血濡少女のヒーロー?アカデミア   作:夏秋冬

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第1話 血濡少女とPlus Ultra!!!

「あの子も受験生か!」

 

「モデルみたいに可愛いな―。あの制服、どこの中学だ」

 

「それに見ろよあの表情(ツラ)、あそこまで余裕そうに振る舞えるか?試験前だぜ」

 

 美亜の耳に聞こえてきた声を、無表情で無視して歩く。いよいよ校門を潜ろうかという時、近くで怒鳴り声が響いた。

 

「どけデク!」

 

 突然聞こえた怒鳴り声に、周りの受験生の注目が集まる。美亜も例外ではなく、思わず立ち止まって少し顔を向ける。そこにはツンツンした金髪が印象的な、目つきの悪い男が、見るからに気弱そうな男に絡んでいた。

 

「あれバクゴーじゃん」「まじ?」「あぁ、ヘドロの」「すげぇな本物だ!」

 

 周囲からざわざわと驚きの声が上がる。金髪の男はどうやら有名人らしいが、そんな奴知らないし興味もない。そんなことより、早く受験会場に辿り着いて安心したい。気分も乗っていることもあり、この集中力を切らしたくは無い。美亜は彼らを一瞥すると、踵を返して足速に会場へと向かった。

 

───────────────────────────

 

「広い……」

 

 一通り説明を受け試験会場についた受験生から、思わず感嘆の声が漏れる。彼らの試験会場は、一つの都市のような規模の模擬市街地である。これと同じ施設が7つもあると聞いて、誰かが漏らした声に皆が同意する。

 試験は単純だ、市街地に現れるロボを倒し、ポイントを集めるだけ。ロボットは3P、2P、1Pと妨害用の0Pの巨大ロボがいる。試験を前にストレッチするもの、深呼吸をし精神統一を図るもの、皆がそれぞれの準備を行う。美亜も軽く伸びをして、深呼吸をしながら緊張を解きほぐす。

 突然――

 

「ハイ、スタートー!」

 

 プレゼント・マイクの声が、スピーカーから響く。突然告げられた開始の合図に、受験生達は疑問の表情を浮かべる。

 

「おいおい、実践じゃカウントなんざねぇんだよ!!走れ走れぇ!」

 

 雄英高校がトップヒーローを排出し続けられる理由、それは数多くある演習施設を利用して、常に実践を意識した訓練を行なっている事が一因となっている。それは例え受験であっても例外では無い。それに対応できるもののみが雄英高校に合格し、ヒーローへの大きな第一歩を踏み出せる。

 

 一瞬、放心した受験生達であったが、流石は雄英高校を受験する者達。直ぐに気持ちを切り替えると、我先にと駆け出していく。美亜を含めた数人が出遅れてしまう。焦って駆け出す出遅れ組の中で、美亜は普通に駆け出した。まるで出遅れがありがたい、と言わんばかりに最後尾を走り、すぐに路地裏へと入って行った。

 壁にもたれかかり、息を深く吐いて体の力を抜く。太もものベルトにつけていたナイフを抜くと、躊躇なく自分の左手首を裂いた。夥しい量の血が流れ、地面に紅く血溜まりを作っていく。辺りに血の匂いが立ち込める。美亜は血が溢れる左手首をじっと見つめる。その顔は能面の様に表情が抜け落ち、異様な雰囲気に包まれている。

 痛がるそぶり一つ見せずに、溢れる血へと意識を集める。自分の意識が、深く深く沈み、流れ落ちる血と絡み合う。自分の体すらも、溶けて外に広がっていくような感覚だ。血の一滴まで、意識が混ざり合う。今なら手足のように動かせる、そんな実感が浮かび上がってくる。

 

「――このぐらいでいいか」

 

 美亜は小さく呟くと、血の流れを操作し手首の傷を止血する。血溜まりから包帯のように血を昇らせると、手首に巻きつけて傷を覆い隠した。

 そして、地面に広がった血を全て使い、2つのサッカーボール大の球体を作り出す。2つの球体は、美亜の周りをクルクルと回りだした。それを確認すると、満足したかのように大きく頷く。

 

「準備完了……行くか」

 

 路地裏から出ると、地味な男がロボを前に固まっている。校門の前で金髪ヤンキーに絡まれていた男だ。

 美亜が右腕を上げると、球体の一つが鋭く尖っていく。より鋭く、より硬く、確実に相手を射殺すように――血は密度を増す。ロボがこちらに気づく、真っ直ぐに突撃するが既に遅い。

