「突然だが今日のヒーロー基礎学は俺とオールマイト、そして追加のもう1人の先生と共に人命救助訓練を行ってもらう」
相澤から告げられた授業の内容に教室内が騒めく。口々に喋り出した生徒をひと睨みで黙らせた後、言葉を続ける。
「今回のコスチュームの着用は個々の判断に任せる。訓練所は少し離れているからバスで向かう、以上、準備開始だ」
爆豪との戦闘演習でボロボロになり、まだコスチュームが治っていない緑谷以外は着替えてバスに乗り込む。
美亜は芦戸に手を引かれ、4列シートに座らされた。同じ列に上鳴、美亜、芦戸、飯田の順に座り、対面には砂藤、緑谷、蛙吹、切島が座った。他の皆は2列シートに座っている。バスに揺られながら皆が会話を楽しんでいると、蛙吹が緑谷に問いかける。
「緑谷ちゃん、貴方の個性オールマイトに少し似てるわ」
「でもよ、オールマイトは怪我しねえぞ、似て非なるってやつだ。増強型の個性はシンプルで派手でいいよな!俺の『硬化』は対人では強いけどいかんせん地味なんだよなー」
目に見えて狼狽えた緑谷を切島がフォローする。いや、フォローすると言うより本心でそう思っているようだ。そんな切島の話を聞いて、正直に思ったことを美亜は口に出す。
「どうかな、『硬化』も充分シンプルで派手だと思うぞ。それに攻めにも守りにも対応できるというのは戦闘において充分強みになる。何かに強みがある、それだけでも十分に強個性だろ」
「そうだよ!僕もすごくかっこいいと思う。プロにも充分通用するよ!」
なぜか緑谷が嬉しそうに美亜に乗っかり切島を褒め出す。妙にテンションの高い緑谷に少し引きながら、底抜けにいい奴なんだなと納得する。
「おっ、美亜もそんな感じに褒めるんだなー。もっと優しさと笑顔見せた方がいいと思うぜ!そっちの方が可愛いぞ」
すると横に座ってるものの空気だった上鳴がここぞとばかりに話しかけてくる。横目で瀬呂と共に座る峰田にサムズアップしていたところを見ていたため、わざとため息をついて切り返す。
「ふざけたことをぬかすな、頭に槍の2.3本突き刺してその開いたネジ穴埋めてやろうか?」
(((((悪口が独特…)))))
上鳴が「俺褒めたつもりなのに…」と落ち込む中、斜め前から何やら昨日の事を話そうとした砂藤をひと睨みして威嚇する。別に砂藤の為にやった訳では無いし、結果的にあいつが謎の勘違いで私をいい奴だと思っているだけだ。
その間に爆豪は切島に『クソを下水で煮込んだような性格』と言われブチギレている。
そんな爆豪と私を交互に見て頭を抱えている八百万は何か失礼なことを考えてそうだな、後で問い詰めてみよう。そんな事を考えながら美亜は目を閉じ腕を組んでシートに背中を預けた。
バスを降りるとドーム型の大きな施設が目に入る。
引率され施設内に入るとそこには広大な空間が広がっていた。
中央にセントラル広場、入り口から時計回りに倒壊、土砂、山岳、火災、水難、暴風・大雨ゾーンと様々な現場を想定した施設が揃っている。
「水難事故、土砂災害、火事etc…。
あらゆる事故や災害を想定し僕が作った演習場、その名も…
そう説明してくれたのは追加の先生、スペースヒーロー「13号」。宇宙服のようなコスチュームに全身を包み、顔は見えないが災害救助の場で活躍している紳士的で非常に人気のあるヒーローだ。麗日は13号のファンで緑谷と共に歓声を上げている。
「えー始める前にお小言を一つ、二つ…三つ…四つ…」
増えていく小言の数に困惑しながらも生徒は耳を傾ける。
13号の個性は『ブラックホール』。あらゆるものを引き寄せ吸い込むことができ、チリに変える強力無比なものだ。災害現場で役に立っているが、その個性は人を簡単に殺せる力であると彼は言う。そして一歩間違えれば容易に人を殺せる個性を持ってる事を忘れずに、人の為に個性をどのように活用するか学んでほしいと明るく言い切った。
「君たちの力は人を傷つける為にあるものではない、救ける為にあるのだと心得て帰ってくださいな」
13号の堂々として心に響くスピーチに皆が感銘を受け、飯田はブラボー!と感極まって大きな拍手を送っている。
「それじゃあまずは……」
そう言って相澤が授業を始めようとしたその時、何か気配を感じて広場のほうに振り返る。その時広場の噴水の前に黒いモヤのようなものが現れ、徐々に広がって大きさを増していく。そしてそこから、途方もない悪意のこもった目が覗いた。
「一塊になって動くな!!」
瞬時に警戒を最大に上げ、声を上げた相澤、突然の状態に生徒は皆反応できずに呆けている。そうしている間にもモヤが広がり、中から悪趣味な格好をした人間が次々と現れる。
