竜帝と魔王の異世界冒険譚   作:桐谷 アキト

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皆さんお久しぶりです。
数ヶ月ぶりに、更新できました。社会人生活が始まりはや半年。誕生日を先週迎え、年も一つ重ねました。生活が変わり仕事で慌ただしい日々ですがそれでも、地道に執筆を続けてまいりますので、これからもよろしくお願いします。

とまあ前置きはここまでにして今回は、セレリアと陽和が結ばれた後の話です。前回は七夕回で番外編だったので、前々回の続きとなっていてセレリアが陽和に受け入れられ喜ぶ人もいたことでしょう。今回はその後の話を書いてますので、コーヒーをセットし、生暖かい目で読んでください。

あと、ありふれ3期がいよいよ始まりましたね。
3期から雫の出番が増えているので、私的には待ちに待ったものでした。やはり、雫のヒロイン力は高い!!





62話 絆の約束

 

 

「んぅ……」

 

 

朝、波のさざめきで目を覚ましたセレリアは瞼をゆっくりと開く。瞼に差し込むのは、窓の隙間から入り込んできた陽光だ。

セレリアは寝ぼけ目のまま身を起こし、窓を開けようとする。だが、それはできなかった。

それはなぜか。

 

「……ぁ……」

 

後ろから伸びる腕が自身の体を抱きしめていたからだ。一糸纏わない肌に直に置かれているのは逞しい腕。後ろから聞こえるてくるのは穏やかな寝息。

自身を抱きしめながら寝る彼の存在を感じ、彼女は昨日のことを思い出した。

 

(そうか……私は………)

 

昨日、自分は漸く陽和に受け入れてもらえたのだと。キスをされ、想いを告げられた後、彼と共に熱い夜を過ごしたのだが、それはもう……。

 

(昨日は、すごかったな……)

 

昨夜のことを思い出してセレリアは顔を真っ赤にする。ひたすらにすごかったとしか言えない。

実際のソレがどれだけ激しかったのは、雫との夜を覗き見した時に見たことがあるし、わかっていたつもりだった。だが、いざ自分の身でそれを実感すると、予習と実践は大きく違うのだと痛感する他なかった。

それでも………

 

(……幸せだ)

 

この温もりはとても幸せだった。

思えばここまで長かったと思う。兄に裏切られ、絶望に心が折られ暗闇の中にずっといた。

あの時、鎖が緩んでいた好機に一縷の望みもかけて死に物狂いで脱出し、オルクス大迷宮に向かった時も心は暗闇に包まれていた。

命懸けで脱出し、オルクス大迷宮に向かったとして、果たして本当に望みの力が得られるのか?

途中で追っ手に捕まってまたあの暗い牢獄に閉じ込められてしまうのか?

嫌だ。怖い。そんな負の思考が連鎖してしまい不安や恐怖に苛まれながらも、とにかく必死に戦ってきた。

 

 

その苦しくて、辛くて、寂しい孤独の旅の果てに彼に出会った。

 

 

彼はその名の通り太陽のような人だった。

彼が宿す灯火が暗闇に閉ざされていた自分の心を照らしてくれた。彼の温もりが絶望で凍ってしまっていた心を温めてくれた。

 

(ありがとう、陽和。私を、見つけてくれて)

 

暗闇の中から自分を見つけてくれたから、今の自分があるのだ。

だから、自分を見つけてくれてありがとうと感謝を心のうちで示しながら、前に回されている彼の手を優しく握った。

とまあ、それはさておき。

 

(さ、流石に暑いな……)

 

彼の温もりは心地いいが、それでも暑かった。

彼らが現在宿泊しているエリセンは年中温かく、夏の海国のような気候だ。それだけならば、セレリアも暑さは感じるが、海風などで涼しさを感じそれほど暑苦しくはならない。

問題といいたくはないが、陽和が密着しているということが彼女を悩ませている原因である。

彼は火竜の竜人であるためか基本的に平均体温が常人のそれよりも高く、40度を超えており並の温泉の温度に相当している。普段は緻密な魔力操作で身体をコーティングして熱を外に出さないようにしていても、それでも38度弱はある。

逆にセレリアは氷狼の魔人であるが故に平均体温が低い。陽和とは対照的に32度ほどだ。そのためか暑さには常人よりも敏感になってしまい、高温の環境が苦手となりグリューエン大火山の時は割と危なかった。

 

そして、昨晩陽和は魔力で肉体をコーティングする余裕がなかったために、40度越えの皮膚が直にセレリアに触れられていた。

最中の時は彼の温もりが欲しかったが故に、それほど高くてもあまり気にはしていなかったが、ひと段落ついてみれば、昨夜の情事で熱気に満ちた室内、海風のおかげで多少涼しくても温暖な気候、彼の常人より高い体温と彼女の常人より低い体温、それらのせいでセレリアは多幸感の中に暑さによる寝苦しさが湧き上がってしまっていたのだ。

 

(今度、体温調節のアーティファクトをハジメに頼もう……)

 

こればかりは体質の問題なので仕方ないが、今後の為にも早急に対処しなければならない。だから、彼女は後日ハジメにそういった対策ができるアーティファクトを作ってもらおうと決めた。

 

(とにかく、風呂に入って汗を流したい)

 

この暑苦しい室内にいるせいか、目覚めて早々に汗をかき始めてしまっていたので、風呂に向かおうと彼の腕をそっとどけて身を起こしベッドに腰掛ける。

 

「ふふっ、普段は逞しいのに、この寝顔は子供みたいだな」

 

未だ夢の中にいる陽和を見下ろしたセレリアは、彼の寝顔を見ながらくすりと笑うと彼の頭をさっと撫でる。

 

