血濡少女のヒーロー?アカデミア   作:夏秋冬

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第32話 血濡少女と職場体験

 

 迎えた職場体験当日、美亜はミルコから指定された場所に行くために電車のホームを探していた。やっとの思いで見つけ、安堵した視線の先に見慣れた人物がいる。

 

「飯田、奇遇だな。お前もこっち方面だったのか」

 

 電車を待っている間も背筋を伸ばして直立不動、流石は優等生である。そんな飯田は美亜の声に振り返り、少し笑顔を見せた。

 

「あぁ、美亜くんこそこっち方面なのだな。確か……ラビットヒーロー『ミルコ』の事務所だったか?彼女は特定の拠点を持たないと聞くが……」

 

 そこに電車が到着する。幸いにも、郊外行きの電車とあってか車内はガラガラであり、2人も並んで座ることができた。

 

「あぁ、あんまり遠いところに行きたくないし、人混みは苦手だから、むしろ郊外でありがたいぐらいだ」

 

 美亜の言葉の通り、電車が走り出ししばらくすると、住宅街、のどかな河川敷が車窓に映り出す。その間も2人の取り留めのない雑談は続く。

 

「しかし立派じゃないか!No.6ヒーローからの指名なんて!良き先達として美亜くんを導いてくれるんじゃないか?」

 

「別に導いてもらわなくてもいいんだが……強くなる為のアドバイスぐらいは期待してる。お前こそどうなんだ、300件ぐらい指名来てただろ。何でまたマイナーヒーローの所なんかに……確か……誰だったか?」

 

 美亜がヒーローの名を思い出そうと頭を悩ませている時、飯田に影が差し、思い詰めるような表情を見せる。しかしそれも一瞬で、いつものように凛々しい飯田は美亜へと笑顔で話しかけた。

 

「ノーマルヒーロー、マニュアルさんだよ。彼はどんな地道な仕事にも手を抜かないと聞く。俺はヒーローとしての在り方を教わりたいんだ」

 

「ふーん、ちゃんと色々考えてるんだな」

 

 飯田が拳を握り、目を輝かせて熱く語る。美亜はその優等生すぎる回答に興味を失ったのか、車窓を眺めながら上の空で返事をした。

 

『保須ー保須ーご乗車ありがとうございます』

 

「それじゃあ美亜くん、俺はここだから。互いに多くを学べるように頑張ろう!」

 

 そう言いながら立ち上がった飯田は、同じく立ち上がった美亜を見て首を傾げる。美亜はそんな飯田を見て、気不味そうに笑った。

 

「私もここなんだが……」

 

───────────────────────────

 

(それにしても飯田のやつ、何をそんな心配してるんだ?まるで親みたいだったぞ……)

 

 美亜は飯田と別れ指定された場所へと向かう。意外にも人通りの多い保須市を歩きながら、別れ際の飯田の変な様子について考えていた。

 

「いいかい千染くん。路地裏には絶対入らないように。後、パトロールの際にはミルコさんから離れては行けない。僕たちはあくまで職場体験に来た学生だ。それを忘れないように……」

 

「分かった分かった、互いに頑張ろう。じゃあな」

 

 飯田の話が長くなりそうだったので、無理矢理打ち切って別れてきた。やけに真剣な表情と、僅かに目の奥に感じたドス黒い何か。前者だけならば、委員長として張り切っているだけなのだろうが、後者が分からない。

 

「まぁ、人の事考えてもしょうがないか。飯田にも色々あるだろうしな……」

 

 体育祭後、飯田の兄であるターボヒーロー『インゲニウム』が、ヒーロー殺し『ステイン』に襲われ重傷を負った事を聞いた。その為に兄の事務所で職場体験が出来なくなり、落ち込んでいるのだろうと納得する。

 

「この辺だと思うのだが……いや……ここか?」

 

 ミルコに指定された場所にあったのは、郊外都市には似合わないスタイリッシュなホテルだった。15階建てぐらいだろうか、1.2階部分は全面がガラス張りになっており、中はフロントやカフェなどがモノトーンで統一されている。

 ミルコは事務所や相棒(サイドキック)を持たない、革新的なスタイルで全国を跳び回るヒーローだ。保須市に何か用事があり、現在はこのホテルを拠点として活動しているのだろう。

 慣れない外観に美亜は思わず尻込みしてしまうが、意を決して建物の中へ入っていく。

 

「千染様、お待ちしておりました。ミルコ様よりこちらのカフェでお待ちいただくようにと申し付けられております。どうぞこちらへ、ご案内いたします」

 

「はぁ……ど、どうも」

 

