『上位4チーム見てみよか!!乱戦の中1000万Pを最後まで持つ事ができたのはどのチームなのか!?
1位轟チーム!!2位千染チーム、3位鉄て…アレェ!?オイ!心操チーム!?いつの間に逆転してたんだよオイオイ!そして4位爆豪チーム!!
以上4組が最終種目へ……進出だぁぁぁぁ!!』
「千染、お前何でもいいのかよ。クソが…」
爆豪は美亜のハチマキから手を離し、そう吐き捨てて立ち去った。
終了直前で美亜のハチマキを掴んだ。しかし轟の放った渾身の大氷塊が美亜の半身を覆い尽くし、頭部のハチマキごと凍らせてしまう。結局頭部を離れることのなかったハチマキは美亜のPとなり、爆豪チームは4位という結果に終わった。
しかし4位という結果にもかかわらず、爆豪はかなり落ち着いている。普段の彼なら烈火の如く怒り狂う筈、そのギャップでチームメイトは困惑している。
しかし美亜には分かる、爆豪は怒りを通り越して呆れているのだ。騎馬戦とはいえ、いざ直接戦ってみれば一方的に追い詰められた。轟が来ていなければ、個性を使わなければ確実に美亜が敗北していただろう。やはり爆豪の戦闘に対するセンスには圧倒的なものを感じる。
だがどんな形であれ最終種目まで進めた、今はそれだけで充分だ。
「なんとでも言えばいい。とりあえず…寒いんだが氷を溶かしてくれないか?」
「あ…あぁ、すまねぇ。やり過ぎた」
堂々の1位に喜ぶ轟チーム、にも関わらず肝心の轟は右手を見つめて顔を伏せていた。あの時、個性を制御できなかった。溢れ出した負の感情が、混濁した思考が、絶対零度の氷塊となって美亜へと襲い掛かった。半身で済んだのは奇跡だ、下手をすれば全身を飲み込んで氷漬けにしていただろう。
「何だ?私の顔に何か付いているのか?あまりじっと見るな」
氷を溶かしている間にまた考え込んでしまっていたらしい、気がつくと目の前で千染が此方を睨んでいた。その眼からは何も感じない。あれ程の不気味さや不快感は鳴りを潜め、ただ透き通るほどに美しい紅色が煌めいていた。
氷から解放されて、伸びをして肩を回す美亜に一言伝えると足早にスタジアムを後にした。
「みんな…ごめん…僕が轟くんに負けなければ…もっと力が有れば…!」
涙が止まらず、申し訳なくて皆の顔が見れない。
緑谷チームは5位という結果に終わり、寸前で最終種目への進出を逃した。
敗因は自分だ。発目のアイテムと麗日の『無重量』で生み出された機動力は勿論のこと、尾白のフィジカルも見事で上鳴の『帯電』を一身に受けながらも動きを止めなかった。対して騎手の自分は何がしていたのか。爆豪、轟、千染、3人とも騎手として個性をフルに使い大太刀周りを繰り広げていた。自分は譲り受けた個性を少ししか制御できず、終始活躍することもなく終わってしまった。
この第二種目の主役は間違いなく彼らだった。情けない…これではチームの皆に、そしてオールマイトに顔向けできない。
「ちょっといいかしら、大事な話があるの。千染チームの障子くんのことなんだけど…」
落ち込む緑谷、慰めようにも言葉が出ない他の面々にミッドナイト先生から声が掛かる。
「最終種目は棄権するそうよ、傷が『複製腕』を超えて腕まで到達していて、リカバリーガールからドクターストップが掛かったの。だから5位の緑谷チームから1人代わりに出場できる。いい?こんなチャンス滅多にないことよ、よく皆で話し合って決めなさい」
去っていくミッドナイト先生を唖然として見つめる。障子くんは大丈夫だろうか?リカバリーガールでも直ぐに治癒できないほどの怪我となると心配だ。
そしてもう1つ、突然降って湧いた可能性、このチームから1人だけ最終種目に出場できる。自分を除いた3人共貢献度でいえば差は無いように感じる。
(だけど…麗日さんの夢、ヒーローを目指す理由、この大会にかける想いを僕は知っている。尾白くんと発目さんには悪いけど…)
「僕は…麗日さんに出て欲しい。発目さんと尾白くんには申し訳ないけれど…この種目、僕は初めから最後まで麗日さんに支えられてきたんだ…だから…」
「ウチはデクくんに出て欲しいよ」
「あぁ、俺も緑谷が出るべきだと思ってる」
なんで?!と伏せていた顔を上げた。
「緑谷、俺らを集めたのはお前だ。たぶん自分が足を引っ張ったと思っているんじゃないか?違う、俺たちはお前とだから頑張れたんだ。お前の真っ直ぐな姿は見てると勇気が出るんだよ、俺も負けてられないぞってな。まぁ結果は負けてしまったんだけど…」