「んっ……うぅ……」

「おっと」

 

眠たげな呻き声が彼の口から出てセレリアはパッと手を離す。すると、呻き声はすぐに収まりもぞもぞと動くだけで、再び穏やかな寝息を立て始めた。

その時、彼の左手の甲に宝玉が浮かび上がり点滅しながら声を発した。

 

『起きたのか、セレリア』

「すまない、起こしてしまったか?」

『いや、構わんさ。気にしなくていい』

「ヘスティアは?」

『まだ寝てる。昨日はお前達がようやく結ばれて酷く興奮していたからな。興奮し疲れたようだ』

「そ、そうか」

 

事情を知っていたはずなのに、それほどまでに嬉しかったのかとセレリアは苦笑いを浮かべる。

 

「私が受け入れられたことが、そんなに嬉しかったのか?」

『そうだな。相棒に恋人がいるのはわかっていたが、それでも背中を預け戦い合う二人を見ていたからこそそうあって欲しいと願っていた』

「彼の世界では恋人は一人という常識があったとしても?」

『あったとしてもだ。お前もわかっていたことだろう?』

「まぁ、確かにな」

 

なにせそれを分かった上で、これまでアプローチし続けたのだからわからないはずがない。

 

『ずっと二人を見てきたからな。相棒に恋人がいるとわかっていても、俺は相棒の次にお前との付き合いが長いからな。仲間としてお前の幸せも願っていたんだ』

「ドライグ……」

『だからこそ、お前が受け入れられたことは俺にとっても嬉しいんだ。種族を超えた愛と絆。まるで昔の解放者達や国の民達を見ているようだったから』

「…………」

 

ドライグは雫よりもセレリアの方が付き合いが長いため、彼女も陽和同様に大切な仲間として信頼している。信頼しているからこそ、幸せになって欲しいと願っておりそれが叶ったことが嬉しかったのだ。

そして、二人の種族を超えた愛はドライグにとって懐かしいものだった。

解放者達の中にも種族を超えて結ばれた者はいたし、かつてのウェルタニアでも異種族で結ばれることは珍しくなかった。だから、今の陽和とセレリアの関係は昔の温かい光景を思い出させてくれていたのもドライグが嬉しいと思った理由だった。

そんな想いを聞いたセレリアは驚いたようにわずかに目を丸くすると、

 

「ふふっ、そうか」

 

嬉しそうに微笑み、左手の宝玉を指先で優しく撫でベッドから立ち上がった。そして、床に落ちていたシャツを手に取って着替え始める。

 

「ドライグ、私は風呂に行ってくる。陽和が起きたら伝えておいてくれないか?」

『ああ、伝えておこう』

「ありがとう」

 

服を着ながらドライグにそう返したセレリアは着替え終わると、扉へと向かう。

多少は寝て汗が引いたとはいえ、一晩中行為に耽っていたのだ。諸々の体液で体はべたべただったため、風呂でさっぱりしたかった。日は昇ってはいるが、それでも宿屋の風呂は空いているだろう。

そう思い、ドアを開けて廊下へと出ると、意外な人物に出会う。

 

「「あ」」

 

廊下に出て遭遇したのは、まさかの雫だった。

鍛錬でもしてきたのだろうか、その手には“薄明”が握られ、髪からは汗が滴り、頬を汗が伝っていた。来ていた服も汗に濡れて肌に張り付く様は艶かしく、そこはかとなく色気を感じさせる。

一目で鍛錬に行っていたのだとわかったセレリアは若干気まずそうに目を泳がせながら雫に挨拶をする。

 

「そ、その、おはよう、雫」

「おはよう、セレリア」

 

セレリアとは反して雫は普段通りの対応だ。

その対応にセレリアは少し内心で戸惑う。

昨夜セレリアは陽和に恋人として受け入れられ、熱い夜を過ごした。

昨夜の時点で雫がそれを事前に了承していたのはこれまでの状況から判断できていたが、それでも夕食を終えてから一度も会っていない。

しかも、今のセレリアの肌にはキスマークがあちこちに浮かんでいる。分かる人には明らかにそういう行為をしたのだと分かるはずだ。

何かしら思うところはあるだろうに、なぜ平然としているのか、その反応に逆にセレリアはなぜか焦ってしまっていたのだ。

そして、次の言葉が出て来ず目を泳がせるセレリアに雫は失笑すると、

 

 

「ねぇ、よかったら、今から一緒にお風呂入らない?」

 

 

そう提案してきた。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

「はぁ〜〜、気持ちいい。やっぱり、鍛錬後のお風呂はいいわね」

「……………」

 

宿屋にある少し大きめの風呂に浸かる雫は両手を伸ばしながら緩んだ声を上げる。その隣に座るセレリアはなんともいえないような表情を浮かべている。

結局、雫の提案を断れず、それどころか『体洗ったほうがスッキリするでしょ』と言われるがままに風呂にまで連れていかれ、体まで洗われてしまった。

それから、雫も体を洗い二人ともに湯船に浸かり今に至る。

ちなみに、エリセンでは一般家庭での風呂は組み上げた海水を真水に変える魔法具のついたシャワーのみがあるのが基本だが、陽和達が宿泊している宿屋はエリセンの中では高級な宿屋に該当している為、5人は入れるであろう湯船がある。

 

(ど、どうして、こんなことになってるんだ?)

