「見つけたぞ千染。個性『爆破』を持つ生徒…物間だ…」
「成る程、あの優男か。わざとらしく挨拶してきたのも挑発だったというわけだな……」
食い下がろうとする爆豪チーム、その足元に凡戸が『セメダイン』をつけて動きを固める。何か捨て台詞を残しながら悠々と此方へ歩いてくる物間チームは、今気付いたかの様にわざとらしく驚きの表情を浮かべた。しかしそれも一瞬で、また直ぐに人の良さそうな笑みを浮かべた。
「あぁ千染さんか。怖い怖い…なんだいその表情は…。今に人でも殺めそうじゃないか。僕に何か用でも?」
「第一種目で妨害してきたのはお前か…改めて見ると不快な笑みだな」
美亜に睨み付けられた物間は、大袈裟に手をヒラヒラと振りながら戯ける。そして右手を見せつける様に軽く爆破させた。
「勘弁してほしいね、つい出来心だったんだ。僕だってヒーロー科の生徒だ、"格上"には挑戦したくなるものだろう?どうだい?A組BIG3と呼ばれる気分は?」
「A組BIG3?一体なんの話だ…」
「知らないのか…まぁいいや。そうそう、君に聞きたい事があったんだよ。個性『操血』も持つにも関わらず、同じ個性のブラド先生が担任するB組に入れてもらえなかったんだよね…何でなのかな?」
「知らないな、私にとってはどうでもいい事だ。興味があるなら担任なり校長に聞いたらどうだ」
「それは君が『問題児』だからだよ。A組は高名な爆豪くんやいっつも怪我してる緑谷くん、他にも騒がしい人達ばかりだ。まったく同じヒーロー科として情けない限りだよ。
それに相澤先生でも大怪我を負う程の強力な敵と1対1で耐え凌いだというのも眉唾だよね…もしかしてなんだけど…」
「何が言いたい…単刀直入に言え」
「君は『問題児』じゃなくて『化け物』なんじゃないのかい?A組にいる理由は相澤先生の『抹消』が届く範囲に置きたいだけだったりしてね……
おっと!これは冗談だよ、本気にしちゃったかな?」
「よせ物間!言い過ぎだぞ!ごめん千染さん、こいつA組の事になるとやたらムキになるから。多分ブラド先生と同じ個性って事に嫉妬してるんだと思うんだ」
美亜が黙り込んだ為に執拗に煽り続ける物間、見かねた
しかし流石の美亜もブチギレている様で、俯いて肩を震わせている。無理もない、問題児ですら充分酷いが、『化け物』は度を超えて言い過ぎだ。騎馬の3人は恐る恐る美亜に目線を向け声をかける。
「あんまり気にするな…安い煽り文句だ」
「なんなのあいつ!美亜に酷いこと言って、さっさとブッ飛ばそうよ!」
「あぁ…大丈夫だ。私は『化け物』なんかじゃない。成る程、あれがあいつの作戦か。怒りで冷静な判断を奪うとは非常に効果的だ」
直後、両血腕が物間へと襲いかかる。突然の強襲にも焦らない物間は、騎馬の先頭を務める円場に防御の指示を飛ばす。
「チッ!流石に奇襲とはいかなかったか…来るぞ!」
「あはは、散々煽られておいてやる事が奇襲って!陰湿だねぇ!」
物間チームは両血腕と黒影の猛攻を爆破と空気凝固で防ぎながら、接近戦を仕掛けてくる。彼らは煽っている間にも少しずつ近づいて来ていた、突然の美亜チームとの会敵にも的確に弱点をついてくる。そう気付いた時には既に懐に入ることを許してしまった。爆破の光で黒影が勢いを失い、対応出来るのは美亜のみ、ギリギリで血腕での防御を続けるもその猛攻は止まらない。
「ははは!この程度かい!?爆豪くんも君もA組ってホントは大した事ないのかなぁ!!」
爆破の嵐にもはや美亜は頭を抱えて防御することしかできない。物間は勝利を確信して笑みを浮かべる。残り時間も少ないこの時点で、千染チームからハチマキを奪う。それを拳藤チームか他のB組チームに渡せば、確実に2チーム、あるいは3チーム最終種目へと進出できる。B組の面目躍如、入学早々に敵襲撃によって悪目立ちしているA組との立場を逆転する事ができる。
そして爆豪や千染…1人でも『何でも出来る力』を持った2人と戦える事を証明してみせる。
「さぁ乗り越えて見せてよ!強力な個性を持ったBIG3、将来のスーパーヒーロー!!………っつ!!」
防御に徹する血腕の間、そこから覗く美亜の視線と目が合った、合ってしまった。その眼は引き込まれたが最後、どこまでも堕ちて行きそうな紅に染まる。背筋がゾワリと泡立ち、不快感が全身を襲う。その不気味さを掻き消さんと、振り下ろした右腕は『硬化』していた。
(何故だ!『爆破』じゃない!?恐怖でストックからの選択を間違えた?クソ!こんな時に!)
