最近、寒いのか暑いのかよく分からん‼︎‼︎
おかげで先週一週間丸々感染症で寝込んだわ‼︎‼︎
まじでみなさん体調管理しっかりしてください‼︎‼︎
生活習慣乱れて免疫力落ちると、私のように寝込むことになります‼︎‼︎‼︎
ほんと気をつけてください‼︎‼︎‼︎‼︎
では、最新話どうぞ‼︎‼︎
それに真っ先に気がついたのは陽和だった。
「ん?……あれは、襲われてるのか?」
例の如くハジメとユエのイチャつきに香織が乱入して威嚇し合うのを、陽和達がいつもの光景かと半ば仲裁を放棄しながら眺めた時、外の景色を眺めていた陽和がそれに気づいた。
全員がその言葉に前方に視線を向けると、彼の言う通りどこかの隊商が襲われているようで、相対する二組の集団が激しい攻防を繰り返していた。
近づくにつれ、耳がいい組には人々の怒号と悲鳴が聞こえ、ハジメの遠見にもはっきりと事態の詳細が見て取れた。
「相手は賊みたいだな。小汚い格好した男が……約40人。対して隊商の護衛は16人ってところか。あの戦力差で拮抗しているのがすげぇな」
「………ん。あの結界は中々悪くない」
「ああ。結界師の天職を持っているかもしれないな」
「さながら城壁のようじゃな。あれを崩さんと本丸の対象に接近できん。結界越しに魔法を撃たれては、賊もたまらんじゃろう」
「でも、一向に引く気配がありませんよ?」
「それはまぁ、長くは持たないでしょうからね。時間はかかるかもしれないけど、待っていれば勝手に解けるわ。ねぇ、陽和……陽和?」
最初に奇襲でもされたのだろう。重傷を負って蹲るものが数人、すでに賊にやられたようで血の海に沈んでいるものも数人いる。
辛うじて強固な結界で持ち堪えているが、ソレも時間の問題だ。ただでさえ人数差がある状況で護衛は更に数を減らしており、冒険者らしき女性などは既に裸にむかれて結界内にいる仲間の冒険者に見せつけるようにして晒し者にされていたのだ。胸糞の悪い光景に雫が顔を顰めながら陽和にどうするか尋ねようとした時、ようやく陽和の様子に気づく。
「………っ」
彼は目を大きく見開き、焦燥と動揺に満ちた表情を浮かべている。ただならぬ様子に雫が尋ねようとしたが、次の瞬間には扉を開けて外に飛び出してしまっていた。
「陽和っ⁉︎」
「“
外に出た瞬間に四肢に紅緋色の炎雷を纏った彼は着地の瞬間に地面を爆砕し、雫が引き止めるまもなく一筋の流星となり隊商めがけて飛び出して行った。
「ハジメっ、陽和を追いかけてっ!!」
「わかってる!!急になんだってんだっ!!」
陽和の突然の奇行にハジメが悪態をつきながらも、雫の言葉に応えブリーゼを加速させる。セレリア達も何事かと驚く中、香織が運転席に身を乗り出しながら焦燥を滲ませた声音を上げた。
「ハジメくん、急いで!もしかしたら、あそこに……」
「香織、あそこに誰か知り合いでもいるのか?」
ハジメは陽和が大慌てで向かい、香織が必死に頼み込むほどの事態にそう尋ねる。明らかにただ事ではない。
どう考えてもあそこに知り合いがおり、命の危機に飛び出したと考えるのが妥当だと考えたのだ。
そんな彼の問いかけに香織は頷き肯定する。
「うん。私の見間違いじゃなければ、あそこには……」
彼女の口から出た人物の名は———
▼△▼△▼△
ブリーゼから飛び出した陽和は炎雷の爆破加速に加え、風属性魔法、重力魔法をも駆使して更に加速しながら隊商目掛け駆ける。
『相棒!何を見たんだ!?』
『マスター!急に車から飛び出すのは危ないよ!?』
「後にしろ!!」
ただならぬ様子にドライグが思わずそう問いかけ、ヘスティアが反射的に常識を説く。だが、そんな二人の問いかけを一喝した陽和は、竜聖剣を鞘から抜き炎雷を迸らせる。
彼がここまで焦燥を露わにするにはそれ相応の理由がある。
それは見たからだ。護衛の中で賊を相手に誰よりも果敢に闘うあそこにいるはずのない
「死なせてたまるかっ‼︎」
彼女を死なせるものかと意志を強固に彼はさらなる加速を行う。この速度ならば到達に5秒もかからない。
『“紅天の竜星群”』
最後尾にいる賊達が目前となったところで、陽和は自身の周囲に紅蓮の星々を生み出して地面に亀裂を生じさせるほどに深く踏み込む。そして、たった今体勢を崩した金髪の彼女へと剣を振り下ろそうとしている賊のリーダーらしき人物に狙いを定め、一際大きい衝撃音と共に賊達を後方から急襲した。
『爆ぜろっ‼︎‼︎』
怒号をあげすれ違う賊達を爆砕し爆音を絶え間なく鳴らしながら、爆炎の花道を築きあげる。殆どの賊が紅緋に彩られた視界が死に際の光景であり、狙いを定められたリーダーが、漸く爆音に何事かと振り向いた時には既に紅蓮の刃が眼前に迫っていて何かを理解するまもなく、真っ二つに斬り裂かれた。