 

そんな贅沢な風呂場に連行されたセレリアはこの状況についていけなかった。

いくら親友と認めてくれたとはいえ、昨夜自分の恋人が他の女と寝たのだ。その翌朝に正妻たる彼女が平然と風呂に誘うなんてことがあるだろうか。

多少なりとも思うところはあってもいいはずだ。

雫が寛ぐ傍で、全くのんびりできていないセレリアがそんなことをずっと考えている中、それを横目で見た雫は小さく笑うと自ら話を切り出した。

 

「ふふっ、その反応、やっぱりとまどってるわね」

 

まるで予想通りだったかのように笑う雫にセレリアは意を決して恐る恐ると言った様子で尋ねる。

 

「……その、雫は、よかったのか?」

「何が?」

「私が陽和に受け入れられたことだ。何かしら思うところは、あるんじゃないのか?」

「……………」

 

彼女の問いかけに雫は苦笑いを浮かべると、天井を見上げ少しの沈黙の後答えた。

 

「……そう、ね。まぁ確かに、思うところがないわけじゃないわ。私だってはじめは陽和を独り占めしたかったわよ。そもそも、私の知る恋人の形は一人対一人だったしね」

「だったら、どうして……」

「………絆されたから、かしらね」

「え?」

 

思わずそんな声を漏らしてしまったセレリアに、雫は小さな笑みを浮かべながら天井を見上げ答える。

 

「要するに、私があなたのことを気に入ったからなのよ。それこそ、親友だと認めるぐらいにはね」

「雫……」

「香織達には悪いけど、これまで対等な友達ってのはいなかったのよ。いつも私は誰かを支える役回りをしていたわ」

「ああ、陽和がよく話してたな」

 

地球にいた頃、雫は皆の面倒を甲斐甲斐しく見ていて誰かのフォローをすることが多かったことから、その容姿も相まって『お姉様』や『騎士』、『オカン』と呼ばれることが多かったのは、陽和から聞き及んでいた。

生来の気質から損な役回りをすることが多く、彼女が潰れないように支えるのが自分の役割だと彼はいつも惚気ていた。

 

「だからか何も気にせずに、お互いに本音でぶつかり合えるのってこれまでなかったの」

「香織とはなかったのか?」

 

陽和の次に長い付き合いである親友の香織は本音でぶつかり合ったことはないのかと。そんな疑問に雫は苦笑いを浮かべながら首を横に振った。

 

「香織には悪いけどね。確かに私のことを理解して親友でいてくれたけど、本心をぶつけて大喧嘩なんてことはしたことなかった。対等ではあったけれど、同時に香織は私にとって守る対象でもあったのよ。いつも、暴走しがちな香織をフォローする事ばかりしてたから……」

「ああ、確かに香織は暴走癖があるものなぁ。ああいうのを、猪突猛進というんだったか?前に陽和が言ってたぞ」

「合ってるわよ。でも、香織がいたおかげで、私も気が楽だった部分はあるから、親友だというのはこれからも胸を張って言えるわ。けれど、同時にあの子の突撃した際フォローする保護者でもあったのよ」

 

陽和を除けば身内以外では誰よりも雫を理解して、本当の彼女を受け入れていた香織だったが、生来の突撃癖から雫が何かとフォローに回らなければ取り返しがつかないことが多かった為、親友と同時に保護者であり、守るべき対象とも考えてすらいたのだ。

そうして異世界に召喚され陽和と結ばれ、オルクス大迷宮では天之河に怒りをぶつけた。陽和と結ばれたことで精神的余裕が生まれ、本心を曝け出しつつあった。そして陽和と合流を果たしセレリアやティオと出会った。

勿論、最初こそ印象は良くなかった。

 

「貴女達と会った当初は、正直あまり好きではなかったわ」

「それは当然だ。誰だって恋人に他の女が言い寄ってるとこなど面白くないはずだ」

「そうね。特にこっちの世界では恋人は一人が常識だったから、異世界の常識が少し嫌だったわ。でも、だからといって貴女達を完全に否定することはできなかった」

「それは何故なんだ?あの時は価値観がそうだからと言っていたが……」

 

あの時雫はこちらの世界の価値観を考慮した上に、陽和の優しさに触れれば誰だって惚れると言っていた。だが、今の口ぶりでは本心では違うようにセレリアは感じたのだ。

そして、その疑問は正しかった。

 

「そう、ね。貴女達を許したのは、陽和との間に確かな絆があったからよ」

「絆?」

「ええ。彼は人との繋がりを、縁を大事にする人よ。ハジメや私のこともそうだし、彼はこれまで紡いできた縁を、親しくなった人達のことを本当に大切にしているの。それは心当たりあるでしょ?」

「……ああ、確かにそうだな」

 

彼が縁を大事にしているのはセレリアも気づいていた。解放者のこともそうだし、自分が抱える兄との確執、ティオ達竜人族についても、彼は英雄として、帝王として全て背負ってくれている。

それだけじゃない。ハウリア族のことだって、10日間という短い間でしか付き合いがないのに、身内と定めて守っていた。弱者だったが故に、強さに溺れ堕ちかけていた彼らを慰め鼓舞していた。

ホルアド、フェアベルゲン、ブルック、ウル、フューレン、アンカジ、エリセン、彼がこれまでの旅路で訪れた場所の全てで彼は様々な繋がりを得ている。エリセンに関して言えば、ハジメとミュウの関係性があるからこそだが、それでも彼もレミアとは親しくなっている。

 

「彼は『繋がり』を大切にするのよ。それは四人兄弟の長男だったり、伝統を受け継ぐ家柄だったりと色々な要因があって、それらの経験を経たからこそ、彼は人の心を想いやれる優しさがあり、繋がりを、縁や絆というものを大事にしている。私もそんな彼の優しさに救われたから、彼が紡いできた縁を大事にしたいと思ったのよ」

「……だから、私達のことも無碍にはしなかったのか……」

「そうね。貴女達も陽和が紡いできた縁で『大切な仲間』だもの。それに、陽和が貴女達のことを信頼しているのは分かってたから、二人を拒絶して彼を悲しませたくなかったのよ。貴女達も心の底から彼を信頼しているのは、会話からわかったしね」

