『さーて実況していくぜ!解説アーユーレディー!?ミイラマン!!』
『無理矢理呼んだんだろうが』
1年の競技場、第一種目障害物競走が始まった。実況席に座るのはプレゼント・マイクと相澤、だが相澤は敵襲撃事件の傷が未だ癒えず、顔まで包帯でぐるぐる巻きだ。本領発揮とばかりにテンションが上がっているマイクに忌々しそうに抗議の声をあげる。それでもなんだかんだ付き合う辺り相澤も大概面倒見がいい。
勢いよく飛び出した生徒達だが、狭いスタートゲートに大勢の生徒が殺到した事で押し合いとなってしまい、後方グループは中々前に出ることができない。そんな中やはり最初に飛び出したのは轟焦凍、持ち前の身体能力を活かして先頭に飛び出ると個性『半冷半燃』で後方の道を纏めて凍結させた。塊になっている生徒達は、足元どころか足まで凍らされ、足止めを余儀なくされる。
『スタートダッシュに成功し、先頭に立ったのはやはりA組!轟焦凍だ!!そのまま凍結で後続を妨害するー!コレは決まったー!』
マイクがそう実況した時、黒い影がもの凄いスピードで飛び出してきた。弾丸のように射出された美亜はそのまま轟を上空から追い抜こうとする。
『まるで弾丸!飛び出してきたのは此方もA組!千染美亜ー!あの凍結攻撃を空を飛んで躱したぞ!更にその後ろからも次々と実力者が追いかける!!』
宙を舞った美亜と後ろを振り向いて走る轟の視線が交錯する。次の瞬間、轟が腕を振るうと氷の壁が地面から伸び美亜の進路を妨害する。自らの速さで壁に激突しそうになった美亜はそのまま空中で前転し、勢いをつけて地面にかぎ爪を立て、縮めて着地。壁を横から避けつつ轟の少し後方の2位で走り出した。美亜は轟の妨害によって勢いを失った上に、地面に着いて走らざるを得なくなってしまった。いきなりの個性を使用した熾烈な主導権争いに会場のボルテージが上昇する。
美亜は轟を追って駆け出すも、直ぐに爆風とともに抜かされる。
「どけや!千染ェ!」
先頭の轟を猛追する爆豪、そして酸で滑る様に移動してきた芦戸や八百万、切島など次々と抜きさられる。
『あーっと!最高のスタートで2位につけた千染!しかし後続から2人に抜き去られる!』
『千染はあんまり運動神経は良く無いからな、平場で走れば当然個性持ちには抜かされるだろ』
相澤の冷静な解説で巨大スクリーンに美亜が映し出される。この映像は全国のお茶の間にも届けられる。美亜の端正な顔立ちに会場の主に男性人が騒ついた。
相澤の的を得た解説に軽く舌打ちをしていると、美亜を含む先頭集団の前に山の様な巨大ロボットが幾つも聳え立つ。これはヒーロー科の入試で使われた0Pロボット、一体でもとんでもない迫力だ。しかし今、無数のそれが立ち塞がっている。
『さぁいきなり障害物だ!!まずは手始め…第一関門ロボ・インフェルノ!!』
先頭集団もこれには思わず足を止めてしまう。その中で飛び出したのはやはり轟だ。
2体の巨大ロボが立ち塞がるも、轟が手を振り上げると足元から全身が凍結し動きが止まる。その間を走り抜け第一関門を易々と突破する。さらに、轟の作った突破口を同じく抜けようとした他の生徒を妨害するように、不安定な体勢で凍らせたロボが崩れ落ちた。
『1-A轟!!攻略と妨害を1度に!!こいつはこいつぁシヴィー!!!すげぇな!!一抜けだ!!アレだなもうなんか…ズリィな!!』
「お、おい!誰か下敷きになったぞ!!」
「死んだんじゃねぇか!死ぬのかこの体育祭!!?」
第一関門からいきなり2人が下敷きになった。これだけの重量を持つロボットの下敷きになれば、良くて骨折、悪ければ死ぬことすらあり得てしまう。余りに激しい障害物競走に、皆が慌てふためいている。