「え……?」
急に視界で炎雷が迸ったかと思えば、目の前で賊が真っ二つになった光景に金髪の女性は目を丸くする。他の者達も同様でいきなりの爆殺劇に唖然茫然としている。
「もう大丈夫だ。あとは俺がやる」
「っっ、はる…」
そんな彼らを尻目に、陽和は自身が助けた金髪の女性に一瞬視線を向けてそう短く告げる。女性は変声機能を切った彼の肉声に驚愕し何かを言おうとしていたが、陽和は彼女から視線を外して残りの賊達の鏖殺を行う。
紅蓮の星々を操作して賊達に容赦なく叩きつける。ガトリングが如き速度で放たれた紅蓮の流星群は賊達だけでなくその下の地面すらもを爆砕し、わずか数秒にして四十人以上いた賊は6割が爆散した。
突如現れた仮面の人物が、あっという間に半数以上絶命させたことに賊達が漸く自分達が襲われているのだと理解し迎撃するもの、逃亡するものなど様々だったが全員関係なく無慈悲に爆殺、あるいは斬殺される。
紅蓮の炎雷が血飛沫を上げながら賊達を爆散させ、斬り裂く光景に、救われているはずの護衛達は背筋が粟立つような恐怖に襲われる。しかし、ただ一人、助けられた女性だけは違った。
「……よかった……ご無事、だったのですね」
護衛として必死に戦っていたからか、その身にいくつもの生傷を作っていた彼女は、安堵からか心底ホッとした様子でペタンとその場に座り込んでしまう。
その表情は歓喜に満ちており、瞳は涙で潤んでいる。
彼女は声を聞いて彼が誰なのかすぐに気づいたのだ。
忘れるはずもなければ、気づかないはずがない。
髪や瞳の色が違うからなんだ?仮面を被っているからどうした?そんなことで、忠義を捧げた主人の声を聞き間違えるはずもない。だから、彼女は歓喜のままに彼の名を小さく呼んだ。
「……陽和様」
彼女が陽和の名を小さく呼んで程なくして、最後に残った賊数名が切り裂かれ、地面に崩れ落ちた。命乞いする暇もなく、容赦のない無慈悲な殺戮劇だ。
ソレを成した陽和は仮面についた返り血を拭いながら、助けた女性の元に駆け寄ると、仮面の下で笑みを浮かべながら彼女の名を呼ぶ。
『久しぶりだな。レイカ』
「〜〜っっ」
レイカと呼ばれた女性はついに堪えきれずに涙を流してしまう。
そう、陽和が助けた金髪翠眼の女性は、陽和の異世界で最初にできた友人して、彼に忠義を尽くすメイド。レイカ・フォーレイアその人だったのだ。
陽和は戦う護衛達の中に彼女の姿を見つけたから、思わず飛び出したのだ。駆け寄った陽和は竜聖剣を鞘にしまうと座り込む彼女の傍で片膝をつく。
『遠くからお前が戦う姿が見えたからな。思わず飛び出しちまった』
「はる、と様っ、ありがとうございますっ。貴方が助けて下さなければ、私はっ」
『ああもう泣くな泣くな。とにかくお前が無事でよかったよ』
「はいっ」
『積もる話もあるが、とにかく、すぐに傷を癒そう。じっとしてろ』
嬉しさのあまり泣き出すレイカの頭を優しく撫でながら、陽和は右腕を掲げて“ディア・エイル”と、欠損してしまった者のために“絶象”を併用しレイカを含めた傷ついた冒険者の人達や隊商の人々全員を治癒していく。
レイカは全身の生傷を瞬く間に癒す回復魔法に、泣きながらも嬉しそうに笑う。
「……陽和様、重ね重ねありがとうございます」
『全員酷い怪我だったからな。とはいえ、既に亡くなってるものは助けられないが……』
再生魔法はあくまで復元であり、蘇生できる魔法ではないため、既に事切れているものは助けることはできなかった。
「はる…」
「レイカー!」
助けられた者達のことを思い目を伏せる彼に、レイカが何かを言おうとした時、新たな人物が隊商の馬車から飛び出しレイカの名を呼びながら陽和達へと駆け寄った。小柄で目深にフードを被っており、一見すると物凄く怪しいが、魔力の感じやフードから覗いた美貌と金髪碧眼を彼は知っていた。
陽和が彼女の正体に気づいたとはつゆ知らず、彼女はレイカの側まで近寄るとレイカにギュッと抱きついた。
「怪我はありませんかっ?ごめんなさいっ、私の結界がもっと広く広げられてれば……」
「私は無事ですよ。このお方が助けてくれましたから」
フードの人物はレイカの安全を確認すると、陽和へと振り向き頭を下げた。
「あの、どこのどなたかは存じませんが、私達を助けてくれてありがとうございます」
レイカが気づいたとはいえ、彼女は陽和の正体に気づいておらず見ず知らずの他人が助けてくれたように映ったのだろう。そんな彼女に小さく笑みを浮かべながら、陽和は敢えて自ら踏み込んだ。
『気にしなくていい。知り合いが、俺の従者が危ない目に遭ってるんだ。そりゃあ助けるさ、そうだろう?
