春、多くの人々に新たな人生が訪れる季節。美亜もまた、人生初の学校生活が始まろうとしていた。
犬孤児院の玄関には、美亜を見送るために4人が勢揃いしている。今日は雄英高校の入学式、制服に身を包んだ美亜は緊張の面持ちで玄関に立つ。
「美亜ちゃん!いってらっしゃい!!」
「――いってら、あんま頑張りすぎんなよ」
「美亜!制服似合ってるぞ、超可愛いぞ!何も心配することはない!どう見ても立派な雄英高校の生徒だ。胸を張って行ってこい!!」
「いってらっしゃい、美亜」
みんなが揃って送り出してくれる。拳士とかおりは腕をブンブン振って、風斗は腕を組みながら恥ずかしそうに、美波は優しい笑顔で手をヒラヒラと振る。私を緊張させないように、普段通りに振る舞うよう努めているのだろう。ただ、喜びが抑えきれていない。慣れない制服に少しだけ違和感を感じながら、美亜はそんな皆に振り返った。
「ありがとう皆、いってきます」
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熱犬孤児院からバスで20分、雄英高校正門前に到着した。
雄英高校は巨大な学校だ。広大な敷地面積を誇り、様々な訓練のための演習施設を備えている。正門の向こうに悠々と聳え建う本校舎は、その中でも別格の存在感を誇る。四方から見るとHに見える校舎は、全面がガラス張り、4棟のビルのような校舎の真ん中を渡り廊下が繋いでいる。
クラスは受験組18人に推薦2人を足した20人、1学年につきA組とB組の2クラスに分かれる。どうやら私はA組らしい。そういえば、あの地味男や浮遊少女、32P眼鏡は合格しただろうか。そんなことを考えながら歩いていると、案内の矢印が見当たらなくなった。
「少し考え込みすぎたな……ここは何処だ?……こんな時こそアレを使うか」
美亜が取り出したのはスマートフォン、雄英高校はその広大な面積と多様な校舎から、公式地図アプリが出ている。基本的に家に居た美亜は、連絡も固定電話で取り、特段スマホを必要としなかった。高校入学時も必要ないと断ったが、不安がる拳士と風斗に押され、初めてスマホを手にしたのだ。ちなみに美亜のスマホは地図アプリと、無理矢理入れられたLINE以外全て初期状態、何一つ弄られていない。
スマホ本体をクルクル回しながら、位置情報を見て校舎を歩く。彷徨う事10分、なんとか1-Aと書かれた教室に辿り着いた。
(いくら何でも広すぎる。早めに来て良かった)
そんな事を考えながら、異常に大きなドアを開ける。そこには同じように早く着いていた生徒が数人散見される。
「わー可愛い!モデルさんみたい!!」
美亜が教室に入ると、入り口に1番近い席に座る女子から声をかけられる。肌も髪もピンク色、頭にはツノが2本生えてる女子生徒だ。
「私、
「ち、千染美亜だ…」
「可愛いーー!」
グイグイと距離を詰める芦戸に、美亜は思わず後退りしてしまう。近いテンションの拳士なら慣れているが、初対面からこの距離感は苦手なタイプだ。逃がすまいと抱きつく芦戸に、諦めてされるがままになっていると、眼鏡で身長の高い男子が声をかけてくる。
「芦戸くん!彼女が困っているぞ!友情を深めるのもいいが、先に席に着かせてあげるべきだろう」
「んー、そっか!ごめんね美亜ちゃん!」
カクカクとした謎の動きで注意してくる男子、黒縁のメガネ、きっちりセットされた前髪、真面目そうなヤツだなと考え、少しして思い出す。
(こいつどこかで……あぁ32Pの、あの時点でそれだけ稼いでいれば合格して当然か)
「むっ、その顔どこかで……あぁ!君は受験の時にいた!やはり合格していたのか。ぼ、俺は私立聡明中学出身、飯田天哉だ。君は美亜、と呼ばれていたが、名字はなんと?」
「千染だ」
「千染君か!よろしく頼む!」
「千染という名字は嫌いなんだ、良ければ美亜と呼んでくれ」
芦戸に負けず劣らずガツガツくる飯田を残して席に向かう。出席番号は13番、しばらくキョロキョロと見渡して自分の席を探し、座って一つ息をついた。席は窓から2列目、前から3番目とちょうど教室の真ん中だ。周りの席は空席である。そもそも自分から話す気がない美亜は、早速頬杖をつき窓の外を眺め出した。
(――ヒーロー科、変な奴しかいないのか……どうしたものか)
クラスメイトが次々と教室に入ってきた。目線だけそちらに向けて、その様子をぼーっと眺めていると突然ドアが勢いよく開く。目に飛び込んできたのは金髪でトゲトゲの頭、ネクタイを外して制服を着崩している。目つきが異常に悪く、ポケットに手を突っ込んだまま歩く姿は正に傍若無人だ。
辺りを威嚇するかの様に見渡し、真っ直ぐ美亜の方に向かってくる。何故か美亜にもやたら睨みを利かせているが、気にせず無表情で目線を合わせる。気に食わなかったのか、舌打ちをして左斜め前の席に座った。片足を机の上に投げ出して座る態度の悪すぎる金髪と、それに耐え兼ねた飯田が目の前で口論を繰り広げている。