 

「穿て――血槍(ブラッドスピア)

 

 無造作に腕を振り下ろされる。槍が射出され、寸分の狂いもなくロボの頭を撃ち抜いた。頭部を失ったロボは前のめりに倒れ、美亜の足元に転がった。

 

「まずは1P」

 

 男――緑谷は倒れ伏した残骸、そして去って行く女子の背中をぼーっと見送る。どこからともなく現れ、一撃で倒して颯爽と去っていった。どんな個性か想像もつかないけれど、あのファンネルのような槍を操って戦うのか。思考の海に沈みそうになった緑谷 出久(みどりや いずく)は、残り6分と告げるアナウンスで正気に戻る。No.1ヒーロー、オールマイトから個性『ワン・フォー・オール』を継承した。この一年、最高のヒーローになるために厳しい訓練を行った。それなのに……いざ1Pロボを正面にすると、ビビって体が動かなかった。そんな自分が情けなくて、悔しくて気持ちが焦る。しかし、走って広場へ向かう途中、緑谷は再び足を止めてしまう。そこにはロボの大量の残骸が残されている。そしてその中心を、一本の道が真っ直ぐに通っていた。

 

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「32P!」

 

(32点あれば十分だろうか。いや……ヒーローたるもの油断禁物!恥ずかしい成績は残せない!)

 

 飯田天哉(いいだ てんや)の鋭い蹴りが、ロボの頭部を粉砕する。急いで次のロボへと駆け出そうとした時、突如そのロボの頭が貫かれた。更に一体に止まらず、周りのロボが次々と体を数回貫かれ沈んでいく。

 

「何だ……何が起きているんだ?」

 

 周囲を見渡すと、1人の少女が歩いている。

 不思議な少女だ。まるで散歩のように辺りを見回しながら歩く。紺色の長い髪は光を帯びて艶やかに輝き、横顔は人形のように美しかった。吊り目がかった赤い眼は、意志と自信の強さを感じさせる。そして彼女が手を振るうと、宙に浮かぶ2本の赤い槍が周囲のロボを次々と貫いていく。その表情には、喜びも疲れも感じられない。ただ吸い込まれるほど綺麗な紅の眼が煌めいていた。

 

「いったい何点取れば良いんだ」

 

 彼女の凛とした声が聞こえたので、興味本位で聞いてみることにした。

 

「ぼ、俺はいま32Pだ。君は何Pだ?」

 

「ん………あぁ、私は今ので40Pだ。なる程、協力感謝する眼鏡君」

 

 尊大な物言いだが、何故か不快感は感じない。彼女の雰囲気に驚くほど合っているし、一方的に話しかけてきた自分に、しっかりと感謝の言葉を述べる辺り礼儀正しさも少しは無いわけではないだろう。

 それに、こちらを向いた彼女は余りにも美しかった。

 

「流石雄英高校だ、上には上がいる!僕もまだまだ頑張らなければな!」

 

 32Pで合格できると思っていた。しかし目の前の彼女はなんと40P、しかもそれを何ともない様に言ってのける。これが全国のヒーロー科でトップに位置する雄英高校か。決意を新たに、Pを稼ぐためもう一度エンジンをかけた。

 

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「おいおいあのガールやべぇな!!もう43点かよ!」

 

「凄いですね。あの年で個性を手足のように使いこなしている、見事ですよ。」

 

 マイクと13号が、モニターの1つを指刺して注目している。相澤はモニターを見てため息をついた。目の前で右腕を振り上げる3Pロボ、今にも振り下ろさんとした腕をその少女は根元から切り裂く。そのままもう一本の槍で、頭を横から貫き行動不能にする。

 この時点で43P、確かに中々の点数だ。だが次々とロボを倒す少女の顔からは、何一つ感情が感じられない。喜びも、疲れも、高揚感すらも。

 

「性格破綻者か、めんどくせぇ……」

 

 そう呟き、美亜がB組に行くことを願った。

 

───────────────────────────

 

 試験開始から8分が経過し、美亜はビルの屋上から辺りを見渡していた。自分の個性は索敵には向かないため、こうしてロボの集まってる場所を探す必要がある。正直かなり疲れた。元々体力がない上に、序盤からかなり飛ばして個性を使いロボを倒してきた。初めて実戦をしたからか、はしゃぎ過ぎた気がする。息が上がって上下する肩を、大きく深呼吸して整える。汗ばんだ肌に、冷たい風が心地よい。

