血濡少女のヒーロー?アカデミア   作:夏秋冬

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第33話 血濡少女とラビットヒーロー

「ホークス、何故俺を選んだのです?」

 

 常闇に尋ねられたホークスは、虚をつかれたような表情を見せる。しかしそれは一瞬で、直ぐに軽快に笑って常闇に顔を向ける。

 

「鳥仲間」

 

「お巫山戯(ふざけ)で……?」

 

 破竹の勢いでトップに上り詰める新進気鋭のヒーローホークス。彼の事務所から指名が来た時は本当に嬉しかった。しかし、切望した職場体験は、速すぎるホークスをひたすら追いかけ、彼が解決した事件・事故の後処理に終始する日々だった。育成する気など全く感じられない。ならば何故俺を指名したのか。

 勇気を出して聞いた常闇だったが、帰ってきたのははぐらかすような軽い言葉。

 

「いーや2割本音、半分は1年A組の人から話を聞きたくて。君らを襲った敵連合(ヴィランれんごう)とかいうチンピラのね」

 

 成る程、そっちが本心か。沸々と悔しさが込み上がる。

 

「だから千染も指名したのですか?」

 

「"その目的"の為ならその通り。後進育成なんかする気ないんだけどさ。直接戦った当事者(千染美亜)の話は聞いときたいから」

 

 俺は伝書鳩じゃないぞ。悔しさを噛み締める常闇の耳に、ホークスの言葉が聞こえた。

 

「でもやっぱり断られた、流石に警戒されちゃったかもね。ミルコの所で今頃何してるのかな……」

 

 

───────────────────────────

 

「ヒュー……ヒュー……カハッ……」

 

 職場体験1日目、昼間からミルコとの戦闘訓練を続けてきた美亜は、息も絶え絶えに仰向けに倒れていた。

 

「はぁ……はぁ……おぇ……」

 

 限界を超えた運動量に吐き気を催す美亜、対してミルコは息一つ乱れず涼しい顔をしている。

 それもそのはずで、昼間から5時間程度ぶっ続けで訓練している。しかしミルコに対し一撃も与えることができず、美亜はひたすらボコされていた。正直、後半はヤケになりワンパターンの特攻を繰り返していたのだが……

 

「水分とれよ、本当に死ぬぞ」

 

 起き上がらない美亜に近づいたミルコは、腕を掴んで無理やり上体を起こさせ、スポーツ飲料水を渡す。

 

「今日はこんぐらいにしとくか。それ飲んで、落ち着いたらメシ行くぞ!」

 

「おぇ……メシって気分じゃ無いんだが……」

 

 火照った体に染み渡る冷たさが心地よい。背を向けて歩き出したミルコについて行くため、美亜はふらふらと立ち上がった。

 余りにも遠い背中だ。ミルコは確かに美亜の戦い方をダメだと言った。しかし結局一方的にボコされただけで、何がダメなのかは分からなかった。ミルコの身体能力は確かに驚異的だ。明らかに手加減している状態であれ程のレベル。身につけることができれば最早敵無しだろう。だがそんな事が不可能なのは百も承知だし、ミルコが言いたいこともそんな事では無いだろう。

 あの戦い方はミルコの個性あってこそだろうし、そもそも時間も実力も余りに足りていない。

 結局、いくら考えても何のヒントも得られず、ただ実力差を思い知らされただけで、職場体験初日の訓練は終わった。

 

───────────────────────────

 

「ここだ!」

 

「――!?」

 

 店に向かいながら考え込んでいた美亜は、ミルコの突然の大声に驚く。

 

「まだ潰れてなくて良かった!――よぉ、久しぶりだな婆さん。2人いけるか?」

 

 No.6ヒーローのおすすめ店、一体どんな高級店に連れて行かれるのだろう。作法とか礼儀とか全く知らないが大丈夫だろうか。今更聞くのも恥ずかしい。

 頭の片隅でそんな事も考えていた美亜だったが、意外にも店は大衆向けな地元の定食屋だ。どちらかと言えばボロい店構えで、どこか熱犬孤児院に似た空気を感じる。

 

「ミルコ、この店は来たことあるのか?」

 

「あぁ、前に保須に用があった時にな。それから気に入ってこの辺に来る時には必ず来てる。婆さん、にんじんステーキ定食2つ!」

 

 人の良さそうなお婆さんが注文を聞き、これまた人の良さそうなお爺さんが調理を始める。客は自分達しかおらず、TVからはどうでもいいバラエティ番組が流れている。

 

「にんじんステーキ?2つ?」

 

「ここのにんじんステーキは美味いぞ。この辺だとこの店にしか無くてな。にんじんは嫌いか?騙されたと思って食ってみろ」

 

「いや、そうじゃなくて……まぁいいか」

 

 このタイプの人間はよく知っている。正に拳士さんがこういうタイプなのだ。人の話を聞かない。猪突猛進で周りの人を振り回す。

 ただ、こういうタイプに助けられる人もいる。美亜自身、自分が積極的なタイプではない事は分かってるし、ぐいぐい引っ張ってくれる所に憧れを感じることもある。だからといって、人の夕飯を勝手に注文するのはどうなのか……そもそもにんじんステーキってなんだよ……

