血濡少女のヒーロー?アカデミア   作:夏秋冬

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第30話 血濡少女とヒーローネーム

 「へー操血、増幅、おまけに再生かぁ……っていやいや!まじかよ!」

 

 教室に皆の驚きの声が響き渡る。小君良いノリツッコミを決めたのは上鳴だ。

 体育祭後の2日間の休校が明け、今日からまた通常授業の始まった。そんな朝礼で突如美亜が教壇に立ち、その個性を明かした。

 当然、体育祭で暴いた爆豪はつまらなさそうにしているが、轟や八百万など薄々勘づいていた生徒も何人かいるようだ。

 

「すげぇ個性だよなぁ、羨ましいぜ。なぁ緑谷?」

 

 教室がざわめきに包まれる中、峰田は緑谷へと共感を求めるべく、その背中に話しかける。

 

「操血、増幅、再生……凄いシナジーじゃないか。メインウェポンとなる操血のデメリットを他二つが完璧にカバーしている……。血の量や流血を気にしなくても良いから、個性の幅が広がるんだ。いや、そもそもこれはなんの個性なんだ?余りにも出来ることの幅が広すぎるような?個性婚?超レア個性?すごいや……血腕だけじゃなくて……僕なら……」

 

「緑谷のそれ、もはや伝統芸能だよなぁ……」

 

 自分の世界に入ってしまった緑谷を見て、峰田は瀬呂と共に呆れかえる。

 思い思いに話し合い、騒めきが収まらない生徒達に対し、相澤はひとつ咳払いをして場を収める。

 

「ていうわけだ。混乱するとは思うが……まぁ変わりなくやってくれ」

 

「はいはい、一個だけ質問。再生ってもそれって痛くねーの?」

 

「ちょっ!上鳴っ!何聞いてんのよ!」

 

 皆何となく気になっていたけど、デリケートな問題だけに聞きづらかったこと。ケロッとした顔で質問した上鳴の頭を、次郎が鋭くしばいた。

 

「いや、いいんだ耳郎。もう隠さないって決めたから。私、痛みを感じないんだ。多分個性じゃないと思う、生まれつきだから。理由はわからないが何かの病気なんだと思う」

 

 いわゆる無痛症というやつなのだろうか。かなりイレギュラーな事態ではあるが、無痛ならば今までの行動にも納得がいく。教室中が納得したような、どことなく気不味そうな雰囲気に包まれる。

 

「はぁ……もう良いか千染?席に戻れ、授業始めるぞ。今日のヒーロー情報学はちょっと特別なんだ」

 

 相澤はそんな雰囲気を断ち切るように、多少強引に話を変えた。突然の特別授業の知らせに、小テストかと生徒達が息を呑む。

 

「『コードネーム』ヒーロー名の考案だ」

 

「「「胸ふくらむヤツきたああああ!!」」」

 

 生徒達は皆立ち上がって歓喜の声を上げた。しかし、相澤は即座に睨みを効かせて黙らせる。すっかり包帯が取れて元気になった為、個性まで使ってのガチである。

 

「というのも、先日話した『プロからのドラフト指名』に関係してくる。指名が本格化するのは経験を積み、即戦力として判断される2.3年から……つまり今回来た指名は将来性に対する興味に近い。卒業までにその興味が削がれたら、一方的にキャンセルなんてことはよくある」

 

「頂いた指名がそんまま自身へのハードルになるんですね!」

 

 芦戸の言葉に相澤が頷く。体育祭とはあくまでパフォーマンスを見せる場であり、通過点に過ぎない。あくまで最後に目指すのは、プロからのスカウトである。

 

「で、その指名の結果がこうだ」

 

 相澤はそう言いながら、後ろの黒板に白い用紙を貼り出した。そこには各生徒毎の指名件数が記載されている。

 

A組指名件数

 

轟   4,123

爆豪  3,426

飯田  301

常闇  283

上鳴  272

八百万 108

切島  68

麗日  20

芦戸  18

瀬呂  14

千染  2

 

「例年はもっとバラけるんだが、二人に注目が偏った」

 

 一覧を見た生徒達は思い思いの声を上げるも、やはり落胆の声が多い。圧倒的な実力を見せた体育祭トップ1.2位に票が集中し、約半数が一票も貰えない状態なのだから当然だ。何とか票を得た者も、上位二人の桁違いの票数に驚いている。

 

「だーーーー、白黒ついた!」

 

「1位、2位逆転してんじゃん、表彰台で拘束された奴とかビビるもんな……」

 