「隙ができたぞ煽り野郎!個性の限界か?それとも疲れたのか?致命傷だ!!」
直ぐに防御へと意識を切り変え、物間と円場の2人で『空気凝固』を前面へと展開する。両血腕と光が弱まり活性化した黒影がその2枚を破るも手数が足りない。物間はこの隙に後ろへ引いて体勢の立て直しを謀る。
「いやぁ危なかった!ミスに躊躇なくつけ込む姿勢は見事だよ…でも残念、手数が足りなかったねぇ!」
「物間、アドバイスだ。喧嘩を売った相手は良く覚えておくといい……後ろだ」
「待てやクソ野郎!!忘れてんじゃねぇぞ!!死ねええええ!!」
突如物間チームの背後から滑る様に突撃して来た爆豪、空気凝固を破られ、美亜チームに気を取られていた物間の顔面に爆破を叩き込みハチマキを奪い取る。瀬呂のテープで進行方向を定め、芦戸の弱めの溶解液の上を爆破によるターボで一気に爆進する。美亜チームとの戦いで近接に持ち込む為に考えた作戦をここで使ったのだ。
『爆豪チームここで3本全てを奪取して3位に躍り出たぞ!!美亜チームの作った隙を突く見事なコンビネーションが炸裂ー!!さぁ残り僅かな時間で……ってあれ?おいおい緑谷チーム1000万P取られてんじゃねぇか!!』
「ああぁ、クソが千染ェ!テメェと組んだ事になってんじゃねえか!俺のチームだけでも奪い返せてたぞクソが!」
「まさか…初めから爆豪に取らせるつもりで…何故だ、Pは手に入らないじゃないか?」
「確かにお前は私を脅かした…腹は立つが別に一騎討ちがしたい訳ではない。どんな形であれ破れるならそれで構わん。
それにPをどっちが取ろうと変わりはない。どうせ最後は一騎打ち…敗れた方が0Pだ」
美亜はそう言い放つと爆豪へと目線を向ける。
「さぁ爆豪チーム、これでお望み通りの一騎打ちだな。何やら緑谷が轟にPを奪われたらしいがそんなものは関係ない。お前らを倒して、1000万も取る。勝つのは私達だ」
「チッ!そういう事かよ…こいつらを餌に誘き寄せ、その上P取らせてお膳立てってか……上等だ千染ェ!こいつらをブッ倒して1000万も頂く!俺らが獲るのは完膚なきまでの1位だ!」
『さぁ残り時間はたったの20秒!ここに来て一気にPが動きまくってんな!!どのチームが最終種目まで進めるのか!そして1位は誰の手に!会場がヒートアップして収まらねぇぜ!!』
爆豪が物間チームからハチマキを奪還する少し前、緑谷チームは窮地に立たされていた。
残り時間僅かになって相対した轟チームは、緑谷チームを狙う他の騎馬を上鳴の電撃によって足止めと凍結の合わせ技で無力化した。
上鳴の電撃を防ぐ手段を持たない緑谷チームは、直ぐにハチマキに手が届く距離まで追い詰められる。皆の思いを背負う緑谷は最終的に『OFA』を使って振り払おうとした。その迫力に気圧された轟は左手の炎を咄嗟に発動してしまうが、寸前で緑谷によって振り払われる。しかし轟に生まれた隙を上鳴が電撃によってカバー、痺れた緑谷チームのハチマキを奪うことに成功した。
「まずい!取り返す!突っ込んで!!」
「でも緑谷!俺達には上鳴を防ぐ手段がない!他のPを狙いに行くべきだ!!」
「ダメだ!Pの散り方を把握出来ていない!ここしかな…………!!」
尾白によって諭され、咄嗟に周囲を見渡した視線がグラウンドの中央に止まる。そこには爆豪チームと千染チームが一騎討ちの様相を呈していた。
