血濡少女のヒーロー?アカデミア   作:夏秋冬

31 / 43
第28話 血濡少女と体育祭 最終種目:4

 

「テメェ…….マジで脳無みてぇじゃねぇか!」

 

「離せと…言っ…はず…!クソっ!!」

 

 振り上げられた美亜の左血腕が、爆豪の脇腹に鋭くめり込む。怒りに任せた乱雑な拳、ただこれまでの彼女とは違う全力の一撃は、爆豪に相当な衝撃を与える。肋骨がミシミシと軋む不快な音を体内から感じ、酸素が肺から吐き出され視界が揺らぐ。美亜は思わず力を緩めた爆豪を振り解き、距離を取るべく全力で後ろへと跳躍する。

 

 

 観客の視界に、ようやく土煙の中から美亜が姿を表した。その両腕は既に血腕が形成されており、観客に驚きはない。それでも会場がどよめいたのは、その人間離れした大跳躍。まるで羽根のように軽々と、ひとっ飛びでステージの端まで飛んでみせたのだ。

 

「その足…ハッ!そんなこともできたってわけかよ!」

 

 すっかり遠くに逃げられてしまった美亜の足は、太ももまで赤黒い血で染まり、血管のような真っ赤な線が無数に走っていた。まるで鎧のように足に纏った血が、他に劣る美亜の身体能力を大きく補強する。

 

(一体どこまで隠してやがる…後は何ができる…?今のは脚部の強化、そもそもアイツはどこまで強化できる、まさか全身までいけんのか?)

 

 爆豪は慎重に美亜を見据え、次の手を思考する。強力な個性を持つ美亜の、圧倒的な弱点であった身体能力の低さ、それが脚部のみとはいえ補強されている。もし素早く動けるなら?あれが血腕と同じく伸縮するのだとしたら?それどころか全身を補強できるのなら?

 

(何考えてんだオレは!わかんねぇ情報ばっか考えてもどうせキリがねぇ、アイツ隠し玉が多すぎんだよ!それよりもっと重要なことがあんじゃねぇか)

 

 立ち込める砂埃の中、爆豪だけがみた光景。両血腕をちぎり飛ばされ血を撒き散らす美亜には、痛みや苦しみ、それらを我慢する素振りすらなかった。そもそも両腕を千切られるなど、我慢できる痛みではない筈だが…。美亜の血腕は腕を覆っているものだと思っていたが、その実は腕を切断し、そこから流れる血を腕状に形成していた。

 

(つーことはあれか?今まで血腕使うたびに腕切り飛ばして、再生してたってことか?やべぇな…イカレてやがる)

 

 考えられるのは無痛、あるいはそれに準ずる感覚の欠如。それが『再生+操血』という肉体的損傷を伴う個性由来のものなのか、生まれつきの疾病なのか、あるいは別の外的要因によるものかは判別できないし、この試合においてする必要もない。

 重要な事は、『再生+操血』という強力な個性。それと先の無理な体制からの鎚撃の様に、痛みを感じない事で、身体構造の限界を超えて得られる常人離れした筋力。その2点、それだけを頭に入れて作戦を組み立てる。他の事は臨機応変に対応すればいい。爆豪にはそれが出来るだけの機動力と突破力があるし、先程のダメージは痛むが深くはない。    

 

 確実に美亜の本気を引き出しつつある、その実感に爆豪は、その笑みを更に獰猛にして獲物を睨みつけた。

 

 

「黒装?いや…鮮血の鎧か……」

「互いに動かないわね、様子見かしら?」

「無理もねぇよな。千染ってあんな身軽に動けるのかよって感じだろ」

「引き出しの多さにも驚嘆ですが、美亜さんは咄嗟の対応力もありますのよね」

 

 開始早々の激しい攻防、美亜の渾身の鎚撃、それを正面から打ち砕く特大の爆破。土埃でその後の様子は見えなかったが、聞こえた爆破音から、激しくぶつかり合っていた事は想像に難くない。

 だが再び現れた美亜と爆豪は、距離を保ちながら膠着状態にある。急激な温度差に首を傾げるクラスメイト達、唯一常闇だけが何やら浮き足立っている。

 皆の意見は、膠着状態も仕方がないという爆豪への同情が大勢だ。なにしろ相手は千染、思考が表情に出辛く、何をしてくるか分からない不気味さが常に付き纏っている。何より個性の全容が未だ不明なのだ。新たに見せた脚部の増強が彼女の全力だ、と思ってしまう程爆豪が楽観的な筈はない。伏せ札を多く持つ美亜から仕掛けない限りは、警戒して攻めあぐねてしまうのは必然だろう。

 

