血濡少女のヒーロー?アカデミア   作:夏秋冬

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第39話 血濡少女と保須事件:4

 

「美亜っ!大丈夫か!?……おい!」

 

 脳無を吹き飛ばした拳士は慌てて美亜に駆け寄り声をかける。

 幸い生きてはいるようだが美亜の状態は最悪だ。顔面蒼白で呼吸は非常に荒い。何かにうなされているかのように眉間に皺がより、呻き声を漏らしながら涙を流し震えている。

 意識はないようだが幸いにも個性は機能しており、再生とはいかないが切断された腕の断面や貫かれた傷は塞がりりつつある。

 心配なのは精神面だ。明らかに異常な怯え方をしている。(ヴィラン)と接近したことで過去のトラウマが掘り起こされた可能性がある。病院に連れていかなければまずい。

 

「ワンちゃん!危ない!!」

 

「――え?」

 

 拳士は美亜に気を取られすぎていたのだろう、拳を振り上げ飛びかかって来る脳無に気付く事ができていなかった。

 現役時代の拳士であれば絶対にあり得ないミス、目の前の敵から意識を逸らしてしまった。7年前の現役時ならば、並外れた戦闘センスと個性による嗅覚、聴覚によって隙など無かった。だが長年のブランクがその勘を鈍らせ、致命的な隙を生んだ。

 自分一人なら躱せる速度、だが美亜がいる。咄嗟に拳士は美亜に覆い被さった。

 

 

 体の芯から燃えるような熱を感じる。久しぶりの感覚に恐怖を覚えるが躊躇はしない。生み出された熱が血管を通って右手に集まっていく。

 右手から発する熱波を緻密に操り、脳無と拳士の間に僅かに視認できる透度のバスケットボール大の球体を生成する。

 熱の外殻によって凝縮された大気が、球体の中で暴風の如く渦巻く。熱波の温度や位置を微調整し更に圧縮していく。

 

(もっと……もっと速く!もっと圧縮を!)

 

 1秒にも満たない一瞬の時が途方もなく永く感じる。

 現役時代とは違いサポートアイテムは無く、腕が燃えるように熱い。要求される個性の精密動作に脳をフル回転させる。

 

(圧縮……圧縮……今ッ!!)

 

 迫り来る敵に向け熱殻に穴を開ける。渦巻いていた膨大な大気が外へと殺到し、必殺の槍へと姿を変える。

 

『熱核生成――風槍!』

 

 研ぎ澄まされた一閃が脳無に直撃しその体を吹き飛ばす。

 暴風が生み出す轟音を聞いた拳士はそれが誰の個性かを瞬時に理解する。現役時代幾度となく隣で聞いていた美波の技だ。

 

「助かった、ありがとう!」

 

「油断大敵よ、私達にはもうあの時程の力は無いんだから」

 

 駆け寄ってきた美波の右腕がだらりと垂れ下がっている。熱を持って赤みがかったその腕は先程の技による反動だろう。コスチュームの冷却機能が無いとはいえ、昔なら数十回は打てた筈だ。拳士自身の『吠砲』もそうだが7年のブランクは想像以上に大きいようだ。

 

「そうなんだけど……とはいえ全身の骨バキバキにする覚悟で打ったんだけどなぁ……なッ!」

 

 その時、瓦礫を持ち上げながら脳無が立ち上がる。吠砲と風槍が直撃した筈だが傷一つない。

 

「おいおいマジか……まだ立ち上がってくるのかよ」

 

「あれがマイク君が言ってた脳無って(ヴィラン)じゃないかしら。見た目も似ているし、異常な耐久力も『再生』を含めた複数の個性を持っているなら納得できるわ」

 

 拳士の頬を汗が伝う。だとすれば相当不味い状況だ。マイクの話ではオールマイト並みのパワーとスピード、更に『再生』『衝撃吸収』を含めた複数の強力な個性を持った怪物のはず。

 気を失っている美亜を護りながらそんな怪物と戦うのはあまりに無謀。だが逃げたとしてもオールマイト並みのスピードがあれば直ぐに追いつかれてしまうだろう。

 ならば打つ手は一つ。

 

「一緒に守るぞ!美波!!」

 

 腰を低く落とし脳無を睨みつけ覚悟を決める、何としても美亜を守り抜く覚悟を。

 並び立つのは最も信頼している大親友、美波となら何だってできる気がする。昔からそうだ、どんな困難も二人で乗り越えてきた。

 7年前味わった己の無力さを噛み締める。5年前に硬く結んだ近いを奮い立たせる。魂を失い抜け殻となった少女を見た時に誓ったんだ、もう二度と同じ過ちは繰り返さないと。

 

「ワンちゃん……美亜を連れて逃げて。ここは私が時間を稼ぐから一刻も早く美亜を安全な場所へ。それとその後にミルコを此処に呼んで。多分何処かで別の敵と戦ってるか救助してると思うから」

