竜帝と魔王の異世界冒険譚   作:桐谷 アキト

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9月に入っても相変わらず真夏の高音が続いて大変ですねぇ。
少し外に出るだけで汗かいちゃうから制汗剤が手放せません。

さて、今回はティオと別れた後の陽和達の話です。果たして、今作ではどのように脱出するのか。

あ、あと、引き続きポケモンスリープのフレンド、よろしくお願いしやす!
1897-1244-2264←これリサーチャーコードです。




55話 一時の別れ

 

 

 

「ふぅ、なんとかなったか」

「ティオは大丈夫そう?」

「ああ。最後にあいつら巻き込んで盛大に自爆させたからな。障壁も維持できていたし、大丈夫だろう」

 

小極光と小魔弾の豪雨に晒されながら、陽和が安堵の息をつき、雫にそう返した。

現在、結界の役目はユエに任せており陽和はティオを守る障壁と朱雀と青龍の操作に全神経を注いでいた。感知系技能を最大限に使いティオ達の場所を把握しながら、最後はティオを守りつつ朱雀達を自爆させて二人を吹き飛ばした。

陽和と雫はそんなことを話しながらユエ達の後を追い中央の島に降り立つ。

ティオが飛び立ってから、周囲のマグマは益々荒々しさを増し、既に中央の島以外の足場はマグマの海に沈んでしまった。あと5分もしないうちに中央の島も呑み込まれるだろう。

降り注いでいる小極光と小魔弾は雫が“波城壁”で防ぎつつ、ユエの“絶禍”が呑み込み、焦れた灰竜達が直接攻撃を仕掛けては、ハジメのドンナー&シュラークとシアのドリュッケンによりマグマの中に叩き落とされることを繰り返し、程なくして全滅した。

 

中央の島には、最初に見えていたマグマのドームがなくなり、代わりに漆黒の建造物がその姿をあらわにしていた。その傍には、地面から数センチほど浮遊している円盤がある、真上にはさっきまで開いていた天井のショートカットがある為、この円盤に乗って外に出るのだろう。

 

陽和達は若干早足で漆黒の建造物に近づく。

一見、扉などないただの長方体に見えるが、壁の一部に毎度お馴染みの赤竜帝と七大迷宮を示す文様が刻まれている場所があった。

陽和達がその前に立てば、スッと音もなく壁がスライドして、中に入ることができた。

中に入るのと、マグマが中央の島を飲み込もうと流れ込んできたのはほぼ同時であり、スッと音もなくしまった扉が、流れ込んできたマグマを間一髪で堰き止めたのだ。

 

部屋の中へと進む陽和以外の者達が扉を見つめていたが、扉が溶かされてマグマが流れ込むことがないことをしっかりと確認して、ホッと安堵の息を漏らした。

こんな場所に隠れ家を作ったくらいだから、マグマが流れ込むような事態も想定しており、そのための対策はしているだろうとわかってはいるが、やはりその結果を実感できるまで、簡単に安堵することはできなかったのだ。

 

「一先ず安心だな。それにしても、この部屋は震動も遮断するのか…‥」

「ナイズは空間魔法の使い手だからな。空間を遮断するなんて造作もない。それよりも、魔法陣あったぞ」

 

部屋に入った途端に大地震クラスの震動を感じなくなったことに驚くハジメの呟きに応じながら、陽和が部屋の中央にある複雑な精緻な魔法陣の前に立つ。

神代魔法の魔法陣だ。ハジメ達は互いに頷きあうと、陽和に続いてその中へ踏み込んだ。初めての攻略である雫は少し恐る恐るといった様子で遅れて踏み込む。

【オルクス大迷宮】の時と同じように、記憶が勝手に溢れ出して迷宮攻略の軌跡が脳内を駆け巡る。雫は、脳内を探られるような未知の感覚に少し顔を顰めてしまうも、特にこれといった問題はなく、全員の脳内に直接、神代魔法の一つ“空間魔法”が刻み込まれていった。

 

「空間魔法……実際に性能を知るとやっぱりぶっ飛んでるな」

「……あの瞬間移動のタネ」

「ああ、あのいきなり背後に現れたやつですね」

「もしかして、最初の奇襲も空間魔法で隠れていたのかしら」

「多分な。空間の位相をずらしたんだろう」

 

