竜帝と魔王の異世界冒険譚   作:桐谷 アキト

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せっかく七夕が先週あったのに、肝心の七夕に投稿が間に合わず一週間も遅れてしまい申し訳ない。折角なので七夕編を書いてみました。
どうか優しい目で読んでくれると嬉しいです。

そして、読む前に皆さんに一言。

お供にコーヒーを推奨します。



61話 幕間:星の河に願いを

 

 

 

 

それは雫が陽和の眷属に転生してからすぐの頃、まだグリューエン大砂漠に入る前の時のことだ。

 

 

「今夜も星の眺めはいいな」

「そうね。大気が綺麗な分、本当によく見えるわ」

 

 

彼らがいる場所はとある小山の山頂だ。

見晴らしが良く、砂漠と森林の景色を両方見れるからこそ彼らは砂漠に入る前の最後の休息地に選び、朝方に出発する予定だった。

夕食も終わり寝るまでの間、各々が思い思いに時間を潰していた時、大きめの岩に並んで腰掛ける陽和と雫がそんな会話を交わしていた。

彼らが見上げる空はまさに満点の星空と言うべき絶景が広がっている。大小様々な星々が青、黒、紫が入り混じったような色の夜空に散りばめられてまさに星の海と称すべき光景だったのだ。

 

「本当だな。日本じゃなかなかお目にはかかれないほどの絶景だ」

「だねぇ。本とかでみる星空の景色そのものだよ」

 

地球組のハジメと香織も陽和達に同意を示し、星空を見上げている。気づけば、思い思いに過ごしていたはずの面々が全員岩場に集まっていて各々星空を眺めていたのだ。

 

「こういう星空を眺めてると、七夕を思い出すな」

「タナバタ?それは何だ?陽和」

『聞いたことがない単語だね。どんな意味なんだい?』

 

陽和の呟きにセレリアとヘスティアが反応し首を傾げる。ティオ達異世界組も同じように首を傾げているが、同じ地球組は納得を示す。

 

「確かに。あれとかまさに天の川みたいだものね」

「だなぁ」

「すごい綺麗だよね」

 

雫とハジメ、香織は空に浮かぶ一際眩い光の帯を、星々が束なってまさしく光の川のように夜空をまたぐそれを日本でも有名な天の川に重ねる。

地球組が感慨に耽っている中、セレリアが少し焦ったそうにして陽和に改めて問うた。

 

「おい、感情に浸るのはいいが、せめてタナバタとは何か教えてくれ」

「ああ、悪い。七夕ってのはな、簡単にいうと俺らの故郷日本で毎年7月7日に行われる行事なんだ」

「ほう、祭りなのか?それと星空がどう関係あるんだ?」

『同感だ。どういうことだ?』

「大アリだ。何せ、七夕ってのは願い事を書いた短冊や飾りを笹の葉に吊るして星に願い事をする習慣なんだよ」

「??星に願い事をするなら、その日じゃなくても良くないか?」

『その通りだ。何か特別な記念日があるならまだしも、それだけならばいつでもいいだろうに』

 

セレリアとドライグの疑問に話を聞いていたティオ達もうんうんと頷く。確かに、星に願い事をするだけならば、7月7日でなくてはいけない理由などない。

ではなぜ?そう問いかけるセレリアに雫が微笑見ながら答えた。

 

「由来の一つにね、七夕伝説っていう伝説が関係しているのよ」

「ほう、伝説とな。どのような伝説なのじゃ?」

「それはね、昔々天の川の岸に織姫という人がいて———」

 

そうして雫が七夕伝説について説明していく。

織姫と彦星が出会い夫婦となったが、仲が良すぎるあまり働かなくなった。それに怒った天の神様によって天の川の端にそれぞれ送られ離れ離れになってしまったのだ。しかし、二人があまりにも悲しんだので、天の神様は年に1日だけ会うことを許した。

その日こそがー

 

「7月7日なのよ。その日の夜だけ二人は会うことが許されたの」

「むぅ、一年に一回だけしか会えないなんて二人が可哀想なの」

「うぅ、ひどいですぅ。天の神様あんまりですよぉ」

 

織姫と彦星の境遇を思ってか、悲しむミュウとシアに陽和達は自然とほっこりする。雫はユエに頭を撫でられているミュウにふわりと微笑んだ。

 

「そうね、辛い話だわ。だからこそ、再会を叶えた二人の伝説にあやかって七夕の日には願い事を書いた短冊を吊るすの。『どうか二人のように願いが叶いますように』ってね。それが七夕よ。…‥で、合ってるかしら?陽和」