「えっ?なぜ、私の名を?」
なぜ自分の素性を知っているのか。フードの奥で目を丸くした彼女は、程なくしてピコン!と頭に電球が灯ったような表情をして気づく。
「もしかして……陽和さん、ですか?」
『ああ、久しぶりだな。それと、今の俺はソルレウスと名乗ってるから、そう呼んでくれ』
「分かりました、ソルレウスさん。何にしても、貴方が無事で本当に良かったです」
『まぁ色々あったがな。とはいえ、まさかこんなところで会うとは思わなかった。あの結界に見覚えがあったから、急いだが……正直驚いたぞ』
「そうですね、お互い思わぬ再会です」
お互いに予想外の再会を喜び合う。
事情経緯はどうであれ、こうしてしばらく会えないと思っていた者と再会できたのは幸いだった。特に、今のリリアーナとレイカにとって、彼らとの再会は僥倖とも言えた。
『………それより、なぜ二人がここにいるんだ?旅ってわけじゃないだろ?』
「………ごめんなさい、それは場所を変えてお話を。一応先に一つお伝えしておくと、あなた方に会うのが今回の目的でしたので、私達の目的は達成したといえますね」
『…………』
周囲を見ながらリリアーナの返答に陽和の表情は自然と険しくなる。
一国の王女ならば外出時に護衛がいるべきだ。だというのに、いるのは表向きはメイドであるレイカのみ。そんな彼女も冒険者の格好だ。
リリアーナが深くフードを被り、素性を悟られないようにしていることと、レイカが冒険者の格好をしていることに、それはまさに隊商に紛れ込むための変装だ。
しかも、自分達に会うのが目的とまで言った。それは、自分達を頼らなければまずい状況だということであり、陽和は嫌な予感がし始めていた。
そんな時、ハジメ達が陽和達の近くまで来て停車した。
レイカやリリアーナだけでなく護衛や隊商の人々達がハジメ達が乗る漆黒の四輪を凝視する中、ドアが開き香織と雫が降りてきて陽和達に駆け寄った。その後ろからもハジメ達がぞろぞろと降りてくる。
「リリィ!」
香織が彼女の名を呼ぶ。リリアーナが彼女へと視線を向け友人との再会に顔を明るくさせ、次いでその後ろを歩く少し容姿の変わった雫を見て驚いた素振りを見せるも、すぐに笑顔を浮かべ二人に駆け寄った。
その背中を見送りながら、何かに気づいたレイカが小声で陽和に尋ねる。
「……ソルレウス様、もしかして雫様は貴方様の眷属に?」
『ああ。ホルアドでの一件の後、正式にな。よく気づいたな』
「ええ、情報を共有してましたし、雫様の髪と瞳の色が変わっていましたので、もしかしたらと」
『そうか』
陽和が力を継承して髪色や瞳の色が変化しているのだ。それならば、雫が完全に眷属化を済ませたのならば、容姿が完全に変化している可能性が高い。そう考えたからこそ、彼女の中ですぐに正解に辿り着いたのだ。
情報共有の件は優花から聞いていたので、陽和も特に驚きはしなかった。
そうして自分達もリリィ達の元へと近づく。そして、リリィとハジメが何かを話していたが……
「………っていうか、誰だお前?」
「へっ?」
ハジメがリリアーナに向けてそんな空気を読まない発言を放ったのだ。これには、陽和、レイカ、雫、香織も驚いてしまう。
ハジメがまだ王国にいた頃からリリアーナと雫達は積極的にコミュニケーションをとっていたし、他の生徒に対してもリリアーナは必ず数回は自ら話に行っている。確かに、ハジメは立場的に微妙だったので、リリアーナと直接話した回数はそれほど多くはないが、それでも、香織や陽和も交えて談笑したことはあるのだ。
そして、リリアーナは、王女である事と、その気さくで人当たりのいい性格もあって、一度交流を持った相手から忘れられるという経験は皆無だ。なので、全く知らない人間を見るような目で見られた事は無かったために、ショックを受けて、思わず王女にあるまじき間抜けな声が出てしまった。
「ハ、ハジメ君!王女!王女様だよ!ハイリヒ王国の王女リリアーナだよ!話したことあるでしょ!」
「……………………………………………………………………………………ああ」
『うっそだろ、お前』
呆然としているリリアーナに代わって、慌てたように香織が小声でフォローを入れるが、ハジメとしてはそんな奴いたなぁ程度の反応だったので、リリアーナは涙ぐんでしまう。
「ぐすっ、忘れられるって結構心に来るものなのですね、ぐすっ」
「リリィー!泣かないで!ハジメくんはちょっと〝アレ〟なの!ハジメくんが“特殊”なだけで、リリィを忘れる人なんて〝普通〟はいないから!だから、ね?泣かないで?」
『本当ごめんな。ハジメのやつ、奈落に落ちてから頭がアレになっちまって、今治療中なんだ』
「おい、何か俺、さりげなく罵倒されてないか?」
必死のフォローを入れる香織と謝罪する陽和がナチュラルにハジメをディスるので、ハジメから思わずツッコミが入る。
「ハジメくんはちょっと黙ってて!」
『お前は黙ってろ』
「いいえ、いいのです、お二人とも。私が少し自惚れていたのです」
そんなツッコミも二人にはあえなく一蹴されてしまう。
しかも、リリアーナが健気なことを言ってしまうので、なおさら文句など言える訳もなく、女性陣の目線もとても冷たく、とてもいたたまれない気分になる。
だが、ハジメが全面的に悪いので誰も擁護する気がない。そんなハジメにレイカが声をかける。
「ハジメ様、お久しぶりでございます。だいぶ雰囲気が変わりましたね」
「いろいろあってな。えぇと、レイカ、さん、久しぶりだな」
「ふふっ、私のことは覚えてくださっていたのですね」
「………まぁ、陽和の従者だしな。姫さんよりも会う機会はあったから、覚えてた」
レイカは陽和の従者である為、リリアーナよりもはるかに接する機会があったのでハジメも覚えていたのだ。王女よりも覚えられているレイカにリリアーナがショックを受ける中、レイカはハジメとの再会に穏やかに微笑んだ。
