血濡少女のヒーロー?アカデミア   作:夏秋冬

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第3話 血濡少女と個性把握テスト

 皆のストレッチが終わり、そろそろ始めようかというタイミングで美亜が戻ってきた。しかし、その右腕が先程までと明らかに異なっている。肘上まで赤黒く染まり、白く綺麗な左腕と対照的でより目立つ。そんな異形ともいえる見た目に変化した美亜に生徒達の視線が集まる。

 

「千染、その右腕はどうした?」

 

「個性ですよ」

 

 右腕をひらひらと振って答える美亜に、相澤は深くため息を吐く。面倒臭そうに視線を外して第一種目の準備を始めた。

 

第一種目 50m走

 

 第一種目とあって、皆積極的に自分の個性を使っていく。

 その中で輝いたのは飯田だ。個性『エンジン』を使い足から生えたトルクで加速、なんと3秒04の好タイムを叩き出した。他にも尻尾を使ったり、両腕を爆破させることで推進力を生み出したりと、各々の個性と発想力で次々と好タイムを叩き出していく。誰もが個性を使った身体測定は初めて、その記録は中学までと雲泥の差だ。次第に皆の表情にやる気が漲ってくる。

 いよいよ美亜の番が訪れた。美亜が体を伸ばしていると、並んで走るカラスの頭部を持つ生徒が声をかけてくる。何となく視線を右腕に感じるが、何がそこまで気になるのだろうか。

 

「千染といったな。俺は 常闇 踏影(とこやみ ふみかげ)だ。よろしく」

 

「常闇か、よろしくな」

 

 互いに軽く言葉を交わしスタートラインに立つ。号砲が鳴った瞬間、美亜は素早く右腕を前方へと伸ばした。今回は腕を切断することはなく、本来の腕の周りに血を纏わせているだけだ。そのため血量が少なく、4mほどしか伸ばせずに舌打ちをする。

 これ以上は腕の形を保てなくなる。そう判断した美亜は地面に爪を突き立て、腕を縮めることで前へと飛んだ。横の常闇も同じように、『黒影(ダークシャドウ)』に地面を掴ませ跳躍している。

 

 結果、千染美亜 7.02秒、常闇踏影 6.32秒

 

 やはりリーチの短さ、回転率の悪さでタイムが伸びなかった。それにしても常闇の個性、何やら影のような物を操っていた。ずいぶん自由に動かしていたし、何やら掛け声を発していた気がする。掛け声は気のせいだったかも知れないが、便利で強力そうな個性だ。

 

 

第二種目 握力

 

 握力はまるでお手上げだった。考えるのも面倒くさくなってきたので普通に測ってみることにした。入学前に少しは鍛えたしマシな記録は出せるだろう、最下位なんてことはないはずだ。

 

結果、千染美亜 17kg

 

 因みに無個性の高一女子平均は25kgだ。結構全力で握ったつもりだったが流石に落ち込む。普通に現時点で最下位である。鍛えなければなと考えているとキリキリと何かを回すような音が聞こえる。見ると八百万という女子がなぜか万力で握力計を締め上げている、ちょっと意味がわからない。

 

結果、 八百万百(やおよろず もも)、1.2t

 

 あまりにも凄い記録に周りから歓声が上がった。果たしてあれは握力なのだろうか?本当に個性ならなんでもありなんだなと美亜は無理やり自分を納得させた。

 

第三種目 立ち幅跳び

 

 50m走と同じく腕を目一杯伸ばし、縮めることで勢いをつけて飛ぶ。10mは飛んだはずだと相澤の方を見ると見せられた計測機には4.84mと書いてあった。どうやら腕を地面についたためその地点が落下地点になったらしい。よくよく考えたらその通りなのだが納得がいかないので相澤を一睨みしてから木陰へ休憩に向かった。

 

結果、千染美亜 4.84m

 

 

第四種目 反復横飛び

 

 木陰で一息つきながら策を考える。個性を使わず普通にやっては、おそらくこのクラスで身体能力最低な私は最下位になってしまう。右腕に纏わせている血を2分割して両腕に纏わせ、左右に突き立てて交互に伸縮させる。おそらくそこそこの回数が出せると思うが、見た目が悪い。ぶっ壊れたやじろべえのようにみょいんみょいんと跳ねる自分を想像すると悪寒が走る。

 結局、この種目も普通にやろうと美亜は結論づけた。

 

結果、37回

 

