろうが」

「あん?」

 

ハジメが何故と指差した方向へ視線を向ければ、

 

「私も勝ったらハジメさんに一晩ご褒美を所望しますぅ!」

「……なら、私もハジメと二人っきりの1日デートをする」

 

シアとユエも雫達と同じような競争を始めていたのだ。

シアが“魔衝波”込みの打撃でマグマ蛇を粉砕し、変形させたドリュッケンの銃口からスラッグ弾により爆砕していく。

ユエは最近十八番の“雷龍”を七体も出現させて纏めて飲み込んで魔石ごと砕いていく。どちらもまだ見ぬご褒美を夢想してかやる気は十分で彼女らも雫達に張り合うように討伐数を一気に稼いでいる。

 

「……まぁ、俺の方は無茶な頼みはねぇし。楽しそうだから、別にいい」

「チッ、確かにソレもそうだわ。はぁ、セレリアの奴、勘弁してくれよ」

「いい加減相手してやれよ」

「うるせぇ」

 

その光景を見たハジメは、自分が景品になって競争に闘志を燃やす二人に肩を竦める。まぁ確かにハジメの方のご褒美は可能な範囲内だ。陽和だけはセレリアが抱いて欲しいと所望してるので、雫かティオに勝ってもらわなければいけない。

ハジメは諦めた感を醸しだし、陽和はちょっとげんなりした表情になるが、戦いの集中力は変わらず、背後から襲いかかって来たマグマ蛇を、振り向くことなく肩越しにシュラークを発射し、陽和が竜聖剣を振るって斬撃を飛ばす。

片方の魔石は炸裂弾による着弾の際の衝撃波で砕かれ、片方の魔石はピンポイントで雷の斬撃に切り裂かれた。

あっさりとマグマ蛇を瞬殺した陽和は、竜聖剣を肩にトントンと当てながら、ハジメに声をかける。

 

「……なぁハジメ、一つ提案があるんだが」

「奇遇だな。俺も一つあるんだ、陽和」

 

どうやら、ハジメもハジメで何かあるらしい。

二人は顔を見合わせると、不敵な笑みを浮かべながら提案の内容を口にした。

 

「「平和的解決のために俺達でキル数トップ2占めようぜ?」」

 

全く同じ提案に陽和とハジメは揃ってニヤリと笑うと、横並びに立ちながら、お互いに声をかける。

 

「やっぱ気が合うな。俺らは」

「だな。背中は任せろ。親友」

「任せたぜ、親友」

 

言葉を交わして拳をコツンとぶつけた次の瞬間、陽和は兜をかぶると竜聖剣を構えながら翼を羽ばたかせて前方に飛び出す。

マグマ蛇が四体陽和を迎え撃とうと顎門を開いた瞬間、炸裂音が一発響いた。

されど解き放たれた殺意の塊は四発であり、四体のマグマ蛇の身体の一部がそれぞれ弾け、核となっている魔石が露出する。それを陽和が翼をはためかせて四体の合間を縫うように飛びながら、寸分違わずに全て切り裂いた。

さらに、両腕を前に突き出しドンナーとシュラークを構えていたハジメを背後からマグマ蛇が三体強襲する。しかし、今度は陽和が風光の魔弾“アストラル・ウインド”を十数発放って、マグマ蛇三体の身体を大部分抉る。

抉られた箇所からは魔石の一部が露出しており、今度はハジメがその四つの魔石を一ミリの狂いもなく撃ち抜いて粉砕した。

次に、マグマ海の海面スレスレを飛翔した陽和が下から雷炎の槍の連射を放ち、ソレに合わせるようにハジメがドンナーとシュラークを連射して、10体のマグマ蛇の身体を阿吽の呼吸で穿ち、魔石を粉砕していく。

お互いの間に言葉はなく、長年培った信頼がユエやセレリアに劣らない連携を可能としていた。

 

しばらく各々が戦い続けて、気がつけば中央の島の岩壁、その外周に規則正しく埋め込まれた鉱石は、そのほとんどが発光しており、残り二十個まで迫っていた。

本格的な戦闘が始まってから、まだ十分が経過したばかりだ。

 

