竜帝と魔王の異世界冒険譚   作:桐谷 アキト

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皆さん、お久しぶりです!
以前の投稿から半年ぶりですが、私は無事生存しております!
今年から私は新社会人となりまして、社会人二ヶ月が経過したのですが、まぁ仕事が大変ですわ!ですので、なかなか書く時間が取れなかったんです。

でも、少し慣れてきたんでこれからは執筆する時間を確保できるんじゃないかと思ってるんで、みなさんどうか気長にお待ちください!

そして、記念すべき60話早速どうぞ!!



60話 交わる想い

 

 

「…………………」

 

 

悪食との戦いを制し、竜化したティオに乗ってエリセンへと戻った翌日、赤と黒の海パン姿+白のパーカーを羽織る陽和は海の波に揺られる小舟の上で寝そべっていた。

エリセンに帰還してからも陽和達は変わらず宿で過ごしており、とりあえず帰還したその日は攻略の疲労を癒やし、その翌日の今日は各々が自由に過ごしていた。ユエやシア、香織はミュウと共に遊んでおり、ハジメはレミアの家で装備品のメンテナンス、ティオとセレリアはベンチでのんびりと日光浴をしており、雫と陽和は小舟を借りて少し沖合に出ており、陽和が小舟で寝そべり、雫は一人遊泳していた。

 

「………………はぁ」

 

寝そべる彼の表情はとても休んでいるようには見えず、険しい。眉間には皺がよっていてため息すら溢れていた。

実を言うと、攻略後の肉体的な疲労はすでに癒えている。ただし、精神的な疲労はあまり回復していない。というよりは新たな悩みの種ができてしまったのだ。

 

「…………どうしたものか」

 

思わずと言った様子で溢れた言葉からしても、彼が心底頭を悩ませているのは明らかだった。

ちなみに、ドライグとヘスティアは休眠状態で今はのんびりと休んでいる。陽和が呼べば起きるが、基本的に今はのんびりしている為、声はかけていない。

陽和が小さく呟いた時、小舟のそばの海面が一部ザバッと盛り上がり人影が現れた。海中から水を滴らせて現れたのは、背中に翼を、腰から尾を生やした雫だった。

 

「随分と悩んでいるようね」

 

そう言いながら身軽な動作で小舟に乗り込んだ雫は翼と尾をしまって陽和の隣に座る。

彼女は紺色の水着を、あまり際どくないタイプのビキニを身につけており、腰には淡い水色のパレオを巻いている。他の面々が際どい水着を好む中、あえて露出が少ないタイプの水着は彼女らしさが出ており、彼女のスタイルの良さや髪の色、鱗の色に見事にマッチしており、陽和的にはとても眼福な光景だった。

雫の貴重な水着姿を堪能した陽和は穏やかな笑みを浮かべながら身を起こす。

 

「まぁ、な。それはそうと、水中での動きはどうだった?」

「今までとは比べ物にならないわね。水竜になったおかげか、潜水時間が大幅に伸びたし、地上よりも自由に動けるわ。それこそ海人族に勝るぐらい」

「水竜どころかもはや海竜だな」

「そうかもね」

 

陽和の返しに雫はくすくすと笑う。

何も二人がわざわざ小舟を借りて沖合に出てきたのは、二人きりでいたかったからだけではない。

水竜として水中でどれだけ動けるかを確かめておきたいという雫の要望があったからだ。故に、少し沖合に出ており陽和は護衛兼監督として同行していた。勿論、雫の水着を堪能したかったのもある。

そして、まずは一人で自由にやってみたいと言われ、彼女が上がってくるまで陽和は小舟でのんびりしていて今に至るわけである。

 

「雷系の魔法とかも“薄明”に付与してみるか?戦術の幅が広がるだろ。特に水中戦だと効果覿面なはずだ」

「そうね。水とは相性もいいし、上手くいけば感電させられるものね。案出し手伝ってくれる?」

「勿論。今度ハジメも呼んで考案しよう」

「ええ、お願い」

 

雫の成長に合わせて“薄明”を強化する方針をとりあえず決めると、唐突に雫が話題を変える。正確には話題を戻した。

 

「それで、やっぱり悩んでるのはセレリアのことでしょ?」

「…………」

 

陽和は何も答えない。だが、その脳裏では昨夜雫から聞かされた雫とセレリアの大喧嘩の事を思い出していた。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

時は遡り、場所は海底遺跡、雫、セレリア、ユエ、シアが流れ着いた試練の空間。彼女達が流れ着いたのは巨大な地下空間で海底都市ともいうべき廃都だった。その、廃都の奥、教会の大聖堂前の階段に彼女達の姿はあった。

 

「………うっ…オェッ…げほっ」

 

階段の傍の岩場に蹲るセレリアは胃の中のものを吐き出していた。しかし、夕食はすでに消化されたあとなので吐けるものがなく、胃液と唾液しか吐き出されず彼女は苦しそうにしている。

彼女の傍にはシアがおり彼女の背中を優しく摩っていた。少し離れた先にはユエが石段に腰掛け、雫が石段を降りた先の広場で立っていた。

周囲の警戒をしているのか鞘に収めた薄明をいつでも抜けるように腰で構えながら周囲を見回している。

 

「セレリアさん、大丈夫ですか?」

「………ひゅっ……かほっ……す、すまん……シア」

「いえ、気持ちはわかりますから」

 

背中を摩るシアの気遣う言葉にセレリアは謝罪する。だが、彼女の目からこぼれ続ける涙や震え続ける体、青白い表情から未だ気分は良くならないのが容易に窺えた。

シアも悲痛な表情を浮かべセレリアの背を摩り続ける。石段に座るユエや周囲を警戒する雫も心配そうな眼差しを彼女に向けている。

なぜ、セレリアがこのような状態に陥っているかというと、それは彼女達がこの空間で経験した過去試練が原因だ。

 

雫達は悪食から一時撤退をし分断された後、巨大な地下空間で海底都市とも言うべき廃都にたどり着いたようだ。しばらく歩いたところで陽和達達と同じく空間が歪み、二国の軍隊が都内で戦争をしてる光景に鉢合わせたのである。

その都は人間族の都で魔人族の軍隊に侵略されているところだったらしく、結局、ハジメ達と同じように両者から襲われた。

都の奥には王城と思しき巨大な建築物があり、軍隊を蹴散らしながら突き進んだ雫達は、侵入した王城で重鎮達の話を聞くことになった。

 

何でも、魔人族が人間族の村を滅ぼした事がきっかけで、この都を首都とする人間族の国が魔人族側と戦争を始めたのだが、実は、それは和平を望まず魔人族の根絶やしを願った人間側の陰謀だったようなのだ。

なんとも忌まわしく唾棄するような胸糞の悪いことか。

案の定、気がついた時には、既に収まりがつかないほど戦火は拡大し、遂に、返り討ちに合った人間側が王都まで攻め入られるという事態になってしまった……という状況だったらしい。

しかも、その陰謀を図った人間とは、例に漏れず国と繋がりの深い光教教会の高位司祭だったらしく、この光教教会は、聖教教会の前身だったようだ。

更に、彼等は進退窮まり暴挙に出た。困った時の神頼みと言わんばかりに、生贄を捧げて神の助力を得ようとしたのだ。その結果、都内から集められた数百人の女子供が、教会の大聖堂で虐殺されるという凄惨な事態となったのだ。

そして、その光景で試練は終わり、風景が歪み廃墟へと周囲は戻っていた。表情は険しかったり青白かったりしたものの雫やユエ、シアは安堵の息をつけたが、セレリアは限界に達していたようで真っ先に近くの岩場に駆け込んで嘔吐した。

嘔吐する彼女は何度も胃液を吐き出しながら、青白い表情に涙を浮かべ全身をガクガクと恐怖に震わせていた。瞳は動揺や悲しみに大きく揺れていてずっと焦点があっていないままだ。

 

だが、その反応も無理はないだろう。

なぜなら、最後の教会での虐殺行為。数百人の女子供達が殺される光景の中で、セレリアとしては他人事じゃない光景があったのだから。

 

それは、兄が妹を殺す光景だ。

 

教会の神殿騎士であった兄自らの手によって妹が生贄として無惨に殺された。

 

明らかに正気であり兄に止めてと涙を流しながら懇願する妹の姿と、そんな妹を『神の為に』という言葉と共に心臓を刺し貫きその血を祭壇に捧げた狂気に堕ちた兄の姿。

 

それは、セレリアの今の状況とよく似ていて自分の末路を、ティレイド自らの手で自分が生贄となり神への供物となるのではないかと最悪の未来を幻視するには十分で、陽和達のおかげである程度は立ち直った心でもその悲惨な過去は耐え難く今再び心が折れかけていたのだ。

凄惨な恐怖に少女のように怯えるセレリアをシアが傍らで慰めていた。それからしばらくして、セレリアが漸く言葉を発した。

 

「……………シア」

「……はい、なんですか?」

「………私に、陽和と共に戦う、資格はあるのだろうか……」

「セレリアさん……」

 

ようやくでてきた言葉は悲痛に満ちたものだった。

その言葉は全員の耳に届いており、ユエとシアは悲しげな表情を浮かべる。唯一、雫だけは静かな眼差しを彼女に向けていた。

セレリアはそのまま琥珀の瞳に諦念や絶望、悲嘆などを宿しながら続けた。

 

「…………怖い、んだ。……いつか、私のせいで……陽和に取り返しのつかないことが、起きるのではと……あの日から、ずっと……頭から離れないんだ」

 

大火山を攻略しエリセンに戻ってからセレリアは表面上はなんてことのないように取り繕っていても毎夜悪夢にうなされていた。

悪夢の内容は主に自身のせいで陽和が取り返しのつかない大怪我を、あるいは自分を庇って死んでしまうといった酷いものだった。

 