「大正解だ。よく勉強してるな」

「ま、まぁ、そういうお話は好きだもの」

 

乙女チックだからこそロマンチックな物語には心惹かれるのだろう。雫は照れながら陽和にそう返す。神社の息子としてそういった神話などは相当数把握している陽和は補足を付け加えた。

 

「ちなみにだが、なぜ笹に吊るしたかというとな、笹というのは生命力が強いというのが由来だ。冬でも緑を保ち、真っ直ぐに育つからこそ神聖な力があると昔から考えられていた。そういった考えから笹は真っ直ぐに伸びることから、笹に短冊を吊るすことで天に住まう二人に届いて欲しいと願われていた。一説には子供の成長の思いを込めて笹が使われていたという考えもあるな」

「ほぅ、子の成長を願ってか。それならば、短冊というのはなんなんじゃ?」

「短冊ってのは、願い事を書くための細長い紙や木のことだ。中国由来の五行説に肖った五色の紙に願い事を書いて笹の葉に飾るんだよ。元々は芸事の上達を願ったり、詩を詠んだりもしていたな。短冊の色ごとにそれぞれ意味があったり、他の飾り付けにもそれぞれ意味があるんだが…………まぁ話すと長いから、ここでは割愛だ。何にせよ、七夕ってのは星に願い事をする行事だと覚えてりゃいい。さて、分かったか?ミュウ」

「はいなの!分かりましたなの!」

「ならよし」

「流石、師範代。門下生の子供達に行事の解説をやってるだけはある」

「まぁそういうのも仕事のうちだからな」

 

紅咲神社では教育の一環として日本の伝統行事を子供達に説明する仕事がある。陽和も母と共にそれに参加したことがあり、道場の弟子の子供達相手に説明をしていたのだ。

元々師範代として門下生に指導していた陽和はそういった説明が上手いし、知識も豊富だ。それを親友であるハジメはよく知っていた。

 

「ちなみに私があんなに細かく話せたのも、陽和が子供達にしている説明を何度も聞いてたからよ」

「お前もよくうちの道場に来てたからな」

「ええ、椿さんには色々と教えてもらったわ」

 

雫は幼少の頃から紅咲家の道場に出入りしていたからこそ紅咲の行事などもある程度知っていたし、椿に陽和と一緒に色々と教えてもらったりもしていた。

 

「そういや、紅咲神社じゃ、毎年七夕祭りもやってるよな。子供の集まりもすごかった」

「ああ。七夕の時期もそうだが、節目の行事の時はうちの神社は大体忙しくなる」

「そうね。四季ごとに祭りを行ってるから、それはもう話題になってたわ」

「懐かしいなぁ。私達も去年行ってたよね。夏祭り」

 

紅咲神社は四季それぞれに祭りが開かれる。

それぞれの節目に合わせた祭りは彼の地元では有名であり、毎年多くの人が見に来ていたほどだ。

ハジメも、雫も香織も、紅咲神社の祭りはそれぞれ時期が違えど行ったことがありしっかりと楽しんでいた。

 

「陽和はいつも運営側に回ってるから忙しそうにしてたわよね」

「そりゃあまあ、うちの神社で行われてる行事だしな」

「確かに。神楽舞とか裏方とか色々やってるもんな、お前」

 

陽和にとって祭りとは確かに楽しむものだが、どちらかといえば裏方の仕事だったり、神楽舞を舞うこともあり運営側に回ることが多い。

それは神社の家系として生まれたものの宿命のようなものなので、仕方のないことだ。

 

「しかし、忙しいのは仕方ないとして短冊に願い事を書いたことはあるじゃろう?毎年どんな願い事を書いていたんじゃ?」

 

好奇心を隠さずに楽しそうな笑みを浮かべ陽和の顔を下から覗き込んだティオはそう尋ねた。

 

「俺か?俺は……」

 

陽和はティオが視線を逸らして星空を見上げながら、これまでの七夕祭りで最も印象的だった夜を思い出した。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

眩い星空の下で賑やかに響くのは、お囃子の音色。

金魚掬い、射的、わたあめ、焼きそば、たこ焼き、かき氷———この時期定番の屋台の列。

更には、参道の両脇には美しい絵が描かれた灯籠が無数に並んでいる。あちこちには笹の葉が下がる竹が何本もあり、そこには無数の短冊が飾り付けられていた。

 