 雄英高校の制服か、持っているコスチュームで気が付いたのか。受付の女性がにこやかな笑顔で此方へ歩み寄り、深々と頭を下げる。洗練された動きと、年下相手にも完璧に対応する女性に気圧され、思わず間の抜けた返事をしてしまった。

 顔を赤くしたまま案内された美亜は、出されたコーヒーを飲みながらミルコを待つ。ソファは柔らかめで心地よいが、いかんせん全面ガラス張りが落ち着かない。やっぱり私は、熱犬孤児院のような地味だけど温かみのあるところが好きだ。

 美亜がそんな事を考えながら、出されたコーヒーを半分程度飲んだ時、1人の女性がホテルに入ってきた。

 小麦色の肌に白く長い髪、両目は赤く好戦的に輝く。白く長い兎の耳が特徴的なヒーロー、ミルコである。白いバニー服のようなヒーローコスチュームを身にまとい、その鍛えられて引き締まった体躯は、自信と実力を感じさせる。

 ミルコは当たりをキョロキョロと見回し、美亜を視認すると早足で歩み寄る。

 

「お前が千染だな!?」

 

「はじめまして、雄英高校1年の千染美亜です。よろしくお願いします」

 

 威勢良く声をかけてきたミルコに対し、美亜も立ち上がり挨拶の後に一礼する。そしてドカリと腰を下ろしたミルコに続き、座って向かい合った。

 

「ふーん」

 

 ミルコの視線が、見定めるかのように遠慮なく美亜へ向けられる。何となく気まずくなった美亜は、緩くなったコーヒーを飲んでただ過ぎ去るのを待った。

 

「良いぞ!生意気そうなツラだ!」

 

「は?」

 

 ミルコが発した罵倒されたんだから褒められたのか分からない言葉に、思わず素っ頓狂な声をあげてしまう。そんな美亜に対して、ミルコは何でもないと伝えるように手をヒラヒラと振る。

 

「早速だがヒーロー名はなんだ?職場体験とはいえコスチュームを着るんだ、ヒーロー名で呼ぶからな!」

 

「『ラミア』です」

 

「ラミアか、短いし呼びやすくて良いな!」

 

 笑顔でそう言い放つミルコ、勿論、ラテン語がどうのこうのを理解しているわけではないだろう。それでも、美亜は少しだけ嬉しさを感じ、そんな自分に驚く。

 

「それで……職場体験っても何するんですか。パトロールについて回るとか?」

 

 素直な疑問と、僅かな照れ隠しで問いかけられた美亜の疑問。ミルコは待ってましたとばかりに、不敵に笑って答えた。

 

「まずは……タイマンだタイマン!全力でぶつかってきな!」

 

「は……?はぁ!?」

 

───────────────────────────

 

「闘ってみないと何にもわかんねぇだろ!私の事なら安心しな、寧ろ全力でかかってこないとお前死ぬぞ!」

 

「えぇ……」

 

 ビシッと指を刺された美亜は、思わず困惑の声を漏らす。

 2人はホテルから保須市某所にあるトレーニング施設に移動した。ここは地下一階に設けられた、開けた運動場のような空間であり、確かにタイマンには最適な場所と言える。

 あまりの急展開に唖然とする美亜を横目に、ミルコは距離を取ると、ひとつ伸びをして伸脚を始めた。どうやら()る気満々らしい。訳もわからず連れてこられ、言われるがままにとりあえずコスチュームに着替えたが、どうも気持ちが乗らない。

 美亜は、「流石にいきなりすぎるだろ」と訴えるような、不満を込めた眼でミルコを睨みつけた。

 

「よし、じゃあこのコインが落ちた時が開始の合図な。全力でかかってこい、お前の力を見せてみろ!」

 

 視界に映るミルコの立ち姿はあくまで自然体だ。しかしニヤリと笑う好戦的な表情からは、隠しきれない獰猛さを感じる。立ち昇る威圧感、気迫が尋常ではない。

 美亜の頬を一筋の汗が伝い、全身に鳥肌が立つのが分かる。引っ張り回されて困惑していた思考を、始まるであろう闘いに集中させる。不平や不満は一旦捨ておけ、間違いなく本気でやらなければ()られる。

 先程までの気の抜けた表情から、覚悟を決めた真剣な表情に変わる。そんな美亜の表情の変化を確認したミルコは、満足したかのように笑みを深めコインを指で弾いた。

 

 コインがくるくると宙を舞い――地面に触れた――

 

 

 瞬間、美亜の鳩尾に前蹴りが叩き込まれた。

 

「ごッ!がァ!!」

 

 目にも留まらぬ速さで叩き込まれたミルコの前蹴りが、美亜の骨を砕き、内臓を潰す。美亜は反応すら出来ずに宙を舞い、吐血を撒き散らしながら地面に叩きつけられた。

 

