ポーカーハートの妖怪とポーカーフェイスの面霊気   作:MYON妖夢

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 この作品を開いていただいた皆様。初めまして。
 初めましての方の方が多いかとは思いますが、お久しぶりの方はお久しぶりでございます。こんなペンネームですがメインはタイトル通り妖夢ではなくこころです。
 何番煎じの能力や性格か。とは思いますが、思いついてしまったのだから仕方がない。
 自分の書きたいものを書く程度の作品ではありますが、作風が目に合う方は是非楽しんでいってください。


第一話 必然の出会い

 思えば、偶然などではなかったのかもしれない。

 

 感情が平静で"固定"されてしまっている私は、無意識のうちに、どこか感情という形のない不明瞭なものを求めていたのだろう。

 

 薄紫のかかった桃色の長い髪に、同じ色の眉と瞳。

 

 上に纏うは青い市松模様の上着。視線を上から下に動かせば、桃色のリボンで胸元を。赤の星、黄の丸、緑の三角、青のバツの形をしているボタンで前を留めている。

 

 一際目を引くのは、これまた桃色の風船のように膨らんだスカートだろう。笑った顔と怒った顔。逆さに見れば逆の顔に見えるような穴がいくつも空いており、白く細い脚がそこから覗いている。

 

 再び視線を上に戻せば能面の一種とされる小面の面が、結び紐を締めないままに、顔からズレて付けられている。

 変わった服装だ。素直にそう思った。

 

 だが、すぐにそれが気にならなくなる程度には彼女の容姿は整っていた。動かなければ人形のようにすら見えるソレは、小さな口を開く。

 

「感情が動かないなんて、珍しい人ですね」

 

 などと言った彼女の顔の筋肉は、一切の表情を映し出さず。

 

 まるで私の"心"のようだ。そんなことを思った。

 

 それが彼女──秦こころとの出会いだった。

 

 

 

 

 私は、一般的には妖怪という呼ばれるモノらしい。

 らしい。というのは、私自身が急に生まれたモノであり、妖怪というのは基本的にはそうやって発生するモノだからだ。その上で妖力とやらも持っているとなれば、やはり私は妖怪なのだろう。

 日本という土地の、どことも知れぬ場所で急に自我というものを得た。

 周りに誰かがいるわけでもなく、言葉として私を現すならば孤独な生まれだったのだろう。

 人間と違い、身体は生まれた時既に大人と呼べるものだった。誰も周りにいなかったのは多少は幸運だったのかもしれない。生まれたばかりで退治なんてされたら堪ったものじゃない。

 言葉や常識といったものは、概念としては頭にあった。人間にとって比較的近いものが妖怪になるとそういう概念も併せて形作られるのが妖怪というものなのだという。

 

「そういうものだという自覚は薄いけれど」

 

 なにとはなしに小さく呟く。

 自分がそういうものだと自覚するためには、似たような存在と会う必要というのはあるものだと思う。しかし理性が薄い、本能の方が強い妖怪なんかと出会ったら話どころじゃない。相手が殺し、喰らいに来るのだから、こちらも相応のやり方をしないと生きてなんていけない。妖怪なんてそういうものだ。そういう時は自分が一定の理性のある妖怪でよかったと思う。

 理性があって人間と似た姿を取れるくらいの妖怪なら、意味もなくお互いを傷つけるような事態にはならないから、そういう時はちょっとは話す。私が自分と妖怪と評しているのも、それらとの会話によって得た情報による。

 けれど妖怪はあまり群れるものではないらしい。長く一緒にいようとはしない妖怪が多い。曰く、群れていると自分個人への人間からの恐れというものが減ってしまうらしい。

 妖怪とは、人間から恐れられることでその存在を確実なものにする。逆に言えば、認識されなくなってしまえば、それはその妖怪の消滅に直結するのだとか。

 だとすれば、こうして存在している私は、人間達にとってはある程度知名度のある存在だということだろうか。力が弱まるとか、強まるとか、そういうことはよくわからないけれど。

 

「あまり意識したこともないけれど」

 

 人間の前に出る時もあるけれど、妖怪として現れることは多くない。だから恐れられることは少ないと思うのだけれど。

 ああ、でも確かに。種族としての本能のようなもので人間に少しの嫌がらせのような、ちょっかいのような。そういうことはすることがある。恐れられる要素があるとしたらそれだろうか。それだけで存在していられるなら、気まぐれに対象に選ぶ人間には悪いけれど、楽なことだと思う。

 

「ちょっとの間だけだし、そんなに迷惑にはならないでしょう」

 

