この小説は煉瓦様の作品「美少女になってちやほやされて人生イージーモードで生きたい!」(https://syosetu.org/novel/217501)の二次創作です
私は、小さい小さい部屋の中。土の上に敷き詰められた藁の上で、今日も私は卵を産みます。
私が卵を産みますと、大きなヒトがその卵を持って行ってしまいます。
大きなヒトは、私の卵を持ってくときにとても嬉しそうな顔をしています。
「いつも、美味しい卵をありがとうね」と嬉しそうに声を掛けてくれました。
私は、その笑顔と嬉しそうな声が好きでした。
○
今日も、私は卵を産みます。
私が卵を産むと、いつものように大きなヒトが卵を取りに来ました。
でも、今日はいつもと違います。
大きなヒトの傍らには、小さいヒトがいたのです。
その小さいヒトは、大きいヒトの半分にも満たないほどに小さいヒトです。
小さいヒトは顔を仰いで、おおきいヒトに言いました。
「このニワトリさんが卵を産むの?」と、ちいさなヒトがつぶやきます。
「そうだよ、このニワトリさんが卵を産んでくれるんだ」、大きなヒトが答えます。
ふーん…と小さなヒトがつぶやくと、私のほうを向いてこう言いました。
「ニワトリさん、いつもおいしいたまごをありがとうね!」と言いました。
そのときの、大きなヒトの笑顔はとても、とても、綺麗でした。
私は、その時の笑顔が好きでした。
○
今日も、私は卵を産みます。
私が卵を産むと、おおきいヒトと、小さいヒトが卵を取りに来ました。
いつものように、嬉しそうに、
「今日も、美味しいたまごをありがとうね!」と小さいヒトが私に言いました。
おおきいヒトも一緒に笑顔になって「美味しい卵をありがとうね」と言いました。
小さいヒトは、小さいかごに、私の卵をいっぱいに詰めて卵を持っていきます。
「きょうのご飯はオムライスがいい!」
小さいヒトはおおきいヒトに大きな声で言いました。
「そうだね…今日はこんなにも卵が取れたんだ。大きな大きなオムライスを作ろうね」
大きいヒトは、小さいヒトに優しく、穏やかに言いました。
「やった!やった!じゃあじゃあ!早くおうちに戻ろうよ!急いで帰ってご飯にしようよ!」
小さいヒトはおおきいヒトの手を握り、引っ張りながら言いました。
「はいはい、そんなに急がなくても、ご飯は逃げたりしませんよ」
大きいヒトは、小さいヒトに引っ張られながら、ゆっくりと部屋を出ていきました。
私はそんな二人を見つめていました。
○
今日も、私は卵を産みます。
私が卵を産むと、小さいヒトが卵を取りに来ました。
初めて会ったその日から、小さいヒトは大きくなり、少し小さいヒトになりました。
少し小さいヒトは言いました。
「さっさと卵を取って帰ろう…おじいちゃんに叱られちゃう」
少し小さいヒトはそういうと、私を見て言いました。
「さっさとどいてくれないかなぁ…卵が取れなかったら私戻れないんだけど」
そう呟くと、私のほうを睨みつけ、じっとしていました。
「…っあー、もうっ!、邪っ魔なんですけど!!」
大きい声を上げたと思ったその時、私は首を掴まれ、部屋の隅に運ばれました。
「さっさとどいてくれないのが悪いんだよ」
少し小さいヒトはぶつぶつと呟きながら、私の卵を取っていきました。
私は、そんな少し小さいヒトの背中を見つめていました。
○
今日も私は卵を産みます。
しかし、今日は様子がおかしい気がします。
いつも生んでいる卵の数が、今日は少ない気がします。
そう思いながら私が卵を産むと、少し小さいヒトが卵を取りに来ました。
少し小さいヒトは言いました。
「なんで私がこんな汚いことしないといけないのさ…もう、この部屋すごく臭いのに」
少し小さいヒトはそう言いながら、部屋の中に入ってきました。
「ほら、さっさとどけ…私が戻れないだろうが」
少し小さいヒトが、私を足で払いのけます。
「あれ、いつもより少なくない?なんで?」
困惑したような声でつぶやくと、周囲の藁を足を使ってひっくり返します。
「…隠れているわけでもない、間違って潰したわけでもないと…ただ単に産むのが少なくなっただけ?」
少し小さいヒトはそう言いながら、ひっくり返した藁を元に戻します。
「あーぁ、私も街で暮らしたいなぁ…おじいちゃんの家ってど田舎だから何も無いし」
少し小さいヒトはそう呟きながら、部屋を出ていきました。
私は、そんな小さいヒトの背中を見つめていました。
○
今日も私は卵を産みます。
あれから私は、卵を産む数がどんどん減っていきました。
昔はあんなに産めたのに、今では半分しか生めません。
そうして私が卵を産むと、大きいヒトが卵を取りに来ました。
「今日も…美味しい卵をありがとうね」
大きいヒトは言いました。
しかし、私が知る姿とは大きく違いました。
前のときのような笑顔は消え、明るく優しい声は暗く寂しい声になり、知らない人が見たら別人ではないかというほどにまで変わっていました。
前は私が産んだ卵を前に、あんなに喜んでくれたのに、どうして笑ってくれないの?