 

「はぁ……後2分か。流石にもう大丈夫だろう、早く終われ」

 

 ロボ探しに飽き、珍しく青空でも眺めようかと頭を上げる。

 突然、見上げた空に、轟音を伴って山のようなロボが現れた。この試験最大の関門、妨害用0Pロボ。その余りの大きさに上げた頭をそのままに茫然としてしまう。

 

「いくらなんでもやりすぎだろ……」

 

 総工費2400億円、実にこの国の軍事費の5%を占める国防設備の要であり、非運用時には各国家機関に貸し出されるほどの代物、これこそが0Pロボの正体だ。間違っても高校入試で使っていい代物ではない。

 

「まじかよ!」「やり過ぎだろ!なんでもありかよ!!」「あんなのどうやって作ったんだ!!」

 

 受験生は皆、一目散に逃げていく。戦っても0Pの上、あの大きさでは倒そうなんて万に一つも考えられない。

 美亜はそんな受験生を見下ろしながら、自分も逃げようと考えた時に気づく。ロボの足元に女の子が倒れている。瓦礫に足を挟まれ、立ち上がれないようだ。倒れたときの衝撃で、意識が朦朧としている。

 

「まさか――逃げられないのか?あのままではロボに潰されるぞ!」

 

 美亜は強く舌打ちをすると、考える間もなく血槍を操る――そして右腕を切り飛ばした。

 

───────────────────────────

 

「おい!やべぇぞあのガール!何してんだ!!」

 

 受験生達の0Pロボへの対応に皆が注目していると、マイクの叫び声が響いた。相澤が端のモニターを見ると、右腕から鮮血を吹き出している美亜が写っていた。

 

「何があったのあの子?」

 

「ワカンねぇ!気付いたらこんなんになってた!」

 

 慌てたミッドナイトが、リカバリーガールに連絡を取る。いくら実践を想定してるとはいえ、あの出血量はまずい。放っておけば命の危機になりかねない。

 

「――待て。まさか……ブラド、お前の『操血』と同じ個性か?」

 

「確かに、俺の個性も血を自在に操る。それに、コスチュームがなければ血を流す必要がある。同じ個性かもしれんが……いや、しかし……」

 

 個性『操血』を持つブラッドヒーロー「ブラドキング」。

 下顎から突き出た牙と、左頬の十字傷が強面を強調する熱血ヒーローだ。ブラドはコスチュームの管に血を伝わせ、籠手から放出することで戦っている。そういったカラクリが無ければ、自分から血を流して戦うだろう。

 ブラドキングの発言に、教員達も納得したように他の画面を見始める。個性であれば、あの自傷行為に納得がいく。操血ならば失血死の恐れも無いだろう。だがブラドだけは目が離せなかった。

 

(それにしても……あの体格であの出血量、動けなくなってもおかしく無い筈だ。クールな外見とは裏腹に、良いガッツを持っているな)

 

───────────────────────────

 

 飛び散る鮮血が右手に集まり、次第に形を成す。血の糸が繊維のように何本も絡み合い、鋭い爪を備えた巨腕となった。腕は赤黒く、まるで血管のように真紅の線が走る。

 美亜は何度か拳を握って感覚を確かめると、髪を翻しビルから飛び降りる。重力に従って落下しながら、壁に向かって腕を振り抜き爪を突き立てる。ガリガリガリッッと壁を切り裂き、勢いを殺しながら落下を続ける。壁が抉れ、粉塵が舞う。着地を決めた美亜は、巨大ロボ目掛けて一目散に駆け出した。

 

(――クソッ!間に合わない!たどり着く前に潰されるぞ!)

 

 焦る気持ちを抑えながら次の手を考える。実際には安全装置が働き、潰す直前で止まるのだが……それを美亜が知る由はない。

 無数の策を考えては潰し、考えては潰し――

 

「SMAAーーーSH!!!!」

 

 爆音と共にロボットが正面から叩き潰され、後ろに倒れていく。衝撃波が美亜の髪を揺らす。あまりにも常識から外れたその光景に、逃げていた受験生達も唖然として立ち止まった。

 

「あれは……さっきの地味男か?なんてパワーと跳躍力だ……」

 

 凄まじいパワーに唖然としつつも、倒れてる子に血腕を伸ばし瓦礫から助け出す。女子を地面に寝かせ、地味男と倒れてゆくロボを見上げて気付く。

 

(あの地味男……落ちてないか?もしかして超パワーで飛び上がっただけか!まずい!)