「………陽和ならば大丈夫だと思っても…‥もしかしたら、死んでしまうかもしれない……最低なことだとは分かってる……でも、ふとした時に出てきてしまうんだ」

 

毎朝陽和と顔を合わせて彼の無事に安堵しても、ふとした時に彼が傷つく姿を思い出しゾッとなってしまうのだ。

自分の目の前で血の海に沈む彼の姿を幻視しては、自分のせいでこうなるかもしれないという恐怖にずっと苛まれていた。

表向きには気丈に振る舞おうとも、内心ではずっとその不安と恐怖が彼女を蝕んでいた。そんな時に、今回の狂気の過去だ。彼女の不安定だった心の均衡を打ち崩すには十分であり、今彼女の心は半ば折れていた。

 

「……あの時動けず……今も怯えるような私が……彼と共に旅をする資格なんてない……ただ…彼の足を引っ張るだけじゃないかと……思ってしまうんだ……」

「………」

「セレリア………」

 

シアは大きく目を見開き、唖然とした様子でセレリアを見つめており、ユエは悲痛な声音で彼女の名を呼ぶ。

無理もない、と二人は思った。それだけの事が彼女の身に起きていたから、彼女の考えを根本から否定することはできなかった。誰だって自分のせいで想い人が傷つくのは耐えられない。だからそばにいる資格がない。そう考えるのも仕方のない話だ。

故に、『心が不安定になっているからそんなことを考えるんだ』などとは口が裂けても言えず二人がセレリアにかける言葉が見つからず押し黙る中、雫が彼女へ歩み寄る。

 

「セレリア」

「…‥雫、私は」

 

彼女の呼び声にセレリアは直視できず俯いたままだ。彼女の縋るような声音に対し、雫は一呼吸間を置いたのちに口を開いた。

 

「………構えなさい」

「え?」

 

どういう意味だと顔を上げた瞬間、セレリアが見たのは雫の顔ではなく、自身に迫る抜き身の刃だった。

 

「っっ!?」

 

それが何かを理解するよりも先に彼女の体は反射的に動き、“ヴァナルガンド”を嵌めた右腕を自身の眼前で構え咄嗟に防御姿勢をとる。

かろうじて防御は間に合い、鋭い金属音が響いてセレリアの身体が後方へ吹き飛ぶ。

何とか着地したセレリアは右腕から伝わる重い痺れに信じられないと言った様子で雫へと視線を向ける。彼女は“薄明”を鞘から振り抜いていた。

先程の一撃は雫が薄明で彼女を斬ろうとしたのだ。

 

「……し、雫?何をっ?」

「し、雫?」

「雫さんっ!?どうしたんですかっ?」

 

ユエ、シアも突然の彼女の行動に訳がわからず困惑の声を上げる中、雫はセレリアを真っ直ぐに睨みながら告げる。

 

「………構えなさい。セレリア・ベルグライス」

 

彼女の口から溢れた身震いするような冷徹な声音にユエ達は硬直する。雫の表情があまりにも冷たかったのだ。

眼光は鋭利な刃物の如く研ぎ澄まされ、その瞳に壮絶な怒りを宿す彼女の様子にユエ達は息を呑んだ。

 

「雫っ、一体どういうつもりだっ!」

「どういうつもりですって?」

 

セレリアをフルネームで呼び戦闘体勢を促す雫にセレリアは困惑のまま問いかける。雫はピクリと反応するとその問いかけに瞳を一層鋭くさせる。

 

「あなたがあまりにもふざけたことをほざくから、斬り捨てようとしたまでよ」

 

雫の無遠慮な言葉に流石のセレリアも頭に来たのか怒りを顕にする。

 

「ふざけた、だと?ふざけてなんていないっ。私は至って真剣に考えているっ」

「真剣?」

 

セレリアの本心からの言葉に雫がギリッと歯軋りをし、体が怒りに震える。雫は静かな憤怒を露わにすると彼女の言葉を否定した。

 

「真剣に考えてそれならば尚更、私はあなたを許せない。言葉で理解できないのなら、その腑抜けた根性諸共、あなたを———斬るわ」

 

そう彼女は怒気と共に竜人化し全身を竜のソレへと変化させて、刀を構えると魔力を解放する。瑠璃色の魔力が噴き上がり竜巻が如く荒れ狂う。

これには、流石のセレリアも焦りを見せる。

 

「……し、雫っ。私は、戦う気などっ」

「ユエ、シア、邪魔はしないで。それと、巻き込まれたくないなら安全なところまで下がってなさい」

 

セレリアの制止の言葉を無視してユエとシアに離れるように指示をする。二人は雫の鬼気迫る様子に完全に気圧されてしまい、止めるべきだとわかっていても素直に頷いて高速で距離をとった。

二人に視線を向けてちゃんと離れたのを確認した雫は改めてセレリアへと視線を向けると一言告げる。

 

「さぁ、行くわよ。覚悟しなさい」

「まっー」

 

言葉は最後まで続かなかった。

疾風が如き速度で雫が突っ込んできて“薄明”を振り上げたからだ。

刀身は既に青く輝いており流水を纏っている。しかも、手加減なしの高威力の水刃となっている。それを雫は容赦なく振り下ろした。

その一撃をセレリアはかろうじてサイドステップで回避。

直後、ザンッッと重い音が響き極太の水刃が一瞬前まで彼女がいた地面とその奥の地面を深々と切り裂いた。底が見えぬほどに地面を切り裂いた破壊力に、セレリアは冷や汗を流す。

 

「雫っ、説明してくれっ!頼むっ!!」

「いいえ、説明しない。あなたを斬り伏せてからなら教えてあげるわ」

「〜〜っっ、なぜだっ!!」

「それを理解できないあなたと会話する価値はないわよ」

 

彼女の疑問を容赦なく切り捨てた雫はセレリアへと肉薄しながら魔法を紡ぐ。

 

「“水竜装束(すいりゅうしょうぞく)青凛(せいりん)”」

 

彼女の言霊と共に瑠璃色の魔力が水へと変わり彼女の全身を包み込むと竜を模った水の鎧へと変化する。

———水属性魔法“水竜装束・青凛”

雫が陽和の“赤竜帝の鎧”やセレリアの“銀狼魔装・氷牙”を参考にして編み出したオリジナルの水魔法だ。

これにより彼女はこれまで課題であった防御面の問題をある程度克服。元々の持ち味の速度を活かしつつも防御力補強に成功した。

そして、水の鎧を纏った雫はそのままセレリアへ急接近。これまでよりも明らかに速い速度で彼女へと迫り刀を突き出した。

 

「くっ、がはっ!?」

 

流水の刺突は辛うじて鉤爪に氷を纏わせることでどうにか逸らすことに成功した。頬を浅く斬られ出血するものの瑣末な事だ。だが、かろうじて受け止めた直後、セレリアは鳩尾から鋭い痛みが伝わり、肺の中の空気を吐き出してしまう。

鳩尾にはしなやかな足が突き刺さっており、雫が鋭い蹴りを放ったのだと分かった。しかも、爪先での蹴りだったため、ただ蹴られる痛みよりも鋭い痛みだった。

再びセレリアは吹っ飛び今度は受け身を取れずに地面をゴロゴロと転がってしまう。そこに雫は容赦なく追撃を続ける。

 

「“水刃・乱れ咲き”」

 

目にも止まらぬ速度で振るわれ放たれるは無数の水刃。水刃の雨がセレリアへと無慈悲に降り注ぐ。

対し、セレリアはようやく迎撃した。

 

「“氷爪刃・嵐”っ!!」

 

腕を振るい無数の氷刃を飛ばす。ちょうど二人の中間地点で激突したソレらは宙に水飛沫を、氷晶を散らしながら霧散する。

雫は兜越しにでもわかるほどに凄まじい怒りをその瞳に宿しながら、刀を振り上げる。

 

「“極大・水刃”ッッ!」

 

裂帛の雄叫びと共に極太の水の斬撃が再び放たれる。地面を切り裂きながら迫るソレにセレリアも大技で迎え撃つ。

 

「“極大・氷魔槍””ッッ!!」

 

放たれるは巨大な氷の槍。

螺旋回転をしながら解き放たれた氷の槍と水の刃が激突する。だが、先程の激突とは違いしばらくの拮抗ののちに雫の水刃が打ち勝ち、セレリアの氷魔槍を切り裂いた。

 

「なっ、くっ!」

 

一瞬自分の技が打ち破れたことへの驚愕に目を見開いたセレリアだったがすぐさま、迫る水刃に意識を切り替え横に大きく跳ぶ。これで軌道からは逃れられたと安堵していたが、

 

「綻べっ!」

「っ、ぐぁっ!?」

 

彼女の真横を通過した瞬間、雫の怒号に合わせて水刃が青く輝くと急に破裂したのだ。水刃が炸裂し、細かな水の礫となってセレリアの全身を撃つ。

服には容易に穴が空き、身体の各所の肉を穿たれ血が滲み出る。不意をつかれてもなんとか急所は避けたセレリアだったが、全身に響く激痛に片膝をついて表情を苦悶に歪める。

それを冷ややかな眼差しで見ていた雫は冷徹な言葉を投げかける。

 

「………随分と腑抜けてるわね。普段のあなたならこの程度の攻撃なんともないはずでしょ?」

「雫っ、なぜそこまで怒っているっ!?私達に戦う理由なんてないはずだっ!!」

「いいえ、理由ならあるわ。でも、私が怒っている理由すらわからないあなたには何も通じないだろうから、まずは徹底的に叩き潰してあげるわ」

 

そう告げて薄明を構え直すと翼を広げて空へと飛び上がる。

 

「“水天海廊”」

 

雫はセレリアを取り囲むように無数の水のアーチを展開。さながら獣を檻に閉じ込めるが如くセレリアを取り囲むと薄明を指揮棒のように振るいながら唄う。

 