陽和を襲ったあの奇襲。それまで彼らの存在を全く感知できなかったことから、空間の位相をずらして隠れていたのだろうと雫と陽和は推測する。

何にせよ、厄介なことに変わりはなく、また使用する側としてはかなり優れた魔法なのは確かだ。

陽和達が、空間魔法を習得し、魔法陣の輝きがおさまっていくと同時に、カコンと音を立てて壁の一部が開き、さらに正面の壁に輝く文字が浮き出し始めた。

 

 

“人の未来が 自由な意思のもとにあらんことを 切に願う”

 

“我が友の後継者に 我らの悲願を託す 強くあらんことを 我らの英雄”

 

“ナイズ・グリューエン”

 

 

「……ナイズ」

 

陽和は思わず彼の名を呟きながら、その壁に浮かぶ文字に手を伸ばして撫でてしまう。

文字を見る彼の瞳は優しさが宿っており、ドライグの記憶を通じてナイズの人柄を知っている陽和は彼らしいなと小さく笑った。

 

「……シンプルなメッセージね」

「ナイズはどちらかといえば、寡黙な人だったからな。多くを残す気はなかったんだろう」

『ああ。ナイズが残さずとも、他に多くを残す者達がいたからな』

 

ドライグの言う通り、ナイズが多くを残さずとも、自分よりもうまく伝えられる語り手はいる。それならば、不器用で寡黙な自分は最低限伝えたいメッセージだけを残そう。

そんなナイズの考えが陽和には手に取るようにわかった。

 

「……部屋もオスカーと違ってシンプルだな」

「……身辺整理でもしたみたい」

「ナイズさんは、魔法以外、何も残さなかったみたいですね」

「みたいだな」

 

部屋を見渡しながらそう呟くハジメ達。

確かに部屋自体がかなり殺風景であり、オルクス大迷宮の住居のような生活感がまるでなかったのだ。

そして、ハジメ達が攻略の証がどこか探しているのを横目に、陽和はディレイド達が去ってから一言も言葉を発していないセレリアの方へと振り向く。

その場に立ち尽くしており表情は俯いているせいでわからない。陽和はそんな彼女に静かに声をかけた。

 

「……セレリア」

「………は、陽和、私は…」

 

体をビクッと震わせながら顔を上げたセレリアは今にも泣き出しそうな悲壮さに満ちた表情だった。

彼女は悲しみに澱んだ瞳で陽和を見上げると、頭を抱え涙を流しながらか細い声をあげる。

 

「……すまない、すまないっ。本当なら、私が戦わなくちゃいけなかったのに…全部、お前に、任せて……」

「いいや、いいんだ。セレリア、そんなこと気にしなくていいんだ」

「わ、私は動けなかった……覚悟していたはずなのに……兄さん達と直接言葉を交わしたら……急に、怖くなって……」

「セレリア、落ち着け。ゆっくりと呼吸するんだ」

 

焦点が合わない瞳で言葉を並べるセレリアの様子は酷く混乱していて、今回のこの状況が彼女に罪悪感や悲しみを抱かせているのは確かだ。

 

「……兄さんが、異端って…裁くって……兄さんは、私を殺そうと…陽和も兄さんに、何度も攻撃されて……」

「セレリアっ、おいっ、しっかりしろっ!」

「わ、私が、私のせいで……私が、陽和と出会わなければ「俺を見ろ!セレリア・ベルグライスっ!!」ッッ!?!?」

 

負の感情に呑まれ、悪感情の連鎖に囚われつつあったセレリアが最悪の結論を出そうとした時、陽和が物理的にそれを止めた。

両頬を手に当てて強制的に自分の方に振り向かせながら、部屋中に響くほどの大声で叫んだのだ。

あまりの声量にビクッと体を震わせたセレリアは、陽和の顔を見て「あ…」と小さく呟く。陽和は、彼女の頬から手を離し、肩に手を置くと彼女の瞳を覗き込むように顔を近づける。

 

「いいか、セレリア、俺をよく見ろ。俺がお前を責めているように見えるか?」

「そ、それは……」

「俺はお前を責めていない。勿論、雫達もだ。それに、お前に落ち度は何一つない。間違ってるのはあいつらだ。断じて、お前じゃない」

 

