竜帝と魔王の異世界冒険譚   作:桐谷 アキト

6 / 59
皆さんアンケートご協力ありがとうございます!結果は圧倒的にあった方がいいと言う意見が多かったので、タグに載せました。

それでも一応ここでもう一度載せときます。
ヒロインは雫、ティオ、オリヒロです。優花はまだ未定です!

そして今回は詰めに詰めた結果2万字超えました(笑)。




6話 失ったもの

 

 

「まさか………ベヒモス………なのか……」

「っっ⁉︎」

 

メルドの呻くような呟きに、陽和は目を見開き驚愕を露わにする。

 

(ベヒモスだと⁉︎)

 

ベヒモス。陽和は資料調べの過程でオルクス大迷宮のことも調べており、ベヒモスのこともそこには載っていた。

確か、六十五階層の魔物であり、かつて“最強”と言わしめた冒険者ですら歯が立たなかった化け物。いくらチートステータスを持っているとはいえ、今の陽和達では敵う相手ではない。

 

いつだって余裕があり、生徒達に大樹の如き安心感を与えていたメルドが焦燥を露わにしていることから、王国最高の騎士をしても戦慄させる魔物なのだと分かる。

ベヒモスは、徐に大きく息を吸うと、それが開戦の合図だとでもいうかのように凄まじい咆哮を上げた。

 

「グルァァァァァァアアアっ!!」

「っ⁉︎アラン!生徒達を率いてトラウムソルジャーを突破しろ!カイル、イヴァン、ベイルは全力で障壁を張れ!ヤツを食い止めるぞ!光輝、陽和、お前達は早く階段へ向かえ!」

「待ってください!メルドさん!俺達もやります!あの恐竜みたいなヤツが一番ヤバイでしょう!だったら俺達も「了解っ‼︎‼︎」なっ!」

 

メルドの言葉に踏みとどまろうとした光輝が何かを言っている最中に陽和は声を張り上げトラウムソルジャーの群れへと駆ける。

光輝は迷いなくメルドの指示に従った陽和に驚愕の視線を向けるが、陽和はそれを無視する。

さらに後ろでベヒモスの咆哮が轟き、ついで石橋が大きく揺れたがそれすらも構わずに陽和は“縮地”で駆けて自身の役割を全うしようとする。

 

(後ろはメルド団長達に任せる。俺は前を切り開く!)

 

トラウムソルジャーも陽和は調べていて知っている。三十八階層に現れる魔物であり、今までの魔物とは一線を画する戦闘能力を持っている。

いわばこのトラップは『個』の暴力であるベヒモスを倒し先へ進むか、『数』の暴力であるトラウムソルジャーの群れを突破して脱出するかの二択の選択肢が与えられているのだ。

そして、パニック状態に陥っている生徒達の間をすり抜けて、誰よりも疾くトラウムソルジャーの群れへと肉薄すると、詠唱を素早く唱え再び剣に炎を宿し振り抜く。

 

「ーー敵を焼き斬れ!“炎刃”ッ!」

 

裂帛の気合を持って放たれた炎剣はトラウムソルジャーを十体ほどまとめて薙ぎ払い粉砕する。

 

(行けるっ‼︎)

 

今までの魔物よりは確かに強いのだろう。だが、こちらはチートスペックを持った生徒達だ。実力を発揮できれば切り抜けられる。

後ろのベヒモスは今の実力では倒すのは難しい。だが、此方ならばなんとかなる。

陽和は炎剣を振るいながら、後方へと視線を巡らせる。

 

陽和以外のほとんどの生徒たちがこの状況に半ばパニック状態に陥っていて、隊列など無視して我先へと階段を目指してがむしゃらに進んでいく様子が見えた。騎士団員の一人であるアランが必死にパニックを抑えようと声を張り上げていたが、目前に迫る恐怖に呑まれそれに耳を傾ける者はいなかった。

陽和はどうすればいいと思案していた時、一人の女子生徒ー優花が後ろから突き飛ばされ転倒し、一体のトラウムソルジャーが彼女の眼前で、剣を振りかぶっていたのを見た。

 

「あ」

「園部ッッ!!」

 

陽和は回し蹴りの勢いを殺さずに足に力を入れて、“縮地”の派生技能。重ねがけしてさらに加速させる“重縮地”を使い、彼女の眼前に飛び出すと、“金剛身”で硬化した拳で剣を振り下ろそうとしたトラウムソルジャーを殴り飛ばした。

容易く飛ばされたトラウムソルジャーは、他数体のトラウムソルジャーをも巻き込んで破片を散らしながら奈落へと落ちていった。

 

「園部大丈夫か?」

「う、うん…あ、ありがとう。紅咲!」

 

元気に返事をした優花に小さく頷くと、再び最前線へと駆け出しながら大きく息を吸って声を張り上げる。

 

「全員狼狽えるなッ!!コイツらは倒せない敵じゃない!!隊列を組んで戦えば勝てる相手だ!!ここを突破して全員で生きて帰るぞ!!」

 

陽和の怒号にも近い叱咤がビリビリと戦場に響き渡り、何人かが鼓舞されたかのように頷き、彼らを中心にアランの指示のもと、適切な隊列が組まれていく。

魔法陣から次々と増援が送り込まれていく中、整った布陣に少なくとも蹂躙されることは回避できたと陽和は安堵する。

視界の端ではハジメも錬成をうまく使い、滑り台の要領でトラウムソルジャーを奈落へと落としたり、足元を崩して固定し、足止めをしている。

そして最前線で戦っている陽和は、再び前方の群れへと向き直り、二つの詠唱省略した魔法を同時発動する。

 

「紅き母よ!“炎浪”!風よ!“風爆”!」

 

死を運ぶ紅蓮の炎の津波がトラウムソルジャーを焼き、ついで横薙ぎに放たれた突風がその炎をより燃え上がらせ、爆発を起こし吹き飛ばす。

今湧き出しているトラウムソルジャー達の約半数を纏めて吹き飛ばし空いたスペースに、アランの的確な指示で生徒たちが前進して階段との距離を縮める。

おそらくはこれの繰り返しになるはずだ。

不用意に飛び込んだところで、瞬く間に包囲され惨殺される未来しかない。陽和が傷を負いながらも最前線で戦えているのは、その包囲に対応できる技量があるからこそ。他の生徒では難しいだろう。

そして、

 

(くそっ、駄目だ。間に合わないっ!)

 

陽和は現状に歯噛みする。

何とか戦えてはいるがこれではいずれジリ貧になるのは見えている。なにせ、増援が送られてくる量が多すぎて、大多数を減らしている陽和の奮戦が間に合わなくなってきているからだ。

陽和の叱咤とそれに鼓舞された一部の生徒達とアラン達騎士団員のおかげで、なんとか死者は出ていないが、限界が近づいていてこのままではいずれ瓦解して死者が出る可能性が高い。

 

(あいつは何をやってんだ!!)

 

陽和は戦線維持をしながら、背後へと視線を向けて、いまだに此方にこない者へと怒りを募らせる。

おそらく、今もメルドのそばで駄々をこねているかもしれない。これほど命が脅かされている状況なのに、その状況を分かっていないことに陽和は苛立つ。

 

(こうなったらッ!)

