深く暗い闇の中、私は揺蕩う。
何も聞こえない……何も見えない……何も感じない。
ここに居れば安全だ、ここに居れば安心だ。
これ以上悲しむことも、飢えることも、苦しむことも無いのだから。
私はこのまま死ぬのだろうか。
それでいい……それがいい。
私が死んだとしても、誰が悲しむというのか。何が変わるというのか。
明日も明後日も、世界は平然と過ぎ去っていく。
――薄目を開けると、光を感じた。
鈍く、淡く、冷たい光だ。
私は手を伸ばす、今逃せば永遠に見ることのない光を求めて。
私は存外、生に執着があったらしい。
伸ばした手で掴んだものは、銀色の鋭利な光だった。
私はこの日、血濡れの
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「
2月末日、立春を過ぎても尚肌寒さの残る季節、ここは閑静な住宅街に建つ
小さな木造二階建ての造りはお世辞にも綺麗とはいえない。旧日本家屋と呼ばれるような寂れた外観をしている。内装も古く歩くと床が軋む程、リビングと風呂場、部屋は6つに加えて応接室が1つある。
その応接室では、来春から高校生になる美亜の進路相談が行われていた。机を挟んで対面に座る2人、卓上の紅茶が2人の間に湯気をたてる。
黄金色の瞳に垂れ目で優しそうな顔つき、栗色の髪はふわりと緩やかなウェーブを描きながら腰まで伸びる。常に穏やかな微笑みを絶やさない彼女こそ熱犬孤児院の院長「
美波の対面に座る少女、艶やかな濃紺色の髪は腰まで伸び波が唸るようにウェーブを描いている。その白磁の如く白い肌と、幼さを残しながらも人形のように整った顔つきは1歩間違えれば幽鬼のようだ。細身のスタイルと相まって、美しくも精巧な西洋人形のような不気味さを感じさせる。
しかし彼女が確かに生きていると実感させるのは、妖しく輝く紅の眼。意識の強さを反映するように吊り上がったその眼は、見る者全てを蠱惑し深淵に誘うかの如く煌めいている。
今、その眼は美波を捕らえる事はなく所在なさげに机の上の紅茶に向けられている。細身の腕から伸びる指がカップの縁を撫で、言葉を発することを躊躇っている。俯いたその表情からは何も読み取れない。
彼女の名は
「ゆっくりでいいの、私は美亜の言葉が聞きたいから……」
美波はふわりと美亜の横に腰を下ろし、頭をゆっくりと撫でる。この子は普段から気丈に振る舞い、弱さや隙を人に見せることを嫌い、極端に言えば恐れている。そんな美亜がここまで悩み言葉を詰まらせている。
しかし、彼女にこんな思いを抱かせてしまったのは私達の……私の所為だ。だからこそ個性を使いゆっくりと暖かさを伝えていく。この熱がどんな時も美亜の気持ちも温め、凍り付いた心を溶かしていくと信じて――
「あぁ、決めたんだ……私は雄英高校に行くよ」
美亜が顔を伏せたまま告げる。普段の凛々しい声色と違いう今にも消えそうな弱々しい声に、美波は心配になって問いかける。
「そう……雄英ね。あなたがそう願うなら私達は心から応援するわ。でもね、それは辛くて険しい道よ。苦しいこともある、悲しいこともある、上手くいかない事なんて山ほどある。それでも……それでもヒーローになるの?」
顔を上げた美亜と視線が交差する。その眼は確かな決意を携え、先程までの弱々しさが嘘のように紅く燃え上がっている。彼女の眼は普段からルビーのように紅く煌めいているが、ここまで激しく輝いている様は見たことが無い。美波はそれが並々ならぬ決意である事を本能的に感じ取った。
「ありがとう美波さん。でも自分で決めた道だから、私は雄英に行く」
「そっか……でも嬉しいわ。美亜が初めて選ぶ道がまさかヒーローだなんて」
ソファーにもたれ掛かると、安心から思わず大きな溜息が出てしまう。横目で見た美亜の表情が少し不安そうに曇る。やってしまった。努めて明るい表情を浮かべ、空気を変えるように立ち上がる。不安そうに見上げる美亜の前で、軽く手を叩きハツラツと話す。
「そうと決まれば特訓しないとね!雄英高校はヒーロー科最難関、簡単には合格できないのよ。勉強は私が教えるから良いとして……個性とか体力は……ワンちゃんに鍛えてもらおうかしら。一緒に頑張りましょ、あなたの夢を叶える為にね!」
滅多に色を変えない仮面の如き美亜の表情が、少しだけ頰を染めたような気がした。
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退室する美亜を見送り美波は1人部屋に残る。再び応接室のソファーに深く体を預け大きく息を吐く。これまでの様々な出来事が脳裏に浮かぶ。本当に……本当に色々なことがあった。
「雄英高校、ヒーローね……」
さっきまでの私は上手く笑えていただろうか。違和感なく振る舞えていただろうか。
――本心では雄英高校に行って欲しくない。