彼女の精神に楔を打つように陽和ははっきりと彼女に罪がないことを伝える。こうでもしないと、今の彼女は自らの心を自分自身で押し潰しかねないからだ。

陽和はさらに言葉を続ける。

 

「実の兄貴にあんなことを言われて、辛いのは当たり前だ。それに俺が攻撃を受けたのも俺が弱かったからだ。俺自身が未熟だったから、傷を負ったんだ」

「で、でも……私は……」

「でもじゃない。いいか?お前は何も悪くない。兄を、同胞を救う為に足掻いているお前は何も間違ってないんだよ」

 

彼女の意志は何一つとして間違っていない。家族を愛し、同胞を救う為に足掻き続ける彼女は正しい。

なのに、救いたかった兄に異端と定められ、殺されるなんて認められるわけがない。

そして、そんな不条理を、陽和が許すはずもなかった。

 

「セレリア、俺はお前と出会えて良かったと思ってる。お前がいたから、オルクス大迷宮も攻略できた。お前がいたからこそ、俺は雫と再会できたんだ。お前の存在が、俺を生かしてくれていた」

「はる、と……」

「だから、俺と出会わなければ良かったなんて言わないでくれ。それは、俺が悲しくなる」

 

陽和はセレリアと出会えて良かったと本当に思っている。彼女がいたからこそ、自分はここまで来れた。彼女の力があったから、【オルクス大迷宮】を攻略する事もできた。

彼女の存在はもう陽和にとってもう『大切』の一つだ。だから、彼女自身が陽和が兄に傷つけられたからと言って、自分が出会わなければ良かったと自身を責めてしまう姿は見てて辛かったのだ。

 

「セレリア、一人で立ち向かうのが辛いのなら、俺も一緒に立ち向かってやる。お前が背負いきれない分もまとめて背負ってやるよ」

「はる、と……」

「だから俺を信じろ。俺が必ず、あいつをぶん殴って元に戻してやる。約束だ」

 

陽和は優しく微笑み彼女の頭を優しく撫でながら、最後にそう言った。

そこで彼女は色々と限界が来たのだろう。

 

「うぅっ……あぁっ……ああぁぁぁぁ」

 

じわっと瞳に涙を一気に滲ませると、嗚咽を漏らしながら陽和の胸に顔を埋めて泣き始めてしまった。

陽和は彼女の背中に腕を回しながら優しく抱きしめつつ、頭をポンポンと優しく撫でる。

それは泣きじゃくる妹を慰めるような兄のように見えた。

と、そこで陽和は気づいてしまった。

 

「「「………………」」」

 

ニマニマとしながらこちらを見ているハジメ達に。

 

「………これは、もう責任取るべきじゃないか?」

「………ん、女の子を泣かせた」

「………ギルティですねぇ。罪な男ですよぉ」

 

生暖かい視線をこちらに向けながらコソコソと辛うじて聞こえる程度の小声で話す彼らに、陽和はピキと額に青筋を浮かべる。

確かにセレリアを慰めるのに必死で彼らを蚊帳の外にしていたのは確かにこちらが悪いが、これ幸いと楽しむのは純粋に腹が立つ。

 

『あれだな。もう相棒は受け入れていいと思うぞ』

『同感だね。ハーレムでもいいじゃないか』

(お前らちょっと黙れ)

 

外野だからと好き放題言う相棒達とハジメ達を殴りたい衝動に駆られたが、そんなことよりもよっぽど優先すべき事案があることを陽和は思い出してしまったのだ。

 

「…………」

 

スーッとそちらへと視線を向ければ、そこにはやはり、笑っているが笑っていない雫がいた。

腕を組んで陽和達をじっと見ている。更に彼女の背後には、既に阿修羅がスタンバイしており、刀を抜いてこそいないものの、腰に差した刀の鯉口を切っていた。

いつでも抜刀できるような臨戦態勢の阿修羅を幻視し、陽和の顔がサーっと青褪める。

 

(……や、やばいっ、説明しねぇと、いや、でも、この状態から動けねぇっ!)

 

どうにか説明をしたくても、セレリアががっちり胸元の服を掴んでいて離れられない。しかも、現在も泣いている為、離れようにも離れられない。

 

(後でちゃんと説明するからっ!今は許してくれっ!)