大規模というほどではないが、それでも賑わっているとわかるほどの人の数。その割合は六割が地元で四割が外部の人々だ。いくつも並ぶ鳥居を潜りながら、彼らは毎年行われる伝統的な催しに各々胸を躍らせ楽しんでいた。

 

ここは紅咲山。

春は桜の名所として有名な山であり、四季ごとに伝統的な祭りを行う神社ー紅咲神社が山頂にある山だ。紅咲神社は火の神々を祀る神社であり、同時に桜の女神ー木花咲耶姫を主神として祀る神社である。

それにふさわしく、紅咲山は春には桜が咲き誇り、桜の女神を祀る神社に相応しい景観ということで有名だった。

今日はそんな紅咲神社で夏に行われる祭りの一つ、七夕祭りの日だった。その神社の一際大きい鳥居の柱の前では一人の少女が佇んでいた。

 

「……………」

 

淡藤色の生地に白の刺繍が施された着物に身を包み薄緑の帯を巻いている少女。

後頭部で結われた艶やかな黒髪に、赤紫の瞳が特徴の容姿の整った美女。通り過ぎる男達が思わず二度見してしまうほどだが、肝心の女性はそれに気づいていない。待ち合わせでもしているのか落ち着かない様子で周囲を見渡し誰かを探している。

その時、近くにいた男子大学生の集団の一人が彼女にいざ声をかけようとした時だ。

 

「雫!」

 

彼女を呼ぶ声が聞こえてきた。

少女はー否、八重樫雫はその声の方向に振り向くとパァッと顔を明るくさせて彼の名を呼ぶ。

 

「陽和!」

 

彼女の視線の先には赤黒の着物に身を包んだ一人の少年の姿がある。短い黒髪に赤黒い瞳の整った顔立ちの少年の名はー紅咲陽和。

この神社の家の長男であり、この七夕祭りの運営側の少年である。

 

「すまん、待たせたか?」

「ううん、私も今来たばかりだから」

 

陽和の言葉に首を横に振りながらそう答えた雫は彼の着物に視線を巡らせる。

赤黒い生地の着物に赤い帯は彼らしさを表しており、炎の刺繍は彼の生家紅咲家を象徴するとも言えよう。彼の着物姿を一通り眺めた彼女は表情を綻ばせる。

 

「陽和、その着物よく似合ってるわ。あなたらしさが出てて、その、すごくかっこいい」

「そ、そうか?それなら選んだ甲斐があった。雫こそ、そ、その着物似合ってるな。紫色もあってる……その、綺麗だ」

「そ、そう」

 

雫の褒め言葉に陽和は照れくさそうに頬をかきながら自分も雫の着物姿を褒める。

褒められ返された雫は頬を赤くさせて俯くとそのまま黙ってしまう。陽和もまた頬を赤くさせて目線を彼女から逸らしている。

お互いがモジモジとしている様子に、遠巻きから声をかけようとしていた大学生は露骨に舌打ちしているが、二人はそれに気づかない。

 

「と、とにかく!祭り、回らねぇか?」

「え、ええっ!そ、そうね」

 

露骨に話題を変えた陽和に雫もあわてた様子で同意を示す。そうしてとりあえず祭りを回ることを決めた陽和は雫へと手を伸ばした。

 

「は、はぐれると困るからな。手、繋ごう」

「っ、う、うん」

 

陽和の提案に雫は小さく頷くと、おずおずと手を伸ばして陽和の手に自分の手をのせる。

そうすれば、陽和が手を優しく握り彼女を優しく引っ張って前へと歩き出していった。そうして歩き出す二人の顔はどことなく赤くて、お互いが照れているのだとわかった。

その姿はまさにどこにでもいるような恋する少年少女の姿であった。事実、彼らの年は十五。学年は中学3年生だ。

 

そう、これは彼らが異世界に召喚される前の話。

 

まだお互いがお互いへの恋心を秘めていた時期だった。

 

それからしばらく、二人は初々しい会話をしながら祭りを楽しんでいた。時に射的をし陽和が獲得したぬいぐるみを雫にプレゼントしたり、時にかき氷を食べ頭がキーンとなって悶絶する陽和を見て雫が笑ったり、時に雫がわたあめを頬張り頬についたわたあめを陽和が指で掬って舐めて雫が赤面したりと見ているこっちが砂糖を吐き出すような甘酸っぱい青春物語が如きやり取りを繰り返していた。事実、無自覚甘々空間に当てられ、周囲の人間、というかリア充共もイチャイチャし始めたので、甘々空間はより拡張していたりする。

