血濡少女のヒーロー?アカデミア   作:夏秋冬

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第25話 血濡少女と体育祭 最終種目:1

 

「それじゃあ組み決めのくじ引きしちゃうわよ。組み合わせが決まったらレクリエーションを挟んで開始になります!

レクに関して進出者16名は参加するもしないも個人の判断に任せるわ。息抜きしたい人も温存したい人もいるしね。んじゃ、1位チームから順に…」

 

「あの…少しいいでしょうか。僕達の棄権を認めていただきたいのです」

 

 壇上でクジを持ったミッドナイトに声を掛けたのは、B組の庄田、鎌切、鱗の3人。プロに見てもらえる最大のチャンス、それを自ら不意にする提案に周囲がざわめく中、理由を話し出した。

 心操チームの3人は騎馬戦の記憶が終盤ギリギリまでほぼ無いそうだ。そんな状態で気が付いたら勝利していた。皆が実力を出し合い争ってきた場所に、何もしてない者が上がるのは雄英体育祭の趣旨と相反するのでは無いか、と語った。

 その男らしい理由に皆が感動する中、判断は主審のミッドナイトに任された。

 

「そういう青臭い話はさァ……好み!!庄田、鎌切、鱗の棄権を認めます!」

 

(((好みで決めた………!!)))

 

「繰り上がりは5位の緑谷チームだけど…そうね…終盤ギリギリまで高得点をキープしていた鉄哲チームにもチャンスを与えましょう!緑谷チームから1人、鉄哲チームから2人、繰り上がる人を決めなさい!」

 

 ミッドナイトの指示により決められたのは、緑谷チームから麗日、鉄哲チームから鉄哲と塩崎。男泣きする鉄哲、深々とお辞儀をする塩崎、絶対勝つと表情を引き締める麗日、三者三様の感謝を譲ってくれた仲間へと送った。

 

「というわけでこの16名!クジの結果…組みはこうなりました!!」

 

第一戦 緑谷 対 心操

第二戦 轟  対 瀬呂

第三戦 切島 対 鉄哲

第四戦 飯田 対 耳郎

第五戦 爆豪 対 麗日

第六戦 常闇 対 八百万

第七戦 千染 対 芦戸

第八戦 塩崎 対 上鳴

 

「初戦は芦戸か…同じブロックには爆豪。緑谷と轟は別ブロックか、なら戦う事はないだろう」

 

 スクリーンに映し出されたトーナメント表を見て美亜は呟く。先の騎馬戦で実感してしまった、今の自分では爆豪に勝つ事はできない。騎馬戦なら勝機は僅かに存在した、しかし一騎討ちとなると満に一つも無いと断言できてしまう。

 

「初戦から美亜ちゃん…っ!やっと戦える…絶対勝つ!」

 

 一方芦戸はトーナメント表を確認すると、美亜の名前を確認してニヤリと笑った。それは好戦的な笑みであり、不安を隠そうとするぎこちなさも同胞していた。

 美亜は強い、それはここに居る誰よりも分かっている。敵襲撃事件で見た個性、皆が知らないあれが発動すれば、自分は近づく事すら出来ずに敗北するだろう。それでも挑戦したい。A組でトップクラスの実力を持つ美亜に、あの時助けられた彼女に自分が何処まで通用するのか。そんな思いを抱えながら、芦戸は闘志を滾らせるのだった。

 

『よーし、それじゃあトーナメントはひとまず置いといてイッツ束の間!楽しく遊ぶぞレクリエーション!!』

 

 レクリエーションが始まり、最終種目へと進出する生徒は殆どが姿を消した。各々が試合で全力を出す為に神経を研ぎ澄ませているのだろう。瀬呂や上鳴など数名は参加しているが、総じて借り物競争などの負担の軽い種目を選んでいるようだ。

 そんなレクリエーションを一層華やかにしているのはA組女子、生徒たちを応援して賑やかにしている。葉隠は元気よくジャンプして応援し、芦戸は得意のダンスを活かした本格的なチアリーディングだ。麗日と蛙吹も慣れないながらに一生懸命応援している。