 

 再び駆け出そうとした美亜に、助けた女子から声がかかる。

 

「あの人落ちとる!できるなら私を投げて!助ける!!」

 

「――どうなっても知らんぞ!」

 

 突然の提案に、一瞬放心してしまった。だが何か策があるのだろう、であればやらない手は無い。巨大な血腕で女子を鷲掴みにする。腕の伸縮を生かして大きく振りかぶり、全力で腕を振り抜いて投げた。

 一直線に飛ぶ彼女は、地面スレスレで緑谷に触れる。その瞬間急に落下が止まり、一瞬ふわりと浮いたかと思えば、力を失ったようにドサリと落ちた。しかし、肝心の自分の投げられた勢いを殺せず、地面を転がって擦り傷を作ってしまっていた。

 

(触ることで物体を浮かせる個性か……自分は浮かせないのか?)

 

 美亜は倒れ込んでいる2人に近づき、思わず顔をしかめる。それほどに緑谷の状態は悲惨だった。落下の衝撃は打ち消せたはずだが、両足はへし折れ、右腕も紫色に腫れている。ロボを殴り倒した際の大跳躍に、体が耐えられなかったようだ。いったいどんな個性を使えばこんなことになるのか。女の子は、全身に擦り傷を作ってはいるが、目立った怪我は足の捻挫ぐらいだろう。ただ、個性の限界か吐きながら苦しそうにしている。

 

「せめて…!1Pでも…!!」

 

 どう見ても満身創痍の地味男は、左手で地面を掴みながら呻く。

 

(何だこいつ、その個性ならPを持つロボなど簡単に壊せるはずだろうが。それなのにまだ0P……例え巨大ロボを倒しても、合格できなければ何の意味もない。正義感なぞに駆られ、無茶をするからこうなる――)

 

 そんな彼に心底呆れていると、プレゼント・マイクの試験終了宣言が聞こえる。ようやく終わったと悪態を吐きながら、個性を解除する。血が手のひらに吸い込まれていく。血腕の下から、切り飛ばした筈の白磁の肌を持つ美しい右腕が露わになった。

握ったり開いたりして感覚を確かめると、興味を失った様に踵を返してその場から立ち去った。

 

『最後に我が校の校訓をプレゼントしよう。ナポレオンは言った「真の英雄は人生の不幸を乗り越えていくもの」と!!Plus Ultra 更に向こうへ!!」』

 

 試験前、説明会でのプレゼント・マイクの言葉が頭をよぎる。途中ですれ違った老婆の視線を感じつつ、美亜は試験会場を後にした。

 

───────────────────────────

 

「美亜、雄英高校から何か届いてるわよ」

 

 試験から数日が経った。その間特に何も無く、穏やかな日常を過ごしている。拳士やかおりは見るからにそわそわしているが、実技は問題なし、筆記の分も補ってあまり有るPを取れている筈だ。恐らく合格しているだろう。神経衰弱で風斗をボコボコにしていると、買い物から帰って来た美波の声が聞こえる。

 

「そうか……合否発表、今日だったのか」

 

「あのなぁ、流石にそれぐらい覚えとけよ。神経衰弱強いのに大事なことは忘れんのな」

 

 呆れる風斗を横目に、包みを受け取って自分の部屋へと向かおうとした。

 

「雄英高校?雄英高校って言ったか!合否通知届いたのか!!」

 

「合格したの!おめでとう美亜ちゃん!!」

 

 庭でバトミントンをしていた2人が慌てて飛び込んでくる。早とちりしているかおりを、風斗が今から分かるんだよとからかう。

 皆で見たいとかおりが提案し、断る理由も無いのでリビングに送られてきた投影機を置く。

 

『私が投影された!!!!!』

 

 教師だろうか、満面の笑みを浮かべた男が画面いっぱいに投影される。とにかく顔が濃い、彫りも深いしそもそも画風からして何か違う、何故かアメコミテイストである。

 彼こそがヒーロー社会の頂点に立つ、不動の人気No.1ヒーロー『オールマイト』。年齢、個性は一切不明だが、圧倒的な実力とそのキャラクターで人気を博す。彼の登場で、それまで増加の一途を辿っていた(ヴィラン)発生率も年々低下、存在そのものが抑止力とされる正に平和の象徴である。