 結果を見終え水を飲んで休憩していると飯田の番が回ってくる。飯田の個性は『エンジン』、ふくらはぎにエンジンのような器官が備わっており、爆発的な推進力を生み出す。そんな彼は思いっきり内股にすることでエンジンを外に向け、交互に噴出することで爆速の反復横跳びを可能にしている。

 どこからか「行くわよオオオオオオオ!!」と聞こえてきそうなその姿に生徒たちは爆笑していたが、それでも当の本人はやり切った清々しい笑顔を見せていた。

 

 

第五種目 ボール投げ

 

 個性『浮遊』でボールを浮かせた麗日が♾を叩き出し、デモンストレーションと同じように爆豪も700mを出した。

 そして回ってきた緑谷の番、皆が心配そうに見つめる。現状は緑谷のダントツ最下位、このままでは除籍になってしまう。

 受験で見せた超パワーと直後の大怪我、美亜は緑谷の個性を諸刃の剣的な増強型個性だと考える。それならばこのボール投げが個性を使うタイミングとしてはベスト、あのパワーの全力が観れるかもしれないと美亜も注目した。

 

 そんな緑谷の一投目、ここまでの競技では全く普通の成績だった。しかしこのソフトボール投げでは増強型個性に大きなアドバンテージがある。皆の視線が集まる中大きく振りかぶって投げた。

 

結果、緑谷出久、46m

 

 余りにも呆気ない。これまでの種目と同じ普通の記録である。しかし様子がおかしい、緑谷は困惑を隠しきれない表情で腕を見ている。

 

「な……今確かに使おうって……」

 

「今、お前の個性を消した。入学試験のようにまた行動不能になって誰かに助けてもらうつもりか?つくづくあの試験は合理性に欠ける、お前みたいなやつが入学できてしまうからな」

 

 困惑する緑谷に、髪をかき上げ鋭い目を露わにした相澤が言い放った。

 

「消した…?そうか!抹消ヒーロー、イレイザー・ヘッド!!」

 

 緑谷の驚きの声がグラウンドに響いた。まったくヒーローを知らない美亜からすると誰?であるが、周囲の反応を見るに今回は皆が知っているわけでは無いようだ。

 

 相澤消太、ヒーロー名はイレイザー・ヘッド、個性『抹消』は見た者の個性を消す。アングラ系ヒーローで滅多にメディアや人前に姿を現さないため、知っている者は少ないがかなりの実力者である。

 

(個性を消す『個性』……成る程そんな個性もあるのか。私の個性とは非常に相性が悪いな、気を付けなければ)

 

 残り後一投と告げられ、緑谷は俯いてブツブツと何かを呟き出した。もしや諦めてしまったのだろうか。全力を出せないで終わるというのは気の毒ではあるが、入試の時のように怪我をさせる訳にはいかないという相澤先生の立場も理解できる。

 

「SMASH!!」

 

 しかし、緑谷の放ったボールは遥か彼方へと吹き飛んだ。700m越えの大記録である。緑谷は真紫に腫れ上がった人差し指ごと拳を握り、相澤の方を見る。相澤も思わずこいつ…!とニヤリと笑った。皆があまりのどんでん返しに沸く中、怒声と共に爆豪が緑谷に突撃する。

 

「どーいうことだこらぁ!ワケを言えデク!!てめぇ!!!」

 

 瞬時に包帯のような布が爆豪に絡み付き、その身動きを止めた。得意の爆破で吹き飛ばそうとするが何故か個性が使えない。

 

「ったく、何度も個性を使わせんな。俺はドライアイなんだ。時間がもったいない、千染準備しろ」

 

 爆豪を視界に入れながら、相澤は呆れたように言って美亜を促す。

 緑谷の大記録に安心したのだろうか、先程までの暗い表情とは一旦、満面の笑みで麗日が声をかけてくる。

 

「頑張って!あのおっきな手で私を投げた時みたいに!!」

 

「はぁ……前のやつが盛り上げすぎだな。あの後はプレッシャーだ」

 

 ぼやきながらスタートの円に立つ。確かに麗日を受験で放り投げたように個性を使えば、かなりの飛距離は出るだろう。ただ今回は血の量があまりに少なすぎる、だから実験ついでにもう一つの使い方を試してみる。右手からするすると血を離し、ボールを覆い尽くす。手のひらの上で浮かび上がっているその球体と意識が繋がり、しっかり操作できる事を確認するとそのまま前方へ飛ばした。徐々にボールが離れスピードを増しながら飛んでいく。思いもよらない美亜の個性に声が上がる。