「チッ!ビビってんじゃねーよプロが!!」

 

「さすがですわ轟さん」

 

「ほとんど親の話題ありきだろ……」

 

 美亜がそんな周囲の反応をぼーっと眺めていると、前の席に座る瀬呂が後ろを向いて話しかけてきた。

 

「お、千染2票入ってんじゃん。よかったな指名もらえて。正直千染の戦い方ってすげー怖かったからさ」

 

「ん?あぁ……そうだな。まさか票を貰えるなんて思わなかったよ。でもお前も14票なんて凄いじゃないか。一瞬で凍らされてたクセにな」

 

「お前なー、俺だって何気に傷つくっての」

 

 瀬呂としては何となく話しかけたつもりだったが、まさか茶化されるとは思ってもいなかった。「少しだけだけど、何となく雰囲気が柔らかくなった気がするな」瀬呂はそんなことを思いながら、朗らかに笑って抗議の声をあげた。

 

「これを踏まえ、指名の有無関係なく、いわゆる職場体験ってのに行ってもらう。おまえらは一足先に経験してしまったが、プロの活動を実際に体験して、より実りある訓練をしようってこった。それでヒーロー名が必要になる、まァ仮ではあるが適当なもんは――」

 

「付けたら地獄を見ちゃうよ!!この時の名が世に認知され、そのままプロ名になってる人多いからね!」

 

「ミッドナイト!!」

 

 待ち構えていたかのようなタイミングで、ドアが勢いよく開き、18禁ヒーロー『ミッドナイト』が入ってくる。そのまま教壇に上がると、相澤は役目を終えたとばかりに寝袋に入り出した。

 

「その辺のセンスをミッドナイトさんに査定してもらう。俺はそういうのできん。将来自分がどうなるのか、名を付けることでイメージが固まりそこに近付いていく。それが『名は体を表す』ってことだ」

 

(ヒーロー名……ヒーロー名か、考えた事もなかった)

 

 配られたホワイトボードを手に取り、自分のヒーロー名を思案する。しかし、笑ってしまう程全く思い浮かばない。どうやら自分にこういったセンスは無いらしい。皆真剣に考えているのか、ホワイトボードに書いては消す音や唸り声が響く。しかし遂には15分が経過しても、一つの候補すらも出すことが出来なかった。

 

「じゃそろそろ、出来た人から発表してね!」

 

 ミッドナイトの言葉に、教室がざわめきに包まれる。まさか皆の前での発表形式だとは思っておらず、尻込みしてしまっている。

 

「はいはい!アタシ出来ました!リドリーヒーロー、エイリアンクイーン!」

 

「血が強酸性のアレを目指してるの!?やめときな!!」

 

 積極的な芦戸がトップバッターを買って出るも、まさかのミッドナイトからNGが出てしまった。しかも最初に変なのがきてしまったせいで、大喜利っぽい空気になってしまった。そんな雰囲気を吹き飛ばしてくれたのは蛙吹だ。ヒーロー名はFROPPY(フロッピー)、可愛くて親しみやすい、お手本のようなヒーロー名をミッドナイトも絶賛する。

 その流れに乗って切島が手を挙げる。尊敬するヒーロー紅頼雄斗(クリムゾンライオット)をリスペクトし、烈怒頼雄斗(レッドライオット)と名乗りを上げた。憧れの名を背負う、その重圧を覚悟の上と言いのける辺りに、彼の漢気が感じられる。

 

「皆良い感じね!この調子でどんどんいくわよ!」

 

 その後、他のクラスメイトのヒーロー名も次々と決まり、最後には緑谷、飯田、美亜と再考組の爆豪が残された。そして悩みに悩んだ末、飯田は自身の名前である『天哉』と名を決めた。緑谷も『デク』というヒーロー名を、自信に満ち溢れた顔で発表した。

 

「美亜……まだ決まらないのか?」

 

 未だに真っ白なホワイトボードを見つめる美亜が心配になったのか、後ろから常闇が話しかける。

 

「あぁ、そうだな。皆目見当もつかないとは正にこの事のようだ」

 

 自重気味に言い放つ美亜に、常闇だけではなく周囲の生徒達も美亜のために意見を出し合い始めた。

 

「やはり個性から連想するのが良いと思いますわ」

 

「千染の個性かー。血?増幅?再生……いやむずいぜこれは。それよりもっとスタイルとか、美人さを全面に出してさぁ!」

 

「峰田ー?ヒーロー名だぞ、自重しろよ」

 