「死ぬかぁー!!轟のヤロウ!ワザと倒れるタイミングで!俺じゃなかったら死んでたぞ!!」
「A組のヤロウは本当嫌な奴ばかりだな…!俺じゃなかったら死んでたぞ!!」
倒壊したロボットの下から切島とヒーロー科B組の鉄哲徹鐡
『1-A切島!B組鉄哲も潰されていたー!!ウケる!!』
残った生徒たちも一時的に協力して突破を図る。そんな中美亜も第一関門に到着すると、そのままロボットに向かって走り出す。腕を伸ばして突起を掴み、腕の伸縮を生かして上へと登っていく。しかし背後から爆破音が響き、徐々に近づいてくる。下を見ると爆豪が個性『爆破』の反動を使って宙を飛び、ロボットを飛び越えようとしている。美亜と眼が合うと相変わらずの悪人面で睨みつけてきた。
「おいコラ!待てや!先行かれてたまるかよ!!」
叫びながら迫ってくる爆豪、その後ろから常闇と瀬呂も黒影とテープを使って追走してくる。やはり爆豪は頭がいいと美亜は感心する、性格的には突撃しそうではあるが、臨機応変に戦闘を避けて先に進もうとしている。大方瀬呂や常闇は、爆豪のアイデアを参考にして自分の個性で代用したのだろう。そんな爆豪に美亜は空中で話しかける。
「爆豪、お前どうやって私が脳無と戦ったのか知りたがってたな。いい機会だよく見ておけ」
そう言って大きく左腕を伸ばすと頭部に爪を掛けた。左腕を思いっきり引いてロボットの顔の正面に飛び上がると右腕を全力で引き絞る。先にロボットの頭頂部へと辿り着いた常闇と瀬呂は嫌な予感がして呟く。
「何をするつもりだ、千染」
「碌な事じゃ無いだろうな…あれ?俺らまずくね」
次の瞬間、ロボットの頭部に正面から巨大な槍が叩き込まれる。凄まじい破壊音を立てながら貫通し、頭部が爆散する。右手を巨大な槍へと変形させた美亜が全力で放った一撃は、いとも容易くロボットを粉砕した。
崩壊するロボットと共に落ちる常闇と瀬呂、爆豪は間一髪破片を躱して崩壊から逃れる。
「おおおおぃ!やべえ!」
「流石だ千染、だが流石にこれは不味いな…」
「テメェ……!クソが!」
そんな3人の声を無視して腕を本来の大きさまで戻すと、再び地面を掴んで着地する。しかしやはり爆豪は既に轟を追って先頭集団へと駆け出している。ここで怒りのままに美亜に飛びかかってくるのではなく、あくまで目指すのは1位、爆豪の本気が窺える。
『ヤベェー!なんだそれ!?正面からブチ抜いたのはまたA組、千染だ!ド派手に第一関門突破!!操血ってあんな事まで出来るのか!?崩壊するロボットに周りの生徒はタジタジだ、こっちもズリィな!』
「デキルノカ?」
「出来るか出来ないかで言えば出来る。ただあれだけの規模と質量、血の量がネックだな…なにより1年生であれだけの使い手とは見事だ」
教員用の待機室では、エクトプラズムに問われたブラドがテレビに映る美亜を見ながら苦笑いしていた。現時点でこれ程とは、一体この生徒は卒業する頃にはどこまで成長しているのか。
第一関門の突破者の中で、頭ひとつ抜けてトップを駆ける轟、先頭集団の中で猛追する爆轟、そこから少し下がった位置で美亜は走る。
スタートでも第一関門でもそうだが、突破こそ早いもののやはり身体能力の低さが大きなディスアドバンテージとなってしまっている。息を切らしながら走る美亜に芦戸が追いつき、そのまま追い抜いていく。A組女子の中でトップの身体能力は伊達ではないようだ。
「美亜ちゃん!お先に!」
「はぁ、はぁ…、よくそんな走れるな…」
『現在のトップは轟、爆豪も後ろから猛追しているぞ!そんな2人には既に第二関門が見え始めた!お待ちかねの第二関門は、落ちればアウト!!それが嫌なら這いずりな!!ザ・フォーール!!!」
