血濡少女のヒーロー?アカデミア   作:夏秋冬

30 / 43
第27話 血濡少女と体育祭 最終種目:3

「チッ…オイ黒霧…。なんでこんなクソ茶番を見なきゃならないんだ」

 

 とある一室、電気も付けず、カーテンが締め切られた窓からは光も刺さない。そんな真っ暗な部屋には爛々と輝く一台のテレビ、その前に一人の男が座っていた。

 

「そういわずに…先生からの指示です。雄英高校体育祭、それも一年の部を見ろと」

 

「あぁクソッ!…特にこいつだ。顔見るだけでイライラするんだよ」

 

 テレビの前に座る男、死柄木弔は忌々しそうに首を掻き毟りそう吐き捨てた。

 画面に映るのは、雄英襲撃事件の際に邪魔をしてきた化け物女だ。名は千染美亜というらしい。あの女は原型を留めないほどズタズタにした筈だ、にも関わらず2週間後には元気に体育祭に出場している。見たところ傷や後遺症など何処にも感じられない。あの時と同じ、何故か見れば見るほど不快感を覚える顔と目を携えて。

 

(『再生』、全く…キモい個性だぜクソが…)

 

「やぁ弔、しっかり見ていてくれているようで何よりだ。それで千染美亜…、この子が脳無と戦った"死なない少女"だね?」

 

「先生…あぁそうだ、あの時の傷はどれも間違いなく致命傷だったはず。それなのに痛みに叫ぶ事も、恐怖する事も無く、何度も何度も立ち上がってきやがった。個性も精神もイカれてるクソ女だ」

 

 テレビの横のモニターが点灯し、SOUND ONLYの画面から音声が流れる。その声の主は彼らが"先生"と呼ぶ人物、オール・フォー・ワン(AFO)だ。かつて裏社会から日本を支配していた「悪の帝王」「究極の悪」と呼ばれる存在。彼は5年前オールマイトに打ち倒されるが、生命維持装置を付けながら今も生き延びている。

 

「弔、彼女をよく見ておくんだよ。

それにしても……運命かな?まさか雄英高校に居るとはね。少し残念になってしまったけど、それでも充分だ」

 

「あ?先生…話が見えねぇ。確かに『再生』は厄介だが、あの程度なら脅威じゃねぇ。そもそも関わらなければいいだけの話だ。何故そんなにあの女に拘る」

 

 美亜の事を話す先生はいつになく上機嫌だ。それも死柄木の苛立ちをより一層掻き立てる。剣呑な雰囲気を隠そうともせずに問いかけられた質問に、AFOは諭すような優しい声色で答えた。

 

「そうだね、話しておこうかな。彼女は将来君の優秀な右腕と成るだろう。その時の為に、部下のスキルを把握しておくべきだとは思わないか?」

 

「ちょっと待って下さい。彼女は敵側のスパイなのですか?もしやヒーローの内情を探らせているとか…」

 

 黒霧は慌てて先生に問いかける。もし彼女がAFOの部下であるならば、USJの襲撃で相対したのは失態かもしれないからだ。彼女はこの体育祭を見る限り、明らかに意図して個性を隠している。だがUSJの戦いで彼女は様々な個性、戦闘能力を晒してしまった。恐らくあの場を見ていた者はいないと思うが、それでもリスクを生んでしまったことは事実だ。

 

「そうでもあるし、"まだ"そうでも無いとも言える。弔ならわかる筈だ…USJで相対した時に、千染美亜から何を感じた?」

 

 AFOは優しく、まるで教えるように問いかける。死柄木は天井を見上げ、少し考えこんだ。そして思い出したようにポツリと呟く。

 

「あぁ…眼…だな、こっち側の人間がする…あるいはそれ以上かもしれねぇあいつの眼…。あの女の本質は(ヴィラン)だ、それが無理やりヒーローの皮を被っている…そういうことか先生」

 

「素晴らしい、素晴らしいよ弔。まさにその通りだ。そうだな…ご褒美に少し彼女の過去について教えようか」

 

 AFOはいつになく上機嫌に、そして饒舌に話し出す。死柄木から雄英高校襲撃事件の報告を聞いたAFOは、気になった「不死身の化け物女」を調べたのだ。

 

「千染美亜、本当に可哀想な少女だよ…。戸籍上彼女の出生は不明のままなんだ。分かっているのは1歳でNo.8ヒーローの元へ引き取られたという事、そして5年前、10歳から熱犬孤児院で暮らしているという事の2つ。