 別に命に影響が出るようなことはしないのだし、許してもらえると思う。そもそも私はちょっと手を出すだけで、お腹空いても人間なんて食べようと思わないし。

 普通に人間と同じようなものを食べて満足できるのだからそれでいい。だから人間に紛れて生活しているのだし。能力と呼ばれるものを使っていれば退治師やらに嗅ぎ付けられる可能性のある妖力もごまかせる。そのせいで理性の少ない、いわゆる弱小妖怪に襲われるのだけれど。勿論、殺されていたらこうして思案もできていないから、それらを退けて私は生きている。

 家は能力を交えて半ば無理矢理建てたものがあり、食べるにもそんなに困っていない。人と話すのにも慣れたけれど、妖怪故か何年経っても変わらない見た目はたまに指摘される。そういう時はごまかしたり、生きる場所を変えたり。

 そんな暮らしを数十年……いや、もう百年くらいは経ってたかもしれない。あまり意識していない。喜怒哀楽を感じることも特にないからか、そういうことにも疎いのかもしれない。

 というのも、私は感情が動かない。というより動きづらい。

 平静のままで殆ど私の感情は波打たない。多分能力の副作用だろうとは思っているけれど、自分で解除できた試しはないのだから、ある意味暴走していると言っても間違いじゃないだろう。それに困ったことはないから別にいいと思うけれど。

 

 私の感情のように変わらない日常。それもいずれ変わる時が来るものだと、目の前の少女……女性? を前にしてゆっくりと感じた。

 美しい金髪ロングの絹糸のような髪の毛先をいくつかの束ごとに赤いリボンで結んでいる。

 ゆったりとも、ぴっちりとも見えるフリルドレスを優雅に着こなし、空間に開いた"スキマ"に腰かけ、扇子で口元を隠した女性は声を発する。

 

「こんにちは。名も無い妖怪さん」

 

 警戒しなかったわけではないけれど、なんとなく彼女の腰かけているスキマは、私の能力の及ぶところではないのだろうと認識する。間違いなく彼女は妖怪としての格が高いと、何の感慨もなく認める。

 

「こんにちは。名も知らない妖怪さん」

 

 だからと言って私の返答が変わるわけではないのだけれど。感情がまともに動く妖怪なら絶望とか、そういうものを感じたのかもしれないけれど、私はそういうことはないのだ。

 何かの機会に、偶然出会っただけの大妖怪。私にとって彼女はその程度の認識でいい。

 

「突然で申し訳ないけれど、貴女の力を貸していただけないかしら」

 

 だというのに、彼女はそんなことを言うのだ。

 

「私の名前は八雲紫。妖怪の賢者と呼ばれていますわ」

 

 お似合いだろう。それだけの風格と力を彼女はきっと持っている。

 

「私は以前、とある地に忘れ去られていく妖怪にとっての、人間と共存する理想郷を築きました」

 

 立派なことだ。そんな妖怪達にとっては正しく理想郷と言ってもいい。

 

「その地の存続を、より確実にするために貴女の『あらゆるものを固定する程度の能力』の力を、借りたいのです」

 

『あらゆるものを固定する程度の能力』。成程確かに。自分の能力を言葉として表現するならば、それに近いものになっていたのかもしれない。

 

「人間を殺すことも、捕食することも必要のない貴女です。きっと私の幻想郷を気にいると思いますわ」

 

 目の前の彼女は、私についても詳しいらしい。

 今まで動かない感情なりに、気まぐれに生きてきた。たまには誰かと関わりに行くのも悪くないのかもしれない。

 

「なにをすればいいの?」

 

 だから私はそう返した。ここで断っても別に彼女は私に何もしなかっただろうけど、まぁ気まぐれ。

 

「私と人間の巫女が作った、常識と非常識を分かつ結界の"固定"をお願いしたいのです。外の世界の常識を幻想郷の非常識に、外の世界の非常識を幻想郷の常識の側に置く大結界の、いわば補強のようなものです」

 

 ですが、と彼女は一度区切る。

 

「今の貴女ではそれだけの規模を行うには少々妖怪としての力が不足しています。ですので私が今ここで、貴女に名を与えます」

 

「名前……」

 

 妖怪は名を得るとその力を増す。妖怪の種類として広域に認識されていた今までと比べて、名前という『個人を区別する明確なもの』を得ることで、今までのそれに上乗せで妖怪としての格を底上げすることが出来るのだとか。

 別に大きな力はいらないけれど、貰えるというのなら貰っておいてもいいだろう。

 彼女は少しの思案の後、扇子を閉じてこちらに向けて、告げた。

 

「何事も縫い目すらなくその場に縫い付け、動きを固定し縛り付ける。そんな貴女の名は──『地縛 無縫(じしばりむほう)』」

 

「地縛、無縫……」

 

「名前としては特殊かもしれませんが、どうでしょう?」

 

