血濡少女のヒーロー?アカデミア   作:夏秋冬

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第37話 血濡少女と保須事件:2

 

「よぉ!遅かったじゃねェかエンデヴァー!」

 

 中央広場に駆けつけたエンデヴァーはミルコを一瞥し、現場の有様に深くため息を吐いた。

 息子の轟焦凍と共に職場体験で保水市をパトロールしていたエンデヴァーは、突如この事件に遭遇した。

 ヒーローとして活動する父親の姿を焦凍に見せるチャンスだと意気込んだが、肝心の焦凍は携帯を見ると、路地裏の住所に応援を求めた後走り去ってしまった。

 本来なら自分が応援に行き、焦凍にかっこいい父親の姿を見せたい所だ。だが責任あるNo.2ヒーローとして、気持ちを押し殺して被害が甚大な中央広場に駆けつけたのだ。勿論念の為に、道中遭遇した脳無を撃退したヒーローらしきご老人に応援に行くよう頼んではいるが……

 

 エンデヴァーが断腸の思いで駆けつけた現場は酷い有様だった。2体の脳無の内、1体は頭から地面に突き刺さり萎びたネギのように手足を投げ出している。もう一体の脳無も、うつ伏せに気絶しミルコの椅子と成り果てていた。脳無の上に座り、呑気に足をぶらぶらさせているミルコは傷一つ無い。

 

「ふん!俺も道中でそいつらの仲間を撃退していてな。まぁ所詮は雑魚(ヴィラン)!容易に蹴散らしてやったわ!」

 

「ふーん、コイツらまだ他にもいんのかよ。気持ち悪りぃな」

 

 ミルコは此方の言い訳を気にする素振りすら見せない。心ここに在らずと言った表情で反応し脳無から飛び降りると、その場から駆け出そうとする。

 

「おい待てミルコ!俺はこれから焦凍の加勢に行かねばならん!コイツらをほっとかれると厄介だ、お前はここに居ろ!」

 

「焦凍……?あぁ!美亜のクラスメイトか。お前の息子だもんな。良いじゃねェかよ此処はサイドキックに任せとけば。私も美亜を無事に連れて帰らないと駄目なんだよ」

 

 冗談じゃない。このエンデヴァーヒーロー事務所で職場体験をしている以上、焦凍に万が一の事があってはならないのだ。俺だけでも充分だろうが、万が一、万々が一の為にサイドキック等も連れて行くつもりだ。

 エンデヴァーがミルコに言い返そうとした時、1人のヒーローが大慌てで向かってきた。

 

「良かった!エンデヴァーさん、ミルコさん!あの、千染美亜と名乗る少女から、この場所に実力があるヒーローを連れてくるようにと言われまして!」

 

 そのヒーローが持ってきた地図を見ると、そこには焦凍が言っていた住所と同じ場所が印されていた。その事実に首を傾げる二人だったが、次のヒーローの一言で空気が一変する。

 

「ここに『ヒーロー殺し』がいるかもしれないと言ってまして!本当かどうか分からないのですが――「お前達!この場は任せる!収まったら至急この住所に来るように!」

 

 ヒーローの言葉を遮って、エンデヴァーがサイドキック達に指示を出す。とっくに跳んで行ったミルコの後を追うように、全速力で地図の場所に駆けつけるのだった。

 

 

───────────────────────────

 

 

「待っててくれてありがとう。お前、意外と物分かりが良いんだな」

 

 苦し紛れに皮肉を発しながらも、美亜の思考はフル回転で打開策を考えていた。

 身長は2m程度だろうか、色こそ違うが灰色の皮膚に剥き出しの脳、筋骨隆々な身体を見るに脳無である事に間違いは無いだろう。ただUSJで見た脳無とは差異があり、目は琥珀が埋め込まれているかのよう、尖った嘴ではなく下顎が発達し目の下まで覆い隠している。まさかあんな化け物に親戚が居たとは思わなかったが、この違いは個体差なのだろうか。

 問題はこいつの強さがどれ程なのかということ。最悪の場合はUSJのアイツ並みの強さであるという事だ。そうなれば最早美亜に出来る事など何も無い。逃げる事も立ち向かう事もできず一方的に蹂躙され、助けが来るのを待つだけになる。

 

