燦然と現れたオールマイト、その表情はいつもの笑顔ではなく憤怒に染まり圧倒的な威圧感を放っている。
その姿を見た麗日や瀬呂、砂藤らは待ちに待ったヒーローの到着に涙を流す。彼らは出入り口で黒霧にやられた13号を守っていたのだ。その姿を見てまだ広場に残っていた下っ端敵達がオールマイトを殺そうと動き出す。
その瞬間、オールマイトが掻き消えた。一瞬で残った敵達を昏倒させるとそのまま死柄木に一撃を入れつつ美亜と緑谷を抱えて入り口の方へと距離を取る。
オールマイトは美亜をそっと地面に下ろす。余りにも無残な姿だった。意識はとうに失われ、体はぐしゃぐしゃに潰れ両腕は無く、足は折れているのか力なく投げ出されている。美しかった顔もボールの様に腫れ、辛うじて息をしている状態だ。全身の至る所が裂け、流れすぎた血でもはやコスチュームと肌の見分けが付かないほどになっていた。辺りを見渡すと一面に夥しい量の血が飛び散っている。美亜を救った自分の右腕にも夥しい量の血がべったりとついている。
「飯田少年から聞いたよ、相澤君が一人で戦っていると。彼は今どこにいる?そしてこの千染少女はどうして…」
「オールマイト…相澤先生があの脳無にやられた後、千染さんが
「それで…こんな傷を……」
その余りにも惨い惨状にオールマイトは怒りが湧き上がってくるのを感じる。この子はいったいどんな気持ちで一人で立ち向かったのか、皆を守る為に死地へ赴く、とても15歳の少女がやっていいことじゃ無い。怖かったはずだ、痛く、苦しく、きっと想像ができないほど傷つけられたのだろう。
だからこそ自分に腹が立った。自分がもっと早く来ていれば、守る力が有れば…
美亜の顔に自身の着ていたシャツを掛けると笑顔で指示を出す。
「緑谷少年、千染少女を頼んだ。かなり危ない、入り口まで背負って行ってくれ!」
「オールマイト、ダメです!あの脳無、僕の渾身の一撃が全く効きませんでした。恐らく衝撃を吸収します!」
それでも、だからこそオールマイトは再び笑ってピースサインをしつつ緑谷に答える。
「緑谷少年、大丈夫!」
そう言い残して脳無へと突っ込んでいく。
緑谷は美亜を担ぎ出入り口への階段へと向かう。背中にべったりと美亜の血が着くが構っていられない。
自分だけが知っているオールマイトの秘密、オールマイトは既に今日登校前に三件の事件を解決している。更にオールマイトが来れないと言う話の時に13号先生が相澤先生に見せた3本の指、あれはきっと活動限界が近いと言うことだ。オールマイトは今ピンチなんだ、だからこそ笑顔で僕らを安心させようとしている。
階段を降りて迎えてくれた麗日や砂藤に美亜を預ける。友人の余りの惨状に顔色を真っ青にして心配する二人を残して緑谷は脳無へ駆け出す。
2人の静止を振り切って向かうも黒霧に見切られてしまう。緑谷の前に黒霧が一瞬で現れ霧を広げて捉えようとする。
その時、爆音と共に爆豪が現れ黒霧を地面に押さえつけた。
「どけ!邪魔だデク!!!」
更に切島が死柄木に斬りかかり、轟が脳無を凍らせて掴まれていたオールマイトを援護する。1-Aの最高戦力の2人だ。
「今のうちに、砂藤くん!美亜ちゃんを上に!!」
麗日と砂藤は『無重量』で美亜を軽くして慎重に上へと運ぶ。運んでる間にも血が止まらず流れ落ち、明らかに危険な状態だ。オールマイトが顔にシャツをかけたことから顔の状態も想像に難く無い。
上に運ばれ、慎重に下された美亜を瀬呂がテープで止血する。怪我をした所を全身をぐるぐる巻きにすると、まるでミイラの様な状態になった。
更に腕が両方とも無くなっている。