「“流穿・水礫波”“青槍・千輪”“水刃・乱れ咲き”」

 

その言霊に合わせ、全ての水のアーチの表面が盛り上がり夥しい数の水の弾丸、水の槍、水の刃がガトリングが如き速度で一気に放たれる。

回避を許さない超高密度の水魔法の掃射を前にセレリアは紫の魔力を迸らせながら地面に両手をつき叫ぶ。

 

「“魔氷零華(まひょうれいか)”ッッ!!」

 

刹那、セレリアの足元から現れたのは紫氷の華。それがセレリアを飲み込みながら蕾のような形へと変化し、完全防御形態を取る。

蕾が完全に閉じ切った直後、容赦なく水魔法の掃射が着弾し凄まじい轟音と砂埃を巻き起こす。

魔法の掃射が止み砂埃が晴れた時、雫の視線の先にあったのは所々砕かれている氷の蕾だった。

氷の蕾に一際大きな亀裂が生じると先端からハラハラと崩れる。しかし、その中には誰もおらずもぬけの殻だった。だが、雫は特に驚いた様子を見せず、後ろを見ないまま薄明を逆手に持つと後方の空間へと振るう。

 

「ぐぅあっ!」

 

後方から聞こえてきたのセレリアの苦悶の声と肉を打つ鈍い音。いつのまにかセレリアが雫の背後にいて拳を振り翳していた。彼女の後方には楕円状の光の膜、空間魔法のゲートがありそれで雫の背後に移動したのだとわかった。しかし、それは初めから読まれていて、セレリアは薄明の峰打ちを横っ腹に喰らってしまったのだ。

セレリアの身体はくの字に曲がり、そのまま地面へと墜落する。ズザザと地面を転がるセレリアに雫は淡々と告げた。

 

「そんなもので私の背後をとったつもり?魔力も気配もダダ漏れよ。私でも気づけるわ」

「くっ…」

「本気を出すならとっとと本気を出しなさい。でなければ、本気を出す前に終わってしまうわよ」

 

そう告げるや雫は翼を羽ばたかせてセレリアめがけて降下する。

 

「言われなくても、そのつもりだっ!!」

 

セレリアも苛立ちが限界に達したのか怒号と共にすかさず獣化をし紫の魔力を迸らせると、

 

「“銀狼魔装・氷牙”ッッ!!」

 

紫氷の鎧を纏うと両手を前に突き出して雫を迎え撃つ。

 

「“氷魔槍・千輪”ッ“氷爪刃・嵐”ッ」

 

放たれるのは無数の氷槍と氷刃。先程のやり返しと言わんばかりに高密度の弾幕で雫を迎え撃つが、雫はそれを前に平然としており一言魔法を紡ぎ応戦する。

 

「“氾禍浪(はんかろう)渦刃(うずは)”」

 

刹那、雫を包むように大量の水が包み込み次の瞬間には、渦潮の如く激しく渦を巻いたのだ。

激しく渦を巻く水竜巻は直撃したはずの氷魔法の乱射を悉く弾くか砕いた。

 

———水属性魔法“氾禍浪・渦刃”

 

水属性上級魔法である“氾禍浪”は大波を作り出して相手にぶつける魔法だが、これを雫は改良した。

大波を自身を中心に激しく渦巻かせることで渦潮へと変えたのだ。更に言えば、水の刃を無数に備える渦潮に乗せることでさながら削岩機の如き破壊力を齎す水竜巻へと昇華させた。

これにより生半可な魔法では突破不可能な攻防一体の魔法となったのだ。

魔法が全て無力化されたと理解するや、身を屈めて地面を踏み砕いて飛び出したセレリアは氷の鉤爪を構え、降下した雫は流水の刀を振りかぶり激突する。

凄まじい轟音と衝撃波を撒き散らしながら始まったのは凄まじい斬り合いだ。紫の氷爪と青の水刃が宙に青紫の軌跡を生みながら金切り音を鳴り響かせた。お互いの攻撃が鎧を貫通し肉体に浅い傷をいくつもつけながらそれでもなお止まらずに、地面を駆け回り、あるいは空を飛び回りながら斬撃の応酬を繰り返す。地面は彼女らの激突ごとに爆音を奏でながら砕け、破片を撒き散らす。

先程までは建物が半ば崩れただけの廃墟だったのだが、その瓦礫すらも戦いの余波で粉々に砕け今や、障害物など消え失せ、あちこちに無数の瓦礫の山が出来上がっていた。

ちなみに、雫の気迫に負けて避難していたユエ達はというと、

 

「あわわわわ、ゆ、ユエさん、あれ止められないんですかぁ!?」

「……………む、無理」

 

ユエが張った障壁の中で二人ともガクブルと震えていた。共に顔は青ざめており、二人の激闘に、正確には雫の怒気に完全にビビっていたのだ。

無理もない。雫があそこまで怒気を放つなど二人は見たことがない上に今回は完全にとばっちりだ。オルクス大迷宮での光輝へと爆発させた怒りとは全く別ベクトルの怒り。本気の殺意を伴った凄絶な怒気に二人は完全に萎縮し切っていた。止めに入った時点で斬られるのは明白。その為、二人は遠くで怯えることしかできなかった。

そして、二人が怯えているのも構わずに雫とセレリアは尚も超至近距離での激突を繰り返していた。青と紫の光が幾度となく炸裂し、地面がその度に爆ぜる。そうして激突を繰り返す二人だったが、ここで二人の戦いに変化が起きる。

 

「“崩陣”っ!!」

「っっ!!」

 

セレリアが一時的に雫の重力を反転させて空へと打ち上げる。不意打ちの攻撃に一瞬驚いた雫だったが、すぐさま翼を動かし、同時に展開していた“水天海廊”を利用し重力の拘束から脱した雫だったが、その時には雫の眼前にセレリアがいて巨大な氷槌を振りかぶっていた。

 

「“凍破轟槌”っっ!!」

「“波城壁”っっ!!」

 

間髪入れずに振り下ろされる巨大氷槌に対し、雫は水の障壁を球体状にして展開する。あまりにも巨大な一撃に水の球体はあっけなく弾かれるが、巨大な氷槌の一撃を水の柔軟性を活かすことで無理に受けるのではなく、その衝撃を利用してゴムボールの如き弾力性を以ってわざと弾かれることで大きく距離をとったのだ。

その結果、雫は実質ノーダメージでセレリアの大技を回避した。水の障壁を解除して地面へと軽やかに降り立つ雫にセレリアは険しい表情を浮かべると右手を雫へと向ける。

 

 

「“魔氷凍河”———ッッ!!」

 

 

雄叫びと共に紫氷の濁流が解き放たれる。

まさに雪崩のように迫るソレに雫は徐に薄明を鞘に納めると居合いの構えをとる。

 

「スーーー、ハーーーー」

 

一度深呼吸を挟み呼吸を整えた雫は、もう一度深く、深く息を吐く。

そして、眼前の雪崩を前に彼女はぐんと膝を沈み込ませ姿勢を低くすると、薄明にこれでもかと魔力を込め、

 

「水刃抜刀っ」

 

その言霊と共に雫は鞘に込めていた魔力を解き放つ。鞘からはこれまでにないほどに凝縮された濃密な瑠璃色の魔力光がセレリア達の視界に広がり、

 

「“海切(うみきり)”——————ィッッ‼︎‼︎‼︎」

 

裂帛の雄叫びと共に雫は鞘から勢いよく薄明を振り抜いた。

刀より解き放たれるのは瑠璃色の魔力を帯びた極太の水の斬撃。

極太ではあるが、雪崩が如き紫氷の濁流に比べれば小さい。

だが、その予想に反し打ち負けたのはセレリアの方だった。ズバァッ‼︎と轟音を立てながら雫に迫っていた雪崩が如き紫氷の濁流がモーセの海割りが如く斬り裂かれ、割れたのだ。

 

「「ッッ⁉︎⁉︎」」

「バカなっ⁉︎」

 

これには見ることしかできていなかったユエとシアが度肝を抜かれたかのように目を丸くし、セレリアもまた予想外の光景に思わずそんな声を上げてしまう。

 

———水属性魔法“海切”。

 

完全な雫オリジナルの魔法。

簡単に言ってしまえばこれは、居合い斬りをその斬線上を切り裂く飛ぶ居合い斬りへと昇華させたものだ。

膨大な水を圧縮に圧縮を重ね極限まで薄くした刃を刀身に纏わせそれを鞘に納め抑え込む。そうして臨界寸前まで圧縮し続けた水の刃を一気に解き放つというものだ。更に付け加えるならば、刀の茎から水をジェット噴射のように噴射させることで刀身を勢いよく射出しており単純な速度をも上昇させた瞬速の一閃だ。

紫氷の濁流が切り裂かれ、ハラハラと紫の氷晶が舞う中、雪崩を切った雫は凛とした佇まいで己が切り開いた道を悠然と歩く。

 

「セレリア、あなたはさっきこう言ったわね。彼と共に旅をする資格はないと、彼の足を引っ張るだけだと」

「……………ああ、言ったな」

「ええ、全くもってその通りだわ。今のあなたは陽和にとって害でしかない。あなたがいるだけで陽和は不要な傷を負ってしまうわ」

「…………」

 

辛辣な言葉にセレリアの表情は険しくなる。

確かに今のセレリアの有り様は戦いの際に足枷になる。大火山の時と同じように兄と再び相見えた時、再び動けなくなり守られるだけの存在に成り下がることは容易に想像できた。

そして、陽和がそんな彼女を守るために戦うということも。しかし、足手纏いを守りながら戦えるほどディレイドは弱くない。むしろ、陽和の全力を持ってしても危うい歴戦の強者。にもかかわらず、足枷となる存在があるということはそれだけ陽和の生存に影響が出てくるということ。