 だが、目の前の脳無は様子がおかしい。目の前で子供が背を向けて逃げ出したというのに、一切動く気配がない。こうして暫く観察しているのに今も腕をだらりと下げてただ佇んでいるだけなのだ。

 

(もしかして……コイツ等は死柄木とかいうヤツの指示がなければ動かないのか?ならば……)

 

 USJ襲撃事件の際、あの脳無は何をするにも死柄木の指示を受けて動いていた。美亜を迎撃するのも、死柄木を守る為にすらも命令を必要とする程だ。理由は分からないがそういう生き物、或いは洗脳を受けているのかもしれない。

 美亜は一縷の望みを掛けて慎重に一歩引き下がる、脳無に反応は無い。決して油断せず、脳無から目を離さずにもう一歩――

 

 

 美亜の鳩尾に脳無の拳がめり込む。体内に内臓と骨が潰れる不快な音が響き、口から大量の血液が吐き出された。ゴムボールのように吹き飛ばされた美亜は、そのままビルの壁を破壊して床に倒れ込んだ。

 

「ガッ!オエッ!ゲボォ!」

 

 最悪だ。美亜は口から大量の血を吐き出しながら、必死に思考を回転させる。

 考えうる限り最悪の想定が当たってしまった。それはあの脳無の狙いが私であるということ。少女が逃げた際には反応すらしなかったというのに、美亜が逃げる素振りを見せた途端にこの一撃、間違いなく私を逃がさないつもりだろう。

 そもそも考えてみれば、騒ぎの中心である広場からかなり離れたこの場所に脳無がいる事がおかしいのだ。敵連合がUSJの時のように混乱を巻き起こしたいのであれば、尚更人的被害を起こそうと考えるはず。周囲に戦闘の形跡もなく、ヒーロー達もいなかった。まるで突然そこに現れたかのように気配を感じたのだ。

 脳無が出現したタイミング、場所、様子、全てに辻褄が合ってしまう。唯一狙われる理由だけが分からない。

 

「ちぃっ!クソがァ!」

 

 仰向けに倒れていた美亜の視界に拳を振り上げた脳無が現れる。咄嗟に血腕を伸ばして柱に捕まり、縮める事で拳を躱す。振り下ろされた脳無の拳は、コンクリートを容易く砕き地面に突き刺さる。やはりパワーやスピードはミルコ並みかそれ以上、まともにやり合えば勝ち目は無いだろう。

 美亜は脳無を無視してビルの外に出ると、周囲を見渡しある人物を探す。それは敵連合の黒霧と呼ばれていた男と死柄木。

 周囲の戦闘跡の無さ、突然感じた気配からして黒霧の『ワープゲート』が使われたと考えるのが自然だ。そして脳無に指示を出す為に死柄木も近くにいるはずだ。勝ち目のない脳無と戦うよりかは、大元を叩くほうがまだ可能性がある。

 

「上か!呑気に鑑賞してんじゃねェぞ!」

 

 周囲で最も高い建物に接近し、壁に両血腕を交互に突き立てて登る。そして屋上に爪をかけて、全力で縮小させ空へと飛び上がった。

 

「居た……今度こそ殺す!」

 

 屋上にいた死柄木と目が合う、黒霧も横にいる。殺意が膨れ上がり血腕が槍状へと形を変える。

 

「早くも気付かれましたね、聡い娘です」

 

「あぁ……忌々しい女だ。おい!脳無!」

 

 死柄木に襲い掛かろうとした美亜の頭を、背後から脳無が鷲掴みにする。そのまま腕を振り抜き、反対側のビルへと美亜を叩き込んだ。そして屋上に降り立つと、ひとっ飛びで美亜の居るビルへと跳躍した。

 

「クソっ!あいつ速すぎるだろ!」

 

 ガラスを突き破り、再びビルの中に放り込まれた美亜は、悪態を吐きながら頭を押さえて立ち上がる。脳無は此方に向かって来ている、とにかく距離を取らなければ。だが頭を強打した影響だろうか、ふらついてその場に崩れ落ちてしまう。

 

(やばっ――)

 