 控え室に行こうとした美亜は、耳郎に巻き込まれてこの場に残ることになった。気合が入った4人と後ろで控えめにポンポンを振る八百万を、そのさらに後ろで美亜と耳郎は蹲み込んで眺めていた。

 

「なぁ美亜、葉隠ってあれ中見えてていいのかな…」

 

「見えてもただの布だろ…いや…本当にどうなってるんだあれは…」

 

 葉隠の食べた物や身に付けた物、老廃物などの消える対象について2人で考えを巡らせている内にレクリエーションは終わった。

 

 

 セメントスが個性『セメント』でグラウンドに闘技場を作り出す。そして会場にプレゼント・マイクの声が響き渡った。

 

『ヘイガイズ!アァユゥレディ!?色々やってきましたが、結局これだぜガチンコ勝負!!頼れるのは己のみ!心・技・体に知恵知識!総動員して駆け上がれ!』

 

 簡単な紹介とともに一回戦の緑谷と心操がステージに上がると、観客の歓声が一層膨れ上がった。

 

『ルールは簡単!相手を場外に落とすか行動不能にする、あとは「まいった」とか言わせても勝ちのガチンコだ!ケガ上等!こちとら我らがリカバリーガールが待機してっから!道徳倫理は一旦捨ておけ!だがまぁもちろん命に関わるよーなのはクソだぜ!アウト!ヒーローは敵を捕まえる為に拳を振るうのだ!そんじゃあ早速始めよか!レディィイ、START!!』

 

 試合が始まった瞬間、緑谷が何やら声を荒げて心操に向かった。しかしその直後、緑谷は立ち尽くし動かなくなってしまった。呆然と立ち尽くす緑谷の表情からは意識が感じられない。

 

「おい緑谷!どうした!何してんだよ!」

 

「デクくん…!?」

 

 A組に割り当てられた観客席では、不自然に固まった緑谷に対して混乱と心配の声が上がる。

 心操の個性は『洗脳』。彼の問いかけに答えた者は洗脳されて彼の言いなりになってしまう。衝撃で解くことが出来るが、一対一の状況では起こり得ない。

 心操は試合が始まると直ぐに、自ら棄権した庄田らを馬鹿にした言葉を緑谷に投げかけた。緑谷が庄田達からアドバイスを受けていることを考慮し、確実に反応するであろう言葉で挑発したのだ。挑発に引っかかった彼は声を荒げて反論してしまい、そのまま『洗脳』にかかってしまった。

 

「振り向いて、そのまま場外まで歩いていけ」

 

『ああー!緑谷!ジュージュン!』

 

 耳を疑う様な言葉でも、洗脳されれば従わざるをえない。緑谷は心操の命令に従って場外へと歩き出した。A組の面々から止まれ!と声が上がるも緑谷は進み続けてしまう。後一歩で場外。誰もが結末を確信したその時、突如緑谷の指二本が弾ける様にへし折れ、その衝撃で洗脳が解けた。

 

『これは…緑谷!とどまったぁぁ!?』

 

「何が起きた?今ので緑谷に生気が戻った様な…」

 

「何にせよ指をへし折ったのか…全く無茶をするヤツだ…」

 

 突然の事態に皆が目を丸くして驚く。心操の個性に思考を巡らせていた美亜も、緑谷の執念と度胸に思わず感嘆の声を上げた。

 一方洗脳を解かれてしまった心操は焦っていた。一対一である為に誤魔化せる要素がなく、今のでネタは割れたと考えるべきだ。何とかして緑谷の口を開かせるしか無いと何度も問いかける。

 

「何したんだ…なんとか言えよ…!指動かすだけでそんな威力か、羨ましいよ。俺はこんな『個性』のおげでスタートから遅れちまったよ…恵まれた人間にはわかんないだろ!」

 

 挑発だった言葉が徐々に切望へと変わる。心操の焦りから生まれた心情の吐露に緑谷の心も締め付けられた。その思いはずっと彼自身も抱いてきた物だったからだ。だけど緑谷は人に恵まれた、だからこそ負けられない。信じてくれた人の為に、託してくれた人の為に。

 