 

陽和は眼前に迫るトラウムソルジャーを“火球”で吹き飛ばして大きく後退すると、前線で同じように戦う者達へと声をかける。

 

「園部!重吾!少し保たせられるか?」

 

優花と、龍太郎と並ぶクラスの二大巨漢の1人である大柄な柔道部の男子生徒永山重吾。

二人は陽和の言葉に額に汗を滲ませながら、状況を把握し頷く。

 

「少しなら何とか…」

「陽和、何をする気だ?」

「天之河とメルド団長を連れ戻す。今のままじゃジリ貧だ。二人がいないと突破は難しい。俺一人じゃ間に合わない」

「でも、紅咲はどうするの?」

「俺があいつを抑える」

「「なっ」」

 

陽和の言葉に、驚愕をあらわにする二人。陽和は彼らが何かいうよりも先に言葉を被せた。

 

「誰かがあいつを抑えなくちゃいけないのは変わらない。ならその役目は俺がやる。あっちに割く人数は最低限でいい。そして、俺が奴を抑えている間にお前達はここを一気に突破しろ。階段前を確保したら魔法で一斉攻撃してくれ。その時に俺も離脱する。俺一人ならトラウムソルジャーの壁も突破できるからな。後で団長達に伝えておいてくれ」

「そ、そんな、無茶よっ!」

「そんなことはわかってる。だが、このままだと全員死ぬ。だったら無茶でもやらないといけない」

「で、でもっ、危険すぎるわよ!」

 

あまりに馬鹿げている上に成功の可能性も低く、陽和が最もリスクを背負う作戦に、優花は反対の声をあげる。だが、話を黙って聞いていた重吾は静かに頷いた。

 

「……分かった。だが、陽和お前も気をつけろ。危ないと思ったらすぐに下がって欲しい。それならいい。こっちは任せろ」

「永山っ」

「ああ、元からそのつもりだ。じゃあ頼んだぞ!」

 

陽和はそう言って駆け出す。何か言おうとしていた優花は、陽和の背中を一瞥するとぐっと唇をかみしめて、陽和の頼み通り重吾と共に戦線の維持に奮戦する。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

メルド達騎士が展開した何者にも破らせない絶対の守りである結界魔法“聖絶”。三人同時発動でたった一回、たった1分だけの防御ではあるが、それが燦然と輝く半球状の障壁となって未だベヒモスをそこに留めている。しかし、何度も繰り返される突進を前に、障壁には全体に亀裂が入っており砕けるのは時間の問題だった。

 

「ええい、くそ!もう保たんぞ!光輝、早く撤退しろ!お前達も早くいけ!」

「嫌です!メルドさん達を置いていくわけにはいきません!絶対、みんなで生き残るんです!」

「くっ、こんな時にわがままを……」

 

メルドは苦虫を噛み潰したような表情になる。

この限定された空間ではベヒモスの突進を回避することは難しい。それ故に、逃げ切るためには障壁を張り、押し出されるように撤退するのがベスト。しかし、その微妙な匙加減はベテランだからこそできるもの。陽和はその辺りの判断はできていたが、今の光輝達ではまだ難しい注文だ。

なんとか光輝達を撤退させようと、その辺の事情を掻い摘んで説明し促しているのだが、光輝は『置いていく』ことにどうしても納得ができないらしい。また、自分ならベヒモスをどうにかできると思っているらしく、目の色が明らかに危険な攻撃色を放っている。

まだ若いから仕方ないとはいえ、少々自分の力を過信し過ぎている。戦闘素人の光輝達に自信を持たせようとまずは褒めて伸ばす方針が裏目に出てしまったとメルドは歯噛みする。

 

「光輝!団長さんの言う通りにして撤退しましょう!」

 

状況がわかっている雫は、なんとか光輝を諌めようと腕を掴む。

 

「へっ、光輝の無茶は今に始まったことじゃねぇだろ?付き合うぜ、光輝!」

「龍太郎……ありがとうな」

 

龍太郎が賛成してしまったせいでさらにやる気を見せる光輝に雫は舌打ちする。

 

「状況に酔ってんじゃないわよ!この馬鹿ども!」

「雫ちゃん……」

 

苛立つ雫に心配そうな香織。その時、彼らの前に陽和が駆け込んできた。

 

「メルド団長!」

「陽和⁉︎」

「あっ、紅咲⁉︎お前どうしてここに⁉︎」

「そんなことはいい!メルド団長、早く撤退してください!戦線はなんとか維持はできていますが、戦力が足りなくて迎撃が間に合いません!貴方が増援に向かってください!」

「陽和はどうする気だ⁉︎」

「俺がここに残ってこいつを足止めします!ここに高い戦力を持つ者達が残っている状況は危険です!ここに残るのは最低限でいい!」

「いきなり何だ!それより、何でこんなところにいる!お前は向こう側だろ!ここは俺たちに任せて……」

「状況を見ろ!!大馬鹿野郎!!!」

 

陽和に対抗心を抱いている光輝が陽和に元の持ち場に戻れと言おうとした言葉を遮り、陽和は光輝の胸ぐらを掴みながら怒鳴り返す。

鬼気迫る表情と今までにない怒声に光輝や雫達は思わず硬直する。

 

「今の状況がわからないのか⁉︎お前がここで餓鬼みたいに駄々をこねている間にも状況は悪化する一方だ!今こいつを倒すことよりも優先すべきことがあるだろう!!」

「ッッ!

「今の俺達ではどうやっても勝てない!勝てない敵にいつまでもこだわるな!そんな簡単な事も分からないのか!!」

「なっ!」

 

陽和の言葉にカッとなった光輝が反論しようとするが、陽和は更に続け反論を許さない。

 

「今優先するのはここから脱出することだ!こいつを倒すことじゃない!!その為にはあの群れを突破しなくちゃいけないんだ!!ここに人数を割くべきじゃない!!お前もメルド団長もあっちに必要なんだよ!!」

「だ、だがっ!!」

「自分のやるべきことを見間違えるなっ!戦うことだけじゃなく、仲間を守り生き残ることも考えろ!!!」

 

光輝は陽和の顔とトラウムソルジャーと奮戦している仲間達へと視線を交互に向けると、悔しそうにしながらもぶんぶんの頭を振り、頷いた。

陽和の意見に従うのは心底嫌だが、反論の余地もないほどに正しいことなので従う他にない。

 

「〜〜っ、分かった。直ぐにあっちに向かう!メルドさん!すいませーー」

「下がれぇ———!」

 

光輝が“すいません、先に撤退します”、そう言おうとしてメルドを振り返った瞬間、悲鳴じみた警告と同時についに障壁が砕け散った。

暴風のように荒れ狂う衝撃波が陽和達を襲う。咄嗟に陽和が剣を石橋に突き立てて、光輝の隣にいた雫を片手で抱き抱えながら“金剛身”を発動して衝撃に耐える。鈍痛が体に走るが、何とか耐えれたようだ。

舞い上がる埃がベヒモスの咆哮で吹き払われ、そこには倒れ伏し呻き声をあげるメルドと騎士が三人。衝撃波の影響で身動きが取れないらしい。光輝と龍太郎も倒れていたが直ぐに起き上がる。どうやら、メルドの背後にいたことが功を奏したようだ。そして腕に抱えられた雫も無事だった。