コースはかなりの深さまで掘られており、断崖が生徒たちの足を止める。柱の様に残された僅かな地面の間がロープで結ばれていて、まるで綱渡りである。
しかし先頭の轟は臆する事なくロープを凍らせ、その上を滑る。更にはロープが凍った事で後方の妨害も同時にこなす。2位の爆豪も猛追すべく両手を『爆破』させ柱の間を跳躍する。この2人のハイレベルな争いに多くの観客が注目し、湧き上がる。
「1位の奴、圧倒的じゃんか。個性の強さもあるが、それ以上に素の身体能力と判断力がずば抜けてる」
「そりゃそうだろ、あの子プロヒーロー『エンデヴァー』の息子さんだよ」
「あぁ!道理で!オールマイトに次ぐトップ2の血か。早くもサイドキック争奪戦だなー!」
「それにあの爆豪、ヘドロ事件の少年だろ?やっぱり『爆破』は強力だよな」
先頭の2人が第二関門を突破する寸前で火花を散らし、それを追って多くの生徒が挑戦する中、ようやく息を切らしながら美亜も到着する。
(先頭はもうあんな先まで…常闇にも瀬呂にもいつの間にか抜かれているな。緑谷は何で鉄板を背負っている?)
余計なことを考えそうになった思考を振り払って、断崖から飛び立つ。紺桔梗色の髪を靡かせながら腕を伸ばし、柱の上に爪を突き立てた。次々と腕の伸縮を繰り返して先頭との差を詰める美亜、綱を渡っている生徒たちとの速度差は圧倒的だ。
『ここで先頭集団を猛追するのはまたまたこいつ!千染だー!その個性、応用力高すぎないか?まるで蜘蛛のように楽々と第二関門を進んでいく!あれだな!名付けるならスパイダーウーマンだな!』
『くだらないことを言うな。千染は身体能力こそ低い反面、判断力と機転で上手くカバーできている』
先頭の轟と爆豪は第二関門を突破した、しかし美亜も負けじと順位を上げていく。また一つ順位を上げようと爪を立てた時、突如その箇所が『爆破』し崩れ落ちた。柱の下を疾走していた美亜は何が起こったか分からない、ただ自分の腕が掴み所を失って空を切る。宙に浮いた体は重力を伴って落下を始めた。
あまりの突然の事態に瞬間、思考が止まった美亜であったが、直ぐに冷静さを取り戻す。柱の側面に爪を立て、身体を引き寄せ柱へと足をつく。
「くそっ、爆破音?爆豪の妨害か!いや…あいつは既に突破済み、今更戻ってきて妨害するわけがない。なら爆破系の個性を持った奴が他のクラスにも??いや…しかし…」
再び思考にハマりそうになった頭を振り払い、体育祭へと意識を戻す。どちらにせよ大きなタイムロスだ。ここまで目立った妨害が無かったことから完全に油断していた。
「誰かは知らないが…私に勝負を挑むか。面白い」
『おいおい!先頭を見ている隙に千染が消えているぞ!まさか落ちたのかー!!』
『さっきの爆破音、まさかここまでピンポイントに妨害するとは…』
ここまで度々レースの注目を集めていた美亜の脱落に多くの観客が騒つく中、地の底から柱に爪が掛かる。しかしその腕の巨大さたるやこれ迄の比ではない、爪を掛けるどころか柱の表面を覆い尽くしている。そして風を切る音とともに美亜が上空へと飛び出した。右腕のみが巨大化し、左右非対称な姿が逆光で暗く染まり不気味な影となって映し出される。
「見当たらないな…露骨に妨害した以上、そう易々と個性を使わないか」
太陽を背に飛び上がった美亜は全体を広く見渡し、先の爆破個性持ちを探す。しかし相手は用意周到なタイミングで妨害を行う人物、容易く見つかるようなミスは犯さないだろう。そう判断すると、巨大な腕の一振りで残りの柱を飛び越え第二関門を突破した。
『轟や爆豪、美亜らA組の生徒はやはり見せてくれるぜ!個性がド派手でカッコいいな!