 

お願いだから今は許してと視線で訴える陽和。

それを察したのかちょっとムッとしていた雫は、ふと口の端を上げて苦笑を浮かべると、肩を竦め頷いたのだ。

 

(はいはい、分かったわ)

 

察しのいい雫ちゃんは彼氏の必死な願いを聞き入れてくれたらしい。安堵の息を吐く陽和に雫は若干呆れつつも、セレリアの状況に理解を示す。

 

(まぁ状況は理解してるつもりだし、実の家族にあんなことを言われたら辛いものね)

 

雫も共に旅をする仲間としてセレリアが抱える事情は把握していたし、神がそこまでやることは理解はしていた。

だが、その実態を目の当たりにしてしまうと、理解していたつもりでもやはり、哀しさが込み上げてきてしょうがなかった。

何より、自分は家族に愛されていたし、恋人の陽和も家族とは仲睦まじい関係を築けている。妹や弟達の事も雫はよく知っていて、四人の兄弟が仲良くしている光景は実に微笑ましいものだった。

そんか仲のいい兄妹を知っているからこそ、それとは正反対のセレリアとディレイドの関係性に雫は他人事ながらも自分も家族に拒絶されていたらと思うと胸が引き裂かれるような気持ちになった。

 

だからこそ、今だけは陽和に縋って泣いていても別に責めようとは思わなかったのだ。まぁ、少し嫉妬してしまってはいたが。

今回ばかりは彼女の気持ちも大いに理解できるし、陽和がセレリアのことを仲間として大切に思っていることを知っている為、そのケアをしなくては彼女の心が折れかねないからと理解できたからこそ、情状酌量の余地があると言う事で許すことにしたのだ。

 

それからしばらく彼女が泣き止むまで頭を撫で続け、泣き止んだセレリアが陽和から離れると幾分かよくなった表情を浮かべる。

 

「セレリア、大丈夫か?」

「……あ、ああ…その、あ、ありがとう」

「いいって。お前も落ち着いたようだし、そろそろここを出よう」

 

まだ話すべきことはあるが今はまだいい。まずここから出ることが現状優先すべきことなのだから。

陽和はそう判断して、ハジメの方へと振り向く。

 

「ハジメ、攻略の証は?」

「もう手に入れてる。あとは脱出するだけだ」

 

そう言う彼の手には、今までとは少々趣が異なる意匠を凝らしたサークル状のペンダントがあった。

【グリューエン大火山】攻略の証のペンダントだ。それを確認して頷いた陽和は更に問いかける。

 

「アレはもう出してるのか?」

「ああ、入る前に出しといた。マグマで溶ける様子もないから問題ないだろ」

「でかした。なら、そこに向かおう」

「待って。二人の口ぶりからすると、もう脱出する算段は整ってるの?」

 

何かを話し合う二人に雫達は訳が分からず首を傾げてしまう。首を傾げつつも、不安は全くない彼女達の様子に陽和達は嬉しく思いながら、脱出計画を伝える。

 

「ああ。とりあえずは…」

「マグマの中を泳いで進む」

「……え?」

「……ん?」

「……は?」

「……はい?」

 

圧倒的に説明が足りないハジメの第一声に、雫達は揃って間抜けな声をあげて心配するような表情で問い返した。

陽和がハジメの略しすぎて説明にため息をつく。

 

「……お前、略すにしても簡略しすぎだろ。何が言いたいかって言うとな、この建物のすぐ外にハジメが潜水艇を用意しているんだ。次のメルジーネ海底遺跡で必要になるから作っていたんだよ。マグマの中で耐えられるかは少し心配だったが、どうやらその心配もないみたいだからな」

「そう言うこった。さっさと外に出て乗り込むぞ」

「一体、いつの間にそんなことを……」

 

シアが呆れたような声を出す。ユエ達も言葉にせずとも、瞳に呆れを宿していた。

実を言うと、潜水艇はフリードが要石を破壊したと告げたときには既に宝物庫からマグマの中に転送しておいたのだ。

溶け出すようならば、竜化できるティオと陽和に乗って強引に天井から脱出するつもりだったが、しばらく経っても溶ける様子がなかった。

なぜわかるかと言うと、潜水艇に感応石を組み込んでいるからだ。そして、溶けないことから、マグマに満たされても後から脱出できると踏んだのだ。

 