 

「お前らメルド団長達を担いで下がれ!白崎は団長達の治療を!」

「う、うんっ!」

 

陽和は雫を離すと、剣を構えて指示を出す。それに雫が慌てた様子で問う。

 

「待って!陽和はどうするの⁉︎」

「俺が残って時間を稼ぐ!」

「なら私も残るわ!」

「駄目だ!お前は龍太郎達と一緒に団長達を運べ!なるべく早くここから離れるんだ!」

「でもっ!」

「いいから早く行けっ!俺が押さえているうちに早くっ!!!」

 

陽和はそう叫びながら“火球”を目眩しがわりに連続で放つ。ベヒモスは大して効いていないようで、煩わしそうに前脚でその炎を払おうとしていた。

 

「大丈夫だ。時間稼ぎをするだけで別に倒すわけじゃない。少し食い止めればそれでいいんだ。そっちが撤退できたなら俺も直ぐに下がる。だからお前は先に行ってくれ」

「……っ」

 

陽和は雫の頭を撫でながらそう優しく言った。

雫は目の端に涙を堪え悔しそうに唇を噛むと、陽和へと背を向けて震える声で言った。

 

「無茶だけはしないで…」

「ああ」

 

そして雫は光輝達へと駆け寄り、光輝と龍太郎と共にメルド達を担ぎ、香織が彼らの治療へと専念する。最後に光輝に担がれたメルドが陽和へと振り返る。

 

「……陽和、すまない……後で、必ず助ける。だから、ここは頼んだ…」

「はい」

 

そうしてメルド達は光輝達に担がれながら後方へ撤退する。雫は最後まで名残惜しそうに陽和の背中を見ていたが、何も言わずそのまま撤退した。

 

「さて……」

 

陽和は“火球”の目眩しを止める。彼の視線の先にいるベヒモスは煙を払うと低い唸り声を上げ、魔物特有の赤黒い魔力を発しながら、陽和を射殺さんばかりに睨む。どうやら、自分に歯向かう者を標的にする習性があるらしい。しかし今はその方が好都合だ。ここで陽和に釘付けにさせる。

陽和は危機的状況に怯えず、むしろ笑みを浮かべて剣を構える。

 

 

「ここから先へは行かせない。俺が相手だ」

 

 

▼△▼△▼△

 

 

「グゥガァァァァァァッッ!!」

 

ベヒモスが咆哮を上げながら頭を掲げる。

直後、頭の角がキィ———と甲高い音を立てながら赤熱化していき、遂に頭部の兜全体がマグマのように燃え上がった。

瞬間、ベヒモスが突進を始め陽和の手前で跳躍すると、赤熱化した頭部を下に向けて隕石のように落下する。

 

「やらせるかよっ!」

 

陽和は腰のポーチから幾重にも折り畳んだ紙を取り出し、五十センチ四方へと広げてそこに描かれた魔法陣に魔力を流し込み、詠唱する。

 

「全ての敵意と悪意を拒絶するっ!神の子らに絶対の守りを!ここは聖域なりて、神敵を通さず!!“聖絶”ッッ!!!」

 

四節の詠唱で展開されるは先ほどもベヒモスを食い止めた絶対守護の防壁。朱色に燦然と輝く半球状の障壁が展開され、ベヒモスがそこに着弾する。

直後、凄まじい衝撃音と衝撃波が撒き散らされ、石造の橋が揺れ、陽和の足元に蜘蛛の巣状の亀裂が生まれ粉砕する。

 

陽和の発動した“聖絶”はしっかりとベヒモスの必殺を受け止める。だが、先ほどメルド達が四人がかりで展開した物に比べれば、詠唱は同じ四節であったとしても込められた魔力が劣っていた。

陽和は先程まで一人最前線でトラウムソルジャー達を相手に奮戦し、戦線を維持していた。その際に常時“炎刃”を発動し、さらには凄まじい勢いで魔法を使ったが為に、全員の中で最大量の魔力を保有している陽和ですら、既に8割近く魔力を消費してしまっていたのだ。高速魔力回復の技能があっても回復が追いついていない。

障壁にはすでに小さな亀裂が無数に入り始め、ベヒモスの角が障壁をこじ開けようとしていた。

 

「チッ、限界かっ」

 

結界の綻びを見た陽和は苦々しく呻きながら、身体強化魔法を己にかけて、後ろへ大きく跳躍する。次の瞬間、障壁が砕け散る音が響き、ベヒモスが先ほどまで陽和がいた場所に着弾する。

発生した衝撃波や石礫が陽和へと襲いかかるが、それらを“金剛身”で耐えて地面を転がり受け身をとって衝撃を逃す。完全には逃しきれなかったが、大分ダメージは抑えることができた。

そして、めり込んだ頭部を抜こうとしているベヒモスに“金剛身”を発動したまま陽和は駆ける。狙うは陽和の胸あたりの高さにある石橋に突き刺さっている赤熱化している角。

 

「全てを切り裂く至上の一閃、“絶断”!“炎刃”!!」

 

膂力を強化する技能“剛力”と“金剛身”を合わせ、それに加えて切れ味を増す魔法“絶断”と“炎刃”。それら4つを合わせて切れ味、膂力、速度が増した炎の剣が大上段の姿勢から振り下ろされ、ベヒモスの角に直撃する。

赤き火焔を纏った剣は甲高い音を立てながら角に食い込むものの、それは半ばで止まり切断するには至らなかった。

 

「くそっ、硬いっ」

「ガァアア!!」

 

角を折ろうとする矮小な存在に怒りを感じたのだろう。ベヒモスは雄叫びを上げ、頭を抜こうともがきながら鋭い爪を陽和に振るう。

 

「ぐっ!」

 

とっさに角から剣を抜いて、後ろに跳んだものの完全には回避しきれず、胸と胴に浅くはない爪痕が刻まれ血がどろりと溢れ出す。

 

「ガッ!?」

 

陽和は受け身も取れず石畳を転がり、ふらふらと立ち上がった時、口の端から血を垂らしながら、痛みに表情を歪める。

 

(まずいっ、“金剛身”が破られたっ!!)

 

全身に展開していた朱色の魔力光で構成された鎧“金剛身”。その胸と胴の部分がベヒモスの爪に破られていたのだ。

魔力も殆どを消費し、傷も無視できないほどに増えている。いよいよ限界が近づいてきた。

ベヒモスも既に頭部を引き抜いており、戦闘態勢を整えようとしている。

陽和は背後へと視線を向ける。視線の先ではトラウムソルジャーの群れに対して奮戦している生徒達がいて、その先頭ではメルドと光輝、雫と龍太郎など“治癒師”の天職を持つ香織の魔法によって回復した主力メンバー達がトラウムソルジャーの包囲網を切り裂いていた。

だが、まだ階段前には辿り着けていない。数の多さが彼らの力を持ってしても手こずらせていたのだ。

まだ撤退も許されない危機的状況の中、陽和は冷や汗を流しながらもそれでも笑みを崩さない。彼は剣に再び火焔を纏わせる。

 

「俺はまだ立ってるぞ!かかって来い!」

「グルゥアアア!!」

 

陽和は激痛が走る身体に鞭打ち、吠えるように叫び挑発する。人の言葉が通じるわけではないが、本能で感じ取ったのだろう。

ベヒモスは咆哮を上げながら突進を始める。同時に陽和も駆け出す。

一見すれば自棄になった末の特攻。だが、これは特攻ではない。

 

(見極めろ!タイミングを計れ!)