それはセレリアの言う通りであり、雫自身も危惧していたことだ。

 

「でもね、そんなことよりも私が何より我慢ならなかったことがあるわ。それは」

 

雫はゆらりと薄明を持ち上げて鋒をセレリアに向けるとこれまで以上に壮絶な怒気を剥き出しにする。

 

「他ならぬあなたが陽和が死ぬかもしれないと言ったことよ!!」

「……!」

「それをふざけたことと言わないでなんと言えばいいの!彼を愛しているはずのあなたが、そんなことをほざくなんて……そんなの、彼のことを信頼していないと言ってるようなものじゃない!!」

 

雫が怒っている理由はまさにそれだった。

先ほど、セレリアは陽和ならば大丈夫だと思っても、もしかしたら死ぬかもしれないとほざいた。

それは彼を愛し共に戦うことを決意した雫からすれば耐え難いものだった。

しかも、それを言ったのが自分の前でも彼を愛していると真っ向から宣言したセレリアだったのが尚のこと彼女の憤怒を更に強くした。

 

「どうして共に戦うって言わないの!彼を愛しているのならば、彼を死なせないように支え共に戦うことが私達のすべきことじゃないの!?」

「そ、それは……」

「彼が死ぬかもしれないのならば、そうさせないために私達が強くなればいい!!でも、それすらも考えられないのなら、あなたは陽和の邪魔でしかない!!だから、あなたを斬る!!それで陽和が悲しんだとしても、彼が死ぬよりはずっとマシよ!!」

 

雫は瑠璃色の魔力光を迸らせ、翼を羽ばたかせ飛翔する。その飛翔は先ほどよりも明らかに早く、みれば、鎧の各部からはジェット噴射のように水が噴射していて彼女を加速させていたのだ。

“水竜装束・青凛”は単純な防御力の強化だけでなく、体の各部から水を噴射させることで移動補助も可能にしている。陽和が炎の爆発で加速するように、雫は水の噴射で加速しているのだ。

課題であった防御面の向上だけでなく、元々の強みでもあった速度をも向上させたのだ。

雫の言葉に目を見開いて硬直していたセレリアは、一瞬反応が遅れて雫の接近を許してしまう。虚をつかれて無防備なセレリアに雫は薄明を突き刺し容赦のない一撃を見舞う。

 

「づぁっ⁉︎」

 

右肩に流水纏う刀が突き刺さり氷の鎧を砕き肩を穿つ。肩から鮮血を撒き散らしながらセレリアは吹き飛ばされる。

 

「まだよっ!」

 

だが、地面を転がるセレリアの右手に水の鞭が巻き付かれると、ぐんと雫の方へと引き戻される。水の鞭でセレリアを引き戻した雫は自身も前進しながら長い尾をしならせて彼女の腹部に叩き込む。

 

「がはっ!?」

 

腹部の鎧がひび割れ、その衝撃にセレリアが盛大に吐血し今度こそ大きく吹っ飛ばされる。

瓦礫の山を何度も砕きながら地面を何度もバウンドし転がるセレリアは腹を抑えながら地面にうずくまり何度も血を吐き出す。

 

(なんなんだっ!?どうして、ここまで雫は強いっ!?)

 

セレリアは訳がわからなかった。

雫は確かに強い。元々神の使徒としての高いポテンシャルに加えて、陽和によって竜人となりステータスが爆発的に向上している。だが、それでも単純なステータスを見れば平均9000ほどだ。一万後半のセレリアよりも劣る。戦闘経験も自分のほうが上のはずだ。鍛錬の一環の模擬戦でもセレリアが勝ち越している。

なのに、ここまで追い詰められているのが彼女には理解ができなかった。

雫とセレリアではステータスに大きな差があるのも事実だし、戦闘経験もセレリアの方が上なのは事実だ。だが、たとえそうだとしても今の彼女では雫に勝つことはできない。

しかし、その差を覆すモノが何かを悠長に考える時間はセレリアにはなかった。

 

「……!」

 

俯くセレリアの視界に影が広がる。何事かと見上げれば、上空には雫がいてその周囲には無数の巨大な水球が浮かんでいたのだ。

 

「“洪瀑(こうばく)竜水撃(りゅうすいげき)”っっ!!!」

 

水の塊が流星群のように降り注ぐ。

———水属性魔法“洪瀑・竜水撃”。

ただ巨大な水の塊を落とすだけの魔法。つまり、質量爆弾だ。だが、一つ一つがトラックを飲み込めるほど巨大なつ術者によって落ちる速度すらも自在である以上、生半可な質量爆弾の域をとうに超えていた。

大気を唸らせながら迫る水塊にセレリアは顔を青ざめながらその場から離脱。地面を砕き捲り上げるほどの衝撃が響く中、セレリアは狼のように四肢で駆けながら必死に避けていく。

しかし、そもそもがトラックすら飲み込めるほどの巨大な水塊だ。それが数十個。さらに言うならば、着弾の瞬間に水塊は弾けてその水量を周囲にぶちまけるのだ。

 

「つっ、しまっ…がぼっ」

 

当然の結果というべきか炸裂した水塊は、そのまま津波となりセレリアを呑み込んだ。

セレリアを呑み込んだ濁流はその形を変化させて、セレリアを中に閉じ込めたまま直径100mの巨大な水の球体へと変化。

 

———水属性魔法“大海溟牢(たいかいめいろう)

 

(まずいっ、水中は雫の領域っ、このままではっ)

 

水竜の竜人に転生し、水属性魔法を誰よりも得意とする雫にとって水中とはまさに己の領域。そんな中に閉じ込められたことにセレリアは焦燥を露わにし、重力魔法で自身を斜めへと落としながら水球から脱出を試みる。

 

『逃すわけがないでしょう?』

 

雫の声が水中の中で響いた。

その直後、セレリアの身体を激流が襲い掛かりあらぬ方向へと流される。水球内では激流が荒れ狂っており、姿勢を保つことすら厳しい状況となり翻弄されていた。

 

(しまっ、たっ、息がっ)

 

激流にセレリアは全身を打たれており口から空気が溢れてしまう。このままでは窒息し意識が飛ぶだろう。焦燥を露わにしたセレリアは自身の視界の端から泳いで迫る雫を見た瞬間、強引な手段をとった。

 

(凍り、つけぇっ!!)

 

セレリアは紫の魔力を惜しみなく解放し、周囲の水を凍結。それだけにとどまらず全力の魔力の放出により、雫の水球が完全に凍りつき音を立てて崩壊する。

崩れ落ちる氷塊の中心に立ち荒い呼吸を繰り返すセレリアとそれを少し離れた瓦礫の山の上から睥睨する雫。雫はいつでも攻撃できるように薄明に流水を纏わせたままだ。雫は薄明を構えたままセレリアに問いかける。

 

「どう?少しは頭が冷えたかしら?」

「…………」

 

雫の問いかけにセレリアは何も答えない。

濡れた髪をそのままにずっと俯いたままだった。その様子に露骨に呆れた様子を見せると、

 

「…………つまらないわ。とてもつまらない女に成り下がったわね。そんな無様を晒すぐらいなら、もうどこかに逃げて巣穴に篭れば?負け犬らしくね」

 

そんな侮蔑の言葉を吐いた。

その侮蔑にセレリアはピクリと反応すると、ようやく顔を上げる。

 

「負け犬、だと?」

 

濡れて垂れた髪の隙間から琥珀色の眼光が覗く。そこには明らかな怒りの色が宿っていた。

これまでとは違い明らかに殺気立つセレリアにユエとシアがさらに顔を青ざめさせて震える中、雫は全く怯まずに続ける。

 

「ええ、負け犬よ。私の言葉に言い返すこともできない。実力的に弱いはずの私にいいようにされている。それを負け犬と言わずしてなんというのかしら?」

「…‥雫、いい加減に」

「確か、オルクス大迷宮の隠れ家は自給自足できるほど設備が整っているらしいわね。丁度いいじゃない。お兄さんから隠れられる絶好の隠れ家があって。そこに全てが終わるまで籠ってればいい。それがあなたにはお似合いよ」

「……れ」

「そうして全てが終わるまで怯え続けてれば?陽和への想いもすっぱり諦めればいいじゃない。それで終わってから後悔してればいいわ。どうせその時には、私達は日本に帰っていて二度と会うことはないでしょうしね。一生犬らしく好きなだけ吠えてなさい」

「黙れェェェっっ!!」

 

雫の侮辱の言葉の数々に我慢の限界が達したのか、怒りを爆発させると地面を踏み砕き雫へと急接近して鉤爪を突き出す。

それを雫は危なげない動作で薄明で受け止め、鍔迫り合いをする。鍔迫り合いのままセレリアは怒号をあげる。

 

「貴様に何がわかるっ!家族に拒絶されることがどれだけ辛いことかっ!!家族を失ったことも、拒絶されたこともない貴様が知ったような口を聞くなっ!!」

「……………」

「もう私は誰も失いたくないっ!陽和のこともだっ!彼は私を救ってくれたっ!そんな大恩人である彼が私のせいで死ぬかもしれないのなら、離れるべきだろうっ!!なぜそれをわかってくれないっ!!」

 

家族を失った悲しみ。兄に拒絶された恐怖。

それを味わってしまったからこそ、彼女は喪失を恐れている。陽和は大恩人だ。そんな彼が自分のせいで傷つくなど耐えられない。それならば、離れたほうがいい。それをどうして理解してくれない!