「美亜ちゃん…?」

 

 相手を鋭く睨みつける爆豪、対して美亜は俯いたままダラリと腕を垂らしている。一見無防備に見える彼女に、臨戦体制の爆豪は攻めるタイミングを図る。再びぶつかり合う時には、どんな激しい攻防が観れるのだろうか。

 多くの観客が固唾を飲んで見守る中、芦戸は1人胸騒ぎを感じていた。纏う雰囲気が、その姿が、あの時の彼女と重なって映る。

 

 USJで、無数の敵を前に見せた狂気に濡れた姿に。

 

 

「爆豪………に…逃げろ……」

 

「あ?何で俺が逃げんだよ!こっからだ、こっからが本当の勝負だ!種明かしは済んだぜ、本気出してかかって来いや舐めプ女!!」

 

 俯く美亜の口から微かに紡がれた警告、それを爆豪は足蹴にして更に挑発する。

 

(そういう所がムカつくんだよ、この女はいつもそうだ。分かったような態度を取って、内心では見下してやがる。優勢なのはオレだ、テメェはオレが叩き伏せてやる!待ってやがれ、今その澄まし顔を屈辱に歪めてやる!)

 

「さっさと…本気で全部ぶつけて来いや!どんな狡い手だろうがねじ伏せてやるからよォ!」

 

 突然、美亜が首を掻き毟り始めた。爆豪の挑発を受けて何を感じたのか。その表情は伺えない。チョカーからガリガリと硬質な音が鳴り、流れる血で白磁の肌に紅の線が走る。掻き鳴らす不協和音の中から、微かに何かを呟く声が聞こえて来る。掻き毟る力が徐々に強まり、もはや首を抉っているのではないかと錯覚する程だ。

 

「舐めプ…本気…マジ…あぁ五月蝿い。煩わしくて堪らない。いいのか…いいよな……」

 

 突如、首を掻く手がピタリと止まった。そして呪詛のように何かを呟き続けながら、ギクシャクとした動きで顔を上げる。

 

(くっそ、なんだコイツ…。明らか雰囲気が変わりやがった。なんだか分からねェがこれ以上はヤベェ!さっさと潰す!)

 

 爆豪を襲う悪寒、頭の中で警鐘が鳴り響く。それを振り払うように一発、両手の平で爆破を起こし、発生源の美亜に向けて足を踏み出す。

 

 だが、たった一歩でその足は止まった。否、止められた。彼女と眼があってしまったから、その紅く燃え上がる眼に見入られてしまったから。溢れる狂気と恐怖で、絶対零度に晒されるかの如く全身が凍りついた。

 

「…………………………失せろ」

 

 天に掲げられた血腕が刀状に変形し、美亜の首を切り裂いた。

 

 

 

「美波!チョーカーが!!」「止めて!相澤くん!!」

 

 鮮血が空に迸る。切り裂かれたチョーカーが地に落ち、一瞬の静寂の後、状況を飲み込んだ観客達から悲鳴が上がる。

 

「相澤!」「クソ!分かってる!!」

 

 相澤の最悪の予想が的中してしまった、まさか美亜の方が暴走するとは。パワーローダー先生が言っていたチョーカーに搭載された機能、締め上げる他に高圧電流を放つことが出来る。美波さんが危険な目に遭うと言った対象が、美亜では無くその相手だとでもいうかのようだ。

 だがその可能性があるのではないかと薄々考えていた。慎重で計算高い美亜が、USJで敵の首魁を前に、たった1人で立ち向かう事など特に妙だった。何がトリガーかは不明だが、彼女の『個性』は暴走する。そして彼女の精神はそれに大きく影響されてしまう。どんな変化を遂げるにしろ、見る限り良いものではないのだろう。

 

「セメントス先生!!」

 

 美亜の四方に壁が聳え立ち、その姿を覆い隠す。セメントス先生の個性『セメント』が、暴走する美亜を長方形の箱の中に閉じ込めた。相澤は先のUSJで負傷しているため、『抹消』が本調子とは程遠い。効果範囲や持続力などを考えれば、近くで彼女の個性を消しつつ、速攻で捕縛する必要があるだろう。その為の時間稼ぎとして、とりあえず観客からの視線は遮ることができた。

 

 雄英高校体育祭に多少の怪我はつきものであり、流血や打撲、場合によっては骨折すらも想定の内だ。その為にリカバリーガールを含めた優秀な医療班が準備している。それでも首から血を吹き出す女子生徒というのは、テレビや観客に見せても良い範疇を超えている。

 

「相澤先生、この壁はそう易々と破れない筈です。落ち着いて降りて来てください、それから捕縛しましょう」

 