前ほど産んではいないけど、今日も頑張って産んだんですよ?
私の目線に気づいたのか、大きいヒトは呟きました。
「…あの子はもうここには来ないんだよ…」
そう呟いた大きなヒトは、悲しい笑顔で言いました
「あの子の親…うん、私の娘のことなんだけどね、仕事が落ち着いたから家族で暮らすことになったんだ。あの子の家は都会にあるからね、そこから新しい学校に通うことになったんだ」
大きなヒトは言葉を続けます。次第に言葉に嗚咽が混ざり、少しずつ聞きづらくなりました。
「『私はこんなところに住み続けるのはもう嫌っ!』て言ってね…すごく泣いていたんだよ。カラオケに行きたい、友達とランチしたいって言ってね…うん、わかるんだよ。年頃の女の子だからね…欲しいものやしたいこと、山ほどあるだろうね」
大きいヒトはそう言うと、顔を俯かせ、手で覆いながら泣き始めました。
「『おじいちゃんは何も私を分かってくれないんだ』っていってね…私はあの子を分かっているつもりだったんだ…でも、こうしていなくなってしまった以上、私には何もわかっていなかったんだよ…」
私は、そんな大きなヒトを見て大きく鳴き声を上げました
私はここにいますよ。だから泣き止んでください。
あの子がいなくなっても、私がこうしてそばにいますから
だから、どうか涙を流すのは止めてください。私はあなたの笑顔が好きなのです。
私の鳴き声を聞いたのが、大きなヒトはこちらを向いて言いました。
「…ごめんね、うん、そうだね…私があの子を理解してあげていなかったのが悪いね…」
違います、そうじゃないんです。あなたが悪いのではないのです。
どれだけ叫ぼうとも、私の声は大きなヒトには届きません。
「…またね」
大きいヒトはそう言うと、部屋から出ていきました。
閉まる扉に急いで駆け寄り、大きな声で叫び続けます。
どれだけ叫んだとしても、大きなヒトは振り返ることはありませんでした。
叫ぶことをやめた私は、大きなヒトの背中を見つめていました。
寂しさを纏わせた、そんな背中を見つめるだけでした。
○
今日は、私は卵を産みません。
正しく言うならば、卵を産もうとしても産むことが出来ません。
鳴き声も出せず、次第に体が動かなくなってきました。
卵が産めない私の前に、大きなヒトが現れました。
はじめは、あの大きなヒトが来てくれたのだと思いました。
しかし、私の思いとは違い、別のヒトが来ていました。
白い髪の、容姿の整った女の子。
あのとき見た少し小さいヒトは、いつの間にか大きいヒトになっていました。
「…あーあ、なんでこんな面倒くさいことしないといけないのさ」
そう呟く大きなヒトの後ろに、もうひとり、大きなヒトが現れました。
「仕方ないさ…おじいちゃんがもういい年だから、老人ホームに入ることになって、家畜の面倒を見ることが出来なくなったんだからさ」
「だからって、その処分を私たちにお願いするのってどうなの?普通は自分でするものじゃないの?」
「そんな時間は無かっただろうし…なにより、処分するとか言ったら絶対に反対すると思うよ。」
「えーっ!なんでそんなに面倒くさいことをするのかなぁ…飼うのなんて餌代の無駄だし」
「そんなこと言わないの、少ない楽しみだったんだし」
二人の大きいヒトが私の前でその様なことを話している。
あの人は…どうなったんですか?
いま、どこにいるんですか?