尚、当人の間に甘酸っぱいという自覚がないのが彼ららしかった。

そうして祭りを楽しんだ後、陽和は雫に一つ提案をした。

 

「そうだ、雫。短冊書きに行こうぜ」

 

七夕といえば短冊に願い事を書くのが定番だ。

この紅咲神社でも七夕祭りの時には笹が何本も用意されている為、大勢が吊るしても問題はないほどだ。

そこに自分達も願い事を書いた短冊を吊そうという提案に雫は快く頷く。

 

「ええ」

 

そうして二人は短冊をかける場所へと移動する。場所は紅咲神社の境内の片隅。大量の笹の葉が用意され、子供から大人まで沢山の人が集まっていた。

笹のそばにはテーブルが置かれており、各々が用意されたペンで短冊に願い事を書いていた。そこに陽和達も混ざり、元々願いが決まっていたのか二人ともスラスラと書いていき、短冊を手に笹へと近づくと、それぞれ頭より少し高い位置に結んで吊るした。

 

「雫はなんて書いたんだ?」

「私は『家族や友達が健康であれますように』って書いたわ。陽和は?」

「俺も似たようなものだ。『大切な皆とずっと一緒にいられるように』ってな」

「あなたらしいわね」

「そういうお前こそ」

 

お互いが自身の願いよりも誰かを想った願い事を書いてあり、お互いの性格をよく知る二人は互いに笑い合った。

ひとしきり笑った陽和は雫に一つ尋ねた。

 

「その、まだ門限まで時間はあるか?」

「?ええ、まだあるけど、どうしたの?」

「それなら、ちょっとついてきてくれ。見せたいものがある」

「?え、ええ」

「じゃあ行こう」

 

雫の了承を得て陽和は彼女の手を取ると場所を移動する。参道の脇にある小道を抜けて、神社の裏側にある実家の屋敷の中庭を経由して行き陽和はとある場所に雫を連れて行った。

 

「ついたぞ。空を見上げてみろ」

 

その場所は他とは違い木々がなく、半径十数メートルほどの開けた場所だった。そこに連れてかれた雫は陽和に言われるがままに空を見上げると大きく目を見開いた。

 

「………綺麗」

 

思わずそんな声が出てしまうほどの絶景が、満天の星空がそこには広がっていた。

祭りの場所とは大した距離もないはずなのに、明らかに景色の見え方が違う。先程は提灯やライトといった人工的な灯りが多くあった。だが、ここにはそれらよ光はない。光がないからこそ、より星の光が輝いて見えたのだ。

雫の反応に満足した陽和が微笑みながら言う。

 

「うちの家族みんながお気に入りの場所でな。晴れてる夜とかはここからの星の眺めが素晴らしいんだ」

「………ええ、本当に、綺麗だわ」

 

紅咲家の特権だな、と無邪気に笑う陽和の姿に絶景に目を奪われていた星空を見上げながらそう返した。

これほどの絶景、あまりの美しさに、雫も胸が痺れるような感激を感じたのだから。

素直な反応に陽和は安堵の表情を浮かべる。

 

「よかった。お前なら気に入ってくれると思ってたんだ。ずっとこの景色をお前に見せたかった」

 

ずっと陽和は昔からこの景色を彼女と共に見たいと思っていた。今までは家族やハジメと回ることが多かったし、彼女を誘う勇気すらなかった。

今年ようやく勇気を出して誘ったのだが、その結果は彼女の様子を見れば明らかで、満天の星空に目を輝かせる姿に陽和は内心で安心していた。

内心安堵する陽和に、空を見上げたままだった雫が視線を陽和へと向けると声を上げる。

 

「ねぇ、陽和」

「ん?」

「………その、来年も、ここに来てもいいかしら?」

 

雫からのお願いに、陽和は一瞬驚きに目を見開くもすぐに嬉しそうに笑って頷く。

 

「ああ、いいよ。来年も、ここに星を見に行こう。一緒に」

「ええ」

 

星明かりが木々の闇の中にいる二人を照らす中、少年少女はそんな約束を交わして再び星空を見上げる。

陽和はチラリと横に視線を向け、星明かりに照らされる彼女の横顔を見る。

 

(綺麗だ……)

 

花より団子、いや、星より想い人というべきか。

陽和にとってはこの満天の星空よりも彼女の方がよっぽど綺麗に見えた。

それは恋心によるものが大きいだろう。元々整った容姿をしていて美人ではあるが、星明かりに照らされた彼女の姿は………織姫が地上に降りてきたかのような美しさだと陽和は内心で思っていたのだ。