「重吾様より陽和様とハジメ様が無事に再会を果たし共に旅をしておられるとお聞きしました。本当によかったです。ハジメ様がいない時の陽和様は、見ているこちらが辛くなるほどに必死でしたから」
『レイカ、その話はいいだろう……』
「ふふっ、申し訳ありません、嬉しくてつい。とにかく、またお二人が共にあるお姿を見れて、よかったです。どうかお二人の友情がこれからも永遠に続くことを、一人の友人として切に願っております」
「ああ、ありがとうな」
レイカは純粋にハジメの生存を喜んでくれたことに、ハジメも笑顔で礼を言う。リリアーナを忘れていたことで少し空気が冷たくなっていたが、レイカのおかげでハジメの気分が和んだ時、陽和達の元へ見知った人物がやってきた。
「お久しぶりですな、息災……どころか随分とご活躍のようで」
『ユンケル商会のモットーさんか。お久しぶりですね』
「あんたか。久しぶりだな」
「ええ、覚えていて下さって嬉しい限りです。ユンケル商会のモットーです。危ないところを助けて頂くのは、これで二度目ですな。貴方方とは何かと縁がある」
握手を求めながらにこやかに笑う男は、かつて、ブルックの町からフューレンまでの護衛を務めた隊商のリーダー、ユンケル商会のモットー・ユンケルだった。
彼の商魂が暴走したのは記憶に新しい。
この世界の商人の性というものを、彼らはモットーで学んだほどだ。実際、彼らの商魂は欠片も衰えておらず、話しながら、ハジメの指にはまった宝物庫の指輪をしきりに見ている。
全く笑ってない眼が、「そろそろ売りませんか?言い値で買いますよ?」と物語っているのは気のせいではないはずだ。
背後で、シアがモットーとの関係を説明し、「たった一回会っただけの人は覚えているのに……私は……王女なのに……」とリリアーナが更に落ち込んでいたりする。そんな彼女を香織と雫が必死に慰めているのを尻目に、陽和達はとりあえずモットーの話を聞くことにした。
それによると、彼等は、ホルアド経由でアンカジ公国に向かうつもりだったらしい。アンカジの窮状は既に商人間にも知れ渡っており、今が稼ぎ時だと、こぞって商人が集まっているようだ。
そんなモットーも既に一度商売を終えており、王都で仕入れをして今回が二度目らしい。ホクホク顔を見れば、かなりの儲けを出せたのは明らかだった。
元々陽和達は、ホルアドを経由してフューレンに行き、ミュウ送還の報告をイルワにしてから、【ハルツィナ樹海】に向かう予定だったので、その事をモットーに話すと、彼はホルアドまでの護衛を頼み込んできた。
目的地と同じであり、彼らの実力もよく知ってるからこその依頼だ。とはいえ、陽和としては、なるべく早めに大迷宮攻略をしたいためモットー達商人のペースに合わせることは難しいと断りの旨を伝えようとした時、待ったを掛けた者がいた。リリアーナだ。
「申し訳ありません。商人様。彼等の時間は、私が頂きたいのです。ホルアドまでの同乗を許して頂いたにもかかわらず身勝手とは分かっているのですが……」
「おや、もうホルアドまで行かなくても宜しいので?」
「はい、ここまでで結構です。もちろん、ホルアドまでの料金を支払わせて頂きます」
どうやらリリアーナは、モットーの隊商に便乗してホルアドまで行く予定だったらしい。しかし、途中で陽和達に会えたことでその必要がなくなったのだ。
その時点で、リリアーナの目的にハジメがキナ臭さを感じて文句を言おうとしたが香織と陽和が「邪魔をするな黙ってろ」と無言の訴えをしているので、取り敢えず黙っていることにした。
「そうですか……いえ、お役に立てたなら何より。お金は結構ですよ」
「えっ?いえ、そういうわけには……」
お金を受け取ることを固辞するモットーに、リリアーナは困惑する。
これまで移動中は寝床や料理まで全面的に世話になっていたのだ。後払いでいくら請求されるのだろうと、少し不安に思っていたくらいなので、モットーの言葉は完全に予想外だった。しかし、モットーにも受け取れない確固たる理由がある。それをレイカが説明した。
「リリアーナ様。乗合馬車や同乗などする際は料金は先払いが普通なのです。それを出発前に請求されなかったということは、相手が良からぬことを考えているか、あるいはお金を受け取れない相手ということになります。今回は後者にあたります」
「それは、まさか……」
「はい。彼らに同乗を頼み込んだ時点で、リリアーナ様の正体には気づいておられていました」
「彼女のいうとおりです。どのような事情かは存じませんが、貴女様ともあろうお方が、供を一人つけるだけで忍ばなければならない程の重大事なのでしょう。そんな危急の時に、役の一つにも立てないなら、今後は商人どころか、胸を張ってこの国の人間を名乗れますまい」
モットーは初めからリリアーナの正体に気がついていたのだ。そして、護衛であるレイカも気づかれていたことを把握していた。
レイカは気づかれていたことを理解した上で一人の護衛として振る舞い、モットーはレイカとリリアーナの様子に何かしらの事情があるのだと考え、知らないふりをして力を貸していたのだ。
「ならば尚更、感謝の印にお受け取り下さい。貴方方のおかげで、私達は王都を出ることが出来たのです」
「ふむ。……突然ですが、商人にとって、もっとも仕入れ難く、同時に喉から手が出るほど欲しいものが何かご存知ですか?」
「え?……いいえ、わかりません」
「それはですな、〝信頼〟です」
「信頼?」
「ええ、商売は信頼が無くては始まりませんし、続きません。そして、儲かりません。逆にそれさえあれば、大抵の状況は何とかなるものです。さてさて、果たして貴女様にとって、我がユンケル商会は信頼に値するものでしたかな?もしそうだというのなら、既に、これ以上ない報酬を受け取っていることになりますが……」