 

陽和は詠唱をしながら、スローモーションになった視界で、ベヒモスとの距離を正確に把握しタイミングを計る。

そして、ちょうど五メートルを切った瞬間、

 

(今だっ!!)

 

陽和は身体強化した脚に力を込め、石畳を砕くほどの力強い踏み込みで勢いよく跳躍する。

ベヒモスからは陽和が突然消えたように見えたのだろう。急停止し周囲を見渡し探している。だが、もうそこにはいない。いるのはベヒモスの頭上だ。陽和は空中で体制を整えて、唱えていた魔法を発動する。

 

「“来翔”!!」

 

瞬間、陽和の背中に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

風系統の初級魔法であり、本来は強烈な上昇気流を発生させ跳躍力を増加させる魔法なのだが、陽和はそれを応用し空中でそれを向きを反転させ下方へ向けて発動することで、下降気流へと変えて自身を吹き飛ばし落下速度と威力を高めたのだ。

そして、ベヒモスの頭部が迫る中、剣を両腕で握りしめ、深く呼吸する。

 

(まさか、この神楽を戦闘で使うことになるとはな)

 

陽和は薄く笑いながら型を構える。

今から使おうとしているのは、紅咲家に伝わる神楽であると同時に剣技でもある型の一つ。

両手で剣を握りしめ、全身の動きを連動させ力を剣の鋒に一点集中させて敵を刺し貫く剣技の中で唯一の刺突技。

 

紅咲家が代々受け継いできた、古くから信仰する火の系統に属する神々へと捧げる神楽舞。

 

通称『火神神楽(かがみかぐら)』。

 

その陸ノ型。

 

 

「——— “紅火穿(こうかせん)”ッッ!!!!」

 

 

紅蓮の火焔を纏う刺突がベヒモスの右目へと深々と突き刺さり、赤黒い血が噴き出す。

 

「グゥガァァァ⁉︎⁉︎」

 

ベヒモスは悲鳴を上げ石畳を粉砕しながらもがき苦しみ、暴れ回る。陽和はすぐに剣を引き抜くと、ベヒモスの頭を蹴って後ろへと跳躍し距離を取ろうとする。

だが、ここで一つ誤算が生じた。

 

「っ、やべっ」

 

ベヒモスから飛び降り未だ空中にいる陽和の視界にベヒモスの前脚が迫っていたのだ。

突然のことで“来翔”での回避も、“金剛身”での防御も間に合わず、咄嗟に構えた剣だけでは防げず陽和は容易く弾き飛ばされる。

威力が強すぎたのか、勢いよく石畳へと叩きつけられ、ボールのように二度三度石畳を跳ね転がる。

 

「ガ、ハァッ!ぐっ、かはっ、はぁーっ、はぁーっ」

 

肺の中の空気全てと大量の血が一気に吐き出され、全身を焼くような激痛と息苦しさに陽和はすぐには立ち上がれなかった。

ベヒモスは未だ痛みに暴れ回っているが、いつ落ち着くかわからない。もしも、陽和が立つ前にベヒモスがこちらへと突進すれば防げない。

 

(早く立て!動け!動かないと全部無駄になる!だから立てっ!!)

 

陽和は己に叱咤し、必死に力を込めてなんとか立ち上がろうとする。力を入れるたびに傷口から血が溢れ出すが、それでも陽和は立ち上がろうとする。

そして、なんとか上体を起こし未だ暴れているベヒモスを睨みつけたその時だった。

 

「陽和君!」

 

本来聞こえるはずのない声が聞こえ、次いでこちらに近づく足音が聞こえる。

まさかと思いながら、そちらへと振り向くとよく見知った少年が一人こっちへ走ってきていた。それは、親友のハジメだった。

 

「ハジメ⁉︎何でこっちに来た!」

 

陽和は目を見開き痛みも忘れ驚愕と怒りに満ちた声で叫ぶ。

 

「僕が錬成で足止めするから、陽和君は下がって白崎さんに治療を!」

「馬鹿を言うなっ!危険すぎるっ!早く戻れっ!」

 

陽和はハジメを早く下がらせようと肩を掴み後ろへと押そうとする。だが、ハジメは頑として譲らない。

 

「確かに僕が来たところで危険なのは分かってる。それでも傷だらけな君を見ているだけなんてできないよ」

「っ!」

 

そう言い放ったハジメの瞳に宿る強い意志の光に陽和は思い出す。ハジメは普段は事なかれ主義だが、本当に必要な時が迫った時、自身の身を犠牲にしてでも行動を躊躇わない奴だったと。

そして、親友がたった一人、傷だらけになりながら命をかけて自分達を守るために戦っているこの状況で、何もしないはずがなかったのだ。

 

「〜〜っっ、お前はっ」

 

陽和が歯噛みしながら呻くように呟いた後、数秒葛藤しやがて言った。

 

「俺が隙を作る。だからお前がその時に錬成で拘束しろ」

「でもっ」

「お前一人にやらせはしない。二人でコイツを止める。それ以外は許さない」

「……うん、分かった」

 

ハジメもまた理解していた。

陽和は誰かを守るために戦う人間であり、親友を見捨てるような選択は何かあっても取らない男だということを。

どれだけ傷を負おうとも、どれだけ悪く言われようとも彼は決して友を見捨てることはしない。誰よりも優しく、誰よりも多くのものを背負おうとする。彼はそう言う人間だ。

だから、ハジメもこれ以上言っても彼は下がらないことがわかった。

だが、陽和の傷は明らかに重傷。足止めをして、急いで離脱して治療を受けさせないと彼の命が危ない。

 

(君を絶対に死なせはしないよ)

 

掛け替えの無い唯一無二の最高の親友だと胸を張って言える彼を死なせるわけにはいかない。

ハジメはそう強く決心する。陽和に肩を貸して立ち上がらせる。

 

「チャンスは一度きりだ。ミスるなよ?」

「うん」

 

二人はベヒモスへと向き直る。

ベヒモスは既に頭部を引き抜いていて、頭部の兜を再び赤熱化させている。

 

「グゥガァァァァ!!!」

 

やがてベヒモスは赤熱化した兜を掲げ、突撃、跳躍する。陽和は血を流し荒い息を吐きながらも、深く集中し目を見開いて構える。そして、ハジメを脇に抱えて小さく呟く。

 

「“金剛身”」

 

同時にバックステップで離脱する。

その直後、ベヒモスの頭部が一瞬前まで陽和達がいた場所に着弾する。発生した衝撃波や石飛礫はハジメを後ろに庇った陽和が“金剛身”で完全には殺しきれずとも、何とか耐える。

再び、頭部をめり込ませたベヒモスに陽和が飛びついた。

 

「“剛力”!!」

 

ベヒモスの赤く燃える角を掴み強化した膂力を持ってベヒモスを抑える。赤熱化しているせいで、陽和の肌を焼き全身に激痛が走る。だが、そんな痛みを堪え後方にいるハジメに叫ぶ。

 

「今だ!ハジメ!」

「“錬成”!!」

 