「動くな!あれは
「13号にイレイザーヘッド、先日頂いたカリキュラムではオールマイトが居るはずですが…」
「どこだよ…せっかくこんなに大衆引き連れてきたのにさ、オールマイト……子供を殺せばくるのかな?」
顔と身体中に手を貼り付けた男から発せられた殺意に塗れた言葉、それによって皆は気付く、
「ヴィラン!バカだろ!?ヒーローの学校に入り込んでくるなんてアホすぎるぞ!」
「侵入者用センサーが反応していねぇなら、向こうにそういうことができる個性がいるってことだ、隔離空間に少人数、これは何らかの目的があって用意周到に画策された奇襲だ…こいつらバカだがアホじゃねぇ」
轟が冷静に場の状況を判断する。同じ考えに至った相澤は素早く皆に指示を出していく。
「13号、避難開始だ。学校に連絡を試せ!センサー対策も頭にあるヴィランだ、電波系の個性が妨害してる可能性がある。上鳴、お前も個性で連絡を試せ」
そう言いながらゴーグルで目を覆い、
しかしそれを相澤はバッサリと一言で切り捨てる。
「一芸だけじゃヒーローは務まらん、任せたぞ13号」
そう言って広場に飛び降りヴィランの軍団に突撃する。ゴーグルで視線を消す事で個性を消されている人物を分からなくする。それによって生じた混乱の隙を使って首に巻いた長いマフラーのような捕縛武器で翻弄する。
「嫌だなプロヒーロー、有象無象じゃ歯が立たない」
首謀者と見られる手をつけた男が首をガリガリと掻きながら、苛立った調子で言う。
その相澤を残し13号と生徒達は出口へ向かうため駆け出す。しかしその前に突如黒いモヤが現れ逃走を防ぐ。そこには確かに二つの光る目があり、個性を持った人間であることを証明している。
「初めまして我々は
嫌に丁寧に、恐ろしい事を述べた
「危ない危ない、生徒といえども優秀な金の卵、私の役目は君たちを散らして、嬲り、殺す」
「ダメだどきなさい!2人とも!!」
13号の声もすでに遅く、皆が敵のモヤに包まれる。
モヤが晴れ、敵が元の形に戻った時、その場には13号、そして7人の生徒のみ。一瞬にして13名の生徒が忽然と姿を消していた。
土砂ゾーン
芦戸は黒いモヤに巻き込まれ、次の瞬間には上空から地面に叩きつけられた。嫌な予感を感じすぐさま立ち上がると辺りを警戒する。そこには一面だだっ広い土砂がつもり、所々に大きな岩が無造作に置かれている。するとその岩陰から無数のてきが現れる。
「おいおい女2人かよ、可哀想になぁ」
「なんだよ、片方はびびっちまって立ち上がることも出来ねぇのか」
「所詮ガキはガキだな、楽勝だぜ」
その言葉にはっと気付く、自分の後ろに美亜がいる事、そして嫌に静かなことに。彼女ならば尊大な態度で言い返してもおかしくないはず、そもそも黒いモヤに囲まれた時も全くの無抵抗だった。
芦戸は振り返る、いつも通り綺麗に佇む美亜がいるはずだと願いながら。きっと今回も策を考え、この危機を脱してくれるはずだと。
しかしそこには割座で地面にへたり込み、両手で頭を抱え、蹲って何かをブツブツと呟いている美亜がいた。普段の自信に満ち溢れた態度、綺麗な姿勢に意志の強い眼、そんな友人の姿は跡形もなくなり、異常なほど震え、ただでさえ白い肌が青白さを増している。
「みっ美亜!ねぇ!どうしたの!!」
必死に声をかけるも全く反応を示さない。ただ狂ったように何かを呟き続けている。その呟きが徐々に大きくなり芦戸の耳にも、敵達にも聞こえた。
「やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやめてやめてやめてやめてやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだいやいやいやいやいやいやいやいや
「美亜ちゃん!」
「おいこいつイカレちまったよ、ギャハハハハハ!」
「さっさと殺そうぜ、気味が悪い」
そう言って敵が個性を構える。ただ馬鹿ではない、芦戸と美亜の個性を警戒し、無策で突撃するような奴はいない。芦戸とっては好都合であったが、美亜を庇いながらこの人数を突破するのは絶対に不可能だ。それに相手は戦闘経験の豊富な敵、このままではいずれジリ貧で殺されてしまう。
こうしている間も美亜の呟きは止まらない、明らかに異常な友の姿に焦りが募るばかりだ。
次の瞬間、ギリギリ視界の端で飛来するバレーボール大の岩石を捉え、咄嗟に腕から酸を出して溶解させる。
(やばっ!個性バレたかも!)