リリアーナは上手い言い方だと内心で苦笑いした。これでは無理に金銭を渡せば、貴方を信頼していないというのと同義であり、お礼をしたい気持ちと反してしまう。
だから、リリアーナは諦めたように、その場でフードを取ると、真っ直ぐモットーに向き合った。
「貴方方は真に信頼に値する商会です。ハイリヒ王国王女リリアーナは、貴方方の厚意と献身を決して忘れません。ありがとう……」
「勿体無いお言葉です」
リリアーナに王女としての言葉を賜ったモットーは、部下共々、その場に傅き深々と頭を垂れた。
その後、リリアーナと陽和達をその場に残し、モットー達は予定通りホルアドへと続く街道を進んでいった。
去り際に、陽和が赤竜帝であること、ハジメ達が異端者認定を受けている事を知っている口振りで、何やら王都の雰囲気が悪いと忠告までしてくれたモットーに、陽和もアンカジ公国が完全に回復したという情報を提供しておいた。
それだけで、神敵認定の理由やら何やらを色々推測したようで、その上で「今後も縁があれば是非ご贔屓に」と言ってのけるモットーは本当に生粋の商人であった。
▼△▼△▼△
「それで……王都で何が起こってる?」
モットー達が去った後、陽和達はブリーゼに戻りお互い自己紹介を済ませると早速本題に踏み込み陽和が代表してリリアーナに何があったのか尋ねた。
その表情はとても険しい。リリアーナの目的が自分達であることに加えてモットーが王都の雰囲気が悪いとまで言っていたのだ。話を聞いた時から感じていた嫌な予感がますます強くなる中、遂に語り出したリリアーナの第一声は………
「愛子さんが……攫われました」
「なにっ?」
陽和の予想を軽く上回る最低なモノだった。
あまりにも衝撃的な情報に陽和だけでなく、ハジメ達ですら驚きに目を丸くする。
リリアーナの話を要約するとこうだ。
最近、王宮内の空気が何処かおかしく、リリアーナとレイカはずっと違和感を覚えていた。
父親であるエリヒド国王は、今まで以上に聖教教会に傾倒し、時折、熱に浮かされたように〝エヒト様〟を崇め、それに感化されたのか宰相や他の重鎮達も巻き込まれるように信仰心を強めていった。
それだけならば各地で暗躍している魔人族のことが相次いで報告されている事から、聖教教会との連携を強化する上での副作用のようなものだと、受け取ることもできる。リリアーナも、半ば自分にそう言い聞かせていた。
レイカも騎士の家系の貴族であり、父は軍事関係で働く侯爵にして重鎮の一人だ。王宮で会う機会もあるが、彼もまた同じように熱にうかされているように感じた。レイカはそんな父の様子に危機感と嫌悪感を抱いていた。それは、彼の様子が陽和を嬉々として邪竜認定した教皇と似たような雰囲気だったからだ。
そして……事態はそれだけではなかった。
他にも妙に覇気がない、もっと言えば生気のない騎士や兵士達が増えていったのだ。顔なじみの騎士に具合でも悪いのかと尋ねても、受け答えはきちんとするものの、どこか機械的というか、以前のような快活さが感じられず、まるで病気でも患っているかのようだった。
リリアーナとレイカはこの時点で王宮に何らかの異変が起きていると確信し、騎士の中でもっとも信頼を寄せるメルドに相談しようにも、少し前から姿が見えず、時折、光輝達の訓練に顔を見せては忙しそうにして直ぐに何処かへ行ってしまう。結局一度もメルドを捕まえることが出来なかった。
陽和の事情を知る者達のみで行う定期的な情報交換の場にもメルドは参加しなくなっていたらしく、重吾も異変を感じていた。
そうこうしている内に、愛子が王都に帰還し、ウルの町での詳細が報告された。その席にはリリアーナも同席したらしい。そして、普段からは考えられない強行採決がなされた。
それが、『紅の英雄』ソルレウス・ヴァーミリオンが『邪竜の後継者』紅咲陽和だと匿名で情報が寄せられ発覚してしまったことと彼の即時討伐、そして、雫達の異端者認定だ。ウルの町や勇者一行を救った功績も、雫と香織が勇者と同じ神の使徒であること〝豊穣の女神〟として大変な知名度と人気を誇る愛子が異議・意見を申し立てても全てを無視して決定されてしまった。
陽和の件はどうしようもないとしても、雫達の異端者認定は度が過ぎるものだ。
有り得ない決議に、当然、リリアーナは父であるエリヒドに再考を求め猛抗議しても、何を言っても考えを変える気はないようだった。まさに、強迫観念に囚われているかのように頑なだった。むしろ、抗議するリリアーナに対して、信仰心が足りない等と言い始め、次第に、娘ではなく敵を見るような目で見始めたのだ。
恐ろしくなったリリアーナは、咄嗟に理解した振りをして逃げ出した。そして、レイカに今回の決議の話を伝え王宮の異変について相談するべく、悄然と出て行った愛子を追いかけ自らの懸念を伝えた。
すると愛子から、陽和とハジメが奈落の底で知った神の事や旅の目的を夕食時に生徒達に話すので、リリアーナとレイカも同席して欲しいと頼まれたのだそうだ。
愛子の部屋を辞したリリアーナとレイカは、夕刻になり愛子達が食事をとる部屋に向かったが、その途中、廊下の曲がり角の向こうから愛子と何者かが言い争うのを耳にした。何事かと壁から覗き見れば、愛子が銀髪の教会修道服を着た女に気絶させられ担がれているところだった。
その様子を共に見ていたレイカがすぐさまリリアーナを連れ近くの客室に逃げ込み、リリアーナが王族のみが知る隠し通路の扉を開き二人で息を潜めた。
レイカは専属侍従としていつでも彼女を守れるようにと懐に忍ばせていた短剣を構えて警戒を続けると、案の定銀髪の女が探しにきた。
しかし、幸いなことに隠し通路自体に気配隠蔽のアーティファクトが使用されていたこともあり気がつかなかったようで、二人を見つけることなく去っていった。リリアーナは、銀髪の女が異変の黒幕か、少なくとも黒幕と繋がっていると考え、そのことを誰かに伝えなければと立ち上がった。