 

『なんと、今年から私も雄英高校の教員になるぞ!』

 

「すごい!オールマイトが先生になるの?!」

 

「おー、豪華だな!良かったじゃないか美亜!!」

 

 かおりと拳士は、突然現れたNo.1ヒーローに興奮してはしゃいでいる。バシバシと肩を叩く拳士の手が痛い。私としては凄い人ぐらいの認識で、そこまでの感動はない。だが、より凄い人に指導を受けれるならそれに越した事は無いと思う。

 

「テンション高いな……流石は雄英高校。合格発表ぐらい普通にしろよ」

 

「――意外ね、先生なんてやらないと思ってた」

 

 興奮する2人に対して、風斗は冷ややかな目で見ている。憎まれ口を叩いてはいるが、少しだけニヤニヤしているせいで喜びを隠し切れていない。

 

『さて!千染少女!!緊張しているかい?そうだろうとも!!!いよいよ君の合否を発表するよ!!』

 

 画面が暗転しドラムロールが鳴る。No1ヒーローでもエンターテイナーでも何でもいいから早くしてほしい、そもそもこのテンションで「はい!不合格です!』とか言われたら流石に怒る。

 

『合格だ!おめでとう!!筆記はまあまあだったが、それを補って余りある実技試験54P!素晴らしい成績だな!!!』

 

 やったーーー!と響いた大きな歓声に、美亜が思わず驚く。声を上げたのはやはり拳士とかおりで、自分のことのように飛び上がって喜び、抱きついてくる。暑苦しいので引き剥がそうとすると、右腕が上がらない。右手を握っていた美波の手に、珍しく力が入っているからだ。

 

『さらに――実はあの試験には救助(レスキュー)ポイントも存在した!みんなが逃げる中で、0Pロボに立ち向かった素晴らしい勇気!救助(レスキュー)ポイントが追加で20P、合計で74P!!!あと3Pあれば実技試験1位に並んでたぞ、文句なしの合格だ!――美亜少女、それでは雄英で会おう!!!!』

 

 そう言い残して映像が切れる。とんでもなく喜ぶと拳士とかおりに、もみくちゃにされていると、後ろから美波が抱きしめてくる。

 

「――おめでとう。おめでとう美亜……良かった」

 

「今日はお祝いだな!焼肉だ!焼肉!!かおり!風斗!私に続け!!!」

 

 オールマイトも驚くテンションで、拳士は走り去っていく。焼肉と聞いて慌てて付いていくかおり、俺が着いてくから安心しろ、と言い残してやれやれと仕方なさそうに風斗も部屋を出る。かなり不恰好だが、私と美波に気を使ってくれたのだけは確かだろう。

 

「まったく、変に気を使っちゃって」

 

 クスクスと微笑む美波に、一層強く抱きしめられる。互いの頬が触れ、涙が伝っていることに気づいた。

 

「お疲れ様、この一年よく頑張ったね。美亜が無事に踏み出すことができて……本当に、本当に良かった。――私、本当に不安だったから……」

 

 涙声を震わせながら、強く抱きしめてくる美波。普段の暖かく頼もしい姿とは違い、やけに弱々しく見えた。美波には沢山心配をかけてしまった。だからこそ、今だけは少し甘えよう、きっとそれか美波の望んでいる事だから――

 美亜は軽く背中を預け、眼を瞑った。美波は驚いたようで、一瞬震えを感じたが直ぐに優しさに包まれる。背中に感じる温もりが心地よい。少しだけ、皆が喜んでくれるなら良かったと思う。こんなにも心から応援してくれる人達を、悲しませる事にならなくて良かった。

 

「美波――ありがとう」

 

───────────────────────────

 

「実技総合成績出ました」

 

 上位の名前と成績がスクリーンに並ぶ、やはり注目は爆豪勝己と緑谷出久だ。まさに両極端とも言える2人は、雄英高校の教師達に強烈な印象を与えた。

 

救助(レスキュー)P0で1位とはなぁ!!」

 

「後半も派手な個性を使い続けていた、タフネスの賜物だな」

 

 爆豪は、その強力な個性と戦闘能力でダントツのPを叩き出した。驚くべきはその内訳、彼に他者を助ける素振りは微塵も無かった。結果救助Pは0、それでも敵Pのみでトップの成績を残した。実力は折り紙付き、文句無しの合格だ。ただ性格に難ありといったところだろうか……