(――とんでもないのが来たぞ。まさか雄英にもこんなヤツが居るとは。ちょっと観察してみたい気もするが……流石に煩い)
美亜は口論する2人を黙らせようと席を立つ。その時、ドアが開き知った顔が教室に入ってきた。緑髪の地味な男子と、茶髪ボブの女子の2人だ。試験で一連の出来事を見ていた美亜は、恐らく救助Pで合格したのだろうと考える。何しろあのロボットを破壊したのだ、自分が20Pなら50P以上は貰えたはずだ。
飯田が緑髪の地味な男子に気づくと、何かを話に向かった。思わぬ形で口論が解消し、せっかく立ち上がったのに手持ち無沙汰になってしまった。とりあえず金髪ヤンキーを睨みつつ席に着く。
すると茶髪の女子は美亜に気がついたのか、ニコニコしながら近づいてくる。顔を向けた美亜は、女子の背後の入り口に奇妙な男を見つける。その男は寝袋に入り、顔だけ教室内を覗く形で廊下に横たわっていた。ドア付近にいた緑谷と飯田が、驚いてわっと声を上げる。その声に、生徒達の視線が集まる。その男はパックゼリーを一瞬で飲み干すと、のそのそと寝袋から出て教室に入ってきた。
「静かになるまで8秒かかりました。時間は有限、君達は合理性に欠くね。担任の
相澤は憮然とした態度で言い放つと、なにやら寝袋の中をゴソゴソ探っている。クラスの皆が未だ唖然としている中、美亜も頭を抱えた。
(何だこいつ……生徒が生徒なら先生も先生か。まさか奇人変人しかいないんじゃ無いだろうな……)
「これ着てグラウンドに出ろ」
寝袋から体操着を取り出した相澤は、それだけを言い残して教室を出て行った。慌てて生徒達も体操着を持って後に続く。
「――ねぇ、入試の時助けてくれた子よな?やっぱりそうだ!ありがとう!お礼言えんくてモヤモヤしてたんだぁ……私は
「あぁ……やはりあの時の――美亜、千染美亜だ。気にすることはない、結果的に最善だったからな。あれで私にも救助Pが付いた」
「やっぱり救助P付いてたんだねぇ。それにしても千染美亜か……。かっこいい名前だね!美亜ちゃんって呼んでもええ?」
「かまわん、好きにするといい」
麗日が話かけ、美亜が素っ気なく返す。そんな会話を繰り返しながら2人もグラウンドへ向かった。
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「「「個性把握テストォ!!!」」」
グラウンドにA組の声が響く。到着するなり相澤が告げたのは、個性の使用なんでもありの体力テストだ。ソフトボール投げ、立ち幅跳び、50m走、持久走、握力、反復横跳び、上体起こし、長座体前屈の全8種目を行う。入学式やガイダンスは?というお茶子の質問を、相澤はバッサリ切り捨てる。
「ヒーローになるならそんな悠長な時間はない。雄英の自由な校風は先生側もまた然りだ」
困惑する生徒たちを残して行われたデモンストレーション。死ね!!と暴言を発しながら、凄まじい爆発と共にボールが空を切り裂く。金髪ヤンキー、
その光景を見て生徒達が色めき立つ。
「何だこれ!!すげー面白そう!」
「流石ヒーロー科!」
中学の体力テストでは、個性の使用が禁じられていた。他にも、学内での個性発動禁止など、個性の使用には様々な規則が設けられている。一歩間違えれば人を殺せる力である個性に対して国が取った苦肉の対策だ。
これまで雁字搦めにされていた個性を、一切の手加減なく思うように行使できる。これこそヒーロー科、さらにその中でも膨大な敷地面積を持つ雄英高校ならではである。生徒達は一様に、自分の個性をどのように活かすべきか?記録を伸ばすアイディアはないか?そんな事をワクワクした表情で考え出す。
しかし、相澤は生徒達を鋭く睨みつけ、あきれ返ったような声で告げた。
「面白そう……か。この3年間、そんな腹づもりで過ごす気なのか?よし、このテストでトータル最下位は除籍処分にしよう」
騒ぎ立ててた生徒は、冷や水を浴びせられたように静まり、次に抗議の大声を上げた。
「えええぇぇぇぇ!」
「除籍って、入学初日ですよ!いや初日じゃなくても理不尽すぎる!!」
「そんな理不尽を覆すのがヒーローだ。雄英はこれから3年間、君たちに全力で苦難を与え続ける。『Plus Ultra』さ、全力で乗り越えて見せろ」
それを言われては言い返す言葉も無い。奮起するもの、覚悟を決めるもの、困惑するもの。個々人によって様々な反応が見られる。しかし奮起するものが多いのは流石雄英高校である。
そんな中、美亜は相澤に尋ねる。
「先生、トイレに行ってきてもいいですか?」
「かまわん、好きにしろ」
入学初日、本来ならば入学式が始まっている時間だろう。今頃は、校長先生のありがたいお言葉でも頂いているはず。そんな時間に突然、A組の命運を掛けた個性把握テストが始まった。
読んでいただきありがとうございます。
芦戸三奈、可愛いですよね。動かしやすくて話しやすい。芦戸三奈って語呂もいいですよね。芦戸三奈はこれからも積極的に美亜に絡んで行ってほしいですよ、芦戸三奈(4回目)