「誂え向きの『個性』に生まれて!望む場所に行ける奴らにはよ!!」

 

「んぬあああああああ!!!」

 

 壮絶な組み合いの末に、緑谷は突き出された心操の右腕を掴み投げ飛ばした。心操の足が場外へと投げ出され、決着を告げるミッドナイトの声が響いた。

 

「心操くん場外!緑谷くん、二回戦進出!!」

 

 俯いてステージから去っていく心操、その背中にかける言葉を緑谷は見つけることができない。しかし普通科の仲間からの称賛、そして数多くのプロヒーローからの高評価の声を聞いた彼は決意を新たにした。

 

「今回は駄目だったとしても…絶対諦めない。ヒーロー科入って資格取得して…絶対おまえらより立派にヒーローやってやる」

 

 そう言い放った心操。返事をした緑谷に置き土産とばかりに洗脳をかけるとニヤリと不適に笑って会場を後にした。

 

 第二戦、轟対瀬呂の戦いは圧倒的な力を見せつけた轟が勝利を収めた。開始前から冷気を立ち昇らせた轟は、瀬呂の先制攻撃に全く怯む事なく大氷結で瀬呂諸共氷漬けにしたのだ。余りの威力に静まり返った会場からは、敗者に対するどんまいコールが沸き起こったのだった。

 

 第三戦、切島と鉄哲の被り個性対決は前戦から一転、漢気溢れる熱い戦いとなった。互いに身体の硬化を個性に持つ彼らが選んだ戦い方は、真っ向勝負の殴り合い。スタジアムの中央で打撃音を響かせて殴り合う2人は最終的に両者ノックダウンの引き分け。回復を待って腕相撲で勝敗を決める事になった。

 

 第四回戦、飯田と耳郎の戦いは一方的な物となった。持ち前のスピードで速攻を仕掛ける飯田。掴まれるたびにイヤホンジャックを挿すべく奮闘する耳郎だったが、尽く躱され場外へと投げ出されてしまった。

 

「あーあ、負けちゃった。ぜんっぜん駄目だったよ…せっかく美亜のお陰で最終種目出れたのにな」

 

 客席に帰ってきた耳郎は自身の敗北を朗らかに笑い飛ばしていた。しかし横に座る美亜は彼女の横顔、その目尻に残る涙の跡に気付く。

 

「そうだな…どう見ても完敗だった。だが近接に強い飯田と違って、お前は索敵や奇襲に特化した個性だ。それに……」

 

 おそらく慰めてくれているのだろう。美亜は明後日の方向を向きながら言葉を選ぶ様に話し始めた。耳郎がその横顔を見つめて次の言葉を待っていると、勝ったはずの飯田が鎮痛な面持ちで近づき90度に曲がる見事な礼を見せた。

 

「耳郎くん…先程は申し訳なかった!試合とはいえ女性に乱暴に掴みかかるなどヒーローとして言語道断。僕に謝罪をさせていただけないだろうか!?」

 

「いや…既にめっちゃ謝罪してるじゃん…」

 

 A組の生徒達から注目を集める飯田、耳郎が唖然としている間にも彼は微動だにせず頭を下げ続けた。

 

「まぁ気にするなよ。ウチだってイヤホンジャック刺して爆音流してやろう!って思ってたからさ…寧ろ真剣勝負ができてよかった」

 

「そうか…君がそう言うならこれ以上は失礼だろう。言い訳では無いが、耳郎くんの個性は刺さって仕舞えば動きを止められてしまう。だからこそ反応できないほどの速さで勝負をかけるしか無かったのだ」

 

「そっか、ウチもちょっとは戦えてたのかなぁ…よし!ありがとう飯田、元気出た。それに美亜もありがと」

 

「何に対しての感謝か分からんが…次の試合が始まるな」

 

「相変わらず素直じゃないよね。それにしてもこの組み合わせ…うちなんか見たくないなー」

 

 第五戦は麗日対爆豪、その試合は凄惨な物となった。爆豪に触れるべく捨身の突撃をする麗日だが、爆豪の驚異的な反射神経と個性によって尽く阻まれてしまう。しかし真の狙いは爆破された瓦礫を空中に浮かせ、一斉に降らせる流星群。捨身の策を取って渾身の一撃を放つ麗日だったが、それすらも爆豪は一撃で爆破し尽くす。