「今岩石が溶けた、あの音は熱か?」
「いや、酸だ!昔見たぜ、体から酸を出す個性の奴!!」
個性がバレたせいで、近づかなければ良いとばかりに様々な個性が集中砲火される。飛来する岩、炎、砂鉄や木を次々と酸で溶かすも敵は遠距離で攻撃できる個性で執拗にこちらの疲労を狙い続けてくる。此方はただの生徒2人、それも1人は完全に錯乱してしまっている。焦れば焦るほど撃ち漏らしが増えて体が傷ついていく。
岩が腕にあざを作り、炎が体を焼き、砂鉄で足から血が流れる。体中が傷だらけで痛み、個性の乱用で目眩が襲う。未だ耐え切れているのは敵が私達を嬲り殺そうとしているからに過ぎず、ただ見ているだけの敵が加われば一瞬で殺されてしまう。
満身創痍で足掻き続ける芦戸を嘲笑する声が周囲から響く。
「ギャハハ!その足手まといを捨てれば逃げられるかも知んねーのによ!」
「ヒーローの矜持ってやつか?馬鹿な奴だ」
「違う!ヒーローの責任とか矜持だとかそんなのは関係ない、私にはそんな事を言える力は無い…それでも、友達だから守るんだ!!」
咄嗟に口を突いて出た叫びに笑い声や呆れた声があがる。生きるか死ぬかの瀬戸際で、くだらない判断によって美亜もろとも命を落とすであろう自分は馬鹿にしか見えないだろう。まるで駄々を捏ねる子供のようで笑われても仕方ないと思う。だけどここだけは譲るわけにはいかない。
中学の時は強力な個性と身体能力の高さで最も強かった。だから雄英高校に入って始めの体力測定で9位に入ったときは悔しさも感じたが嬉しさが勝った。轟や爆豪といった有名人がいるヒーロー科最高峰の雄英高校、その中で9位に入れた。自分はヒーローに成れるんだとこれまでより強く実感した。
しかしその自信は次の戦闘演習で砕け散る。常闇を前に手も足も出ずに終始押され、蛙吹の掠め手を食らった。対して体力テスト14位の美亜が2人を相手取って繰り広げた5分にも及ぶ激戦を見た。本当に凄かった、2人からの集中砲火を疲労を色濃くしながらも一つの撃ち漏らしなく完璧に防ぎ切っていた。その時自分は何をしていたか、急いで上に登ろうとしたところを止められて下の階で天井を溶かしていただけだ。
美亜やオールマイトは言ってくれた。常闇を前に互角に戦った戦闘力、作戦を成功させるのに必要不可欠な個性は見事だったと。
だけど思ってしまった、きっと凄いヒーローになるのは彼女のように多を相手取りながらも冷静に作戦を立てられる、広い眼を持って人に指示を出し勝利に導く、そんな類稀な実力を持つ人なんだろうと。
だけどこれだけは譲るわけにはいかない。ヒーローを目指す以上、芦戸三奈である以上、実力が劣ろうとも、自信を失おうとも、殺されそうになろうとも。
苦しんでる人を守る、友達を守る、それだけは失いたくなかった。ここで引いたら、胸を張ってヒーローに成れない気がしたから。
守ってみろよと言わんばかりに美亜へ岩が飛ぶ。もはや意識は朦朧とし、視界は霞掛かっている。咄嗟に酸で守ろうとするが無情にも炎が相殺する。未だ蹲る美亜へと岩が襲いかかる光景がやけにスローに映った。間に合わない、そう思った時には体が飛び出していた。
鈍い音と共に鮮血が舞う。血に倒れ伏した芦戸は滝のような汗を流しながら苦しむ美亜の姿を右下から見上げる。頭に激痛が走り、痛みに思わず顔をしかめる、生暖かい液体が地面に流れ出しているのが分かった。
そして美亜の頬に流れ落ちる自分の血を見て、肌白いなぁと場違いな事を考えたのを最後に意識を手放した。
頭から血を浴びた美亜の呟きと震えが止まる。
倒れ伏した芦戸に敵から一層笑い声と罵声が浴びせられた。
「本当に庇いやがった!馬鹿だぜあいつ!」
「厄介な奴が倒れた、殺そう殺そう」
「黙れクズ共が………………畜生にも劣る路端に転がる犬の糞以下のカスども…………そんな奴らが私の安寧を脅かそうとする、許せるものか……
肥料にもならない脳漿をぶち撒いて大地を赤く染めてやる…!!」
勢い付いたヴィラン達の喧騒に、突如冷水を浴びせるような怨念の篭った声が響く。爛々と紅く煌く狂気の両眼がヴィラン達を殺さんとばかりに射抜いた。
誰一人として目を離す事は出来なかった。
USJ編突入です。美亜は芦戸と共に土砂ゾーンへ行きました、轟と葉隠も土砂ゾーンに居ますが距離が遠く互いに気付いてないです。轟がいたら一瞬で解決してしまうので…
芦戸三奈ちゃん…ごめんなさい。頑張って!