 地縛。別名イワニガナ。黄色い花を咲かせ、細い茎が一面に生い茂り、その茎のところどころから根を出して、地面を縛り付ける様にして咲く花のことだ。

 乾燥した岩だらけの場所でも生える頑丈さを持つとも言われる、その花の花言葉は、"束縛"、"人知れぬ努力"、"忍耐"。そして──。

 

「"いつもと変わらぬ心"。か……」

 

 私にピッタリな花言葉。厳密には心と感情はちょっとだけ違うものだとは思うけれど。

 そう認識した途端、何かが噛み合うような感覚と共に、一気に全身に巡る妖力の量と質が増えた気がした。

 

「気に入ってもらえたようですわね。よかった。何かに名前を付ける時は、いつもどきどきするものですわ」

 

「貴女の様に強い妖怪でも、そうなるものなのね」

 

「ええ。一人のこれからを左右するものと言ってもいい。それほどに名前というものは重要なものなのですから」

 

 くすくすと扇子の向こうで笑う彼女は、とても様になっている。

 

「早速行きましょう。今すぐ必要というわけではないですが、備えは盤石にしておくに越したことはありませんから」

 

 そう言って、何もない空間を切り裂くように、緩やかに手を振る。

 それだけで空間に裂け目が生まれ、"スキマ"が発生する。

 

「さぁ、こちらへ。少しの浮遊感はありますが、すぐに着きますわ」

 

 誘われるままにスキマの中へ足を踏み込む。出口に直結しているのか、すぐに世界が切り替わる。

 

「ようこそ幻想郷へ。実感はないでしょうけれど」

 

 目の前には神社。見下ろすは幻想の生きる(さと)

 

「こちらへ。今まで長い間貴女を見定め、名を与えた私自身が。幻想郷に害をもたらさないと信用し、大結界の核へ案内します」

 

 博麗の巫女と呼ばれる少女に軽く事情を説明し、案内されてからは早かった。名を得たことで強化された妖力と能力によって、結界――博麗大結界という存在を"固定"する。

 博麗大結界の性質は変わらない。私はその性質をもったそれそのものを固定するだけだからだ。固定されるという事実以外に性質が変わることはない。

 そして固定した後に、私と博麗大結界の固定による繋がりを、八雲紫が自身の能力である『境界を操る程度の能力』で、固定した状態のまま維持して切り離す。これによって私の力が削がれることは無くなるのだそうだ。実際、博麗大結界に手を施した時に大きく力を持っていかれたから、それによって使っていた分の力が帰って来たので助かる。

 

「ありがとうございました。無縫。これで幻想郷はより安全なものとなりました。貴女も幻想郷の一員。これからは好きに生きてください」

 

「ええ。そうさせてもらう。八雲紫。貴女も元気で」

 

「紫、でいいわ。ええ。貴女も元気でいると私は嬉しいわ」

 

 嬉しい。嬉しいか。それがどんな感情なのかまだわからないけれど、概念としてはわかる。

 

「……では、紫。またね」

 

 それだけ言い残し軽い妖力で空を飛ぶ。少し、見て回ろうか。

 なんて、そう思って各地を回って。

 一休みしようかな、と最後に立ち寄った地名も何もないであろう場所で、この時はまだ名前も知らない付喪神――秦こころとの必然の出会いを果たした。

 

 きっと、彼女は私に何かの変化を与えてくれるのではないか、なんて。

 ほんの僅かにしか動かない感情で、気まぐれに期待というものを込めて、名乗ったのだ。

 

「こんにちは。付喪神さん。私は"金縛り"という現象が形を成した妖怪。地縛無縫。貴女の名前は?」

 

「我々の名は、秦こころ。感情を操る面霊気です」

 

 感情の動かない(ポーカーハートの)妖怪と、表情の変わらない(ポーカーフェイスの)面霊気の出会いは、こんな形だった。




 原作よりはそこそこ前です。巫女もまだ霊夢ではありません。
 心綺楼より前にこころは存在しているの? という点ですが、希望の面を無くすまでは感情が安定していて、何事にも興味を示さないひっそりとした付喪神。という点から、存在自体はしていたと判断しています。聖徳太子こと豊聡耳神子と関係のある人物である、秦河勝のお面ということもあり、生まれ自体は結構古いのかなと。
 今作の現段階のこころは、当然心綺楼より前なのでそんな物静かな付喪神です。基本的には通常時である小面の面のまま変わることは少ないでしょう。

 紫が博麗大結界創設時に無縫を取り入れなかった理由としては、その時点で彼女が生まれてから妖怪視点では日が浅く、信用するための監視に長い時間を費やしたから。としています。

 では、最後までお読みいただきありがとうございます。
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