ただ、愛子を待ち伏せていた事からすれば、生徒達は見張られていると考えるのが妥当であるし、頼りのメルドは行方知れずだ。
王宮に頼れる人はもういない。そう確信したレイカは王宮の外に逃げて陽和の元に向かおうと、悩むリリアーナに提案した。
陽和のそばにはハジメだけでなく、香織や雫までいる。戦力的にも頼れるのは彼らしかいないとリリアーナはレイカの提案を受け、隠し通路から王都に出て、一路、アンカジ公国を目指したのである。
アンカジであれば、王都の異変が届かないゼンゲン公の助力を得られるかもしれないし、タイミング的に、ハジメ達と会うことが出来る可能性が高いと踏んだからだ。
「王都にある実家の屋敷に密かに戻った私は装備を整え、リリアーナ様の変装用の服などを用意してからユンケル商会の隊商にお願いし乗せてもらいました。そこからは皆様のご存じの通りです。陽和様の故郷のお言葉で言うならば、まさに渡りに船でございました」
「……少し前までなら〝神のご加護だ〟と思うところです。……しかし……私は……今は……教会が怖い……一体、何が起きているのでしょう。……あの銀髪の修道女は……お父様達は……」
自分の体を抱きしめて恐怖に震えるリリアーナは、才媛と言われる王女というより、ただの女の子にしか見えなかった。だが、無理もないことだ。自分の親しい人達が、知らぬうちに変貌し、奪われていくのだから。
香織と雫は、リリアーナの心に巣くった恐怖を少しでも和らげようと左右から彼女をギュッと抱きしめた。
「おい、陽和、こいつは……」
「ああ、奴が動き出したと見て間違いない。チッ、あのクソ野郎が」
確信したハジメの問いにそう返した陽和は、舌打ちするとギリッと歯軋りする。
リリアーナとレイカの語った状況は、神に魅入られた者の末期状態のそれだったのだ。それは、危ういなんてレベルじゃない。一刻も早く対処しなければ大惨事になるレベルだ。それに、愛子が攫われた理由にも陽和には心当たりがあった。
「先生が攫われたのは確実に俺のせいだ。俺が、ハジメに世界の真実を伝えるよう指示したのがまずかった」
「恐らくは生徒達にも伝えようとしたのだろう。だが、エヒトにとってはそれが不都合だったのか。いや、遊戯がつまらなくなると感じたのか。だから、先生を攫ったと」
「ああ」
セレリアの推測を陽和は肯定する。
間違いなく今回の一件の責任は陽和にある。
そもそもの話、ハジメに愛子に世界の真実を伝えるよう指示したのは陽和だ。故に、愛子が攫われたのは、彼女に伝えようと指示を出した陽和の責任だ。
幸いにも命までは取られることはないだろう。攫ったということは、隔離するだけにとどまるはずだ。もっとも、人を傀儡のように操り享楽に耽る者の手に落ちた以上何をされるか分かったものではない。
自身の恩師が攫われたのだ。それを放っておくことなど陽和にはできなかった。故に、すぐにその答えは出た。
「樹海は後だ。先生の救出を最優先する」
選んだのは当然愛子の救出だ。
陽和の選択にハジメ達が当然と頷き、リリアーナがパッと顔を上げ、レイカが安堵に頬を緩める。万が一の可能性を考えて不安だったが、杞憂だったことにリリアーナは表情を明るくさせる。
「陽和さん、ありがとうございます」
「気にするな。これは看過できない事態だからな。放置したら、まずいことになる」
陽和は話を聞いた時点で確信すらしていた。
今回の一件、間違いなく大事になるだろうと。それは、自分にとってでもあり、今回の一件王都に何が何でも向かわなければという予感すらあった。
陽和の協力を得ることができリリアーナが安堵する一方でティオが真剣な面持ちで陽和に尋ねる。
「主殿、王女様が銀髪の修道女と言っておったが、そ奴はやはりあの使徒で間違いないかの?」
その問いかけに、リリアーナとレイカ以外が全員表情を険しくする。ドライグの過去を全員が知っている為、誰もが愛子を攫った件の修道女の正体に思い当たっていたのだ。
「間違いない、姿形も雰囲気も一致する。先生を助けに行くなら、十中八九やり合うことになるだろう」
「やはりか、しかしあの強さが依然変わらぬのならば……」
「……正直なところ、俺とハジメ、ユエ、セレリア以外はステータスの差で敵わないだろうな。三人ならサシでやりあえる可能性があるが、雫、シアは厳しい。香織は論外だ。とはいえ、サシでやりあえても俺以外は一人で戦おうとするな。必ず複数であたれ。でないとお前達でも死ぬぞ」
真の神の使徒の強さを、ハジメ達はメルジーネ海底洞窟でのドライグの過去試練を通じて知っている。
だからこそ、今の陽和の言葉が誇張でもなく実力差を鑑みた発言なのだとわかり、全員の表情が自然と引き締まる。彼らの様子に並々ならぬ気配を感じたのか、リリアーナが表情を強張らせる中、黙って話を聞いていたレイカが進み出た。
「陽和様、一つお伺いしたいことが」
「なんだ?」
「…………今回の一件、神エヒトが裏で手を引いているのですか?」
「えっ?レイカ、あなた何を言って「恐らくはな」…っ」
単刀直入に尋ねられた問いかけに、リリアーナが目を見開くも、レイカは表情を変えない。そして、陽和の簡潔な返答にそれが真実だったと理解し、驚愕と動揺に顔を青ざめる。
陽和は欠片も動揺を見せないレイカに少し驚いた。
「…………驚かないんだな。普通は動揺すると思うんだが」
「教会が貴方様を神敵と定めた時点で、私はもう教会を信用することも、神を信仰することもやめました」
「…………」
「私は貴方様に忠誠を捧げています。それは信仰も敬意も同じです。私は私の意志で信じるべきものを信じた。それ以上でもそれ以下でもありません」
レイカは既に教会を見限っている。
理想の主と定めた彼を、ただ邪竜の力を持っているというだけで神敵に仕立て上げた。