ハジメは空色の魔力を迸らせながら詠唱を行う。それは名称だけの詠唱。最も簡易でハジメが持ってる唯一の武器。

 

頭部を抜こうとしたベヒモスの動きが止まる。周囲の石を砕いて頭部を抜こうとしても、陽和の“剛力”による抑え込みがベヒモスの頭部を押さえ、更に、ハジメが錬成で砕いた石を片っ端から直してしまい抜け出せない。

しかし、それでもベヒモスのパワーは凄まじく、油断すると直ぐ石畳を砕いて抜け出してしまいそうだ。

 

「ぐっ、オオォォォォォォォッッ!!」

 

暴れるベヒモスの角を掴み抑えつける陽和、抑えつける為に力を入れすぎたせいで、陽和の両腕からは血が噴き出す。

 

「ぐうぅっ!」

「陽和君⁉︎」

「構うなっ!続けろ!」

 

今までの怪我も含めて尋常じゃ無い出血量にハジメは焦るが、陽和の怒声にグッと堪えて錬成に集中する。

陽和は全身を焦がし、血を噴き出しながらも、暴れるベヒモスを抑え続ける。

しかしそれでも抑えきれない現状に、陽和は左拳を振り上げる。左拳には残りの魔力全てを注ぎ込んだのかと思うほどの朱色の魔力光が宿る。それはまさしく炎のように燃え盛っていた。

そして、その燃え盛る左拳を振り上げ、雄叫びを上げる。

 

「このっ、大人しくしやがれぇぇぇ———っっ!!!」

 

雄叫びと共に陽和の拳がベヒモスへと振り下ろされた直後、凄まじい轟音が響き、石橋が揺れる。

それは先ほどのベヒモスの突進の威力にも劣らないほどの拳撃。それがベヒモスの頭部へめり込むほどに強く叩き込まれた。

それは火事場の馬鹿力が為したのか、あるいは別の何かが作用したのかはわからない。当たりどころがよかったからかもしれない。ただ、一つだけ言えるのは今の一撃は、確かにベヒモスの意識を落とすことに成功したのだ。

ベヒモスはズンと崩れ落ちる。

陽和達の後方で階段前をちょうど確保し終えたメルド達が、思わず動きを止め唖然とする。

 

「……すごい」

 

ハジメも思わず錬成を止めてしまい驚嘆の表情でそう呟く。だが、それは咄嗟に焦燥へと変わった。

 

「ぅあ…」

「っ⁉︎陽和君!」

 

陽和が突如ぐらりとその体を傾けたからだ。

ハジメは咄嗟に陽和の体を支える。支えた陽和の顔色は青白く、呼吸も荒い。体からは今もとめどなく血が流れていて、一刻を争う状態だった。

 

(早く白崎さんに見せないと!)

 

焦るハジメに待ち望んだ声が届く。

 

「陽和!ハジメ!準備が出来た!撤退しろ!!」

 

メルドの声だ。そちらに視線を向けると、全員撤退が完了して階段前を隊列を組んで確保していた。今は詠唱の準備に入っているようだ。

ハジメは陽和を支えながら、片手で最後の錬成を行いベヒモスを更に拘束すると、陽和の腕を自分の肩に回し立ち上がる。

 

「陽和君、あっちの準備が整ったよ!走れる?」

「…あ、あぁ、何とか、な」

「じゃあ行こう!僕が肩を貸すから!」

「……あぁ」

 

ハジメの言葉に弱々しい声で何とか反応した陽和は、ハジメに肩を支えられながらなんとか走る。

二人が遅い足取りで走り出してから15秒後、ベヒモスとの距離が50メートル程広がった時、ベヒモスが意識を取り戻し咆哮を上げた。

 

「グッ、グゥガァァ!!」

 

石畳にはあっという間に無数の亀裂が走って、ベヒモスは拘束を破る。

背を向けているためわからないが、ベヒモスの眼には、憤怒の色が宿っているのは間違い無いだろう。鋭い眼光が己の意識を一瞬とはいえ落とし、無様を晒させた怨敵を……背を向けて走る二人を捉えた。

そして追いかけようとしたその瞬間、ベヒモスの眼前にあらゆる属性の攻撃魔法が殺到する。

 

それはまるで夜空を流れる流星の如く、色とりどりの致死性の魔法がベヒモスを打ち据える。見たところダメージはないようだが、それでも足止めはできていた。

 

ハジメは走りながら思わず頬を緩ませる。

彼らがミスをするはずもないし、ここまで来ればあとはもう大丈夫だと確認できたからだ。

そして今日、一番体を張ったこの親友を死なせないで済むと思ったから。

そうしてハジメが顔を上げた瞬間、ハジメの表情は凍りつく。

 

空を駆ける数多の魔法の中で、たった一つの火球だけがクイッと軌道を僅かに曲げてハジメ達の方へと向かってきたからだ。しかも、明らかに誘導されたものが。

 

「なっ!?」

 

ハジメは疑問や困惑、驚愕が一瞬で脳内を駆け巡り、愕然とする。

咄嗟に踏ん張り、陽和に当たらないように自身の体で庇うようにしながら地を滑るハジメの眼前に、その火球は突き刺さった。

 

「うわっ!」

「ぐっ!」

 

直撃は避けたものの、着弾の衝撃波が二人を来た道へと吹き飛ばした。

ハジメは直撃は避け、内臓へのダメージもないが三半規管をやられて平衡感覚が狂ってしまう。

 

「陽和君っ」

 

フラフラしながらもハジメは一緒に吹き飛ばされた親友を探す。

 

「うっ、うぅ……」

 

ハジメが庇ったおかげだろう。吹き飛ばされはせずに、着弾箇所からそう離れていない場所に転がっていた。しかし、元々ダメージが大きかったからか、陽和は立とうにも立てない状態だった。

普段の陽和なら火球一つぐらいは“金剛身”で容易く防げた。だが、今は魔力も枯渇しかけ、しかも傷だらけの満身創痍の状態だ。それだから、たかが火球一発の余波でも立てないほどの状態になっていた。

 

「ハジ、メ…逃げろっ」

 

陽和に近寄ろうと何とか身体を動かすハジメに陽和から警告が飛ぶ。その視線はハジメではなく、その背後に向けられていた。

まさかと思った直後、背後で咆哮が鳴り響いた。思わず振り返ると、そこにはやはりベヒモスがこちらを捉えていた。

頭部は既に赤熱化を果たしており、頭部を盾のようにかざしながらハジメに向かって突進する。

 

クラスメイト達が遠くで焦りの表情を浮かべ、怒号と悲鳴を上げる中、ハジメは陽和へと近づかせまいとベヒモスを引きつけ、最後に必死にその場を飛び退いた。

直後、怒りの全てを収束したような激烈な衝撃が橋全体を襲い、着弾点を中心に凄まじい勢いで亀裂が走り、橋が悲鳴を上げ、ついに崩壊を始めた。

 

「グウァアアア⁉︎⁉︎」

 

悲鳴を上げながら崩壊し傾く石畳を爪で引っ掻くベヒモス。しかし、引っ掛けた場所すら崩壊して、抵抗虚しく奈落へと落ちていき、断末魔の叫びが木霊する。

そしてハジメがいる場所も、崩壊していく。

 

