血濡少女のヒーロー?アカデミア   作:夏秋冬

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注意:R-15 流血表現が苦手な方はご注意下さい




第11話 血濡少女と初めてのUSJ:3

血の上を滑走しながら自分は冷静ではないと美亜は思う。それでも止まれない、あいつらの狙いはオールマイトだ。オールマイトが雄英高校にいる以上、おびき寄せることができて尚且つ足手纏いとなる自分達は確実に巻き込まれるだろう。それを許すわけにはいかない、あいつらだけは今ここで必ず殺すべきだ。

 

遠くから広場を視界に捉える。素早く見渡すとそこにはうつ伏せに倒れ伏す相澤、脳を剥き出しにした巨体の敵がその体を上から抑え右手をへし折っている。やはりあのヴィランが化け物か、だがどうやら指示を出しているのは手の男のようだ。手の男をリーダー格だと判断した美亜は、男の方向に照準を合わせ左腕を後ろに大きく引き絞った。

 

 

「個性を消せる、素敵だけどなんてことはないね。圧倒的な力の前ではつまりただの無個性だ」

 

体中に手をつけた男、死柄木が相澤の向かいに立ち煽る様に笑う。

状況は最悪だ。ギリギリで大量の敵を捌きつつ首謀者らしいこの男を捉えようとしたその時、この脳を剥き出しにした筋骨隆々な敵が信じられないスピードで背後に現れ、地面に叩きつけられた。個性『抹消』を使っても力が緩まない、つまりは素の力がオールマイト並にあるということだ。

相澤の戦闘スタイルは個性を消せるという点で圧倒的なアドバンテージを持ち、その隙を突く。しかし相澤の『抹消』は相手に影響する個性であり、相澤の素の戦闘力を強化できる個性ではない。その為ここまで本体が強力だと、個性を消したとしても生身の相澤では歯が立たない。

 

「対平和の象徴、こいつが改人(かいじん)脳無(のうむ)』だ」

 

そう言って勝ち誇った様に死柄木が嗤う。さらに最悪な事に背後の湖の中で緑谷、蛙吹、峰田の3人が衝撃の光景に固まってしまっている。早く逃げろ、殺されるぞと願うも届かない。もし声をあげようものなら、逃げる間も無く殺されるだろう。それ程にこの脳無は強い。

 

その時、突然死柄木の横に鍵爪の様な巨腕が刺さり、地面を抉った。素早くその先を見た死柄木の目には左腕を縮小させながら、弾丸のような勢いで突撃してくる美亜が写る。再び燃え上がった美亜の眼と死柄木の濁り燻んだ目が交錯する。

 

(勝利を確信した瞬間!それは人が最も油断する時、今しかない。殺す!今、ここで!)

 

自身の持つ最高速度で瞬時に死柄木に肉薄した美亜は、その心臓を貫こうと右腕を血槍に変化させる。突き出した槍の先端が風を切る音と共に死柄木に迫る。

 

「脳無!!!」

 

槍が突き刺さる寸前で脳無が死柄木の前に立ち、抱え込む様に横から槍を両手で掴んで止めた。地に足をついた美亜が押し切ろうと力を込めるがびくともしない。次の瞬間、死柄木が迫る。その手を前に突き出し、掴み掛かろうとしてくる。美亜は大きく舌打ちをすると両腕の個性を解除しその場に血をぶちまける。咄嗟に顔を背け血飛沫を回避した死柄木を蹴り飛ばすと、その反動で相澤の元へ跳んだ。

 

「なぜ来た…死にたいのか……」

 

「相澤先生こそ今にも死にそうですよ?せめて第一声ぐらいは、助けに来たことを感謝して欲しいものだ」

 

なんとか軽口こそ叩いたが内心は焦っている。あの一撃は必ず死柄木の心臓をブチ抜くと思った、それほどに自信のある最高速度の一撃。あろうことかそれを横から掴んで止めるなど常人のできる技ではない。あの脳無が見せた恐ろしい速度、力、間違いなく自分達とは次元が違う。動悸が荒くなり、汗が頬を伝う。

そこに背後から声がかかる。

 

「ち、千染さん!?腕が!!」

 

「緑谷!何故そんなところに」

 