ただ、明らかにヤバイレベルで【グリューエン大火山】自体が激震し、あちこち崩壊していたことから、スムーズに脱出できない可能性が大いにあった。アンカジへ戻るタイムリミットが迫る中、悠長に脱出ルートを探っている時間はないので、万が一に備えてティオに静因石を持たせて先に脱出させたのである。

それに仮に今このタイミングで潜水艇に問題があったとしても、竜化した陽和が口の中にハジメ達を結界ごと入れてマグマの中を泳ぎ強引に移動すると言う、最悪の場合に備えての最終手段も想定していた。ただし、結界をいつまで維持できるかわからないので、本当にリスキーな手段ではある。危険度だけでなく、精神的な意味合いでも。

 

「脱出ルートは、当然、天井のショートカットだ。ユエ、陽和、潜水艇の搭乗口まで結界を頼む」

「んっ……任せて」

「任せろ」

 

ハジメの言葉に頷き、陽和とユエが念には念を重ねて“聖絶”を五重に重ね掛けする。光り輝く障壁が6人を包み込む。6人は互いに頷き合って扉の前に立つと、外界への扉を開いた。

直後、灼熱の奔流が濁流の如く部屋の中に流れ込んできた。障壁はしっかり機能しているが、一瞬にして視界の全てが紅蓮に染まり、マグマの中からマグマを見ると言うあり得ない体験に、陽和以外の全員が言葉に詰まった。

 

「すぐ外だな。行くぞ!」

 

ハジメの号令で、6人はゆっくりと外に出たが、ハジメの言葉通り、本当に出入り口の傍に待機させたようですぐに潜水艇の場所に辿り着く。

ユエと陽和が障壁の形を調整しながらハッチまでの道を作り、ようやく潜水艇に乗り込むことができた。

中に入ると思わず体に入っていた力が抜けてしまう。

 

しかし、乗り込んだ瞬間、今までの比ではない激震が空間全体を襲い、突如マグマが一定方向へと猛烈な勢いで流れ始めた。

潜水艇は、その激流に翻弄され、当然中にいる陽和達もその影響を受け、ミキサーにかけられたかのように上下左右転げ回るハメになる。

 

「ぐわっ⁉︎」

「んにゃ⁉︎」

「はぅ⁉︎痛いですぅ!」

「うぉっ⁉︎」

「きゃっ⁉︎」

「うわっ⁉︎」

 

それぞれ、船内の壁に体のあちこちをぶつけて悲鳴を上げる。陽和が咄嗟に雫とセレリアを抱きしめ翼で包み込みながら、重力魔法でその場に浮かぶ。

一方のユエも咄嗟に“絶禍”の応用版を発動し、ハジメとシアの二人と共に黒く渦巻く小さな球体に引き寄せてそれぞれシェイクされる状況から脱した。

 

「あ、ありがとう、陽和」

「た、助かったわ、陽和」

「おう」

「た、たすかった、ありがとうな、ユエ」

「ありがとうございますぅ。ユエさん」

「ん……それより」

 

ユエと陽和が重力魔法を操作しながら全員で操縦席らしき場所に近くに移動して、ハジメを操縦席に運ぶ。ハジメは魔力を流し込んでコントロールを試みるが激しい流れとマグマの粘性に、思うように舵が取れなかった。

 

「……これは、まずいな。下に、向かってないか?」

「そうなの?」

 

陽和は頭上を見上げながら険しい表情を浮かべながらポツリと呟く。真っ先に反応したのが雫で、次にハジメが反応する。

 

「……ああ、陽和の言う通りだな。マグマの中でも方向を見失わないように、クロスビットに特定石を仕込んで、天井の脱出口付近に設置していたんだが、どんどん遠ざかっているな」

「えっ?それって地下に潜ってるってことですか?」

「ああ、真下ってわけじゃなくて、斜め下って感じだがな……。さて、どこに繋がってるのやら……」

「……やっぱりすぐには戻れそうにないか。もしかしたら、マントルまで行きそうだな」

 

覚悟の決まった表情でそう語るハジメに、諦めていない表情を浮かべつつ軽口をたたく陽和。雫達はそんなかれの会話にただ優しげに目元を緩めて、そっと寄り添った。

 