 そして調べて判明した事だけど……彼女は、No.8ヒーローの元で常人なら死に至る程の虐待を受けていたようだね。一糸纏わぬ姿で地下室に閉じ込められ、半死半生の状態で8年間も過ごしていたらしい…。"お前は危険だ"、"化け物"と言われ続け、尊厳を踏みにじられ、人間らしく過ごした日々は人生の半分にも満たない」

 

「成る程…であればあの驚異的な再生速度にも納得がいきます。幼少期から幾度となく傷つく事で、個性を無理矢理鍛えざるを得なかった訳ですね」

 

 黒霧は興味深そうに頷きながら、考えを巡らせる。しかし死柄木はつまらなそうに肩を落とすと、深いため息を吐いた。

 

「はぁ…何かと思えばくだらねぇな先生。同情でもしたのか?虐待されてたからヒーローを怨んでいる、だから敵側に寝返るかも…って……。四流マンガ家でももうちょいマシな話書くぞ」

 

 一瞬、虚を突かれたような静寂が訪れる。機嫌が悪くなってきた死柄木を宥めるように、そして心底愉快そうにAFOは言葉を続ける。

 

「違うよ、むしろ逆さ。No.8ヒーローが正解なんだよ。彼女は危険で化け物だから、ヒーロー達は虐待程度で済ませるべきでは無かったんだ。成長し、取り返しがつかなくなる前に息の根を止める。これが最善だった。

 しかしあろう事かヒーロー達は彼女を救い、愚かにも雄英高校に入学させた。彼らは自らの手で巨悪を育んでいるんだよ。あぁ…本当に面白い、実によく出来た喜劇だ。彼女はね……」

 

 画面の向こうからくつくつと、AFOの堪え切れなくなった笑みが聞こえる。異様な様子の先生に、次の言葉を待つ2人は画面に顔を向けた。

 AFOは親が子供に向けるような、暖かく慈しみのある声色で言葉を紡ぐ。

 

「彼女は……僕とドクターが"創った"最高傑作、改人『ラミア』…脳無の始祖(オリジン)だよ」

 

「まさか…!」「おいおい…まじかよ」

 

「だから…"今度は"僕達が救ってあげる番だ。やっと見つけた、今も尚ヒーロー達に囚われている哀れな僕の娘(美亜)を…」

 

 

 

 

 試合を終えた美亜は、クラスメイトの待つ観客席に戻る事なく控え室へと向かうことにした。

 

(轟と飯田の試合は直ぐに決着がつくだろう、少しぐらい休む時間を稼いでくれるといいんだが…)

 

 その足取りは勝者には見えない程に重い。全身が鉛の様に怠く、少し頭に鈍痛が響いている。ここまで一日中連戦に次ぐ連戦、最終種目は二試合ともかなり激しく消耗してしまった。

 美亜はフラフラとした足取りで控え室に着くと、ドアを開けた。

 

「あ?」「ん?」

 

 何故か美亜の控え室に爆豪が座っている。目線が交差し、微妙な時間が流れる。ドアを開けた状態で固まっていた美亜は、一度控え室のプレートを確認し、ここが自分の控え室である事を確認して深くため息をついた。

 

「オイ、間違えたのは俺だけどよ…その反応はムカつくなぁ…!」

 

 その反応が間に触ったのか、爆豪は乱暴に席を立つと美亜に詰め寄る。しかし美亜は黙ったまま横をすり抜け、椅子に座ると背中を預けて天井を仰ぎ見た。露骨に疲労が溜まっている事をアピールしている。仮にも勝利を宣言した相手の、あんまりな有様に爆豪の苛立ちが募る。

 

「次の相手はオレだぞ。そんな状態で勝つ気あんのかよ?」

 

「んー、まず勝てないだろうな。たがまぁ…自分でもここまでよくやったと思う。まさかベスト4まで勝ち上がれるとは思ってもいなかった」

 

 美亜は机の上に伏せ、もぞもぞと腕枕の位置を調整している。何かあったのかすっかり気が抜けており、こっちの話など欠片の興味も無いようだ。

 試合前にも関わらず、これだけ気が抜けている美亜に腹が立つ。そして何より、初めから負ける事を受け入れているその態度が気に喰わない。

 

「あんな雑魚供に勝っただけで何満足してんだ、腑抜けてんじゃねぇ。テメェが本気出せば瞬殺だろうが!」

 

「雑魚…?それは聞き捨てならんぞ。芦戸も塩崎も、私に勝つべく策を巡らせ必死に戦った。その努力をなんだと思っている」

 