「それに、デクくんは自分が最終種目に出る事を考えてなかったんじゃないかな?もしかして名乗り出れば出場できるかもしれない。それを人に譲ることは簡単な事じゃ無い。現にウチらは黙って何も言えなくなっちゃってたから…。そんなデクくんだから頑張れって、応援したくなるんよ」
完全に蚊帳の外だった発目も3人に意見を求められてやれやれと肩を竦めた。そもそも多数決で負けているのだ、仕方がない。
「仕方がありませんね!商機を逃さない事も素晴らしい発明家の条件ではありますが…。大企業の目にはしっかりと私のベイビーが入った事でしょう!それにこれからもベイビー達をアピールする機会はある!緑谷くん!頑張って下さいね!!」
そう言い残すと颯爽とその場を立ち去ってしまった。発目も理由は違えど最終種目に出たかった筈だ。皆が譲ってくれた可能性、絶対に負けられない。緑谷は溢れそうになる涙を堪え皆と共に競技場を後にした。
「あの…話って…何?」
騎馬戦終了後、轟に話があると呼び出された緑谷は、学校関係者専用入り口の通路に来ていた。
壁に背中を預け此方を睨みつけてくる轟。その冷たい威圧感に気圧されて、緑谷も対面の壁にもたれ掛かった。そしてこの場に美亜が居ることに気づいた。彼女はスタジアムを出た角の壁に、所謂ヤンキー座りでもたれ掛かっている。見るからに機嫌が悪そうだ。
轟から睨み付けられながら語られた内容は先の騎馬戦、緑谷と対峙した際に本気のオールマイトと似たものを感じたのだという。
「なァ…お前オールマイトの隠し子が何かか?」
「違うよそれは…。隠し子だったら違うって言うに決まってるから納得しないと思うけど…とにかくそんなんじゃなくて……逆に聞くけど…なんで僕なんかにそんな…」
緑谷は慌てて否定した。彼はオールマイトから個性『ワン・フォー・オール』を受け継いでいる。重大な秘密であり、絶対にバレてはいけない。
「その言い方は少なくとも何かしら言えない繋がりがあるってことだな。俺の親父は万年No.2ヒーローのエンデヴァー、知ってるだろ。お前がNo.1ヒーローの何かを持ってるなら、俺は尚更勝たなきゃいけねぇ」
そして轟は自身の過去を語り始めた。
オールマイトを超えられなかった父が個性婚を行い、母の個性を手に入れたこと。そうして生まれた轟をオールマイト以上のヒーローに育て上げることで、自身の欲求を満たそうとしていること。
いつも泣いている記憶の中の母、そして心を壊した母は「おまえの左側が醜い」と轟に煮湯を浴びせたこと。
彼の顔の左側が焼けているのはその時の傷だった。その壮絶な過去に緑谷は絶句してしまう。美亜は空を見上げ、その表情は窺い知れない。
「クソ親父の個性を使わず1番になることで、奴を完全否定する」
その目には憎しみや怒りが滾り、気圧された緑谷は何も言い返すことができなかった。静寂が包む廊下に、憐憫を含んだような凛とした声が響いた。
「不幸自慢は終わりか?呼び出されて何かと思えばそんな話だとは…。これなら芦戸達と昼飯を食べるべきだったな」
緑谷と轟の視線が一斉に美亜に向けられる。轟から殺意とも取れる程に睨まれながらも、美亜は一切表情を崩さずに外から通路に入ってくる。いつもと変わらない凛とした顔立ち、ただ緑谷にはそれこそがとても恐ろしく感じられた。
凍り付いたような空気の中、美亜は2人の目の前を通り過ぎ、そのまま立ち去ろうとする。その背中に痺れを切らした轟が声をかけた。
「千染…何が気に喰わねぇ?」
その言葉に、立ち止まった美亜はゆっくりと振り返る。
「別に…殺せばいいのにと思っただけだ」
「「は?」」
表情は皆無、美しいが故に、能面のように張り付いた顔は不気味さを掻き立てる。ましてやそんな涼しい顔で恐ろしい事を言い放った。
「そこまで恨んでいるなら殺せばいい。炎を使い、母の個性と合わせてエンデヴァーを超えろ。
その為にはあらゆる屈辱に耐え、己を殺して父親に師事しなければならないだろうな。
だが…自分が自分である為に、真の意味で自由に成る為なら…容易い事だ。そうは思わないか?」
「な、何を言ってるんだ…」
「何も知らねぇくせにふざけんなよ。
あいつにも家族はいるんだ、姉さんや夏兄、お母さんが……!