 そう思った時にはすでに遅かった。脳無の拳が振り下ろされ、美亜の体とともにビルの床をぶち抜く。6階から5階へと叩き落とされた美亜に追撃の拳が降り注ぐ。

 美亜は肉片と血を撒き散らしながら、次々と床をぶち抜き一階へと叩きつけられる。全身の骨や筋肉が木っ端微塵になり指ひとつ動かせない。

 舞い上がる砂塵の中脳無が眼前に降り立ち、無機質な琥珀色の目と視線が交錯する。その右腕が振り上げられる。これまでは床をぶち抜きながらだったから、衝撃は分散されていたしギリギリ再生の時間もあった。だが此処は一階、これ以上逃げ場は無い。

 しかし己の凄惨な状況とは裏腹に、美亜の思考は酷く冷静だった。常人であれば絶望する光景を前に、自分でも不思議に思う程落ち着いているのだ。眼に写る光景がスローに流れていく。

 

 何だこれは、余りにも理不尽ではないか。こんな短期間に2度も襲われ、それがトップヒーロークラスに強力な化け物達で、今度は何故か私を狙っている。そんな事あり得るか?ヒーローだとか、(ヴィラン)を殺しまくってる奴らなら理解できるが、私はただ平穏に生きたいだけなのに……

 襲われなければ反撃もしないし、関わらないでいてくれれば、わざわざ此方から関わる気もない。オールマイトを殺すだとか、ヒーロー社会を転覆するだとか、そんな事は他所でやってくれ。

 私はただひっそりと、熱犬孤児院で過ごしたいだけなのに――

 

 脳無の拳が美亜の頭部目掛けて振り抜かれる。例え『再生』を持っていようと、個性を司る脳が潰れてしまえば2度と個性を使うことは出来ない。『美亜を殺す』明確な殺意を持った一撃だった。

 

「あれは……いけません脳無!!」

 

 しかし、その一撃は不発に終わる。地から生えた無数の触手が脳無に向けて殺到したのだ。その先端が鋭利に尖っている事を視認した脳無は、大きく飛び退いて距離を取る。追撃は来ない。無数の触手は美亜を取り囲み、球体状のドームとなってその姿を覆い隠した。

 

「はぁ……危ない危ない。いつの間にか雄英に入った目的を忘れていたようだ」

 

 美亜は暗闇の中で立ち上がる。不完全に再生していた腕や臓器が千切れ落ち、肉塊や大量の血が足元に溜まる。僅かに不快感を感じるが、それを遥かに凌駕する感情が心を覆い尽くす。

 

 どうやら私は気付かぬうちに浮かれていたらしい。熱犬孤児院、雄英高校で過ごし大切な事を忘れてしまった。

 それは『強さ』への渇望。皆が『個性』という強大な力を持ち、(ヴィラン)とかいうイカれた連中が蔓延るクソみたいなこの世界で、ようやく見つけた平穏を守る為に必要な物。最後に頼れるのは自分自身だ。美波さんを、拳士さんを、風斗を、かおりを護りたいなら私が強くなればいい。誰にも負けないように、もう二度と倒れないように。

 

「苦しい?辛い?……知らんな……知ったことか……そんな理由で立ち止まる訳には……いかねェんだよ!」

 

 血溜まりから伸びた無数の繊維が足元から美亜の体に絡みつく。交差を繰り返し、徐々にその体を覆っていく。

 視界が揺らぐ。まるで体が崩れ落ちるような感覚、体を構成する細胞が粉々になりそうだ。脳は全力で警鐘を鳴らし、吐き気と悪寒が全身を襲う。

 胸部まで到達した時、遂に幻聴すら聞こえ始めた。誰だか知らない女の叫び声が脳に響く。必死に何かを訴えるようなその声は、限界が近い美亜の精神を削っていく。

 

「――!―めて!!お―い!!」

 

 これ以上は危険だ。美亜の直感が全力でそう訴えかけてくる。最早意識を保つ事で精一杯。手足の感覚もなく、自分が立っているのか倒れているのかすら分からない。まるで底無し沼に沈んでくような感覚、痛みを感じぬ美亜に不快感を超越した死の足音が聞こえる。

 

 それがどうした。やれなければどうせ此処で死ぬんだ。あの日決めた筈だ、生きる為に強くなると。

 

「ぐぅゥゥ……――せェ……ウルセェ!!クソがぁぁァァァ!!」

 