「……………そう、だったんだな」

 

自分達を拒絶することは、彼が紡いだ縁を否定することになる。それは彼と共にありたいという願いと矛盾してしまう。

だからこそ、雫は彼のことを想い二人を受け入れた。しかし、それはそう簡単にできるものではないはずだ。いくら信頼関係を築けているとはいえ、恋人の立場を脅かす存在など嫌悪するはずだ。だが、彼女はそれを選ばなかった。

それはなぜか。

 

(自分が一番だという自信と陽和への信頼、か……)

 

彼の最愛という絶対の自信と彼への不変の信頼があったからだ。

彼に愛され支えられ、彼を愛し信じているからこそ、彼女は二人のことを認めたのだと分かった。

そして、関わるようになっていきお互いの人柄を知るようになって雫はセレリアを親友と認めるようになったのだ。

 

「そうして貴女達と接していくうちに、貴女達の人柄が分かってきて、それで漸く気づいたわ。私は、私が思っていた以上に、貴女を気に入っていたことに。それこそ言い方はあれだけど、陽和のことをシェアしてもいいぐらいにはね」

「そう、なのか?」

 

水面に映る自分の顔を見下ろしていた雫は穏やかな微笑みを浮かべると、顔を上げてセレリアへと視線を向けながら気恥ずかしそうに呟く。

 

「それにね、その、貴女が初めてなのよ。本音でぶつかって大喧嘩できるような対等な相手は」

「私が、か?」

「………今まで、本当の意味で私自身を曝け出せる相手は陽和以外にいなかった。香織にも、ましてや家族にすらも私はずっと隠してきた。異性では陽和が、そして同性では貴女に初めて本音をぶつけられたの」

 

だからね、と雫は真っ直ぐに彼女の琥珀色の瞳を見ながら、満面の笑みで今の自分の気持ちを伝えた。

 

「貴女に出会えて本当によかったわ。私がいない時、ずっと陽和を支えてくれてたこともそう。貴女がいたから、私は彼と再会できた。貴女は私の大切な仲間で、頼もしい親友で、競い甲斐のある好敵手よ。だからこそ、陽和が貴女を愛することを認めたの」

 

仲間であり、親友であり、好敵手。

これまで雫の人生においてそれらを兼ね備えた存在はいなかった。だから、セレリアとの交流は雫にとっては何もかもが新鮮だった。

楽しかったのだ。彼女との交流は。親友である香織とのこれまでと同じぐらいに、セレリアとの関わりはまさに親友と評すべきほどだった。

恋人たる陽和をこれまで支えてくれたことに感謝しているし、彼女の人柄も気に入っている。

そして、そのきっかけとなったのが。

 

「あの時、ホルアドで私が恋人の座をかけて争うつもりかって聞いたのは覚えてる?」

「ああ、覚えてるぞ」

「あの時、貴女達は私と陽和の絆を優先してくれた。私との縁を大切にするといってくれた。陽和が絆や縁を大事にすると理解していて、あなた達は彼の意志を尊重しようとしてくれているのが分かったわ。そうして貴女を知っていって、親友だと思えるようになった。だから、断る理由なんてないわ」

 

ホルアドでの問いかけに、二人は真剣に答えてくれた。その回答こそが雫が二人を認めるきっかけとなったのだ。

陽和の想いを理解し寄り添ってくれていたからこそ、雫が本音をぶつけられるほどの仲になったからこそ、彼女ならばこの先の未来を陽和と共に生きてみてもいいと思ったのだ。

だからこそ、セレリアが陽和の伴侶になることを許した。それに、陽和がセレリアをただの仲間以上に大切に想っているのは、彼をよく知っているからこそ容易に理解できた。

 

だから、昨日陽和の問いかけに何も聞かずに即答したのだ。自分も受け入れ、彼も彼女のことを想っていたから。

彼女のことは気に入っていたから、相談しなくても許すつもりだった。

でも、彼は誠実で優しい人だから、勝手に告白はせずに自分に確認をとってくれた。その誠実さに彼女はますます嬉しくなって、最後の一押しをしてあげたのだ。

雫の中ではセレリアに対する不満なんて欠片もなく、朝顔を合わせた時には祝福の気持ちすらあったぐらいだ。

雫は体を動かしてセレリアと腕が当たるほど距離を詰めると、彼女の右手に自分の左手を重ね優しく握る。

 

「改めて、これからよろしくねセレリア。私とあなた、二人で陽和を支えて、皆で幸せな未来を掴みましょう」

 

お互い彼に受け入れられた番いとして。

この先の未来を共にする伴侶として。

これからの未来を共に歩もうという彼女の言葉にセレリアは一瞬驚きに目を大きく見開くも、すぐに嬉しそうに目を細めながら、重ねられた手を優しく握り返した。

 

「ああ、共に生きよう。そして、こんな私を受け入れてくれて、本当にありがとう。これからもよろしく頼む」

「ええ」

 

それはまさしく約束であり、誓いであった。

同じ人を好きになって受け入れられた女同士。これからは、誰よりも優しい英雄を支え、その隣をどこまでも歩くという宣言だ。

二人の間にも陽和と同じように確かな絆があり、この日彼女達の関係は一段特別なものへと昇華した。

そうしてセレリアと言葉を交わした雫は不意にニヤリと笑みを浮かべると話題を変えた。

 

「それで、陽和との『夜』はどうだった?」

「えっ?」

 

予想外の話題にセレリアは目を丸くし固まる。

やがて言葉の意味を理解した瞬間、これでもかと顔を赤くした。

 