「………大丈夫よ、私達は最後までずっと一緒よ」

「……私もだ。どこまでもお前達と共にいる」

「……あぁ」

 

陽和は左右から寄り添う雫とセレリアに頬を緩めて笑みを返した。ハジメの方も同じようにユエとシアが寄り添っている。

そうして、6人は潜水艇の中で寄り添いながら、灼熱の本流に流されていった。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

【グリューエン大火山】からの脱出が叶わず、陽和達がどことも知れないマグマに流されている頃、赤銅色の砂が吹き荒ぶ【グリューエン大砂漠】の上空を猛スピードで飛ぶ影があった。

言わずもがな、竜化したティオである。

 

『とにかく急がねば。早く、静因石を届かねば危ういのじゃ』

 

そう呟きながら黒い風を纏いながらティオは空を爆進する。陽和の援護と障壁のおかげで傷一つ負うことなく突破することができたティオは、とにかくアンカジに到着することを最優先とし、残り少ない魔力をフル活用して飛翔していた。

その甲斐もあってか、2時間ほどでアンカジの姿が見えてきた。これ以上、飛翔を続ければ監視塔からティオの竜の姿を見られてしまうことだろう。

一瞬、竜化を解くべきかと考えたが、頭を横に振る。

 

『いや、魔人族に知られた以上、隠すことに意味はなかろう』

 

今後、陽和達の旅についていけば竜化が必要な場面はいくらでもある。ならば、今更隠したところで大した意味はないと判断したのだ。

それに、仮に竜人族の生存がバレ隠れ里の存在が万が一見つかったとしても、竜人族はそう簡単にやられないし、仮に五百年前のように大迫害が襲いかかってきても、陽和がそれを許すはずがない。

自分達と共に戦ってくれると彼女は信じて疑わなかった。

 

そんな考え事をしているうちに、遂に、アンカジまで数キロの位置までやって来たが、監視塔の上が何やら非常に慌ただしい。

なにやらというか、十中八九ティオのせいなのだが、勘違いで攻撃を受けても面倒なので、ティオは入場門の方へ迂回し、少し離れた場所に着地した。

勢いよく降下したものの着地の瞬間にふわりと身体を浮かばせて少しの砂塵を巻き上げながら着地したティオの元へ、アンカジの兵士達が隊列を組んでやってきた。見れば、壁の上にも大勢の兵士が弓や魔法陣の刻まれた杖などをもって待機している。

 

もうもうと巻き上がる砂埃が風にさらわれて晴れていき、兵士達が、緊張にゴクリと喉を鳴らす音が響く。

しかし、砂埃が晴れた先にいたのは、巨大な黒竜ではなく黒髪金眼の美女で、しかも疲弊しているようだとわかると、一様に困惑したような表情となって仲間同士顔を見合わせる。

 

そんな中、混乱する兵士達の隙間を通り抜けて、一人の少女が飛び出してきた。

ティオと同じ黒髪の女の子、香織だ。後ろから危険だと兵士達や領主の息子ビィズが制止の声をかけるが、それらを全て無視して猛然と、片膝をついて息を整えているティオのもとへ駆け寄る。

監視塔からの報告があった時点で、香織は、ティオが竜人族であると知っていたため、ハジメ達が帰ってきたと察して、急いで駆けつけたのだ。

 

「ティオ!大丈夫!?」

「むっ、香織か……うむ、問題ない。魔力が切れかけて疲れてはおるがの」

 

疲れ切ってはいるが怪我はない様子のティオに、香織はホッと安堵の息をつきながら魔力と疲労を回復させる魔法を同時にかけながら、周囲を見回すと、次第に不安そうな表情になる。

 

「ティオ……あの、ハジメ君達は?一人なの?どうして……あの噴火は……」

「落ち着くのじゃ、香織。全部説明する。まずは、後ろの兵達を落ち着かせて、話せる場所に案内しておくれ」

「あっ、うん、そうだね」

 

今更ながらにここには困惑にざわつく兵たちがいることに気がつき、香織は不安そうな表情をしながらも力強く頷いた。

ティオが悲愴な表情をしていないことも、落ち着きを取り戻した要因である。

そして、ビィズや駆けつけたランズィ達のもとへ戻ると、事情説明をして、ティオを落ち着いて話のできる場所に案内した。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

