今日も今日とて仕事をこなす。どうも私の学校は図書室利用者が多い。それは本来であれば喜ぶべきことなのだが、手放しに喜べないのが現状だ。貸し出される本の約8割がマンガ、ラノベなのである。要はまともに本を読んでいる人はほとんど居ないということである。読書家の私からすると不満のある状況だ。
そこで私は委員長に頼んで校内でイベントを開催し、まともな読書を推し進めたのだが。ここの生徒は腐り切ってたようでちょっとやそっとで改心するようなそれではなかった。読書が好きで、読書する人を支えたいという思いから図書委員に入った訳だが、お陰様でその仕事が嫌になってきている。
しかし私をここに引き止めるものがある。それがなければ私はこんな委員会など担任に直談判して辞めさせてもらうのだが…
「お疲れ、後輩くん」
「お疲れ様です。先輩」
一つ上の久遠先輩だ。私は先輩に淡い恋心を抱いているのだが世界は残酷なものだ。
「久遠先輩!」
「悠太くん、こんにちは」
同学年の藤居悠太だ。性格は典型的なオタク。しかし見た目は…見えない。見えないというか無いというか、とにかく。私はコイツを目を使って認知出来ない。
その上、声を発して喋らないのに何を言ってるか伝わる。耳を使っても認知出来ない。そこに感覚だけがあるような感じ。
それから十数分。二人は楽しそうに話していた。まさか私だけに認知出来ないのか?まさか。
そこの雰囲気が嫌になったので私は帰ることにした。本当はそこにいて嫌がらせとしてやろうかと思ったのだが、私の体は帰っていた。制御が聞かなかった。しかし家に帰るならば、できることがあるはずだ。
私は眠らずに考えた。何故あいつを認知出来ないのか、私の行動が操られているように勝手に動くのか。手掛かりは一切なかったが、とにかく考えた。
しかし答えは分からないので家を出てコーヒーでも買いに行こうとすると、家の扉が開かなかった。鍵は空いているのに扉は開かない。
窓も鍵こそ開けど動かない。部屋にあった壁掛け時計を取り、家々の光輝く景色に向けて全力で投げた!
窓が割れ、そこにあったのは闇。窓から映る景色と割れた窓から見える景色は別物だった。割れた空間へ手を入れると酷く痛んだ。しかし引っ込めると治った。
「バグか…」
バグ…?何だそれは。虫のことか?それにさっきから頭の中で回るこの情報は何だ。プレイヤー、主人公、ヒロイン、恋愛ゲーム、NPC、モブ…一体何の話なんだ。
「ゲームとは…何だ…?」
そう思うとゲームとは何かという答えが私の頭に入り込んできた。それは決められたシナリオを遊ぶもの。私達NPCはシナリオを遂行する自動人形。
プレイヤーは主人公を操って、もしくは主人公の動向を見てシナリオを楽しむ。
そして私がいるこの世界は恋愛ゲーム。プレイヤーは主人公である藤居悠太になりきりヒロインと恋愛する。ヒロインは複数いて、久遠先輩はそのひとりだ。
…女を掛け持ちするクズ野郎に久遠先輩を渡してなるものか。実行しなければならない。やらなければ何も変わらないのは今までの人生が証明してる。
身近な武器である包丁を持って行くことにした。
「やってやる…」
殺せるならそれでいい。もしゲームの修正力によって殺せなければ別の手を取ればいい。バグに触れることで私自身がバグになってしまったようだ。しかし私は自由になった。先程開かなかった扉は開く。やれるはずだ。
次の日、私はいつも通り仕事をこなしていた。後、数秒でアイツはここに来る。そうしたら容赦は無しだ。バラしてやる。
「久遠先輩!こんにち…」
見えた。今までとは違う。私はコイツが「視える」のだ。
まずは腹に拳を入れた。直ぐに死んでもらっては困る。苦しんでもらわなければ。床に倒し、喉輪で首を絞め、顔を何度も辞書で殴打する。
飽きてくると今度は腹を踏みつけ、口から上がってくるソレをみて笑う。何度か繰り返すとコイツの全身が痙攣し始めた。腹を抱えて大笑いして、そろそろ止めを刺してやろうかと思ったところに先輩が私とコイツの間に入った。
「後輩くん、もうやめなよ!」
「先輩はコイツの味方ですか…所詮は主人公友好NPCか…」
「何言ってるの…。後輩くん!その刃物をしまって!」
「じゃあ私の名前を呼んでくださいよ!」
先輩は戸惑っている。そうだ、私は名前もないモブだったんだ。悲しいかな、最初から先輩に恋するように作られているが決して恋は叶わない。この世界を作ったデベロッパーが憎い。
先輩…どうして貴女はコイツを庇うのですか。貴女を裏切るかもしれない男のことを信じるのですか。貴女を支え、一途に想っている私では駄目なのですか?
「先輩どいてください!そうじゃなきゃ貴女まで殺すことになる!…それも悪くないか」
そうだ。まともな私ではなくイカれた男に着いていく先輩なら殺してしまってもいいじゃないか。
「大丈夫です。貴女だけは優しく、一瞬で殺してあげます」
ゆっくり近づき、床に座った先輩に目線を合わせて私は微笑んだ。想いを断ち切るのだ。一時でも恋をした人を殺すのは辛いが、先輩が痛い目を見るくらいなら…。
「先輩、死ね」
首を切った。夥しい量の血が私に吹き付ける。血が抜けて色を失った死体を見ていると愛おしく思う。殺しても、諦めたつもりでも、未練というのは付きまとう。やっぱり諦めきれない。
「次はお前だ」
死にかけの芋虫のようにのたうち回り、ひっくり返ったゴキブリのように痙攣する男は最早人間に見えない。次々と致命傷にならない所に包丁を突き立てていく。目の前で命の灯火がゆっくりと消えていく様は私が死神になった気分だ。
「逃げろよ…消えるぞ…」
必死で動くコイツの後頭部に包丁を刺した。
「消えた…」
まだやるべきことがある。主人公の死体は霧散しつつあるが、そうはさせない。体に手を入れ、スイッチを切る。
こんなゲーム二度と起動させてたまるものか。再起動もリセットもニューゲームもやらせない。これが私達のトュルーエンドだ。