「な、なんで今そんな話になるっ!?」

「あらいいじゃない。私達の仲でしょ。まぁ、貴女の身体を見ればどれだけ愛されてたかはわかるけどね」

「んなぁっ!?」

 

セレリアは悲鳴じみた声を上げながら己の肢体を腕で隠そうとする。しかし、彼女の鍛え抜かれたプロポーションは抜群で出るところは出ている為、全く隠せておらず、昨夜陽和に愛された証拠が褐色の肌の上に多数見受けられた。

 

「見た限り、私の時と同じくらいあるわね。だとしたら、やっぱり激しかったのかしら」

「そ、それは……その、確かにそうだが……って、ここは風呂場だぞっ⁉︎他の人に聞かれたらっ」

「大丈夫よ。今の時間は私達が貸切にしてるじゃない。他の人に聞かれることはないわ」

「そ、そうだが……うぅ」

 

確かに今の時間は事前に1時間ほどで風呂を予約していたから、浴場にいるのは二人だけだ。

とはいえ、こんな場所で『夜』の話をするとは思わず、セレリアは逆上せたと錯覚するほど顔を真っ赤にしている。

雫は揶揄い甲斐のあるおもちゃを見つけたような満面の笑みでさらに詰め寄る。

 

「恥ずかしがらなくていいじゃない。お互いもう陽和に抱かれたんだし、抱かれた者同士、裸の付き合いで話しましょうよ」

「貴様、そんなキャラだったかっ⁉︎」

 

抱かれた対象が同じ人とはいえ、遠慮なく踏み込んでくる雫の普段とのギャップにセレリアは思わず驚愕の声を上げた。

恐らくは、仲間かつ親友かつ好敵手なんてのを兼ね備える友達ができたから、舞い上がっているのではないかと思う。

事実、その通りで香織の保護者で気遣うことが多かった雫にとって何の気兼ねなく本心で語り合える同性の友達はセレリアが初めてで、しかも同じ男性に受け入れられたという共通点があるから、ちょっと有頂天になっているのだ。

 

 

そして、二人だけの『夜』のお話、もとい雫の一方的な尋問は戻りが遅いからと様子を見にきたティオが浴場にくるまで続いた。

尚、二人とも話に夢中になりすぎて逆上せかけてしまい、ティオに呆れられたりしたりする。

 

 

「あ、主殿、雫とセレリアなんじゃが、何があったのかわからんが風呂で逆上せかけたらしくての、脱衣所で涼んでおるぞ」

「は?逆上せかけた?大丈夫なのか?」

「うむ、倒れたというわけではないからの」

「そりゃなによりだ」

「何を話してたのか知らんが、どうも盛り上がったらしい。長いこと話しておったそうじゃ」

「何を話してたんだか」

「さぁの」

 

 

目覚めて早々、部屋に来たティオからそう伝えられた陽和は、ティオと共に首を傾げるほかなかった。

 

 

▼△▼△▼△

 

時は過ぎ、エリセン攻略から六日が経過しており、レミアの家に世話になっているハジメは桟橋に腰掛けて“錬成”で色々と装備を作っていた。

しかし、作業をするハジメの表情は憂鬱そうだ。事実、彼はエリセンに戻ってからずっととある問題で頭を悩ませている。

その問題というのも、

 

「……はぁ、ミュウになんて言うべきか……泣かれるか。泣かれるよなぁ」

 

憂鬱は呟きの中に出てきたミュウの名。

ミュウこそハジメが頭を悩ませている原因だったのだ。

ミュウをこの先の旅に連れて行くことはできない。旅が終わったのならまだしも、まだ大迷宮は三つ残っている。攻略の為にも次の大迷宮に向かわなければならず、四歳の無力な子供を連れて行くことなど以ての外だ。ハルツィナ樹海の大迷宮ならばフェアベルゲンで預けるなりできるだろう。しかし、シュネー雪原の奥にある氷結洞窟と神山はどちらも敵の懐だ。そこに潜り込まなければ行かず、ミュウを連れては到底無理だ。

その為、ここでお別れをしなければならないのだが、ミュウもそれを察してしまったらしく、ハジメ達がその話題を出そうとすると、決まって超甘えん坊モードになり無言の懇願を以って言い出させないようにしていたのだ。

結局、話を切り出せず神代魔法の鍛錬、装備の新調などあれこれ言い訳をしてズルズルと今日まで引き延ばしてしまったのである。

 

「………恨むぞぉ、先生、陽和」

 

内心複雑な想いをい抱くハジメはこうさせた元凶に思わず恨み言を告げる。

かつてはこの世界の全てがどうでもいいとすら思っていた。だが、他者を思いやれる二人の存在によって、その考えができなくなっていた。

しかし、それは悪いことではない。むしろ、良いことだ。現に彼の視線の先でユエ、シア、香織、ティオ、セレリアと水中鬼ごっこをして戯れているミュウの溢れる笑顔を見ているハジメの表情はとても優しげで笑みが浮かんでいた。

 

これまでの道程でどれか一つでも選択肢が違えば、彼女達が今のような笑顔であることはなかっただろう。

もし、切り捨てる選択肢をしていればユエ達は不幸だと感じるわけでも笑顔がなくなるわけではないかもしれないが、それでも今浮かべているそれとは比較にならないのではないだろうか。そして、親友にして兄貴分である彼は、最悪見限るかもしれない。

殴られ絶交されるかもしれない。それほどまでに、助けられる子供を見捨てたという選択は、大きい影響を及ぼすだろう。

だが、現実はそうはなっていない。

それは、ハジメが大切に思う者達の中に彼の存在があり、彼を悲しませたくはないという思いがあったからだ。彼はハジメの人生で数少ない恩人であり、親しく思う兄であり、最高の親友なのだから。