許せなかった。なぜ彼が苦しまなければいけない。なぜ彼が悪にならなければいけない。こちらの勝手な事情で連れてきておきながら、危険だから処分する?そんなふざけた理不尽許せないと、レイカは内で怒りの炎を強く燃え上がらせていた。
だから、陽和達の会話を聞き、今回の黒幕が神エヒトだと理解でき、それに驚きはしなかった。あんな教会が信仰する神が碌なものではないのだと思っていたから。
「私が信じるのは陽和様です。貴方様の進む道こそ、私が進むべき道なのですから」
「……変わらないなお前は」
「勿論です。貴方様への忠義、あの日から変わっておりません」
胸に手を当てて恭しく頭を下げながら、己の忠誠を改めて告げたレイカに陽和は小さく笑う。
二人の間には確かな絆があり、陽和はレイカの忠誠心に無性に懐かしさを感じていた。リリアーナは彼女が陽和に忠誠心を捧げていることは知っている為、再会できてよかったと笑顔を浮かべている。
だが、周りのものはそうではなかったらしい。
「ふふ」
「「………………」」ジー
「「「「……………」」」ニヤニヤ
嫁一人が微笑ましそうに見ていて、もう一人の嫁と、従者が彼女を観察するように凝視し、他外野4名が楽しそうに眺めていた。誰が誰なのかはいう必要はないだろう。
数種の視線に気づいた陽和が、苦笑いを浮かべながら彼女達へと視線を向ける。
「……… セレリアとティオはなんでちょっと感心してるんだ?」
「なに、これが本物の主殿の従者かと感心しておったところじゃ。主殿の従者を名乗るなら、妾も彼女を見習った方がよいじゃろう?」
「私も同じくだ。彼女の所作は従者を名乗るなら見習うべきものだ。勉強になる」
「そ、そうか。お前らがいいなら、それでいいけど」
「勿体無いお言葉です」
ティオは元々竜人族の姫だったし、セレリアも陽和に出会うまでは一般的な町娘だったが故に従者と言っても、世間一般の従者の振る舞いはしていない。その為、陽和専属の従者である彼女の所作を観察していたようだった。
ちょっと予想外な返しに驚いた陽和は、ついで視線が鬱陶しい外野へと煩わしげな視線を向ける。
「あと外野は黙れ。視線がうるせぇ」
「「「「何を言ってるかわからない」」」」
「このっ、野次馬どもが」
シンクロしてふざけたことを抜かす四人に青筋を立てる陽和だったが、そこで雫が彼を宥める。
「まぁまぁ、ハジメ達もただ楽しんでるだけなんだし、あんまり気にしなくていいじゃない」
「…………それがタチ悪いんだがなぁ」
「それなら、ハジメが困ってる時はこっちがたっぷり揶揄ってあげればいい話でしょ」
「そうだな。うん、思いっきりからかってやろう」
「えっ」
雫の一声によってハジメへの報復が決定したことに、揶揄うような笑みが一転、やべっと言ったような焦り顔へと変わる。
勘弁してくれと抗議の眼差しを向けるが、時既に遅く、ハジメは陽和に笑顔を向けられる。その笑みは、「覚えておけよ」と物語っていた。
自身の行動のツケを払うことになったハジメが肩を落とす中、陽和は咳払いをし話題を戻す。
「んんっ、とにかく、話題を戻すが今回の一件、エヒトが関わっているのはほぼ確定だろう。リリィ、詳しい話は移動中に話す。だから、今は黙って話を聞いていてほしい。いろいろショックを受けるだろうが、そこは耐えてくれ」
「は、はい……」
エヒトが敵だと知り既にショックで顔を青ざめているリリアーナだったが、今はそれを落ち着かせるのに時間を割くわけにはいかない。レイカは別に何もしなくても大丈夫だが、リリアーナに関しては後の移動中に詳細を話して納得してもらおうと陽和は決めると、すぐさま作戦の立案を始める。
「とにかく、先生の救出だが、それはハジメとティオに行ってもらう。ハジメの戦闘力とティオの機動力で救出次第すぐにその場から離脱しろ。場所にも心当たりがあるから後で伝える」
「は?何でだ?」
「主殿が行くのではないのかえ?」
使徒が出てくるのなら陽和が愛子救出に向かうのが一番確実性が高い。にもかかわらず、その役目をハジメとティオに任せた。その理由がわからず首を傾げる中、唯一雫だけが彼の真意を理解した。
「………魔人族が、ディレイドさん達が出てくるから、陽和は彼の相手をするつもりなのね」
「そうだ。今回の一件だが、使徒の遭遇に加えて、魔人族が戦争を仕掛けてくる可能性が高い。いや、確実に仕掛けてくる」
「なにっ?兄さん達が出てくるのか?」
魔人族との戦争が始まる可能性にセレリア達が揃って驚くが、陽和と雫にとってはある程度予期していたものだった。
「考えてみて。今回のこの状況をエヒトが画策しているなら、この後どんな遊戯を企むと思う?」
「!……そうか、確かにそれなら、兄さん達が戦争を仕掛けるのは十分にあり得るな」
「これまで俺達は魔人族の裏工作を悉く潰してきた。普通なら戦争の準備にはまだ少し時間を要するはずだ。だが、今の王宮の状況を鑑みれば、裏工作が失敗していたとしても勝率は高い。故に、魔人族が戦争を仕掛けてくると俺は考えている。そうすれば、フリードはもちろんのこと、ディレイド達獣魔兵も出てくるはずだ」
国王をはじめとした重鎮達が魅了状態にある以上、これまで偶然とはいえ、散々裏工作を潰されてきたとしても攻め込むには絶好の機会だ。
それならば、魔人族は総力をもって攻めてくる可能性が高い。そして、これはまだ未確定だが陽和の懸念が的中していれば、
国王や重鎮の異変は明らかに使徒によるものだが、覇気のない兵士達はおそらくは陽和がクラスメイトの中で警戒している檜山以外のもう一人、
そう、陽和の見立てでは敵は
(とはいえ、これはまだ明かす段階じゃない。直前に明かすべきだな》
だが、それはまだ仲間達に伝えない。今伝えて仕舞えば、下手な混乱を招くだけだ。
そして、魔人族が戦争を仕掛けてくるなら、フリード率いる改造強化された魔物の軍勢は勿論のこと、ディレイド達獣魔兵も出てくる可能性が高い。