 美亜の咆哮が響き渡る。突如現れた血の球体をじっと観察していた脳無は、その足を一歩踏み出す。そして直ぐにその足を止める事になった。

 

 

 球体が崩れていく。そこに立つのは黒の怪物。赤黒い血で染め上げられたその全身には、血管のような無数の緋色の線が走る。全身が鎧の様に覆われ、節々に生えた棘が禍々しさを増大させる。もはや化け物、それが美亜であることなどだれが分かるだろうか。兜の隙間から覗く紅の眼と、靡く藍がかった髪が辛うじてそれが美亜であった事を認識させる。

 

「あぁ……良い気分だ。何だろうな……今までは個性を使う度に違和感を感じてたんだ。まるで銃やナイフの様な武器を使ってる感覚が。だが今は違う。手足を動かすように、呼吸をするように――これが……

 

 美亜はぶつぶつと呟きながら手足を動かし、全身の感覚を確かめる。個性が体に浸透していく感覚。得体の知れない気持ち悪いモノだった個性が、体の一部へと変わっていく。

 

「ヴォォォ!!」

 

 脳無が吠える。遠くから美亜の変化を観察していた脳無は、恐るべきスピードでその距離を詰め美亜の鳩尾に拳を叩き込んだ。ミルコと同等、或いはそれ以上のスピードを乗せて振り抜かれた拳は、美亜の上半身を容易く吹き飛ばす

 

――筈だった。

 

 脳無の拳は美亜を吹き飛ばすことも、その腹を貫くことも無い。美亜が6本の血腕を背から生やし、地面に深く突き立てることでその衝撃を分散させたのだ。

 鎧の中の美亜本体には大砲でもくらったかの様な衝撃が襲っていた。余りの衝撃に僅かに後退りするが歯を食いしばって耐える。当然、美亜の体がそんな衝撃に耐えられるはずもなく、血の鎧の中では肉は潰れ骨は砕ける。それでも倒れることはない。鎧のおかげで人の形を保っていられるから、もう倒れたりしない。

 

「先程までより速い……か。貴様本気を出していないんだな。答えろ、貴様らの目的は何だ?何故こんな騒ぎを起こした?何故私を狙う?」

 

 紅の両眼が脳無を射抜く。表情も無く黙して語らない脳無だが、纏う雰囲気が驚愕に染まりその動きを止める。その隙を美亜は見逃さない。引き絞った右腕に、背から生えた血腕が絡み合って巨大な拳となる。

 

「答えない……答えられないのか?まぁいい!お前を排してアイツ(死柄木)に吐かせればいいだけのことだ!」

 

 巨大化した美亜の拳が動きを止めていた脳無に直撃する。筋繊維が千切れ骨が砕ける不快な音が響き脳無が吹き飛ばされる。殴り飛ばされた脳無は壁を突き破って道路の反対側のビルに突っ込む。ビルが倒壊し、瓦礫がその姿を埋め尽くした。

 しかし美亜に油断はない。その場から大きく跳躍し脳無に接近、空中で祈る様に両手を組み、大きくのけぞって振り上げる。両血腕と背中の血腕が絡み合い巨大な鎚を作り出す。再びブチブチと音が鳴り、限界まで引き絞られた両腕が瓦礫諸共脳無に向けて振り下ろされた。

 轟音が鳴り響き瓦礫と砂埃が宙を舞う。更に振り下ろされた両血腕を切り離し、瞬時に新たな腕を生やす。背から生えた6本の血腕が、追撃とばかりに瓦礫に埋もれたままの脳無に降り注ぐ。一撃一撃が爆発でも起きたかの様な轟音を鳴らし、次々と地面が抉れていく。それでも追撃の手が止まる事はない。

 美亜の眼は紅く紅く爛々と輝き、脳無が居るはずの一点を見つめ続けていた。

 

 

「おい黒霧……先生が言ってたのはあれか?」

 

 美亜と脳無の戦闘をビルから観察していた死柄木は、興味などないかの様に平坦な声色で問いかける。目下の戦闘は一方的なものとなっていた。爆撃の如く降り注ぐ血腕、脳無が突っ込んだビルは最早跡形もなく、粉塵が舞い地面が抉れてしまっている。

 