そんなことを考えていることに陽和は小さく笑うと再び星空へと視線を戻しながら、懐に忍ばせたもう一つの短冊に書いた願い事に思いを馳せる。

 

(いつかこの願いが叶えばいいな……)

 

実は先程陽和は願い事をもう一つ書いていたのだ。結局、笹に吊るすことすらできずに懐にしまってしまったのだがその願いも本物だ。

 

なぜなら、彼が書いたもう一つの願いとは『いつか雫と結ばれるように』と恋心の成就を願ったものなのだから。

 

今はまだ胸に秘めた恋心。

言葉にすることも、ましてや態度に出すことすらできておらず、短冊に書くしかできていないような腰抜けではあるが、それでもいつかこの想いを彼女に告げられる日がくればいいと密かに願っている。

 

 

その想いがまさか2年後に異世界に召喚され追われる身になったという状況になって成就するのはこの時の彼には想像もつかなかった。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

「俺か?俺はぁ……」

 

数年前のことを思い出していた陽和は思い出し笑いを浮かべると、期待しているティオ達に悪戯っぽい笑みを向けながら答えた。

 

「………秘密だ」

『『「「「「えーーー」」」」』』

 

ティオだけでなく全員が期待してたのだろう。雫を除く面々が揃って残念そうな声を上げた。ドライグやヘスティアすらも加わっている。

ハジメはよほど知りたかったのか、ずいと身を乗り出して尋ねる。

 

「なんでだよ。別に教えてくれたっていいだろ?」

「別に教えなくてもいいだろ?それに、そういうのはあまペラペラと話すものじゃねぇし」

「あら?でも、陽和、前に私に教え……」

「はーい雫、お口チャックしようなー」

 

雫が陽和が短冊に書いた願い事を思い出し言おうとした瞬間、陽和のインターセプトが入り口を優しく塞がれる。もごもごと口を動かす雫に陽和はしーと一本指を立てた。

 

「二人だけの秘密ってことで。改めて言うと恥ずかしいからな」

「…………」

 

陽和の言わんとしてることを察したのか、雫は目を細めてこくんと頷く。

その通じ合った様子に、ティオは少し面白そうにしながら揶揄う。

 

「……なるほどなるほど。大方、恋の成就でも書いたのではないかえ?それを雫の前で口にするのが恥ずかしいと」

『かもしれんな。恋が叶ったのだからもういいだろということか?』

「違いますー。わざわざそんなこと短冊に書きませーん」

「なんだそういうことか。全くそうならそうと言えば私達も詮索などしないというのに」

『まったくマスターも素直じゃないなぁ。素直に言えばいいのに〜』

「だから違うって言ってんだろうが」

「あー、ありえるな。雫への片思い拗らせてたから密かに短冊に書いてたりぐらいはしてそうだ」

「で、やっぱり吊るせなくて机の引き出しにしまってたのかな?」

「おい待てこら、勝手に変な推測するな」

「………ん、ハル兄も素直じゃない」

「ですねー。もう成就したからいってもいいじゃないですかぁ」

「ハルトお兄ちゃん、照れ屋さんなの!」

「あーあーあー、聞こえませーん」

 

三者三様に好き放題言われ最終的には耳を抑えてわざとらしく声をあげてしまう。

図星といえば図星で当時の陽和の内心など、今の二人の関係を見ればわかり切ったことだというのに、それでもなお誤魔化す陽和にハジメ達のニヤニヤは止まらない。ミュウですらニマニマと笑っているせいで空気が生温かかった。

 

「陽和の照れ隠しは確定として「おい、確定すんな」……今だから言えることだが、昔のお前らはまさに織姫と彦星みたいだったよな」

「何を言ってんだ?ハジメ」

「確かに!それ私も思ってたよ!」

「何を言ってるのかしら?香織」

 

唐突な発言に陽和と雫が揃って首を傾げてしまう。

何故いきなり自分たちは織姫と彦星に例えられたのだろうか?

