血濡少女のヒーロー?アカデミア   作:夏秋冬

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第17話 血濡少女と体育祭:第一種目 前編

 

 

あっという間に2週間が過ぎ去った。

この2週間、美亜は課題の体力や筋力を底上げする為、拳士に鍛えてもらいながら過ごした。

脳無相手に全く歯が立たなかった。距離が開いている内は槍で近づけまいとしていたが、あの再生能力の前では無意味、直ちに距離を詰められてしまう。近づかれてからは抵抗もできずに一方的に殺されかけた。もし相澤の言う「自分を守る為の戦い方」を考えるとすれば、拳が届く間合いでいかに戦う事ができるかが鍵となる。

美亜の近接戦闘能力は決して低い訳ではない。雄英高校の一年生の中でも中位に位置する程の実力はある。ただ相手が脳無クラスの化け物を想定している為、体育祭までの2週間で新たな個性の使い方を開発、実戦投入する事は不可能だと美亜は考えた。

それよりも基礎体力や体術を鍛えるべきだ。体育祭に興味は薄いが、出るからには負けたくない。それにTVで見るであろう熱犬孤児院の皆に、あまり心配をかけたくないという思いもある。

かなり厳しい特訓を受け、確かな充実感を持って体育祭を迎える。

 

体育祭当日、雄英高校は厳しい入場検査を受けたマスコミやヒーロー、一般客で溢れかえっていた。

聞こえてくるのは1-A組を注目する声。例年ラストチャンスに賭ける三年生が注目されるが、今年は敵の襲撃を耐え抜いた1-A組がいる1年ステージも多くの熱い視線が向けられる。

 

出場者の生徒達は各々のクラスに分けられて控え室で入場の時を待っていた。

皆がそれぞれの方法で緊張を解きほぐそうとしている。芦戸も美亜に話しかけて気を紛らわせる。

 

「美亜ちゃんのチョーカー、可愛いねー。どうしたの?」

 

「あぁ…これか。人に頼まれたんだ、着けたくなかったんだけどな…」

 

美亜はその白い首に巻き付いた黒のチョーカーを撫でながら嫌そうに返す。そんな2人の会話に尾白が入る。

 

「へー、そういうのって認められるんだな。コスチューム同様禁止されてるのかと思ったよ」

 

「私も頭に何かつけてくればよかったかなー」

 

雄英高校体育祭ではコスチュームの着用は禁止されている。多くの注目が集まるこのビッグイベントで、コスチュームを着てアピールできれば更に多くの注目を集めることができるだろう。しかしそれではコスチュームを持たない普通科やサポート科など他学部が圧倒的に不利になる。

サポート科はアイテム製作を学ぶ科なので、例外として自分で作ったアイテムの使用が許可されている。この場を使って能力をアピールするためである。

 

「確かにそうですわ。サポート科では無い私達はアイテムの使用は禁止されていますよね」

 

「申請したら特別に通ったよ。機能や不正の可能性を確認して勝敗に影響しないと判断したんだろう」

 

横に座った八百万の問いかけに美亜は答える。ヤオモモのコスチュームは刺激が強すぎるから着れないね、と芦戸に茶化されて不思議そうに首を傾げている。

そんな会話に耳を傾けて相槌を打っていると峰田が息を荒くハアハアしながら近寄って来た、目が血走って見開かれていて非常に気持ち悪い。

 

「チョーカーって…エロいよな…千染の白さを強調してて…」

 

「はぁ、開会式前にそんなふざけたことを考えるメンタルだけは立派だな」

 

「だろ!ご褒美でもっと見せてくれ!ほらちょっと首を傾けて!見せつけるような感じで!その視線いい!オイラのリトル峰田がグハァ!!」

 

蛙吹の伸びた舌が峰田を横薙ぎに吹き飛ばした。ビンタが炸裂して壁に激突した峰田は地面に転がり、追撃とばかりに女子にボコボコにされている。

 

「あんなのは早めに対処するのよ、美亜ちゃん」

 

「ありがとう梅雨、気を付けよう」

 

「あれ死んでないか?本番前に死んだら元も子もないだろ。いや本番でも死なないんだけどさ…」

 

生徒全員が峰田にドン引きしている中、苦笑いしながら尾白が呟いた。ボコボコにされた峰田は何故か幸せそうな顔で倒れ伏している。

 

「皆、準備は出来ているか!?もうじき入場だ!!」

 

控え室に飯田の声が響く。ふざけた事をしている間に入場時間が近づいてきたらしい。暇つぶしとしては良かったなと美亜が考えていると突然轟が緑谷を呼び止める。

 

「緑谷、お前には勝つぞ」

 

轟の突然の宣戦布告に切島が宥めようと肩を掴む。しかしそんな切島を無視して緑谷へと鋭い視線をぶつける。宣戦布告を受けた緑谷は弱々しく何かを呟いていたが、最後には強い覚悟を目に抱いて轟に返す。