「くっそぉぉぉぉぉぉ———ッッ!!!」

 

陽和は限界を迎えている体で無理矢理“縮地”を使う。どこにそんな力があったのかと疑うほどの速度でハジメへと近づき腕を伸ばす。

ハジメも必死に腕を伸ばして陽和の手を掴もうとする。

 

だがそれは、あと一歩で届かず、僅かな隙間を残し虚しく空を切った。そして皮肉にも、陽和が倒れ込んだ場所で石橋の崩壊は止まり、目の前でハジメは奈落へと吸い込まれるように落ちていく光景がスローモーションのように緩やかに映る。

陽和は無様にも石畳を這いつくばりながら崖際から下へと腕を伸ばし何度も彼の名前を叫ぶ。

 

「ハジメ!ハジメェッ!!」

 

陽和の胸中には守れなかった後悔と友を失う悲しみが広がり、絶望へと変わり彼の表情を歪ませる。

もう届かないと頭では分かっていても彼は手を伸ばし友の名を何度も叫ぶ。

 

 

「ハジメェェェェェェッッ———!!!!」

 

 

しかし、陽和の願いも虚しく、無情にも彼の眼前でハジメは奈落の闇に呑まれて消えた。

 

 

 

 

 

 

この日、陽和は掛け替えの無い親友を失った。

 

 

 

▼△▼△▼△

 

 

「いやぁあああ!離して!南雲くんの所に行かないと!約束したのに!私がぁ、私が守るって!離してぇ!」

 

飛び出そうと暴れる香織を雫と光輝が必死に羽交い締めにする。香織は細い体のどこにそんな力があるのかと疑問に思うほど、尋常では無い力で引き剥がそうと暴れる。

このままでは香織の体の方が壊れるかもしれない。しかし、だからといって、断じて離すわけにはいかない。今の香織を離せば、ハジメを追って崖を飛び降りるだろう。そう思わせるほどに、普段の穏やかさが見る影もないほど必死の…いや、悲痛に満ちた形相だった。

 

「香織っ、ダメよ!香織!」

「香織!君まで死ぬ気か!南雲はもう無理だ!落ち着くんだ!このままじゃ、身体が壊れてしまう!」

 

香織の気持ちがわかっているからこそ、かけるべき言葉が見つからず、ただ必死に名前を呼ぶことしかできなかった雫だったが、同じように止めていた光輝の言葉は、香織だけを気遣った言葉であり、この場で錯乱している香織には最も言うべきではない言葉だった。

 

「無理って何⁉︎南雲くんは死んでない!行かないと、きっと助けを求めてる!」

 

誰がどう考えてもハジメは助からない。奈落の底と思しき崖に落ちたのだから。しかし、それを受け止められる心の余裕は、今の香織にはない。言って仕舞えば逆効果となり、さらに無理を重ねるだけだ。龍太郎や周りの生徒もどうすればいいかわからず、オロオロとするばかり。

 

そんな中、傷口を押さえながら、フラフラとゆっくりとした足取りで陽和が歩み寄る。血だらけの姿に同じように香織に歩み寄ろうとしたメルドやおろおろとする龍太郎達が息を呑む中、

 

「悪い」

「…え……ぁっ」

 

陽和が一言そう呟いて、香織の首筋に手刀を落とした。ビクッと一瞬痙攣し、そのまま意識を落とす香織。ぐったりする香織を抱きかかえ、光輝がキッと陽和を睨み、文句を言おうとした矢先、雫が遮るように機先を制し、陽和に礼を言う。

 

「ごめんなさい。ありがとう」

「……いい。それよりも、早く…外、へ…」

「ッ、陽和っ!!」

 

雫に何か言い終える前に、陽和は蹌踉めき膝から崩れ落ちる。咄嗟に雫が彼を支えるも再び立ち上がる様子はない。

 

「っっ、血がこんなに…っ」

 

雫は陽和の怪我の具合や出血量に青褪める。

陽和の戦闘は雫も戦いながら見ていたから傷を負っていたのはわかる。だが、それが自分の予想を遥かに超えていた。

血の気が引いた青白い表情に、虚な瞳、荒い息、冷えた体温、大量の出血、それらに雫は最悪の可能性が頭をよぎり取り乱す。

 

「は、陽和っ、しっかりして!死なないで!」

 

何度も呼びかける雫達に、重吾や優花を、はじめとして生徒達が近づいてくる。雫は近づいてきて陽和を診始めたメルドに縋るように言った。

 

「め、メルド団長!陽和がっ」

「ああ、分かってる。重吾、龍太郎。陽和を運んでくれ。カイル、綾子、二人で移動しながら陽和を治療しろ。絶対に死なせるな…全力で迷宮を離脱する」

『はいっ!』

 

香織と同じ“治癒師”の天職を持つ、クラスメイトの一人辻綾子と回復魔法を扱えるカイルが二人掛かりで陽和の治療にあたり、クラスの二大巨漢である重吾と龍太郎の二人が陽和を両サイドから持ち上げて運ぶ。

 

「陽和、大丈夫か?」

「す、まん…」

「気にするな。後は俺達が何とかする。だから、今はゆっくり休んでくれ」

「…あ、ああ、そう、させて、もらう」

 

それっきり陽和は黙り込む。意識は失っていないから回復に専念するつもりなのだろう。そして重吾達は今の陽和になんて言葉をかければいいかわからなかったから、陽和と同じように黙り込む。

 

「………」

 

そうして、離れていく陽和達の背中をどこか納得しない様子で見ている光輝に、何とか落ち着きを取り戻した雫が近寄る。

 

「光輝、どうしたのよ。早く行くわよ」

「あ、ああ、けど、幾らなんでもどうして紅咲は取り乱さないんだ?たった今親友を失ったって言うのに…」

 

光輝が納得いかないのは、香織を気絶させたこともあるが、それ以上に目の前で親友を失ったのに取り乱すどころか、動揺した様子もないからだ。

これに雫は怒りを覚え、苛立ち混じりの声で言う。

 

「……あんた、本当にそう思ってるなら、私は本気で怒るわよ」

「えっ…?」

 

光輝は思わず雫を見る。彼女の目には明らかな怒りが宿っていた。

 

「陽和が取り乱さないのは、取り乱せ無いほどに怪我をしているからというのもあるけど、それ以上に取り乱したところで何も変わらないことをわかってるからよ。

香織のこともそう。私達が止められないから彼が止めてくれたのよ。香織の叫びが皆の心にダメージを与える前に、何よりも香織が壊れる前に止める必要があった」

 

雫は一度口を閉じ、去りゆく陽和の背中に一度視線を送り再び光輝へと向き直る。

 

「陽和が平気そうに見えると思ってるのなら、それはとんだ大間違いだわ。

彼は南雲君のことを唯一無二の親友と思って大切にしている。それほどまでに大事な親友を後一歩、誰よりも近い所で間に合わなくて、失ったのよ。辛くないわけがない。それでも取り乱さないのは、皆を追い込まないことと、今は迷宮を出ることが最優先で、ここで泣き喚いたところで南雲君が戻ってくるわけじゃないことをわかってるからよ。陽和は今堪えているのよ。悲しみも、苦しみも、全部。だから、そんなふざけたことを言わないでちょうだい」