そこには湖から顔だけを出す緑谷、蛙吹、峰田がいた。両腕が無くなった美亜の姿に驚愕している。まずい、この3人は足手纏いになる。この化け物と全力で戦えば個性を晒す事になるし、何が起こるか分からない。そもそも3人を守りながら戦うのは不可能だ。全力で頭を働かせて策を練る。

 

「3人に頼み事がある」

 

「碌な事じゃない気がするけど、いいわ」

 

「蛙吹、相澤先生を運んでできるだけ遠くに逃げろ。緑谷と峰田は蛙吹を守りつつ共に行け、助けに来るまでとにかく遠くへ逃げ続けろ」

 

「え!でもそれじゃあ千染さんはどうするの!?」

 

「私なら大丈夫だ、早く行け!」

 

何かに気圧されたかのように怯えた3人、しかし我に帰ると蛙吹は舌で相澤先生を持ち上げ湖を泳いで逃走を図る。

去っていく4人が離れた事を確認すると立ち上がって敵を見据える。話している間も油断なく見ていたが、全く動く気配が無かった。それがより一層不気味さを掻き立てる。死柄木は何やらブツブツ言いながら首を掻き毟っており、脳無は不気味に横に佇んでいる。

 

「あぁ、蹴られた、なんの躊躇もなく殺しにきやがった…正義を傘に振るう暴力は気持ちいいか?クソ女……」

 

「あ?黙れ。正義だのなんだのを語るとは敵の癖に随分な頭をしているんだな。そんな下らないものの為に戦う訳がないだろう」

 

顔を上げた死柄木と視線が交錯し、向けられた鋭い暴言に苛ついて皮肉で返す。その間にも油断なく特徴を見据え個性を想像する。

 

(あいつはさっきの一撃を防いだ時、顔につかみかかろうとした。恐らく触れることで発動する個性?脳無とか言うやつは分からん。とにかくすごいスピードと力、単純な力押しが1番まずい)

 

敵は私の眼を見つめたままなぜか動かない、ありがたく分析させていただくが謎だ。

 

その時死柄木は、その紅く染まった眼を見て底無しの沼にじわじわ沈められているかの様な不快感と恐怖を感じていた。あり得ないとばかりにさらに強く睨みつけ問いかける。

 

「お前…なぜ雄英にいる?」

 

「意味がわからん、何が言いたい」

 

答えながらもじわじわと体内から血を流し腕を再び形成していく。繊維のような細い血が、複雑に絡み合って普段の腕と同じ大きさになっていく。その間もヴィランの苛立ちは募っているようで、首を掻き毟っている。

 

「お前のその目、俺らと同じ目だ…あぁ……不快だ。お前は殺そう。脳無…やれ…」

 

死柄木が指示を発するとそれまでだらりと止まっていた脳無が急に動き出し一直線に突撃してくる。とんでもないスピードだが油断なく視界に捉えていたためギリギリで反応でき、その場で鋭く腕を振り上げる。

 

「死ね…血槍!!!」

 

美亜の前の血溜まりから巨大な槍が突き出る、このまま脳無は自分のスピードを活かして正面から槍に突き刺さると思われた。

しかし脳無はその驚異的な身体能力にものを言わせギリギリで体を逸らす。それでも勢いを殺し切れず、左半身を貫かれ、大量の肉を撒き散らしながらバランスを崩し前のめりに倒れ込む。腕どころか左半身が槍で抉れ、消しとんだ。

回避されると言うイレギュラーはあったもののあれは即死だ、そう考えた美亜は脳無を無視して死柄木を殺すべく真っ直ぐ駆け出す。未だ動かない死柄木に迫り、右腕を刀の様に鋭く変える。道中の血溜まりを滑って加速するとそのまま飛びかかった。

不気味な青白い首に刃が迫り、振り抜けば今度こそ首を刈る。しかし刃が迫る中で死柄木は不敵に笑っていた。美亜は得体の知れない悪寒に襲われ、直感に従って咄嗟に両腕を左でクロスさせる。

左から脳無の拳が不可避の速度で振り抜かれる。巨腕とオールマイト並のパワーで殴られた美亜は体中からボキバキと嫌な音をたて右に吹き飛んだ。全身が軋み、一瞬で意識が刈り取られそうになる。口から吐き出された鮮血が死柄木に降り注いだ。