 

「へー、腕が変形する個性とかじゃ無いんだな」

 

「私もそう思ってた!不思議な個性だね。あれどこまで飛ぶのかなぁ」

 

 そんな声を耳にしながらさらに遠くへと飛ばし続ける。一体どの範囲まで血を操れるのかを実験するために飛ばしてみたが、やはり予想通り100mを超えたあたりから徐々に操作が難しくなっていった。ただボールを運ぶだけならなんとかなるが、例えば200m先にある自分の血で槍を作って攻撃するなどの精密動作はとてもできそうに無い。

 

記録、千染美亜 380m

 

最後の方はもはや本当に飛んでいるのか、そもそもそこにボールはあるのかすら分からないほど感覚が怪しくなってしまったが、悪く無い記録を出せたと思う。

しかし直後の八百万が『創造』で何と大砲を作り出し、轟音と共にボールは空の彼方へと突き抜けていった。また大記録だ、やはり推薦組というのは優秀らしい。

 

結果、八百万百、28km

 

ボール投げ、美亜は麗日、八百万、緑谷、爆豪に続く5位だった。

 

 

第6種目 持久走(3km)

 

3キロを走り切るのは厳しいな、スタート位置で屈伸しながら美亜は考える。周りの生徒にとっては3キロなど容易に走り切れるが美亜は違う。仮に走ろう物ならフラフラになりながらダントツの最下位でゴールする羽目になるのは間違いない。スタートの合図と共に皆一斉に走り出す。先頭を駆け抜けるのはやはり飯田、その後ろを爆豪が爆破でブーストして猛追する。続いて轟や芦戸、尾白など身体能力が高い組が、美亜はその後方を瀬呂や砂藤らと共に走る。美亜は腕の血を地面に落としてその上に乗って滑走していると横で走る瀬呂が恨めしそうな視線を向けてくるが気にしない。

少し走ると後方からエンジン音が聞こえ、颯爽と抜き去られた。飯田が周回遅れにしてきたか?と思って見ると八百万が原付に乗って走っている、ヘルメットを忘れないのが実に優等生らしい。

 

「さすがにありゃ反則だろオ!!」

 

後ろを走る峰田から抗議の声が上がり、美亜も同意して横で走っている上鳴にも賛同を求める。

 

「あれはずるいよな?せめて足で走ってほしい」

 

「いや・・・千染、お前すげえな・・」

 

なぜか呆れたような視線を足元に向けられた、意味がわからない。相澤はそんな抗議の声を受け流して許可していた。

結局、美亜はそのまま中位グループで滑り続け、そのままゴールした。

 

結果 1位 飯田天哉、2位 八百万百 3位 爆豪勝己 9位 千染美亜

 

 

第7種目 長座体前屈

 

ここでは蛙吹梅雨が個性『蛙』を生かして舌を伸ばす。

 

結果、 蛙吹梅雨(あすい つゆ) 1973cm

 

『蛙』は蛙っぽいことならなんでもできる個性で、どことなく蛙っぽい見た目をしている。後たまにケロケロと言っている気がするが、美亜は流石に気のせいだろうと聞かなかったフリをした。しかし参考にはする。柔軟には自信があるため限界まで体を倒し、そこからさらに血腕を伸ばした。

 

結果、千染美亜 460cm

 

長座体前屈を終えた美亜が木陰で休んでいると美亜の個性に興味を持った生徒が2人話しかけてくる。

 

「君の個性、便利だね。いろいろ出来そうで羨ましいよ」

 

「そうそう、その腕にくっついてる物質を操る個性か何か?」

 

片方は『尻尾』の個性を持つ 尾白猿夫(おじろ ましらお)、もう1人は『イヤホンジャック』を持つ耳郎響香(じろう きょうか)だ。美亜は2人に自己紹介を済ませると血をするすると浮かばせて球体にする。2人の周りをくるくる回る球体に感心している。

 

「そうだな、私の個性はこれを操ることができるんだ」

 

「いいなあ、応用力高そうで」

 

尾白のその声に首を傾げる。美亜としてはいちいち血を流さなければならないこの個性は全く使いづらいものだ。それに普通だったら血を流すために痛い思いをする。こいつはドMなんだろうかとあらぬ誤解を始めた美亜に耳郎から声がかかる。

 

「それで、結局この液体?物体はなんなの?」

 