 セメントス先生の冷静な指示、そして一先ずは封じ込めたという事実に胸を撫で下ろす教師達。観客達は未だ騒ついているものの、状況を把握すべく美亜を注視する。

 

 その時、静まり返ったスタジアムに、鈍い打撃音、何かを壁に打ち付ける音が響き渡る。初めは弱々しく断続的に、しかし徐々に強さと連続性が増していく。まるで無数の拳が打ち付けられているかの様な異音、発生源は明らかに箱の中だ。

 

「中で…何が起きているんだ…?」

 

「急いで下さい!千染さんが危険な状態かも知れません!!」

 

 そんな事は分かってる。本来ならなんてこと無い距離、万全では無いこの体が恨めしい。横でマイクが「俺が抱えてやる」と言っているが、たいして変わらないので一蹴する。いっその事飛ぶか?もしかしたら着地出来るかもしれない。例え出来なくとも『抹消』が使えればそれでいい。

 相澤の思考が危険な発想にかかり、窓を突き破ろうと拳が振り上げられーーーーーー

 

「もう大丈夫だ相澤くん!私が来た!!!」

 

「オールマイト先生……遅いですよ」

 

 オールマイトがドアを勢いよく開け放って現れる。悪態をついたが、この状況に最適な人物だ。いじけて人差し指をつんつんしているオールマイトに、構わず端的に指示を飛ばす。

 

「オールマイト先生、俺を抱えて箱の上まで飛んで下さい。どうなってるか分からない状況で壁を開ければ、生徒たちや観客に被害が及ぶ可能性がある。それに…あの状態の千染を見せるわけにはいかない。上からなら大丈夫です、俺が『抹消』で千染を止めます」

 

「了解した!!しかし…大切な友人達の為かい?全く…君も無理をするね」

 

「今はあの2人は関係ないでしょう。早く飛んで下さい」

 

 相澤を抱えて、開け放たれた窓枠に足をかけたオールマイト、包帯から除く鋭い視線にやれやれと首を振った。

 

「HAHA!誰とは言ってないんだけどね…。さぁ行くよ!千染くんを助けに!!」

 

 次の瞬間、凄まじい衝撃波と風圧を残してその姿が掻き消える。たった一蹴り、弾丸のように射出されたオールマイトは空を飛び、既に箱の上空へと到達していた。重力に従って落下しながら、セメントスへと指示を出す。

 

「箱の上を開けてくれ!私と相澤くんで彼女を助ける!」

 

「オールマイト先生!?相変わらず無茶をしますね…分かりました、彼女をお願いします!」

 

 セメントが粘土のように動き、上部が開いていく。恐ろしい打撲音の正体は、そして美亜は一体どうなってしまったのか、緊張が走る。オールマイトは不測の事態の為に、相澤は決して見逃すまいと痛む目を目一杯開いた。

 

「千染は……っ!!!」

 

 視界に飛び込んできたのは無数の触手、蠢いてセメントの壁を殴打している。さらに鼻をつく鉄の匂い、ヒーローなら嗅いだ事のある匂い、濃厚な血の匂いだ。

 上空から刺す日の光に気付いたのか、触手の動きが止まる。その隙間から中央で佇む美亜が見えた。切り裂かれた首から、千切れた両腕からも大量の血が噴き出し、箱の中に血の池を作っている。

 

「相澤くん!いけるか?」

 

「あぁ、この距離なら……!!」

 

 

 『抹消』を使おうとしたその時、美亜が顔を上げた。

 

 その紅眼からは、血の涙が止めどなく流れ落ちていた。

 

 

 相澤の脳を過ぎる無数の記憶。

騒がしくも悪くなかった、楽しかった学生時代。

助けられなかった、目の前で失った大切な親友。

もう二度と失わないように、必死で鍛えた駆け出しのプロヒーロー時代。

そう願っていた矢先、再び失った尊敬する先輩と親友。

あの日は不穏な空気が漂っていた。朝方、強盗事件が立て続けに2件起き、昼頃、町外れの廃工場が大爆破を起こした。そして夕暮れ、惨死体が発見され2人は姿を消した。必死で探したが、自分には何もかもが足りなかった。結局、手掛かり一つ掴めないまま真相は闇へと消えた。

誰も守れない、誰も救えない、自分ではダメなのだ、誰かを引っ張っていけるヒーローを、失いたくない、もう二度と…誰も……。

 

 

「……ん!……くん!イレイザーヘッド!!」

 

 自分を呼ぶ声で現実へと引き戻された。全身は汗だく、呼吸は荒くなり、心臓が煩いほどの鼓動を繰り返している。

 