「………そうだな。ごめん。失礼なことを言った」

 

雫の正論に光輝は自分が失言したことを理解する。すると雫の眼光がやんわりとしたものへと変わった。雫は光輝から香織を受け取り背を向けながら言う。

 

「ならいいわ。早く行きましょう……あんたが道を切り開くのよ。全員が脱出できるように」

「ああ、早く出よう」

 

光輝はそう頷いて、周囲を見渡す。

目の前でクラスメイトが一人死んで、彼らの精神には多大なダメージが刻まれている。一部を除いて殆どが茫然自失と言った表情で石橋のあった方をボーと眺めている。中には、「もう嫌!」と言って座り込んでしまう子もいた。

光輝はクラスメイト達に向けて声を張り上げる。

 

「皆!今は、生き残ることだけを考えるんだ!撤退するぞ!」

 

その言葉に、クラスメイト達がノロノロと動き出す。トラウムソルジャーの魔法陣は未だに健在だが、もう戦う必要もない。

光輝は必死に声を張り上げて、クラスメイト達に脱出を促す。メルド達騎士団員達や、優花、雫、重吾も生徒達も鼓舞する。

そしてようやく、全員が階段への脱出を果たした。

 

上段への階段は酷く長かった。先が暗闇で見えないほどずっと上方へ続いており、既に感覚では三十階以上上っているはず。

魔法による身体強化をしていても、そろそろ疲労を感じる頃だ。先の戦いでの体力と精神のダメージもあって、薄暗く長い階段は彼らの心を暗くさせていく。

その間も、綾子とカイルの治療は続いており、途中魔力回復薬を飲みながら回復をし続け、大量に失血した為に時折、優花が異世界製増血薬を飲ませた結果、肩を借りながらも自力で歩けるぐらいには回復した。

 

そろそろ小休止を挟むべきかとメルドが考え始めた時、ついに上方に魔法陣が描かれた大きな壁が現れた。

クラスメイト達の顔に生気が戻り始める。メルドはフェアスコープを使いながら、扉に駆け寄り詳しく調べ始めた。

結果、トラップの類ではなく、魔法陣に刻まれた式を鍵とした扉のようだった。

メルドは魔法陣に刻まれた式通りに一言の詠唱をして魔力を流し込む。すると、扉はまるで忍者屋敷の隠し扉のようにクルリと回転し奥の部屋へと道を開く。扉を潜ると、そこはもとの二十階層の部屋だった。

 

「帰ってきたの?」

「戻ったのか!」

「帰れた……帰れたよぉ……」

 

クラスメイト達が次々と安堵の吐息を漏らす。中には泣き出す生徒やへたり込む生徒もいた。光輝達ですら壁にもたれかかり今にも座り込んでしまいそうだ。

しかし、ここはまだ迷宮の中だ。低レベルとはいえどこから魔物が現れるかわからない。完全に緊張の糸が切れてしまう前に、迷宮から脱出しなければならない。

メルドは休ませてやりたい気持ちを抑え、心を鬼にして生徒達を立ち上がらせた。

 

「お前達!座り込むな!ここで気を抜いたら帰れなくなるぞ!魔物との戦闘はなるべく避けて最短距離で脱出する!ほら、もう少しだ!踏ん張れ!」

 

少しくらい休ませてくれよ、という生徒達の無言の訴えをメルドはギンッと目を吊り上げて封殺する。生徒達は渋々と、フラフラした足取りで立ち上がる。メルドと光輝が疲れを隠して率先して先をゆく。道中の敵は、カイルを除く騎士団員達が中心となり、最小限だけ倒しながら一気に地上へ向けて突き進んだ。

 

そして遂に、一階の正面門となんだか懐かしい気さえする受付が見えた。迷宮に入って1日もたっていないはずなのに、ここを通ったのがもうずいぶん昔のような気さえした。

今度こそ本当に安堵の表情で外に出ていく生徒達、正面門の広場で大の字になって倒れ込む生徒もいる。一様に生き残ったことを喜び合っていた。

だが、一部の生徒——— 未だ目を覚まさない香織を背負った雫や光輝、彼女の様子を見る恵理、鈴、陽和を運んだ龍太郎や重吾、陽和を治療した綾子、付き添った優花などは暗い表情を浮かべている。

そして、自力で歩けるまでに回復した陽和は迷宮の正面門の方へと視線を向けながら、血が滴るほどに手を強く握りしめていた。

その表情は暗く、今にも泣き出しそうなほどに弱々しく、また怒りに満ちていた。

 

そんな生徒達を横目に気にしつつ、受付に報告に行くメルド。

二十階層で発見した新たなトラップは危険すぎる。石橋が崩れてしまったので罠として未だ機能するかはわからないが報告は必要だ。そして、ハジメの死亡報告もしなければならない。憂鬱な気持ちを顔に出さないように苦労しなが、それでもため息を吐かずにはいられなかった。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

「………」

 

その夜。雫は宿屋の部屋の一室の前に立っていた。あの後、メルドが受付で報告を済ませた後、一行は何かをする気力もなくすぐ宿屋の部屋へと向かい、幾人かの生徒は生徒同士で話し合ったりしていたが、殆どの者が真っ直ぐベッドはとダイブしすぐに深い眠りに落ちた。

 

その中で、未だに眠れない雫は部屋を出て、陽和とハジメの部屋の前へと来ていたのだ。

どうしても陽和が心配だったから。

雫は恐る恐ると部屋の扉をノックする。

 

「陽和いる?私だけど……」

 

中からは何も返事が返ってこない。寝ているのだろうか、もしもそうなら今起こすのは忍びない。だが、雫には彼が寝ているようには思えなかった。

だから、雫は恐る恐るとドアノブに手をかけて捻る。すると、扉が開いたのだ。

 

「えっ…?」

 

それには思わず声を漏らしてしまう雫。

そして、恐る恐る中へと入る。酷く静かで月明かりに照らされた部屋には…………誰もいなかった。

 

「ッッ!!」

 

雫は焦燥を露わにしてすぐに部屋を飛び出した。

 

(……まさかっ!)

 

廊下を駆け抜けて、宿屋を飛び出した雫はそのままある場所へ向かう。

始めはトイレに行ってると思った。だが、部屋の何処を見渡しても剣がなかったのだ。

わざわざ剣を持ってトイレには行かない。だとしたら、可能性は一つしかない。

 

それは、陽和がたった一人でハジメを捜しに向かったということ。

 

治療を受けたとはいえ陽和だって万全の体調じゃない。しかも、今眠っている香織を除けば一番不安定な精神状態にあるはずなのだ。

そんな状態で大迷宮に再び潜ったところで、大怪我は避けられないし、最悪死ぬかもしれない。

今彼がいるのは大迷宮の中か、それまでの道だろう。入っていなければまだ止められる。

 

(お願いっ、行かないでっ!)