(美亜にはヒーローになんかならないで、普通の人生を、当たり前の幸せを与えてあげたかった。願わくば、今まで得られなかった友達・愛・幸せをありったけ掴んで欲しい。あの子にはその権利があって、私達にはそれを叶える義務がある。ヒーローは辛い道だ。誰かのためにその身を投げ打って、それでも守れないことなど山程ある。それでも笑顔を絶やさず、救えない命の上に立つ覚悟がいる。それに美亜の個性、必ず傷つき苦しむ個性はきっとあの子の心を蝕んでしまう……)
気分を切り替えようと冷え切った紅茶を飲む。それでも本日3度目の溜息を吐いてしまう。こんなに溜息をつくと幸せが逃げるかしら、思わず自嘲気味な苦笑いが浮かんだ。
「ソファーもボロボロね、そろそろ買い替えないと……お金無いし無理かな」
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美亜が廊下を歩いていると背後から足音と気配を感じた。振り返るとすぐさま強く抱きしめられる。体が密着し、顔に胸が当たって苦しい。
「美亜ーーーー!!雄英に行くって聞いたぞ!ヒーローになるのか?それじゃあ出て行くのか?寂しくなるなぁ!ちゃんと風斗とかおりには話したか?風斗なんかずっとそわそわしてたぞ!あいつも生意気だけど、それは美亜のことを心配してるからで――「うるさいわよ」
「ぐぇっ!」
頭に生えている犬耳の間に鋭いチョップが落ちる。その隙に腕から抜け出すと、そこには頭を抑える拳士と笑顔でチョップを決めた美波がいた。
「そこは反則だって、ほんとに痛いんだから!」
「ごめんね、ワンちゃんってば雄英って聞いた瞬間に走って行っちゃったから。あ、これは美亜が危ないなーって」
拳士の抗議を美波はクスクスと笑いながら華麗に流す。そしてごく自然な流れで美亜に近づくと、替わりとばかりにギュッと抱きしめてその頭を撫でる。
彼女の名前は
熱犬孤児院には2人以外に職員はおらず、預かっている子供も14歳の美亜と12歳の風斗、7歳のかおりの3人しか居ない。当たり前だが、2人とも学校に通っているので昼は孤児院に居ない。美亜だけが学校に通うことなく家で過ごしている。
血縁関係は全くなく、年齢も離れている。性格もバラバラな皆が住む熱犬孤児院、それこそが美亜の1番大切な人達がいる、1番大切な居場所だ。
「そんなに捲し立てても話しづらいだけよ。雄英高校に行くと言っても、寮はないから今まで通りここで生活するの。それにあの子達にだって美亜は自分の言葉で言えるわ、さっき私に言ってくれたようにね」
「うぅ…ごめんって美波。でも雄英に行くって聞いて、それでいてもたってもいられなくて」
「そこで落ち着いて話を聞いてあげることこそ私たちの役目よ。ワンちゃんは昔からその辺を焦りすぎなのよ」
美波は美亜を抱きしめたまま拳士に小言を言い始める。拳士は美波に頭が上がらないらしい。以前、美亜はその理由を聞いたが苦笑いで濁されてしまった。
「美波さん…………苦しい」
美亜は美波の豊満な胸の中で窒息しそうになったので、腕を叩いて危機を知らせる。ごめんなさいねの声と共に解放され、ふらつきながら大きく深呼吸し肺に酸素を取り込む。包容力があるのもいいがありすぎるのも問題だ。
「拳士さん、心配してくれてありがとう」
「どういたしまして!私は心配だけど、でも美亜が決めたことだもんな。全力で応援するよ。個性について悩んだり、勉強もわからなかったらいつでも頼るんだぞ!」
「ワンちゃん勉強苦手じゃないの……」
拳士は満面の笑みを浮かべてエールを送り、美波は呆れながらも微笑んで見つめている。3人は昼ご飯を食べるためにリビングへと向かった。
「ありがとうねワンちゃん、お昼作ってもらって」
「うん!どういたしまして!今日のお昼は炒飯だぞ!」
昼食後、美亜は部屋で1人考える。
(雄英高校に合格する、簡単なことじゃない。トップヒーローを多数輩出する雄英高校、倍率300倍を超えるヒーロー科1の人気校……か。試験は筆記と実技があるんだよな。個性は十分磨いてきたはずだ、きっと通用する。問題は筆記、自力で勉強はしてきたけど流石に学校に行ったことがないのはまずいか?)
ベッドからのそりと上体を起こすと、心底忌々しそうに顔をしかめて呟いた。
「勉強するか……」
登場人物紹介のコーナー
千染 美亜(ちぞめ みあ)
162cm 45kg
美亜's 眼 紅い、とにかく紅い。あと吊り眼。
美亜's 毛 濃紺、ウェーブ強め。
美亜's 顔 絶望的な表情筋。
美亜's 皮膚 白い。とにかく白い。引きこもりの証?
美亜’s 全身 モデル顔負けのスタイル。
美亜's タイツ 暖かい。
個性「操血」
自身の血液を内外問わずに操作できる!
ヒーローでは「ブラッドキング」というヒーローが同じ個性を持つぞ!
ブラッドキングは、ヒーローコスチュームに注射とポンプのようなものを搭載し、血を籠手から噴射して戦っている!はたして美亜は、どのような闘い方をするのか……乞うご期待!!
ここまで読んでいただきありがとうございます。
自粛期間中にヒロアカを読んでどハマりしました、書きたいことを書いていきたいと思います。
初めて物を書くので生暖かい目で見守っていただけると幸いです。
亀更新になるとは思いますがよろしくお願いします。