「オ……オールマイト…一体何が……?」

 

 しかしそんな隙は許されない。相澤が意識を飛ばした間に、美亜が血のドームで自身を覆い隠してしまう。これでは『抹消』の視線が届かない。そして無数の触手がオールマイト達に向けて殺到する。

 

「SHIT!!説明は後だ!上に投げる、安心してくれ!絶対にキャッチするから!!」

 

 次の瞬間、思考がまとまらない相澤は浮遊感と風圧で意識をハッキリとさせる。自分が放心してしまったせいで、遥か下にいるオールマイトに触手が襲いかかる。

 

(何やってんだ俺は……クソ!!だけど……)

 

「千染を…お願いします!オールマイト!!」

 

「まったく…後輩にここまで応援されたら…やるしかないよな!!」

 

 マッスルフォームの余力は残り少ない。無理をすればするほど削られてゆく己の力、それでも、無理をしてでも助ける理由がある。あの無表情が、そこに揺らめく目が、助けを求めていたから。暴走していようと、此方に敵意を向けていようと、数え切れないほど見てきた守るべき人達と同じなのだ。

 振り上げた拳に力が漲る。迫る触手、遮る球状の盾、それら全てを跳ね除けて相澤の『抹消』を届かせねばならない。ならばやってみせよう、これから悩み苦しむであろう彼女を、我々が良き方向へと導けるように。

 

「見ていてくれ、そして目指してくれ千染くん‼︎!命を賭けて人を助ける、ヒーローの姿を‼︎‼︎!DETROIT SMASH!!!」

 

 振り下ろされたオールマイトの拳が、衝撃と爆風を持って触手を消し飛ばしてゆく。コンクリートの壁が栓となり、爆風が天へと螺旋状に舞い上がる。美亜を守っていた盾は、全方向からの圧を受けひび割れ砕け散った。怯えたように蹲り、頭を抱えている美亜の姿が露わになる。怖かっただろう、未知なる力に己を失うのは。寂しかっただろう、闇の中で唯一人取り残されるのは。

 

「もう大丈夫…!相澤くん!!」

 

「分かっています!今度こそ……!!」

 

 上空から落ちてくる相澤をキャッチしたオールマイト。今度こそ失敗しないよう、これ以上苦しめないように、相澤が全力で目を見開く。ついに『抹消』が発動した。

 

 蹲る美亜の両手と、さらに溜まっていた血が霧散して消え去る。手を失った美亜は、うつ伏せの体勢からそのまま地に倒れ伏した。着地したオールマイトが慌てて駆け寄る。

 

「千染くん!私が来たぞ、もう大丈夫だ!!」

 

 どう見ても大丈夫ではない。手は二の腕から先が無く、切断面から血が溢れるように流れている。迸るような勢いではなく、ドロドロと粘性を持って、それでも確かな量が地に溜まる。

 

「オール……マイト…?私は…何を……?」

 

「相澤くん!!ヤバいぞ!彼女死にそうだ!!」

 

 美亜は正気に戻っているようだ。『抹消』によって増幅されていない本来の血が流れたのだろう、顔面は蒼白になっているが何とか受け答えはできている。だがこのままでは失血死をしてしまう。

 相澤が『抹消』を解除すると、腕の切断面から流れる血が量を増し、繊維状に絡み合って血腕が形成された。

 

「とりあえず医務室に行くぞ。お前は暴走したんだ、ここまで来たらもう隠すなよ。個性について全て話してもらう」

 

 変わらぬ表情から美亜の心境は伺えない。それでも、地に伏せるその瞳が微かに揺れ動いた。

 

「そうか………、やはり私は……」

 

 そして諦めたように瞼を閉じると、一言、そう微かに呟いて意識を失った。





黒装束の装甲、奔る無数の赤いラインとか常闇くんのドストライクだと思います。
爆豪くんは脳無みたいと言ってますが、あくまで例えとしているだけで、確信を持って言ったとかではありません。
両腕が無いのに平然としてたらめっちゃ怖いですよね。クラスの皆も血が腕を覆っているだけだと思っているので爆豪らめっちゃ驚いています。知ってたのは芦戸三奈だけです。
ちなみに脚は覆っているだけなので、跳躍の衝撃に耐えきれず中身はバキバキにへし折れてます。無痛と装甲で無理矢理立っています。

あけましておめでとうございます!今年一年頑張るぞと新年にアップロードしました!
ここまで読んでいただきありがとうございました。
日が経つのは早いもので気がついたら年が明けてました………
地の文は12月にできていたのですが……色々時間が取れずこんな間が……
次回で体育祭Extra、からの職場体験編です!これからもよろしくお願いします!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。