そんな疑問にハジメが何食わぬ顔で応える。

 

「いや、だってな、昔はお互いの道場に出入りしたり一緒に遊んだりと距離は近かったろ?」

「ええ、まぁ、よくお互いの家に遊びに行ってたわね」

「でも、光輝君との大喧嘩以降二人は光輝くんの過剰な干渉で思うように会えなくなったでしょ。思い合ってるのに思うように会えない二人。それって例え方が悪いけど、天の神様に引き離された織姫と彦星みたいだなって思ってたの」

「天の神つぅか、物理的に邪魔してたから天の川だな。天之河だけに」

「誰が上手いこと言えと言ったよ。めちゃくちゃしょうもねぇわ」

 

なんともしょうもないネタを言ったハジメにジト目を向ける陽和。まさか、自分たちを織姫と彦星に例え、天之河を天の川とかけるなど誰が思うだろうか。

だが、香織は同意見だったらしくうんうんとしきりに頷いている。親友の視線も心なしかジト目だ。

ふと、ハジメと香織の表情が揶揄いの混ざる生暖かいものから、真剣なものへと変わる。

 

「ま、天之河のネタは置いといてだ。お前らが織姫と彦星みたいだと思ったのは事実だが、その二人と違うのはお前らは泣くだけじゃねぇってことだな」

「そうだね。二人ともとことん足掻いてたもんね。そういうところは、二人と違うなって思うよ」

「「……………」」

 

真剣な様子でそう告げる二人の様子に二人は思わず息を呑んだ。だって、そう語る二人の瞳には尊敬の色が宿っていたから。

 

「片や冤罪で追われる身になったとしても、誰かの為に戦って最後は恋人を自分の手で救ってみせた」

「もう一方も恋人の帰りを待つだけじゃなくて、恋人に並び立つために自分を鍛え続けてた」

「そんな二人ならば、ただ悲しむだけで終わりなわけがない。とことん足掻くだろうさ」

「そして、最終的には天の神様に立ち向かって、本当の自由を手にするんだろうね」

 

二人は織姫と彦星のようにただ悲しむだけではなかった。彼らは足掻いた。自分達が望む未来を掴むために、己にできることをやり続けて、進み続けていた。

それは今も、これからも変わらず、例え七夕のように天の神が二人を引き離そうとすれば、二人で立ち向かって天の神を倒してしまうだろう。そうして、二人は二人が望んだ幸福の未来を掴むのだ。

それこそが、陽和と雫なのだ。だからこそ、ハジメと香織はそんな二人を。

 

「だから俺は尊敬する。お前達のその強い在り方を」

「だから私は憧れるんだ。二人の確かな愛の形に」

 

尊敬し憧れるのだ。

それを臆面もせずに言い切った二人に、陽和達は面食らったかのように目を丸くしてぽかんとしている。

無理もない。揶揄われていたかと思えば突然尊敬だの憧れだなと賞賛されたのだから。意表をつかれたというのは仕方のないことだろう。

 

『同意だな。二人の言う通りだ』

『うんうん、僕も同じく』

 

だが、他のみんなはどうやら違ったようでハジメと香織の言葉に異論はないと笑みを浮かべていた。ドライグとヘスティアすらも同意を示していた。唯一ミュウだけはわからず、首を傾げていたが。

そして、称賛された二人はというとなんとも言えないような顔を浮かべる。

 

「そんなことを言われてもなぁ。尊敬されるようなことはしてないと思うが……」

「そうよ。これと言って特別なことなんてしてないわよ?」

 

謙遜と捉えられるかもしれないが、二人とも本心からの言葉だ。思った通りの反応でハジメと香織は揃って笑う。

 

「それを素で言えるから、尊敬できんだよ」

「だよね。二人とも本心からそう思ってるんだもん」

「「…………」」

 

なぜか自分達の思考を読まれているようで二人は困惑を隠せない。

これが二人の美徳なのだ。恩を押し付けずにただ自分達がそうしたいからする。気遣いたいから気遣う。そういう優しさを素で実行できてしまう。だからこそ、ハジメと香織は二人を尊敬しているのだ。

言いたいことを言ったハジメはミュウを抱き抱えながら、その場で立ち上がる。

 

「さて、星空も堪能したし、そろそろ寝るかぁ」

「はいなの!」

「……ん、もう寝る時間」

「ですねぇ、早く寝ましょう」

「そうじゃのぅ、明日からは砂漠超えなのじゃ早めに寝ておこうかの」

「私も、装備の調整をしてから寝るかぁ」

「私もそろそろ寝ようかな」

 

ミュウ、ユエ、シアもハジメに追随して大岩から降り、続いてティオ、セレリア、香織も降りた。そして、最後に香織が未だ岩の上で唖然としている二人に振り向いて笑みを浮かべる。

 

「あ、私達はちょっとだけ早く寝るけど、お二人はまだゆっくりしてていいからねー。全っ然夜更かししてくれていいからー」

 

そう言うとさっさと岩場を後にしてそれぞれテントに引っ込んでしまった。

 