ティオの漆黒のブレスが纏めて薙ぎ払う。

 

———残り十八体

 

シアの、ドリュッケンによる一撃と、ほぼ同時に放たれた炸裂スラッグ弾がマグマ蛇を纏めて爆砕する。

 

———残り十六体

 

ユエに対し、直下のマグマの海から奇襲をかけて喰らいつこうとしたマグマ蛇と直上から挟撃をしかけたマグマ蛇が、とぐろを巻いてユエを包み込んだ“雷龍”に阻まれ、立ち往生する。

そして次の瞬間、その四体のマグマ蛇を七体の〝雷龍〟が逆に挟撃し、喰らい尽くす。

 

———残り十二体

 

セレリアがマグマ蛇の海から伸びている根元をマグマ海ごと凍らして身動きを制限し、“氷蝕”の技能によって瞬く間に凍結させて魔石ごと粉砕した。

 

———残り九体

 

雫が“水天海廊”でマグマ蛇三体を包囲し、全方位からの水槍と水刃の連射で次々と穿ち切り裂いていく。

 

———残り六体

 

ハジメに急速突進して来たマグマ蛇がマグマの塊を散弾の如く撒き散らすが、ハジメは木の葉が舞うようなゆらゆらとした動きでかわしていき、四方から噛みつこうと挟撃してくるマグマ蛇を“空力”と“縮地”で高速移動による離脱で回避し、真上からマグマ蛇の頭目掛けてドンナーとシュラークを発砲。

着弾と同時に紅い衝撃波が撒き散らされマグマが飛び散り、隙間からわずかにのぞいた魔石を悉く狙い撃ちして砕いた。

 

———残り二体

 

遂に最後の二体となったマグマ蛇が、前後から陽和に喰らい付こうと顎門を開き迫ってくるものの、対する陽和は双剣形態へと変えたヘスティアを構えて、片方に雷炎を、もう片方に風光を纏わせ刀身を伸ばし巨大な大剣へと変えながら構える。

雫達が一塊に集まり、満足気な眼差しで陽和の最後の一撃を放つところを待っていた。

 

『終わらせよう』

 

彼女達の顔を視界の端にとらえながら、陽和は【グリューエン大火山】攻略の為の二撃を同時に放とうと、体を回転させて前後に腕を振るった。

 

 

その刹那、

 

 

『相棒避けろォッ‼︎‼︎』

『マスター逃げてぇっ‼︎‼︎』

 

 

相棒二人の警告の声が響き、次の瞬間、頭上から、極光が降り注いだ。

 

(ッッ⁉︎⁉︎障壁をっ———っくそっ、間に合わねぇッッ)

 

スローモーションとなった視界で陽和の頭脳が高速回転し、防御は間に合わないと理解させられ、表情が凍りつく。

まさに天より放たれた神罰の如きソレは、よくよく見れば二つの柱が一つとなっており、一つは陽和がかつて瀕死の重傷を負った白銀のソレと同じで、もう一つは全く見覚えのない紫黒色だった。

どちらもかつて受けた極光よりも遥かに強力な破壊力を秘めていると理解させられ、大気すら悲鳴を上げる凄絶なまでの白銀と紫黒が混ざる一撃は、攻撃の瞬間という戦闘において最も無防備な一瞬を見事に狙い撃ち———陽和を、二体のマグマ蛇諸共飲み込んだ。

 

 

「い、いや……そんな……」

 

 

冗談のように、圧倒的な破壊の嵐の中へと陽和の姿が消えていく光景に、雫は瞳から大粒の涙を流しながら首を横に何度も振る。

 

 

 

 

「は、陽和———ッ‼︎‼︎‼︎」

 

 

 

 

マグマに満ちた空間に、雫の悲鳴のような絶叫が響いた。

 

 





陽和のドラゴンタクシー、マジ便利っすねww

さて、こちらではハジメではなく陽和が極光に飲み込まれたわけなんですが、原作と違い白銀のブレスだけでなく紫黒のブレスも合体したという威力マシマシの砲撃に陽和は果たして耐えることができるのか?
そして、この襲撃者は一体誰なのか!?

予想ついている人が大多数でしょうが、まぁ次回を楽しみに待ったてください!
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