 

「なぁ、お前どうしてヒーロー科に入ったんだ?ヒーロー志望じゃないって聞いたぞ」

 

 美亜が取り止めのない事を考えていると、突然ミルコから質問された。

 

「確かにヒーローに憧れは無いし……なりたいわけでもなくて……やっぱり強くなりたいからだな。強ければ選択肢も広がるし、護れるものも増えるから」

 

 一瞬驚いたような表情を見せたミルコは、直ぐに満面の笑みを浮かべ、美亜の頭を乱暴に撫でた。

 

「強くなりたいか、潔くて良い!うだうだ悩まなくて分かりやすいな!じゃあ明日はもっと厳しく行くか!」

 

「やめろ、あれ以上は再生があっても死ぬ」

 

 そっぽを向きながら手を払い除ける美亜、面白がって追撃を加えようとするミルコ。トップヒーローだけあって払いのけるのも一苦労だ。

 

「はいお待ちどうさま、にんじんステーキ定食2つね」

 

「おい、飯来たぞ。いい加減大人しく――」

 

 いい加減鬱陶しく感じた美亜が視線を向けると、ミルコは既ににんじんステーキを切り、口へと運んでいた。

 マイペースというより傍若無人なミルコに呆れながら、美亜もにんじんステーキを切り分ける。

 

(何となく流してしまっていたが、そもそもにんじんステーキって何だ。ステーキって普通肉だろ……白米もついてるし、にんじんで白米を食べるのか……?なんかべちょべちょしてそうだな……)

 

 見た目は丸々一本のにんじんをただ焼いただけ。熱々の鉄板の上でステーキソースがいい音を立てているが、それでもその存在感は消せない。

 切り分けた一片を恐る恐る口に入れる。

 

「……美味しい」

 

「な!美味いだろ!?」

 

 グラッセのようにべちゃっとしているかと思ったが、口に入れてみると意外にもカリッとした歯触りだ。表面はサクッと、中はしっとりホクホクで、肉とは違うがこれはこれで美味しい。焼いた事でにんじんの甘さが際立ち、ステーキソースの濃い塩味とよく合う。

 

「最初にわざと水分を飛ばしてるの、それで多めのオリーブオイルでカリッと焼くのよ。食感がしっかりしてた方が食べ応えあるでしょ?」

 

 美味しそうに食べるミルコと美亜を見て、笑顔を浮かべたお婆さんが話す。

 

「うちは元々にんじんステーキなんて出してなかったんだけどねぇ。そこの兎さんが無茶を言うからさ、作ってやりたいと思ってね」

 

 何となく想像がつく。いきなり来店し、メニューにないにんじん料理をリクエストして、人の良い二人が作ってあげたのだろう。なんて迷惑な話だ。

 

「本当大変だったのよ。にんじんだし、思いっきり丸齧り出来るようにしたくてね。表面をカリカリにするのかポイントさ。柔らかすぎると持ち上げた時に枝垂れちゃうのよ」

 

 それでも、お婆さんは心から楽しそうに話している。"兎さん"と呼ばれたミルコも、口いっぱいに頬張りながら、抗議の意味で睨みつけているがそこに険悪さは一切ない。

 いわゆる愛されキャラというやつなのだろうか。騒がしくて実直、思った事ははっきりと声に出す。美亜とは正反対の性格だ。憧れはしないが、それでも少しだけ羨ましく思う。

 そんな事を考えながら食べていると、いつの間にか完食してしまっていた。どうやら予想以上の美味しさに、箸が止まらなかったらしい。

 

「美味かっただろ?お前意外と食うんだな」

 

「うるさい……」

 

 既に完食していたミルコが、満面の笑みで美亜に問いかける。美亜は思わず恥ずかしくなり、顔を背けて気不味そうに答えた。

 天邪鬼さに呆れるミルコだったが、帰り際に美亜が婆さんに呟いた言葉は聞き逃さなかった。

 

「ごちそうさまでした。――美味しかった……です」

 

 思わず笑顔になったミルコは、店を出るとグッと背伸びをして美亜へと振り返った。

 

「よし、初日は終わりだ。腹一杯だし帰って寝るか!」




〜熱犬孤児院夕飯〜
拳士「美亜が居ない!寂しい!」

風斗「うるさいな、寧ろスペース広くなってありがたいぐらいだよ」

かおり「そんな事言って、しっかり美亜ちゃんのスペース空けてるじゃん」

風斗「なっ!う……うるせぇ!癖だよ癖!」

美波「風斗、行儀悪いわよ〜」

 
 職場体験という名の情操教育編。
ミルコと美亜の実力差ですが、天と地どころでは無いのでそれはもうボッコボコです。
職場体験編なのにパトロールとかヒーローっぽいことしてない……。
まぁグラントリノ緑谷も大概ですし問題ないでしょう。
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