 

海人族の特性を十全に発揮して、チートの権化達から華麗に逃げ回る変則的な鬼ごっこ(ミュウ以外全員鬼役)を全力で楽しんでいるミュウを見ながら、再び、溜息を吐くハジメ。

そんな彼に声をかける者がいた。

 

『難しい顔してるなぁ、ハジメ』

 

振り返り、声の先を見ればそこにいたのは、海パン+パーカー姿の陽和と彼に付き従うように斜め後方を歩く雫だった。

普段とは違い口と鼻を隠す日本での一般的な形状のマスク(といっても金属製かつ色は深い赤とゲームキャラがつけるようなタイプのマスクだが)を装着している為目元がよくわかり明らかにこの状況を楽しんでいる。

雫もどことなく悩んでいる彼の姿を好ましく思っているのか陽和が浮かべているであろう笑みと同種の笑みを浮かべていた。二人の姿を見たハジメは露骨にため息をつく。

 

「でやがったな、ハーレム野郎とその正妻め」

『はっはは、知ってる』

「ふふっ」

 

ここまで悩ませてくれてるお礼に嫌味たっぷりの皮肉を言ったつもりなのだが、二人には全く通用せずただただ笑って返されてしまった。

この男、セレリアをようやく受け入れ晴れてハーレム野郎へとなったのだ。当然、翌日には陽和がセレリアを受け入れたことは誰の目からも明らかであり、女性陣からは翌朝の昼食時に祝福の言葉が贈られた。

ハジメも親友のめでたい事だから当然祝福の言葉を送ったが、陽和が二人目を受け入れた前例ができた為、シアと香織の視線が痛くて内心複雑な想いだった。

 

「買い出しは終わったのか?」

『ああ、粗方な。このまま海に入ろうかと思っていたが、お前が悩んでるだろうと思って様子を見に来た。案の定だったな』

「…………」

 

こちらの内心を見透かしたような問いかけにハジメは気まずそうに目を逸らす。しかし、彼のことをよく知る兄貴分にはそんな誤魔化しなど通用しなかった。

陽和は仮面の下で小さく笑うとミュウへと視線を転じながら言葉を紡ぐ。

 

『別にそう難しく悩まなくてもいいだろう。あの子も旅がまだ終わってないことは理解しているはずだ。それでも離れたくないからあんなふうに甘えてるんだよ。子供のよくある愛情表現だ』

「……けどよ……」

『確かにここでお別れしたら、しばらくは会えなくなるだろうな。けど、ミュウとはこれから一生会わないわけじゃないんだろう?なんせ、お前はあの子のパパなんだからな。違うか?』

「…………それは」

 

ハジメは言葉に詰まってしまう。

陽和の言い分は正しい。ミュウとは今後2度と会わないというわけではないのだ。旅を再開すればしばらくは会えなくなる。しかし、旅を終えた後なら話は別だ。

 

『やれやれ』

「ちょっ、おまっ、なにすんだっ」

 

言葉に詰まるハジメを見て安堵したかのように笑った陽和はわしゃわしゃとハジメの髪を撫でる。まさしく兄が弟にするような手つきで。

ひとしきり撫でた後、抗議するような目つきで見上げるハジメに陽和はひどく優しげな表情を浮かべた。

 

『旅が終わればまた会いに行けばいい。どうしようもない状況だったとしても俺が協力するさ。だから、今夜あたりにでもちゃんとお別れしてこい。勿論、再会の約束を込みでな』

「ハジメ、ミュウちゃんのことで悩めているのはいい傾向だと思うわ。でも、思い詰めるのも駄目よ。子供はそういうのちゃんと見てるんだから」

「お前ら……」

 

陽和と雫。仲間内の中でもしっかりした二人からの助言にハジメは少し考え込む。陽和達はそんな彼の様子に顔を合わせて笑みを浮かべると彼に背を向けた。

 

『じゃあ、俺らはそろそろ海に行くわ。あとは、レミアさんに任せる』

「そうね。ミュウちゃんのお母さんも話したいことがあるみたいだしね」

「レミア?」

 

何故ここでレミアの名前が出てきたのかとハジメが疑問に思った瞬間、ハジメが桟橋から投げ出している両足の間から人影がざばっと音を立てて現れた。

海中なら水を滴らせて現れたなら、二人が名を上げたレミアだった。

レミアは、エメラルドグリーンの長い髪を背中で一本の緩い三つ編みにしており、ライトグリーンの結構際どいビキニを身に付けている。ミュウと再会した当初は、相当やつれていたのだが、現在は、再生魔法という反則級の回復効果により以前の健康体を完全に取り戻しており、一児の母とは思えない、いや、そうであるが故の色気を纏っている。

町の男連中が、こぞって彼女の再婚相手を狙っていたり、母子セットで妙なファンクラブがあるのも頷けるくらいの、おっとり系美人だ。ティオとタメを張るほど見事なスタイルを誇っており、体の表面を流れる水滴が実に艶かしい。そんなタダでさえ魅力的なレミアが、いきなり自分の股の間に出てきたのだ。

ミュウのことで頭を悩ますハジメは、うっかり不意をつかれてしまった。レミアは、ハジメの膝に手を掛けて体を支えると、かなり位置的に危ない場所からハジメを見上げている。しかし、その位置や色気に反して彼女の表情はむしろ優しげで、ハジメを気遣っているようにも感じた。

 

「あら、皆さんお話の途中でしたか?」

『いえ、こっちは話したいことは終えたんであとはどうぞ』

「ええ、分かりましたわ」

『じゃあ、あとはお二人で仲良く。夕食時にまた』

「レミアさん、また後で」

「はい」

 