「な、なぁ…千染、大丈夫だよな??」
「やばい…息が薄い」
美亜にテープを巻き、適切な処置を施した瀬呂もクラスメイトの惨状に絶望感を強くする。死にそう、というより既に死んでいてもおかしくはない。むしろ何故生きているのか不思議だ。変わり果てた姿の美しかったクラスメイトに障子、砂藤らも顔色を悪くし、麗日はもはや泣き出している。
轟音と共に天井を何かが突き破る。広場を見ていた障子が脳無がオールマイトのパンチで吹き飛んだと皆に伝える。その直後、入り口の方から大勢の足音が聞こえ、銃声が数発響く。
「ごめんよ皆、遅くなったね。すぐ動けるものをかき集めてきた」
「1-Aクラス委員長飯田天哉、ただいま戻りました!!」
13号先生や皆の必死の頑張りで脱出に成功した飯田が、教員達を10人以上連れて戻ってきたのだ。スナイプが残った敵へと銃弾を正確に打ち込み、動きを封じる。
「あーあ、来ちゃった…ゲームオーバーだ。帰って出直すか黒霧」
そう言ってワープゲートで帰ろうとした死柄木の手足の関節を的確に銃弾が撃ち抜く。スナイプの個性は『ホーミング』遠距離の相手でも位置を正確に把握して狙撃を行える個性だ。更に13号先生が力を振り絞り黒霧をブラックホールで吸い込もうとする、しかし間に合わない。
「今回は失敗だったけど、今度は殺すぞ。平和の象徴オールマイト」
そう言い残して死柄木と黒霧はワープゲートの向こうへと消えた。
「なんてこと、こんな派手に侵入され主犯格と思われる2人に逃げられちゃうなんて」
「完全に虚を突かれたね、それより今は生徒の安否さ」
広場の惨状を見て嫌な予感を覚えた根津が生徒の安否を確認しようとした時、その予感が的中していた事が分かる。泣きじゃくった麗日や真っ青になった砂藤らが必死に先生達に叫んでいるのだ。
「みっ、美亜ちゃんが!美亜ちゃんが!!!」
そのただならぬ雰囲気に駆け寄った先生達は恐ろしいものを見る。全身に巻かれた止血用テープはすっかり赤黒く染まり、両腕は無く、足は添え木されているがそれが意味を為さないほどに潰れ、粉砕骨折しているであろうことは見れば明らかである。顔にはシャツがかけられ、恐らく見るに耐えない状態なのだろう。
そこには生きているのかすら怪しいほど重症の生徒がいた。
「おっ、おい!まさか千染か!嘘だろ!!!」
「生きているのよね?大丈夫なのよね!?」
流石の雄英教師陣も取り乱す。彼らの長いキャリアでもここまでの重傷者は見たことがない。駆け寄ったブラドキングにより息が確認されると急いで指示が出される。
「早く!最優先で病院へ運ぶんだ!」
根津校長の焦った声で美亜は運ばれていく。その後蛙吹と峰田によって運ばれてきた相澤と、両足を骨折した緑谷も救急搬送されると残る生徒達の安否確認が行われた。
土砂エリアに居た芦戸、上鳴、耳郎、八百万を採掘系の個性を持ち、土砂、山岳エリアの捜索に向いているパワーローダーと『分身』の個性を持つエクトプラズムが救出に向かう。大雨・暴風エリアに居た常闇、口田を鼻が効くハウンドドックとブラドキングが回収する。尾白は知らぬ間に怪我なく無事に戻ってきていた。
根津校長は千染、緑谷以外の生徒が無事だったことにとりあえず安心する。
(死者が出なくてよかった…なんてとてもじゃ無いけど言えないね。千染さん、果たしてこれは死んで無いと言えるだろうか)
根津校長の個性は『ハイスペック』、珍しい事にネズミに個性が発現し、言葉を話し人間以上に頭の回るネズミとなった。