「あそこだ!あの2チームからPを奪う!僕たちが入って乱戦になればチャンスはある!!」
確かに守りに入った轟チームは鉄壁だ。轟の範囲が広い氷結に上鳴の帯電、さらに飯田の移動速度と八百万の対応力を突破するのはかなり困難だ。緑谷の言う事は頭では理解できる。しかしその2チームの迫力に尾白と発目は思わず二の足を踏んでしまう。そんな騎馬に後ろから押す推進力が生まれた。
「よっしゃ!やろうよデクくん!!漁夫の利でも何でもいい、最終種目まで行くんだ!絶対!!」
背中を押したのは麗日、その必死な言葉と表情に皆の覚悟が決まる。既に1000万Pを失いこのままでは負けてしまう。ならばここでやるしかない。緑谷チームは決死の覚悟で中心部へと走った。
1000万Pを奪い取った轟チームは歓喜に包まれていた。しかしそんな中で轟だけが浮かない表情を浮かべている。
「千染……」
第一種目で感じた悪寒ともいえる胸騒ぎが頭から離れない。あの時は父の目とはまた違う何かを感じたが、あれからずっと幼い頃抱いた父への怒りが沸沸と再燃しているのだ。緑谷と一騎討ちをしていた間だけは忘れる事ができたが、最後に使おうとしてしまった自分の『半燃』によって再び思い出してしまった。
(戦えばもう一度あの眼を見る事ができる…だが…)
轟チームは既に1000万1060Pを保有して断トツの1位に立ち、このまま守り抜けば最終種目へ進める。残り1分を切った今、無駄なリスクを負ってまでチームに迷惑は掛けられない…はずなのに…これが興味なのか恐怖なのかは分からないが戦いたいと思ってしまう。
「引くぞ、無理に戦う必要はない」
意志の力で誘惑に勝ち皆に指示を出す。しかし肝心の飯田が中心部を見据えたまま動かない。その様子に八百万が心配そうに声をかけた。
「大丈夫ですか?ここで迎え撃つという手もありますが…」
「いや、そうでは無いんだ……轟くん、今何を考えていた?」
「別に…何でもねぇ」
飯田と目が合った。表情は真剣で、それでいて声色は穏やかだ。飯田はチーム、クラスの皆を本当によく見ている。先程までの自分はどんな表情を浮かべていたのか…
「なら…どうして苦しそうな顔をしているんだ。もしかして君は美亜くんと戦いたいんじゃないか?理由は何であれ今の彼女なら…もしかしたら全力で戦うかもしれないぞ…どうなんだ?」
「だが、それは俺の独り善がりだ。チームの皆に迷惑が掛かっちまう」
「そんな事ありませんわ轟さん、このチームは貴方のお陰で1000万Pを取ることが出来ました。感謝こそすれど決して迷惑などとは思いません。微力ながら私にも手伝わせてください」
「しゃーねーな…俺もここまで来たら最後までやってやるぜ!つっても次打ったらキツイけどな…」
「だそうだ、勿論俺も最後まで挑戦したいと思っている。もう一度聞く…どうなんだ?」
此方を気遣いながら、真剣に答えてくれる八百万の言葉に嘘は無く、上鳴も軽口を叩きながら場の雰囲気を明るくしてくれる。
再び目が合った飯田は笑顔で答えを待ってくれる。このクラスは、この面子は本当にいい奴ばかりだ。煩くて生真面目でバカだけど…懸命で真っ直ぐで眩しい。
「……俺は……あいつと戦いたい。何がここまで掻き立てるのか分からねぇが、力を貸してくれ」