 

「なんだよ気持ち悪いな……だが死んだ。呆気ない」

 

吹き飛び、力を失った美亜は血を撒き散らしながら壊れた人形の様に転がり続け、地面に投げ出される。そのままぐったりと動かなくなった。体からは大量の血が流れ出し、瞬く間に地面に血溜まりを広げる。おそらくは全身の骨が折れ、肉が裂け、臓器はぐちゃぐちゃだろう。生意気なことを言ってきたが所詮はただのガキだったか、と興味を失った死柄木は周囲を見回す。

相澤の逃げた方へと向かおうとした時、黒いモヤが出現し黒霧が現れる。

 

死柄木弔(しがらき とむら)、13号は行動不能に出来たものの散らし損ねた生徒がおりまして…その1名に逃げられました」

 

「は?はーーーー。黒霧お前…お前が『ワープゲート』じゃなかったら今頃粉々にしていたよ」

 

死柄木は首を掻き毟り苛立ちを黒霧にぶつける、しかし突然動きがピタリと止まり、まるで散歩から帰るかの様な気軽さで言葉を発する。

 

「流石に何十人ものプロ相手じゃ敵わない、ゲームオーバーだ、あーあ、帰ろっか」

 

「時に死柄木、その浴びている血は何ですか?」

 

「あ?あぁ、あそこに転がっている女、一人で突っかかってきたから脳無で殴り飛ばして殺した」

 

黒霧もすぐに興味を失う。ただの生徒が脳無に殴られたのだ、即死だ。

そしてワープゲートで帰ろうとした2人と脳無。

 

突如恐ろしい程の殺気が叩き込まれ、周りの血溜まりから無数の槍が死柄木に向かって飛び出す。ギリギリで反応した脳無が槍を体に受けつつも辺りの血溜まりから死柄木を抱えて距離を取る。空を切った槍はそのまま虚空で弾けて鮮血の雨を降らせる。苛立ちを隠せずに首をガリガリと掻きむしりながら、夥しい殺気の発生源である死んだはずの女を睨む。

 

「おいおい、あの一撃で死なないとか本当に人間かあいつ!化け物だろクソが!」

 

「殺したんですよね、個性でしょうか?」

 

そこには両腕、口、腹の裂傷からおびただしい量の鮮血を流しながら立ち上がる美亜がいた。紺桔梗の髪はすっかりボサボサになり血が大量に付着し重そうに垂れる。足は骨が折れている為かガクガクと震え、腕は力なくダラリと垂れる。背中も大きく丸め、まるでゾンビのようだ。そんな中、紅い眼だけが死柄木をじっと見据えている。

再び両腕に血が集まり今度は巨大な血腕が形成される。さらに腹の裂傷部分を血が覆い尽くした。死柄木を先程より更に燃え上がった紅い眼が睨みつけ、震える足で一歩、また一歩と距離を詰める。

 

「クソッ!脳無、今度こそあいつを殺せ!」

 

思わず一歩後ずさった死柄木は脳無に指示を出しつつ自身は血溜まりから離れる。

再び突撃する脳無、次々と血溜まりから槍が出現し襲いかかる。何本かが脳無に刺さり、その肉を抉って貫通する。しかし開いた穴は直ぐに周りの肉が集まって『再生』する。体中に無数の穴を開けながらもそのスピードは一切緩む事なく、美亜に肉薄した。距離を取ろうとするも折れた足では踏ん張りが効かず、振り抜かれた拳を両腕を犠牲にしてガードする。再び両腕が弾け血が撒き散らされる。体は吹き飛び、地面に転がり倒れ伏す。

しかし今度は脳無が攻撃の手を緩めない、確実に殺すべく倒れた美亜の身体に馬乗りになると上から拳を打ち込む。鈍い打撃音と共にバキッ!グシャッ!と何かを潰す嫌な音が広場に響く。一撃ごと血が噴水の様に飛び散った。

今度こそ確実に死んだ、ミンチだ。そう誰もが思う頃、脳無が死柄木のもとに戻る。拳には大量の血や肉が付着しており地面にボタボタと垂れる。

 