 

「ちょ、ちょっと待て!何で!?」

 

 淡々と指示を出す美波の言葉を思わず遮ってしまう。頭ではそれが最善策である事など分かっている。恐らく私と美波で脳無を退けるのは不可能だろう。あくまで最終目的が美亜を守ることならば、身体能力が高い自分が逃げて美波が時間を稼ぐのが最善策だ。

 けれど心はその策を受け入れられない。美波のそんな言葉は聞きたく無かった。どんなに無謀でもいいから「一緒に戦おう」と言って欲しかった。

 

「美波!私も――「お願い、私を信じて」

 

 こちらを見ることなく、脳無から目を離さない美波の真剣な眼差しが、覚悟が決まった横顔が、最高のヒーローを目指していたあの日々を想起させる。

 

(その言葉は……ずるいじゃないか……)

 

 そして美波がその言葉を言う時はどんなピンチだって乗り越えてきた。誰よりも強く優しい美波がそう言うんだ、他ならぬ私がそれを信じられないはずがない。

 

(いや……違うな。分かってるから言ったんだ。美波は誰よりも……優しいから)

 

 だとすれば私に出来ることは一つだ。美波が少しでも安心できるように、敵に集中できるように一刻も早く美亜を逃す。

 

「分かった、美亜は任せてくれ!……必ず戻る!」

 

 やはり脳無の狙いは美亜なのだろう。脳無は立ち塞がる美波の横をすり抜け、美亜を背負った拳士に襲いかかってくる。

 だが立ち止まりはしない、必ず大丈夫だから。最も信頼できる友人が任せてと言ったのだ。私はただ美亜を逃すことに集中していればいい。

 拳士は迫る脳無を一瞥することもなく、避難所へ向けて駆け出した。恐るべきスピードで拳士に迫った脳無が刀を振り上げる。

 

「貴方の相手は……私よ!」

 

 脳無と拳士の間に生成された熱核が解き放たれる。

 『風槍』が直撃した脳無は大きく吹き飛び、地面に叩きつけられ膝をついて着地した。

 美亜を追うことは不可能だと考えたのか、美波を脅威と認識したのか、感情の見えない瞳からは判断できない。だが、その視線が初めて美波の方へと向けられる。

 

 脳無の無機質な瞳から途方もない威圧感を感じる。先程までは本気でも何でも無かったのだろう。理由は分からないが手加減をして美亜と相対していた。だが、遂にその力を解放した。

 間違いなく今まで相対した敵の中でも最上位の相手だろう。少しでも気を抜けば命を失うかもしれないのだから。

 当然死ぬ覚悟など出来ているはずもない。足は震え心臓は恐怖で高鳴っている。

 それでも戦う理由ならある。覚悟など出来ていなくても力が湧いてくる。

 

「私は決めたの、あの子たちだけは絶対に守るって。だから……ごめんなさい、貴方をここで倒させてもらうわ!」

 

 

───────────────────────────

 

「おい黒霧……誰だよあいつらは、ヒーローか?」

 

「誰でしょうか……コスチュームを着ていませんからヒーローではないかと。何方にせよ良かったです、あの2人が止めなければ美亜が死んでしまっていたかも知れませんから」

 

「で、どうすんだよあいつら。面倒くせぇ……殺すか?」

 

「それもいいかもしれませんね。あの脳無は特別(・・)らしいですから、その全力を知って損はありません」

 

 死柄木の眼下では美亜を担いだ1人が戦線を離脱し、残された1人が脳無に立ち塞がっている。

 大方負傷者(美亜)を逃すために時間を稼ぐつもりだろう。学生である美亜が死ななかったのだから脳無を侮っているのかもしれない。

 死柄木の口角が楽しげに歪む。ただの一般人が人命を救出するために敵に相対する。吐き気がする程に崇高な精神だ。

 だが飛び込んだ先が死地だと気付いた時、何を叫び、何を思い、何を呪って死んでいくのか。

 

「決まりだな……脳無、そいつを殺せ」




○美波のコスチューム
 美波のコスチュームは「波動ねじれ」のコスチュームに、両腕に巨大な排熱装置(楕円形)を装着したスタイルです。色はオレンジを基調に白や赤が入っています。『熱波』の弱点である本体、特に両腕が熱を持ってしまうことから、排熱機構によって都度冷やす必要がありました。勿論個性なので常人よりは遥かに熱耐性がありますが。
 大技ぶっぱした後に、機械音と共に大量の蒸気を吹き出す姿は、普段とのギャプもあり人気があったようです。

○登場している特別な脳無
 ハイエンドです。クソ強いです。


読んでいただきありがとうございます!
間が空いてしまってすみません……
時が経つのは早いもので、ばたばたしてたらもう4月……
これからも更新ペースは亀ですが、少しずつ書いていくので読んでいただけると嬉しいです!
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