現在先頭の轟が一足抜け、2位に爆豪、その下はダンゴ状態!上位何名が通過するかは公表してねえから安心せずに突き進めよ!
そして早くも最終関門!!かくしてその実態は…一面地雷原!!怒りのアフガンだ!!!』
先頭を追う美亜が最終関門に到着した頃には既に阿鼻叫喚の図が出来上がっていた。横に広がったコースの中であちこちから爆破音が聞こえる。どうやら音と見た目が派手なだけで殺傷能力はないらしいが、黒煙が上空へ勢いよく立ち昇る様を見て足を止めてしまう生徒も多い。
美亜が目を凝らして先頭を見ると、丁度爆豪が轟を抜き去って先頭へと躍り出ていた。先頭に立てば立つ程、足元の地雷が多く不利となる。その上爆豪は『爆破』を使って地面に触れずに移動できる。スピードの差は圧倒的に爆豪が勝るが、轟も咄嗟に腕を掴み氷結させて足止めを図る。
『ここで先頭が変わったー!喜べマスメディア!!お前ら好みの展開だああ!!互いに妨害し合いながらも先頭2人が大きくリードだ!』
しかしその2人の横に鍵爪が突き刺さった。それは血腕、轟と爆豪がライバルとして強く意識している生徒のものだ。同時に後ろを向いた2人の目には遥か遠くへと伸びる血腕、その先で挑戦的に笑う美亜が映る。遠くからでもはっきりと分かる、あの両眼に紅が灯った。
「千染ェ!」「千染…」
「此処からが勝負だ…いくぞ」
先頭に向けて美亜が飛び立つ。その視界の片隅で、鉄板の上に腹這いになった緑谷が、積み重なった大量の地雷に向けて飛び込む姿が見えた。
「何!?」
凄まじい爆発音と衝撃が競技場全体に響き渡る。吹き荒ぶ黒煙が立ち上り、それを至近距離で受けた美亜は吹き飛ばされて宙を舞った。
地面を掴もうと血腕を伸ばすも、衝撃で平衡感覚を失った頭とあたり一面の黒煙だ、その腕は虚しく空を切る。マイクが何か興奮して叫んでいるが鼓膜がやられたのか全く聞き取れない。
「緑谷…クソ…やられた…」
地面に打ち付けられた美亜は、悪態をつきながらも楽しそうに笑みを浮かべていた。よろよろと立ち上がって前を見据える。既に先頭はゴールにに差し掛かっているようでその後ろ姿は見えない。今一度血腕を前方へ伸ばし、今度こそ集団を抜き去り最終関門をなんとか突破した。
視界に入ったスタジアムへの入り口を目指し駆けている中、回復した鼓膜が徐々に周囲の音を聞き取り始めマイクの実況が響き渡った。
『今一番にスタジアムへ還ってきたその男…緑谷出久の存在を!!』
爆発でもしたかのような歓声がスタジアムから鳴り響く。観客の注目は先頭でゴールした緑谷、轟、爆豪に集まっているようで、第二種目進出ギリギリの順位でゴールした美亜には興味を示すものは居なかった。
第一種目 障害物競走 千染美亜 37位
37位です。美亜はスタミナが貧弱で、血腕のみを使用しているので試験やUSJで使った血の上を滑る移動手段を使えませんでした。もし使ったとしてもそこまで早くないので、メリットは最後の緑谷爆弾とタイミングをずらせたぐらいでしょう。相当大きいメリットですね。
熱犬孤児院では完走できたことにホッとしている美波と拳士、何やってんだと肩を落とす風斗、かっこよかった!とはしゃぐかおりの三者三様の反応を見せています。ただやっぱり憧れの舞台で活躍する美亜が見れて、皆笑顔を浮かべているようです。
「見て!美亜ちゃん写ってるよ!」
「あー、分かってるって!皆齧り付いて見てんだろ!……かっけぇな…」
連休中に次回を投稿したいと思っています。
そして今考えているのが「職場体験編」をどうしようかという事です。
ステインが余りにも美亜特攻過ぎますね。それに職場体験先も三択で迷っているので、アンケート機能?を使ってみようかと悩んでいます。
次回は騎馬戦チーム結成です。読んでいただきありがとうございました!