 うつ伏せになっていた美亜の頭が動き、枝垂れた髪の間から紅の瞳が覗く。片眼だけでも分かる、さっきまでの腑抜けた雰囲気が霧散しつつある。

 

「あ?違わねぇだろうが!雑魚は雑魚!とにかくテメェは、とっとと本気出してオレとやればいいんだよ!どいつもこいつも…いつまで舐めプしてやがんだ!クソ!!」

 

 爆豪は雰囲気の変わった美亜を一瞥すると、乱暴な言葉を残して部屋を去った。怒りに任せて叩きつけられたドアを見て、美亜は呟く。

 

「お前の高い志は、称賛されるべき美徳だと思うが…。なんだろうな、すこしムカつく……」

 

 困惑する美亜の心境とは裏腹に、紅い眼の中に炎が揺れる。静かに、けれども確かな獰猛さを含んで。

 

 

 ストレッチをしつつ静かに体力を回復させていた美亜の耳に、湧き上がる歓声が聞こえる。恐らく先の飯田対轟の決着が付いたのだろう。爆豪との戦いに冷静さと僅かな興奮を抱きながら、一つ伸びをして控え室を出た。

 

『轟対飯田のハイスピードな戦いに会場もオーバーヒート!このまま次行っちゃおうか、準決第二試合!ここまで逆転に次ぐ逆転!クールな表情の内に、意外と泥臭いガッツがあると見た!千染美亜!!対するは圧倒的な実力で勝ち抜いてきた優勝候補筆頭!相変わらずの悪人面!爆豪勝己!!決勝に進むのはどっちだ!?』

 

 (あれだけ煽っても澄まし顔かよ…だが今はそれで良い。とっとと個性暴いて、嫌でも本気にさせてやる)

 

 美亜と相対する爆豪は、獰猛な笑みを浮かべて思案する。部屋を間違えたのはわざとだ。戦う前に発破をかけたかったのも理由の一つ。いつまでも舐めプをする美亜は見てて苛つく、脳無と戦ったとされるその実力を十全に発揮させ、その上で完全に勝利する。

 

 脳無とオールマイトの戦い。それを一番近くで見ていた爆豪は、彼らが立つ遙かな高みを実感した。しかしオールマイトと打ち合える程のパワーとスピードを持つ脳無を相手に、立ち向かい時間を稼いだクラスメイトが目の前にいる。己が遙か高みを超えるためにその実力を目にしたいし、何よりも負けたくない。

 

(芦戸戦で見せた触手は厄介だ、アレをやられたら流石に俺でも苦労するかもしれねぇ。やるなら速攻、最速で懐に飛び込んで……奴の個性を暴く!)

 

 爆豪にとって1番以外はゴミだ。また与えられた1番もまたゴミに過ぎない。全身全霊をかけて立ち向かってきたヤツ、それを完膚無きまでに叩きのめして1番になる。それこそが彼の望む1番、トップなのだ。

 だからこそこの戦いも先ずは美亜の本気を引き出す事から始まる。個性を暴き、使わせる。それこそが部屋をわざと間違えた真の理由。あの時得た推察を確かめるために、接近戦を仕掛ける。

 

『それじゃあ行くぜ!?レディーーSTART!!』

 

 開始の瞬間、爆豪は手の平を後ろに向け、爆破の推進力で美亜へと突撃する。初速を最大火力で一気に加速、その後は足の動きに合わせて爆破のタイミングを調整し、効果的に最大速度を引き出している。その速度はプロヒーローですら目を見張るほど、使いこなす彼のずば抜けたセンスがなせる技だ。

 

『爆豪!いきなりすげぇ速度で突撃!速すぎるぜ!!』

 

 対する美亜は迫る爆豪に向け、両血腕で襲いかかる。爆豪の並外れた加速、しかしそれは諸刃の剣でもある。爆破によって生み出された加速は簡単には止められない。確かに機動力も抜群ではあるが、それはあくまでそれを想定した速度を出しているからだ。だからこそ、馬鹿正直に最高速度を出す爆豪を正面から捉えるのは難しくない。

 巨大化した美亜の血腕が爆豪に迫る。鋭く尖った指先が爆豪を捕らえんとしたその時、流水のような動きですり抜けた。僅かな手の平の向きと加速が弱まった瞬間を狙い、速度を殺さず、かつ最小限の動きで推進力を維持したまま回避をして見せたのだ。

 

「なに!?」

 

「遅えんだよクソが!!」

 