「やりましょう皆さん!」「よっしゃ!!」
「そうなれば時間がない!いくぞ!!」
『おいおい!轟チームまで中央に向かってんぞ!お前らマジか!1000万P持ってんだぞ!わけわかんねぇけど…最高だ!!』
『だが距離が遠いな…間に合うか?』
既に残り時間は10秒を切った。千染チームは既に満身創痍、障子はまともに戦える状態では無く、常闇と耳郎も激しく動いたせいか苦しそうだ。それでも爆豪チームは容赦なく接近戦を仕掛けてくる。ギリギリで躱し防いでいるものの、美亜自身も動きが鈍くなり、個性の制御が上手く効かなくなっている。満身創痍の千染チームに対して体力に自信があり、未だ健在な爆豪チームの直接対決は一方的な展開になっていた。
「躱してばっかでつまんねぇぞ!そんなもんかよ!!」
(クソ!このままでは押し切られる!あれは……?)
一騎討ちに緑谷が入り混戦を極める。苛烈な争いの中、此方へと向かってくる轟チームが視界に入った。緑谷チームは漁夫の利を狙っていると理解できるが、轟チームに関しては目的が見えない。真っ直ぐに此方を見据え、明らかに美亜を狙っている。到底間に合う距離では無いが、向かってきている以上何か策があるのだろう。
爆豪が、緑谷が迫る。考えている場合ではない。残り数秒何がなんでも耐え抜いてみせる。
(来い轟!『半冷』を使え!)
迫る2人を無視し、轟だけを見据えて血腕を襲い掛からせる。
『3!』
眼が合った轟は苦しそうに顔を顰めた。右手に冷気が集まり周囲の空気が音を立てて軋む。
「トルクオーバー!レシプロバースト!」
『2!』
ついに爆豪の左手が美亜のハチマキを捉えた。抵抗する力はない。
『1!』
視界が蒼に染まった。
「なっ!!てめ……
『TIME UP!!!』
「これが私の限界か…何とも情けない。だが……最終種目進出だ…」
巨大な氷塊と共に半身を凍らされた美亜は、寒さに震えながら自嘲気味に呟いた。
『な、なんかすげえ事になってるけど…とりあえず上位4チーム見てみよか!!乱戦の中1000万Pを最後まで持つ事ができたのはどのチームなのか!?
1位轟チーム!!2位千染チーム、3位鉄て…アレェ!?オイ!心操チーム!?いつの間に逆転してたんだよオイオイ!そして4位爆豪チーム!!以上4組が最終種目へ……進出だぁぁぁぁ!!』
✳︎補足
○千染チーム対物間チーム
美亜は物間の個性を『空気凝固』を使用するまでずっと爆破の個性だと思っています。なので実は隙をついた血腕を塞がれた時かなり焦っていました。爆豪が来てくれててよかったね!
○緑谷チーム対轟チーム
やはり上鳴の帯電を防ぐ手段がないため詰められて緑谷チームの敗北となりました。実際あれだけ広範囲を攻撃できる帯電を黒影でどうやって無効化したのでしょうか…?ただ緑谷のブラフって可能性もあったのかなぁと思ってます。
○飯田のレシプロバースト
緑谷戦で圧倒できたのでレシプロバーストは温存できていました。本来は間に合わない距離でしたが、最後に使用して美亜の血腕を躱しつつ半身を凍結させました。右半身か頭まで凍結してます。呆けてないで早く溶かしてあげて…
読んでいただきありがとうございます!
長かった騎馬戦もようやく終わりました…2話ぐらいかなぁと思っていたのですが…
昼休みは流石に1話で書きます。