心が弱くても勝てます   作:七件

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第一章
デバフは突然に


 人間は平等か否か。

 

 世の中の非リア充共は、いないないな!と唱えるだろう。

 見ろよあのリア充を、勉強もできてスポーツもできてイケメンで。

 自分がモテないのはあいつらがその分モテているからだ。

 世の中全く不公平だ、と。

 

 だが、そんなことはないとオレは思う。

 神は二物を与えないと言うが、ずばりその通り。

 

 イケメンにはイケメンなりの。

 スポーツ自慢にはスポーツ自慢なりの。

 秀才には秀才なりの。

 何かしら弱点を持って然るべきなのだ。

 

 普通の高校生に比べて、ハイスペックでチートな能力を有していれば、それはもうさぞ楽しい高校生活が待っているに違いない。造られたとはいえ天才に弱点など存在しない。

 そう、入学するまでは、思っていた。

 

 

 全く、世の中は意外と平等にできている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 高度育成高等学校。

 門の前に立ち、オレは感動で打ち震えていた。

 

 この三年間だけは、自由にノビノビと生きていくことができる。

 ただそれだけが、本当に嬉しく、今ここでバク転を繰り出してしまえるほど、気分は高揚していた。

 

 教室に入ると、バスの中で出会ったドキツい美人と再会し、なんと隣の席という奇跡まで起こした。まさに小説の中の出来事のように、今からラブコメが始まってしまうのではないか、と心躍らせる展開に浮かれていたが、ドキツい美人のドキツ度は空想の小説なんかと比にならないほど酷く、冷たい目線を送られてしまえば、こちらに勝ち目などないも等しかった。

 

 担任の茶柱先生も隣人である彼女と似たような雰囲気を漂わせており、なんとなく、彼女の将来像はあんな感じなんだろうな、と想像していると、左手にチクリと衝撃は走り、思わず声を上げそうになる。

 驚いて彼女の方を見れば、手にはコンパス。

 

 「何か失礼なことを考えていそうだったから」

 

 エスパーか何か。

 

 「名前も知らない奴の手に容赦なくコンパスを刺してくることの方が失礼じゃないか?」

 「証拠はあるのかしら」

 「いや状況証拠……」

 「私は円を描くためにコンパスを持っていただけよ」

 「今この瞬間一体全体どこに円を描く必要があったんだ」

 「こうして冤罪は生まれるわけね」

 

 「おい」と文句を言おうとして、視線に気付き、咄嗟にやめた。

 担任の茶柱先生が不敵な笑みを浮かべていたからだ。

 

 

 「この学校について大事な説明をしている最中に私語とは、よっぽど自信があるようだな?」

 

 

 と、地の底から這い上がったような恐ろしく低い声で脅すような注意を受け、

 

 「いえ、全く」

 

 という、ボスキャラの強さを誇示するためにやられるモブらしく、情けない声で返す他なかった。

 

 

 ホームルームもつつがなく終わり、放課後になる。

 平田という素晴らしい陽キャが自己紹介をしようと提案し、皆は概ねそれに参加した。

しかしこういった同調圧力に反発したいというお年頃な生徒もいる。

 赤髪のヤンキーは前の席の机を蹴飛ばし(前の席の人は可哀想に)、「勝手にやってろ」とチンピラ紛いの捨て台詞を吐いてそのまま帰ってしまった。するとどうだろう。乱暴にはできず、かと言って陽キャ集団の光にあてられ、帰ってしまいたいと願っていた日和見菌達が、こぞって便乗し、数人が出て行くではないか。隣人もその一人らしく、「意義を感じないわ」と言って教室を去る。

 

 そしてオレも混乱に乗じ、そそくさと退出した。

 

 

 

 

 「あら、あなたは友達を欲していたんじゃなかったの? 自己紹介は良い機会だと思うのだけど」

 

 学校から今すぐにでも出るために、足早に廊下を歩いていたせいで、つい彼女に追い付いてしまい、声をかけられた。意外と社交性がありそうだ。

 

 「実はお前を追いかけに来たんだ、嬉しいか?」

 「は?」

 

 声をかけた私がバカだったわ、と彼女はため息を吐く。

 軽い冗談を冷酷に返され、心が折れる音が聞こえた。

 

 「お前のせいでもあるんだからな」

 「意味が分からないわ」

 「ほら、さっきのコンパス事変でクラスメイトから注目されただろ。その時途轍もなく不快な思いをした。今でも鳥肌がたってるんだ。見るか?」

 「肌を不用意に露出する変態として警察に通報しましょうか?」

 「タンクトップを愛用している全人類に謝れ」

 「それで?」

 「ああ、オレは思春期真っ只中のウブで純真な高校生だからな、他人からどう思われているのか、それはもう死んでしまいたくなる程気になるらしい。自己紹介だと嫌でも目を向けられるだろ?あんな思いはもうごめんだ」

 「……ウブで純真かは知らないけれど、自意識過剰もそこまで行けばある意味病気ね」

 「死活問題かもしれない、わりと冗談抜きで」

 「どうでもいいわ。それと、さっきから随分急いでいるようだけど、何かこの後用事でもあるの?」

 

 どうでもいいと言いながら聞いてくる辺り、意外と優しいところあるな?