「……おい、死んでないだろうな?」

 

 ミルコは追撃せず、呆れたような声で美亜に問いかける。しばらくピクリとも動かなかった美亜は、横たわったまま顔だけをミルコへ向けた。口から大量の血が流れ出ているが、そこには見るからに不満げな表情が浮かんでいた。

 

「ゴボッ……おぇ……そこまで……やるヤツがあるか……」

 

「今のをくらって喋れるってことは、本当に痛みを感じないんだな。ってそんな事より何寝てんだ。立ち上がってこい、悠長に待ってくれる(ヴィラン)なんざいねェだろ!」

 

「無理を言うな、今の前蹴りで骨が折れた。内臓も潰れてるし……おぇ……吐血が止まらん」

 

 美亜の口から体力の血が飛び散る。しかし気にする素振りもなく、大量の血を吐きながらフラフラと立ち上がった。

 ミルコはその予想外の再生力を見て僅かに目を見開く。勿論職場体験先として、美亜の個性が『再生』の要素も持っていることは聞いている。それでも、前蹴りをくらってから僅か数秒で、立ち上がれる程に再生出来るとは。唯の再生ではなく『超再生』と呼ぶべきでははないだろうか。

 

「はぁ……お待たせしました、もう一度お願いします」

 

 美亜の両腕に血液が絡みつき、赤黒い腕を形作る。無数の紅い線が血管のように張り巡らされ、凶々しさを感じる。そんな姿を見てミルコはニッと笑った。

 

「血の腕か、面白そうじゃねェか。よし、もう一回戦だ!」

 

 ミルコは一つ伸びをして、美亜を見据える。先程の丸腰とは違う、体育祭の映像で見た主武器(メインウェポン)である両血腕の準備ができている。先程は実力を試すために、そこそこの力を出した。次はもっと手加減をして、引き出しの数や機転を探る。

 

「先手は譲ってやる!来な!」

 

 腰を低く落とし半身で構えるミルコを見て、美亜も再戦の意図を悟る。先程は気付くことすらできずに瞬殺された。先手を譲ってくれるなら是非もない。一撃でもやり返すために何が最善か。数多の策が思い浮かんでは消えていく。視認することすら許さない速度、一撃で骨を砕く力。強すぎる、これがトップヒーローか。

 だが、負けっぱなしはプライドが許さない。確かに相手はトップ、学生如きが到底かなう相手ではない。だが腐っても雄英生、おまけにかなり手加減されている。一撃でいい、全てを捨てた一撃を入れて認めさせてやる。

 

「癪に触るが……胸を借りるぞヒーロー!」

 

 美亜の右血腕が蛇の如くミルコに襲いかかる。そして迫る程に巨大化していく。しかし――

 

「おせェ!止まって見える!」

 

 ミルコからすればただデカいだけ、動きもトロく躱すのは容易だ。最短ルートで正面から突破すべく、真っ直ぐ血腕に突っ込む。

 

「当然……そう来るよな!」

 

 正面突破を図るミルコ、その眼前に迫っていた巨大な血腕が数多に分裂する。一本は通常の腕程度のサイズ、速度も何ら変わりない。しかし余りの数の多さに、思わず舌打ちをする。

 

「バカみたいに腕をデカくしてたのはこれが狙いか!」

 

 ミルコの油断を誘うため、正面突破をさせるための策。だが、それでもまだ足りない。無数の血腕がミルコに降り注ぐが、跳び回り、体を捻り、次々と躱され掠ることすら出来ない。

 

(クソ!これで擦りもしないのか……しかも接近してきている!)

 

 距離を詰めたミルコは血腕の雨が止むと、更に加速して一直線に美亜に襲いかかる。美亜の右血腕は先の攻撃で伸び、戻ってきていない。ならば次の策は左にあるはずだ。

 振り上げられた美亜の左血腕が、盾状に変化しミルコとの直線上に振り下ろされる。地響きとコンクリートにめり込んだ盾は、相当な分厚さと強度を誇るだろう。この盾で時間を稼ぎ、次の策を練る魂胆か。

 

「甘めェ!」

 

 だが、ミルコの足は止まらない。一直線で盾に迫ると、目前で上空へと跳躍。そして空中で一回転、盾に向けて渾身の踵落としを叩き込んだ。

 

踵半月輪(ルナアーク)!!」

 

 ミルコのスピード、全身の体重、回転の勢い、全てを乗せて叩き込まれた大技。美亜の自慢の盾は、たった一撃の踵落としで無惨に砕け散った。

 攻撃を易々と躱し、防御を一撃で砕く。圧倒的な差を見せつけられた人は、ヒーローも(ヴィラン)も関係なく、得てして戦意を失い諦めるはずだ。

 破片が宙を舞い、隙間から美亜の顔が見える。しかしその眼は、獲物を狙う獣のように鋭く、爛々と闘志を燃え上がらせていた。

 

「ありがとよ、油断してくれて……」

 

「は?」

 

 ミルコの全身に悪寒が走る。個性が、経験が、全力で警鐘を鳴らす。

 

(成る程……こいつ!)