「おい!その血は振り払ってこい、クソッ!血の匂いで吐きそうだ…」

 

戦闘した広場の一角は元の白かった床が見えないほど紅く染まり、血の匂いが色濃く漂っている。惨状という言葉が生温いほどの光景に敵すらも顔をしかめる。

 

しかし今度こそ死んだ、そう思っていた死柄木の耳にあり得ない声が聞こえる。

 

「殺す、殺す!殺す!!」

 

そこにはかつての美しい姿は微塵も無い。全身は頭の上から爪先まで血で覆われ、血の赤の中で嫌に目立つ紅い眼だけが燃え上がる。もはや人間とはいえない姿をした化け物が立っていた。

あり得ない、あれは人間ではなくまだ脳無だと言われた方が理解できる。そう考え恐怖を覚えた死柄木は上擦った声で脳無への三度目の指示を与える。

 

「死んでいない、脳無と同じ『再生』の個性ですか!?ではこの『操血』はいったい?」

 

「殺せ!あいつは危険だ!殺せ!!」

 

脳無が超スピードで迫る。その動きに美亜は一切反応できず、そのまま両手に全身をつかまれる。美亜を握りしめて持ち上げた脳無は力を込める。骨が折れる音が鳴り響き、美亜の口や鼻、耳から血が溢れ、眼からも血涙が流れ出す。

 

「がっ!ああっ!ゲボォ…ぐぉぉぉ!ガボォ!!」

 

「死柄木!強力なレア個性かもしれないですよ彼女。先生が欲しがる可能性があります!」

 

「だとしてもあいつは殺す、そもそも気色悪い。脳無よりよほど化け物だ」

 

聞くに耐えないもはや声とも言えない音が美亜の口から発される。何かを叫んでいるが溢れる自身の血で溺れてわからない。脳無の指の間からも血が染み出してくる、今度こそ確実に命を奪わんと腕に力が入った。

 

「手を離せ!!SMAAAASH!!!」

 

そう叫びながら緑谷が脳無に渾身の一撃を叩き込む。鈍い打撃音が鳴り響く。緑谷が『ワン・フォー・オール』を使い美亜を助けるべくたたき込んだ渾身の一撃だ。自身の100%の力を叩き込まれた脳無が吹き飛ばされると思った緑谷だったが、びくともせずに緑谷を見下ろしている。

 

「えっ、効いて…ない??」

 

あり得なかった、『ワン・フォー・オール』はオールマイトの力、その100%はオールマイト程ではなくてもかなりの威力だ。それが効かないと言うことは物理攻撃を無効化する個性の可能性が高い。緑谷にとって最悪の相性だ。

それを見て更に死柄木が苛つき首を掻く。

 

「クソ、邪魔者が次々と…!お前…スマッシュってオールマイトのフォロワーかい?まぁいいや、そいつも殺せ脳無」

 

脳無の左腕がゆっくりと振り上げられる。緑谷は死を直感し足がすくんで動けなくなった。しかし振り下ろされた腕の動きが止まる。死にかけの美亜が強い眼で脳無を睨みつけながら壊れた様に叫び声を発し始めた。

 

「殺す…殺す…殺す、殺す!コろす!コロす!!コロス!!!コロス!!!」

 

狂気と殺気が撒き散らされる。無差別にぶち撒かれたそれはまるで実体を持つかの如き圧で迫る。その声に呼応するかの様に広場に広がった血溜まりが波紋の様に振動し、徐々に浮かび上がる。死柄木、黒霧は警戒して辺りを見渡す。脳無は美亜を放り出して死柄木を守るために側に着く。放り出された美亜は地面に力なく倒れ伏すが、その口からは呪詛の声が響き渡る。周囲の血が無数の糸のように伸び美亜へと向かう。

 

その時轟音と共にUSJの出入り口のドアが吹き飛んだ。美亜以外の全員の目が向けられ、土煙の中からNo1ヒーローが現れる。

 

「もう大丈夫。私が来た」

 

「待ってたよヒーロー。社会のゴミめ。あーコンティニューだ…」

 




読んでいただきありがとうございます。
USJ編は次の回とエピローグで終わりとなります。
書いていたら1万字を超えてしまったの2話に分ける事にしました。
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