そんなセレリアの告白を前に雫は、より一層怒りをあらわにし、

 

「そんなこと知らないわよっ!!」

 

バッサリと切り捨てた。

雫にとって今の彼女の言葉は何一つとして取るに足らない戯言でしかない。そんなふざけたことをまだほざくのが、雫にはもどかしくて、ままならなくて、あまりに腹立たしくて仕方がなかった。

故に、彼女の言葉を否定し、うちから込み上げ続ける怒りをぶつける。

 

「だからなにっ!?そんなことを言われてはいそうですかって私達が納得するわけがないでしょうっ!!」

「ぐっ」

 

雫が怒りのままに両腕を振り上げ鍔迫り合いしていたセレリアの片手をかちあげると、薄明の柄でセレリアの顔面を兜越しに殴る。脳を揺らすほどの打撃にセレリアは少し後ずさってしまう。

後ずさるセレリアに雫は追撃する。

 

「そんなの誰だって同じよ!失うのも拒絶されるのも怖いわ!でも、だからって離れるのは違うでしょ!!失いたくないのなら、守れるぐらいに強くなればいい!!拒絶されたくないのなら、納得するまで向き合えばいい!!それだけの話でしょう!!」

「っっ、そんなに簡単に済むのなら私だってここまで悩んでいないっ!!貴様だって陽和を愛するのなら、彼の為を想う私の気持ちだってわかるだろっ!?」

 

超至近距離での近接の応酬を繰り返しながら雫の言葉に反論するセレリア。

愛するが故の悩みであるということを、同じ男を愛する雫にどうにか伝えようとする。だが、その問いかけは雫の神経を逆撫でするに等しく、

 

「わかるわけないわよ!!」

「がっ」

 

そんな怒号と共にセレリアは腹部に強烈な蹴りを喰らう。吹き飛ばされはしなかったものの、踏み込みが足らず地面を削りながら後退させられる。

雫は後退するセレリアに急接近すると薄明を上から叩きつける。

 

「陽和を愛してるなら分かるですって?ふざけないでっ!あなたの気持ちと私の気持ちを同列に語るなっ!!私はあなたとは違うっ!!」

「っっ」

「私なら彼の隣でともに戦い続けるっ!これまでずっと助けられてきたからこそ、これからは私が彼を支えるっ!!彼の隣を歩くならそれだけの覚悟が必要なのよっ!!」

「ぐっ」

 

雫の猛攻にセレリアは防戦一方であり、今度は胸に拳を叩き込まれて蹌踉めく。鎧に亀裂を生むほどの重い一撃にセレリアは苦悶の声を上げた。

雫の怒りの猛攻は全く勢いを緩めずにセレリアを追い詰めていく。

 

「それなのにあなたはっ!」

「っっ!?」

「あろうことかあんなことをほざいたっ!!私以上に彼の戦いを見てきたくせにっ!彼の志を知っているはずなのにっ!!どうして彼を信じられないのよっ!!」

「違うっ!!」

 

ここで防戦一方だったセレリアが攻勢に出る。

雫の薄明を大きく弾いた瞬間、感情のままに重力魔法“壊劫”を発動し彼女をその場に抑えつけると動きが鈍くなった彼女目掛けて拳を繰り出す。

だが、

 

「……は……?」

 

セレリアは目を丸くする。

なぜならいつのまにか自分の視界が反転していたからだ。自分は雫目掛けて拳を突き出したはず、なのにどうして宙をひっくり返っているんだ?

かろうじて覚えているのは、自分の拳に彼女が腕を添えたところまで。なぜ反転しているのか分からなかった。

そのカラクリは実にシンプル。セレリアは“小手返し”の要領で投げられただけだ。雫は合気で彼女の拳打を逸らし、その勢いを利用してセレリアを投げた。

刹那、雫は身を翻すと逆さで宙に浮くセレリアの腹部めがけて、水噴射の加速も加わった強烈な回し蹴りを叩き込んだ。

 

「がっ、はぁっ!?」

 

ドゴンと鈍い音が響き氷の鎧が完全に砕け散る。

鎧を超え腹部に直接叩き込まれる蹴りにセレリアは血と肺の中の空気を盛大に吐き出しながら何度目かわからないが豪快に吹き飛ぶ。

地面を何度もバウンドし、瓦礫の山に突っ込んでようやく止まる。

 

「がほっ、がはっ、がふっ」

 

血の塊を何度も吐き出した彼女は瓦礫をかき分けてなんとか立ち上がる。その時にはすでに数m離れた場所に雫が降り立っており、薄明の鋒を彼女に向けながら静かな声音で問うた。

 

「さっき、あなたは違うと否定したわね。何が違うの?どうみてもあなたは彼を信じていないじゃない。彼を信じてないから、彼の勝利を信じられない。違うかしら?」

 

冷たい声音で紡がれた問いかけにセレリアは荒い呼吸を繰り返しながら感情のままに否定する。

 

「違うっ。私だって彼のことは信頼しているっ!彼ならば誰が相手であろうと勝てると理解しているっ!だがっ、だがっ……どれだけ大丈夫だと思ってもっ、不安が消えないんだっ」

 

セレリアの頬から涙が零れ落ちる。

震える両手で髪をくしゃりと掴み頭を抱えると、俯きながら声を振るわせ続ける。

 

「この世界に絶対なんてない。……どれだけ強くても、どれだけ頼もしくても……ふとしたときに、倒れてしまうかもしれない……兄さんが、変わってしまったように」

「………」

 

兄は強かった。頼もしかった。確かな芯がある人だったのに、あり方が大きく変わってしまっていた。だからこそ、怖いのだ。

あれほどの人でも変わってしまうのだから、無類の強さを誇る陽和であっても、万が一があるかもしれないと危惧してしまうのだ。

 

「陽和だって無敵ではない。だからこそ、その可能性が頭から離れないんだっ」

「…………」

「私は、私のせいで彼に怪我をしてほしくないっ…足枷になるぐらいなら……離れるべきなんだっ」

 

涙を流し続けるセレリアの言葉はとても悲痛に満ちていて、震えていた。本心を無理に抑え込んで、望んでいなくてもそうしなければいけないんだと自分に言い聞かせているようだった。

そんな彼女の切実な想いに雫はーーー

 

「だったら、私達を頼ればいいじゃない」

 

そうはっきりと告げた。

予想外の言葉にセレリアは目を見開くとばっと顔を上げる。そうして彼女の目に映った雫の表情は憤怒の中に確かな優しさが宿っていたのだ。

先ほどまでとは明らかに違う彼女の様子にセレリアが膠着する中、雫は険しかった表情を少しだけ和らげるとセレリアへと歩みを進める。

 

「確かに、あなたが不安になる理由も分かるわ。万が一があるかもしれない。でも、そんなことを考えるぐらいなら、私は彼と共に生き抜くための方法を考える。彼が死なないように支え戦う道を模索する。彼を愛しているからこそ、彼が死なないように、彼と共に生きられるように最高の道を選び続けるわ」

「…………しず、く…」

「それに、今のあなたは一人じゃないでしょう?辛いなら私達に吐き出せばいい。助けて欲しいなら、助けてって素直に言えばいい。少なくとも、ここにあなたを迷惑だと思う人はいないわ。でも、怖いものは怖いわよね。だから、一人で歩けないのなら、私達が肩を貸してあげる」

「………ぁ、で、でも……」

「あなたには仲間がいる。私も、陽和も、香織達もみんなあなたの事を信頼している。あなたが苦しんでいるのなら、その苦しみを取り除くわ」

「だめ、だ……これは……私の、問題だ……これ以上、迷惑なんて、かけられない」

 

雫の歩いた分、セレリアは後ずさってしまう。

首を横に振りながら雫の言葉を無理にでも否定しようとする姿はあまりにも痛々しい。

しかし、雫はさらに距離を詰めると、そんな彼女の拒絶を否定する。

 

「いいえ、これはもう、私達の問題よ。だから、あなたが迷惑に思う必要はないわ。私達の仲間を傷つけたんだもの。なら、もう私達は無関係じゃない。あいつらにはその報いをしっかり受けてもらうわ」

 

だから、と雫はセレリアに手を伸ばしながら、母性すら感じさせるような慈愛に満ちた笑みを浮かべる。

 

「どうか、私達を信じて。どれだけ迷惑をかけてもいい。いくらでも頼ってくれていい。私達は仲間で、一蓮托生よ。そうしてお互い支え合って、一緒に望んだ未来の為に戦いましょう。だから、離れるべきだなんて悲しいことは言わないで、お願いだから私達を頼って。私達はそれに応えるから」

 

仲間だからこそお互いを信じ、支え合って戦う。

自分達は共に旅をする仲間であり、運命を共にする一蓮托生の間柄。

助けを求めているなら、助けよう。

頼りたいのなら、それに応えよう。

そう笑顔で言い切った雫の姿がふと陽和の姿に重なって見えた。

きっと彼がこの場にいたら、雫と全く同じことを言うだろうということは容易に想像できた。

だって、これまで見てきた彼はずっとそうだったから。

誰かの為に怒り、戦うことができる心優しい人間だ。初めて会った時も、こちらは殺そうとしていたのに親身に話を聞いてくれた。会ったばかりの自分の境遇に本気で怒ってくれた。

多くの想いを背負い、望んだ未来のために前に向かって歩き続ける想い人。自分が認めた最高の英雄。

彼ならば自分にも手を差し伸べて立ち上がらせてくれる。そして、鼓舞して背中を押してくれるのだ。

そんな頼もしい彼の姿を雫に重ねて見ていた時、ふと彼女の脳裏に蘇った。

 

———『どれだけ大きな苦難が待ち受けようとも、俺達はその全てをぶち壊す。共に世界を救おう』

 

それは初めて出会った時のこと。

共に旅をすることを決めた始まりの日だ。そして、

 

———『一人で立ち向かうのが辛いのなら、俺も一緒に立ち向かってやる。お前が背負いきれない分もまとめて背負ってやるよ』

 

兄に拒絶された時に、自分を絶望の淵から引き上げてくれた彼の言葉が。

 

(………ああ、そうだったな)