 

 美亜の策に気付き、ミルコはニヤリと笑う。視線を向けた先、破片の隙間から見える右腕は、槍状に変形しミルコに照準を合わせていた。

 全てはこの一撃のために。デカくてとろい初撃は、ミルコの油断を誘い正面からの接近戦を選ばせた。更に、無駄に派手な攻撃は、「右腕を伸ばしきってしまった、右腕からの攻撃は時間がかかる」という先入観の植え付け。切り離し、再形成出来ることは知らされていた筈なのに。

 巨大な盾は、一撃で砕いてやろうという思考に誘導するため。空中に誘い出し、ミルコの機動力を奪い、回避不可能な状態を作り出した。おまけに破片での視界妨害、右血腕を隠すことまで用意周到に織り込んでいる。

 格下のみに許された、油断や手加減を利用した作戦だ。プライドを捨て、弱者の闘い方が出来るヤツは伸びる。

 

(良いじゃねェか!拳士(アイツ)が自慢してただけはある)

 

「この一撃、躱してみろ!」

 

 美亜の右血槍が、未だ宙を舞うミルコへと襲いかかる。ミルコは地に足がついておらず、踏ん張ることは出来ない。おまけに距離も目の前、当たるまで1秒も無いだろう。この一撃は躱せない、美亜は確信を持って腕を振り抜いた。

 

「確かに良い策……だが!」

 

 槍が突き刺さる寸前、ミルコの左手が添えられる。軌道を僅かに逸らし、更に自身の体も捻り、空中で見事に槍を受け流して見せた。

 渾身の一撃が空を切り唖然とする美亜、その脇腹にミルコの右足が一閃、叩き込まれる。着地したのち、回転を乗せて振り抜かれた一撃は、美亜を容易に吹き飛ばした。

 

「これでもダメなのか!クソ!」

 

 仰向けに転がった美亜は、悔しさに思わず床を叩く。一撃に懸ける、聞こえはいいが失敗してしまえば一方的にボコられただけだ。時間にしてみれば1分程度か。自ら選んだ作戦だが、終始防戦一方で、最後の大逆転を狙う事しか出来なかった。そんな策しか取れなかったのは、全て力が足りないからだ。

 

「へェ、お前聞いてるより熱いヤツなんだな」

 

 ミルコはカラカラと笑いながら、悔しがる美亜の側にしゃがみ込む。

 

「まぁセンスは悪くねェと思うぞ。15歳にしてはやる方だ。個性も強力で機転も効く。でもな――

 

 ミルコは立ち上がり、横たわる美亜を置き去りにし再び距離を取る。そして美亜の方へ振り向くと、再び戦闘態勢に入った。

 

「それじゃあダメだ。お前がもっと強く、もっと高く跳びたいと願うならな。だがあいにく人に教えるのは苦手なんだ。だからかかってこいよ、気付くまでボコボコにしてやる!」

 

 美亜もよろめきながら立ち上がる。

 

「ったく……根性とか気合いとか苦手なんだよ。まぁいい、付き合ってくれるってなら……遠慮なくやらせて貰おうか!」

 

 垂れ下がった前髪をかき上げた美亜、その眼は闘志と興奮で爛々と燃え上がっていた。

 

「お願い……します!」

 





拳士「大丈夫かなぁ……あいつ(ミルコ)変な事してないといいけど……」

美波「心配しすぎよ、もう立派な大人なんだから大丈夫よ」

拳士「そっか……そうだよな!もっとミルコを信じないといけないよな!いやー、美亜がボコボコにされてんじゃないかと思っちゃったよ」

風斗「そんなわけねぇだろ、ヒーローなんだから」

○保須市について
 美亜と飯田の職場体験先である保須市ですが、八王子辺りの東京の左側をイメージしてます。駅前や主要な通りは栄えていて、ちょっと歩いたら住宅街がある郊外都市のイメージです。保須市についての詳細設定が無かったのですが、どこかに載ってたら教えてください……。

 ここまで読んでいただきありがとうございました。
 ようやく職場体験編突入です。じわじわと書き進めてますので、次回も読んでくれると嬉しいです!

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