「「……………」」

 

あっという間に二人きりになり、先程までの賑やかさが嘘のように消えて静寂に満ちる中、陽和と雫はぽかんとしていたが、やがて、雫は困ったようにため息をついた。

 

「もぅ、香織も皆も変な気を利かせてくれたわね」

「……だなぁ。何考えてんだか」

 

陽和もやれやれと言った様子でため息をつくと、胡座の姿勢から後ろに手をついて足を後ろに伸ばす。雫も自然と彼の隣で座り直して、頭を肩に寄せていた。

その様子はまさに熟練の夫婦のそれであり、先程のやりとりも相まって手のかかる子供の相手を終えて一休憩を挟んだようにも見えてしまった。

陽和と雫はしばらく寄り添い合いながら無言で空を見上げていた。そんな時、ふと陽和が口を開いた。

 

「…………なぁ、雫。少し空を飛ばないか?」

「ええ、いいわよ」

 

断る理由もないため雫は陽和の誘いを受ける。

そして、飛ぶために背中から翼を生やそうとしたのだが、それを陽和が止めた。

 

「あ、翼は出さなくていいぞ」

「え?じゃあどうやって飛ぶのよ。あなたが私を抱えるの?」

「いや、まぁそれでもいいんだが、別の方法があるから、今回はそれで行こう」

「別の?」

「ああ」

 

ニヤリと笑った陽和は岩から降りて左手の宝玉を輝かせてあるものを出した。それは、

 

 

「これって……バイク?」

「そう。俺とハジメが合作で作った俺用のバイク“白桜”だ」

 

 

陽和が取り出したのは白を基調としたバイクー“白桜”だ。

 

「ハジメのブリーゼといい、こんなものまで作ってたのね」

「つい楽しくなってなぁ。色々とロマンを追い求めた結果だ」

「ふふ、男の子ね」

 

そういったオタク浪漫に理解のある雫は楽しそうに笑う陽和の様子にやんわりと微笑んだ。

陽和は白桜に早速またがり飛行モードへと変形させながら雫へと手を伸ばす。

 

「夜のドライブデートなんてのはどうだ?しかも、空飛ぶバイクでだ」

 

恋人からのドライブデートの誘いなど断る理由などあるわけもなく、雫はクスリと微笑むと岩から降りて彼の手を取った。

 

「ええ、ぜひ」

「よし、掴まってろよ」

 

雫の手を取り後部座席へと乗せる。雫が腹に手を回してしっかりと抱きついてきたのを確認した陽和は、ちょうど変形を終えた白桜を起動して浮遊させる。

赤光を帯びた白桜はマフラーから赤い炎を噴き出しながら星空へと飛び立った。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

宝石を散りばめたかのような星空を、赤い流星が駆け抜ける。赤い流星ー赤光を帯びた白いバイク“白桜”に跨る陽和と雫。

二人は髪を揺らし、頬を撫でる涼風を感じながら星空を眺める。さっきまで大岩の上で同じ景色を眺めていたはずなのに、今はまさしく星の海の中にいるようで、もっと綺麗に感じ幻想的だった。

 

「わぁ…」

 

雫も思わずと言った様子で歓声をあげていて、目を輝かせている。陽和も穏やかな笑みを浮かべ、後部座席に座る雫に声をかける。

 

「どうだ?いい眺めだろう」

「ええ……すっごく、いいわ……さっきよりも」

 

よほど感動しているのか、声が途切れ途切れになってしまう雫。

陽和は白桜を止めるとその場で滞空すると、横座りへと姿勢を変える。雫も彼に合わせた横座りとなり肩を寄せ合いながら星空を見上げる。

それからしばらく無言で星空を見上げていたが、陽和が静かに口を開いた。

 

「なぁ、雫」

「なに?」

「昔、七夕祭りの時に俺が星が綺麗に見える場所に連れてったこと覚えてるか?」

「ええ、勿論。あの時の星空も綺麗だったわね。今でもはっきり覚えてるわ」

 

あの時の光景を雫ははっきりと覚えている。

それは陽和と回った七夕祭りの中で一番新しい記憶でもあり、とても印象的な景色だったからだ。昔を懐かしみ雫は目を細める。

 

「………また、行きたいわね……地球に帰って、また七夕祭りに参加できたら、その時はもう一度連れてってくれる?」

「勿論。毎年連れてってやるさ」

「ふふ、ありがと。……でも、今話したかったことってそのことじゃないでしょ?」

 