 

セレリアは内心で嘆息する。

自分がなぜ彼に惚れたのかを思い出した。

 

(私は……まっすぐに未来を見る彼の在り方に惚れたんだった)

 

彼に惚れたのは、彼が未来を見据えて前に進み続ける姿を見たからだ。あの誇り高い背中に心を奪われてしまったのだ。

そして、今の雫からはあの陽和と同じ気高さを感じた。

 

自身が惚れた英雄が心底惚れ込んでいる女性。

その佇まいは凛としていて、陽和と似た頼もしさを感じることも多々あった。

陽和の唯一の『特別』であり、強固な絆を結んでいる彼女。愛しい恋人の為を思い、彼のために強くあらんとする在り方は、とても気高くて自然と彼の隣に並び立つに相応しいと理解させられた。

 

初めからそうではなかったのだろう。

ただ、一人突き進んでいく彼に置いていかれないために、彼を孤独にさせないために、これまでずっと支えてくれた分、彼の志を支え、共に戦える存在になれるように日々研鑽してきたのだと彼女の剣からは感じ取れた。

愛しているから、死が二人を別つまで、否、死してなお共にあろうとしている。

やはり、それぐらいの覚悟が必要なのだろう。

世界を救わんと足掻く英雄に並び立つためには、その英雄の背中を支えるためには、目の前の彼女のような心の強さも必要なのだ。

 

(……敵わないな。陽和が惚れ込むわけだ)

 

敵わない、と思ってしまった。

あの陽和が惚れ込むのも納得だ。だって、同性から見ても今の彼女の在り方はとても堂々として、一人の女として羨望の念を抱いてしまうほどなのだから。彼の隣に並ぶには彼女ほどの魅力ないとできないのだと思った。

そんな彼女が自分に全身全霊でぶつかり、想いの丈をぶちまけてくれた。自分の甘ったれた戯言を吹き飛ばし、巣くっていた闇を斬ってくれた。

こんな情けない様を晒した自分なんて見限られてもおかしくないはずなのに、本気で向き合ってくれたことに、感謝しかなかった。

 

(馬鹿だな、私は……)

 

ほとほと呆れてしまう。

これほどまでに自分を信じてくれる仲間達がいるというのに、自分は彼女達を信じきれていなかった。

兄への恐怖に呑まれ、心が不安定になっていたとは言え、陽和が死ぬかもしれないなんて彼に惚れた女としてあるまじき発言をしてしまった。

彼女の言う通りだ。なんてふざけたことをほざいたのだろうか。愛しているのなら、彼が死なないように支えるのが私達の役目ではないか。死なせないように自分達も強くなって、最高の未来を共に生きる。そうあるべきなのだ。

なのに、自分という奴は、なんて愚かなことを考えていたのだろうか。愚かで情けないとしか言いようがない。

 

「……っ!!」

「ちょっ!?」

 

セレリアはぐっと涙を拭うと、唐突に自分の頬を己の拳で殴った。バキッと鈍い音が響き、彼女の体が少し蹌踉めく。雫は突然の奇行に目を丸くしてしまった。

 

「ははっ、我ながら痛いな」

「せ、セレリア?」

 

割と本気で殴ったのだろう。口の端から溢れる血をプッと吐き出した彼女は、自分の拳の痛みに自嘲気味に笑うと、穏やかな眼差しを雫に向けて深々と頭を下げた。

 

「雫、すまなかった」

 

セレリアの謝罪を聞く雫は何も言わないものの、その表情はひどく優しげで、ジッとセレリアを見つめている。

 

「私が馬鹿だった。もっと彼を、皆を信じるべきだった。頼るべきだったんだ。なのに、私は意地になって一人で抱え込んでいて、空回っていた。雫があそこまで怒るのも当然の話だったな」

「ええ、全くだわ」

「ふふっ、ああ、雫の言う通りだよ。私は必要以上に怖がっていただけなんだ。これでは負け犬と言われても文句を言えん。私の完敗だよ、心も力も貴様に敵わない」

「そういうのじゃないでしょ。ただ、私が我慢ならなかっただけだよ。それに、あなた全然全力出せてなかったじゃない。それで勝ったとは言えないわ」

「それでも、私が貴様に負けたと思っているからな。素直に負けを認めてるんだ、負けたってことにしてくれ」

「なによそれ、ふふ」

 

晴れやかな笑みを浮かべて笑う様は、まさにつきものが落ちたという言葉が相応しかった。

そして、肩の力が抜けて爽やかに笑う彼女に釣られ、雫もくすりと穏やかに微笑むとお互いの体を見渡す。共に傷だらけで小さな傷がいくつもあり、血が流れている。服も切り傷が無数にあり、セレリアに至っては殴打痕までいくつもあった。

 

「今更だけど、お互いボロボロね」

「だな。陽和が見たら驚くだろうな」

「その時は素直に喧嘩したって言えばいいわ」

「喧嘩って、まぁ確かにそうとも言えるが……」

 

喧嘩というよりは自分の情けなさを叱ってくれただけでは?とセレリアは思ってしまう。まぁ見方によっては大喧嘩したのも事実だから否定はしないが。

ひとしきり笑って落ち着いたセレリアは一度ふぅと息をついた後、雫へと改めて頭を下げた。

 

「雫、ありがとう。貴様のおかげで私は、間違えずに済んだ。本当にありがとう」

「気にしないで。大切な親友を立ち直らせるのも友達の役目よ」

「親友?仲間ならわかるが、私が親友?親友は香織

だろう?」

 

雫の発言に目を丸くするセレリア。

まだ出会って日が浅い自分のことを、まさか雫が親友と言ってくれるとは思いもしなかったのだ。

そんな彼女に雫はそうよと頷く。

 

「香織が親友なのは勿論だけど、別に親友は一人だけって決まりはないもの。すでにあなたも私の親友よ。異世界でできた数少ない友達で、同じ人を愛する女同士。それに、こうして本音でぶつかったんだもの。もう親友と言っても過言ではないわ」

「親友……そうか、私が、親友か……」

 

反芻し呟くセレリアは込み上げる嬉しさを隠しきれずに思わずニヤけてしまう。

単純に嬉しかったのだ。惚れた男が愛する女性であり、つい先程憧れの女性となった他ならぬ雫に親友と言われたことが。セレリアとしても仲を深めていくうちに友人の情を抱いており、胸を張って友達だと言えるほどになっていたからこそ、尚のこと嬉しかった。

それが今日お互い本音でぶつかり大喧嘩したことで、二人の絆が深まりより確かなものへとなったのだ。

そして、喜びを噛み締めるセレリアはふと真剣な表情を浮かべ、口を開いた。

 

「雫、改めて言わせて欲しい」

「なに?」

「私は、陽和を愛している。それはこれからも変わらない想いだ。彼のことを信じ、支えられるように強くなることをここに誓おう」

「………そう」

「そして、その上で宣言させて欲しい」

「…………」

 

セレリアは一度口を閉じると、胸に手を当てて意を決して自らの想いを宣言する。

 

「いつか必ず私は陽和を振り向かせてみせる。一番でなくても、雫と同じように私も陽和の『特別』になりたいんだ」

 

雫との大喧嘩を経て改めて自覚した陽和への想いを言葉にして紡ぐセレリア。

 

 

「もうこの想いを諦めることはできない」

 

 

初めは、この想いを諦めるつもりだった。

どれだけの後悔に苛まれようとも彼の為を思い、すっぱりと諦めるつもりだった。

だが、それはできなかった。雫に叱咤されたからというのもある。でも、1番の理由は、気づいてしまったからだ。

 

自分がどうしようもなく陽和を愛していることに。

 

もう諦めるなんてできない。

あの陽だまりのような温かさを知ってしまった以上、もう以前の孤独な生活には戻れない。いいや、もうあの闇の中に戻りたくない。

もっとあの陽だまりにいたい。もっと温もりを感じていたい。あの太陽の元で明るい未来を生きたい。もっともっともっと、彼に大切な存在だと思われていて欲しい。

そんな欲が溢れ出しては止まらないのだ。

 

なんて自分勝手な女なんだろうか。

 

彼の為を想って諦めると言ったかと思えば、彼を愛してるから諦められないとか、傲慢にも程がある。

でも、そんなものだろう。恋というものは。

あまりにも身勝手で、自己満足で、傲慢で、惚れた男に振り向いて欲しい気持ちが先行して空回ってしまう。それこそが、恋心なのだろう。

 

月明かりも、星の光すらない真っ暗な夜闇の中にいた私を、彼は照らしてくれた。見つけて手を差し伸ばしてくれた。あの暖かな光に連れ出してくれた。

凍りついていた私の心を溶かしてくれた。彼に宿る優しい熱が、頼もしい灯火がその氷を溶かして壁を打ち壊してくれた。

 

あぁ、駄目だ。これはもう駄目だ。

 

彼への恋慕を再認識してしまった以上、セレリアに諦めるという選択肢は無くなってしまった。

後悔しようとも諦めるつもりだったのに、目の前で凛と佇む彼女がそれを許さなかった。

優しい太陽に最も愛されている彼女が、陽光に照らされた朝露のように美しい笑顔で微笑む彼女が、自分を立ち直らせてしまったのだ。

 

「身勝手な話だが、雫、いつか必ず貴様にも認めさせてやる。私も陽和の『特別』になるに相応しい女なのだとな」

 

挑戦的な笑みを浮かべてそう言い放つ。

先程の弱々しさとは打って変わって、堂々と宣言する彼女に雫は肩を竦めて笑う。

 

「上等よ、好きにしなさい。元々好意を寄せるのは許してるもの。そうして堂々としていればいいわ。それでこそ、私が親友と認めたセレリア・ベルグライスなんだから」

 