あいつが死んだら、俺が殺したら…悲しむ奴が大勢居るんだよ!」
轟の両手に氷と炎が渦巻き、怒りに飲み込まれてゆく。その殺気を正面から当てられた美亜は微笑んでいるが、緑谷には慈愛というよりはとても寂しそうに見えた。
「なんだ…お前には大切な家族が居るじゃないか。その家族への想いは父親への憎しみにも勝るのだろう?
なら正面から向き合え。どれだけ今が苦しくても、辛くても、決して憎しみで目を曇らせるな。お前が怨念に、過去に囚われるのをそいつらは望んでいるのか?
殺して全てを終わらせるのは…唾棄すべき愚かな選択だ」
美亜はそう言い切ると唖然としている2人を気にもしてないそぶりで、踵を返して廊下の奥へと消えていった。
誰もいないスタジアム裏のベンチ、美亜は持参した弁当を膝の上に乗せ1人で昼食を取る。
普段から学食の美亜にとって初めての弁当である。美波が朝早く起きて作ったそれは彩り鮮やかにオールマイトをデフォルメしており、相当気合を入れたのは明らかだ。
(確か…体育祭は弁当を皆んなで食べるイベントなんだったかな…。もう皆食べ終わっているだろう)
呼び出した轟への悪態を頭の片隅に除け、美味しい弁当に舌鼓を打っていると芦戸から連絡が入った。どうやら急いで女子更衣室に行かなければならないらしい。
よく分からないが昼休みも後10分程しかない。美亜は最後に残した苺を放り込んで足早に向かった。
「美亜ちゃん!レクリエーションの応援合戦の話聞いた?女子は全員チアリーダーの格好をしなきゃいけないんだって!」
「はぁ…なんだその馬鹿みたいなイベントは。そんな話聞いて無い、誰が言っていた?」
更衣室では八百万が必死にコスチュームを作っている。全員分というのだから相当大変らしく、額に汗が浮かんでいる。できたコスチュームを順次着ていっている為、皆慌ただしく動き回っている。
「相澤先生が言ってんだって。美亜ちゃんも早く着替えて着替えて!」
「そうか…なら仕方ない。とっとと着替えるか」
そういえば風斗が中学で応援団の格好をしたと聞いたことがある、体育祭とはそういう余興があるのだろう。
『最終種目発表の前に予選落ちの皆へ朗報だ!あくまで体育祭!ちゃんと全員参加のレクリエーションも用意してんのさ……ん?どーしたA組!!?』
お腹を大胆に晒したノースリーブのチアコスチューム、スカートは膝上どころか腿上、両手に黄色のポンポンを持ったA組女子はスタジアムに無表情で立ち尽くしていた。
「誰もチアの格好などして無いな。八百万、誰に伝えられた?」
ポニーテールで長い髪を纏めている美亜は、ハッキリと呆れた声色で問いかけるが、既に八百万は隣で肩を落としている。
「何故こうも峰田さんの策略にハマってしまうの私…」
A組女子のコスチュームを目に焼き付けている峰田と上鳴、興奮の面持ちで親指を立てている。相澤先生の話など全くの嘘で、ただチア姿を見たかった2人によって全員が騙されてしまったのだ。
「アホだろアイツら…」
「まぁ本戦まで時間空くし、張りつめててもシンドイしさ…いいんじゃない!?やったろ!!」
「透ちゃん好きね」
赤面してポンポンを投げ捨てる耳郎だが、葉隠は楽しんでいるようで、飛び跳ねてはしゃいでいる。
『さァさァ、皆楽しく競えよレクリエーション!それが終われば最終種目!総勢16名からなるトーナメント形式!一対一のガチバトルだ!!』
最終種目は一対一のタイマン勝負、例年もサシの勝負だが今年はガチバトルだという。白熱するであろう最終種目を前に、観客から大きな歓声が上がるのだった。
というわけで緑谷くんが最終種目滑り込みです!
ただ彼の轟に対する啖呵を美亜が聞くことはありませんでした。
そもそも美亜は既に両親を亡くしていますが、その辺の事情を2人に話すことは決して無いです。これから美亜の好感度を上げればあるいは……?
読んでいただきありがとうございます、夏秋冬です。
気付いたら一ヶ月も経っておりました……
最近月日が経つのがあまりに早く、戦々恐々としております。
次回は孤児院の視点+αとなりますのでよろしくお願いします。