ディレイドが出てくるのなら陽和が出向かなければ誰も敵わない。だからこそ、愛子の救出と使徒との戦闘はハジメ達に任せ、自分はディレイドを対処することにしたのだ。他にも懸念事項はある。
「大火山での戦いの時、ディレイドは自分のことを獣魔兵の5号個体だと言っていた。それはつまり、3号、4号がいると言うことだ」
陽和の気づきに全員がハッとする。
そう、獣魔兵は全貌が未知数なのだ。
セレリアが1号、バートが2号、ディレイドが5号。というように、少なくとも獣魔兵部隊はまだ3号と4号が存在している。しかし、その詳細は不明だ。他にも何人いるかわからない以上、万全を期して挑む必要がある。
ディレイドは陽和が抑えるとして、セレリアクラスの猛者が後二人以上いるのならば、最低でもこちらも二人は人手が欲しい。そのメンバーは……
「雫、セレリア、俺と三人でディレイドを含めた獣魔兵部隊を相手することになる。二人が3号と4号を抑えて、他に獣魔兵がいるのなら、俺が纏めて相手する」
「陽和、それは無茶よ、あなたの負担が大きすぎる」
「無茶でも無謀でもやるしかない。人数が圧倒的に不利な以上、戦力的にも俺が多く引き受ける必要がある」
「私達も出来る限り援護はする。だが、バートさん並となると、正直私達では一人が手一杯になるな」
「分かってる。だから、お前達はまず目の前の敵を倒すことだけに集中しろ、終わって余裕があれば援護にまわればいい」
戦力的に仕方ない部分があるとはいえ、やはり陽和一人に負担を強いるのは雫達からすれば納得がいかない話だ。だからこそ、理解しつつも納得できない彼女達に陽和は笑みを浮かべ、二人の頭を撫でる。
「心配するな。無策で挑むわけじゃない、やりようはある」
「……本当に大丈夫なのよね?」
「ああ、俺を信じろ」
雫に自信満々にそう返す陽和。
穏やかに細められた彼の眼差しに彼の強い決意を感じ取ったのか、雫とセレリアは小さく頷いた。
「………分かった。それなら、私達は目の前の敵に集中するわ」
「……私もだ。だが、危険だと感じたのなら、すぐに私達を頼れ。いいな?」
「無論だ」
雫とセレリアの言葉にそう返した陽和は、次いでまだ名前を呼ばれていないユエ達へと振り向き、指示を出した。
「ユエ、シア、香織はレイカと共にリリィの護衛を行いつつ王宮に潜入して重吾達の様子を確認してきて欲しい」
「………それ私とシアは必要?」
「そうですよ。香織さんとレイカさんだけで充分じゃないですか?」
「………お前らなぁ、気持ちはわかるが、状況を考えてくれ」
怒気を放つ二人に陽和がため息をつきながら宥める。
だが、殺気立つ二人の意思は変わらなかった。
「………ハジメを傷つけたあの醜男とトカゲは許さない」
「ですねぇ。徹底的にボコりたいですぅ」
よほどハジメが傷つけられたのが腹に据えかねたのだろう。泣いて謝ってもボコり続ける気満々だった。
物々しく過激な雰囲気を放つ二人にハジメは自分が相当愛されていることに、思わず小さく笑みを浮かべてしまい、香織達は苦笑いをするしかなかった。
「………まぁ、俺達も獣魔兵の相手をしなくちゃいけないから、他の誰かが軍勢を相手しなくちゃいけないのは仕方ないんだが………そうだな、じゃあこうしようか」
ユエたちの気持ちもわかるのでどうするか考えた陽和は一つ妥協案を提示した。
「最初は香織達と一緒にリリィの護衛をして欲しいが、もしもフリードが出てきて俺達が軍勢の対処が厳しいようなら呼ぶから来い。だが、そっちにも使徒が出てきたのならそっちに集中してくれ。それでいいか?」
「………ん、それなら」
「………まぁ、了解ですぅ」
不満があるとはいえ陽和の言い分も一理ある為、渋々といった様子で納得する二人。
これでそれぞれの配置はひとまず決まった。大まかだが作戦を組み立てた陽和にハジメが声をかける。
「一応作戦は固まったな。すぐに王都に向かうだろ?ブリーゼ飛ばすか?」
「いや、一刻を争う事態だ。俺が竜化して運んだほうが遥かに早い」
「そうだな、それが最速の移動手段だもんな。だが、いいのか?おおっぴらに竜化して」
「構わないだろ、もう正体バレてるしな。それに移動の時は幻惑魔法をかける。そう気づかれないだろ」
これまでは素性を偽ってきたが、どこの誰かのタレコミのせいで自分の正体はバレてしまっている。それなら、別に大っぴらに竜化したところで気にしないし、移動中は闇属性魔法で幻惑魔法をかけるつもりだ。神でもない限りは、気づかれることはないだろう。
作戦も、移動手段もとりあえず決めた陽和は、瞳に闘志の炎を宿らせ激しく滾らせながら、表情を険しいものにし仲間達に告げる。
「敵は魔人族と神の使徒。質も量もこれまでとは比較にならない。相当な激戦になるだろう。全員気を引き締めてかかれ」
そして一拍あけると、竜眼を炯々と闘志に輝かせながら、牙を剥き出しに獰猛な笑みを浮かべ最後に宣言する。
「奴の思惑全て、ぶち壊すぞ」
彼の宣言に雫達は揃って笑みを浮かべ、力強く頷いた。
結果的に王国を助けることにはなるが、そんなことは彼らにとってはどうでもいい話だ。問題は彼らが陽和達の障害であること。
ならば、彼らのやることは変わらない。
障害として立ちはだかるのならば、撃砕するのみだ。
戦意を滾らせる彼らの様子を見ていたレイカは陽和に尊敬の眼差しを向けると、感極まった様子で呟く。
「神をも恐れぬ姿勢。流石でございます、陽和様」
「……レイカ、あなた適応が早すぎませんか?驚くことばかりで、私はまだ理解が追いついてないのですが……」
「私はもう信仰を捨てましたので、神が敵でも気にしておりません」
「……あぁ、そうですか」
心情的に分からないわけではないが、ここまで吹っ切れるものなのかとリリアーナはレイカの様子にもはや驚きを通り越して若干虚無な様子だった。