そのような想いを籠め、私は、小さく、か細い鳴き声を上げました。
「…あのニワトリ、まだ生きてたんだ」
「前に言ってたニワトリがあの子かい?」
「そ、おじいちゃんのお気に入りの子、あの子の世話をさせられたり、頼んでもないのに話を聞かされたりしたんだ」
「そうなんだ…おじいちゃんはなんて言ってたの?」
「いやべっつにー?興味も無かったから聞き流してた」
「子供のころは良く世話をしていたんじゃなかったっけ?いつも卵を産んでくれる~って」
「そんな子供の頃の話を出さないでよ。世話をする環境なんて無いし、今更そんなことする気もない」
「まぁ、そうだよね、ここで処分するのが一番いいか」
そのような会話をした後、一人の大きなヒトが部屋の中に入ってくる。その大きなヒトは、私の体を持ち上げ部屋を出る。
初めて部屋を出た私を待っていたのは、今までに見たことのない景色でした。
大きく広がる、素敵な青い空。
私の部屋よりも大きく立派な赤い屋根の建物。
そして、いつもみていた大きなヒトの服。
こんなにも部屋の外が広かったなんて、私は全然知りませんでした。
「おう、お疲れ。これが処分するやつか?」
「まぁそういったところだね。お願いしてもいいかい?」
「締めた後、肉を半分するからな。ほら、頭のほうを持ってくれ」
「よし…あまり気分のいいものではないから、離れていなさい」
「はぁーい」
固い板の上に寝かされる。私の頭を持つ大きなヒトの手には、何だか眩しいモノがありました。
その眩しいモノが、私に向けて一直線に振り下ろされました。
直後、私の意識は、砂山が崩れるようにあっさりと消えていきました。
消えてゆく私の中で、多くの思いが暴れていました。
どうしてあの人はここにいないの?
なんで私はあの人のそばにいれなかったの?
どうして世界はこんなにも広かったの?
あの子がうらやましい、私はお話しできなかった。
私が慰めてあげたかったのに
どうして、どうして、どうし…て…
●
「…わちゃーん、にわちゃーん?起きてるー?」
「…ん、今起きました。今日のお昼はおいしかったです」
「今配信中なんだけどなー?きりんさん一人は大変なんだけどなー?」
懐かしい夢を見た気がする。どうやらうたた寝をしていたようだ。
そういえば、配信前にお昼を食べて、その後同期のライバーでもあるきりんと一緒に雑談配信をやっていたんだった。
「よかったーここから私一人でしないといけないかなーって考えていたから助かったよ」
「本当?なら今から抜けてもいい?」
「なんで抜けてもいいと思ったのかなー?駄目だよ?」
「…けちんぼ」
「それは違うと思うなー」
きりんに言われて、少ししょぼくれる。
あの後、気づいた時には、私は一人の人間として生まれ変わっていた。
姿に関していえば、因果とでもいえばいいのだろうか、私の最期の時、ほんの少しだけ見たおじいさんの孫娘と瓜二つになっていた。
初めてそのことを理解したときは凄く戸惑ってしまった。何せ意識がなくなり、気づいた時にはヒトとして立っていたのだから。
ヒトになってからの私はとにかく色々なことをしたいと思うようになった。見たこともない景色、食べたこともない料理、そして、会ったことのないヒト達。
これらのすべてが楽しかった。色々と限度はあるがどこにでも行くことが出来るしどんなことでも出来る。
「きりんさん…きりんさん」
「はい、きりんさんです」
「愛してる」
「おお?いきなり愛の告白できりんさんびっくりしてますよ?」
「だから配信抜けますね」
「それは違うんじゃってちょっと!」
Disroadを閉じ、旅行用の荷物を持って自宅を出る。
Rainの通知音が凄い鳴っているけど、そんなものは関係ない。今、私は猛烈に出かけたい気持ちなのだ。
前の私は、唯々部屋の中で来る人を待っているだけだった。
でも、今は?
今の私には自由に動く足がある。なら、今、動けるだけ動くのが大事なのだろう。
今の私には自由に思いを伝えられる口がある。なら、今、伝えられるだけ思いを伝えるのが大事だろう。
だから私は自由に動くし、思い思いに言葉を紡ごう。
そして、いつか、叶うのならば…
「…私のすべてをぶつけてやんYO…」
いつか出会うその日まで…私は、私であり続けよう。
…すごく難しい…人の過去を考えるのは…