そうしてハジメが介入する間もなく、あっという間にハジメ達から離れた二人は宿へと歩く中、雫が陽和の顔を覗き込みながら尋ねた。

 

「もっと言わなくてよかったの?」

『いいんだよ。今回ばかりは俺の助言じゃなくて、レミアさんの方が適任だ。あの子のことなら母親が一番わかってるんだからな』

「……確かにそうね」

 

今回ハジメがミュウのことで悩んでいるのは手に取るようにわかった。ユエ達もそれぞれ考えているが、最終的にはハジメの決断に委ねることになる。

そして、大抵ハジメが悩んでいる時は陽和やユエが背中を押すことになるのだが、今回ばかりはミュウの母親であるレミアの方が適任だ。

だから、今回は軽い助言だけして、最後の一押しをレミアに任せることにしたのだ。

 

『まぁ、本当にいい傾向だ。ミュウだけじゃなく、ハジメにとってもな。お互いにいい影響を与えてる』

「そうね。それははたから見てもそう思えるわ」

 

陽和は心底嬉しそうに笑う。

ハジメとミュウは本当にいい出会いをした。

切欠はシアが助けたいと思ったからだが、それでもそのあと親子の関係を築いたのは二人だ。

ミュウはハジメをパパと慕い、ハジメはミュウを娘として大切にしている。本人は未だ否定しているようだが、外野から見れば二人の距離は親子のそれだ。

だから、二人の出会いはミュウだけでなくハジメにもいい影響を与えているのだと陽和は思っている。

しかも、愛子のあの説得の後だ。なおのこと、ハジメにはいい影響になったことだろう。

 

「きっとハジメはミュウちゃんの想いを無碍にしないでしょうね。あなたはどうするの?」

『無論、全てを終わらせてまた会いに来るだけだ。余裕がなければ世界を超えて、余裕があれば帰る前にな。そんで、いつか牡丹達に会わせたい。きっと仲良くできるだろうからな』

 

陽和はハジメが悩んでいる一方で既に決めていた。

全てが終わった時、改めてミュウに会いに行くことを。そして、世界を超えて自分の妹達に会わせると。

 

『エヒトを倒した後も俺達の人生は続く。時間は沢山ある。それなら異世界で出会った人達に家族を紹介するのもありだと思ったんだ』

「……ええ、そうね。私も、リリィやニアに家族を紹介したいわね」

『だろ?』

 

異世界人との交流。そんな夢のある話に家族と友人が親しく話しているのを想像し、雫は表情を綻ばせる。

そして、雫には、そもそもハジメ達仲間にも明かしていないことがある。

 

(それに、世界を超える方法なら既にあるしな)

 

世界を変える方法を陽和は既に知っているということだ。それは、ミレディとの会話やドライグの記憶などからその存在を知り、今はそれを明かすときではないと判断したからこそ仲間達にはまだ明かしていない。

 

(次の予定では樹海の大迷宮だったな。確かそこにアレがあるんだったか?ドライグ)

『そうだな。樹海の迷宮を攻略した褒美としてアレはあるはずだ』

『未だ壊れてないなら、問題なく機能するだろうね』

(それは大丈夫だろう。長いこと使わなかったから壊れるなんて安い代物じゃないしな)

 

記憶が正しければ、世界を超える方法のヒントは樹海の大迷宮にあるはずだ。予定では次に挑む大迷宮はハルツィナ樹海の大迷宮だ。

そして、そこの攻略報酬として神代魔法の一つ“昇華魔法”とその他にいくつかあり、その中に目的のものはある。

ソレの存在を知れば、地球組はさぞ喜ぶことだろう。仲間達の反応を想像しほくそ笑みながら、陽和はハジメとレミアを一瞥した後話題を変える。

 

『ま、ハジメもこれ以上引き伸ばすことはしないだろう。今夜あたりにお別れを言うだろうから、俺達は気軽に眺めてればいい』

「ふふっ、そうね。気長に見守らせてもらうわ」

 

既に決心を固めているため、呑気にハジメ達のやり取りを見物しようと決めた二人は、一度宿に戻るとサーフボードを借りて少し沖合の方でサーフィンに興じた。

そして、サーフィンを楽しみ戻ってきた陽和達の耳に『白髪眼帯の少年に気をつけろ。やつの好物は脱ぎたての水着。頭から被ることに至上の喜びを見出す変態だ』という噂を聞いて『俺がいない間に何があった』と頭を抱えつつ、事情聴取兼説教の為にハジメを正座させたのは余談だ。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

その日の晩、夕食前に夕食前に陽和達はミュウにお別れを告げた。勿論、ハジメもだ。

それを聞いたミュウは着ているワンピースの裾を両手でギュッと握りしめ、懸命に泣くのを堪えていた。しばらく沈黙が続く中、ミュウが沈黙を破った。

 

「………もう、会えないの?」

「…………」

「……パパは、ずっとミュウのパパでいてくれる?」

 

答えに窮する質問に、ハジメは答えられない。

どう答えるべきかを悩んでいたが、ミュウがその答えを聞く前に言葉を重ねた。

悩んでいたハジメは、ミュウの両肩をしっかりと掴むと真っ直ぐに視線を合わせ答えた。

 

「……ミュウが、それを望むなら」

 

そう答えると、ミュウは涙を堪えて食いしばっていた口元を緩めてニッと笑みを作った。その表情は、困難な戦いに挑むときのハジメのソレによく似ていて、陽和達は本当の親子のように見えていた。

 