「ああ、これは血だよ。私は自分の血を操れるんだ」

 

「へー血かぁ。なるほどねー…え?血?えぇ…」

 

次の競技へと向かう美亜。残された2人や聞き耳を立てていた生徒たちは少し引いていた。いくらブラド先生がいたとしても彼はコスチュームで血を吸い出している。コスチュームのない美亜はどうやって今個性を使っているのか…

 

最終種目 上体起こし

 

30秒で何回腹筋ができるか。すでにこの種目を前に緑谷の最下位は確定していた。特に案もなかった美亜はこの1年の筋トレの成果を試すべく普通にやって見ることにした。思ったよりもきつい、無理して最初に飛ばしすぎたせいで後半はバテバテだった。

 

結果、千染美亜 28回

 

 

これで全ての種目が終了した。トータル最下位が除籍となる。集められた皆の中で緑谷の顔は暗く、他の生徒も心配そうに緑谷と相澤を交互に見ている。ソフトボール投げ以外に目立った記録を残せなかった緑谷は間違いなく最下位だろう。

 

「んじゃパパッと結果発表だ、トータルは各種目の評価点を合計した数、口頭で説明するのは時間の無駄なので一括開示するぞ…ちなみに除籍は嘘な、合理的虚偽だ、君らの最大限を引き出すためのな」

 

「はーーーーーーーー!!!」

 

さらっと言われた衝撃の一言に緑谷、飯田、麗日をはじめとした数名が驚きと抗議の声を上げる。美亜の横にいる八百万など数名は気付いていた様だ。

 

「あんなのウソに決まってるじゃない、ちょっと考えればわかりますわ」

 

相澤は教室にカリキュラムなどの書類があるから見とけ、と言い残してだるそうに去っていった。皆が唖然としてその背中を見送る中、美亜も同じように唖然としていた。

 

(なっ…なんだと…、雄英高校の教員ともあろう者が初日から嘘だと!全然気づかなかった…)

 

気付いてもいなかった美亜はなんとか声には出さずに心の中で抗議の声を上げていた。

 

 

1位 八百万

2位 轟

3位 爆轟

15位 千染

20位 緑谷

 

 

 

「ただいまぐふっっっ!」

 

バスに揺られること20分、孤児院に帰宅した美亜に小さな塊が突っ込んできた。何とか受け止めたもののお腹に相当なダメージだ。

 

「おかえり美亜ちゃん!学校楽しかった!?」

 

「かおり…私はか弱い乙女なんだ、突っ込んでくるのはやめろ」

 

「お帰り美亜。おい、美亜は学校初日で疲れてるだろ!負担かけるのやめろや!」

 

そんな2人を他所に靴を下駄箱にしまってリビングに向かう。鞄を置いて冷蔵庫から出した麦茶を飲んでいると拳士さんがリビングに入ってくる。

 

「おー、お帰り美亜。どうだ?疲れただろ」

 

「別に余裕だった、私の心配はいらないよ」

 

「そうは言っても意外と疲れは残っているもんだからな、今日はしっかり体を休めて明日に備えるんだぞ。

ところでクラスはどんな感じだ?友達はできそうか?入学式行きたかったなぁ」

 

食卓の机の向かいに座った拳士は矢継ぎ早に質問する、本人は気付いているのか分からないが尻尾がブンブン振れている。

 

「わかった、そうする。それでやっぱりヒーロー志望のやつは変な奴ばかりだよ。急にキレる奴、無駄に明るい奴、痛い奴とか」

 

「そっか…まぁ雄英高校に行くような子達だ、才能溢れる個性的な子が多いだろうなぁ」

 

そう言って拳士は困ったような曖昧な笑顔を浮かべた。その後すぐにキラキラした目に戻り、話を聞きたがる。いつの間にか既に横にかおりが、食卓から少し離れたリビングのソファには風斗が座って聞き耳を立てている。

いつになく浮き足立った孤児院に思わず頬が緩んだ私を見て、拳士も満面の笑みを浮かべた。

 

「入学式は無かったよ」

 

「なんで!」




読んでいただきありがとうございます。
1000UA突破して驚いています、これからも読んでいただけると嬉しいです。
個性把握テスト、活躍とか順位とか悩みましたが今後の為にかなり控えめな順位にしました。なりふり構わず本気を出せば上位には入れるはずです。それにしてもこの辺の原作のテンポは良すぎますね、凄いです。
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