「あれが先生の言っていた……成る程、そういう事ですか……」

 

 死柄木は明らかに劣勢にも関わらず、余裕の態度を見せる黒霧に苛立ちを覚える。

 最近ずっとだ、ずっと僅かな苛立ちが蓄積している。黒霧は何か俺の知らない事を知っている。最近、先生と何かコソコソと話している事が多い。そして先生も先生だ。口を開けばあのクソ女(美亜)のことばかり。今回の作戦だって元々死柄木自身は納得していない。果たしてあの女に先生に目を掛けられる程の価値があるのか。

 

「あぁ……クソクソクソ……気に食わねェ……何もかも……気に食わねェぞクソが……」

 

 一方黒霧は首を掻きむしり始めた死柄木に気付かず、眼下で繰り広げられる戦闘に集中していた。

 流石は特別な(・・・)脳無というべきか、あれだけの猛攻撃を受けてもその隙を縫って抜け出し距離を取る。再生能力によりその体に傷は無い。しかし美亜も追撃の手を緩めない。背中の血腕を飛ばして絶えず攻撃しながら脳無を追いかける。その姿は正に縦横無尽、地を駆け、跳躍し、壁を蹴り最短ルートで脳無に肉薄する。再び脳無が捉えられるのは時間の問題だろう。そしてタイムリミットもそろそろだ。

 

 今回、美亜が保須市にいると知った先生から黒霧に命じられたミッションは2つ。1つはあの脳無を1対1で美亜と戦わせること、そして2つ目は脳無を確実に連れて帰ることだ。その為に中心部で騒ぎを起こし他のヒーローを引き付けた。だが、そろそろ騒ぎを聞きつけたヒーローが駆けつけて来てもおかしく無い。エンデヴァーやミルコが来ると面倒だ。

 黒霧が脳無を回収しようと動き出したその時、その首を4本の指が掴む。

 

「ムカつくよなぁ……イラつくよなぁ……おい黒霧、知ってる事全部話せ。そうしねェと……殺すぞ?」

 

 黒霧は背後から刺す様な殺気を感じ思わず冷や汗を流す。戦闘に意識が集中し全く気付くことが出来なかった。死柄木がブチ切れており、今にも個性『崩壊』を使いそうな程腕に力がこもっている。

 しかし今はそれどころではない。眼下では刻一刻と脳無が追い詰められている。美亜の攻撃は苛烈さを増し、周囲の建物や地面を砕きながら力を奮っている。このままでは脳無が殺されるかもしれない。

 

「どうか落ち着いて下さい、事が済んだら全て話しますから。このままではまずいのです。あの脳無が失われれば先生の計画に支障が出てしまう」

 

 だが、死柄木はその手を離そうとしない。やはり先生の計画を知らされていない事、先生の注目が千染美亜に移っていることが気に食わないのだろう。

 勿論、ある程度ならばここで話す事に問題はない。だが今は一刻の猶予もないのだ。黒霧の想像以上に特別な脳無は弱く、そして美亜が強くなり過ぎた。

 

「よく考えて下さい。先生の計画は全て貴方のため。ここで頓挫すれば将来困るのは死柄木、貴方自身なのです。怒る気持ちも分かります。ですがここはどうか……どうか堪えて下さい」

 

 死柄木の手が緩んだ隙に美亜達に視線を向ける。脳無は四肢と胴体を掴まれ最早逃げる事はできない。そして歩み寄る美亜、その両腕が混じり合い一本の巨大な太刀と化す。

 

「まずい……!」

 

 黒霧は個性『ワープゲート』を使い脳無の救出を図る。だが間に合わない。美亜の両腕が振り上げられる。脳無は抵抗する事なく、その琥珀色の無機質な目で美亜を見つめていた。

 そして、赤黒い太刀が脳無を両断すべく振り下ろされた。

 

 

 

 

「は…………?」

 

 呆然としたどこか間抜けな声が、荒れ果てた戦場に響いた。





○ミルコと脳無
 グラントリノがある程度一方的に倒せているので、ミルコであればもうボコボコです。トムとジェリーのトムやブッチ並みにボコされました。


読んでいただきありがとうございます!
投稿がだいぶ遅くなってしまいました……
徐々に筆を進めますので、次回も読んでいただけると嬉しいです!
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