 

雫は彼がまだ大迷宮に潜っていないことを願いながら、ひたすら走る。

そして迷宮前の正面入り口がある広場に着いた。昼間の賑わいが嘘だったかのように静寂に包まれており、人の気配もない。

全力疾走したせいで肩を上げながら呼吸を整える雫は正面門前に一つの人影を見つける。

 

「……」

 

地面に座り込み、そばに剣を置いて項垂れている少年……紅咲陽和の姿がそこにあった。

雫は入る前に見つけれたことに安堵しながら彼に近づく。

 

「……あぁ、雫か」

 

陽和は近づいてくる足音に気付いたのか、首だけをこちらへと向け、彼女の名を呼んだ。

陽和の表情はひどいもので、悲しみに満ちた悲痛なものだった。

雫は心配そうに近寄り、彼の隣に腰を下ろした。

 

「陽和、体は大丈夫なの?」

「……ああ、辻とカイルさんのおかげでな、二人には感謝しかない……あぁ、園部にもだな、あいつのおかげで失血死にならなくて済んだんだから」

「そう、でも寝てなくて大丈夫?治療したとはいえ、まだ回復し切ってはいないでしょ」

「……そうだが……眠れるわけがない」

「…ぁ…ご、ごめんなさい」

「……いや、いい」

 

雫は自分の失言に咄嗟に謝る。だが、返ってくるのは短い赦しの言葉。

赦しをもらったとはいえ、実は怒らせてしまったのではないかと雫は不安に駆られる。その時、ふと、彼が口を開いた。

 

「………守れなかった」

 

溢れたのは後悔。

守れなかったという後悔が、友を失った悲しみが言葉となり箍が外れたように溢れ出してきた。

握りしめた両手が震える。

 

「守るって誓ったんだよ。お前も、ハジメも…皆をこの力で、たとえどんなことになっても守り通して、元の世界に帰るって誓った。なのに、俺は………最後、あいつに守られたっ」

「………陽和」

 

陽和は自分の行動を心底後悔した。あの時、ハジメを無理矢理に戻していれば、こんなことにはならなかったはずだ。ひとりでやれば、もっと命を賭ける覚悟で戦っていれば、誰も失わずに済んだ。

極め付けは最後。軌道を曲げた火球から陽和はハジメに守られた。満身創痍の自分をこれ以上傷つけまいと、ハジメは自分を盾にして守った。

それが、深い後悔として止めどなく溢れ彼を苛む。

 

「……あの時、ハジメを無理矢理にでも戻せばよかったのに、俺はあいつを頼ってしまった。だから、あいつが落ちることになったっ!全部、俺のせいだ。俺があいつに手伝わせたからっ!」

 

次いで溢れるのは自分への怒り。

守ろうとした親友に逆に守られたことへの、大丈夫だと思った自分の浅はかさへの、あの状況を招いた自分の弱さへ、彼は怒り、呪い、憎み、責めた。

 

「俺が、もっと強ければこんなことにはならなかったっ!俺がもっと、自分の力を把握して使いこなせていれば、あいつが落ちることもなかった!何が守るだよっ、何が強いだよっ!守れてねぇじゃねぇかっ!

ふざけるなよっ!俺が弱かったから!俺が情けなかったからっ!こんなことになったっ!!全部俺がっ!!!」

「陽和っ!」

 

雫は陽和の名を叫び、彼を強く抱きしめた。

このままでは、彼は自分を責め続けた果てに壊れてしまう。

だから雫は絶対放さないように強く、されど優しく抱きしめて、かつて自分がされた時のように彼の心を温めようとする。

 

「しず、く…」

 

胸に顔を埋めさせた雫は優しく彼の頭を撫でた。

 

「……もう、自分を責めないで。

辛い気持ちはわかるわ。でも、それ以上自分を責めたら貴方の心が壊れてしまう。だから一人で抱え込まないで。お願いだから私を頼って。少なくとも、私は貴方の力になるから…」

「ぁ…うぁ…あぁ…」

 

陽和は小刻みに体を震わせ、瞳から大粒の涙を止めどなく溢しながら、震える手で縋り付くように雫を抱きしめ、いつしか喉を嗄らさんばかりに大声をあげて泣いた。

妹の牡丹が生まれてから、兄として、長男として頑張ろうと、一度も泣かなかった陽和が十五年ぶりに涙を流し、それこそ子供のように泣き叫んだ。

雫は、自分の胸元が涙で濡れようとも構わずに、唯々ひたすらに彼を優しく包み込むように抱きしめ続けた。少しでも彼の心の傷が癒やされるようにと願ってずっと。

 

 

どれくらいそうしていただろうか。陽和は雫から身を離した。目元には涙の跡が残り、今更ながらに女の子の胸に縋り付いて子供のように泣いたことに陽和は若干の気恥ずかしさを覚えて、顔を赤くする。

雫が、心配そうに陽和の様子を窺う。

 

「陽和、その、大丈夫?」

「…ああ、だいぶ落ち着いた……ありがとう、それとごめん。情けないところを見せた」

「ううん、大丈夫よ」

 

雫は安堵して笑みを浮かべた。

陽和は一度顔を俯くと、再び顔を上げる。その表情は先ほどまでの追い詰められたようなものではなく、強い意志が秘められた決然たるものだった。そして、陽和は落ち着いた口調で言葉を紡ぐ。

 

「雫、俺は必ずハジメを見つけ出す」

「……」

「生きてる可能性が限りなく低いのはわかっている。だが、それでもまだ確認したわけじゃない。だから、あいつの生存を信じることを俺は諦めたくない」

「陽和…」

「もし仮に死んでいたとしても、せめてあいつが生きた証を回収して家族の元に持って返ってやりたいんだ。でも、今の俺ではまだ弱い。簡単に死ぬだろう。だからもっと強くならないといけない。もう二度と同じ過ちを繰り返さないために、今度こそ守れるように、だから雫、一つ頼みがあるんだ」

「なに?」

「あいつを捜す為に力を貸してほしい」

「……」

 

雫は陽和の目を見つめ返す。

彼の目には先ほどまでの自棄になった危険な光は見えない。悲しみが残ってはいるものの、それでも強い意志の光がそこにはあった。

必ず見つけるという強い意志が。

 

普通に考えれば、陽和の考えは正すべきものかもしれない。あの状況でハジメが生きていると思うなど現実逃避にしかならないから。

それでも、雫は先ほど自分は彼の力になると言ったのだ。だから……

 

「ええ、もちろんよ。貴方が納得するまでとことん力になるわ」

「……ありがとう」

 

陽和は雫に礼を言う。そして雫は「それに」と言葉を続ける。

 

「きっと香織も同じことを言うわ。だから、私達だけじゃなくて、香織と三人で南雲君を捜しに行きましょう」

「そうだな」

 

陽和はクスリと笑った。

確かに香織が素直にハジメの死を認めるとは思えない。きっと一人でも捜しに行こうとするはずだ。

話を終えると雫は陽和の手を取って立ち上がった。

 

「そうと決まったなら、早く宿に戻りましょう?しっかり休んで力をつけないんといけないんだから」

「ああ」

 

そして、陽和は雫に引かれるままにその場を後にしようとする。しかし、一度足を止めて陽和は正面門のその奥へと視線を向けた。

同じように足を止めた雫は、一瞬訝しんだもののすぐに陽和の意図を理解して微笑む。

先程の弱々しかった様子とは違い、普段の毅然とした様子で陽和は決心する。

 

 

 

 

 

(必ず助けに行く。だから、どうか生きててくれ、ハジメ)

 

 

 




コミックガルドで連載されてるありふれた学園がカオスすぎて草

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。