「なら、いってらっしゃいするの。それで、今度は、ミュウがパパを迎えに行くの」

「迎えに……ミュウ。俺は、凄く遠いところに行くつもりなんだ。だから……」

「でも、パパが行けるなら、ミュウも行けるの。だって……ミュウはパパの娘だから」

(本当に強い子だな)

 

ミュウの宣言に陽和は思わず感心に目を見張った。

ハジメの故郷がこの世界ではない別の世界であることを理解しているわけでもないのに、ハジメの元へ向かうという力強い宣言。

幼児ゆえの稚拙な空想だと笑えるだろうか。

馬鹿馬鹿しい蛮勇だと切り捨てられるだろうか。

父への再会を決意した娘の覚悟は、何人たりとも汚してはならないのだ。まだまだ幼いはずなのに、そう思わせるほどの決意を示す彼女の強さを、陽和は純粋に強いと思った。

改めて思った。やはり、この出会いは互いにいい影響があったと。ミュウは短い間ながらも自分達の背を見て成長したと実感でき、ハジメも彼女の宣言に真剣に向き合おうとしているのがわかったから。そして、その気づきを肯定するかのようにハジメは一つ約束を決断した。

 

「ミュウ、待っていてくれ。全部終わらせたら、必ず、ミュウのところに戻ってくる。みんなを連れて、ミュウに会いにくる」

「……ほんとう?」

「ああ、本当だ。俺がミュウに嘘ついたことあったか?」

 

ハジメの言葉にミュウはふるふると首を振る。

ハジメは、そんなミュウの髪を優しく撫でながら穏やかな笑みを浮かべた。

 

「戻ってきたら、今度は、ミュウも連れて行ってやる。それで、俺達の故郷、生まれたところを見せてやるよ。きっと、びっくりするぞ。俺達の故郷はびっくり箱みたいな場所だからな」

「!パパ達の生まれたところ? みたいの!」

「楽しみか?」

「すっごく!」

 

ピョンピョンと飛び跳ね全身で喜びを表現するミュウに、ハジメは愛おしそうに目を細める。不安が払拭され、満面の笑みを浮かべるミュウは、飛び跳ねる勢いそのままにハジメに飛びつく。しっかりと抱き止めたハジメは、そのままミュウを抱っこした。

 

「なら、いい子でママと待っていろよ? 危ないことはするな。ママの言うことをよく聞いて、お手伝いを頑張るんだぞ?」

「はいなの!」

 

ハジメは、そんな二人のやり取りを微笑みながら見つめていたレミアに視線で謝罪する。「勝手に決めて済まない」と。

それに対し、レミアはゆっくり首を振ると、しっかりハジメと視線を合わせて頷いた。「気にしないで下さい」と。その暖かな眼差しには、責めるような色は微塵もなく、むしろ感謝の念が含まれていた。

そんなパパとママのアイコンタクトに気がついたのか、ミュウがハジメとレミアを交互に見つつ、ハジメの服をクイクイと引っ張った。

 

「パパ、ママも?ママも一緒?」

「あ~、それは……レミア?」

「はい、何ですか、あなた?もちろん、私だけ仲間はずれなんて言いませんよね?」

「いや、それはそうだが……マジ、こことは〝別世界〟だぞ?」

「あらあら。娘と旦那様が行く場所に、付いていかないわけないじゃないですか。うふふ」

 

娘を抱っこするハジメと、それに寄り添うレミアの図。まさしく夫婦だった。香織達が、「させるかぁー!」と言わんばかりに割り込んでお馴染みの喧騒が広がる。最初のしんみりした空気は彼方に飛んでいき、香織達とレミアが笑顔の戦争を繰り広げ、雫達が呆れた様子で眺める中、いつの間にか蚊帳の外に置かれたハジメに、ユエと陽和が歩み寄る。

 

「……連れて行くの?」

「反対か?」

「まさか」

 

ユエの質問にハジメがそう返すと、ユエは首を振り陽和が笑みを浮かべそう返した。

 

「……それが、ハジメの決めたことなら、私は異論はない」

「俺もだ。お前が決めたんなら、俺はそれをフォローするだけだ」

「ああ。どんなことが起きようともどうとでもするつもりだが、確実に二人の協力が必要になる。だから、その時が来たら力を貸してくれ」

 

ミュウとの再会を諦めるという選択肢は既にない。

たとえミュウを置いて世界を越えようとも、またこの世界に来ればいい。何度でもだ。

娘が世界を超えてでも自分に会いに行くと宣言したのだ。それならば、父親が娘にできることをできないなど面目丸潰れだ。

しかし、一人で全部どうにかできるとは限らない。特に魔法関係においては二人の助力が確実に必要になってくる。だからこそ助力を求めたのだ。

それに対し、二人の回答は既に決まっていた。

 

「「勿論」」

 

答えは是だ。

片や恋人であり、片や親友だ。大事に思うものから頼られたのならば、それに応えたいのが彼らの性だ。ハジメが二人を『特別』と認識し、大事にしているように二人にとってもハジメは大事な存在なのだから。

三人はわかり合った笑みを浮かべる。その通じ合った様子に、雫達は穏やかな表情を浮かべる。

娘たるミュウは、3人の距離感を羨ましいと思ったのか、堂々と間に割って入り、ハジメパパに抱っこを要求した。

どうやら再会の約束をしたとは言え、寂しいものは寂しいらしく今夜は目一杯甘える事にしたようだ。

 

 

 

その翌日、陽和達はミュウとレミアに見送られ、海上の町エリセンを旅立った。

 

 





雫、ハーレムメンバーにセレリアが加わり、かつ彼女が本音で喧嘩できる親友となったことでウキウキルンルンになってますね。
夜の話を根掘り葉掘り聞こうとするなんて、原作でもそうそうないことでしょう。

今後が楽しみですね。
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