 万策尽きた麗日はそれでも諦めなかったが、疾う許容重量を超えた体は言うことを聞かず行動不能となり爆豪の勝利となった。

 

「そろそろだな…行くか」

 

「そうだね…!」

 

 麗日の敗北を見届けた美亜と芦戸は席を立ち、試合へ向けてそれぞれの控え室へと向かった。

 

 第六戦、常闇と八百万の戦いは『創造』させる間すら許さずに『黒影』で圧倒した常闇の勝利となった。素早く力も強い黒影は一対一なら最強に近い。弱点は本体の常闇と光に弱い事だが、冷静な常闇はそれを突く隙を与えない。

 

 そしていよいよ第七戦千染対芦戸の試合が始まる。

 

『クール&ビューティー!オマケにバイオレンス!その澄ました表情の内に熱い血が滾る!ヒーロー科、千染美亜!!

対するは、表情豊かなハッピーガール!持ち前の身体能力で翻弄できるか!?こちらもヒーロー科、芦戸三奈!!』

 

 大歓声に囲まれながらも美亜は相変わらず無表情で佇んでいる。その隙だらけの姿が、紅く染まった両腕が、芦戸には途方も無い威圧感を放って見える。この震えは武者震いか恐れか、それでも敢えて美亜の眼を正面から見据え闘志を燃やす。

 

(美亜ちゃん…絶対負けないよ。差があることなんて分かってる…でも超えるって決めたから!)

 

「よく考えるとあの2人って何かと一緒だよな」

 

「確かにそうだわ…演習の時も敵襲撃の時も協力してたのね」

 

「新しいライバル関係か!熱くていいじゃねぇか!!」

 

 砂藤の一言にA組の生徒達もそういえばと思い出す。そう考えると芦戸が美亜にライバル心を燃やすのも肯ける。もっとも美亜がどう思っているかは理解不能だが…

 

『START!!』

 

 芦戸は試合が始まった瞬間自身の前に弱酸を撒き、美亜へと突撃する。芦戸にとって警戒して悪戯に時間を経過させる事は愚策に他ならない。敵襲撃の時のように血溜まりが出来てしまえば近づく事もできずに勝ち目が潰えてしまう。

 

(接近戦に持ち込んで体術で押し切る!速く…もっと速く!!)

 

 美亜の両血腕は正面に突き刺され裾野の様に広りはじめている。芦戸が接近してくる前に防ぐ術を作るつもりなのだろう、だが…

 

「遅い!!」

 

 あの時と違って出血していないためか血が広がる速度が遅い。勢いのままスピードに体重を乗せ芦戸が宙を舞った。僅かにできた血溜まりを飛び越えて空中で横薙ぎ一閃、美亜の右側頭部に蹴りが叩き込まれた。鈍い打撃音と共に美亜の身体が左に傾くが倒れる事はなかった。

 

『すげぇ跳躍力!何て鋭い蹴り!』

 

『膝をムチの様に使う事で勢いを殺さずに威力を上げている。まるで鞭打、芦戸の身体能力が為せる技だな』

 

 観客の歓声が頭に煩く鳴り響く。芦戸の一撃は相当な威力を持って美亜の平衡感覚を奪い去った。咄嗟に突き刺した血腕を縮めなければ吹き飛ばされていた事だろう。しかし視界は火花を散らしたかの様に弾け、波打つ様に揺れている。回復まで数瞬を稼がなければならない。

 本当に何て使えない個性だ、傷を負わなければ満足に戦う事すら出来ないとは。

 

「頭が千切れると思ったぞ、どうやら本気で勝ちに来ているようだ……っ!」

 

「まだまだぁぁ!!!」

 

 芦戸が声を張り上げ再び美亜に襲いかかる。振り抜いた左脚をそのまま軸にするとくるりと一回転、右脚の踵を再び右側頭部へと叩き込む。芦戸のラッシュはこれで止まらない、次々と美亜に怒涛の蹴りを浴びせていく。左脚のローキックが美亜の右膝に直撃し、体制を崩す。そのまま右脚の踵落としが右肩にヒット、体勢が大きく前のめりになった。そして顎に向けて渾身の一撃、重く鋭い蹴り上げが炸裂する。