察しのいい恋人に陽和はクスリと微笑みながら、早速本題に踏み込んだ。

 

「実はなあの時、もう一つ短冊に願い事を書いてたんだよ」

「そうだったの?」

「ああ、結局短冊に吊るすことができなかったものでな………でも、もう吊るさなくていいな。だって叶ったんだから」

「そうなの?」

「ああ、だってその願い事ってのは………」

 

陽和はそこで雫の肩に手を置いて優しく自分の元へと引き寄せながら、彼女の藍色の瞳を真っ直ぐに見ながら愛おしいものを見るように笑みを浮かべながら答える。

 

「ハジメ達が言っていたように、いつかお前と結ばれるようにだったんだから」

「そうだったの?」

「ああ、俺の願いはもう成就した。だから、もう書く必要はないな」

「そう……ふふっ、あははっ」

 

陽和の隠していた願い事を聞いた雫は突然表情を綻ばせて、肩を揺らしながら笑う。

 

「な、なんだよ。なんかおかしなことを言ったか?」

 

陽和がその態度に笑われたかと若干気恥ずかしそうにしながら抗議の声を上げるが、雫の返答は彼の予想を裏切った。

 

「いいえ、違うの。私達、似たもの同士だなって思っただけよ」

「っっ、てことは」

 

雫の言わんとしたことを察した陽和が驚く中、雫は嬉しそうに微笑みながら陽和の胸元に頭を寄せる。

 

「私もよ。私も、毎年あなたとの恋の成就を願ってたの。誰かに見せる勇気がなくて、自分の部屋の小さな笹に吊るすぐらいしかできなかったんだけどね」

 

雫も同じだったのだ。

彼女もまた陽和と同じ願いを抱いており、それをもう一つの短冊に書いていたようだった。その願い事はまさに陽和のそれと同じであり、彼女自身もずっと陽和と結ばれることを夢見ていたのだ。

『お母さんにバレて、そこから皆にもバレちゃったんだけどね』と小さく笑う雫につられて陽和は噴き出すように笑った。

 

「ははっ、なんだよ、本当に俺らは似たもの同士だったんだな」

 

お互い両片想いが続いていたからこそ、それが行動に現れてしまっていたことに陽和も笑い出した。

まさかお互いを思い合っていただけでなく、やることすらも似通っていたなど誰が思うだろうか。

 

「ほんと、もっと早く告白しておけばよかったな。そうしたら一緒にいられる時間が増えていたのに」

「今からでも遅くないわ。それに、これからはずっと一緒なんだから」

「それもそうだな」

 

過去共に過ごせなかった時間よりも、これから未来を過ごす時間の方がよっぽど長い。

だからこそ、過去よりも未来を見て、共に生きていこうという雫の言葉に一瞬勿体無いことをしたと残念がっていた陽和は表情を綻ばせる。

そして、陽和は右手を伸ばして雫の手に重ねる。そうすれば、二人の手は自然と握り合う形になり、指を絡める形となった。

 

「次の願い事は何を書くつもり?」

 

次があることに陽和は笑みを深めると、手を握る強さを少し強めながら、答えた。

 

「そうだなぁ、次はお前と幸せになれますように、かな。お前は?」

「ふふっ、私もよ。ずっとあなたと幸せに過ごせますようにって書くわ」

 

またしても同じ願いを言葉にする雫に陽和は顔を動かし、星明かりに照らされ輝く雫の瞳を真っ直ぐに見ながら、無限の愛情を宿す笑みを浮かべると穏やかな声音で言った。

 

「雫、俺の恋人になってくれてありがとう。どうかこれからもずっと一緒にいてくれ」

「ええ、ずっと一緒にいるわ。それが、私の幸せなんだから」

 

陽和の言葉に雫も無限の愛情を以って応えた。

自然と二人の顔の距離は近くなり、やがて唇が重なる。

 

 

穏やかな静寂の中、夜空に広がる無数の優しい光が重なり合う二人を照らした。

 

 

それはまるで二人の未来を祝福し、幸福を願っているようだった。

 





二人のことだから、七夕にあんな甘いやりとりをしていてもおかしくない。というか、しててくれという願望を元に書き出した七夕回はどうでしたか?
甘かったでしょ?二人はハジメとユエと違いTPOを弁えていちゃいちゃしますが、イチャイチャし始めたらそれこそ二人以上に甘々な空間を形成しますからね。ぶっちゃけ、甘ったるくてしょうがなかったことでしょう。

大丈夫。それが正しい反応です。
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