堂々としているからこそあの時、雫は陽和にアプローチすることを許したのだ。

それ以来、彼女のことを知るほどに堂々としていなくては張り合いが、競い甲斐がないのだと、いつしか彼女のことを恋敵ではあるものの同時に親友だと思うようになっていた。

それに、

 

「あなたがいくらアプローチしたところで私が彼の最高であることは揺るがないもの」

 

自分こそ彼の最高であることは揺るがないという絶対の自信があったからこそ、セレリアが挑戦状を叩きつけてきたとしても余裕を見せられるのだ。

女として自分の方が上だと明らかなマウントにセレリアは怯むことなく、むしろ挑発的な笑みを浮かべた。

 

「そう言っていられるのも今のうちだぞ?」

「あら、言うじゃない。私が陽和に飽きれられると思ってるの?」

「さぁな。これからの彼次第だろ」

「ふふっ」

 

これまでではなかったセレリアの挑発的な切り返しに雫は思わずと言った様子で声が漏れる。

一見すれば、お互いに笑い合う様は実に微笑ましいだろう。だが、実際はそうではない。

笑みを浮かべる彼女達の背後では阿修羅と銀狼がそれぞれスタンバイして睨み合っているのだから。

阿修羅はすでに六本の妖刀を抜刀し青い炎をこれでもかと噴きあがらせ、銀狼は氷を纏い鋭い牙を顕にし唸っており、臨戦体勢を取っていたのだから。

ユエとシアは心なしかどちらも笑っているように見えたらしい。

 

その後、遠くで二人の威圧に飲まれガクブルと震えるユエとシアに雫とセレリアが二人揃って謝った後、転移用魔法陣を潜り陽和達と合流を果たした。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

雫とセレリアの大喧嘩の内容を思い出した陽和は複雑な表情で呟く。

 

「……………まさか、雫から喧嘩をふっかけるとはなぁ、今でも信じられねぇよ」

「そんなに意外だった?」

「意外どころか考えたこともなかったな。だって、お前はなんかあっても大体自分で抱え込むだろ?これまでそうだったしな。まぁ今ではだいぶマシにはなったが」

 

雫の苦労性は幼い頃からの付き合いだからこそよく知っている。

これまでずっと何かあれば不安やら苦痛を抱え込んで表に出さないようにしていた。適度に自分がガス抜きをさせて彼女の心が押し潰れないようにしてきたが、恋人同士になってからは自分に甘えて不安やら不満を発散させてきて、大分改善した。

とはいえ、怒りを爆発させることは天之河の一件以来なかった。そもそも、そういう問題が起こらなかったというのもあるが、甘えるようになったとはいえ怒りを爆発させるなどこれまでの雫の性格からは想像できなかったのだ。

 

「あなたのおかげね。頼ってもちゃんと受け止めてくれるから、今ではだいぶ気が楽だわ」

「そりゃ何よりだ」

「前の私じゃきっとこんなことできなかったわ。誰かと喧嘩なんて、それこそその人の為に行動しようとして空回ってたかもしれないわね」

「………かもなぁ。まぁ、仮にそうなったとしても俺がフォローするから、大丈夫だろうけどな」

「ええ、ありがと」

 

そう言うと雫は陽和へと身を寄せながら水平線を眺めながら静かな声音で尋ねる。

 

「………それで、あなたはどうするつもり?」

「…………」

 

何がとは聞かない。だって、それはわかりきっていた話だから。その問いに対して陽和は表情を曇らせる。

 

「………一応、答えは、出ているつもりなんだ……だが……」

 

複雑な表情を浮かべる陽和の返答に、雫は優しげな表情を浮かべながら、気遣うような眼差しを向ける。

 

「ごめんなさい。別にあなたを困らせたかったわけじゃないの」

「……いや、お前が悪いわけじゃない。これはずっと先送りにしていた俺が悪いんだ。それに、聞きたいと言ったのは俺の方だ」

 

首を振りながら雫の謝罪を否定し自身が悪いと言った陽和はそこで一度口を止めると、雫に申し訳なさそうな表情を向ける。

 

「………むしろ、俺のせいでお前に面倒な役割をさせちまった。俺の方こそごめんな」

 

本来ならばこれは雫ではなく、自分がやるべき問題だった。彼女のメンタルケアもそうだし、なによりも彼女の気持ちを慮って自らが背負うべき役割だった。

それを恋人たる雫に任せてしまったのが、陽和としては男として不甲斐ないなと思ってしまったのだ。

だが、その謝罪に雫は穏やかな表情のまま首を横に降る。

 

「そんなこと気にしなくていいわ。私から言った方がいいこともあるもの。今回がそうだっただけよ」

「それでも、俺が曖昧にしてたのが原因だ。だから、そろそろはっきりさせないとな」

「結論を急いだわけじゃないのよね?」

「ああ。元々、前から考えてはいたんだ。ようやく結論を出しただけの話だよ」

 

陽和は覚悟を決めたのか決意に満ちた表情を浮かべており、彼の瞳をまっすぐに見た雫は……

 

「……そう。それならいいわ」

 

と、静かに頷いただけだった。だが、彼の意図を理解したのだろう。陽和の決断に嬉しそうに微笑んでいた。それに、陽和は苦笑いを浮かべながら尋ねる。

 

「一応聞くが、お前はそれでいいのか?」

「いいわよ」

 

陽和の問いかけに雫は即答だった。

それを想定していたのだろう。陽和は特に驚く様子もなく「そうか…」と頷くと小舟の上で立ち上がりパーカーを脱いで、翼と尾を生やす。

 

「とりあえず、俺も泳ぐかぁ」

「じゃあ、私ももう一泳ぎしようかしら」

「なら、競争でもするか?勿論、魔法はなしで」

「いいわね。負けないわよ」

 

そうして雫も小舟の上で立ち上がり、陽和と同じように翼と尾を再度展開すると、二人仲良く翼を広げて海に飛び込み、夕暮れまで共に競泳を楽しんでいた。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

「…………」

 

時は過ぎ夜。太陽はとうに沈み満点の星空が夜空を彩っており、陽和はエリセンの端にある桟橋に腰掛けてその星空を無言で見上げていた。

 

「陽和」

 

そんな彼に声をかけるものが現れる。

待ち人の来訪に陽和は腰掛けたまま振り向き彼女の名を呼ぶ。

 

「来たか、セレリア」

 

陽和の待ち人とはセレリアだった。

レミアの家で愉快でカオスな夕食を過ごした陽和は宿へ戻った後、セレリアに話があると言って呼び出していたのだ。

一人呼ばれたセレリアは早速陽和に尋ねる。

 

「話とはなんだ?」

「まぁとにかく長話になるから横座れ。ここからの眺めはいいぞ。風も気持ちいい」

「?あ、ああ」

 

しかし、帰ってきたのはそんな言葉だ。

本題には入らずに隣に促した陽和にセレリアは首を傾げつつも特に断る理由もない為、素直に陽和の隣に腰掛けた。

 

「日光浴は楽しめたか?」

「ん?あ、ああ。ティオと揃って昼寝してしまっていたよ」

「あぁ、確かに気持ちよさそうに寝てたな」

「まぁ、昨日は大変だったからなぁ。束の間の休息というものだ」

「そうだな。いつまでもエリセンにいるわけにもいかんしな。ハジメとミュウのことをどうにかしたらエリセンを発とうか」

「ああ」

 

そこで会話は途切れてしまい、二人は無言になる。言葉もなく無言のまま星空を見上げており、ただ潮騒の音や海風の吹く音、遠くから聞こえるエリセンの住人達の営みの声だけが静かに響いていた。

どれだけそうしていただろうか。ついに我慢できなくなったセレリアが本題に踏み込んだ。

 

「そ、それで、なぜ私を呼び出したんだ?こうして、何気ない話をするだけなら宿でもできたはずだ」

「そうだな」

「あえて、私だけを呼んだ理由はなんだ?」

 

セレリアの瞳が少し不安に揺れている。

昨日の大喧嘩の話は雫が話したことは既に知っている。だから、その件で呼ばれたのかと思ったセレリアは醜態を晒したことにより彼に失望されたのかという不安に駆られていたのだ。

無論、その程度で彼が失望するはずないと思っていてもやはり、一人の女として不安ではあったのだ。

その不安を感じ取ったのだろう。陽和は意を決し真剣な表情を浮かべるとまっすぐにセレリアの瞳を見ながら答える。

 

「………昨日話を聞いてからずっと考えていてな、そろそろ告白の返事をしようと思ったんだ」

「っっ、そ、そうか」

 

確かにそれならば自分だけを呼び出したのも納得する。だが、呼び出しの要件を理解したと同時にセレリアの表情は不安と期待がないまぜになった複雑なものへと変わった。

当然だ。これまで何度もアプローチしてきた結果が今日彼の口から告げられるのだから。

だが、たとえどんな結果になってもそれを受け入れようという覚悟もその瞳の中にはあり、それを見た陽和も真剣に答える。

 

「まず、俺は雫のことを一番に愛している。この世の誰よりもだ。それはこの先も変わることはない」

「ああ、それはわかってる」

「お前のことは大切な仲間であり、かけがえのない戦友だと思っている。あの奈落からずっとお前とは共に戦ってきたからな。今はもう背中を預けるに足る大切な存在だ。戦いに関しては雫以上に信頼している」

「……ああ」

「だが、もしも誰か一人を選べと言われたら、俺は雫を最優先する。親友のハジメでも、戦友のお前でもなく、最愛の雫を選ぶ。そう断言できるほどに俺に取って雫はかけがえのない存在なんだ。愛しているなんて一言じゃ片付けられない。言葉にすらできないほどに深く愛している」

「………ああ」

 

次第にセレリアの声音が悲しみの色を強めていく。

分かっていた。陽和の雫への愛情の深さは。

自分は確かに彼から信頼されてはいる。

だが、それは戦友としてだ。奈落で初めて会った時からずっと、彼とは共に戦ってきた。何度も何度も共に戦っていくうちに背中を預けるに足る存在になったのはセレリアも同じだった。