 

「対照的ニ(ヴィラン)P0デ8位」

 

「まさかアレをぶっ飛ばすとは、久々に見たね」

 

「本当に驚いて血の気が引いたよ。来年の予算会議の気が重いね」

 

「思わずYEAH!って言っちゃったからなー」

 

 緑谷の成績は正に対照的と言えるだろう。敵Pは0、普通ならば合格とは程遠い。ただ、窮地に見舞われていた女の子を、何の迷いもなく救いに向かった。全身傷だらけになりながらも巨大ロボを打ち倒し、まさにヒーローとしての素質を存分に発揮してくれた。そんな対照的な2人に、教師たちの議論も白熱する。

 そんな中、教師の1人がある名前を見て声を上げた。

 

「そういえばリカバリーガール、千染少女の腕は大丈夫だったのかい?」

 

「そうさね、すれ違ったときに見たけれど……それはそれは綺麗な腕が生えてたよ、あんた達の見間違いじゃないかい?」

 

「千染?あぁ、あのやばいガールね!おっかしいなぁー、あの子の個性は何だ??」

 

「あいつの個性はやはり『操血』のようだ、念の為履歴書を確認しておいた」

 

「へー、やっぱお前と同じだったわけか。手本が近くにあってラッキーだな、それに期待の後輩ができて良かったな!」

 

「俺としても手本になれるなら嬉しい限りだ。ただ見た感じだとすでに操作に長けているから、変に意識せず、独自の戦闘スタイルを見つけて欲しくもあるな」

 

 画面には、ビルの屋上で腕から血を吹き出す美亜が映る。

 

「何にせよ凄い覚悟だな。倒れてる少女を見つけた瞬間、迷いなく腕を傷つけたのか。判断力は素晴らしいが……その冷静さは少し怖いな」

 

「確かに危なっかしいものを感じますね。彼女も他の生徒達と共に、雄英高校で成長して欲しいです。既に個性の使い方が優れていますからね」

 

 画面の中の美亜が、振りかぶって女の子を放り投げている。その腕は大きく伸び、体の一部のような自然な動きで振り抜かれた。血でできた腕が急増のものでは無く、既に自在に操れる事を証明していた。

 

「へー、凄いじゃない。あの歳でここまで使いこなせるのね。それこそさっきの爆豪君やエンデヴァーの息子君に次ぐレベルだと思うわよ」

 

「違いない、相当訓練したんだろう。あまり表情には出ないが努力家なんだろうな」

 

「そうだ相澤くん。彼女は君のクラスだからね、しっかり見てあげなよ。僕の見立てでは……非常に優秀だけど、同時に脆さを抱えているように見えるね」

 

そう言って根津校長は相澤を見る。1人美亜の映るモニターから目を逸らしていた相澤は、その言葉を聞いて大きく溜息を吐いた。

 

「なんでブラドが担任のB組じゃ無いんですか……はぁ……まぁ当然です。教師である以上生徒の面倒は見ます。しかし決して甘やかすなどということはしません。私が見る以上、ヒーローとしての資格がなければ除籍処分にしますが……よろしいですね?」

 

「勿論だとも、向かないものがヒーローをすることほど辛いことはないからね。僕は君の目を信頼しているのさ」

 

 相澤は面倒臭そうに顔をしかめると、渋々とうなずいた。そしてモニターに映る美亜へと視線を向ける。救出した緑谷が地面に転がり、それを見下ろす美亜が遠目に映っている。表情こそ伺えないが、纏う雰囲気からは、侮蔑・呆れ・嫌悪などの負の感情しか読み取れない。

 

「――あぁ、本当に……面倒くせぇ」

 

 小さく呟くと、背もたれに背中を預け、面倒くさそうに目頭を抑えて目を瞑った。その後も周囲では、様々な生徒たちを評価する先生達の声が絶えず聞こえていた。




 ようやく第一話です。読んでくださった方々、ありがとうございます。
 予想以上に読んでいただけて、嬉しさ半分怯え半分で書いています。

 戦闘シーンって難しいですね。特に今回は美亜的には壁にもならないロボだったので、別視点に登場していただきました。最初は爆豪くんと同じ試験会場にしようと考えていたのですが、2人とも誰とも一切の関わりなく終わりそうだったので断念しました、最初のプロットでは「広い…」と「40だ」しか喋らなかった主人公とはいかに?
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