 

『怒涛のラッシュが止まらねぇ!まさかの千染が防戦一方だ!!これは芦戸いけちまうんじゃねぇか!つーかまだ意識あんのか!?』

 

『よく見ろ、最後の蹴り上げを両手でガードしている。代償として地に刺さっていた血腕は切り離したが、あれが入ってれば間違いなく勝負は付いてた…いや、それだけじゃない…』

 

 吹き飛ばされ、ふらふらと立ち上がった美亜。血腕を解除し、蹴り上げるを庇った右腕はへし折れてあらぬ方向に曲がっている。右側頭部から血が流れて美亜の白い肌を紅く染め上げ、それを残っている左手で抑えている。数多の蹴りを叩き込まれた胴も痛むのか前のめりになってふらついている。

 見るに堪えない惨状に観客の多くは思わず目を逸らしてしまう。先の爆豪対麗日も凄惨な戦いであったが、それは個性『爆破』が炸裂したド派手な物であった。しかしこの戦いは更に生々しく、打撲音が響き渡り裂傷から鮮血が舞った。観客から見れば殆ど一方的な嬲り殺しに近い状況だ。

 

(美亜ちゃん…成長してる!私の蹴りに合わせて体を流すことで衝撃を受け流しているんだ!近接戦闘が苦手の筈なのに…この短期間で一体何が!?)

 

 しかし美亜と相対している芦戸は驚愕と焦りを露わにする。手加減なしの最高速度で振り抜いた脚、それを見切られた上に受け流された。敵襲撃から体育祭までのたった2週間、強かった美亜は更に成長して強さを増しているのだ。

 

「だけど…いくら受け流せても効いてることには変わりない!もう一度、次は気絶しても知らないよ!!」

 

 芦戸は再び美亜に肉薄する、もはや立っているのがやっとなのか阻む手は無い。長く苦しまないようにこの一撃で意識を刈り取ってみせる、そんな思いも乗せた渾身の蹴り上げをその顎に向けて振りかぶる。

 誰もがこの一撃で勝負がつくと確信したその時、芦戸は美亜の眼に炎が灯る様を見た。そして視界が紅に染まる。

 突如視界を奪われたが、意に関せず脚を振り抜いた。鋭い一閃は美亜を捕らえることなく空振り、そのまま宙で一回転すると着地して周囲に警戒の酸を撒く。

 

(これは…血!?そっか!頭を抑えていた左手はこの為に…)

 

 芦戸は瞬時に機転を利かせ、超弱酸性の粘液で目を洗う。視界がパッと明るくなるも目の前にいた筈の美亜は消えている。素早く競技場全体に視線を走らせ、遠くに美亜の姿を発見した。

 

「この隙に攻撃せず逃げるなんてらしくない!向かって来ないならこっちから行くよ……っ!!」

 

 視界に捉えた美亜は片膝をつき地面に左手を当てていた。そしてその左手の先の地面が夥しい量の血で紅く染まり、今も尚増え続けている。

 

(血が…なんで!?裂傷も右側頭部だけ、他に傷はない…)

 

「まさか…あの時の血腕!!」

 

「理解したか…やっと形勢逆転だ」

 

 血溜まりから現れた2本の触手が芦戸に向けて放たれる。しかし流石の身のこなしで躱しながら接近を図る。

 

 

「形勢逆転、千染さんの勝利だ…!」

 

「なんでだ緑谷、まだ芦戸だって躱せてるじゃねぇか?」

 

 緑谷の呟きに瀬呂が反応して問いかける。確かに芦戸は驚愕の身のこなしで飛んだり跳ねたり、時には空中で体を捻って躱している。美亜は相当にダメージが入っているし、このまま隙を見て数発与えることが出来れば倒せるのではないか。

 