「それじゃあ、ハジメ君達は……」

「うむ、あとから追いかけてくるはずじゃ。主殿は微塵も諦めておらんかった。時間がなくて詳しくは聞けんかったが、何か打開策があったのは確かじゃよ」

 

【グリューエン大火山】での詳細を聞いた香織は、顔を青ざめて手をギュッと握りしめた。アンカジの人々を震撼させた大噴火を見た時から感じていた不安が急速に膨れ上がっていく。

そんな香織の手に、ティオがそっと自分の手を重ねると力強い眼差しで香織を見つめた。

 

「香織よ。ハジメからの伝言じゃ」

「ハジメ君からの?」

「うむ。正確には香織とミュウにじゃが……“あとで会おう”とのことじゃ」

 

香織は必ず帰るとか心配するななど、二人を安心させるための言葉を予想していたのだが、コンビニに寄るような感じの軽い言葉だったがために思わずポカンと口を開けて呆けてしまう。

だが、下手に強い言葉を並べられるよりも、よほど安心できる伝言だと香織は苦笑いを浮かべる。

 

「そっか、なら大丈夫だよね」

「うむ。たとえはたから見れば絶望的な状況でも、主殿とハジメが揃っているのなら普通に生還すると、無条件に信じられるのじゃ……」

「うん……ハジメくんなら、皆なら大丈夫。だから、私も私がやるべきことをやらないとね」

「そうじゃな。あと、主殿からは“患者の処置が完了次第、エリセンに向かってくれ”と言われておる。主殿はもしかしたら、こうなることを想定しておったのかもしれんな」

 

ティオはしみじみと呟く。

あの時は、なぜアンカジで待つように言わないのかと疑問に思ってはいたが、今となっては要石が破壊されたと言われた時点で、噴火に巻き込まれることは想定していたのだろう。そうすれば、脱出にも手こずるはずだ。

そう判断した上で、問題がないようであればエリセンに先に向かわせてミュウを母親に会わせようとしたのだろう。

 

「そっか、やっぱり陽和くんはすごいね。ずっと先を見据えてるんだから」

 

ティオの呟きに香織も流石だと感心の声を上げる。

かつて王宮から脱走した際の騒ぎでも感じていたが、とにかく陽和は慧眼だ。

あらゆる事態を想定し対応できるように動くその姿は、とても同年代とは思えないほどに大人びていた。それはこの世界に来てから何度も目の当たりにし、彼の凄さを実感することが多々あった。

 

「よしっ、それなら患者さんの処置をしないとっ。ティオ、手伝って!」

「勿論じゃ、なんでも言っておくれ」

 

友人達が頑張っているのだ。ならば、自分も頑張らなければと気を引き締めた香織は、先にランズィ達に渡しておいた大量の静因石が、そろそろ粉末状にされ患者達に配られているからだと判断して、衰弱した人々を癒す為に瞳に力を入れて立ち上がった。

 

その後、宮殿で、領主の娘であるアイリー(十四歳)に構われているミュウとも合流し、事情説明が行われた。

するとやはり、ハジメパパがいないことにミュウは泣きべそをかいてしまう。

 

「パパいないの!?ミュウ、パパに会いたいの!」

「ミュウよ、気持ちはわかるがハジメの娘なら簡単には泣いてはならんぞ。もうしばしの辛抱じゃ」

「うぅ…」

 

ミュウはティオにそう言われると、ほっぺをプクッと膨らませながら懸命に泣くのを堪えた。

そうしてミュウを泣き止ませたティオにランズィが声をかける。

 

「ティオ殿、今しがた粉末状にした静因石が皆に配り終えたところだ。これも全て貴方達のおかげだ」

「うむ、間に合ったようで何よりじゃ」

 

感謝を示すランズィに嬉しそうに表情を緩ませてティオはそう言う。しかし、そんな言葉にランズィは少し気まずそうな表情を浮かべると、恐る恐ると口を開く。

 

「………ところで、貴女は、あの竜人族、だったのだな」

 

そう言うランズィの表情は戸惑いが大きく、ティオは静かな表情を浮かべて言葉を返す。

 