そんな彼が頭を働かせるまでもないほど目の前には凄惨な光景が広がっていた。広場の一角が赤く染まっている。間違いなくあそこで戦闘が行われたのだろう。彼女の状態と相まってあれが全て彼女の血なのではないかと考えてしまう。常識ではあり得ないことだ、常人ではこの量の血は流せない。ただ相澤から聞いた彼女の真の個性、血を増幅させる力、それができるならこの惨状にも不可能では無い。
もし本当にそうであるならばここでどの様な戦闘が行われたのか、何度死にかけたのか、もはや戦闘ではなく虐殺である。
予兆はあった。あのセキュリティが突破された事件、間違いなく敵連合が主導だ。マスコミに紛れて時間割と担当教員の情報を得る。校舎から遠く、生徒と相澤、オールマイトしかいない隔離されたこの状況を狙ったのだ。
ここまで用意周到に作戦を遂行した敵連合、これで終わりなんてことはあり得ない。今はなによりもセキュリティの強化が必要となる、そう考えながら到着した警察の対応に向かった。
横浜の某所にある雑居ビル、その中に入っているバーの床にワープゲートで現れた死柄木が倒れ伏す。
「ってえ…両手両足撃たれた…完敗だ…」
そう言いながら地面に転がる。苛つきが治まら無いが手が動かない。その苛立ちを一台のモニターを睨み付けることでぶつける。
「脳無もやられた、手下どもは瞬殺、子どもも強かった…平和の象徴は健在だった…!
話が違うぞ先生…!」
『違わないよ』
バーのカウンターに置かれたモニターから声が発せられる。『先生』そう呼ばれた男はモニター越しに死柄木をまるで教え、諭すかの様に語りかける。
『ただ見通しが甘かったね』
『うむ…舐めすぎたな、敵連合なんていうチープな団体名で良かったわい。ところでワシと先生の共作、脳無は回収してないのかい?』
そこにもう1人の年老いた声が重なる。『ドクター』と呼ばれる男だ。問いかけに対し黒霧がそんな余裕はなかったと言う説明と謝罪を述べる。
『せっかくオールマイト並みのパワーにしたのに…まぁ仕方ないか、残念』
まるで脳無の事をなんとも思ってないかの様にあっさりと口にする。
死柄木は少しだけ冷静になると思い出したかの様に話す。
「そうだ、あの何度殺しても死なない忌々しいクソ女…それにオールマイト並みの速さを持った子供がいた…」
その話に興味を持った先生が続ける様促す。
『へぇ…何度殺しても死なない?』
「あのクソ女がいなければ厄介なイレイザーヘッドを殺せた。あの女…脳無でボコボコに潰したはずなのに生きてやがった…何度も向かってきて、気味が悪い。思い出しただけでも吐きそうだ…
それにあの地味な男…あいつさえいなければクソ女とオールマイを殺せたかもしれない…
ガキがっ…あのガキ…!」
『悔やんでも仕方ない!今回だって決して無駄ではなかったハズだ!我々は自由に動けない!だから君の様なシンボルが必要なんだ。
死柄木弔!!次こそ君と言う恐怖を世に知らしめろ!」
そう言って通信を切った先生と呼ばれる男。
彼はオールマイト殺しが失敗したにも関わらず愉しそうに笑う。
彼は今回の作戦が成功するとは思っていなかった。死柄木弔は自分の後を継ぐ存在であると考えている彼は育成の為に今回の事件を起こしたのだ。敗北、失敗それは必ず成長の糧となる、今回は無事にら帰ってきただけでも十分なのだ。
それに加えて何やら楽しそうな情報を持ち帰ってくれた。オールマイト並みのスピードとパワー、そして何度殺しても死なない女、実に興味が湧く。
闇に潜む巨悪は愉快そうに大きく笑った。
4話に渡ったUSJ編、読んでいただきありがとうございます。USJ編は次回エピローグを書いて終了となります。
もしかしたら1週間程投稿期間を開けるかも知れませんが、読んでいただけると幸いです。