「元々芦戸さんの勝利条件はこの状況になる前に倒し切ることだったんだ。接近する以外に戦う術を持たない芦戸さんは、勝つ為に相手の懐に入る必要があるから…

 でも千染さんの懐に入るってことはつまりあの血溜まりを踏む事で…そこで脚を封じられてしまえばゲームオーバーになっちゃうんだ。

 だとしてもこの状況では距離を取る事も無に帰する可能性が高くて……」

 

「あー、分かった分かった。それぐらいで…あぁっ!芦戸が捕まっちまった!」

 

 奮闘虚しく捕らえられた芦戸、その体が場外へと放り出されると共に主審のミッドナイトより『勝負あり!』と宣言が出される。

 

『芦戸場外!ボコボコからまさかの大逆転!まったくハラハラさせるぜ!勝者は千染美亜、これで2回戦進出!!』

 

 マイクの声が響き渡り、歓声が一層大きくなってスタジアムを包み込む。

 敗者の芦戸より勝者の美亜が圧倒的に傷を負っている異常な光景。未だ膝をついている彼女にすぐさま医療用ロボが近づくも、それを左手で制して立ち上がる。そして踵を返して出口へと歩き始めた。骨が折れてだらりと垂れ下がった右腕、そして左腕にも闘技場の血が纏わり付き血腕が形成される。歩きながら両腕の感覚を確かめている美亜に表情は無い。先程までのクラスメイトと白熱の大逆転劇を繰り広げた姿が嘘の様だ。

 

(やるじゃないか芦戸…、拳士さんに感謝しなければならないな。2週間もの間ひたすら近接、それも躱すことだけを特訓してきた効果はあったみたいだ。以前より相手の動きが良く見える。

 だが、やはり戦い方を考えねば…本当の戦いははよーいドンでは始まらない、今回の様に最初から力を使えなければ話にならないか……)

 

 しかし無表情で歩く美亜だが、内心では2週間の特訓の成果を噛み締めていた。以前までの自分であれば、芦戸の蹴りをモロに受けて意識を失っていてもおかしく無かった。

 

(本当に大変な特訓だった。拳士さんは気分が乗るととんでもない速さで攻撃してくるし、美波さんは居れば止めてくれるものの、基本孤児院の管理で忙しいしな…それに風斗とかおりも…)

 

 美亜がふと脚を止めて振り返ると、反対側の出口に芦戸が俯いて歩いていくのが見えた。

 

「仕方がない奴らだ…全く、慰めるのなんて苦手なんだがな。どいつもこいつも…そんなにヒーローへの想いが強いのか……」

 

 そう一言呟くと未だ収まらない歓声を残し、通用口の暗闇へと姿を消した。





色々補足(描写不足)をさせていただきたいと思います。
 先ず組み合わせで脱落した尾白と発目についてですが、発目は昼休み前に緑谷を推薦したのち研究所に行っています。なのでそもそもこの場にいません。尾白くんはA組の割合が高くなりすぎる事もあり泣く泣く脱落となってしまいました……尾白ファンの方々申し訳ないです。
 また緑谷対心操ですが、騎馬戦で心操と組んだA組が居ないため個性の真相は闇の中です。頭の切れる数名は気づいたでしょうがそれ以外の皆はかなり混乱しています。
 次美亜対芦戸
 美亜がボッコボコにされました。芦戸さん容赦なさすぎじゃない…と思われるかも知れませんが彼女は美亜が再生できることを知っています。でも級友の顔面を蹴り飛ばせるか……?
 あと芦戸が自分の目を酸で洗ったシーンですが、実はスマッシュであった様な気がしているシーンです。書いた後見返して見たのですが見つからない…。妄想だったのか分かりませんが芦戸の酸が麗日の顔面にかかって綺麗になってた気がする??

ここまで読んでいただきありがとうございました!
 今までで最長の8000字になってしまいました…、せめて美亜の一戦目まで描こうとした結果がこのザマです…。
 そして今回から段落分けの一文字目を1マス開けています。むしろ今までなぜやっていなかったのか…、読みにくくて申し訳ありませんでした。今後はこの形で書いていこうと思います。
 次回は美亜対塩崎です!読んでいただけると嬉しいです!上鳴は即負けます!!
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