感情の詩   作:日比谷 雷電

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終わりし世界の虐殺者

「死神が出たぞ!」

「死神だ!」

死神だ。核戦争によりこの世界は終わった。しかし人類は終わらなかった。数少なかれど生き残った人類は懸命に生きている。

「野蛮な雄め…さぁ、死のうか」

「うわぁぁぁぁ!!」

ある時人間の営みを破壊する者が現れた。死神と名乗るその男はこの国中の男を殺して回っている。既に東京以外で男は滅んだと言っていい。死神は凄まじい勢いで虐殺を行った。死神が現れてここまで僅か3ヶ月だ。彼は男なら子供だろうが乳児だろうが老人だろうが構わず殺し続けた。

私はこの居住地を離れ、東大和キャンプへ向かった。遠いが、ゴタゴタに紛れて逃げ、おそらく彼が最後に来るであろう東大和キャンプで最後の一人になり、彼が虐殺を繰り返す理由を聞きたいのだ。そして叶うなら彼にはトドメを…。

「どこかに隠れていませんかぁ〜?計算より雄の数が三匹足りないんですけど〜?」

彼の言葉に耳を貸さず私は走った。この日の為に訓練はした。音を立てずに走り、心拍、呼吸に至るまで周囲と同化する。仲間の一人に見られていた、罪悪感を覚えながら私は走り続けた。

「一匹逃げましたねぇ…。見ている人が居たら出てきて教えてくださいな。そうしたら雄でも命を助けてあげましょー」

「見た!俺が見た!アイツは東大和キャンプに逃げるつもりだ!」

「わぁ、出てきてくれましたねぇ〜。一匹逃がして、貴方がいて、あと一匹はどこにいるんですかぁ〜?」

「頼む…あの子だけは見逃してくれ…!生まれてまだ3日なんだ…」

「なるほど…赤ちゃんですかぁ…。逃がすわけないでしょ現に一匹に逃げられてるのにもう一匹見逃せとでも言うつもりでしょうか私の名前御存知ですか死神ですよ須らく死を齎す者ですよ分かってますか?

早くその子の所に案内してくれますかー?はーやーくーしーてーくーだーさーいーなー」

 

 

「どうしたそんなに息を切らして。立川の奴が急ぎの用か?」

「死神が…来る…!この国の男はもう終わりだ…!」

「なんだって!?防衛体制を敷く!」

「無駄ですよぉ。私、もう来ちゃいましたぁ〜」

早すぎる…。私が逃げてから彼が追ってくるまで少なくとも5分はあったはず…。最短の隠し通路も使ったというのにどうしてこうなったんだ…。

「私は東大和の生まれなのでここを最後にしたかったんですよねぇ〜。それじゃあ始めましょうかぁ!!!!!!!!」

彼は人間らしからぬ速さで動き回った。次の瞬間には周りにいた男達は爆発四散した。肉片が辺り一面に散らばって私の体にもへばりついている。

「何をしたか気になりますかぁ〜?ポケットグレネードですよぉ〜。ピンを抜いたグレネードをですねぇ〜ポケットの中に突っ込んであげるとですねぇ〜花火が出来るんですよぉ!?!?」

「なぜ私を狙わなかったんだ」

「聞きたいことがあるって顔に落書きされてますよぉ〜?しかも貴方は私が東大和を最後にすると分かっていたみたいですしぃ…話を聞いてあげようと思ったんですよぉ…。私は雄の始末が終わったら行くので待っていてくださいなぁ〜。私の行く場所ぉ…貴方の予想とガッチャンしたらお話ぃ…聞いてあげますからねぇ〜」

そう言うと遺された男達を首を捻ったり、内蔵を抉り出したり、バーナーで焼いたり、首を切り落としたり…。殺戮のオンパレードが始まった。死んでいく命を横目に見ながら考えつつ行動を始めた。

彼は最後にどこに行くだろうか。東大和市駅跡、旧日立航空機立川工場変電所跡、上北台駅跡、多摩湖取水塔跡…。候補が多すぎる。チャンスは一度きりだ。間違えれば彼は容赦なく私を殺しにくるだろう。

 

文明が失われてもなおその潤いを保つ湖の畔で私は立っていた。ただ死ぬか、意味を持って死ぬかの2択に揺れながら。

『Donau so blau, Durch Tal und Au Wogst ruhig du hin, Dich grüßt unser Wien, Dein silbernes Band Knüpft Land an Land, Und fröhliche Herzen schlagen

An deinem schönen Strand.』

「当たりだったか…」

「大当たりですよぉ〜。おめでとうございますぅ〜」

「じゃあ質問に答えてくれるんだな」

「いいですよぉ〜」

「どうしてこんなことをした。人類が窮地に立たされているというのに男をなぜ絶滅させたんだ」

「私だってこんなことはしたくなかったんですけどねぇ…。人類への報復ですよぉ…。

私は二百年以上冷凍保存されてましてねぇ、戦争が起こる前の人間なんですよぉ。目が覚めたら世界が終わってましたぁ…。そんな中でもお友達を作ったんですけどねぇ、ある日突然女の子の友達が泣きながら私の家に来たんですよぉ。お友達は乱暴されたって。

だから私はお友達を火炎瓶で殺してあげましたぁ!!焼けてしまえば何も残らないでしょ〜?そして思ったんですよぉ…。

何年経っても変わらない猿は絶滅させてしまえばいいってねぇ!!!!そうすればお友達のように傷つく人はいなくなりますからねぇ!!!!」

彼には理由があった。正当な理由が。たった1人の友達のためにここまでやってのけた彼に敬意を表したい。私にはそんなこと出来やしない。

「あとあとぉ〜信じないかもしれないですけどぉ〜神様も殺しちゃいましたぁ!!!」

彼は来ているコートの中から生首を2つ取り出した。顔は不自然に歪んでいて分からない。神の首なのだろうか。

「右がリリスで左がシオンですぅ〜人間界に引き摺り込んで断頭したのでもう復活出来ませーん」

「その2人が死ねば新しい命が生まれないじゃないか…」

「何が悪いんですかぁ!?!?これ以上この世界にゴミはいりませんよねぇ!?!?私はゴミの発生源を絶っただけですよぉ!!!」

正気じゃない…。しかし思いの力だけで神を殺してみせるなど、今の人間にはできないだろう。他者を心から思いやることの出来ない今の人間には。

「あ、外国に行けば誰かいるかもとか思いましたよねぇ…?ざんねーん。外国の雄も一匹残らず始末してあるのでこの世界の雄は私と貴方だけですよぉ〜」

「私を殺すのか?」

「勿論そうしたいんですけどぉ…。貴方には最後の人類が死ぬまで一緒にいてもらいましょうかぁ…。最後の最後にダーティ・ボムを起動してこの世界に二度と生命が生きられないようにしたいのでぇ、お手伝いがいるんですよぉ…」

「分かった…やるよ」

 

 

 

「ついに終わりましたねぇ〜」

「あとは私達だけか…」

「言い残したことはありませんかぁ〜?」

「何も」

「さよーならー」

 

「終わった。私の報復が…。これで私も解放される…。天国で君が浮かばれていることを祈るよ…。

血に染められたこの身体、最後の時には清らかなる湖に抱かれ、永遠の罪と共に私を沈めよ…」

凄まじい爆発音があちこちで聞こえる。放射線物質が世界中にばら撒かれていく。二度と生物の現れない荒野になっていく。私は最期の時に道化を演じるのを辞め、自分で自分の罪にとどめを刺した。


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