 

「皆…他の科の人も本気でトップを狙ってるんだ。僕も本気で獲りに行く!」

 

強い覚悟で轟の宣戦布告を受けた緑谷に美亜は感心した。緑谷は普段こそ弱気でなよなよして居るが、戦闘演習の時も爆豪に真正面から受けて立ち、敵襲撃の際も脳無へと一撃をくらわせた。ここぞという時の肝が座って居る。2人を見ていた美亜は自分の用事を済ます為に席を立って出口のドアに手をかける。

 

「お前もだ…美亜」

 

「ん?あぁ、私は少しトイレにだな…」

 

突然轟に声をかけられ思わず見当違いな事を答えてしまった。相変わらず緑谷と熱い視線を交わしていたので、まさかこっちに話しかけてくるとは思わなかったから仕方がない、と自分に言い訳をする。こちらに顔を向けた轟も思わずフリーズしてしまった。

一瞬静かになった後、控え室が爆笑に包まれた。

 

「いやー!最高!超おもしれーよ!」

 

「なんでそう返すの!カッコつけるとこでしょ!天然過ぎるって!」

 

「轟…ドンマイ…」

 

「美亜さん、あまり女の子がそういう事を言うものではありませんわ」

 

轟の宣戦布告に緊張感が高まった皆が笑顔に変わる。当の轟は少し顔を赤らめて恥ずかしそうに顔を背けてしまった。瀬呂と上鳴が仕切りに肩を叩いてドンマイと笑う。

美亜は先程までとはガラリと雰囲気が変わり、賑やかになった控え室を後にしてトイレに向かった。無人の廊下を歩いていると後ろからパタパタと足音が聞こえる。

 

「待って美亜ちゃん!」

 

美亜が後ろを振り返ると、芦戸が急いで追いかけてきたからか少し頬を上気させている。

表情が強張って、何かを言い淀んでいる。そんな芦戸から何かを待つように美亜もじっと動かない。やがてよし、と頷いて顔を上げた。

 

「私も…美亜ちゃんに負けないよ」

 

「その表情、嫌いじゃ無いぞ。そうだな…体育祭が始まったら…私達はライバルだ」

 

美亜は少しだけ眼を見開いた後、そう言い残してトイレに入った。

 

控え室に戻ってきた美亜、肘丈のジャージから見える両腕は既に血腕と成っている。個性把握テストの時も、戦闘演習の時も右腕しか使っていなかった血腕を両腕に出した。それだけで皆美亜も本気だと感じる。

 

「時間だ!行こう、皆!!」

 

飯田の一声で皆が控え室から出る、皆一様に凛々しく引き締まった、本気の表情だった。

 

 

12万人が入る体育祭会場は満員に埋まり、今か今かと待ちわびる観客の喧騒が鳴り止む事を知らない。そんなスタジアムにプレゼント・マイクの声が響き渡る。

 

『さぁお待ちかね!1年ステージ、選手の入場だ!!』

 

無数の視線やカメラが入場ゲートに向けられる。喧騒はより一層大きくなる。

 

『雄英高校体育祭!!ヒーローの卵たちが我こそはとシノギを削る年に一度の大バトル!!どうせてめーらアレだろこいつらだろ!!?敵の襲撃を受けたにも拘らず鋼の精神で乗り越えた新星!!!』

 

スタジアムへと繋がる廊下の先に眩しいほどの光が見える。一歩一歩近づくほどに聞こえてくる煩いほどの歓声が、自分達がどれほど注目されてるのかを認識させる。

皆の目に迷いは無い、ある者は堂々と、ある者は太々しく、ある者は余裕の笑みを浮かべながら歩く。

 

『ヒーロー科!!1年!!!A組だろぉぉ!!?』

 

その言葉を合図にスタジアムへと出陣する。眩しいほどの無数のフラッシュが焚かれ、歓声が爆発する。360度どこを見渡しても客で埋まっている、想像以上の人数とその盛り上がりに皆再び緊張してしまう。

キョロキョロと辺りを見回した麗日が美亜に話しかける。

 

「わー、すっごい人!緊張するね美亜ちゃん」

 

「確かに凄い客の数だ、流石に緊張するな」

 

「それ本当?表情変わってなさ過ぎるけど」

 

緊張すると言っているが美亜の表情はいつも通り何の変化もない。背筋を伸ばし堂々と歩いている美亜に耳郎が冷静に突っ込む。

 

「そうか…確かに顔に出づらいと良く言われるが」

 

「だろうね、似合ってるから良いんじゃない?一回ぐらい恥ずかしがっている美亜を見てみたいけどね」

 

体育祭とは全く関係ない話を始めた美亜と耳郎、まるで昼休みに喋っているかのような様子だ。そんな2人に周りの生徒は、耳郎も十分凄いぞ、と心の中で思っていた。

 