 美亜の周りが俄かに騒がしくなった。そんな生徒達を相澤は黙って見つめる。相澤自身もヒーロー名に拘りがある方ではなかった。今の『イレイザーヘッド』もマイクが提案したものを、そのまま使った。個人的にはそういうやり方もありだと思う。自分のことを一番見えているのは、実は他人だなんてよくある話だ。特に千染は自分自身に興味がなく、今のところ理解する気もない。友人に付けてもらったヒーロー名が、ヒーローとしての千染を形作ってくれるのかもしれない。

 

「血を司り、傷は再生する。吸血鬼なんてイメージはどうだ?」

 

「吸血鬼……ヴァンパイアは安直ですわね……!閃きましたわ美亜さん!『ラミア』なんてどうでしょうか!?ラテン語で吸血鬼を指す、と本で読んだ記憶がありますわ。美亜さんの名前も入っていますし――」

 

「ストップストップ、千染が引いてるぞー」

 

 良い案を閃いた喜びからか、八百万はいつの間にか美亜の両手を握り、目を輝かせながら力説していた。瀬呂に諭された八百万は顔を真っ赤にすると、何やらモゴモゴと言いながら恥ずかしそうに席に戻った。

 

「美亜さん……すみませんでした。わたくしとした事がつい……」

 

「いや……『ラミア』……か。良いんじゃないか。他に案もないし、何よりせっかく八百万達が考えてくれたんだ」

 

 落ち込む八百万に対して、美亜の声は明るい。すらすらとホワイトボードに文字を書くと、そのまま教壇へと向かう。

 

「私のヒーロー名は『ラミア』だ」

 

 美亜は胸を張り、自信に満ち溢れた表情でヒーロー名を発表する。そんな美亜と、嬉しそうに満面の笑顔を作った八百万を見て、ミッドナイトも思わず微笑む。

 

「いいんじゃないかしら?とっても貴方らしくてね」

 

「どういう意味だ?」

 

 意味ありげにニヤニヤするミッドナイトを見て、美亜は不思議そうに頭を傾げる。ただその疑問は、対抗心を燃やしてきた爆豪の発表によってかき消されてしまった。

 そして、幾度かの再考の後、爆豪のヒーローネームも無事に決まった。命名の時間も終わり、もぞもぞと寝袋から這い出た相澤は本題の説明を始める。

 

「職場体験は一週間。肝心の職場だが、指名のあった者は個別にリストを渡す。その中から自分で選択しろ。指名のなかった者は、予めこちらからオファーした全国の受け入れ可の事務所40件。この中から選んでもらう。それぞれ活動地域や得意なジャンルが異なる。よく考えて選べよ」

 

 相澤がそう言ってプリントを配り終わると、一限目終了のチャイムがなった。相澤は「今週末までに提出しろよ」と言い残して教室を退出していく。今日は水曜日、何と後2日しかなかった。

 

 

 

「ねーねー、美亜ちゃんどこから指名来たの?」

 

「それそれ、ウチも気になるわ。選ばれし2件はどこなの?」

 

 美亜がぺらっぺらのリストを眺めていると、芦戸と耳郎が声をかけてきた。リストとは名ばかり、たった二つの事務所の名前が書かれた一枚の紙である。

 

「あんなバイオレンスな戦いしてた千染を指名するとは、度胸あるよなぁ」

 

「峰田くん、傷口に塩を塗るのは感心しないわ」

 

 首を突っ込み、余計な事を言った峰田が蛙吹によって遠くに放り投げられた。そんな軽い騒ぎに気づいたからか、瀬呂や切島、上鳴も面白そうに集まり出した。

 

「あぁ、こんなの見たって何にもならないとは思うが……」

 

 美亜から放り投げるように渡されたリスト見て、芦戸達は突然驚愕の声を上げた。

 

「え!!ラビットヒーロー『ミルコ』!ウイングヒーロー『ホークス』!?」

 

「マジかお前!2分の2でトップ10ヒーローからの指名じゃねぇか!」

 

 新進気鋭のNo.3ヒーロー、ホークス。女性ヒーロートップのNo.6ヒーロー、ミルコ。たった二件の指名ながら、その両者が超有名人、とんでもなく豪華な指名リストである。

 そんな超豪華なリストに興奮冷めやらぬ瀬呂や芦戸達であったが、当の美亜はまるで興味が無さそうだ。もちろん指名が無いよりはマシだと思う。それでもこの二人は自分との相性が致命的に悪い気がする。

 トップ10ヒーローという事もあり、実力や知名度共に懸念はない。ただ、武闘派であり近接を得意とするミルコ、圧倒的な速さを武器にするホークスは、美亜とは全く対極の存在といえる。そこに行って果たして学びはあるのか、より強くなれるのか。そう考えると易々と決めるわけにはいかなかった。

 

(それに……何故私を指名した?まだランク下位のヒーロー達なら分かるが、よりによってトップヒーローが、優勝してもいない私を?)