だからこそ、辛い。

戦友以上の存在にはなれないと遠回しに言われているようで聞いているのが辛くなってきていた。

なまじ、昨日陽和を振り向かせると宣言したばかりだったからこそ、無情な現実を叩き付けられているようだった。

諦めるつもりはない。だが、それでも拒絶されれば悲しくなるのは仕方のない話だった。

そして、この後の答えを予想してしまい押し寄せるであろう悲しみに耐えるべく、俯き膝の上に置いた拳を強く握りしめる。

そうして次に彼の口から放たれた言葉は、

 

 

「だが、それでも、俺は………お前のことが好きだ」

 

 

彼女の予想を大きく裏切るものだった。

 

「……え………?」

 

耳を疑ったセレリアはバッと顔を上げて陽和の顔を見る。彼は、どこまでも優しく柔らかい笑みを浮かべていた。

それは、普段から雫に向けているソレと同じくだったのだ。

瞳は信じられないという驚愕と本当にいいのかといいう期待が入り混じり激しく揺れる。陽和はくすりと微笑むと緩やかに手を伸ばし、彼女の後頭部へと添えると静かに己の唇を彼女の唇に重ねた。

 

「んっ……」

 

ビクッと体を震わせ大きく目を見開いたセレリアは小さな声をあげるだけで硬直してしまう。

歓喜、驚愕、疑問、困惑、様々な感情が入り混じる中、身体は溶け出してしまいそうなほど甘美な熱が彼女の全身を駆け巡った。

 

「は、陽和……」

 

唇が離れ、セレリアが瞳を揺らしながら彼の名を呼ぶ。見開かれた瞳が彼女の内心を物語っていた。

陽和は頬に手を添えて優しく撫でると、目を細め愛おしいものを見る眼差しを向ける。

 

「昨日の海底遺跡でのこと覚えてるか?最後の部屋で雫だけでなく、お前も一緒に抱きしめたことを」

「え……ぁえ……」

 

セレリアは突然のことに処理が追いつかずに小さな声しか出ない。普段の堂々とした有様とは程遠い初々しい乙女の姿そのものだった。

だが、その恥じらう様に陽和はますます愛おしさを募らせていき、込み上げる愛情のまま言葉を紡ぐ。

 

「あの時は本当に無意識だった。無意識に雫とお前の無事を安心するほどに俺はお前を愛おしく思ったんだ。今まで目を背けていたが、今回の件で俺はお前も愛しているんだと認めざるを得なかった」

「ぅ……ぁ…」

「もうお前のことを大切な仲間って言葉だけで片付けたくない。一人の女として俺は、お前のことが愛おしい。お前の身も心も全て欲しくなったんだ。手放したくないほどにな」

 

だから、そう言って陽和は顔を近づけるとコツンと自身の額を、これでもかと赤くなっている彼女の額に当てて彼女の琥珀の瞳を間近で真っ直ぐに見つめながら告げた。

 

「お前の全てを俺にくれ。身も心も、そして未来さえも余すことなく俺のモノにしたい」

 

余計な言葉を取り繕わずにただ己の欲望をそのまま表した言葉。酷く身勝手で、自己中心的な独占欲に満ちた最低の言葉だ。だがそれは、セレリアが何よりも欲しくて望んでいた言葉だった。

言葉の意味を理解したセレリアは瞳を潤ませ涙を流しながら確認する。

 

「本当に……私で、いいのか?」

「ああ」

「私は、怖がりなんだぞ?」

「大丈夫。俺がお前を支えるよ」

「これからも迷惑をかけるかも、しれない」

「全て承知の上だ。俺も一緒に背負うさ」

「……に、ニホンでは、複数の女と付き合うのは……」

「知るか。俺がそうしたいんだ」

「貴様の、家族も……いい顔を、しないかもしれない」

「それも知ったことか。しっかり話をして分かってもらうさ。……それに、そんな建前の言葉なんか聞きたくない。お前はどうしたい?『セレリア』個人はどうしたいんだ?」

「わ、私は……」

 

何かと言い訳を並べて誤魔化そうとしていたセレリアだったが、陽和にそう強く言われる。

翡翠の竜眼で見つめられたセレリアはぞくりと蠱惑的な感覚に身を震わせてしまう。

それこそが何よりの答えだった。

本能で理解した彼女は涙交じりに自然と口を動かしていた。

 

「ずっと、一緒にいたい。貴様に身も心を、未来も全部捧げたい。好きなんだ。愛している。全てを捧げるから、私を、セレリア・ベルグライスを紅咲陽和の『女』にしてくれ」

「ああ、勿論だ」

 

陽和はニッと笑うとセレリアの力強く抱きしめ、再び唇を重ねる。

しかし、先ほどのような触れ合う程度の優しいキスではなく、舌を彼女の口の中に入れる舌を絡めるほどに濃密で獣のように力強かった。

 

「んっ……あっ……んぅっ」

 

セレリアは口内に広がる濃密な感覚と抱きしめる強さに幾度となく体を震わせる。涙が流れていた瞳は、とろんと熱に蕩けており、彼女の腕は自然と陽和の首に回されより密着しながら自らも舌を動かし絡める。

獣の世界において雌は強い雄に惹かれるのが常であり、優れた雄に屈服することは雌にとって何よりの幸福でもあった。

今の状況はまさにそれだ。

強者と認めて惚れ込んだ雄に逃げられないように力強く抱きしめられながら、己を食わんと言わんばかりに荒々しく唇を重ね舌を絡めてきている。

力強い雄に組み敷かれ支配される雌の喜びが、彼女の魂を刺激し肉体を駆け巡っているのだ。

 

この日、セレリア・ベルグライスという名の優れた雌は、紅咲陽和というより優れた雄に完全に屈服した。

 

「ぷはっ……はぁ……はぁ……」

 

どれだけ重ねていたのかはわからないが、ようやく唇が離れるとセレリアは、力が抜けたのか陽和へとしなだれかかると肩を上下させながら荒い呼吸を繰り返す。狼耳や尻尾も力なく垂れている。

唇の端に銀色の橋の残滓を垂らしながら、頬を赤らめ瞳を潤ませ、表情を蕩けさせる彼女の様は非常に魅力的であり、男の理性を容易にぶち壊す妖艶さが宿っていた。

彼女が首を動かし情熱に潤む琥珀の瞳を陽和へと向ける。上目遣いをしながら彼女の口は小さく動く。間近であっても聞き逃すようなあまりにもか細い声量だったが、陽和には何を言っているのかはっきりと伝わった。すなわち、「もっと」だ。

 

陽和は愛らしいおねだりに嬉しそうに目を細めると、それに応えるべく彼女の肩を抱き寄せ、膝裏に手を回して軽々と抱き上げてしまう。

そして、空間魔法のゲートを展開すると、お姫様抱っこをされ、真っ赤な表情になっている彼女に顔を近付け耳元で小さく囁いた。

 

「雫はティオの部屋で寝るから、今夜は一緒だ。これまで散々誘惑してくれたんだ、覚悟しておけよ」

「〜〜〜〜〜っ!!」

 

セレリアはゾクゾクと背筋を駆け巡る蠱惑的な感覚に身を震わせる。この後何が起きるかを分からないほど彼女は無知ではないし、その時をずっと待ち望んでいたのだ。

しかし、待望の時が来て嬉しいと思う反面、果たして体が保つのだろうかと不安に駆られてもいた。とは言え、そんなものはほんの僅かであり、陽和に向けられる瞳は期待の色が濃厚で情欲の炎を宿していた。

 

「じゃあ、帰るか」

「………」

 

セレリアは無言で小さく頷くと陽和の胸元に顔を埋め服をキュッと優しく握った。気恥ずかしさのあまり子供のような反応を見せる彼女の姿が、あまりにも可愛らしくて陽和は彼女の頭頂に軽くキスをした後、ゲートをくぐり桟橋から姿を消した。

その後、彼らの間に何があったかは言うまでもない。

一言言うのであれば、彼らはとても熱くて濃密な夜を過ごしたとだけ言っておこう。

 

 

なんにせよ、この日二人の想いが交わり、『友情』から『愛情』という名の絆へと変わった。

 

 





無事にセレリアも陽和に受け入れられ結ばれましたね!
いやー、セレリアの片想いも長かったですね!あの奈落時代、というか継承した直後からの旅だから、単純計算ではシアよりも長いんじゃないでしょうか?
やっと彼女の思いが報われたということですよ。ここまで長かった!!
元々エリセンでくっつける予定ではあったので、予定通りに行けて何よりです!

雫とセレリアの大喧嘩はまさに壮絶という他ないですね。ステータス的には雫はセレリアよりも劣っているはずなのに、彼女の覚悟と怒りがバフとなり、セレリアは狂気の過去に蝕まれたことによりデバフがかかった結果、パワーバランスがひっくり返ったわけです。
そして、雫の大人な対応!というか、まさにお姉様!と言ってしまいたくなるような雰囲気でした。陽和と恋人になったおかげで心の余裕ができた結果、元々チートだった乙女力が進化して乙女を超えた淑女へと進化を遂げたわけです。
お姉さん気質を超えてお母さん気質をも獲得してしまった雫、精神力が着々とチート化してますね。これは、氷雪洞窟がどうなるか楽しみです!

そして、今回ドライグとヘスティアが全く出てこなかったわけですけど、普通にのんびり休んでいて寝ていたというのと、普段はからかっているが今回ばかりはしっかり空気を読んで壁の花化してことの成り行きを見守っていたわけです。
ちなみに、陽和がセレリアにキスをして瞬間、二人は宝玉内で歓喜乱舞していたとか、いなかったとか………

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