 

1年生が全員フィールドに整列する。その前の壇上にミッドナイトが登り、ムチを鳴らした。

 

「選手宣誓!!」

 

相変わらずとんでもない格好をしている。18禁ヒーローと呼ばれているだけあるなと美亜は思う。ただ、 レディーなんとか(Mt.レディ)もそうだが恥ずかしくないのだろうか。そんな美亜の心境を代弁するように横の常闇が18禁なのに高校にいていいものか、と呟く。峰田がすぐさまいい、と答えている。

ざわつき始めた生徒をムチをもう一度鳴らす事で黙らせたミッドナイトは選手代表を壇上に呼ぶ。

 

「選手代表!1-A、爆豪勝己!」

 

「え〜、かっちゃんなの!?」

 

「あいつ一応入試1位通過だからな」

 

意外そうな声を出した緑谷に瀬呂が答える。爆豪はそんな声を他所にポケットに手を突っ込んだまま気怠そうに壇上に上がる。あまりに太々しい態度に自然と皆の視線が集まり、どんな宣誓をするのと期待と不安が高まる。

 

「せんせー、俺が1位になる」

 

「絶対やると思った!!」

 

気の抜けた声で堂々と宣言する爆豪に切島の鋭いツッコミが響いた。それを皮切りに1年生から大ブーイングが上がる。他のクラスや科だけでなく、A組の面々からも敵を作るその態度に文句が上がる。それを睨みつけながら'せめて跳ねのいい踏み台になってくれ'と親指で首を掻き切る動作をしてさらに煽る。

壇上から降りてきた爆豪が美亜の横を睨みながら通る。

 

「良かったぞ爆豪」

 

声をかけた美亜の横をフンッ!とつまらなそうに鼻を鳴らして通り過ぎていった。

 

選手宣誓を終えていよいよ第一種目、壇上にスクリーンが投影されるとミッドナイトが高らかに発表する。

 

「さーて、それじゃあ早速第一種目いきましょう。いわゆる予選よ!毎年ここで多くの者が 涙を飲むわ(ティアドリンク)!!さて運命の第一種目!!今年は… 障害物競走(コレ)!!!」

 

スクリーンに映し出された障害物競走の文字、スクリーン必要なのか?と美亜が首を傾げている間に説明が続く。

 

「計11クラスでの総当たりレースよ!コースはこのスタジアムの外周約4km!我が校は自由さが売り文句!コースさえ守れば何をしたって構わないわ!

さあさあ位置につきまくりなさい…」

 

スタジアム外へと繋がるゲートの1つが開く。生徒たちはぞろぞろと歩いてスタートラインについた。やはり皆少しでも前の方に陣取ろうと早歩きで向かう、美亜は悠々と歩くと後方のグループについた。

 

生徒全員が位置についた事を確認するとゲート上の3つのランプの内1つが消える。

美亜は自分の両手を見下ろし、握ったり開いたりして感覚を確かめて首のチョーカーを撫でる。

 

(無様な姿を晒すわけにはいかない、きっとテレビの前で見ているはずだ。美波、拳士、風斗、かおり、心配しながらも送り出してくれた皆が…)

 

明かりがまた一つ消える。周りの緊張感が高まるのが分かる。

美亜は眼を瞑って大きく深呼吸し、腕の力を抜いてだらりと下ろす。思考が明瞭となり冴え渡る。皆がスタートの合図に身構え、前を見据えた。

 

そして最後の明かりが消える。

 

『スターーーーート!!』

 

合図とともに皆我先にと駆け出す。美亜も眼を見開くと両腕を後ろに引き絞り、全力で前方へと伸ばした。細く伸びた出口、その壁に爪を突き立てると全力で腕を縮めた。スリングショットの様に弾き出された美亜はそのまま出口の細道を突き抜け、競技場から飛び出して行った。

 

 






熱犬孤児院では皆がテレビの前で齧り付いて見ています。
美波と拳士の2人は美亜の出場に対し反対していましたが、「必ず美亜の将来の為になる」とのマイクの説得で渋々条件付きで出場を許可しました。2人としても体育祭優勝者、3位入賞者として、どれだけ自分を成長させてくれるか理解している為、そこまで強くは反対できなかったようです。
風斗とかおりは何にも知らないので純粋に応援しています。いつになく目を輝かせテンションの高い風斗は、少しだけかおりに引かれているようです。

体育祭編突入です!
峰田君は本当にすみません…
全国の峰田ファンの皆様、峰田君はこんな事で興奮しないと思われるかと思いますがご容赦ください。
現在騎馬戦を書いておりますが、雑に書いたプロットを文章に起こすのが大変です。マイクの実況が無口になっちゃうよ…

多くの方に読んでいただきありがとうございます。まさかこんなに読んでいただけるとは思ってもいなかったので、モチベーションが高まっております。これからもよろしくお願いします!
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