 

「んっふっふー、悩んでいるようだね美亜ちゃん!」

 

 明後日の方向を見ながら考え込んでいた千染に、何やら意味深な含み笑いをしながら芦戸が話しかける。

 

「どうした芦戸?」

 

「いやー、なんか美亜ちゃん、ちょっと明るくなったかなって」

 

「そうか?そんな事ないと思うけど……」

 

「いや、絶対変わったって。少しだけかもしれないけど前を向いてるって、なんとなくそんな気がするんだ!」

 

 芦戸は満面の笑みを浮かべて、自信満々に言い放つ。その笑顔と、真っ直ぐな瞳に、少し照れ臭くて美亜は顔を背ける。

 

「いや、芦戸は自分の先をちゃんと考えないとでしょ。18件も貰って……羨ましい……」

 

 耳郎はやたらとテンションの高い芦戸を諌めようと、肩に手をかけ声をかける。しかし、自分の指名数ゼロに気落ちしてしまい、次第に声が尻すぼみになっていく。

 

「うーん、私はいっぱい動ける事務所がいいなぁ。それこそミルコなんて最高だよ!」

 

「あー、あんたじっとしてるの苦手だし、それに運動神経いいからね。近接で美亜をいいとこまで追い詰めてたぐらいだし」

 

「本当だな、あの時は本当にヒヤヒヤしたぞ」

 

 美亜がそういうと、芦戸は嬉しそうに目を輝かせてピョンピョンと喜びを爆発させた。そんな分かりやすい芦戸を、二人は暖かく見守る。

 

「それで、耳郎はどうなんだ?」

 

「ウチ?音系個性か偵察系のヒーローかなぁ。どっちにしろリストから探さないとね……指名0だから……」

 

 再び気落ちしていく耳郎、美亜はその肩をドンマイの気持ちを込めてぽんぽんと叩く。「馬鹿にしてるでしょ」と言わんばかりの恨めしげな目線を受けるも、涼しい顔で受け流す。

 その後も三人で色々と話していたが、始業のチャイムと共に耳郎と芦戸は席へと戻っていった。美亜もペラペラのリストがカバンの中でぐしゃぐしゃにならないよう、クリアファイルに入れて鞄にしまう。

 しかし、その後の授業も色々な考えが頭を巡り、あまり集中出来ないまま放課後になってしまった。

 

(はぁ……復習しないとな。流石は雄英、授業内容も難しい……)

 

 

 




・美亜の個性
 もつ隠しきれないとの判断や微妙な心境の変化から、自ら個性を明かすことにした美亜。といっても名称が不明な為、能力のみ伝えるような方法をとっています。さしずめ個性『不明(アンノウン)』といったところでしょうか?何処かで聞いたことあるような無いようなですね。

・指名件数
 優勝した轟の数は変わらず、美亜に若干苦戦した爆豪の票数が減っています。他にも、4位となった常闇の票数が飯田と逆転していたり、美亜をボコした芦戸に票が入っています。まぁ瞬間冷凍された瀬呂に票が入ってるぐらいなので……。
 千染はたった2件だけです。ヒーロー達も、2回戦までは割と指名を考えていましたが、準決での暴走で消え去りました。暴走するような生徒にまともな指名は来ない。

・ヒーロー名『ラミア』
 遂に美亜のヒーロー名が決まりました。ラテン語で「Lamia」、意味は吸血鬼……だと思っていました……。間違ってはいないようですが、どうやら血を好む化け物という意が近いみたいですね(Wikipedia調べ)。広い心と温かい目でスルーして頂けると助かります。八百万の記憶に若干の齟齬があったということになりませんか?ラテン語は流石に専門外ですよね。
 実際決めた時は、吸血鬼という意味のLamiaに、フランス語で女性冠詞の『la+美亜』的なところで語呂がいいかなぁと決めました。そもそも女性冠詞って名詞につけるものですよね。

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ここまで読んでいただきありがとうございます。
前回は本当に……本当に沢山の閲覧驚きました!
本当に間を開けてしまいましたが、読んでくださる方がいてモチベーションが上がってしまいました。
結末までの流れは決まっていますので、これからも細々と書いて行けたらなーと思っております。
次回も読んでくれたら嬉しいです!
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