「っ!!熱核生成――風槍!」
美波の放った不可視の槍が脳無へを吹き飛ばす。何度も何度も繰り返し突っ込んだビルがついに崩壊し、大量の瓦礫が脳無を埋め尽くした。
「お願い……もう立ち上がってこないで……ぐぅっ!」
両腕に激痛が走り、美波は思わず膝から崩れ落ちる。熱を持ち過ぎた腕は燃えるように赤く染まり、湯気が立ち上るほどの温度に達している。
無理もないだろう。恐るべき再生能力を武器に何度も何度も襲いかかってくる脳無に対し、既に20発以上の風槍を打ち続けている。その間排熱することもなく熱され続けた腕に限界がきてしまった。
美波の個性『熱波』、その最大の弱点は熱が体内を駆け巡ることにある。特に熱波を発する腕や手には膨大な熱による負荷がかかってしまう。
恐らく後1.2発、それ以上個性を使ってしまえば神経が焼き切れて両腕が再起不能になるか、或いは溶解して原型を失うかだ。
しかし、そんな美波の祈りを嘲笑うように瓦礫の中から脳無が立ち上がる。風槍を受け続けたにも関わらずその身体には傷一つない。
並みの敵であれば一撃で意識を刈り取り、再起不能にするレベルの攻撃を数十発受け続け尚も無傷。それは美波の攻撃では到底敵わない
必
「そう――これでも駄目なのね……」
涙声で呟いた美波は両手を脳無に向ける。
今から使う技は私が忌み嫌ってきたこの個性の最強にして最凶の用法。
その技の名を
『
特別な訓練や技術など必要ない、ただ全力の熱波を対象に叩き込むだけの技だ。
人体は42℃以上で10数時間程度、44℃を超過すれば更に短時間でその生命活動を終える。生きている以上、人間だろうが脳無だろうが限界体温は必ずある。そんな生命体にコンクリートすら容易く溶解する全力の熱波を叩き込めば、結果は明らかだ。
あらゆる生命は瞬時に絶命し、その痕跡すら残さず溶解し蒸発する。
それこそが美波の文字通りの必殺技、不可視の熱波によって行われる不可避の虐殺は
幼い頃に個性が暴走し、目の前で溶解していく命が美波の心に深い傷を負わせた。
だからこそ美波は強い誓いを立てた、決してこの個性を生命に向けないと。その誓いを守るために血が滲むような努力を積み上げてきた。『熱核生成』もその一つ、あれ程の精密動作を成すために何度も気を失い、血反吐を吐きながら修得した。
そうして歩み続けた私に皆は期待と羨望の眼差しを向けてくれた。気が付いた時、後ろには沢山の憧れてくれる人達が居た。『慈熱の美波』そんな二つ名で呼ばれ出したのもその頃だった。味方を守り、
「ごめんなさい、それでも貴方をここで止めなきゃ行けないの。貴方を生かしたら……きっとまた
皆に慕われる度に人を容易く殺せるこの個性が怖くなっていた。本当はただ怖かっただけなのに、この個性から逃げ続けただけなのに。それでも期待に応えたい、そんな自己中心的な思考で個性を磨き続ける自分が嫌いで、誰かに横に並んで歩いて欲しかった。
そんな時に拳士と出会った。あの真っ直ぐさに、私には無い眩しい程の情熱に照らされて、私は前を向くことが出来た。
今、私にはずっと守ってきた誓いを凌駕する程の覚悟がある。
(だから……もう見たくないのよ。
脳無と戦う内に気付いてしまった。あの脳無は私達の師である剣さんだ。戦い方、体の動き、『剣』の個性、そして何よりこの胸騒ぎ。雄英高校在学時からサイドキック時代の7年間、ずっと憧れ続け背中を追い続けたヒーローを見間違えるはずなどない。
7年前、『ヒーロー夫婦惨殺事件』で命を落としたはずの剣さんが、何故生きているのか、何故あんな姿になっているのか。理由は分からないがやるべき事は決まっている。
「だから
(変よね。あんな酷いことをしていたっていうのに、あんな事をした筈なのに……私はまだ貴方を尊敬している。だからせめて私の手で――)
美波は真っ直ぐに脳無を見つめる。その目には憎しみや敵意は宿っていない。あるのは悲しみ、そして感謝のみ。
美波の両腕が真っ赤に輝き出す。膨大な熱が体内を駆け巡り手のひらへと集中していく。
「さようなら剣さん……
『
『
一線、弾丸のように飛び込んできたミルコの跳び蹴りが脳無に突き刺さる。
吹き飛ばされた脳無は建物をいくつか貫通し、崩壊して降り注ぐ瓦礫に埋もれた。
「……え……ミルコ?」
「てめェ……美波さんをよくも傷付けやがって。覚悟しろよクソ
「美波!遅くなってごめん!!もう大丈夫だ!」
突然の乱入者に困惑する美波の視界に、懸命に駆け寄ってくる拳士が見える。
一歩間違えれば絶命する緊張感の中で戦っていたからだろうか、親友の顔を見た瞬間全身の力が抜け倒れ込んでしまった。
優しく抱き止めてくれた拳士の暖かさに包まれながら、徐々に意識が遠のいて行く。
「良かった……今度はちゃんと……守れたかなぁ……」
「あぁ……あぁ!今度こそ守れたんだ!だからしっかりしろ!すぐ病院に連れて行くから!」
涙と汗でぐちゃぐちゃになった拳士の顔を見ながら、美波の意識は闇の中へと沈んでいった。
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「潮時でしょう死柄木、撤退です」
「はぁ……おい、本当にアイツは特別性なのか?見ろよ、あんなど素人1人殺せねェ」
死柄木が露骨に不機嫌になっている。当たり前だ、黒霧自身も驚いている。先生が特別性と呼んでいた脳無がヒーローでも無い女性を殺せなかったのだ。
驚くべきはあの女性の強さか、脳無と1対1で10分以上もの間を凌ぎきり、ミルコが到着する時間を稼いだのだから。
「それでも目的は達成できました。ミルコが脳無を捕獲する前に戻りましょう」
美亜とあの脳無を戦わせる、その目的は達成できた。後はヒーローに捕まる前に脳無を無事に返せばミッション完了だ。
「クソが……クソッ!気に入らねェ!」
(あの2人……何でしょうかこの胸騒ぎは)
首を掻きむしる死柄木と瓦礫に埋もれた脳無を『ワープゲート』に無理矢理入れながら、黒霧は味わったことの無い胸騒ぎを感じたのだった。
○美波の過去の事件
6歳の頃、友達が野良犬に襲われた美波は守りたい一心で個性を使ってしまう。想像以上の出力により野良犬は一瞬で蒸発し、友達は軽症で済んだ。
しかし、6歳の子供が生命を一瞬で蒸発させる行いは異常に見え、この事件をきっかけに周囲から恐怖され孤立することになる。
結局転校を余儀なくされた美波は以降自分の個性を嫌い、恐怖することになる。
それでもヒーローを目指したのは、この個性を正しく扱いたいという勇気か、それとも畏怖か。
読んでいただきありがとうございます。
ほぼほぼ書き切っていたのに2週間以上溜めていました……
投稿までの勇気が出ない。
コツコツ書いていますので、次回も是非読んでください!