 爆豪は止まる事なく、寧ろさらに速さを増して向かってくる。伸びた血腕を地に落とし、防御の為に通常よりサイズまで戻した美亜は、彼我の実力さをふつふつと思い知らされていた。これ程の速度を出しておきながら、それでも自在に動き回る。相当に個性を使いこなし、そこに抜群のセンスが加わらねば、この年でこれ程の芸当は無理だろう。正面から迫る爆豪に対し迎撃の準備を整える。爆豪が目の前で腕を振りかざした瞬間、血腕を変化させ盾を作り出す。とにかく勢いを殺さねば話にならない。彼の攻撃の中で最も単純な正面からの初撃を何としても防ぐ。

 

 しかし振り上げられた右手は美亜に向かう事なく、地面に叩きけられ強力な爆破を起こす。衝撃で飛び上がった爆豪は、空中で一回転すると、美亜の頭を押さえつけるように上から爆破を叩き込む。衝撃で前のめりになった所に、着地して追撃で顎に爆破。カチ上げられた美亜は状態を大きく逸らしてのけ反った。

 

『怒涛の連撃がヒット!!これは痛え!つーかなんて機動力だよ!流石の千染も爆豪の速度に対し手も足もでねぇか!?』

 

 がら空きの腹部に渾身の一撃を叩き込もううとした爆豪は、美亜の体から鳴るぶちぶちと何かが切れる様な音を聞く。そして上から迫るものを感じ両手の平を空へと向ける。

 

「押しっ……潰れろ爆豪!」

 

 爆豪を覆った影はは、美亜の両血腕を合わせた巨大なハンマー。仰け反った体勢から、敢えて後ろに叩きつける事で反動を生み出した。筋繊維を引きちぎるほどの力で踏ん張り、渾身の速度で血鎚を振り下ろす。

 

「だから…甘ぇつってんだろクソが!」

 

 爆音が鳴り響き、眩い閃光が柱となって立ち上がる。凄まじい爆風、砂埃と共に美亜の血腕が千切れ飛び空を舞う。

 

『マジかよ爆豪!麗日戦と同じ?いやそれ以上の渾身の爆破で、美亜の一撃諸共その血腕をブッ飛ばした!!つーか砂埃で見え辛すぎんぞ!』

 

 渾身のカウンターを正面から打ち砕かれた美亜は、砂埃の中で離脱を図る。しかし足の筋繊維の再生が間に合わず、動くことができない。

 血腕を再び生成しようとしたその時、爆豪の手が右腕の断面を掴んだ。

 

「テメェ…やっぱりかよ…」

 

 手の平に伝わるのは美亜の肌の感触ではない。生暖かい血と生々しい肉の感触。美亜の二の腕から先は無く、剥き出しの肉から赤々とした血が滴り落ちる。

 

「この…!離せ!!」

 

 常人なら思わず手を離すであろう異常事態。だが爆豪は更に強く掴むと、美亜を引き寄せる。砂煙の中から現れた美亜の表情には、痛みや苦しみなどは感じられず、ただ爆豪を強く睨みつけ怒りを爆発させている。

 

「再生…ハッ!やっぱりそう言うことかよ。『操血』に『再生』、マジでどうなってやがんだテメェの個性は!まるで複数個性持ちじゃねぇか。いや…それよりも痛くねぇのかよ。

痛みを感じなくて個性も複数…そんなんマジで…脳無みてぇじゃねぇか!」




AFO:やった!こんな所に居たのか!勝ったな!

No8ヒーロー:だから私達言ってたじゃんかよ……

美波、拳士:(虐待は)駄目です

読んでいただきありがとうございます。本当に大事な話なのに期間が開いてしまいました…。

敵会話、簡単に補足しますと
・美亜はAFOによって創られた改人の成功体
・14年前にヒーロー達によって救出、No.8ヒーローの元へ
・7年前、No.8ヒーローの死によって解放。2年の時を経て熱犬孤児院へ

そして爆豪戦
・展開
 爆豪は強いので美亜では手も足も出ません。実際実力は一年だと爆豪、轟、骨抜の次ぐらいだと思っています。後は飯田や宍戸などのスピード、パワー系だと苦戦しますし負ける可能性もあるぐらいです。
・切断面鷲掴みの爆豪
 相当グロです。血だらけ肉だらけです。断面を正面から掴んでますのでなんなら骨とか触ってるのでは…?手を離さない爆豪は凄い。

次回は爆豪戦終戦から体育祭終わりまでかけるといいなと思っております。引き続き遅筆ではありますが、よろしくお願いします!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。