「隠していたことは謝ろう。しかし妾にも故あってのことじゃ、許してたもう」

「いやっ、そんなつもりでは……貴女達は命懸けで静因石取ってきてくれた。素性がなんであれ、貴女達が公国の恩人であることに変わりはない。ありがとう」

 

ランズィは胸に手を当てて感謝の意を示し頭を深く下げた。どうやら、神敵と定められている竜人族に対する恐れよりも、公国を救ってくれた恩人への感謝が上回ってくれたようだ。

 

ちなみに、ティオが竜人族であっても恩人であるため特に問題がなかったことと同様にミュウも特に種族的差別は受けなかった。

海人族ではあるが、神の使徒たる香織や雫の連れであることと、少し関わればわかってしまうその愛らしさに、アンカジの宮殿にいる者達はこぞってノックアウトされていたらしく、特に、ランズィの娘アイリー(14歳)に至っては病み上がりで外出禁止となっていることもあり、ミュウを構い倒しているようだ。なので、特に問題はなかったようだ。

強いて言うならば、ミュウの面倒を見る女性陣の目がヤバかったことが唯一の問題だったといえよう。

 

それから香織達は、患者達を次々と癒していったが、二日経っても陽和達が戻ってこないことに、次第に表情を暗くしていった。

ティオも香織の治療を手伝う傍ら、何度か【グリューエン大火山】までのルートをいくつか探索してみたが陽和達が脱出してきた痕跡は未だ見当たらなかった。

そしてティオが戻ってから三日目の晩、香織は、ミュウとティオに提案をした。

 

「今日で、私の処置が必要な患者さんはいなくなったと思う。あとは、安静にして時間をかけて自然治癒に任せるか、医療院のスタッフに任せれば問題ないよ。だから、そろそろ陽和くんの指示通り、エリセンに行こうと思うの」

「みゅ?ママに会えるの?」

「ふむ、そうじゃな。妾も、そろそろかと思っておった」

 

香織の言葉に、ミュウは嬉しそうに身を乗り出してティオは真剣な表情で賛同する。

 

「患者の処置も済んだし、妾も十分に回復した。いい頃合いじゃろう。二人とも、妾の背に乗っていくがよい。エリセンまでならば、急げば一日もかからず行けるじゃろう。早朝に出れば夕方までには到着できよう」

「うん、じゃあ、明日の早朝に出よう」

「じゃな」

 

とんとん拍子で進んでいく話に、ミュウはついていけずに頭の上で大量の“?”の花を咲かせる。

なので、香織が丁寧に分かりやすく説明すると、母親に会えると言うことで嬉しそうにしていたが、ハジメを直接迎えにいけないことは悲しいようで、悲しげな表情を浮かべる。だが、皆でハジメパパが来るのを待てばいいと伝えると、渋々ではあるが納得してくれた。

とはいえ、実母と天秤にかけられるとか、どこまでパパなんだと二人は苦笑いを浮かべずにはいられなかった。

 

翌日、引き止めたそうな領主や、特に、熱っぽい眼差しで香織を見つめるビィズに見送られながら、竜化したティオの背に乗って香織達は西の空へと飛び立った。背後で、盛大な感謝や香織を称える人々の声が砂塵をものともせず響き渡る。

 

(ハジメくん、私達待ってるから。……どうか、無事に帰ってきて)

 

香織は、再びはぐれてしまった愛しい人を想い、いつまでも帰りを待っていることを胸に秘めて、真っ直ぐ前を向いた。

 

 





というわけで、脱出方法は原作と変わらず潜水艇での脱出となりました。
とはいえ、次善案で陽和が雫達を覆った結界ごと口の中に入れてマグマの中を泳いで脱出するという方法もあったんですよ。生半可な衝撃なら耐えられるし、魔力の回復も際限なくできるので竜帝化の維持は問題ないのですが、多分、というか確実に噴火の衝撃には耐えられずに口の中の雫達を吐き出す可能性があったので、不採用となりました。
でも、潜水艇が壊れたら、ためらわずに雫達を丸呑みにして口を抑えながら必死に泳ぎます。

セレリアはどうにか陽和のお陰で精神崩壊は免れましたね。彼の言葉がなかったら、間違いなく彼女の心は自責で壊れていたでしょう。それほどまでに、兄からの拒絶は辛かったということです。

いつか、彼女の苦労が報われる日を祈るしかありませんね。

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