 これが俗に言うツンデレか。比率はツン:デレ=9:1と最早ただのツンのようだが、ツン(デレ)だと思えば睨んだ瞳も可愛いく見れるかもしれない、……いや無理だ。

 オレが今まで感じた彼女の冷たい視線は氷山の一角に過ぎなかったらしい。

 

 「たった今オレは失礼なことを考えていましたごめんなさい」

 

 素直に降参することにする。

 マジでエスパーなのでは?

 

 「それで、理由はあるのかしら」

 「そこに監視カメラがあるだろ?」

 

 オレが指を指すと、彼女は「そうね」と頷く。

 それから彼女は立ち止まり、前や後ろを確認し、誰もいない教室内へと足を踏み入れ、天井を見上げた。

 

 「確かに、どこにでもあるようね」

 「どうしてだろうな」

 「さあ。理由は幾つか思いつくけれど」

 「例えば?」

 「イジメを抑止する、とか」

 「それなら茶柱先生が先に言いそうなもんだけどな」

 「言っては悪いけど、あの先生はあまり信頼できそうにないわ。生徒に関心がないように思うの」

 「お前みたいにか?」

 「あらここに丁度いいコンパスが」

 「ごめんなさい」

 

 本気で鞄から筆箱を出しかけていたので、すぐさま謝る。

 全く末恐ろしい女だ。

 

 「オレにはどうも毎月十万円貰えるってのがきな臭く感じるんだ」

 「急に何?」

 「独り言だ、気にするな」

 

 玄関に辿り着き、上履きを履き替える。

 そして学校の外に出て、大きく深呼吸をする。

 しかし、再び監視カメラと目が合い、げんなりした。

 

 「どこにでもあるらしい」

 「……監視カメラを見つけるのが随分上手いのね。前世はきっと窃盗犯じゃないかしら」

 「なんて失礼なことを言うんだ」

 「監視カメラが嫌で学校から早く出たかったんでしょう? 私にはあなたがやましい思いを抱えているようにしか見えない。むしろ前世と譲歩した所に感謝して欲しいくらいよ」

 

 もの凄い高飛車なセリフを吐かれた。

 ここまでいくといっそ清々しく感じ、「そうですね、ありがとうございます」とさえ言ってしまいたくなる。

 

 「監視カメラが苦手なんて一言も言ってないが」

 「さっきまでの発言を踏まえれば、苦手と言っているようにしか思えない。かまってちゃんは嫌われるわよ」

 

 まさか彼女の口からかまってちゃんという言葉が出るとは。

 だが確かに思わせぶりな事ばかり言っては嫌われるのも当たり前だ。

 名前も知らない相手に嫌われるのも本意じゃない。

 オレは正直に話すことにした。

 

 「そうだな。どうやらオレは監視カメラに苦手意識を持っているらしい。生徒を観察するために設置されていると考えると、落ち着かなくなるんだ。自意識過剰の延長線ってところだとは思うんだが」

 「一度病院に行ったらどう?」

 

 煽りなのか本気なのか。前者だったら多分オレは泣いてもいい。

 

 「ま、どうでもいいだろ。ところで名前は?」

 「急ね。そして私は名乗る意味があるのかしら」

 「オレは綾小路清隆だ。よろしくな」

 「世界一どうでもいい情報ね」

 「隣同士で名前を知らないのは気まずいと思うけどなあ」

 「あなた人と会話したことあるの?」

 「交渉と脅しは得意分野だな」

 「どうりで」

 「……冗談のつもりだったんだが」

 

 彼女のせいで、オレは人前で一生冗談を言えなくなるかもしれない。

 その場合は責任を取ってもらいたいところだ。

 そう落ち込んでいると、

 

 「堀北鈴音よ。二度は言わないわ」

 

 堀北は、ふんとそっぽを向きながら名乗った。

 「よっツンデレ!」と声に出していれば、恐らく殺されていただろう。

 

 

 

 目的地は同じコンビニだったらしく、わざわざ別れるのもおかしいので、結局二人で並んで歩いた。会話?なにそれおいしいの状態で、話すネタもなく、非常に気まずかったが、どうやら堀北はプロのボッチらしく、全く気にしていなかった。むしろ居ないように振る舞われ、彼女の精神強度に尊敬の念を抱いた。

 

 コンビニには大抵のものが揃っていた。

 お湯を入れて三分間待つだけでできるカップ麺に感動していると、堀北が、「なにかしら、これ」と呟く。

 隅の方に詰まれた生活用品のことを指しているようだ。

 

 「無料……?」

 

 手に取って確かめてみるが、特に不良品という訳でもない。

 

 「随分手厚いのね。学校側は何を考えているのかしら」

 「やっぱり、な」

 「……含みを持たせた言い方ばかりしていると、逆にバカに見えるわよ」

 「オレはお前の親でも殺したのか……?」

 

 今日で何度目かも分からない、心の折れる音。

 もはやスクラップを通り越して液状化した気がする。

 

 「お前は、どう思うんだ?」

 「……そうね。授業態度や普段の生活を監視し、評価を付けているのかもしれない。そしてその評価の上で、貰えるポイントが変わる。現時点では憶測に過ぎないけれど、あなたもそう考えている。違う?」

 「概ねその通りだな」

 「概ね、ということは、他にもあるのかしら」

 

 堀北は振り返り、見極めるようにオレを観察する。

 心臓が脈打った。

 

 「……今の含みの持たせた言い方、かっこいいだろ?」

 

 「は?」

 

 堀北は呆れたように視線を外した。

 

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